Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
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Conveyor Belt Vibration Analysis Using High-Speed Video Images
Feiyue WangKohei ShimasakiTakashi FujimotoShaopeng HuIdaku Ishii Ai MatsumotoYoshiyuki UmegakiTomohiko Ito
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2024 Volume 110 Issue 11 Pages 841-849

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Abstract

This study proposes a novel video-based conveyor monitoring method that can estimate distances between belt-supporting rollers by analyzing belt vibration responses in high-frame-rate (HFR) images. Focusing on the fact that the vibration components of a belt include frequencies inversely proportional to the distance between its ends, roller-to-roller distances that correspond to the state of contact between a belt and rollers are estimated by HFR-video-based analysis that can detect vibration peak frequencies at multiple belt positions without directly observing them captured in images. Its effectiveness was verified by conducting a wide-area monitoring test of a material handing conveyor in ironworks for roller-to-roller distance estimation with vibration frequency analysis at multiple points on its several-tens-of-meters belt in 9344×600 images captured at 300 fps.

1. 緒言

日本国内の製鉄所の多くが1960~1970年代の高度経済成長期に建設され,建設後40年以上が経過した結果,基盤インフラ設備の老朽化が進行している。火災,爆発,ガス漏洩等による事故に繋がる可能性があり,重大インシデント1)の発生防止は鉄鋼業界共通の喫緊の課題である。このような老朽化問題に伴い,インフラ設備・構造物の安全評価や維持管理を目的とした構造物ヘルスモニタリング2)への要求が高く,製鉄所インフラ設備の安全確保に向けて様々な取り組みが行われている。一方で,コンベア・配管・搬送テーブル・クレーン等のインフラ設備は製鉄所の広大な敷地内に非常に数多く存在し,人に依存したスポット的なモニタリングによる目視検査のみでは,製鉄所の安定稼働との両立が困難であり,メンテナンス不足に伴うトラブルが根絶できていないのが現状3,4)である。特に,総機長が100 km以上となる原料搬送コンベアは,不具合でローラーが回転していない状態が続くとベルトの亀裂・損傷や駆動系に大きな負荷を与え,爆発等の重大なインシデントにつながる恐れがあるため,様々な計測が行われている5,6)

コンベア稼働状態を計測する手法として,RFID(Radio Frequency Identification)タグ等を用いた接触センサ7),電磁センサ8),光ファイバ9)等の非接触センサを用いた方法が多用されている。多くは計測対象への物理的設置が必要なピンポイントのスカラー量を計測するセンサであり,また大きな構造物だと観測箇所に多くのセンサを配置する必要があるため,特に高所・高温・高速動作等を伴う製鉄所インフラ施設への設置は時間・費用コストともに非常に大きくなることが課題である。この中で,レーダ10,11)やレーザ12,13,14)等の非接触センサを用いた遠隔振動モニタリングや,サブピクセル振動変位計測が可能なデジタル画像相関法15,16),サンプリングモアレ法17,18)を始めとした,汎用カメラを用いたビデオ画像解析に基づく振動計測19,20,21,22)の事例等,計測対象への接触を必要としない光学的エリアセンシングを用いた振動モニタリングが報告されている。近年では,1000 fpsレベルの撮影・処理を行う高速ビジョンの開発が進むにつれ,目視では観測が難しい音声周波数レベルの振動分布を時空間解析する様々なビデオベース振動解析の研究23,24,25,26)が行われている。

Shimasakiら27)は,高速ビジョンを用いた原料搬送コンベアモニタリングとして,画素レベルの振動イメージングを行う高速ビジョン28)と高速ミラー視点移動機構を組み合わせたパノラマ振動カメラ29)により,数十mオーダーの広範囲にわたる原料搬送コンベアに対し,複数支柱ローラーでの回転状態を長時間にわたる実時間計測する遠隔モニタリング試験を行った。これらの試験では,高速ビジョンが十数機の支柱ローラーのバーチャル回転センサとして機能した一方で,特に空荷状態のコンベアではベルトが離れることで不転となるローラーがあることを確認した。コンベア重大事故の未然防止に向けた,より精度の高いインシデント検知には,ローラー回転検知とともにベルト接触検知も含めたモニタリングが重要となるが,外観のみではベルトとローラー間の接触状態の判断が困難であった。

