Tetsu-to-Hagane
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Influence of Tensile Stress during Annealing on Primary Recrystallization Texture Development in Fe-3%Si Alloy
Nobusato Morishige Yoshiyuki UshigamiKohsaku Ushioda
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2024 Volume 110 Issue 10 Pages 767-778

Details
Abstract

Primary recrystallization texture strongly influences the magnetic properties of grain-oriented electrical steel through secondary recrystallization. In this study, the effect of applied tensile stress during annealing on grain growth and primary recrystallization texture formation in Fe-3%Si alloy was investigated. It was revealed that grain growth is promoted under the condition of applied tension, and the intensity of {411}<148> orientation increases, while the intensity of {111}<112> orientation decreases. The changes in grain diameters and textures are explained by the normal grain growth with the size advantage of larger {411}<148> grains and disadvantage of smaller {111}<112> grains than the average sized grains. Moreover, KAM value of {111}<112> grains was confirmed to be larger than that of {411}<148> grains after tension annealing. This suggests that the stored energy in {111}<112> grains is larger than that in {411}<148> grains, which would promote the selective growth of {411}<148> grains with SIBM mechanism by consuming {111}<112> grains with relatively higher stored energy.

1. 緒言

方向性電磁鋼板は,主に変圧器の鉄心に使われる磁性材料であり,二次再結晶によって一方向に{110}<001>方位,すなわちGoss方位が尖鋭化することで優れた磁気特性を実現している。尖鋭なGoss方位粒による二次再結晶,言い換えると異常粒成長が生じるためには,Goss方位粒以外の結晶粒の粒成長を抑制するインヒビター制御と,一次再結晶集合組織と粒径の制御が必要であることが明らかとされている1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16)。二次再結晶における集合組織制御技術として,Goss方位に対するΣ9対応方位粒がGoss方位粒の優先成長性を促進するため重要であるとの対応方位粒界説が主張されている2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,14,15,16)。Goss方位に対するΣ9対応方位は,{411}<148>方位および{111}<112>近傍方位であり,一次再結晶集合組織におけるこれらの方位粒の造り込みが,尖鋭な二次再結晶に重要であると考えられる。Yasudaらは,3%Si鋼における{411}<148>方位の発達メカニズムを調査し,{411}<148>方位の再結晶粒はRD//<011>からなる繊維集合組織であるα-ファイバーに属する転位密度の高い回復粒に隣接するので比較的大きな粒成長駆動力を有するため,一次再結晶の後期に粒径が大きくなると推定した17)。ここで,RDは圧延方向(Rolling Direction)である。さらに,引き続く正常粒成長において,粒径の大きい{411}<148>方位粒は周囲の小さい粒を蚕食しさらに成長するというサイズ効果18)によって発達することを明らかにした17)。また,Yasudaらは{411}<148>再結晶粒の起源を調査し,冷間圧延安定方位である{211}<011>方位近傍粒の一部が{411}<148>に結晶回転することで,一次再結晶時に{411}<148>方位粒が核生成すると推定した19)

一方,方向性電磁鋼板の工業生産においては,生産効率や設備上の制約により,鋼板には様々な外部からの影響が発生する。その1つが,焼鈍中に鋼板に付与される張力である。一次再結晶等の焼鈍工程において,バッチ焼鈍ではなくコイルを連続的に巻きほどきながら焼鈍する連続焼鈍プロセスは効率的な生産に極めて有効である。しかし,連続焼鈍時には鋼板に不可避的に張力が付与されるため,一次再結晶および引き続く粒成長において,張力は集合組織形成に影響を及ぼす可能性がある。焼鈍中の張力が集合組織や結晶粒径に及ぼす影響について,調査された例は多くない。Hutchinsonは,集合組織形成に及ぼす様々な外部影響因子についてレビューし,鋼板に弾性応力を焼鈍中に付与した研究においては応力と再結晶挙動などには明確な相関性は認められなかったことに触れている20)。一方,塑性域では,Onukiらは高温かつ低歪速度で単軸圧縮変形するほど,{100}面方位粒の面積率が増加し{111}面方位粒の面積率は減少することを確認し,Taylor因子の小さい{100}面方位粒が優先成長する可能性に触れ,さらに,{100}面方位粒と{111}面方位粒間の大角粒界移動において,それぞれの粒内における小角粒界が影響を及ぼすと推定した21,22,23)。しかし,3%Si鋼における引張変形を伴う高温焼鈍中の集合組織変化については,著者らの知る限りにおいて研究例はないと思われる。本研究では,3%Si鋼において粒成長中の張力が粒成長および一次再結晶集合組織に及ぼす影響について調査した。

