2024 Volume 110 Issue 12 Pages 932-940
The environmental resistance of pure iron was evaluated with oxygen and hydrogen sensor installed after the oxidation furnace. The amount of introduced oxygen was precisely controlled by oxygen pump-sensor at the front stage of the oxidation furnace and the reaction with hydrogen was analyzed. As a result, when oxygen was supplied, a reaction between hydrogen and oxygen occurred, but when sufficient oxygen was not supplied, a hydrogen-vapor environment was created and oxidation was not accelerated. However, when the amount of supplied oxygen was excessive, the environment became oxygen-water vapor environment and the oxidation was accelerated. At that time, it was clarified that the oxidation by oxygen was dominant under the oxygen-water vapor environment, and the mass gain increased. In addition, the border of the region dominated by oxygen oxidation and that by steam oxidation was clarified by precisely controlling the amount of supplied oxygen by the oxygen pump-sensor.
温室効果ガス濃度の増加によって地球温暖化の深刻化が懸念されている。そして,温室効果ガスは化石燃料等を用いた際に多く排出されている。したがって,温室効果ガスの排出を止める為には,化石燃料からの脱却が必要である。そこで,再生可能エネルギー由来の水素を化石燃料に代わりエネルギー源として用いることができれば,温室効果ガスを排出せず地球温暖化を解消することができる1,2,3)。しかし,水素をエネルギー源とした際に構成部材が晒される高温雰囲気が化石燃料の場合と異なり,その場合の部材の高温酸化による劣化挙動については不明な点が多い。すなわち,燃焼ガス中には水素,酸素および水蒸気が混在する。このような種々のガスが共存し分圧が変化する環境での金属材料の劣化および高温酸化特性については,ほとんど研究例が無い。その理由は,水素と酸素を反応させた燃焼環境の実験が困難であるためである。さらに,水素および酸素ガス分圧を精密に制御した環境での,各々のガス種の反応挙動が不明である。
そこで,これまで著者らは電気化学的に酸素を精密に供給できる装置(酸素ポンプ・センサー)を開発し,電極表面での水素と酸素の反応量を制御してきた4,5,67)。そして,水素燃料とした場合の水素と酸素の反応挙動とNi基合金の酸化挙動を検討した8)。しかし,水素,酸素および水蒸気が含有される環境では水素の挙動を正確に測定する必要がある。
これまでに水素,酸素および水蒸気混合雰囲気での金属の酸化挙動については数多く報告されている9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24)が水素の挙動をその場測定した報告はない。また,水蒸気と酸素はともに酸化に関与し,類似した酸化物が生成する。したがっていずれによる酸化なのかを区別することができず,どちらの酸化種に起因する酸化がどの程度起こるのか明らかになっていない23)。
酸素雰囲気中では,式(1)によって酸化が進行する。
(1) |
この場合,雰囲気中の酸素がFeとの反応に消費されて酸素分圧は低下すると考えられる。一方,水蒸気を含む環境では(1)の反応に加え(2)の反応が起こる。
(2) |
このように水蒸気との反応によって水素が発生して雰囲気中の水素分圧は上昇すると考えられる。従って,酸化雰囲気中の酸素および水素を測定することは重要である。さらに,酸化後のガスを分析することで酸素による酸化なのか水蒸気による酸化なのか区別することができる。
本研究では,Ar-H2中において酸素供給デバイスである酸素ポンプ・センサーを用いてAr-H2中に供給する酸素量を精密に制御した。これまで水素と酸素を一つの酸素ポンプ・センサーで反応を制御してきた。しかし,一つの酸素ポンプ・センサーでは反応制御が難しいため,本研究では二つの酸素ポンプ・センサーで反応を制御した。そして,水素検出センサーおよび酸素センサーで水素と酸素の挙動をその場観察しFeの高温酸化における酸素および水蒸気の分離解析を行った。
基材試料には,Fe(99.99%)を用いた。試料寸法は2 cm2の正方形試料とした。試料表面をエメリー紙800番まで研磨し,超音波洗浄した。
Fig.1に本実験で用いた装置の概略図を示す。縦型のシリコニット電気炉内に試料を設置し,900°Cまで1時間で昇温した後,4時間保持し,その後炉令した。電気炉の前段に酸素センサーと酸素ポンプ・センサーを設置した。この酸素センサーでガスの酸素分圧を測定し,酸素ポンプ・センサーを用いて酸素を供給して水素と酸素の反応を誘発した。Ar-10%H2ガスを導入ガスとし,流速は30 mL min−1とした。イットリア安定化ジルコニア管内に電極を2か所作製した。前段の電極で酸素を供給し,キャリアガスであるAr-10%H2ガス中の水素と酸素が電極表面で反応する8)。そして後段の電極では水素と酸素の反応を確認するために起電力を測定した。本研究では酸素供給量を明らかにする目的で,定電流で実験を行った。センサー部では式(1)に示すNernstの式に従い,測定した起電力を代入することで酸素分圧(
(3) |
Oxidation experiment equipment using oxygen pump sensor and oxygen sensor.
