Tetsu-to-Hagane
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Development of Low Carbon Blast Furnace Operation Technology by using Experimental Blast Furnace
Kaoru Nakano Hiroshi SakaiYutaka UjisawaKazumoto KakiuchiKoki NishiokaKohei SunaharaYoshinori MatsukuraHirokazu Yokoyama
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2024 Volume 110 Issue 13 Pages 989-998

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Abstract

CO2 Ultimate Reduction System for Cool Earth 50 (COURSE50) successfully carried out operational trials with an experimental blast furnace in which the effect of the reaction-control by COG (Coke Oven Gas) injection, top gas recycling, and use of high reducibility sinter on the carbon rate were determined. The conditions of the operational trials were designed by applying the mathematical blast furnace model that was developed. The results obtained in the operational trials indicate that the proportion of carbon direct reduction can be decreased while maintaining that of CO reduction, by the reaction-control by COG injection, top gas recycling, and use of high reducibility sinter. A reduction in the carbon rate of approximately 10% was achieved as predicted by the mathematical blast furnace model.

1. 緒言

鉄鋼業はCO2排出量の多い産業分野の一つであり,製鋼プロセスには,2つの異なる主要プロセスルート,すなわち,高炉―転炉(BF-BOF)ルートと電炉(EAF)ルートがある。2016年の世界のBF-BOFルートからの粗鋼生産量は74%1)を占める。BF-BOFルートの粗鋼生産1トンあたり,1.8–2.0トンのCO2を排出するが,これはEAFルートから排出されるCO2の約3倍1)に相当する。このことは,EAFルートによる製鋼プロセスは酸化鉄の還元エネルギーを必要としないためであるが,現時点では,原料となるスクラップは世界の鉄鋼需要を満たすだけの十分な量を確保できないこと,トランプ元素を含むスクラップからの高級鋼製造が困難であることから,高炉プロセスにおける低炭素化技術の確立が急務である。

高炉プロセスからのCO2排出を低減する技術を開発するために,これまでに多くのプロジェクトや研究が行われてきた2,3,4,5,6,7,8,9,10,11)。日本では,2008 年から新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による国家プロジェクト「Ultimate Reduction System for Cool Earth 50(COURSE502,3))」において開発が進められてきた。COURSE50プロジェクトでは,高炉のインプット炭素を約10%削減し,約20%分の高炉ガス(BFG)中のCO2の分離回収と合わせて製鉄所のCO2排出量を30%削減することを目標として,高炉の低炭素化に向けて試験高炉を用いた実証試験を実施してきた。

試験高炉を用いた原料評価やプロセス評価については,これまで,U.S. Bureau of Mines12),東京大学13),NKK14,15),住友金属16,17,18,19,20),LKAB21,22)等で多くの研究が行われている。欧州で実施されたULCOS(Ultra Low CO2 Steelmaking)プロジェクトでは,酸素高炉をベースに炉頂ガスから脱CO2したガスをリサイクルするプロセス(TGRBF)が提案され,LKABの試験高炉を使用したいくつかの試験4,5,6)が実施されている。ULCOS プロジェクトで提案されているように,炉頂ガス中の未反応 COとH2を循環利用することは高炉の低炭素化に有効であると考えられる。しかしながら,炉頂ガスから脱CO2したガスを循環利用することによる高炉低炭素化に及ぼす影響の技術的詳細は開示されておらず,不明点も多くあった。

高炉プロセスにおける炭素の消費形態は,熱収支の視点から3つの反応に分類することができる。すなわち,①レースウェイでの炭素の燃焼,②酸化鉄,および,その他脈石成分の炭素による直接還元,③溶銑への浸炭,である。ここで,①のレースウェイでの炭素の燃焼反応は,還元ガスとしてのCOガスを炉内に供給するだけでなく,高炉プロセスの熱供給を担っている。また,②の炭素による直接還元には,溶融還元に加え,COまたはH2による酸化鉄の還元で生成するCO2またはH2Oと炭素のガス化反応が含まれる。酸化鉄の還元に必要な熱量は,還元反応,すなわち,CO還元,水素還元,および,直接還元の割合に依存する。このうち,水素還元,および,直接還元は吸熱反応であり,特に,直接還元には膨大な量の熱が必要であるが,高炉操業においては,これらの反応量に応じてレースウェイでの炭素の燃焼量が調整される。したがって,高炉プロセスで鉄鉱石を還元するために必要な熱量を削減するには,直接還元量を減少させ,間接還元(CO還元,または,水素還元)に置き換えることが有効と考えられる。Fig.1に COURSE50高炉における低炭素化の概念を示す。現在の高炉操業では,CO還元,水素還元,直接還元の反応割合は,それぞれ,約60%,10%,30%1)であるが,水素還元率は10%程度と比較的低いため,水素還元を更に促進することにより,直接還元量を減少させ,高炉プロセスにおける炭素原単位を低減させることができると期待される。

Fig. 1.

