Tetsu-to-Hagane
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Gas Pressure Measurement Beneath of Oxide Scale during High-temperature Oxidation of Steel
Ryoto Okumura Yuto AdachiYasumitsu Kondo
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2024 Volume 110 Issue 12 Pages 925-931

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Abstract

Blistering occurs when oxide scale swells during oxidation at steel high temperatures. Blistered scale causes surface defects when steels are rolled. An assumption has been proposed that the pressure of CO and CO2 gas generation beneath the scale causes blisters. This study the qualitative measurements of the gas pressure beneath the oxide scale were tried. A stainless tube was set in order to connect to the beneath the scale during oxidation. Positive pressures were confirmed beneath oxide scale. Also gas permeability through FeO mono-layer scale was obtained.

1. 緒論

鉄鋼製造の熱間圧延時における製品の表面疵は問題となっている。ブリスタリングの発生は表面疵の原因の中の一つとして挙げられる。ブリスタリングは,表面の酸化スケールが剥離し膨れ上がる現象であり,鋼の高温酸化時に発生する。ブリスタリングが起きた状態で圧延を行うと,製品の表面に疵が発生し,品質低下につながる1)。ブリスタリング発生機構を解明することは表面疵の問題を解決するうえで重要であり,ブリスタリングの発生挙動やスケールの密着・剝離に関する多くの先行研究がなされている。まずMatsuno2)は酸化温度と時間との関係でブリスタリングの発生がCカーブになることを示している。すなわちブリスタリングの発生は950°Cで最も発生開始時間が短く,それよりも高い場合と低い場合では発生開始時間が長くなることを報告している。Kizuら3)はブリスタリング発生開始時間に及ぼす添加元素の影響を調査している。C(炭素),Mn(マンガン),P(リン)は発生開始時間を短くし,S(硫黄)は発生時間を長くし,Si(ケイ素)は温度によって発生時間が異なることを報告している。

次に,ブリスタリングの発生機構として大きく二つの考えが提案されている。鋼の上にスケールが生成する場合,CO,CO2ガスがスケール下部に発生しブリスタリングを発生させる考えがある。Modin and Tholander4)は電解熱に対して炭素濃度の高い鋼材でブリスタリングが発生することからCO,CO2ガスの発生がブリスタリングの原因と推定している。Kondoら5)はブリスタリング内部のガス組成を調査し,CO,CO2,N2と推定される質量数を検出したことを示し,これらのガス圧力によってスケールが膨らみ,ブリスタリングが発生すると推定している。

一方,鋼の上にスケールが生成する場合,スケールに発生する圧縮応力がブリスタリングを発生させるという考えも提案されている2,3,6,7)。Griffith6)はブリスタリングに関する多くの実験結果からブリスタリング発生にスケールの成長応力と非酸化性ガスが関与していると推定している。Matsuno2)は酸化温度とブリスタリングの発生時間のCカーブがスケール密着力とスケールの成長に伴う応力との関係で説明され,スケール内の応力でブリスタリングが発生する考えを提案している。Kizuら3)はスケールの集合組織とブリスタリングの発生時間との関係からスケール内がFeOの主方位である{1 0 0}以外の方位である{1 1 0}{1 1 1}の強度の高い方位が増加するとブリスタリングの発生開始時間が短くなることからスケール内の応力がブリスタリングの発生原因と推定している。Kimら7)は炭素を添加した鋼およびC,Siを添加した鋼材を用い,ブリスタリングの発生面積を定量的に求める実験を行い,950°C以下ではスケール内の応力発生が顕著で,1100°C以上の温度域ではCO,CO2ガスの発生が顕著になると推測している。

さらに,高温状態でのブリスタリングのようなスケールの密着・剝離を理解することはスケール起因の表面疵を解決するために重要であり,高温状態でのスケールの密着力を定性的に評価・測定する手法が提案されている。スケールの密着力の定性的な評価手法として,Okada8)は分割した二つの鋼材を接近させて酸化させ,生成したスケールが一体化した後に二つの鋼材を引き離し,スケールの残存形態から,スケールの密着性を定性的に評価している。Takedaら9)はスケール内のボイドの面積割合とスケールの密着性に関係があることを示している。Krzyzanowski and Beynon10)は高温で酸化した鋼材の引張試験を行い,スケールに縦割れが発生する場合と,スケール/鋼界面でのスケールの剥離が起きる場合の遷移する温度域から鋼材に生成スケールの密着性を定性的に求めることができると推定している。これらは高温状態でのスケールの密着力を定性的に評価する方法であり,高温状態でのスケールの密着力を求める定量的な評価手法も提案されている。