ここで,R:気体定数(J K−1 mol−1),T:温度(K),F:ファラデー定数(A s mol−1),E:測定起電力(V),
1stと2nd stageの酸素ポンプ・センサーと3rd stageの水素検出センサーの概略図をFig.2に示す。酸素ポンプ・センサーの電解質であるイットリア安定化ジルコニア管の内側と外側に白金を塗布して,それぞれ酸素ポンプ,酸素センサーの電極とした。また,センサー温度を850°Cとした。
Schematic diagram of oxygen pump sensor for (a) oxygen supply and (b) hydrogen measurement.
酸素ポンプ部では,電解質管に取り付けた両電極間に電流を印加することで酸化物イオンを移動させることができ,式(4)に示すようにアノード側に酸素が発生する。この仕組みを利用して電解質管内に酸素を供給している。
(4) |
この酸素と雰囲気の水素がPt電極表面で電気化学反応することにより水蒸気を生成する。供給する酸素を精密にコントロールすることで雰囲気の水素と酸素の反応を制御することが可能となる。
このとき,酸素を供給する際の印加電流Iを測定し,式(5)に示すファラデーの法則に代入することで供給される酸素量Jを算出した。
(5) |
ここで,F:ファラデー定数(A s mol−1),I:印加電流(A),J:酸素ポンプにより管内に供給される酸素量(mol s−1)である。したがって,この電流値から供給酸素量を正確に制御できる。
また,3rd stageの酸素ポンプ・センサーを用いた水素検出センサーでは,センサー部分で起電力を測定し,初期の酸素分圧になるように起電力を設定する。ポンプ部に電流を流すことで,管内側で流れる水素に酸素を供給して,ポンプ部の酸素分圧を初期の酸素分圧に保つ。すなわち,ポンプ部に流れる電流が大きいということは,試料の水蒸気酸化により発生した水素量が多く,水蒸気酸化の速度が大きいことになる。
この供給された酸素量Jより水素量を求め,酸化速度を算出した。その方法は,単位時間あたりの発生ガスmol量dn/dtを算出して質量に変換し,試料表面積で割ることにより求めた。この値は,水蒸気による酸化に対応する。また,酸素による酸化は,測定前後の重量差である酸化増量から水素検出センサー(酸素ポンプ・センサー)で算出した水蒸気による酸化増量を減じて算出した。
耐環境性を評価した試料は,XRD(X-ray diffraction)を用いて生成した酸化物相の同定をおこなった。さらにFE-SEM(Field emission scanning electron microscope)およびEPMA(Electron probe micro analyzer)を用いて試料断面の観察,分析を行った。
Fig.3に1123 KでAr-1000 ppmH2ガスの起電力および酸素分圧の電流依存性を示す。起電力の結果より,5.8×10−3 A付近で急激に起電力が低下していることがわかる。起電力を式(3)のNernstの式を用いて酸素分圧に変換した。これより,電流を印加する前は低い酸素分圧を示しているが,5.8×10−3 A付近で急激に酸素分圧が上昇している。このような酸素分圧の上昇は,電流を印加して酸素をセンサー内に供給することによって,O2ガスが雰囲気のH2ガスと反応した結果,H2ガスが消費されて酸素分圧が上昇したことによる。したがって,この変曲点よりH2ガスの滴定電流が求まる。Fig.3の結果より,H2ガスの滴定電流が5.8×10−3 Aであることがわかった。したがって,5.8×10−3 Aで1000ppmあった水素が全て供給された酸素によって消費されたことになる。気体の状態方程式より気体定数0.082 atm L K−1 mol−1および流速測定温度298 Kを代入するとこの電流値から0.0011 atmになる。したがって,本結果より,酸素ポンプ・センサーより水素ガスの滴定が可能であり,そのときの電流値を測定することによって水素の定量分析が可能であることがわかった。そこで,本センサーを用いることによって,Feの水蒸気酸化によって発生する水素量を分析することにした。
Relationship between electromotive force, oxygen partial pressure and additional current (Ar-1000 ppmH2, 900°C). (Online version in color.)