2. 実験方法

Si:3.4%,C:0.06%,Mn:0.1%,S:0.01%,Al:0.03%,N:0.01%(mass%)の成分を有する板厚2.6 mmの熱延板に熱延板焼鈍を施した後,0.23 mmまで冷間圧延し,脱炭焼鈍を兼ねて一次再結晶焼鈍を施して一次再結晶板を得た。ここで,一次再結晶焼鈍条件を800,820,850°C×90 sとし,焼鈍温度を3水準とすることで粒径を変化させた。一次再結晶板のC量は,全条件で0.005%以下であることを確認した。その後,フープ炉にて張力(引張応力)を変化させ,850°C×120 sの焼鈍を施し,空冷した後に鋼板組織および集合組織を解析した。鋼板に負荷する張力は,引張荷重を焼鈍炉の出側で測定し,一定速度で鋼板を巻き取りながら,入側の鋼板払い出しリールにおけるトルクを制御することにより,変化させた。張力は9.8,19.6および24.5 MPaとなるように調整した。張力が0 MPa(張力付与無し)条件は,メッシュベルトに試料を載せて焼鈍した場合である。焼鈍前に約250 mm間隔で罫書き線を鋼板に書き,焼鈍前後の罫書き線間長さをノギスで測定して張力焼鈍による試料の伸びを算出した。

鋼板組織は,Normal Direction (ND)-RD断面にて機械研磨を施し,ナイタール溶液にて腐食した後,光学顕微鏡により調査した。ビッカース硬さ測定は,荷重は0.98 N,保持時間は5 sとし,各5点を測定した。集合組織は,試料のTransverse Direction (TD)-RD断面を板厚1/2層まで機械研磨した後に電解研磨し,XRD(X-ray Diffraction)(RIGAKU社RINT2500HF)にて{200},{220},{222}面の極点図を測定し,ODF(Orientation Distribution Function)を取得した。さらに,詳細な集合組織と結晶粒組織の解析は,Scanning Electron Microscopy (SEM)-Electron Back-Scatter Diffraction (EBSD) (JEOL社JSM-800HL, EDAX OIM DATA COLLECTION, OIM Analysis) にて測定した。測定面積は,それぞれの視野にて1000 µm×600 µmとし,ステップ間隔は結晶粒径を考慮して2 µmとした。なお,本研究における観察視野には,839~2579個の結晶粒が存在しており,一部条件で1000個に満たないものの,EBSDから求めた平均的な集合組織の結果は信頼性が高いと考えられる24)

3. 実験結果

3・1 一次再結晶後および張力焼鈍後の鋼板組織

張力焼鈍後の伸びを調査した結果を,Fig.1に示す。図から明らかなように,一次再結晶焼鈍温度に依らず,張力の増加に伴って,伸びが増加した。低い張力を短時間付与する焼鈍であるが,焼鈍中に塑性変形することが明らかとなった。一次再結晶温度が800°Cと820°Cの条件において,伸びはほぼ同じであった。一方,850°Cの条件において,張力が19.6および24.5 MPaでは,他の条件と比較して伸びが小さかった。

Fig. 1.

Elongation after annealing under tension of 0 to 24.5 MPa.

一次再結晶焼鈍後および張力焼鈍後の光学顕微鏡ミクロ組織を,Fig.2に示す。一次再結晶温度によって粒径が異なり,一次再結晶焼鈍温度が高温ほど粒径は大きいことが確認された。引き続く850°Cでの張力焼鈍後に,いずれの条件においても粒成長した。さらに,張力が高いほど粒成長が大きい傾向が確認され,特に一次再結晶焼鈍後の結晶粒径が小さい800°C焼鈍材にて顕著であった。なお,いずれの条件においても,組織にセメンタイトは認められなかった。

Fig. 2.