これに対して,スケールの密着力を定量的な測定手法も提案されている。定量的なスケールの密着力の評価方法として,Moritaら11)は酸化前の鋼材表面にボルトを置き,酸化によりボルトがスケールに埋め込まれた後に,ボルトにつけたワイヤーを引き上げて,スケールが剥離する時の荷重からスケールの密着力を定量的に求めている。1000°C程度の高温でのスケールの密着力が0.01~0.03 MPaであることを示している。Kushidaら12)は分割した鋼材を離した状態で酸化させ,両試験片の相対する面を合わせて強く押しつけることでスケール同士を密着させ,引き離す時の荷重を測定し,900°Cで15~50 MPa程度の荷重となることを示している。さらにKondo and Tanei13)は二つの試験片のスケールを用い,強く押し当てることなく酸化により二つの試験片のスケールを密着させた後に,機械的にスケールを剝離させる時の最大荷重を測定し,スケールの密着力が1 MPa程度であることを求めている。これらの方法はボルトが埋め込める程の厚いスケールを生成する必要やスケール同士の密着が難しいなど簡易的に密着力を評価する手法ではない。

本研究では,酸化中のスケール裏面の情報を得る手法を考案し,ブリスタリングの発生原因と考えられているガス圧力を定性的に測定する方法を開発する。また,スケールの密着力を簡易的に測定出来る手法への展開も考察する。

2. 実験方法

実験にはTable 1に示す炭素鋼を用いた。表面を研削し,Fig.1に示すようにサンプルを20 mm×20 mm×3 mmに加工し,サンプルの裏面に表面からの厚さを0.1 mm残した直径3 mmの穴をあけ,ステンレス管を差し込み,かしめ加工を施し密閉した。これは酸化により残した0.1 mm厚のサンプルが全て酸化してスケールになることでステンレス管の先端がスケール裏面に到達することを狙い,スケール裏面に発生したCO, CO2ガスによる圧力上昇を圧力計で測定するためである。圧力計は測定精度0.1 kPaのものを用いた。ステンレス管内にはArガスを封入した。サンプルが加熱されるとステンレス管内の圧力は上昇するものの,酸化直前に大気圧に近づけ1.5 kPaとした。加熱炉内の雰囲気をArで昇温し,酸化直前で雰囲気を大気とすることで酸化実験を開始した。

Table 1. The chemical composition of the sample [mass%].

CSiMnPS
0.450.210.760.010.004
Fig. 1.

Schematic image of sample before oxidation and during oxidation.

本実験ではTable 2に示す二つの条件で実験を行った。実験Aは雰囲気を大気としてサンプルを975°Cの大気中で9210秒酸化させた。実験Bでは975°C一定の温度で大気中で8600秒酸化後,雰囲気をArで置換して1760秒保持した。実験A,Bの実験後のサンプルを表面からX線回折にて酸化物の組成を確認し,実験Bのサンプルの断面を光学顕微鏡を用いて観察した。同じ酸化条件で別途酸化させたサンプルを表面から走査型電子顕微鏡を用いて表面を観察した。

Table 2. The experimental conditions.

ExperimentTemperatureAtmosphere and oxidation time
A975°CAir×9210 s
B975°CAir×8600s → Ar×1760 s

3. 実験結果

3・1 実験A

実験Aの酸化中のステンレス管内の圧力変化をFig.2に示す。酸化開始から約1800秒で圧力が徐々に上昇し,その後,酸化開始時の圧力が1.5 kPaから6240秒で23 kPaまで上昇した。圧力上昇後,9000秒で約20 kPaで推移した。実験で使用したサンプルは冷却後,X線回折でサンプルの表面から測定し,Fe2O3,Fe3O4,FeOの三種類の酸化物が検出され,Fe2O3,Fe3O4,FeOの三層構造のスケールであることが確認できる(Table 3)。これによりスケール裏面にガス圧力が作用していることを確認できた。

Fig. 2.

Measured pressure in the stainless tube set beneath the oxide scale during oxidation in Experiment A.

Table 3. The results of XRD on the sample surfaces after the experiments.

ExperimentDetected species
AFe2O3, Fe3O4, FeO
BFeO

3・2 実験B

まず実験Bの酸化中のステンレス管内の圧力変化をFig.3に示す。実験Bでは1.0 kPaから酸化から8600秒で18 kPaの圧力上昇を確認後,加熱炉内の雰囲気を大気からArに1760秒置換した。圧力上昇を確認後,雰囲気を切り替える直前まで18 kPaあった圧力は,雰囲気を切り替えた直後から低下し始め,雰囲気切り替え後1760秒には2.7 kPaまで低下した。実験で使用したサンプルは冷却後,X線回折を行った結果,FeOのみが検出され,FeOの単層構造のスケールが生成したと確認できる(Table 3)。また,観察したスケールおよびサンプルの断面写真をFig.4に示す。Fig.4より,スケール裏面に配管が裏面の空間に到達していること,スケールの破断がないことが確認できる。

Fig. 3.

