2023 Volume 109 Issue 5 Pages 365-376
To develop novel technologies for reducing CO2 emission from ironmaking process, steelmaking companies in Japan are engaging in the national project called COURSE50. In this project, a large amount of H2 is co-injected into blast furnace (BF) with pulverized coal (PC). In order to clarify how the co-injection affects PC combustibility, PC combustibility should be measured in COURSE50 BF. However, it was difficult to measure PC combustibility in BF without bothering operation. Therefore, we developed the non-contact measurement method for PC combustibility (ηPC) by utilizing chemi-luminescence spectra of PC combustion field in the lab-scale combustion furnace. We also applied the method to the COURSE50 experimental BF to ensure the accuracy of the method. And then we found that;
1) Several chemi-luminescence peaks of hydrocarbon radicals and coal ash were detected in the combustion field of PC. Among these peaks, the peak intensity ratio of OH radicals to CH radicals was most appropriate for deriving the formula for the ηPC estimation.
2) In the result of the measurement in COURSE50 experimental BF, ηPC in the experimental BF that estimated by the formula agreed well with the results in lab-scale combustion furnace. The validity of the method for estimating ηPC was confirmed.
近年世界では,地球温暖化進行を抑制すべく,CO2排出量の削減が強く要請されるようになっており,我が国においても産業の分野を問わずその機運は高まっている。中でも鉄鋼業のCO2排出量は日本の総排出量のおよそ12.7%を占めており1),CO2排出量削減に対する鉄鋼業の社会的責任は大きい。このような背景の中で,日本の鉄鋼各社はCO2排出量の削減を目的とした様々な研究開発を進めているが,そのうちの1つに「環境調和型プロセス技術の開発-水素還元等プロセス技術の開発 (COURSE50, CO2 Ultimate reduction system for Cool Earth 50, COURSE50)」なるプロジェクトがある2–4)。COURSE50は日本の高炉メーカー各社が参画する国家プロジェクトで,高炉法を用いた製銑プロセスからのCO2削減量を30%削減するための技術の開発を目標としている。その一環として,高炉羽口部から微粉炭とともに多量の水素を炉内へ吹き込み,炉内還元反応における直接還元(式(1))を水素還元(式(2))に置換することで,高炉からのCO2排出量を削減する技術の開発を進めている。