Microstructures of annealed sheets at different temperatures of 800°C (a1), 820°C (b1) and 850 °C (c1), and subsequently tension-annealed sheets under different tension at 850°C for 120 s. (a1-a5): primary recrystallization annealed at 800°C, (b1-b5): 820°C and (c1-c5): 850°C, respectively. (a2), (b2), (c2): annealed with no tension, (a3), (b3), (c3): tension-annealed under 9.8 MPa, (a4), (b4), (c4): tension-annealed under 19.6 MPa and (a5), (b5), (c5): tension-annealed under 24.5 MPa.

Fig.3に,EBSD法で測定したRD-TD断面におけるInverse Pole Figure(IPF)マップの一例を示す。Fig.3(a)は,800°Cにて一次再結晶焼鈍した試料のIPFマップであり,Fig.3(b)は同条件で一次再結晶焼鈍した試料を850°C×120 sにて無張力で,Fig.3(c)は24.5 MPaの張力下で焼鈍した試料のIPFマップである。無張力下でも,850°C×120 sの焼鈍後には結晶粒径は大きくなり,ピンク色の{411}面方位粒の増加,青色の{111}面方位粒の減少が確認された。一方,24.5 MPaの張力を付与して焼鈍すると,これらの傾向はより顕著になっていたことが,Fig.3より明らかである。図中に白色で示した2–15°の小角粒界は,{411}面近傍方位および{111}面近傍方位の双方に認められた。平均粒径の定量的な変化を,Fig.4に示す。一次再結晶焼鈍温度が800°Cの場合,一次再結晶後の粒径は約15.0 µmであるのに対し,820°Cの場合は約16.9 µm,850°Cの場合は約20.7 µmであり,一次再結晶温度が高温ほど粒径は大きかった。また,ばらつきはあるが,張力焼鈍後には張力が高いほど粒径が大径化する傾向が確認された。一次再結晶焼鈍温度が820°Cの場合,無張力で850°C焼鈍後の粒径は約21.2 µmであるが,24.5 MPaの張力付与して焼鈍すると約24.6 µmとなった。Fig.2の鋼板断面観察にて定性的に観察された結果と一致した。無張力の焼鈍および張力付与焼鈍による平均粒径の変化をTable 1に示す。張力付与焼鈍による平均粒径の変化は,ばらつきを考慮して19.6 MPaと24.5 MPaの張力付与焼鈍時の平均値と,無張力焼鈍時の平均粒径の差とした。無張力の焼鈍による粒径変化は正常粒成長によるものと考えられ,一次再結晶温度が800°C,820°Cおよび850°Cの条件で,それぞれ5.8 µm,4.3 µmおよび2.2 µmであった。一方,無張力焼鈍と張力付与焼鈍の平均粒径変化は,張力付与の影響による粒成長と考えられ,それぞれ2.0 µm,2.7 µmおよび0.8 µmであり,正常粒成長の半分程度であった。

Fig. 3.

IPF maps of (a) primary recrystallization annealed sheet at 800°C, (b) sheet after annealed at 850°C without tension and (c) sheet after annealed at 850°C under tension of 24.5 MPa. White lines and black lines indicate low angle grain boundaries (2°–15°) and high angle grain boundaries (15°<), respectively.

Fig. 4.

Change in average diameter with tension before and after tension annealing at 850°C under tension of 0 to 24.5 MPa.

Table 1. Change in average grain diameters by 850°C annealing without tension, and difference average grain diameters between without/with tension during 850°C annealing. Applied tension was 19.6 and 24.5 MPa.

SamplesChange in average grain diameters by 850°C annealing without tensionDifference average grain diameters by 850°C annealing between without/with tension
Recrystallization annealed at 800°C5.8 μm2.0 μm
Recrystallization annealed at 820°C4.3 μm2.7 μm
Recrystallization annealed at 850°C2.2 μm0.8 μm

Fig.5に,板厚中心層におけるビッカース硬さを示す。一次再結晶後は,焼鈍温度が低いほどビッカース硬さは高く,粒径を反映したものと推定された。一方,張力焼鈍後はビッカース硬さにばらつきもあり,一次再結晶焼鈍温度の影響は明確ではなく,さらに,張力の影響も明確ではなかった。ビッカース硬さ測定における圧痕サイズは約30 µmであり,平均粒径が15から25 µmと同程度であることから,結晶粒ごとの歪量の変化や粒界の影響を反映してばらつきが大きくなった可能性がある。また,Fig.4に示されたように,一次再結晶温度が低温の素材ほど850°Cでの張力焼鈍後に粒成長が進行したため,張力焼鈍後は粒径差が小さくなった影響と考えられる。さらに,張力が高い場合は粒成長が大きい傾向であるものの,張力焼鈍に伴って歪が導入された影響が考えられる。

Fig. 5.

