Tetsu-to-Hagane
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Characterization of Anisotropic Properties of Functional Iron Alloy Sheets
Masahito Watanabe Kiyoshi UrakawaYoshio IshigakiTaisuke FuruseMotohiro KasuyaShigeo SatoShigeru Suzuki
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2024 Volume 110 Issue 12 Pages 941-947

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Abstract

To understand the anisotropy of properties in FeCo-V alloy sheets, the Young's modulus, texture, and residual stress of samples of different treatments were investigated using the X-ray diffraction method. In the cold-rolled alloy sheets, the anisotropy of Young's modulus in different directions within the sheet plane was similar to that of the annealed samples at 600 °C, although there was some variation. The anisotropy of the Young's modulus was different from that of the cold-rolled and annealed samples at low temperatures. According to the results of texture measurements on alloy sheets subjected to each treatment, the direction of the lower Young's modulus almost corresponds to a specific texture component, suggesting that the texture component affects the anisotropy of the Young's modulus. X-ray diffraction rings from alloy sheets are used in the residual stress measurement, which may contain information on the process of alloy sheets and changes in the texture due to heat treatment. Residual stress shows anisotropy within the surface of cold-rolled alloy sheets, indicating high compressive residual stress in the rolling direction and in the transverse direction. In general, lower residual stress in the sheets annealed at 600 °C may be related to dislocation rearrangement in the alloys. Furthermore, in the samples annealed at 850 °C, recrystallization and related phenomena are reflected in the deviation from the plot for residual stress, which may also affect the texture.

1. 緒言

Fe-Co系合金は高い飽和磁化などの特性を有することから,機能性合金として広く応用が期待されている。特に,モル組成が同程度のFe-Co合金は高い飽和磁化と高い透磁率を持つことが知られている1,2)。一方で,室温付近でB2秩序構造を持つという特徴があり3,4,5,6,7),室温付近では脆い傾向がある。対して,Co過剰のFe-Co合金は比較的延性があり,室温で加工することができ,高い磁歪定数を持つことから磁歪材料として使用される。これらの多結晶Fe-Co系合金の線材や板材の物理的特性は十分には理解されていないものの,磁歪式振動発電8,9)などに用いられる複合材料の構成要素となることが期待される10,11)。これらのFe-Co系合金に少し合金元素を添加した成分系の板においても,異方的な物性を示すことが多く,それらの物性と組織の関係に興味が持たれている12,13)

飽和磁化が大きいFe-Co系合金は,小型の高性能モーター鉄心への応用などが期待されており,特に工業的に実績のある体心立方(bcc)構造のFeCo-Vをベースにした合金の利用が有望である。しかし,モーター鉄心用の合金板として性能を引き出すには,磁気的性質などの物性と微細組織や集合組織との間の関係について解明し,その情報をプロセス設計等に活かす必要がある。最近では,X線装置の小型化などによりオンサイトの残留応力測定が可能になっており,その測定結果と微細組織や集合組織との対応を検討することも重要である。一般に,bcc構造の鉄合金板の物性には面内方向の依存性があり,特にYoung率などの弾性定数に異方性がある(Fig.1参照)。これらの特性の異方性は,板状試料の集合組織や不均一な微細組織などと密接に関係していると考えられる。

Fig. 1.

Anisotropic Young’s Modulus of bcc Fe.

以上のような背景から,本研究では,代表的なbcc構造のFeCo-V合金のYoung率,集合組織,板材の残留応力などを調べ,それらの特性の発現機構について考察することを目的とした。評価手法としてオンサイト分析の一つである残留応力の測定を行い,その結果と集合組織との対応について検討した。残留応力は,外力がないときの転位などの周囲の弾性ひずみと釣り合う内部応力と見なすことができ,測定においては合金板に導入される転位,焼鈍に伴う転位の再配列などに考慮し,熱処理による物性や組織の変化に着目した研究を行った。

2. 実験方法

2・1 試料

出発素材は,工業的に作製した厚さ約1.0 mmのFeCo-V合金(Fe 49at%,Co 49at%,V 2at%)の冷間圧延板である。出発素材に対し,冷間圧延したまま(as-cold rolled),および600°Cで2 h焼鈍,850°Cで2 h焼鈍したもの,計3水準の試料を準備した。これらの試料から,Young率,集合組織,残留応力の測定用にそれぞれ試験片を切り出した。

Young率測定用の試験片は,圧延方向に対して0°方向(RD),および45°方向(45 deg)または90°方向(TD)が長手になるよう,50 mm×4 mm×1 mmの寸法で切り出した。