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この高炉羽口部における水素吹込みにおいて懸念される課題の1つが,水素多量吹込み時の微粉炭燃焼挙動の変化である。近年の高炉では,石炭を100 μm以下まで微粉砕した微粉炭を羽口部から炉内に吹き込んで操業を行っているが,それに加えてさらに水素を吹き込むことにより,微粉炭と水素の燃焼が競合する。そのような競合燃焼場では気体である水素が優先的に燃焼して酸素を消費し,結果固体である微粉炭の燃焼性悪化が懸念される。微粉炭燃焼性の悪化によって増加した微粉炭未燃分は炉内に滞留し,炉芯部の通液性の悪化や,炉内圧損の上昇などの炉況不調を引き起こす5,6)。そのため,水素同時吹込み条件下における微粉炭燃焼率を把握することが,操業を安定させるうえで肝要となる。
高炉や,高炉を模した試験装置における微粉炭燃焼率の測定は,過去様々な手法で試みられてきた7–9)。過去の検討例では,微粉炭燃焼場中の未燃残渣や燃焼ガスを採取し,その成分から燃焼率を求める方法がよく採用されている。しかし,高炉羽口部における微粉炭燃焼場は高温,高圧の過酷な環境であり,試料採取用のプローブを常設することは設備設計上および運用上ハードルが高い。したがって,過去の検討例のような試験的な測定は可能であっても,実操業における定常的な微粉炭燃焼率の測定は非常に難しい。
そこで本報では,微粉炭燃焼率を非接触で測定する方法を開発すべく,燃焼火炎の分光測定に着目した。炭化水素の燃焼過程では反応中間体(ラジカル)が存在し,そのラジカルが燃焼場中で励起状態から基底状態に遷移する過程で化学発光を放出することが知られている10,11)。その化学発光の種類や強度の変化から炭化水素の燃焼特性を評価しようという試みは,メタンをはじめとした気体の炭化水素において過去に盛んに検討されている12,13)。一方で,微粉炭のような固体炭化水素の燃焼場における化学発光については,微粉炭中灰分元素の化学発光については検討例がある14)ものの,ラジカルの化学発光に関して微粉炭燃焼率測定への活用を試みた検討例はこれまでなかった。
以上の背景から本報では,高炉羽口部を模した試験燃焼炉において微粉炭燃焼火炎の分光測定を行い,その分光スペクトルの測定結果へ微粉炭燃焼挙動が及ぼす影響を評価した。さらにその実験結果から,微粉炭燃焼火炎の分光測定により微粉炭燃焼率を算出する検量線を作成し,非接触で微粉炭燃焼率を測定する手法を開発した。その後,COURSE50試験高炉(新日鐵住金株式会社(現:日本製鉄株式会社)東日本製鉄所 君津地区内)の操業において微粉炭燃焼火炎の分光測定を行い,開発した微粉炭燃焼率測定手法の妥当性を評価した。以上の検討の結果を以下に報告する。
試験に用いた試験燃焼炉の模式図をFig.1に示す。試験燃焼炉は主にLPGバーナーとブローパイプによって構成される。LPGバーナーにはランス装入孔が備えられ,還元材吹込みランスを通じて微粉炭やCH4,CO等の還元ガスを炉内に吹き込むことができる。還元材吹込みランスの断面図をFig.2に示す。還元材吹込みランスは3重管となっており,中心から微粉炭,外側の間隙からガスを吹き込んだ。中間の間隙は吹込みに使用しなかった。ブローパイプにはバーナーから見て右手に4つの観察孔,左手に3つの試料採取孔が備えられ,観察孔からは炉内の観察や測定,試料採取孔からはサンプリングゾンデを用いた炉内ガスの採取が可能である。サンプリングゾンデとしては,内部に径8 mmの採取孔を有する外径35 mmのステンレス製の水冷管を使用した。試験の際は,LPGバーナーにおいて酸素濃度を調整した熱風を生成し,1本の還元材吹込みランスから微粉炭や還元ガスを熱風中に吹き込んで,ブローパイプにおいて還元材燃焼場に対して測定やガス採取を行った。測定やガス採取を行った位置は,COURSE50試験高炉におけるランス先端から羽口先端までの距離をカバーできることと,微粉炭燃焼率の算出のためにガス採取が必要であることを併せて考慮し,上流側から2,3番目の観察窓2か所と,その向かい側の試料採取孔2か所とした。測定やガス採取位置が2か所しかない中で,ランス先端からの距離に対する還元材燃焼挙動の推移を細かく評価するため,還元材吹込みランスの挿入深度を変更して,ランス先端から各観察窓までの距離を変更しながら試験を行った。
Schematic diagram of the lab-scale furnace.
Schematic cross-sectional diagram of the injection lance.