Hardness of recrystallization annealed sheets at different temperatures, and hardness changes with tension of subsequently tension-annealed sheets at 850°C under tension of 0 to 24.5 MPa.

3・2 一次再結晶後および張力焼鈍後の集合組織

XRD法によって測定した一次再結晶焼鈍後および張力焼鈍後における板厚中心層の集合組織のODF(φ2=45°断面)を,Fig.6に示す。全ての条件において,{411}<148>~{100}<012>近傍方位を中心にした{h,1,1}<1/h,1,2>ファイバーおよび{111}<112>近傍方位を中心とするND//<111>方位からなるγ-ファイバーにおいて高い強度が確認された。さらに,張力焼鈍によって集合組織が変化し,張力の増加とともに{411}<148>方位の強度はさらに高くなり,{111}<112>方位の強度は低くなる傾向が認められた。

Fig. 6.

ODFs (ϕ2=45°) of recrystallization annealed sheets at different temperatures of 800°C (a1), 820°C (b1) and 850°C (c1), and subsequently tension-annealed sheets at 850°C under tension of 0 to 24.5 MPa. (a1-a5): primary recrystallization annealed sheets at 800°C, (b1-b5): 820°C and (c1-c5): 850°C, respectively. (a2), (b2), (c2): annealed at 850 °C without tension, (a3), (b3), (c3): tension-annealed under 9.8 MPa, (a4), (b4), (c4): tension-annealed under 19.6 MPa and (a5), (b5), (c5): tension-annealed under 24.5 MPa. (d) Legend of ODF showing representative orientations.

張力焼鈍後の集合組織変化をさらに明確にするために,Fig.7に,張力焼鈍前後におけるODFの強度差のマップを示す。一次再結晶焼鈍温度が800°Cの条件では,無張力の850°Cの焼鈍を続けて行うとFig.7(a1)に示すように,{411}<148>方位の強度が高くなり,{111}<112>方位の強度が低くなった。さらに,焼鈍時に付与する張力が高くなるほど,{411}<148>方位の強度はより高く,{111}<112>方位の強度はより低くなった。一方,一次再結晶焼鈍温度が800°Cよりも高温になると,その後の850°Cでの焼鈍による集合組織の変化は無張力の場合には小さくなる傾向であった。例えば,一次再結晶焼鈍温度が850°Cの条件では,無張力の焼鈍後であるFig.7(c1)に示した結果から明らかなように,集合組織変化は大きくなかった。一方,張力を19.6 MPa以上付与した条件のFig.7(c3),(c4)に示す結果では,{411}<148>方位強度は増加し{111}<112>方位強度は低下する明確な変化が認められた。

Fig. 7.

Difference ODFs (ϕ2=45°) showing changes in texture intensities with tension annealing (ODF(tension-annealed at 850°C under tension of 0 to 24.5 MPa) – ODF (primary recrystallization annealed at 800, 820 and 850°C)) . (a1-a4): primary recrystallization annealed at 800°C, (b1-b4): 820°C and (c1-c4): 850°C, respectively. (a1), (b1), (c1): annealed without tension, (a2), (b2), (c2): annealed under 9.8 MPa, (a3), (b3), (c3): annealed under 19.6 MPa and (a4), (b4), (c4): annealed under 24.5 MPa.

Fig.8(a)には張力付与焼鈍にともなう{411}<148>方位の強度変化を,またFig.8(b)には{111}<112>方位の強度変化を示す。これらの図から明らかなように,張力焼鈍後には張力の増加とともに{411}<148>方位の強度はさらに高くなり,{111}<112>方位の強度は低くなる傾向が認められた。Fig.9には,張力焼鈍前後の{411}<148>方位および{111}<112>方位における強度変化を示す。Fig.9(a)に示すように,{411}<148>方位における強度変化は,全ての張力条件において,一次再結晶焼鈍温度が800°Cの時に最も大きく,続いて820°C,850°Cの順に大きい。また,一次再結晶焼鈍温度に依らず,張力が24.5 MPaの条件においては,{411}<148>方位の強度変化は最も大きいことが認められる。またFig.9(b)に示すように,{111}<112>方位は,張力が24.5 MPaの条件において最も強度が低下した。

Fig. 8.

