Tetsu-to-Hagane
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Effect of Wettability on the Behavior of Non-metallic Inclusions in the Submerged Entry Nozzle in CC Mold
Tomoharu NakaneHiroshi Harada
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2024 Volume 110 Issue 10 Pages 731-739

Details
Abstract

Molten steel flow in the submerged entry nozzle (SEN) largely affects the cast steel quality. However, it wasn’t clarified how non-metallic inclusions behave at the front of nozzle wall in the SEN. One of the reasons is that the contact angle of inclusions with molten steel is bigger than 90 degree and the effect of wettability of the inclusions and nozzle wall on the multi-phase flow behavior in SEN has not been fully clarified. In this study, water model to simulate the multi-phase flow in the SEN has been constructed to investigate the effect of wettability of particles and the nozzle wall on the fluid flow by changing the contact angle of the surface of particles and the nozzle wall. Additionally, an endoscope has been installed into the stopper in order to directly observe the behavior of particles in the SEN. As a result, it was found that particles coated with hydrophobic agent are swept away as if they hit on the nozzle wall and changed the flow direction in the air. This is why the air film was surrounded around the particle by the hydrophobic treatment and cavity bridge was formed between the hydrophobic treated particles in the water. The adhesion force acting between the hydrophobic treated particles was calculated by theoretical analysis and the aforementioned adhesion force could not be ignored compared to the buoyancy force and the drag force in the water.

1. 緒言

鋼材の介在物品位は製鋼プロセスにおいて概ね規定される。このような背景のもと,精錬工程における清浄化と介在物組成・形態制御による無害化,連続鋳造工程における介在物浮上促進と流動制御による介在物捕捉防止等,多大な取組みがなされてきた1)。また,鋳型への注入流を安定的に制御することが,高品質鋼材の製造に不可欠となることから,耐火物材質の開発についても,数多くの取組みがなされてきた2,3)。直近では,電気化学的に溶鋼と耐火物間の反応を制御し,ノズル詰まりを防止する技術も報告されている4)。ノズル詰まりの機構については,溶鋼と耐火物間の反応により溶鋼/耐火物界面で生成される界面張力勾配によって粘性底層内に流入した介在物がノズル内壁面へ輸送され付着する機構が提案されている5,6,7)。しかしながら,アルミ脱酸時に生成する代表的な介在物であるアルミナと溶鋼が濡れにくいことは古くから知られている8)。注湯操作においては,耐火物製ストッパーやスライディングノズルによって開口面積を調整し制御する,すなわち,流路断面積の急激な変化を伴うことになる。その際,濡れ性の悪い耐火物製ノズルで囲まれた流路を溶鋼が流れることになるが,溶鋼中に含まれる濡れ性の悪い介在物がどのように振舞うのか,濡れ性の観点での検討が待たれる。

溶鋼中の介在物挙動を検討するために様々なモデル実験や解析モデルが考案され,混相流体に関する理解が進んだ9)。Weiらは矩形容器内に表面の接触角が異なる粒子を分散させ,矩形容器底部から空気を吹き込み,粒子と気泡の付着挙動をハイスピードビデオで観察した10)。その結果,接触角が大の粒子は気泡と接触すると速やかに気泡内に取り込まれることを明らかにしている。Matsuzawaらは二次精錬工程での吹き込まれたフラックス粒子の濡れ性が溶鋼中での滞留挙動に及ぼす影響に着目した水モデル実験を行った11)。具体的には粒子表面に親水剤あるいは撥水剤を塗布し表面の接触角を変化させた粒子を水中に吹き付けた際の粒子の侵入挙動をハイスピードビデオカメラで観察した。その結果,接触角の違いにより随伴される気泡が変化し粒子の滞留挙動が変化することを明らかにしている。一方,注入流を模擬する水モデル実験については,Imamuraらがノズル内での二次メニスカスの存在を指摘した12)。また,ノズル形状の検討だけでなく,注入流を安定的に制御することを目的として旋回流をノズル内で形成する方法等13),様々な注入流制御法が検討されている。しかしながら,濡れ性の影響についての水モデル実験は極めて少ない。Maeda and Iguchiがスライディングノズル方式を模擬した水モデル実験を行い,撥水剤を塗布した場合,開度によって流量特性が変化することを報告している14,15,16)。ただ,濡れ性を変化させ模擬介在物の挙動についての検討は見当たらない。