試験燃焼炉における微粉炭の燃焼挙動を評価するため,燃焼火炎の発光スペクトルの測定と,燃焼場中の微粉炭温度測定,およびガス採取を行った。発光スペクトルの測定に使用した分光器はOcean Insight社のFlameで,焦点距離300 mmの測定プローブを接続し,300~880 nmの範囲で燃焼火炎の化学発光スペクトルを測定した。温度測定には,CHINO社製の二色放射温度計IR-FAQHを用いた。ガス採取は,前述の通りサンプリングゾンデを用いて行った。なお,測定対象の微粉炭燃焼火炎は,微粉炭供給量の脈動に伴う各種測定項目の脈動がみられたため,それぞれの測定結果の時間平均を取った。発光スペクトル測定では,1 水準,1 箇所あたり25 回の測定を行い,その平均値を測定値として採用した。温度測定では,0.5 秒おきに30 秒間の測定を行い,測定された温度の時間推移における,温度極大値の平均値を測定温度として採用した。温度の極大値を採用した理由は,微粉炭流が温度測定領域を間欠的に流れることに起因して不可避的に測定される試験燃焼炉の内壁面温度を除外するためである。ガス採取の際も同様に,採取試料の代表性を担保すべく,同一水準および同一箇所で採取した3試料の平均値を,その水準・採取箇所における測定値として採用した。
採取したガスの分析結果から,炭素原子の物質収支に基づいて微粉炭の燃焼率を算出した。ガス分析の結果を用いた,微粉炭燃焼率算出方法の模式図をFig.3に示す。微粉炭燃焼率の定義を,試験において吹き込んだ微粉炭中炭素の物質量MC,PCに対する,ガス化した炭素の物質量MC,gasの比とした。MC,PCは,微粉炭吹込み量と試験に使用した微粉炭中の炭素量から算出した。MC,gasは以下の通り算出した。まず,試験において使用したLPG,還元ガスの量から,ガスとしての炭素インプット量VC,inを計算した。次に,系内の窒素量が燃焼をはじめとした炉内反応により変化しないと仮定し,採取ガスの分析結果におけるCO, CO2, CH4, N2濃度を用いて,採取箇所における含炭素ガス流量VC,gasを算出した。そして,VC,inとVC,gasの差から,採取箇所におけるMC,gasを算出した。以上をまとめると,微粉炭燃焼率ηPCの計算式は次の式(3)~(6)のようになる。
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Schematic diagram explaining the calculation method of PC combustibility.
ここで,nC,i: ガス種iの持つ1分子あたりの炭素原子数[ - ],Vi,in: ガス種iのインプット量[Nm3/h],Xi,gas: 採取ガス中のガス種iの体積分率[vol%],XC,PC: PC中Cの質量分率[mass%],mPC: PC吹込み量[kg/h]である。
試験水準をTable 1に示す。COURSE50試験高炉操業諸元に基づいて試験水準を設定した。微粉炭のみを吹き込むCase1, 微粉炭と還元ガスを同一の2重管ランスから吹き込むCase2-1, Case2-2の3水準で試験を行った。詳細は後述するが,Case1では試験高炉操業と同じ送風温度で試験を行ったところ,燃焼火炎の発光スペクトルにおいて化学発光が観測されなかったため,化学発光が観測されるように,実際の試験高炉操業における送風温度(1273 K)よりも高い送風温度(1523 K)で試験を行った。また,Case1, 2-1の条件では,還元材吹込みランスを観察窓側から挿入したのに対し,Case2-2では試料採取孔側から挿入した。炉内ガス流れに対して斜めに吹き込まれた微粉炭は炉内で粒度偏析を起こし,炉内のランス挿入側に細粒の微粉炭が集まりやすい。すなわち,ランスを観察窓側から挿入すると,観察窓からは細粒が見えやすく,ランスを試料採取孔側から挿入すると観察窓からは粗粒が見えやすくなる。その効果が測定結果へ及ぼす影響を評価するために,Case2-2を実施した。
Unit | Case1 | Case2-1 | Case2-2 | |
---|---|---|---|---|
Blast Volume | Nm3/h | 270 | 210 | 210 |
Blast Temperature | K | 1523 | 1273 | 1273 |
Blast O2 | % | 27 | 37 | 37 |
PC injection rate | kg/h | 35 | 35 | 35 |
Injected gas | − | N2 | Reducing gas | Reducing gas |
Gas injection rate | Nm3/h | 15 | 22 | 22 |
Lance insert side | − | Window side | Window side | Sampling side |