Changes in intensities of (a) {411}<148> orientation and (b) {111}<112> orientation of tension-annealed sheets with tension.

Fig. 9.

Changes in texture intensity with tension-annealing under tension of 0 to 24.5 MPa. (a) {411}<148> orientation and (b) {111}<112> orientation.

無張力の焼鈍および張力付与焼鈍による{411}<148>方位および{111}<112>方位の変化をTable 2に示す。ここで,張力付与焼鈍による集合組織の変化は,ばらつきを考慮して19.6 MPaと24.5 MPaの張力付与焼鈍時における強度の平均値を代表として,無張力焼鈍時の強度からの差とした。無張力の焼鈍,すなわち正常粒成長による{411}<148>方位の変化は,一次再結晶温度が800°C,820°Cおよび850°Cの条件で,それぞれ1.1,0.4および0.3であった。一方,無張力の焼鈍と張力付与焼鈍の変化,すなわち張力付与の影響による{411}<148>方位の変化は,それぞれ0.9,1.1および0.5であり,正常粒成長による変化と同等以上であった点は特筆される。一方,{111}<112>方位は,正常粒成長による変化が−0.8から−1.6であり,張力付与の影響による変化が−0.7~−1.3であり,ばらつきはあるが正常粒成長と応力付与の効果は同程度であった。平均粒径変化において,張力付与の影響は正常粒成長の半分程度であったことから,張力付与焼鈍による{411}<148>方位および{111}<112>方位の変化は,平均粒径の変化に比較して大きいことが明らかとなった。

Table 2. Change in intensities of {411}<148> and {111}<112> orientations by 850°C annealing without tension, and difference in orientation intensities between without/with tension during 850°C annealing. Applied tension was 19.6 and 24.5 MPa.

Samples{411}<148> orientation{111}<112> orientation
Change in intensity by 850°C annealing without tensionDifference in intensity between without/with tensionChange in intensity by 850°C annealing without tensionDifference of intensity between without/with tension
Recrystallization annealed at 800°C1.10.9−1.6−0.7
Recrystallization annealed at 820°C0.41.1−0.8−0.8
Recrystallization annealed at 850°C0.30.5−0.8−1.3

4. 考察

張力を付与して焼鈍すると{411}<148>方位の強度が増加し,{111}<112>方位の強度が減少したメカニズムを考察する。仮説として,以下の2説が考えられる。(1)サイズ効果:粒界エネルギーを駆動力にして,大きな{411}<148>方位粒が小さな{111}<112>方位粒を蚕食して粒成長する。(2)歪誘起粒成長:張力焼鈍中に,歪蓄積の少ない{411}<148>方位粒が,歪蓄積の多い{111}<112>方位粒を蚕食して方位選択的に粒成長する。以下に,それぞれの仮説について考察する。

4・1 サイズ効果による{411}<148>方位の発達

一次再結晶焼鈍後および張力焼鈍後の{411}<148>方位および{111}<112>方位の結晶粒の存在頻度および平均粒径を,EBSD測定結果より算出した。抽出条件は,理想方位からの許容角度は15°とし,測定点数が5点以上(円相当径で4.7 µm)のものを結晶粒と見なした。Fig.10に平均粒径の算出結果を示す。Fig.10(a)は{411}<148>方位粒,(b)は{111}<112>方位粒の平均粒径であり,(c)はそれぞれの方位粒の平均粒径と全粒の平均粒径の比である。{411}<148>方位粒および{111}<112>方位粒ともに,張力焼鈍中に粒成長した。さらに,全粒の平均粒径と同様に,張力が高いほど粒径が大径化する傾向が確認された。サイズ効果による粒成長の場合に{411}<148>方位粒が粒成長し得るか調査するため,それぞれの方位粒の平均粒径と全粒の平均粒径との比をFig.10(c)に示す。ばらつきはあるが,{411}<148>方位粒は全粒の平均粒径と同等以上である。式(1)に示すように,サイズ効果による粒成長駆動力の式が,Hillertによって報告されている18)

  
P=αE(1RC1R)(1)
Fig. 10.