そこで本研究では注入ノズル内での介在物の挙動を,水モデル実験装置を用いて濡れ性の観点から検討した。その際,ノズル外面から観察するのではなく,注入量を制御するストッパー中心に内視鏡を設置し,直接水中の模擬介在物を観察することとした。介在物を模擬するトレーサーの粒径や接触角,加えて,ノズル内面,ストッパー表面の接触角を親水剤,撥水剤を塗布することで変化させ,介在物挙動について調査した17,18,19)

2. 水モデル実験

2・1 実験装置の構成

実験装置の概略図をFig.1に示す。実験装置は実際の連鋳機で使用される注入ノズルの約1/5スケールとした。上部水槽に給水された水はノズルを介して下部水槽に注入される。上部水槽に取り付けられた排水口から排水を行うことで実験中の上部水槽の水位は一定に保たれる。流量は開度調節ハンドルにより制御が可能である。なお,流量はノズル外表面に超音波流量計(キーエンス(株),FD-Q20C)を設置し測定した。本実験の流量範囲は4.0×10−3 m3/min~2.0×10−2 m3/minである。さらに注入流量を調整するストッパーの中心軸に貫通孔を開け,内視鏡(ミルス・システムズ(株),リジッドボアスコープ,MS-4-300-70)を設置することでストッパー先端の前面を直接観察できる構造となっている。

Fig. 1.

Experimental apparatus of water model experiment.

2・2 相似則と模擬介在物の選定

モデル実験においては幾つかの無次元数を用いて現象の相似を図る20)。今回の実験においては溶鋼中の介在物の挙動を水中に模擬介在物を分散させることで模擬する。相似則としてフルード数FrFr=U2/gL)を用いて現象の相似を図った。ここで,gは重力加速度,Uは代表流速,Lは代表長さである。実験に用いたノズル寸法は鋼の連続鋳造において用いられる浸漬ノズルのおよそ1/5スケールであるため,実験装置の流速は実機の約0.45倍,実験装置の流量は実機の約0.018倍となる。従ってノズル内注入量1.8×10−2 m3/minはフルード数相似で溶鋼注湯量5.6 ton/minに相当する。次に,実機の介在物をアルミナと仮定し,終末速度の比を合わせることによって,実験で用いる模擬介在物の粒子径を決定した21)。模擬介在物はスチレンージビニルベンゼン系合成吸着剤を用いた。アルミナの粒子径を100 µmと仮定すると,ストークス式から終末速度は約3.2 mm/secとなる。模擬介在物の終末速度についてもフルード数相似とすると,100 µmの介在物を再現する場合は粒径約500 µmの模擬介在物を用いればよい。そこで,今回の実験においては100 µm, 500 µmの2種類の模擬介在物を用いて実験を行うこととした。

2・3 接触角測定

親水剤,撥水剤が濡れ性に及ぼす影響を調査するため,ノズルやストッパーと同一素材のアクリル板上に親水剤や撥水剤を塗布し,水を滴下して接触角を測定した。接触角はθ/2法を用いて計測した22)θ/2法はFig.2に示すように液滴の頂点と端点を結ぶ直線と底面のなす角度θを接触角の半分であるθ/2として接触角を測定する方法であり,液滴の接触角測定に広く使われる手法である。測定結果をFig.3に示す。(a)親水剤を塗布した場合は44 degree,(b)濡れ性加工なしの場合は74 degree,(c)撥水剤を塗布した場合は96 degreeとなった。また模擬介在物は粒径が小さく,アクリル板での接触角測定で用いたθ/2法での算出は事実上不可能である。よって模擬介在物粒子をアクリル板上に敷き詰めて接触角を測定した。測定結果はFig.4に示すように116 degreeとなった。撥水剤を塗布したアクリル板よりも接触角が大きくなったことの原因として,微小粒子で表面が形成されているため平面よりも界面積が大きいことが考えられる。

Fig. 2.

Contact angle measured by using a half-angle method22).

Fig. 3.

Comparison of contact angle of water droplet on the surface of acrylic plate: (a) with hydrophilic treatment, (b) without any surface treatment and (c) with hydrophobic treatment.

Fig. 4.

Contact angle of water droplet on the hydrophobic treated particles which are spread on the acrylic plate.

3. 実験結果

実験においては,Fig.5に示すように注入量を制御するストッパーの中心軸に内視鏡を設置することでストッパー先端の前面を直接観察した。内視鏡にて観察される観察像イメージをFig.5に併せて示した。丸い観察視野の外側から介在物が視野内に流入し,中心部を流出する観察像が得られることが想定される。流量は1.5×10−2 m3/min,模擬介在物粒径を100 µm,500 µmの2種類とした。濡れ性の影響について検討するため,(1)模擬介在物の表面はそのままで,流路を構成するノズル内面とストッパー表面の濡れ性を撥水剤,親水剤を用いて変化させた場合,(2)ノズル内面とストッパー表面に撥水剤を塗布した条件において,模擬介在物の表面に撥水剤を塗布した場合について検討を行った。

Fig. 5.