Concept of Reaction-Control in COURSE50 Blast Furnace.

Watakabeら23)は,COURSE50プロジェクトにおいて,LKABの試験高炉を用いた水素系ガス吹き込み試験を実施し,COG(コークス炉ガス)や改質COGを想定した合成ガス吹き込みにより,水素還元率が増加し,直接還元率が減少するとともに,炭素原単位が減少することを報告している。他方,水素系ガス吹き込みにより,CO還元率の低下も示唆されていた。また,シャフト羽口からの改質COG吹き込みは通常羽口からのCOG吹き込みに比べて,径方向へのガスの浸透深さが低下し,H2ガス利用率の低下も指摘されていた。

上記結果を踏まえると,水素系ガスはシャフト羽口よりも通常羽口からの吹き込みが適切であると考えられた。また,炉頂ガス循環は,炉頂ガス中に含まれる還元に寄与しなかったCO, H2ガスを還元に再利用できることから,上述した水素系ガス吹き込み時のCO還元率の低下を抑制し,直接還元率の更なる減少を促進できるものと期待できる。また,高被還元性の焼結鉱を使用することも水素系ガス吹き込み時のCO還元率の低下を抑制し,直接還元率の更なる減少を促進できるものと期待できる。

そこで,COURSE50プロジェクトでは,高炉での約10%削減の低炭素化を目標として,COG吹き込み,炉頂ガス循環,高被還元性焼結鉱使用による反応制御の炭素原単位削減に及ぼす影響を試験高炉を用いた実証試験により定量評価した。本論文では,上記実証試験で得られた定量評価結果を報告する。

2. 実験

2・1 試験高炉設備概要

東日本製鉄所君津地区内に建設された炉容積12 m3の試験高炉を用いて上述した反応制御による炭素削減効果を検証した。Fig.2に試験高炉の模式図,Table 1に主要設備仕様を示す。炉床径1.2 m,羽口から装入物のストックレベルまでの高さは6.5 mであり,出銑口1本,羽口3本,羽口より1700 mm上方に設置されたシャフト羽口3本を装備している。炉内のガス・装入物のサンプリングプローブとして,高さ方向3つのレベル(羽口上 2059 mm,3902 mm,および,5503 mm)に水平ゾンデが装備されており,操業中に炉内に挿入して,水平方向の温度・ガス組成の計測と原料をサンプリングする機能を備えている。

Fig. 2.

Configuration of the experimental blast furnace.

Table 1. Basic specifications of the experimental blast furnace.

ItemsSpecifications
Inner volume12 m3
Throat diameter1.00 m
Height (from tuyere to SL)6.50 m
Hearth diameter1.25 m
Number of tuyeres3
Number of shaft tuyeres3
Number of tap-hole1
Top charging deviceRotating chute type

試験高炉とその周辺設備をFig.3に示す。実高炉と同様に熱風炉により酸素富化した約1000°Cの熱風が試験高炉に供給される。微粉炭は,羽口毎に供給タンクを装備しており,定量切出装置を介して羽口から吹き込まれる。COGは製鉄所内のユーティリティを利用し,羽口から吹き込まれる。また,炉頂ガス循環操作時は,試験高炉の炉頂ガスを30 t/d 仕様のCO2分離設備(CAT3024))に送り,CO2と水分を除去した後のガス(以下,RGと記載)を電気ヒーターで約 800°Cまで加熱し,シャフト羽口から吹き込む。

Fig. 3.

Experimental blast furnace and peripheral facilities.