Fig.4に,酸素ポンプ・センサーのポンプ部で電流を印加して酸素を供給し,その電流値を用いてファラデーの法則から算出した酸素供給量の関係を示す。算出方法については実験方法に示す。酸化実験中,一定の酸素が酸素ポンプ・センサーによって供給されていることがわかる。この供給された酸素と雰囲気中の水素が反応することで雰囲気を制御することができる。1st stageの電流値が250 mAであり,2nd stageの電流値が0 mAでは,0.014 mL s−1の酸素が管内に供給されている。そして,この供給量は,印加する電流によって上昇し,100 mAでは0.02 mL s−1の酸素を供給していることがわかる。これより,供給する酸素量を酸素ポンプ・センサーによって精密に制御できることが確認できる。
Relationship between oxygen supply amount and current. (Online version in color.)
Fig.5に印加電流を変化させた際の酸化炉後段の酸素センサーで測定した酸素分圧の結果を示す。2nd stageの酸素ポンプ・センサーに印加する電流の条件は,酸素を供給しない0 mAと酸素を供給する10 mAから80 mAとした。その際,電流を印加し15分保持した後に電流を変化させた。電流を印加しない0 mA,すなわち酸素を供給しない雰囲気では酸素分圧は10−21 atmを示した。ガスとしてAr-10%H2を用いているため還元雰囲気である。この場合,鉄の酸化物であるFeOは900°Cでは酸素分圧10−15.7 atmで生成するため鉄酸化物が生成しない環境であることが想定される25)。この環境に電流を印加して酸素を供給する,70 mAでは酸素分圧は10−16 atmとなる。すなわち,酸素供給により雰囲気の水素が反応したと考えられ水素分圧が減少した。しかし,70 mAの電流を印加すると酸素分圧は急激に上昇した。この挙動は70 mAの酸素供給量では雰囲気の水素が,すべて酸素と反応したことを意味している。そして,さらに電流を上昇させると酸素分圧は上昇した。すなわち,水素と酸素の反応よりも過剰の酸素が供給されていることになる。このような電流制御により供給酸素を精密に制御することで,酸素分圧が変化することが明らかになった。
Time dependence of current and oxygen partial pressure. (Online version in color.)
Fig.6に,0 mAから125 mAまで連続的に電流を変化させたときの酸素分圧の変化を示す。電流を印加しない状況では酸素分圧は低い値を示した。電流を印加して酸素を供給することによって徐々に酸素分圧は上昇することがわかった。2nd Stageの電流値が0 mAの時,酸素分圧が低いため雰囲気中には水素が残存していると思われる。しかし,2nd Stageの85 mAを超えると酸素分圧は急激に増加する。すなわち,この付近から雰囲気中の水素がすべて酸素と反応したと考えられる。酸化実験中,酸素分圧は減少する。これより酸化によって水蒸気と純鉄が酸化して水素が発生する。また,2nd Stageの電流値が大きいほど酸化の後半において酸素分圧が上昇する。
Time dependence of oxygen partial pressure. (Online version in color.)
Fig.7に,Feを各雰囲気条件で酸化した際の3rd Stageの電流値から算出した供給酸素量の経時変化を示す。水蒸気酸化によって水素が多く発生すると酸素供給量は大きくなる。0 mAでは,ほぼゼロの値を示した。すなわち,水蒸気による酸化によって水素が発生していないことを示す。2nd Stageの電流値が85 mAでは最も酸素供給量が増加した。これより,85 mAにおいて水蒸気酸化によって水素がもっとも発生している。そして,2nd Stageの電流値が増加すると,3rd Stageの酸素供給量が小さくなる。すなわち,2nd Stageの酸素供給量の増加にともない,水蒸気酸化によって発生する水素量が小さくなっていることがわかる。
Relationship between oxygen supply amount and time in hydrogen detection sensor. (Online version in color.)
Fig.8に,各電流値での酸化増量の変化を示す。この値は,酸化前後の試料の重量を天秤で測定することで算出した。横軸に2nd stageの酸素ポンプ・センサーで印加した電流値,縦軸に酸化増量を示している。0 mAでは酸化増量は観察されなかった。すなわち,純鉄の酸化は起こっていないことがわかる。酸素を供給しないと酸素分圧が上昇せず還元雰囲気になっているためである。そこに電流を印加して酸素を供給する。その結果,電流の印加と共に酸化増量が直線的に増加する。雰囲気中に酸素が供給され酸化が進行するためである。しかし,150 mAまでは直線的に増加するが,その後は酸化増量に大きな変化は観察されなかった。すなわち,一定量の酸素が供給されるとそれ以上の酸化は起こらないことがわかる。
Current dependence of mass gain.
Fig.9に2nd stageの電流値が85 mA,95 mA,105 mAおよび125 mAで酸化した試料の表面組織を示す。すべての試料においてファセット状の表面形態となっていた。電流が変化しても酸化物表面に大きな変化が見られないことがわかる。酸化物の成長は放物線的に増加しているのでこのような平坦な表面になったと考えられる。
Surface structure of sample after oxidation.