Schematic view about the behavior of fluid flow and tracer particle in the nozzle.

3・1 ノズル,ストッパーの濡れ性が介在物挙動に及ぼす影響

模擬介在物の表面はそのままで,流路を構成するノズル内面とストッパー表面の濡れ性を撥水剤,親水剤を用いて変化させた場合の実験結果について以下述べる。模擬介在物粒径100 µm,流量1.5×10−2 m3/minの条件での結果をFig.6(a)~(d)にまとめて示した。それぞれ,(a)濡れ性加工なしの条件,(b)ノズルとストッパーに親水加工を行った条件,(c)ノズルに撥水加工を行った条件,(d)ノズルとストッパーに撥水加工を行った条件である。図中白い軌跡が模擬介在物の軌跡を示す。(a)は濡れ性加工なしの条件であるが,Fig.5中に示した想定図と同様に円形の観察視野周囲から模擬介在物粒子が流入し中央に集まる軌跡が観察され,また軌跡はなめらかで乱れも少ない。(b)は親水加工を行った条件であるが,細く不明瞭な軌跡が観察されるのみで加えて全体的に暗い。一方,(c)はノズルのみに撥水加工を施した条件で,(a)の軌跡と概略の傾向は同様であるが,軌跡の乱れが観察される。さらに,(d)はノズル,ストッパーともに撥水加工を施した条件であるが,軌跡の太さが太くぼやけた軌跡が観察された。(b)と(d)を比較すると,介在物粒径はほぼ一定であるので,軌跡の太さは内視鏡の焦点位置に対する遠近が変化したことが考えられる。すなわち,親水加工を施した条件では内視鏡の焦点位置よりも離れた位置,一方,撥水加工を施した条件では内視鏡の焦点位置の前面を横切る介在物が観察されたことを意味する。流体はノズル内面に沿って流入すると思われるので,親水加工により介在物がその流線に沿って,すなわち,ノズル内壁に沿って流入したと考えることができる。一方,撥水剤を塗布した条件では,介在物が流線から離脱するだけでなく,何某か粒子をノズル内壁に引き寄せるような力が作用したことが考えられる。

Fig. 6.

Comparison of the flow path of particles in the nozzle captured by endoscope installed in the stopper: (a) without any surface treatment, (b) with hydrophilic treatment of both nozzle and stopper surface, (c) with hydrophobic treatment of nozzle surface and (d) with hydrophobic treatment of nozzle and stopper surface. (Diameter of particle 100 µm and flow rate 1.5×10−2 m3/min)

3・2 介在物の濡れ性が介在物挙動に及ぼす影響

次に介在物の濡れ性の影響について検討した。模擬介在物粒径500 µmの条件,流量1.5×10−2 m3/minの条件での実験結果をFig.7(a),(b)に示した。それぞれFig.7(a)は濡れ性加工なしの条件,Fig.7(b)はノズル,ストッパーに加え,模擬介在物に撥水加工を行った条件である。

Fig. 7.

Comparison of the flow path of particles in the nozzle captured by endoscope installed in the stopper: (a)without any surface treatment and (b) with hydrophobic treatment of tracer and both nozzle and stopper surface. (Diameter of particle 500 µm and flow rate 1.5×10−2 m3/min)

Fig.6(a)Fig.7(a)は両者ともに濡れ性加工なしの条件で介在物粒径が100 µmから500 µmに変化したことが異なるのみである。そのため,Fig.6(a)と比較して軌跡が太くなっていることがわかる。それに対して,Fig.7(b)はノズル,ストッパーに加えて粒子にも撥水加工を施すことで,濡れ性加工なしの場合では観察されなかった急に軌跡が折れ曲がる様子が明瞭に観察された。