X線回折による集合組織評価(極点測定)用の試験片は,15 mm×20 mmの寸法で切り出した。また,残留応力測定用の試験片は,10 mm×15 mmの寸法で切出した。

2・2 測定方法

Young率測定は前述の板状試験片を用いて,室温において行った。測定装置は日本テクノプラス(株)のJE-RTを用いた。周波数を変化させながら試料に振動を与え,試料が共振を起こす共振周波数と試料形状からYoung率を見積もった。

合金板の集合組織は室温においてX線源にCu-Kαを用いたPANalytical(X`Pert)による測定結果から評価した。X線回折強度の校正は,セルロース系接着剤を用いた試料ホルダーに付着させた鉄粉試料によるデフォーカス曲線を用いて行った。

残留応力測定にはオンサイト測定が可能なcos α法14)を用い,測定装置はPulstec工業(株)のµ-X360s(線源:Cr Kα)を用いた。回折プロファイルとして回折ピークの角度(156.4°)付近の強度を測定した。cos α法は,単一斜入射X線を用いて2次元検出器(イメージングプレート, IP)で取得したDebye-Scherrerリングの全周の情報を使用して応力を決定する手法である。Fig.2はその測定原理を示しており,回折X線を露光するIPにおけるDebye-Scherrerリングと,試料座標におけるひずみとの関係性などを示している。Debye-Scherrerリング上の方位角αに対する4方向の垂直ひずみ(εα, επ+α, ε−α, επ−α)からなるパラメータと,cos αとの直線関係式の傾きから,残留応力を見積もることができる14)。なお,この関係は微細組織や集合組織の影響をうけて直線性からずれが見られることがあり,それらの情報から熱処理等による組織変化に関して推測することも可能である。

Fig. 2.

Debye-Scherrer ring recorded on a two-dimensional detector by exposure of X-rays.

3. 実験結果と考察

3・1 Young率測定

Young率は,合金板の面方向の異方性を調べるため,圧延方向に対して0°方向(RD),45°方向(45 deg),90°方向(TD)の3方向に対して測定した。Fig.3は,冷間圧延したままの試料(as-cold rolled)についての測定結果であり,試料の振動の振幅を周波数の関数として示している。試料RD, 45 deg, TDは,同様の寸法と形状を有しているにもかかわらず,異なる共振ピーク位置(共振周波数)を示しており,薄板試料に弾性率の異方性があることを示唆している。共振ピークの強度は測定時のアクチュエータやセンサなどの条件に依存するが,Young率は共振周波数と試料の形状・質量から推定され,as-cold rolled試料の圧延方向に対して,0°方向(RD),45°方向(45 deg),90°方向(TD)のYoung率は,それぞれ222±5 GPa,197±5 GPa,240±5 GPaと見積もられた。さらに,600°Cまたは850°Cで焼鈍した試料のYoung率はTable 1に示す通りである。600°Cで焼鈍した試料における面内の異なる方向でのYoung率の異方性は,as-cold rolled試料でのYoung率の異方性とほぼ同様であったが,多少のばらつきが観測された。850°Cで焼鈍した試料のYoung率は全般的に低下し,Young率の異方性はas-cold rolled試料や600°Cで焼鈍した試料の異方性とは異なる傾向が見られた。このようなYoung率の異方性は,熱処理による合金板の集合組織の変化と関係している可能性がある。

Fig. 3.

Amplitudes of vibration of Samples 0°, 45°, and 90° versus frequency. The Young’s modulus is estimated from the resonance frequency and the shape and mass data of these samples.

Table 1. Young's modulus in 0° (RD), 45° and 90° (TD) direction for three samples (±5 GPa).

GPaRD45 degTD
as-cold rolled222197240
600°C annealed233200254
850°C annealed176182200

3・2 集合組織の測定結果

X線回折による極点測定を行い,{110},{100}および{111}の極点図から集合組織を評価した。各方向に集積した指数を評価することにより,多結晶としてのYoung率の面内異方性に及ぼす集合組織の影響を検討する。Fig.4(a),(b),(c)は,それぞれ冷間圧延したままの試料のFeCo-V合金板(bcc構造)からの{110},{100}および{111}の極点図を示している。{110}極点図でRDに平行な{110}集合組織成分は,主に薄鋼板に見られるRDに平行に形成されたα-fiberの一部に対応している。Fig.1に示すように,一般にbcc構造のFe基合金の<100>方位ではYoung率は低く,<110>や<111>方位でYoung率が高い。Fig.4(b)ではRDから45°方向で{100}集合組織成分が高く,その方向のYoung率が低いことが予想される。実際に,Fig.3に示すようにRDから45°方向でYoung率が低く,Young率と集合組織とがおおよそ対応している。

Fig. 4.