そこで本論文では,ベルト振動成分がその両端距離に反比例した振動数を含むことに着目し,ローラー支柱から離れた複数位置でのベルト振動状態を撮影した高速ビデオ画像を解析することにより,その振動周波数からベルトを接触支持するローラー間距離を推定する遠隔コンベアモニタリング法を提案する。実際に,製鉄所内で運用中の原料搬送コンベアを撮影した高速ビデオ画像に対しベルト振動分布を解析し,見かけの支柱間距離とは異なる形で,ベルトとローラーの接触状態に対応したベルトを接触支持するローラー間距離を,数十m範囲にわたる複数ベルト位置において推定することで,提案する高速ビデオベース広域コンベアモニタリングの有効性を検証する。

2. ビデオベースドベルト振動解析に基づくコンベアモニタリング

2・1 ベルトの接触とローラー回転の関係

製鉄所での原料搬送コンベアの多くでは,モータで駆動される長距離平板ベルトを数多くの支柱に設置されたローラーが回転支持される形で動作する。ベルト搬送時におけるローラー回転およびベルトとの接触状態は,Fig.1で示すように大きく分けて,a)ベルト接触を伴うローラー回転状態,b)ベルト接触がないローラー不転状態,c)ベルト接触を伴うローラー不転状態に分けられる。前述したように,高速ビジョンを用いた支柱ローラーの振動イメージング27)により,正常動作といえるa)のローラー回転状態と,b), c)のローラー不転状態の判別ができる一方で,b)とc)でのローラーに対するベルト接触状態の違いは,ベルトとローラーの接触部位はオクルージョンにより直接観測が難しく,非接触時の場合もベルトとローラー間の隙間が大きくない場合が多いため,画像中の外観のみで検知することが難しい。b)の状態は,ローラー支柱の変形や支柱自体の地盤陥没等が理由に挙げられ,その度合いに応じ,ベルトがローラーから距離がある不転状態のローラー,空荷状態や原料搬送状態でのベルト接触の有無により,回転状態と不転状態が時間変化するローラーが存在する。c)の状態は,ローラー機構・駆動系の経年劣化等が理由に挙げられ,ベルトが不転ローラーに接触するため,摩擦による熱やベルトの損傷を引き起こし,コンベア火災・事故等の原因に直結する可能性があるため,特にコンベア設備の維持・管理に精細な注意が必要な状態と考えられる。

Fig. 1.

Contact status between roller and belt in material handling conveyor. (Online version in color.)

2・2 ベルト振動数に着目したローラー間距離推定

原料搬送コンベアにおける平板ベルトの振動は,両端を固定した弦振動の振動特性と類似したものと考えられる。両端固定した長さlの弦の1次共振周波数fstrは,張力を S,線密度をρとして,長さlに反比例した次の形で表される。

  
fstr=12lSρ(1)

製鉄所での原料搬送コンベアでは,同一ベルトでの材質の密度・断面形状は一定であり,また定速ベルト搬送時では,張力を決定するモータの駆動トルクはほぼ一定となるため,式(1)におけるS, ρを定数として考えることができる。このことから,接触を伴いベルトを支持する2つのローラー間にあるベルトでは,Kをベルト固有の定数として,ローラー間距離Lに反比例した周波数 fbeltに対応した振動成分が観測可能となると考えられる。

  
fbelt=KL(2)

本研究では,この振動成分を高速カメラにより捉え,ベルトを接触支持するローラー間距離を推定することで,支柱毎に設置されたローラーとベルトの接触状態を直接観測することなく検知する,ベルト振動に着目したコンベアモニタリングの考えを提案する。Fig.2に基本的な考えを示した図を示す。間隔Lで設置された複数ローラー支柱からなるベルトコンベアの模式図を示し,右から4番目のローラーがベルトと非接触であり,それ以外のローラーは接触した状態としたものである。近接するローラーと接触があるベルト部位で観測される振動周波数がf0 である場合,ベルト接触がないローラー付近でのベルト部位で観測される振動周波数はf0 /2として観測される。これは,前者の接触ローラー間距離がLに対し,後者における接触ローラー間距離が,ベルト接触がないローラーをスキップした形で 2Lとなり,振動周波数が半分となったことに対応する。

Fig. 2.