4. 考察

4・1 親水剤,撥水剤を塗布した粒子表面の観察

水モデル実験の結果から,粒子やノズル内面への濡れ性加工により接触角を変化させることで表面状況が変化したことが想定される。そこで,親水剤,撥水を塗布した粒子の表面を顕微鏡で観察した。Fig.8は加工後に乾燥させた状態の粒子表面の観察結果である。親水剤塗布のものが表面に小さな突起を有していることがわかる。一方で撥水剤塗布したものは滑らかな表面であることが,光の反射からも明らかである。次に,Fig.9は親水剤,撥水剤塗布後に水に浸した状態を示した。親水剤塗布した粒子は濡れているのに対し,撥水加工を行ったものは水に浮いていることがわかる。撥水剤を塗布した場合には粒子表面が気相で覆われており,その結果,浮力が変化したことが明らかである。さらに,撥水剤を塗布した粒子と撥水剤を内面に塗布した容器を準備し,容器内に水を入れ水中の粒子と容器内壁面間を顕微鏡で観察した。粒子と容器内壁間を詳細に観察したところ空隙架橋をFig.10に,粒子と容器内壁間に観察された空隙架橋をFig.11にそれぞれ示した。Fig.10の粒子間の黒い部分とFig.11の半透明になっている部分が空隙架橋である。この架橋は粒子が壁面に引き寄せられた原因の一つと考えられる。

Fig. 8.

Comparison of particles coated (a) with hydrophilic agent and (b) with hydrophobic agent in the air.

Fig. 9.

Comparison of particles coated (a) with hydrophilic agent and (b) with hydrophobic agent in the water.

Fig. 10.

Cavity bridge formed between hydrophobic treated particles in the water.

Fig. 11.

Cavity bridge formed between hydrophobic treated particles and wall in the water.

4・2 模擬介在物に作用する力のオーダー評価

前節で,Fig.9に示したように撥水剤を塗布した粒子表面は水中,気相で覆われており,さらに,Fig.10, Fig.11に示したように,粒子が近接した際に粒子間に空隙架橋が形成することで,粒子同士あるいは粒子を内壁表面に付着させることを述べた。本節では,前節の結果を踏まえ液体中の粒子間に作用する力について若干の考察を行う。

先ず,流体中の粒子に作用する力として,浮力Fb,抗力Fdがあげられる。加えて,液体中に存在する同一物質からなる粒子間にはvan der Waals力Fvが必ず引力として作用することが知られている23)。さらに,Sasaiら溶鋼中のアルミナ粒子間に表面張力に基づく凝集力Faが作用することを報告している24,25,26)。以下,本実験条件で前述した力のオーダー評価を行う。

Fig.12にSasai and Mizukamiが提案した濡れ性の悪い二粒子間に作用する凝集力のモデルを示した24)。二粒子が近接した際にその間隙に流体が侵入できず,空隙が形成され,圧力差によって凝集力が作用する。その凝集力は式(1)で表現される。式(1)中の空隙半径Raは粒子半径r,表面張力σ,接触角θ,圧力差△Pを用いて式(2)で表現される。

Fig. 12.

Schematic drawing of the cavity bridge formation between hydrophobic treated particles and model for adhesion of particles due to surface tension of water. (Online version in color.)

抗力Fdについては式(3),抗力係数CD式(4)で,それぞれ表現される。D(=2r)は粒子の直径,ρwは水の密度,Vは流速,νは動粘性係数を表す。ここで,式(4)中のRepは粒子レイノルズ数であり式(5)で表現される。また,式(4)は粒子レイノルズ数Repが1000以下の条件で成立する。加えて。粒子レイノルズ数Rep中の流速Vは粒子と流体との速度差で表現されるが,簡単のため粒子が静止しているとした。さらに,本来,濡れ性が悪く空気が付着した球の抵抗係数を用いて表現すべきであるが,他の力とのオーダー比較が目的であるため,濡れ性の良い球に対する抗力係数に対する表現を用いた。

浮力Fbについては,前節で示した気泡膜の存在を考慮し,気泡膜厚をlとすると,式(6)で表現される。ここで気泡膜厚lが粒子の半径rに比べて十分小さいこと,実験に用いた粒子の密度は水の密度ρwとほぼ等しいため,粒子に作用する浮力Fbは,粒子周囲の気泡膜に作用する浮力に等しいとした。

次に,van der Waals力Fv式(7)で表現される23)。ここで,式(7)中のHamaker定数Aについては,粒子間が真空ではなく水を媒質とした粒子間となるため,式(8)で示した粒子-粒子間A11,媒質としての水-水間の相互作用A33で置き換えた実効Hamaker定数A131を用いて表現される。なお,最近接粒子間距離zは0.4 nmとした27)

  
Fa=πRa2ΔP+2πRaσ(1)
  
Ra=[3σ+(9σ28σΔPrcosθ)1/2]2ΔP(2)
  
Fd=CDρwπr2V22(3)
  
CD=24(1+0.158Rep2/3)Rep(4)
  
Rep=DVν(5)
  
Fb=4πρwr2lg(6)
  
Fv=DA13112z2(7)
  
A131=(A11A33)2(8)