(a) {110}, (b) {100}, and (c) {111} pole figures of the as-cold rolled FeCo-V alloy sheets. The pole figures were estimated from the orientation distribution function of the XRD data.

さらに,Fig.5(a),(b),(c)は,それぞれ600°Cで焼鈍したFeCo-V合金板からの{110},{100}および{111}の極点図を示している。RDに平行な{110}集合組織成分は高く,RDから45°方向で{100}集合組織成分が高い。この集合組織の変化は,Table 1に示すように,RDから45°方向でYoung率が低いことと対応しており,集合組織の変化は弾性率の変化と関係していると思われる。さらに高温の850°Cでの熱処理を施した試料の{110},{100}および{111}の極点図を,それぞれFig.6(a),(b),(c)に示す。RDに平行な,Young率が高い{110}集合組織成分が低下しており,RDから45°方向では,Young率が低い{100}集合組織成分が低くなっている。このような高温での焼鈍による集合組織の変化は,Table 1に示すようなYoung率の特性変化にも見られ,弾性率の異方性が小さくなる傾向が見られる。

Fig. 5.

(a) {110}, (b) {100}, and (c) {111} pole figures of the FeCo-V alloy sheets annealed at 600 °C. The pole figures were estimated from the orientation distribution function of the XRD data.

Fig. 6.

(a) {110}, (b) {100}, and (c) {111} pole figures of the FeCo-V alloy sheets annealed at 850 °C. The pole figures were estimated from the orientation distribution function of the XRD data.

今回評価した集合組織については,X線の照射範囲内に限定された情報であり,測定場所によるばらつきは考慮できていないことに注意が必要である。工業的に製造した合金板全体の集合組織や,局所的な集合組織,弾性率との関係性の評価については今後の課題であると考える。

3・3 残留応力の測定結果

冷間圧延は,板面に垂直な圧縮変形と圧延方向への引張変形の組合せであり,圧延板の断面内では圧延方向(RD)とこれに垂直な板幅方向(TD)に残留応力が生じる。これらの板全体に生じる残留応力を評価するため,cos α法を用いて測定を試みた。残留応力は通常は10~200 MPa程度であるが,塑性ひずみが集中した周辺では200 MPaを超えることもある14,15)。このような残留応力は磁区構造にも影響を及ぼし,磁性材料の特性も変化すると推測される16,17,18,19,20,21)。また,それらの磁区構造によるエネルギーの違いを計算する研究も行われ,格子欠陥は磁化過程に影響すると考えられている19,20)

熱処理による組織変化に関わる情報としてcos α法で得られるDebye-Scherrerリング(回折リング)があり,それらを比較することも重要である。Fig.7(a),(b),(c)は,冷間圧延したままの試料,600°Cで焼鈍した試料,850°Cで焼鈍した試料に対する回折リング(斜視図)を示している。RDは圧延方向であり,冷間圧延したままの合金板および600°Cで焼鈍した合金板の板幅方向(TD)において,X線回折強度が高い傾向がある。これは,集合組織において圧延により生じるα-fiberの<110>方位成分に対して直角方向の112回折が高いことが寄与していることに対応している。また,850°Cで焼鈍した合金板からのX線回折強度は,円周方向に不連続性が見られており,金属組織が大きく変化していることが示唆されている。

Fig. 7.

Debye-Scherrer rings obtained by the cos α method (oblique view) for samples (a) as-cold rolled, (b) annealed at 600°C, and (c) annealed at 850°C.

さらに,回折リングの偏差から,cos α法を用いて残留応力を見積もることができる。Fig.2において,方位角αでのひずみ(リングからのずれ)をεαとし,(εα−επ+α)と(ε−α−επ−α)との平均値をεα1とし,ηやψ0の値,Young率E,Poison比νを用いると,試料のRDに相当するx方向の残留応力σxは次式のように表される14)

  
σx=E1+v1sin2ηsin2ψ0εα1cosα(1)