Measured pressure in the stainless tube set beneath the oxide scale during oxidation in Experiment B.

Fig. 4.

Cross-section of the scale and the sample after the oxidation in Experiment B.

4. 考察

4・1 スケール裏面のガス圧力

熱力学的に推定されるスケール裏面のCO,CO2のガス圧力を考察する。酸化中,Feは鋼表面から消費され,消費されたFeの中に含まれるC(炭素)はスケール/鋼界面に濃化する。濃化したCがFeOによって酸化されることでスケール/鋼界面にCO,CO2ガスが発生すると考えられる。このとき,スケール/鋼界面ではFeOとFeが局部平衡にあり,S45Cの炭素含有量0.45%Cの炭素活量を0.1514)とし,975°Cにおける酸化物生成の標準自由エネルギー変化ΔG0の値15)を用い,式(1)式(2)式(3)の平衡を考えてCO,CO2ガスの圧力を推定する。

  
2Fe+O2=2FeOΔG0=362kJ/mol15)(1)
  
2C+O2=2COΔG0=444kJ/mol15)(2)
  
C+O2=CO2ΔG0=396kJ/mol15)(3)

スケール/鋼界面でのpo2は7.06×10−16 atm=7.15×10−14 kPaであると求められ,求めたpo2からpcoは7.8 atm=790 kPa,pco2は3.9 atm=395 kPaと求められる。スケール裏面に作用するガス圧力はpco+pco2=11.7 atm=1185 kPaと推定される。推定される圧力と実測値で大きな差が生じている理由は,スケールと鋼材の界面で発生する圧力をステンレス管を通して測定しており,ステンレス管内部の体積も含まれるため,圧力が低く計測されるためと考えられる。実験結果はスケール裏面に正圧が掛かっていたことを定性的に示す結果であり,ブリスタリングの発生がガス圧力によって発生する考え16)を支持する結果である。今後はより定量的な値に近づける必要がある。

4・2 ガス透過性

スケールを通してのガス透過性を考察する。今回,実験条件Bでは雰囲気を大気からArに置換した際に急激な圧力減少を確認した。冷却後のスケールの組成は実験AではFe2O3,Fe3O4,FeO,実験BではFeOの存在を確認している(Table 3)ことから,実験Aの酸化中のスケールおよび実験Bの酸化中のスケールはFe2O3,Fe3O4,FeOの三層構造,実験Bの雰囲気置換後のスケールはFeOの単層構造であると推定できる。したがって,大気からArに雰囲気置換によりスケールの層構造は三層構造からFeO単層構造に変化したと推定できる。実験Bで雰囲気置換後に圧力が低下したことは,スケールを通してステンレス管内のCO,CO2,Arガスが透過したと考えられる(Fig.5)。このことはスケールがFeOの単層あるいはFe3O4+FeOの二層構造の場合,スケールを通してのガス透過性が高く,スケール裏面でのCO,CO2ガス発生によるスケールの剝離は起こらないのに対して,Fe2O3+Fe3O4+FeOの三層構造では,Fe2O3のスケールを通してのガス透過性が低いため,CO,CO2ガスによりスケールが剝離しやすくなり,ブリスタリングがFe2O3+Fe3O4+FeOの三層構造の場合のみで発生するという考え16)を支持するものである。Fig.6に同じ条件で別途酸化させたサンプルを表面からSEMで観察した写真を示す。鋼/スケール界面でCOが発生する場合,COガスは微小亀裂を通り抜けると考えられており17),スケールの結晶粒界,とくに粒界の三重点がガス透過経路となっていると推測されるものの,表面から観察した結果,FeOは多孔質であることを確認することはできない(Fig.6(b))。また,Fig.4より実験B後のサンプル断面にスケールの破断が見られなかったことから,測定された8600秒からの圧力低下はスケールを通してガスが透過したためと考えられる。FeOのスケールがガスを透過するメカニズムを把握することはブリスタリングの発生原因を解明することに重要であり,更なる調査が必要である。

Fig. 5.

Schematic illustration showing in gas permeability through oxide scale. (a) In the case of three-layer scale. (b) In the case of FeO mono-layer scale. (Online version in color.)

Fig. 6.

SEM images of scale surfaces which are oxidized in the same conditions. (a) Experiment A. (b) Experiment B. (Online version in color.)