Vibration frequency of conveyor belt in inverse proportion to roller-to-roller distance. (Online version in color.)

本研究の以降では,Fig.3に示すような流れで,撮影された高速カメラ画像から,複数のベルト部位に対応したROI(Region of Interest)画像を選択した上で,Cannyエッジ検出器を用いて,勾配の絶対値を閾値処理することで,ベルト部分をエッジ抽出し,二値画像のモーメント計算により重心位置の垂直成分をベルト振動変位として計算し,周波数解析を行うことにより,接触ローラー間距離に対応したベルト振動周波数を検出する。重心計算により,1画素以下に対応した位置座標の小数点以下のサブピクセル値を出力可能となる。観測されるベルト振動変位には,ベルト共振に伴う振動成分以外にも,ローラー回転に伴う振動成分や支柱フレーム構造が持つ構造周波数に対応した振動が観測される場合があることを付記する。

Fig. 3.

Process Flow of HFR-video-based belt vibration measurement. (Online version in color.)

3. 1 m長ベルトコンベアを用いた動作検証

2・2で述べたベルト振動数に着目したローラー間距離推定ができることを,実験室で動作する小型ベルトコンベアに対する高速ビデオ解析により検証した。撮影対象には,コンベア長1 m(GVシリーズ,ミスミ)のタイミングベルトコンベアを用いた。幅10 mmのポリウレタン製タイミングベルトが装着され,片端にあるモータが1 m長アルミフレームで支持されたベルトを駆動するものである。ローラー間距離とベルト振動の関係を検証するために,ローラー間距離が20 cm, 30 cm, 20 cmとなるベルト部位が観測できるように,アルミフレームの下部の複数個所にベルトと接触する直径20 mmのローラーを設置した。ベルトコンベア外観およびローラー設置個所をFig.4に示す。コンベア正面140 cmの距離にカメラを設置し,ローラー間の中点に相当するFig.4の①, ②, ③の3か所について,白黒720×540画像を5秒間にわたり500 fpsで撮影した。カメラ正面のコンベア位置では,720×540画像は63×48 mm,1画素は0.087 mmである。

Fig. 4.

System setting and captured HFR images and in 1-m belt conveyor test. (Online version in color.)

ベルト搬送速度を16.5 cm/sおよび33.8 cm/sとした場合,①, ②, ③の位置におけるベルト振動変位の0.4秒間の時間変化および振幅スペクトルをFig.5に示す。いずれの搬送速度でも,全てのローラーの回転を確認した。振動変位の振幅スペクトルは,512フレーム分のデータを用いた高速フーリエ変換(FFT)により計算した。搬送速度16.5 cm/sの場合に比べ,搬送速度33.8 cm/sの場合,いずれのベルト位置でも振幅が大きくなり,またベルトのねじれ等に伴う変位のドリフトが生じている。一方で,搬送速度16.5 cm/s, 33.8 cm/sでの周波数応答では,ベルト歯形による雑音やねじれ等に伴う低周波での雑音が観測されてはいるものの,①で127 Hz, 125 Hz,②で87 Hz, 87 Hz,③で122 Hz, 125 Hzにピーク周波数が観測され,搬送速度に関わらず類似した振動成分が観測された。

Fig. 5.

Vibration displacements and their frequency responses in 1-m belt conveyor test. (Online version in color.)

ベルト張力や密度を一定と考えた場合,ローラー間距離 L=30 cmの②の位置での共振周波数87 Hzから,式(2)の定数は K=26 m/sと計算することができる。この定数を式(2)に代入した上で,実測されたベルト振動数からローラー間距離を推定すると,搬送速度16.5 cm/s, 33.8 cm/sの場合,①で20 cm, 21 cm,③で21 cm, 21 cmとなり,①や③のベルト位置での実際のローラー間距離20 cmに近い値が推定された。これらの結果から,ベルトと接触するローラーを直接観測しなくても,異なるベルト部位の振動をモニタリングすることで,ベルトとローラーの接触状態に対応したベルトを接触支持するローラー間距離を推定できることが確認された。