式(1)(2)を用いて凝集力Faを,式(3)(4),(5)を用いて抗力Fdを,式(6)を用いて浮力Fbを,式(7)(8)を用いてvan der Waals力Fvを計算した。凝集力の計算において,接触角は116 degreeを用い,空隙と水の圧力差は飽和水蒸気圧とし計算を行った。粒径は100 µmと500 µmの2つの条件について検討した結果をFig.13に示した。100 µm,500 µmどちらの粒径の場合もvan der Waals力Fvが最も小さいこと,凝集力Faが最も大きいことがわかる。浮力Fbの影響は100 µmの場合には抗力Fdに比べて小さいが,500 µmの場合,抗力Fdと同じオーダーまで増加することがわかる。これは気泡膜の体積に応じて浮力Fbが変化することによる。また,抗力Fdの計算はV=0.72 m/sの条件で行ったが,その場合の抗力Fdと比較して十分大きな凝集力Faが作用することがわかった。

Fig. 13.

Comparison of forces acting on the particles in the water. (Online version in color.)

次に,接触角が凝集力Faに及ぼす影響について粒径100 µm,500 µmの二条件について検討した結果をFig.14に示した。ここで,接触角は実験で用いたノズルやストッパーと同一素材のアクリル板上に撥水剤を塗布した場合が96 degreeで,代表的な介在物であるアルミナと溶鋼の接触角が135 degree,CaO・6Al2O3と溶鋼の接触角が120 degree,MgOとの接触角が95 degreeと介在物によって異なる接触角が報告されていることから影響を評価した8,28)。接触角が増大すると凝集力Faも増加する結果となった。また粒子径が大きいと,接触角の変化に対する凝集力Faの変化量も大きくなることから,濡れ性の影響は粒径の大きい介在物で顕著に表れると考えられる。

Fig. 14.

Effect of contact angle and the diameter of particle on the adhesion force acting on the particles in the water. (Online version in color.)

以上を踏まえ,Fig.7(b)で観察された撥水加工した粒子の特異的な軌跡を考察する。本実験条件においてストッパーとノズル勘合部との空隙は数mmとなる。加えて,流動状態は乱流で介在物がストッパーやノズル内面と近接する頻度は極めて高いと推定される。Fig.13, 14の検討は同径の二粒子間に作用する凝集力の検討であるが,撥水加工を施したストッパー表面やノズル表面と介在物間にも同様な凝集力が作用することが考えられる。その結果,撥水加工された壁によって囲まれ,かつ狭い間隙内を撥水加工した粒子が通過する際,粒子に作用する凝集力によって流動方向が変化する結果,Fig.7(b)に示した特異的な軌跡が観察されたものと考えられる。また,このような軌跡の変化はノズル外面からの観察では捉えることが困難と推定されるが,ストッパー内部に内視鏡を設置し,ストッパー先端のノズル内を直接観察することで捉えることができたと考える。本研究を通じて,注入ノズル内の介在物挙動,特に,粒子間あるいは粒子と壁間での挙動に濡れ性が影響することが明らかとすることができた。

5. 結言

連鋳注入ノズル内での介在物の挙動に及ぼす濡れ性の影響について水モデル実験を行い検討した。その際,ノズル外面から観察するのではなく,注入量を制御するストッパー中心に設置した内視鏡を用いて,直接水中の介在物を観察した。本実験装置を用いて,介在物を模擬するトレーサーの粒径や接触角,加えて,ノズル内面,ストッパー表面の接触角を親水剤,撥水剤を塗布することで変化させ,介在物挙動について調査した。得られた結果は以下のように要約される。

(1)注入流を制御するストッパー中心に内視鏡を設置することで,ストッパー先端前面を通過する模擬介在物の挙動を直接観察することができた。

(2)ストッパー,ノズルや介在物の濡れ性が注入流中の介在物挙動に大きな影響を与えることが水モデル実験により明らかとなった。

(3)撥水剤を塗布した粒子表面には水中で気泡膜が生成し,その粒子同士が近接あるいは粒子と容器内壁に近接した場合には空隙架橋が形成することが明らかとなった。

(4)撥水剤を塗布した粒子間に作用する力に関して,二つの粒径が等しい球体間に作用する凝集力ならびにvan der Waals力,浮力および抗力との比較により,凝集力が抗力や浮力よりも大であることから,実験で得られた介在物粒子の軌跡変化が定性的に説明された。

利益相反に関する宣言

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。

謝辞

本検討の一部は2021年度谷川熱技術振興基金からの研究助成,科研費基盤研究(c)-22K04788,第32回日本鉄鋼協会研究助成を受けて実施することができました。謝意を表します。

文献
 
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