2・2 反応制御のための操業操作

試験高炉においてCOG吹き込み,炉頂ガス循環,高被還元性焼結鉱使用による反応制御の炭素原単位削減に及ぼす影響を評価すべく実施した試験水準をFig.4に示す。Base operationは基準となる現状高炉の微粉炭吹き込み操業である。Operation AはCOGを羽口から吹き込む操業である。Operation B,Cは,羽口からCOGを吹き込み,シャフト羽口からRGを吹き込む操業である。Operation Cでは,Operation Bの条件に対して,さらに高被還元性(高JIS-RI)焼結鉱の使用を想定した。各操業において,Table 2に示すように,微粉炭吹込み量,COG吹込み量,RG吹込み量を設定し,溶銑温度が1450°Cとなるようにコークス比を調整した。

Fig. 4.

Schematic diagram of operation methods of the reaction-control.

Table 2. Basic conditions planned in each operation.

OperationBaseABC
PC ratekg/tHM146146146146
COG rateNm3/tHM0959595
RG rateNm3/tHM00300300
JIS-RI (Sinter)%64646472
Sinter ratio%75757575
Lump ore ratio%25252525

これら各操業条件において高炉数学モデル25)により試算された炭素原単位の削減割合をFig.5に示す。Operation A,B,Cの順に炭素原単位の削減割合は増加し,Operation Cにより,炭素原単位約10%の低減が可能であると推定された。そこで,試験高炉操業において,Base operationとOperation A, B, Cの3水準の試験を実施し,それぞれの水準での炭素原単位削減効果の検証をすることとした。

Fig. 5.

Decrease in carbon rate predicted by the mathematical blast furnace model.

2・3 試験高炉の操業方法

試験高炉の操業は1キャンペーン約30日で計4キャンペーンを実施した。各キャンペーンにおいて,Fig.4に示したBase operationと3水準の何れかの試験操業を実施し,それぞれの炭素原単位の削減割合を比較するとともに再現性を確認した。

試験操業に用いたコークスの粒径は15–25 mmであり,焼結鉱と塊鉱石の粒径はともに,10–25 mmのものを使用した。焼結鉱の被還元性については,Base operation,Operation A, BでJIS-RIが64%に対して,Operation CではJIS-RIが72%のものを使用した。

火入れ立ち上げ後は,炉底耐火物温度を含め諸元がほぼ定常状態に達するまで10日を間要した。ほぼ定常状態に到達後,Base operationを約4日間継続し,物質収支を定量評価するとともに上述の水平ゾンデを用いて炉内の温度およびガス組成の測定を行った。測定終了後,次に計画された水準に向けて操業諸元を切り替え,約2日間の移行期間で溶銑温度,荷下がりを安定させた後,物質収支を定量評価するとともに炉内の温度およびガス組成の測定を行い,さらに次の水準へ移行するという操業を繰り返した。溶銑温度と溶銑・スラグの成分はタップ毎に測定した。

全ての試験水準を終了後,炉内を直ちにN2に置換して冷却した。炉内温度が100°C未満になってからはN2をAirに切り替え,N2置換後から約2週間冷却した。冷却後に炉内の内容物の解体調査を実施し,装入物の層構造の状態を記録するとともに炉内の内容物を回収し,鉱石の還元率等を分析した。

3. 試験結果と考察

上述した反応制御によるOperation A,B,Cの炭素原単位の削減に及ぼす影響を実証すべく,計4回のキャンペーンを実施した。キャンペーンでの操業の一例として,第4回試験操業の操業推移をFig.6に示す。試験高炉操業では出銑量,送風諸元一定条件の下で溶銑温度が1450°Cとなるようにコークス比を調整した。期間中送風量や出銑量の急激な変化は発生しておらず,操業は計画通り非常に安定していたことが分かる。他の3回のキャンペーンでの操業も同様に安定した操業を実施し,再現性は良好と判断された。

Fig. 6.

Example of transition of experimental blast furnace operation (4th campaign).

各水準の試験期間において24時間連続して操業諸元がほぼ一定で安定に操業できた期間を抽出し,その期間の諸元を平均して総括の物質収支・熱収支解析を実施した。Table 3に試験高炉操業で得られた各水準の平均諸元を示す。実績諸元解析の結果得られた各水準のCO還元率,水素還元率,直接還元率,および炭素原単位等をBase operationと比較した。

Table 3. Averaged operational results of reference period.