4. 原料搬送ベルトコンベアのモニタリング試験

4・1 実験環境および設定

国内にある製鉄所内で稼働中の原料搬送用コンベアを高解像度カメラにより高速ビデオ画像を撮影した上で,ベルト振動数に基づく接触ローラー間距離検出を複数ベルト部位で行う,ベルト振動モニタリング試験を行った。本試験は2022年10月20日に,晴れ,気温20.5°C,風速2.7 m/s(午後3時)の天候条件下で実施した。撮影したコンベアは,直径17 cmのローラーを上部に持つ支柱が0.8 m前後の間隔で複数並んでおり,厚み10 mm前後のベルトが直径17 cmのローラー上で搬送されている。上部ベルトのローラー間隔の多くはおよそ0.8 m,下部ベルトのローラー間隔はおよそ2.4 mであった。高解像度カメラには,画素サイズが3.2×3.2 µmの9344×7000画素CMOSイメージセンサを搭載した,CXP-12カメラであるOptronis社のCyclone-65-70-Mを用いた。焦点距離24 mmのレンズをカメラに装着し,コンベア正面からおよそ15 m先の三脚に設置し,20機以上のローラー支柱を含む,原料載荷状態の原料搬送コンベアを同一視野内に収める形で,白黒9344×600画像を1分間にわたり300 fpsで撮影した。カメラから15 m先では,9344×600画像は18.7×1.2 m,1画素は2.0 mmに相当する。Fig.6に原料搬送コンベアに対する撮影画像例とともに,振動解析する上部ベルト部位23か所(ROI 1~23),下部ベルト部位1か所(ROI b1)のROI領域も合わせて示す。図下の画像は,ベルト振動を検出するROI周辺の拡大画像である。ベルト振動を検出するROIは80×14画素とし,ローラー間の中点付近に設定した。なお,フェンスや看板等,ベルトに対するオクルージョンの影響を抑制するため,エッジ検出結果の一部にマスクをかけた上でベルト振動変位を計算した。

Fig. 6.

9344×600 image of a material handing conveyor for belt vibration monitoring. (Online version in color.)

4・2 原料載荷状態でのベルト振動モニタリング試験結果

Fig.6の24か所のROIに対して,原料載荷状態におけるベルト変位の1秒間および1分間の時間変化をFig.7, 8,1分間の平均振幅スペクトルをFig.9に示す。平均振幅スペクトルは,サンプル数16384のFFTで計算した振幅スペクトルを時間平均したものである。

Fig. 7.

Belt vibration displacements for 1 minute at 24 measurement points. (Online version in color.)

Fig. 8.

Belt vibration displacements for 1 second at 24 measurement points. (Online version in color.)

Fig. 9.

Frequency responses of vibration displacements at 24 measurement points. (Online version in color.)

下部ベルトに比べ,上部ベルトの多くのベルト部位での1分間の変位グラフでは,不規則な凹凸があるドリフトした波形が観測された。原料が搬送されない下部ベルトに対し,上部ベルトではベルト以外に山積みとなった原料自体が画像中に映るためと考えられ,画面右方向への原料搬送に伴い,時間差がある形でROI 1~23の全てで類似したドリフト波形が観測されたことにも対応する。上部ベルトでの1秒間の変位グラフでは,不規則な凹凸があるドリフト波形がある場合でも,全てのベルト部位で振動が観測され,例えば,カメラ正面のROI 15では,1.4画素(2.8 mm)の振幅の振動波形が確認された。ベルト部位毎に大小あるものの,ローラー回転数(8 rps)に対応した8 Hz前後の振動成分が観測されたる場合があったが,これは滑らかでないローラー面や偏心・がたつきのある回転軸等の経年劣化したローラー回転による振動が原因と考えられる。