Change in average diameter of (a) {411}<148> grains and (b) {111}<112> grains with tension-annealing at 850°C under tension of 0 to 24.5 MPa. (c) Changes in average diameter ratio of {411}<148> grains and {111}<112> grains to all grains, respectively.

ここで,P:粒成長駆動力,α:形状因子,E:粒界エネルギー,RC:マトリックス粒の臨界粒径,R:対象とする粒の粒径である。式(1)から,マトリックス粒の平均粒径よりも大きければ,サイズ効果によって粒成長可能であることがわかる。一方,Fig.10に示した実験結果のように,{111}<112>方位粒は,張力焼鈍中に粒成長しているものの,全粒の平均粒径よりも小さく,正常粒成長では蚕食され易いと推定される。Yasudaらは{411}<148>方位粒と{111}<112>方位粒の粒成長挙動を調査し,{411}<148>方位粒は再結晶完了後に大きいことを確認した17)。さらに,{411}<148>方位粒の再結晶過程を詳細に調査し,再結晶初期段階において{411}<148>方位粒は局所的に転位密度の高い領域に存在するため核生成が早いことを確認し,また再結晶の後期段階においても粒成長の駆動力が大きく完了時点では相対的に大きい結晶粒となる。その結果,再結晶完了後の正常粒成長段においても{411}<148>方位粒はサイズ効果により,さらに大径化すると推定している。本研究においては再結晶過程は調査対象外であるが,Yasudaらの報告と同様に,一次再結晶焼鈍後に{411}<148>方位粒の平均粒径は全粒の平均粒径よりも大きく,{111}<112>方位粒は小さかった。したがって,サイズ効果により{411}<148>は増加すると推察される。しかし,張力焼鈍により粒界エネルギー以外の粒成長の駆動力が加わり,{411}<148>方位粒がサイズ効果以上に{111}<112>方位粒を蚕食して粒成長しやすいかどうかについて,次項の4・2で議論する。

4・2 歪誘起粒成長による{411}<148>方位の発達

前項において,粒界エネルギーを駆動力とする正常粒成長による{411}<148>方位粒の粒成長について考察した。しかし,Fig.10(a)に示すように,張力焼鈍中の張力が高くなるほど{411}<148>方位粒の粒成長が進行しており,このことは,{411}<148>方位粒のサイズ効果だけでは必ずしも説明できない。Murakamiらは,一次再結晶焼鈍板をスキンパスした後に焼鈍を施すとGoss方位粒が優先成長するメカニズムについて調査し,{111}<112>方位粒はスキンパス圧延中に歪が蓄積しやすく,さらに,Goss方位粒はスキンパス圧延後に転位密度が低く,またスキンパス圧延後の焼鈍中に回復しやすいため,Goss方位粒が周囲の高歪領域を蚕食することで優先成長すると推定した25,26)。本研究の張力焼鈍は,動的ではあるが同様の現象が生じているか調査するため,張力焼鈍後の各結晶粒におけるAverage Misorientation(各結晶粒におけるKAM値の平均値)をFig.11に示す。ここで,KAM(Kernel Average Misorientation)は隣接測定点との方位差平均であり,その値は大きいほど幾何学的に必要な転位(GND:Geometrically Necessary Dislocation)の密度が高いことが知られている27)Fig.11(a)は{411}<148>方位粒におけるAverage Misorientationであり,Fig.11(b)は{111}<112>方位粒におけるAverage Misorientationである。ばらつきはあるが,{411}<148>方位粒よりも{111}<112>方位粒の方がAverage Misorientationが大きく,両方位粒が接した際は相対的に低歪(低転位密度)の{411}<148>方位粒が高歪(高転位密度)の{111}<112>方位粒を優先的に蚕食して粒成長すると推察される。Fig.11(c)には,{411}<148>方位粒あるいは{111}<112>方位粒と全粒とのAverage Misorientationの比を示す。ばらつきはあるが,全粒と比較しても{411}<148>方位粒は低歪であり,{111}<112>方位粒は高歪の傾向であると推察される。

Hillertの式に,歪影響の項を加えたものを式(2)に示す。ここで,iは注目する結晶粒,Δγiは注目粒とマトリックスの歪量の差,βは係数である。例えば,注目する粒の歪量がマトリックスより大きい場合,Δγiは正の値となり,粒成長駆動力は小さくなる。

  
Pi=αE(1RC1Ri)βΔγi(2)
Fig. 11.