試験に使用した微粉炭の粒度と,工業分析の結果をTable 2に示す。また,Case2-1, 2-2の試験に使用した還元ガスの組成をTable 3に示す。Case2-1, 2-2ではコークス炉ガス(COG)を模擬した組成のガスを還元ガスとして使用した。
Unit | ||
Size | − | −74 mm 80% |
Fixed carbon | mass% | 80.6 |
Volatile matter | mass% | 11.4 |
Ash | mass% | 8.0 |
Gas species | Unit | |
Hydrogen | % | 48 |
Nitrogen | % | 3 |
Methane | % | 37 |
Carbon monoxide | % | 12 |
各水準における,ランス先端からの距離に対する微粉炭燃焼率の推移をFig.4に示す。微粉炭のみを吹き込んだCase1の微粉炭燃焼率よりも,還元ガスを吹き込んだCase2-1, 2-2における微粉炭燃焼率の方が20%ほど高位であった。このような微粉炭燃焼率の差が現れた要因としては,Case1とCase2-1, 2-2間の送風温度と送風酸素濃度,還元ガス吹込みの有無の差が挙げられる。送風温度はCase1がCase2-1, 2-2に比して250°C高位であり,微粉炭燃焼率向上には有利である。一方,送風酸素濃度はCase2-1, 2-2がCase1に比して10%高位であるため,この点に関してはCase2-1, 2-2が有利な条件である。さらに吹込み条件は,Case1が微粉炭単独の吹込み条件であるのに対し,Case2-1, 2-2では還元ガスの同時吹込みを行っている。還元ガスの同時吹込みは,還元ガス燃焼熱による微粉炭の昇温加速により,微粉炭の燃焼を促進する効果を持つ15,16)。その一方で,還元ガスにより微粉炭と酸素が隔離されるほか,還元ガスの燃焼に酸素が消費される効果もあるため,微粉炭の燃焼が抑制される可能性も考えられる。ここで,各水準における,ランス先端からの距離に対する微粉炭粒子温度の推移をFig.5に示す。今回の試験では,還元ガスの同時吹込みにより微粉炭粒子温度が迅速に上昇したことから,酸素の隔離・消費効果に比して微粉炭の昇温加速効果が優勢であったことが示唆された。Case2-1, 2-2では,還元ガス吹込みによる微粉炭粒子の昇温効果が,送風温度250°C分の昇温効果を上回ったことで,Case1よりも微粉炭燃焼率が高位となったと考えられる。
Trends of ηPC over the distance from the lance tip in the lab-scale furnace.
Trends of the temperature of PC particles over the distance from the lance tip.
微粉炭燃焼火炎の分光測定結果の例をFig.6に示す。燃焼火炎の発光スペクトルは,500 nm程の幅を持つ微粉炭や炉内耐火物の熱輻射光に,微粉炭燃焼反応に起因して現れる炭化水素系のラジカルや灰分元素に由来を持つ化学発光ピークが重畳した形で測定された。実施した全分光測定において化学発光が検出された主なラジカルや元素の一覧と,その化学発光の波長をTable 4に示す17,18)。微粉炭燃焼火炎のスペクトルには,炭化水素系のOH, CHラジカルの化学発光に加え,灰分に由来するNa, Kの化学発光ピークが現れた。これら4つの化学発光ピークに着目し,化学発光ピーク強度と燃焼率の相関を評価した。
Example of the results of the spectroscopic measurement of PC combustion flame. (a) 300-450 nm, (b) 500-800 nm (both in Case2-1).
Radical species | Wavelength |
---|---|
OH | 310 nm |
CH | 389 nm |
Na | 589 nm |
K | 766 nm |
化学発光ピーク強度の算出方法を表した模式図をFig.7に示す。ピーク前後のスペクトルを直線で近似することでピーク波長における輻射光強度を算出し,ピーク波長における発光強度と輻射光強度との差分を化学発光ピーク強度と定義した。一部元素の化学発光は,文献値17,18)のピーク波長の周囲に複数のピークが重畳した形で現れたため,本報では当該元素のピーク波長周囲で強度が最大であるピークに着目し,解析を行った。
Schematic diagram of explaining the calculation method of the chemi-luminescence peak intensity.