Fig.9で示す平均振幅スペクトルでは,ドリフト波形に対応した低周波数成分が観測された一方で,上部ベルト部位の多くでは振幅強度にばらつきはあるものの,① 7.8~7.9 Hz,② 11.8~11.9 Hz,③ 15.7~15.8 Hzでピーク周波数が検出された。①,③はローラー回転数およびその2倍,②はローラー間距離0.8 mでのベルト共振数と考えられる。これらの値より大きなピーク周波数として,④ 19.6~19.8 Hz(ROI 1~3, 9~15, 17, 18, 20),⑤ 23.5~23.8 Hz(ROI 1~3, 12, 13),⑥ 27.4~27.6 Hz(ROI 1~3, 10, 11)等に観測された。このうち,②の2倍となる⑤はローラー間距離0.8mでのベルト共振における高調波成分に対応する。その他の振動成分は,ベルト搬送やローラー回転に伴う支柱フレーム構造自体の振動やベルトのねじれ振動等に起因して発生した可能性が考えられる。ローラー回転数以下のピーク周波数としては,⑦ 3.8~4.0 HzがROI 2~7, 12~18, 22, 23で観測され,これ以外に,⑧ 2,7, 4.8, 5.3. 5.8 Hzのピーク周波数がROI 5~7で観測された。下部ベルトのROI b1では,ローラー回転数に対応した7.8 Hzよりも3.9 Hzの振動成分が大きいものとして観測されたが,これは下部ベルトのローラー間隔2.4 mでのベルト共振数と考えられる。

次にローラーの回転有無を確認するために,ベルト振動解析に用いた300 fpsの9344×600入力画像に対して,画素単位での輝度信号に対するFFT計算に基づく振動イメージング処理27)を行った。ローラー回転数に対応して,輝度信号のピーク周波数が7~9 Hzとなる画素を検出した結果をFig.10に示す。ローラー毎の回転状態の確認のため,ローラー円形底面付近の検出結果を入力画像上に重畳表示したものも合わせて記載した。日射状況の違いにより検出度合にばらつきはあるが,回転があるほとんどのローラー円形底面領域で7~9 Hzのピーク周波数が検出された画素が複数確認された。なお,回転ローラー領域とともに,ローラー回転の振動が伝搬したベルトやフェンス領域でも輝度信号のピーク周波数が7~9 Hzとなる画素が観測された。その中でローラーr5ではローラー回転数に対応したピーク周波数が検出されず,動画のスローモーション再生により不転であることを目視確認した。これらの結果は,不転ローラーr5(隣接する看板・撮影機器に隠れたローラーも不転)近辺のベルト部位であるROI 4, 5では接触ローラー間距離が0.8 mの3倍となり,3.9 Hzのピーク周波数成分が観測されたことに対応する。なお不転ローラーが直接的な起因かは不明であるが,下流のベルト部位となるROI 5~7において,2.7~5.8 Hzの範囲で複数ピーク周波数が出現したことを付記する。

Fig. 10.

Peak frequency images with pixel-level vibration imaging. (Online version in color.)

上部ベルト,下部ベルトとともに,ベルト張力や密度が一定と考え,ROI 13でのベルト挙動(ローラー間距離L=0.8 m,周波数 fbelt=11.9 Hz)を基準にした場合,式(2)の定数は,K=9.52 m/sと計算される。この定数を用いて推定された接触ローラー間距離について,全てのベルト部位に対してまとめた表をTable 1に示す。ローラー回転の影響をカットした形で0.8 m 以上の接触ローラー間距離を検出するために,8 Hz周辺を除外した12 Hz以下のベルト変位の最大ピーク周波数(Fig.9の赤字で示す周波数)を列挙し,Fig.10から判断した,ベルト部位の左右ローラーの回転状態も合わせて示した。上部ベルト部位の多くでは0.8 m,下部ベルトでは2.4 mの接触ローラー間距離が推定され,実際のローラー支柱間隔と類似した値となった。その中で,上部ベルトのROI 3~5, 15~18, 23では接触ローラー間距離が2.4 m,ROI 6, 7では2.0 mと推定された。ROI 4, 5では近傍に不転ローラーがあることに対応した値が推定された一方で,これ以外のROIでは左右ローラーの回転にも関わらず,実際のローラー支柱間隔0.8 mより大きな値が推定された。

Table 1. Roller-to-roller distances estimated by belt vibration frequencies.