Change in average misorientation of (a) {411}<148> grains and (b) {111}<112> grains before and after tension annealing under tension of 0 to 24.5 MPa. (c) Changes in average misorientation ratio of {411}<148> grains and {111}<112> grains to all grains, respectively.

Onukiらは,高温圧縮変形における粒成長挙動を解析し,{100}面方位粒の面積率が増加し{111}面方位粒の面積率は減少することを報告している21)。本研究においては,張力焼鈍後に{411}<148>方位の強度が増加し,{111}<112>方位の強度が低下している。Onukiらの研究と本研究は,変形モードは異なるが,同じ傾向が確認された。Onukiらの研究では,{100}面方位粒および{111}面方位粒における歪量に関する記述は認められないが,Taylor因子を用いて考察している。本研究と同様に,{100}面方位粒は低歪であり,{111}面方位粒は高歪であった可能性が考えられる。またOnukiらは,{100}面方位粒と{111}面方位粒間の大角粒界移動に,それぞれの粒内における小角粒界(回復組織における亜粒界)が影響を及ぼすと推定した21)。本研究では,EBSD測定における測定間隔が2 µmと大きいことから,詳細な解析はできなかった。しかし,Fig.3に示したIPFマップにおいて,マクロな粒界分布は確認できる。Fig.3(c)において,2–15°の小角粒界は,{411}面近傍方位および{111}面近傍方位の双方に認められるが,両方位粒ともに本研究では粒内に亜粒界として存在するのではなく,粒界を形成している場合が多かった。本研究の張力焼鈍における歪速度は,最も変形の大きかった張力24.5 MPaの条件にて5×10−4 s−1であり,Onukiらの研究と同等であるが,歪量が0.06であり,Onukiらの研究における圧縮歪(例えば−0.50)と比較して歪量が一桁程度小さかった。歪量の差によって,局所集合組織や回復組織に差異が生じたと推察される。

4・3 常温引張変形における歪蓄積挙動解析

張力焼鈍では,歪導入と回復が同時に進行して挙動が複雑になることから,変形に伴う歪蓄積挙動の詳細を加速的に解析するため,常温引張試験を行った。850°Cにて一次再結晶した試料を,常温で引張速度1.8 mm/minにて6%変形させ,集合組織をEBSDにて調査した。Fig.12にIPFマップを,Fig.13にODF(φ2=45°断面)を示す。常温での引張試験において,高温での張力焼鈍と同等の4×10−4 s−1の歪速度で歪を付与したが,結晶方位変化は大きくないことが示唆される。Table 3に,各方位粒のAverage Misorientationを示す。各方位粒におけるAverage Misorientationは,{411}<148>方位粒で全粒よりも小さく,{111}<112>方位粒で大きかった。このことは,前節で考察した{411}<148>方位粒の方が{111}<112>方位粒より相対的に転位密度が低いことと対応しており,{411}<148>方位粒が歪誘起粒成長することを支持する結果と考えられる。

Fig. 12.

IPF maps of (a) primary recrystallization annealed sheet at 850°C and (b) primary recrystallization annealed sheet at 850°C followed by stretching by 6% at room temperature. White lines and black lines indicate low angle grain boundaries (2°–15°) and high angle grain boundaries (15°<), respectively.

Fig. 13.

ODFs (ϕ2=45°) of (a) primary recrystallization annealed sheet at 850°C and (b) primary recrystallization annealed sheet at 850°C followed by stretching by 6% at room temperature.

Table 3. Average misorientation of all grains, {411}<148> grains and {111}<112> grains before and after stretching by 6% at room temperature.