還元材吹込みランス先端からの距離に対する,各化学発光ピーク強度の推移をFig.8(a)-(c)に示す。なお,Case2-2では上流側から2番目の観察窓に大量の微粉炭未燃チャーが堆積し測定が困難となったため,ランス先端から400~600 mmの位置における測定結果のみをプロットしている。ピーク強度は,Case1では約300 mmの位置で極大値を取るが,Case2-1では徐々に低下する推移を示した。ラジカルの化学発光強度は,ラジカルの生成量と温度に依存して変化すると考えられている10,11,17)。Case1では微粉炭のみの燃焼であったが,Case2-1では還元ガスの同時吹込みにより微粉炭の昇温と燃焼が加速されて,極大値を取る位置がランスに接近したため,ピーク強度推移が異なる結果となったことが推定される。さらに,Fig.4, 8の比較から,各水準において化学発光ピーク強度が極大値を取った位置は,微粉炭燃焼率が20%以下の領域であったことが分かる。この微粉炭燃焼初期の領域では揮発分の放出と燃焼が反応の主体であるため19),微粉炭燃焼場の化学発光は主に微粉炭揮発分の燃焼により発生すると推定された。また,Case2-1, 2-2の結果を比較すると,Case2-2において観測されたピーク強度は,Case2-1におけるピーク強度の1/4ほどであったが,ランス先端からの距離に対する推移は同様の傾向を示した。微粉炭燃焼率は微粉炭の粒径と負の相関関係にあり,粒径が小さいほど燃焼性が高く,燃焼場における化学発光強度も高くなると考えられる。そのため,観察窓から燃焼性の低い粗粒微粉炭が見えやすいCase2-2では,燃焼性の高い細粒微粉炭が見えやすいCase2-1に比べると,ピーク強度が低下したものと考えられる。
Trends of the intensity of each chemi-luminescence peak over the distance from the lance tip. (a) Case1, (b) Case2-1, (c) Case2-2.
ところで,Fig.8にプロットした化学発光ピーク強度はそれぞれが25回の測定の平均値である。ここで,Case2-1に着目し,各化学種の発光ピーク強度の平均値に対する標準偏差の割合を計算した。その計算結果をFig.9に示す。測定のタイミングによってばらつきの大きさは異なるが,どの化学発光ピークにおいても,平均値に対する標準偏差の割合は最大10%以上となり,中には25%に迫るケースもあった。このばらつきの原因は前述の通り,微粉炭供給量の脈動に伴う瞬間的な燃焼反応の増減により,一時的に微粉炭燃焼場の発光強度が変化することであると考えられる。一方で,このような場合でも,その他の燃焼の条件に大きな変化がなければ,各化学種生成量同士の大小関係は不変であると推定される。そこで本報では,微粉炭燃焼火炎の分光測定により微粉炭燃焼率を測定するにあたり,微粉炭供給量の脈動が測定結果や測定精度へ及ぼす影響を低減するため,化学発光ピーク強度の比と,微粉炭燃焼率との関係を利用した。
Ratio of the standard deviation to the average value of the chemi-luminescence peak intensities of each chemical species in Case2-1.
今回着目した化学種4種の化学発光ピーク強度比を計算し,ランス先端からの距離に対する推移をプロットした結果をFig.10に示す。Case1では,ランス先端からの距離増加に対して,炭化水素系ラジカル同士のピーク強度比は単調増加,炭化水素系ラジカルと灰分元素のピーク強度比は減少傾向,灰分元素同士のピーク強度比はほぼ一定となった。Case2-1, 2-2では,ランス先端からの距離増加に対して,OHラジカルと他化学種とのピーク強度比は減少傾向,それ以外の組合せでのピーク強度比はほぼ一定となった。これらの結果と,炭化水素である微粉炭の燃焼率の測定が目的であることを踏まえ,微粉炭のみ吹込む条件,および微粉炭・還元ガス同時吹込み条件ともに,炭化水素系ラジカル同士のピーク強度比,すなわちOHラジカルとCHラジカルの化学発光ピーク強度比を用いて,微粉炭燃焼率の測定のための検量線作成を行った。また,Case2-1, 2-2間を比較すると,どの化学種の組合せでのピーク強度比に関しても,水準間でその値や推移に大きな差異は見られなかった。このことから,微粉炭燃焼場を観測する方向は,測定される発光ピーク強度比に影響を及ぼさないと結論付けた。そのため,微粉炭・還元ガス同時吹込み条件用の検量線を作成するにあたっては,Case2-1, 2-2のデータを併用した。
Trends of the chemi-luminescence peak intensity ratios among the 4 chemical species of interest over the distance from the lance tip. (a) Case1, (b) Case2-1, (c) Case2-2.