ROIroller statusfreq
[Hz]
estimated
roller-to-roller
distance [m]
ROIroller statusfreq
[Hz]
estimated
roller-to-roller
distance [m]
No.LRNo.LR
111.80.81311.90.8
211.80.81411.90.8
33.92.4153.82.5
43.92.4163.82.5
5×3.92.4173.82.5
64.82.0183.82.5
74.82.01911.80.8
811.80.82011.80.8
911.80.82111.80.8
1011.80.82211.80.8
1111.80.8234.02.4
1211.90.8b13.92.4

実際のローラー支柱間隔とベルト振動数から推定した接触ローラー間距離に大きな違いが生じた原因は様々なものが考えられるが,その一つとしては,ローラーがベルトと軽く接触あるいはある瞬間だけ接触し,ベルト部位の隣接ローラーがベルトを接触支持する支点として完全には機能していなかった可能性があげられる。ROI 15~18, ROI 23周辺では,Fig.10(b)のように複数ローラー支柱にわたるベルト領域に7~9 Hzのピーク周波数が観測され,ローラー回転に伴うベルト振動が支配的になる中で,ローラー間距離0.8 mに対応した11.8 Hzのベルト共振だけではなく,上記の理由から3.8~4.0 Hzの振動が発生した可能性が高い。またROI 5~7では,不完全な地盤固定等に伴う支柱フレーム構造全体の揺れに伴い,ローラー回転数以下の周波数領域において,3.8 Hz以外にもベルト共振とは関係ない複数ピーク周波数が検出されたため,接触ローラー間距離が異なる値に推定された可能性が考えられる。

これらの結果から,製鉄所内で操業中の原料搬送コンベアを遠隔撮影した高速高解像度画像に対する,複数ベルト部位の振動ピーク周波数解析により,ベルトとローラーの接触状態を直接観測することなく,ベルト部位毎に接触するローラー間距離が推定できる可能性があり,既提案の画素レベル振動イメージングによる不転ローラー検出機能の併用により,原料搬送コンベアの重大インシデントの早期発見につながる,不転ローラーでのベルト接触検知が実現可能なことが示唆された。なお,ローラー間距離に対応したベルト共振やローラー回転数に対応した振動成分以外に,これらより低い周波数の振動成分が検出されたベルト部位では,ローラー不転以外に,ローラーの不完全なベルト接触支持,支柱フレーム構造の不具合等,異なるコンベア故障要因となる事象が発生した可能性がある。このような様々な故障要因となるインシデントの詳細把握に向けて,本論文で行ったベルト振動におけるピーク周波数検出だけではなく,低周波数領域も含む振動応答プロファイルからコンベア稼働状態を推定するアルゴリズム構築が今後重要となる。

5. 結言

本論文では,ベルトとローラーの接触状態とベルト振動数の関係に着目し,ビデオ画像で撮影された複数ベルト部位でのベルト共振に対応したピーク周波数検出により,ローラーを直接観測することなく,ベルトを接触支持するローラー間距離を推定する,高速カメラを用いた広域コンベアモニタリング法を提案した。製鉄所内で稼働する原料搬送コンベアに対し,20以上のローラー支柱を含む数十m範囲を9344×600画像で300 fps撮影した広域モニタリング試験を行い,ローラー回転による8 Hz振動成分とともに,ローラー支柱間距離0.8 mに対応した12 Hzの振動成分といった,ベルト両端支持長に反比例した共振成分がベルト部位毎に計測できることを確認した。また,ローラー間距離が異なる上部ベルトと下部ベルト,ベルト接触がない不転ローラー付近のベルト部位では,ベルト振動のピーク周波数の違いがローラー間距離に直結し,画像内の複数ベルト部位の振動を同時観測することで,不転ローラーが位置特定可能できる可能性を示した。

今後は,広域コンベアモニタリングの長時間運用を可能とするために,広範囲にわたるベルトの振動分布や多数のローラー回転状態を同時に実時間検知する高速振動カメラハードウェアの開発を進めるとともに,カメラがローラー等を直接観測できない場合も含め,ベルト振動分布の周波数応答から,不転ローラー等の異常部位を瞬時検知するコンベア異常検知アルゴリズムの改良を進めていく。これらのシステム・アルゴリズム両面の改良を含め,コンベア火災などの重大インシデント発生の早期警告システムの実現に向けて,デジタルツイン化された現場データに対応した形で実装を進める予定である。

文献
 
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