Fig.10に2nd stageの電流値が85 mA,95 mA,105 mAおよび125 mAで酸化した試料の断面組織を示す。すべての試料において鉄酸化物が生成していた。FeO,Fe3O4が生成し,最表面に薄いFe2O3が生成していた。また,FeOが厚く生成していた。すなわち,加速的な酸化が起こっている。雰囲気中の酸素量の影響については観察されなかった。このように,水蒸気と酸素を含む環境において酸化物の生成から,その挙動を明らかにすることはできなかった。
Cross-sectional structure of sample after oxidation. (Online version in color.)
Fig.11に,2段目の酸素ポンプ・センサーの電流値が85 mAおよび95 mAのときの水蒸気による酸化速度および酸化増量の時間依存性を示す。青線が酸化速度を示し,赤線が酸化速度を積分して算出した酸化増量を示している。酸化速度の算出方法については実験方法に示している。85 mAおよび95 mAともに酸化の初期に大きな酸化速度を示し,時間の経過とともに酸化速度は減少している。このようにガス分析法を用いるとin-situで酸化速度を測定することができる。また,85 mAの方が各時間における酸化速度は大きな値を示している。したがって,供給酸素量が少ない方が水蒸気酸化による水素発生が多いことになる。また,酸化速度を積分して算出した酸化増量は,85 mAでは18.26 mg cm−2であるのに対し,Fig.8の天秤で測定した酸化増量は,20.9 mg cm−2であった。この差が酸素による酸化に対応する。したがって,2.64 mg cm−2が酸素による酸化である。一方,95 mAでは,水蒸気による酸化増量が14.0 mg cm−2であるのに対し,天秤で測定した全酸化増量は26.85 mg cm−2である。この差は12.85 mg cm−2であり,85 mAのときよりも酸素による酸化の量が大きくなっている。すなわち,酸素供給量が多くなることによって水蒸気による酸化が抑制されていることになる。
Time dependence of oxidation rate and mass gain when second stage current value is 85 and 95 mA. (Online version in color.)
Fig.12に,2段目の酸素ポンプ・センサーの電流値が105 mAおよび125 mAのときの水蒸気による酸化速度および酸化増量の時間依存性を示す。105 mAと125 mAともに酸化初期に酸化速度は最大値を示し,時間の経過とともに酸化速度は減少した。900°C一定の時間では125 mAの方が低い酸化速度を示し,それに対応して,125 mAの方が酸化増量は小さくなった。この場合,酸化速度を積分して算出した酸化増量は,105 mAでは11.25 mg cm−2であり,125 mAでは7.94 mg cm−2であった。水蒸気による酸化は,印加する電流を大きくして酸素供給量を増加させると抑制される。そして,Fig.8の天秤で測定した全酸化増量では,105 mAが29.80 mg cm−2であり,125 mAでは32.45 mg cm−2であった。この値から水蒸気による酸化の割合を算出すると,105 mAでは38%,125 mAでは24%となった。すなわち,印加電流の増加により,酸素による酸化が支配的になる。このように,酸素供給量を増加させると水蒸気を含有する雰囲気であっても,酸素が過剰に存在する環境では,水蒸気による酸化が起こらない可能性がある。
Time dependence of oxidation rate and mass gain when second stage current value is 105 and 125 mA. (Online version in color.)
本手法を用いることで酸素による酸化と水蒸気による酸化を定量的に区別することができることが明らかになった。各種金属材料の水蒸気酸化における酸素の影響について本手法を応用できる。
(1)酸素ポンプ・センサーを用いて供給する酸素量を正確に制御した。その結果,1st Stageで酸素を250 mAで供給して,2nd Stageが80 mAで酸素を供給すると完全に水素は酸素と反応した。
(2)酸素を供給させて水素と酸素の反応挙動を酸素センサーによって調査した結果,2nd Stageが80 mAでは酸素分圧は10−2.5 atmとなった。
(3)雰囲気の酸素供給量を変化させて酸化実験を行った結果,酸素供給量が少ない場合は,酸素分圧は大きな変化を示さなかった。しかし,酸素供給量が多くなると酸素分圧は大きく変化した。
(4)酸素ポンプ・センサーを用いて水蒸気による酸化と酸素による酸化を区別して解析した結果,酸素供給量が多い環境では酸素による酸化が支配的であることがわかった。
(5)酸素ポンプ・センサーにおける電流値と酸素分圧の結果から,水素と酸素の反応に必要な酸素供給量を明らかにすることができた。