微粉炭燃焼率と,OHラジカルとCHラジカルの化学発光ピーク強度比の関係をFig.11に示す。Case1ではCHラジカルに対するOHラジカルの化学発光ピーク強度の比,Case 2-1, 2-2ではその逆数を横軸にとると,どちらの水準においても微粉炭燃焼率とピーク強度比の間には正の相関関係が見られた。水準間で微粉炭燃焼率とピーク強度比の間の相関関係が逆となったのは,Case2-1, 2-2ではCase1よりも送風酸素濃度が高いこと,H2を多量に含む還元ガスを吹き込んだことなど,微粉炭燃焼場の条件が大きく異なるため,CH, OHラジカルの生成量推移がCase1とCase2-1, 2-2との間で異なることが原因であると考えられる。
Relationships between ηPC and the ratio between chemi-luminescence peak intensity of OH radicals and that of CH radicals. (a) PC injection, (b) COG co-injection with PC
これらの結果から,各水準においてOH, CHラジカルの化学発光ピーク強度比から微粉炭燃焼率を求める検量線を以下の式(7),(8)のように作成した。
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ここで,Ri/j: jの化学発光ピーク強度に対するiの化学発光ピーク強度の比である。これらの式により,非接触的な手法で微粉炭燃焼率を測定することが可能となった。
前章で開発した微粉炭燃焼率の測定手法の適用可能性を検証するため,COURSE50試験高炉において本手法を適用し,微粉炭燃焼率の測定を行った。試験高炉は内容積12 m3の小型高炉で,3本の送風羽口を有し,各送風羽口には左右に2つのランス挿入孔を備える。本報で述べる試験操業では,各羽口の左側からランスを挿入した。そのランスから微粉炭や還元ガスを吹込みながら,試験操業を行った。
試験高炉における,測定環境の模式図をFig.12に示す。測定はNo.1送風羽口において実施した。羽口に設けられた2口のランス挿入孔のうち,羽口に向かって右側のランス非挿入側の孔から測定を行った。測定にあたって,挿入孔出口に石英窓を設置し,その窓に測定治具を固定した。測定治具はアルミ板にファインダー,プローブ,ハーフミラーを固定したものを作製し用いた。ハーフミラーで炉内光を分光器側7割,ファインダー側3割に分割し,ファインダーで炉内を覗いて測定位置を調整後,プローブに分光器を接続して測定を行った。測定する対象を微粉炭燃焼場の発光に絞るため,プローブの固定位置から羽口内微粉炭流の位置までの距離2300 mmの焦点距離を持つプローブを使用した。設備寸法から計算すると,焦点距離の位置は,還元材吹込みランスの先端から150 mmの位置であった。分光測定には前章と同じくOcean Insight社のFlameを用い,300~880 nmの範囲で燃焼火炎の化学発光スペクトルを測定した。
Schematic diagram of the measurement configuration at EBF.