UnitBaseABC
Coke ratekg/tHM441395377362
PC ratekg/tHM136135136132
COG rateNm3/tHM0939393
RBFG rateNm3/tHM00291294
Blast volume rateNm3/tHM977716682626
O2 enrichment%7.915.216.016.9
Blast temperature°C10131003997996
Blast moistureg/Nm34.04.23.13.8
Temperature of RBFG°C--797802
CO gas utilization, ηCO%42.944.542.543.2
H2 gas utilization, ηH2%40.644.845.050.3
Top gas temperature°C135101147113
Productiont/d33.032.932.934.7
Hot metal temperature°C1453144114621457

Fig.7に実績諸元の解析と高炉数学モデルの解析で得られた各水準のCO還元率,水素還元率,直接還元率を示す。COG吹き込みのOperation AはBase operationに比べてわずかにCO還元率が減少しているものの水素還元率が約10%増加し,直接還元率が約10%減少していることがわかる。Operation Bでは炉頂ガス循環操作により,Operation Aから更に間接還元率(CO還元率と水素還元率の和)が増加し,直接還元率が減少していることがわかる。Operation Cでは高被還元性焼結鉱の使用により,Operation Bに対してCO還元率の増加は小さいものの,更に水素還元率が増加し,直接還元率が減少していることがわかる。Table 3に示されているようにOperation CのCOガス利用率,H2ガス利用率はOperation Bに対して増加しており,直接還元率が16.5%から16.0%の減少に寄与したと考える。上記結果はCOG吹き込み,炉頂ガス循環,高被還元性焼結鉱使用が直接還元率を低減させるための反応制御の手段として有効であることを示している。高炉数学モデルの解析結果も各水準の還元形態の変化を精度よく定量的にとらえていることがわかる。

Fig. 7.

Comparison of fraction of reduction ratio obtained by experimental blast furnace operation.

Fig.8に実績諸元の解析から得られた全水素投入量と水素還元率の関係を示す。ここで全水素投入量はCOG中の水素分だけでなく,羽口から吹き込まれるPC,COG中の炭化水素,送風湿分が羽口前で分解して生成する水素,および,シャフト羽口から吹き込まれる水素の総量である。全水素投入量が増加するにしたがって,水素還元率が直線的に増加していることがわかる。このことは今回の試験の範囲において,高炉に供給される水素はほぼ同じ効率で水素還元に寄与しているといえる。他方,Operation Cの全水素投入量に対する水素還元率はOperation Bに比べて高位であり,Table 3に示したH2ガス利用率の変化からも高被還元性焼結鉱使用の効果を確認できる。

Fig. 8.

Effect of total amount of H2 input on the proportion of H2 reduction of iron ore.

Fig.9に各水準の操業実績を解析して得られた炭素原単位の内訳を示す。炭素原単位は,Base operationに対してOperation A, B, Cの順に減少しており,Fig.5に示した高炉数学モデルにより予測された炭素原単位の削減効果順と同じ傾向が得られた。この炭素原単位の減少に関して,ソルロス炭素原単位の減少が炭素原単位全体の減少に大きく寄与していることがわかる。ソルロス炭素原単位は以下の式から直接還元率から換算可能であるため,Fig.7に示した各水準の直接還元率の変化とも対応している。

  
Csol=OoreDRMC(1)

ここで,Csol,Oore,DR,MCはそれぞれ,ソルロス炭素原単位(kg/tHM),鉱石中の被還元酸素量(kmol/tHM),直接還元率(-),炭素の原子量(kg/kmol)である。

Fig. 9.

Total carbon consumption and its components.

また,Operation Cではレースウェイでの燃焼炭素量が減少している。これは,上述したように高被還元性焼結鉱を使用することによって,直接還元率が減少し還元所要熱量が減少することによって高炉プロセス全体での必要熱量が減少したためと考える。Operation Cの炭素原単位はBase operationに対して約10%減少している。Fig.10に各水準の炭素削減効果について,試験結果と高炉数学モデルの計算結果の比較を示す。Base operation に対するOperation A, B, Cの炭素原単位削減割合は,それぞれ,約4%,約8%,約10%である。この炭素原単位削減割合について,試験結果と高炉数学モデルの計算結果はほぼ対応しており,Fig.7の各水準の直接還元率変化の対応状況もあわせて考慮すると,高炉数学モデルは炉内総括反応量の点で試験結果をほぼ説明できているといえる。

Fig. 10.

Decrease in carbon rate in each operation.