この関係から,各方位角αでのεα1をcos αに対しプロットすると,その傾きから残留応力が求められる。その結果,冷間圧延したままの試料での残留応力は,−177±17 MPa(圧縮応力はマイナスの符号),600°Cで焼鈍した試料で−49±15 MPa,850°Cで焼鈍した試料では−26±155 MPaであった。600°Cで焼鈍した試料では,冷間圧延したままの試料対比で残留応力が小さくなっている。Table1およびFig.4, 5に示すように,両者のYoung率の異方性と集合組織は同様の傾向を示している。したがって,600°Cでの焼鈍では,再結晶などの大きな組織変化は生じておらず,僅かな転位の移動や再配列によって内部応力が緩和され,残留応力の減少が生じたと推察する。一方,850°Cで焼鈍した試料について算出された残留応力は,標準偏差が155 MPaと大きく,これはεα1のcos αに対するプロットの直線性からのずれが大きいことを示している。これは,Fig.7(c)に示すような回折リングの円周方向での強度のばらつき,Fig.6に示すような集合組織での変化に対応していると考えられる。すなわち,合金の再結晶などが起こると,試料内部の集合組織も変化し,それらの組織変化がYoung率を用いて算出される残留応力の測定結果に反映されていると考えられる。

最後に,各処理を施した合金の残留応力における主応力のおおよその傾向を,Fig.8に示した。冷間圧延したままの合金板では,圧延方向(RD)に大きな圧縮の残留応力が発生しており,板幅方向(TD)でもある程度大きな圧縮方向が見られる。これは冷間圧延で生成した転位が室温付近では保持されているものの,圧延後の内部応力として圧縮の内部応力が残っているためと考えられる22)。600°Cで焼鈍した試料では,僅かな転位の再配列等が起こり,それにより残留応力がかなり解放されたが,僅かな圧縮応力が残っていると思われる。さらに,850°Cで焼鈍した試料では,板幅方向に引張りの残留応力が発生するが,これらの残留応力の変化には集合組織の変化や再結晶などの発生が関係していると考えられる。なお,今回の残留応力測定法では,回折面法線が板面法線に近い都合上,主成分方位{100}<110>やγ-fiber {111}<uvw>の結晶粒に生じている内部応力は観測できていないことには注意が必要である。

Fig. 8.

Elliptical representation of principal residual stresses for samples that are (a) as-cold rolled, (b) annealed at 600 °C, and (c) annealed at 850 °C. x and y directions denote TD and RD, respectively. (Online version in color.)

4. 結言

飽和磁化の大きいFeCo-V合金板において,プロセスで生じる特性の異方性を理解するために,冷間圧延したまま,600°Cおよび850°Cで焼鈍した試料のYoung率,集合組織,残留応力を調べた。それらの主な結果は,次の通りである。

(1)冷間圧延したままの合金板では,板面内のYoung率の異方性は,600°Cで焼鈍した試料でのYoung率の異方性とほぼ同様であったが,多少のばらつきがあった。しかし,850°Cで焼鈍した試料では,全般的にYoung率が低下し,Young率の異方性は圧延したままの試料や600°Cで焼鈍した試料の異方性とは異なっていた。

(2)各処理を施した合金板における集合組織の測定結果から,Young率が低い方向は{100}集合組織成分とほぼ対応している。このため,Young率の異方性には集合組織成分が影響していると考えられる。

(3)残留応力測定では合金板からのX線回折リングが用いられるが,それには合金板のプロセスや熱処理による集合組織の変化等に関する情報が含まれる可能性があると考えられる。

(4)残留応力は板面内で異方性を示し,冷間圧延したままの合金板では圧延方向や板幅方向で圧縮の残留応力が大きい。600°Cで焼鈍した板では全般的に残留応力が低下し,それには転位の再配列などが関係していると思われる。さらに,850°Cで焼鈍した試料では再結晶などが生じ,その状況が残留応力を求めるεα1のcos αに対するプロットの直線性からのずれに反映され,集合組織にも影響していると考えられる。

謝辞

本研究の一部は,科学研究費補助金(22K04733),東北大学電気通信研究所の共同プロジェクト研究,日本鉄鋼協会鉄鋼振興助成(第31回),科学技術振興機構の研究成果最適展開支援プログラム,宮城県産業技術総合センターなどの支援により行われたものである。本研究の実施や議論において多大なご協力を頂いた東北大学マイクロシステム融合研究開発センター 田中俊一郎名誉教授,東北大学電気通信研究所 石山和志教授,東北学院大学 枦修一郎教授,東北大学電気通信研究所 丹野健徳技術専門職員,東北大学多元物質科学研究所 千葉雅樹技術職員などの皆様に篤くお礼申し上げます。

文献
 
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