測定中の試験高炉No.1羽口における送風,吹込み実績の時間平均値をTable 5に示す。還元材として,Case Aでは微粉炭のみ,Case Bでは微粉炭とCOGを吹き込んだ。各吹込み条件において,羽口先の理論燃焼温度が一定となるように送風中酸素濃度を調整して試験を行った。分光測定はそれぞれの吹込み条件で2日間にかけて断続的に実施し,計50回程度の測定を行った。
Unit | CaseA | CaseB | |
---|---|---|---|
Blast volume | Nm3/h | 414 | 298 |
O2 enrichment | % | 28.8 | 36.4 |
Blast temp. | degC | 990 | 967 |
PC injection rate | kg/h | 59 | 55 |
COG injection rate | Nm3/h | − | 38 |
微粉炭のみを吹き込んだ条件における,微粉炭燃焼場の発光スペクトルの測定結果をFig.13に示す。Case Aの測定結果では,OHラジカルの化学発光ピーク(310 nm)や,CHラジカルの化学発光ピーク(389, 431 nm)は検出されなかった。試験燃焼炉でのCase1の試験では,送風温度が1523 Kの条件下では,OH, CHラジカルの化学発光ピークが検出されたが,送風温度が1273 Kと低位の条件下では,これらのピークは検出されなかった。試験高炉Case Aの条件では,送風温度は1263 Kであった。CaseAでは,送風温度が不十分で微粉炭の昇温が遅れ,観測位置ではまだ微粉炭中揮発分の放出・燃焼が十分進行しておらず,OH, CHラジカルの化学発光ピークが検出されなかったと考えられる。これらの試験結果から,Case Aの観測位置における微粉炭燃焼率は0%であるということが推定された。
Spectra of PC combustion flame in the cases of PC only injection.
微粉炭とCOGの同時吹込み条件における,微粉炭燃焼場の発光スペクトルの測定結果をFig.14に示す。CaseBでは,発光強度の絶対値は異なるものの,試験燃焼炉Case2-1の試験結果に類似した発光スペクトルが測定された。微粉炭燃焼率の推定に用いるOHラジカル(309 nm), CHラジカル(389 nm)の化学発光ピークも検出されたため,これらの化学発光ピーク強度を用いて,Case Bにおける微粉炭燃焼率の推定を行った。
Spectra of PC combustion flame in the cases of co-injection of COG with PC. (a) Comparison of Case2-1 and CaseB, (b) OH(310 nm) peak in Case2-1, (c) CH(389 nm) peak, (d) OH(310 nm) peak in CaseB, (e) CH(389 nm) peak in CaseB.
試験燃焼炉と試験高炉における測定環境の違いをFig.15に示す。試験燃焼炉と試験高炉では,ハーフミラーの有無,燃焼場の観察方向,測定プローブの焦点距離,微粉炭燃焼場から測定プローブまでの距離がそれぞれ異なった。このうち燃焼場の観察方向に関しては,発光ピーク強度比へ及ぼす影響がないことを試験燃焼炉での試験で確認した。その他の3つの測定環境の差異に関しても,測定される発光スペクトルに影響を及ぼす可能性があると考えた。そこで,微粉炭燃焼率の推定に先立って,測定環境の差異が測定結果へ及ぼす影響の評価,および測定結果に差異がある場合はその補正値の算出を行った。
Schematic diagrams of differences in the measurement configuration between the lab-scale furnace and EBF. (a) Configuration in the lab-scale furnace, (b) Configuration in EBF.
まずハーフミラーについては,試験高炉における測定で使用したハーフミラーはOHおよびCHラジカルの化学ピークが現れるそれぞれの波長における透過率が異なるため,それぞれの波長における透過率から,ハーフミラーの有無がOH, CHラジカルの化学発光ピーク強度比へ及ぼす影響を式(9)の通り算出した。
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ここでRCH/OH,EBFは,試験高炉において測定された,OHラジカルの化学発光ピーク強度に対するCHラジカルの化学発光ピーク強度の比を表す。
測定器の焦点距離と,測定対象である微粉炭燃焼場から測定器までの距離が発光スペクトルの測定結果へ及ぼす影響を評価するため,次の試験を行った。試験燃焼炉,試験高炉それぞれの測定と同じ測定プローブを使用し,それぞれの測定環境に対応した条件で測定プローブと標準光源を一定距離離れた位置に設置し,標準光源の発光スペクトル測定を行った。標準光源として,浜松ホトニクス社製のL7810-03を使用した。各測定条件における標準光源の発光スペクトルの測定結果をFig.16に示す。同一の発光源に対する測定にもかかわらず,測定条件の差異が発光スペクトルの測定結果に影響を及ぼすことが分かった。そこで,この測定結果から式(10)の通り補正係数を決定し,試験高炉において測定したOHおよびCHラジカルの化学発光ピーク強度比を補正した。
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Measured spectra of the standard light source under each measurement configuration.