次に,各水準の熱収支変化について考察する。Fig.11には,各水準の酸化鉄の総所要還元熱量について,CO還元,直接還元,水素還元の熱量を積み上げて内訳を示した。ここで,CO還元は発熱反応なので下方に伸ばし,吸熱反応の直接還元と水素還元の吸熱量を上方に積み上げて表示している。Operation A の酸化鉄の総所要還元熱量は,水素還元による所要熱量が増加するものの,直接還元による所要熱量が減少するため,Base operationに比べて減少する。また,Operation Bでは直接還元による所要熱量がさらに減少するため,酸化鉄の総所要還元熱量はOperation A に比べて減少している。一方,Operation C では,水素還元による所要熱量の増加と直接還元による所要熱量の減少がほぼ相殺されているため,総所要還元熱量はOperation B とほぼ同じレベルを示している。

Fig. 11.

Heat required for reduction of iron oxides.

各水準における高炉プロセスの特性を評価するために,試験高炉を境界とする熱収支の解析結果をFig.12に示す。プロセス全体の総入熱量は,送風顕熱,RG顕熱とレースウェイでの炭素の燃焼熱の合計であり,試験高炉でのプロセス操作におけるエネルギー投入量を意味する。一方,総出熱量は,酸化鉄・脈石成分の還元熱,溶銑滓顕熱,炉頂ガス顕熱,PC分解熱,COGの分解熱,熱損失などの合計で,試験高炉の溶銑生成過程で要したエネルギー消費量を意味する。酸化鉄の総所要還元熱量が減少するため,Operation Aの総入熱量または総出熱量は,Base operationと比較して減少している。他方,Operation Bのシャフト羽口からのRG 吹き込みにおいては,酸化鉄の還元熱量が減少するものの,Operation Aに比べて炉頂ガス顕熱と熱損失が増加していることがわかる。したがって,シャフト羽口からのRG吹き込み操業は炭素原単位の削減に寄与するもののプロセス全体の総入熱量の低減には必ずしも寄与するわけではないことがわかる。Operation CはOperation Bに対して同様にシャフト羽口からのRG吹き込みを実施し,上述のように総所要還元熱量はほぼ同じであったが,高被還元性焼結鉱使用により,ガス利用率が向上し,炉内を流通するガス量が減少することにより,炉頂ガス顕熱,熱損失が減少し,プロセス全体の総入熱量の減少に寄与したと考える。

Fig. 12.

Heat balance in each operation.

Fig.13に高炉数学モデルで計算した各水準の羽口方位断面での炉内固体温度分布を示す。先ず,炉上部の昇温速度の差について考察する。Operation Aの炉上部の昇温速度(温度勾配)がBase operationに対して低下していることがわかる。これは酸素富化率増加に伴う炉内ガス量の減少(熱流比増加)による。他方,Operation Bの炉上部の昇温速度は,シャフト羽口からのRG吹き込みによって炉内ガス量が増加(熱流比減少)することにより,回復している。ただし,Operation Aではシャフト羽口レベル壁付近の温度が1000°C程度まで昇温されているのに対して,Operation Bではシャフト羽口から吹き込むRGの温度は800°Cであるため,シャフト羽口上方壁側付近の温度が低下していることがわかる。Operation CではOperation Bに比べて炉上部の昇温速度が低下しているが,これは上述したように,高被還元性焼結鉱を使用することによりガス利用率が増加し,炉内を流通するガス量が減少したことによる。

Fig. 13.

Distribution of solid temperature inside the experimental blast furnace in each operation calculated using the mathematical blast furnace model.

次に,融着帯レベルについて考察する。Operation Aの炉上部の昇温速度がBase operationに対して低下しているものの融着帯レベルは上昇している。これは,Operation Aの間接還元率が増加することで,炉下部の還元負荷が減少し,実質の炉下部の熱流比が減少しているためと考える。このことにより,融着帯の厚みも薄くなっていることがわかる。Operation Bの融着帯レベルはOperation Aよりも低下している。これは,上述したようにシャフト羽口から吹き込むRGは800°Cであるため,炉内温度を低下させていることに起因する。また,Operation Cの融着帯レベルはOperation Bよりも更に低下しているが,上述のように炉内ガス量減少による熱流比増加に起因する。

Fig.14に高炉数学モデルで解析した各水準での水平断面平均の固体温度と鉱石還元率の関係を示す。鉱石還元率は固体温度の上昇とともに増加する。Operation Aの鉱石還元率は水素還元の寄与により,低温から高温にかけてのすべての温度条件において,Base operationの鉱石還元率よりも高くなっている。Operation Bは800°Cよりも高温域で鉱石還元率の勾配が大きくなっており,シャフト羽口から吹き込むRGの効果と考える。Operation Cはほぼ全温度域を通じて,他の水準に対して最も鉱石還元率が高く,高被還元性焼結鉱の効果と考える。

Fig. 14.