Average Misorientation
SamplesAll{411}
<148>
{111}
<112>
Recrystallization annealed at 850°C0.270.260.29
Stretching by 6% at room temperature after recrystallization annealed at 850°C0.700.660.81

Fig.14に,850°Cにて一次再結晶焼鈍した後に常温引張試験した試料の結晶方位マップおよびKAMマップを示す。{111}<112>方位粒は{411}<148>方位粒よりもKAM値が高いことが確認された。一般的に,加工により蓄積される歪量は結晶方位により異なり21,22,23,25,26,28),Taylor因子が関係することが知れているが21,22,23,25,26),今回の結果は,引張変形に対して{111}<112>方位粒は{411}<148>方位粒よりも歪が蓄積しやすい結晶方位であることを示唆するものと推察される。一方,いずれの方位粒においても,結晶粒径が小さいほどKAM値が高い傾向が認められた。さらに,粒内のKAM値分布も均一ではなく,粒界近傍にてKAM値が高い傾向が確認された。これは,6%程度の変形量においては,粒内よりも粒界近傍の不均一変形領域で転位が堆積しやすい傾向が顕著であるためと推定される。前項までの考察に使用したAverage Misorientationは,各粒におけるKAM値の平均値であり,小さな結晶粒ほど粒界近傍領域の占める割合が大きいため,粒界の影響を受けやすいと考えられる。{111}<112>方位粒は,相対的に粒径が小さいことも影響して他の方位粒より歪が蓄積されやすく,850°Cの高温においても同様の現象が生じたと推察される。なお,850°Cでの張力焼鈍後の伸び調査において,張力焼鈍前に850°Cにて焼鈍する条件において伸びが小さい傾向が確認された。Fig.14は常温引張試験の結果であるが,高温引張変形においても,粒界近傍に歪が蓄積して硬化し,粒界すべりによるクリープ変形が進行したと推察される。一般的に,結晶粒径が大きいほど高温クリープ変形は抑制されることから,張力焼鈍前の結晶粒径が大きいほど,粒界すべりによるクリープ変形が抑制されたため,850°Cの条件において伸びが小さくなったと推定される。引張変形における歪蓄積量へ及ぼす結晶粒径と結晶方位の影響の分離については,今後の課題としたい。

Fig. 14.

(a) Crystal orientation map of the primary recrystallization annealed sheet at 850°C followed by stretching by 6% at room temperature and (b) KAM map in the same area of the sheet. White lines and black lines indicate low angle grain boundaries (2°–15°) and high angle grain boundaries (15°<), respectively.

以上より,張力を付与して焼鈍すると{411}<148>方位の強度が増加し,{111}<112>方位の強度が減少したメカニズムとして次のように考える。すなわち,{411}<148>方位粒は全粒の平均粒径と同等以上であり,一方,{111}<112>方位粒は,張力焼鈍中に粒成長しているものの,全粒の平均粒径よりも小さく,正常粒成長では蚕食され易いと推定される。したがって,{411}<148>方位粒はサイズ効果によって優先成長が促進されると推察した。さらに,{411}<148>方位粒よりも{111}<112>方位粒の方が張力焼鈍後の結晶粒内方位差が大きかったことから,{411}<148>方位粒がより高歪の{111}<112>方位粒を優先的に蚕食することで{411}<148>方位粒の粒成長がさらに促進されると推察した。

5. 結論

本研究では,3%Si鋼を用いて焼鈍プロセスにおける粒成長中の張力が一次再結晶集合組織に及ぼす影響について調査した。その結果,張力焼鈍後に結晶粒径は大径化し,{411}<148>方位の強度が高くなり,{111}<112>方位の強度が低くなった。また,張力が高くなるほど変化が大きい傾向を確認した。集合組織を詳細に解析した結果,{411}<148>方位粒の平均粒径は全粒の平均粒径よりも大きく,{111}<112>方位粒は小さい傾向を確認した。

張力を付与して焼鈍すると{411}<148>方位の強度が増加し,{111}<112>方位の強度が減少したメカニズムを調査し,{411}<148>方位粒は全粒の平均粒径と同等以上であり,一方,{111}<112>方位粒は,張力焼鈍中に粒成長しているものの,全粒の平均粒径よりも小さいことが明らかとなった。したがって,{411}<148>方位粒はサイズ効果によって,粒界エネルギーを駆動力に優先成長が促進され,{111}<112>方位粒は蚕食された可能性が推察される。さらに,{411}<148>方位粒よりも{111}<112>方位粒の方が張力焼鈍後の結晶粒内の方位差(転位密度)が大きかった。したがって,{411}<148>方位粒がより高歪の{111}<112>方位粒を優先的に蚕食することで,{411}<148>方位粒の粒成長がさらに促進される歪誘起粒成長ももう一つの機構として加わったと推察した。

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