本実験で圧力が低下した際のスケールのガス透過係数を圧力の時間変化から求めることができる。Fig.3の8600秒以降の圧力変化の指数関数で近似した式(4)を用いて,時間の関数となる圧力をp[Pa],減少した圧力をp0[Pa],圧力変化を近似した時の比例定数をa[s−1],aの値から気体の状態方程式を用いてサンプル近傍を除く大部分の配管内の温度は酸化温度よりも低く,常温,300 Kであると仮定すると,ガス透過係数Q[mol m m−2 s−1 Pa−1]は1.4×10−11 mol m m−2 s−1 Pa−1と求められる。

  
p=×p0×eat(4)

  • 直前の圧力p0:15.7 kPa
  • 比例定数a:0.0038 s−1
  • スケール厚d:8.0×10−5 m
  • ガスの透過面積S:7.07×10−6 m2
  • 気体定数R:0.0821 L atm K−1 mol−1
  • 配管の体積V:6.16×10−4 L
  • サンプル近傍を除く大部分の配管内の温度T:300 K

4・3 スケールを通してのガス透過性の鋼の脱炭への影響

前節で求めたスケールを通してのガス透過性の鋼の脱炭への影響を定量的に考察する。まず,(C)を含有する鋼は一般の工業炉で加熱される場合に,多孔性のスケールが生成され,スケール下部にある鋼表面が脱炭されると考えられている17)ものの,スケールのガス透過性を測定している報告例はみあたらない。鋼の強度は炭素量に依存するため,鋼の脱炭は鋼材機能に影響を及ぼすため,脱炭への理解は重要である。

次に,今回求めたスケールのガス透過性が鋼の脱炭にとって十分に透過性を有するかを考察する。今回の実験によりFeO単層状態のスケールのガス透過性が1.4×10−11 mol m m−2 s−1 Pa−1と定量的に得られている。FeO単層が生成するような酸素濃度の低い雰囲気条件では,酸化は時間に比例する直線則でスケールが成長する18,19)。鋼材の圧延前の再加熱炉のような燃焼雰囲気での酸化では酸素濃度が低くこのような条件で酸化が進行している場合も多いと考えられる。酸素濃度を1%と仮定して,Abuluwefaら19)が求めた酸化速度0.83 mg cm−2 min−1を用いて,今回使用した炭素濃度0.45%Cの鋼材を加熱した場合を考える。酸化速度から単位時間に単位面積あたり,酸化される鋼材に含まれている0.45%のCが酸化され3.7×10−7 mol cm−2 s−1のCO,CO2ガスが発生することになる。今回求めたArガスのガス透過性とCO,CO2ガスのガス透過性とが等しいと仮定すると,発生するCO,CO2ガスをスケールを透過させるのに必要な,スケール/鋼界面と雰囲気である大気圧との圧力差をスケール圧とガス透過能との関係でFig.7に示す。今回の実験でのスケール厚80 µm,ガス透過係数1.4×10−11 mol m m−2 s−1 Pa−1の場合,1.7 kPa程度の小さな圧力差で脱炭が可能となる。すなわちFeO単層のスケールは鋼の脱炭にとって非常に高いガス透過性を有していることがわかる。

Fig. 7.

Relationship between scale thickness and required gas pressure at the scale steel interface for the decarburization of steel contained 0.45%C.

一方,スケールがFe2O3,Fe3O4,FeOの三層構造の場合の脱炭挙動は,今後の調査が必要であると考えられる。今回の実験では実験Bでの雰囲気置換前には,圧力の低下は認められないことから,今回求めたガス透過性に対して,三層構造のスケールのガス透過性は二桁以上小さいガス透過性であると考えられ,脱炭が阻害され炭素が鋼表面に濃化する可能性もある。

4・4 本手法の展開

本手法の展開を考察する。スケールの密着・剝離挙動を理解し,スケールの密着力を定量的に把握することは重要で,高温状態での密着力を測定することが必要である。本手法はスケールが生成した状態で,ステンレス管内を通して裏面からArガスの圧力を負荷し,スケールが剝離する際の圧力を測定することにより,スケールの密着力を定量的かつ簡易的に測定できると考えられる。この手法の開発は今後の研究課題である。

5. 結言

鋼材サンプル裏面にステンレス管を取り付け,酸化中にステンレス管がスケール裏面に到達させる方法を開発し,スケール裏面に作用するガス圧力を定性的に測定することができた。酸化中に正圧が作用していることを確認することで,スケールを通してのガス透過性も定量的に求めることができた。本手法はスケールを通してのガス透過性やスケールの密着力などのスケール裏面の情報を把握するための手法としても期待できる。

文献
 
© 2024 The Iron and Steel Institute of Japan

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