試験燃焼炉において作成した式(8)の検量線と,式(9), (10)の発光ピーク強度比補正式から,試験高炉Case Bにおける微粉炭燃焼率を推定するための検量線を式(11)の通り決定した。
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ここで,ηPC,EBF:試験高炉における微粉炭燃焼率である。Case Bにおける発光スペクトルの測定結果からRCH/OH,EBFを算出し,式(11)を用いて燃焼率を求めた。燃焼率の算出にあたっては,Case Bにおいて行った49回の全ての測定毎にRCH/OH,EBFを求め,その平均値を用いた。
ランス先端からの距離に対する,試験燃焼炉,および試験高炉における微粉炭燃焼率の推移をFig.17に示す。試験高炉Case Aでは測定位置において微粉炭の燃焼がまだ始まっていないと推定したが,その推定結果は試験燃焼炉Case1における微粉炭燃焼率の推移と比較しても妥当な結果であることが分かった。また,Case Bにおいて算出された微粉炭燃焼率の値11.6%も,試験燃焼炉における微粉炭燃焼率の推移に良好に合致した。一方この値は,既往の研究20)において高炉における微粉炭燃焼率として報告されている値と比べると低い値であった。既往の研究では,炉内レースウェイ部における微粉炭未燃分のサンプリング等,今回の測定よりもランス先端から遠い位置において微粉炭燃焼率の測定が行われたのに対し,今回は羽口内のランス先150 mmで微粉炭燃焼率の測定を行った。この測定条件の違いが,微粉炭燃焼率の差につながったと考えられる。
Trends of ηPC and ηPC,EBF over the distance from the lance tip.
以上の結果から,試験燃焼炉にて確認された,微粉炭燃焼率とCH, OHラジカルの化学発光ピーク比との関係が,試験高炉においても同様に成立することが確認された。その関係を活用し,試験燃焼炉において作成した検量線を用いることで,試験高炉においても操業を妨げることなく微粉炭燃焼率を測定できることを確認できた。微粉炭や還元ガスの吹込み条件が異なる操業に対する本手法の適用可能性については,今後更なる検討が求められるが,従来困難であった微粉炭燃焼率の非接触その場測定手法の開発を達成した。
本研究では,微粉炭燃焼率の非接触測定法の開発を目的として,試験燃焼炉において微粉炭燃焼試験を実施した。また,開発した微粉炭燃焼率測定手法をCOURSE50試験高炉に適用し,試験高炉における微粉炭燃焼率の測定を試みた。その結果,下記の知見を得た。
(1)試験燃焼炉での微粉炭燃焼試験において,燃焼場の発光スペクトル測定を実施した結果,炭化水素系のラジカルや灰分由来の化学発光ピークが検出されることがわかった。それらの化学発光ピークの中で,OHラジカルとCHラジカルとのピーク強度比が微粉炭燃焼率と相関を持つことが分かった。
(2)OHラジカルとCHラジカルとの化学発光ピーク強度比から微粉炭燃焼率を算出する検量線を試験燃焼炉の結果から作成し,COURSE50試験高炉における微粉炭燃焼場の発光スペクトル測定の結果から,試験高炉操業中の微粉炭燃焼率を算出した。その結果,微粉炭吹込み条件,微粉炭とCOGの同時吹込み条件ともに,還元材吹込みランス先端からの距離に対する微粉炭燃焼率の値は試験燃焼炉における試験結果と良好に一致し,算出された燃焼率の妥当性が確認された。
(3)以上の結果より,微粉炭燃焼場中のOHラジカル,CHラジカルの化学発光ピーク強度を測定することで,操業中の高炉において,燃焼場に干渉することなく微粉炭燃焼率を測定できることが明らかとなった。
本成果は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「環境調和型プロセス技術の開発/水素還元等プロセス技術の開発(フェーズI-STEP2)」(日本鉄鋼連盟 COURSE50)の結果得られたものである。