Distribution of reduction degree of iron ore inside the experimental blast furnace calculated using the mathematical blast furnace model.

Fig.15にOperation Aにおける径方向のH2濃度分布の水平ゾンデ測定結果と高炉数学モデルによる計算結果の比較を示す。測定結果より,水平ゾンデの下段レベルから中段レベルの領域で大部分の水素還元が生起していることがわかる。また,高炉数学モデルによる径方向のH2濃度分布の計算結果は,測定結果とよい対応を示している。

Fig. 15.

Comparison of calculated and measured radial distribution of H2 concentration in Operation A.

次に,炉内での鉱石の還元状態を評価するため,操業中,または,吹き止め後に炉内の装入物を回収し,鉱石還元率を分析して比較した。Fig.16にOperation Bにおいて,高炉数学モデルを用いて解析された鉱石還元率と操業中に水平ゾンデによりサンプリングされた装入物を分析して得られた鉱石還元率との比較を示す。両者は比較的良く一致していることが確認された。同様に,Fig.17にOperation Bにおける高炉数学モデルを用いて解析した鉱石還元率の計算結果と吹き止め後に回収された炉内の装入物を分析して得られた鉱石還元率との比較を示す。吹き止め後に回収された炉上部の炉上部の装入物の鉱石還元率は高く,層頂部で約10%となっている。吹き止め前の最後の装入から吹き止めまでに数分間を要しており,層頂部での鉱石還元率は10%程度まで増加したと考えられる。このことを考慮すると,測定結果と計算結果はよく一致していることがわかる。Fig.16Fig.17に示す計算結果と実測結果が良く一致していることは,高炉数学モデルが 羽口からのCOG 吹き込み,シャフト羽口からのRG 吹き込みを行った条件下において炉内状態を高精度に予測できることを示している。

Fig. 16.

Comparison of calculated and measured reduction degrees during Operation B obtained by horizontal samplers.

Fig. 17.

Comparison of calculated and measured reduction Comparison of calculated and measured reduction degrees in Operation B in the dissection investigation.

以上により,前述の操業操作による反応制御を介して高炉の炭素削減が可能であることを試験高炉操業で実証するとともに,高炉数学モデルを用いた解析により炉内状態の変化を実測値を交えて理論的に明らかにした。

4. 結言

羽口からのCOG吹き込み,シャフト羽口からの炉頂ガス循環操作,および,高被還元性焼結鉱の使用の操業操作の組み合わせにより,最も大きな吸熱反応である直接還元反応量を低減する反応制御をすることで,炭素原単位10%の低減が可能かを試験高炉により実証試験した。羽口からのCOG吹き込みでは,CO還元率はわずかに減少するものの,水素還元率が約10%増加し,直接還元率が約10%減少した。その結果,約4%の炭素原単位の低減が確認された。羽口からのCOG 吹き込みに加えて,シャフト羽口からの炉頂ガス循環操作により,さらに直接還元率の減少が促進された結果,約8%の炭素原単位の低減が確認された。さらに,羽口からのCOG 吹き込みと炉頂ガス循環操作に加えて,高被還元性焼結鉱使用の組み合わせにより,COガス利用率,H2ガス利用率が向上し,高炉への熱供給のためのレースウェイ内での燃焼炭素量が減少し,COURSE50の目標である約10%の炭素原単位削減を達成した。したがって,高炉プロセスにおける反応抑制による炭素低減対策の手段として,羽口からのCOG吹き込み,シャフト羽口からの炉頂ガス循環操作,および,高被還元性焼結鉱使用の操業操作の組み合わせが有効であることが確認された。

利益相反に関する宣言

本研究の遂行に関して,利益相反がないことを宣言する。

謝辞

本成果は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「環境調和型プロセス技術の開発/水素還元等プロセス技術の開発(フェーズII-STEP1)」(日本鉄鋼連盟 COURSE50)の結果得られたものである。

文献
 
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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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