Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
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ISSN-L : 0021-1575
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Composition Analysis of Corrosion Products on Steel by Machine Learning of Optical Microscopic Images
Yuki TsujiKota HirasawaSunao ShojiYuichi KitagawaYasuchika HasegawaKoji Fushimi
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2024 Volume 110 Issue 15 Pages 1166-1178

Details
Abstract

Analysis of the corrosion distribution and composition of corrosion products on steel surfaces using supervised machine learning of optical microscopic images was investigated. The accuracy of the artificial intelligence in evaluating the composition of iron compound reference samples was affected by the illumination intensity and surface roughness during image capture. The evaluation accuracy was high for compounds with a wide distribution of R value such as Fe2O3 and FeOOH, but low for compounds with a narrow distribution such as Fe3O4. The results of wet-dry cycling tests on weathering steel with NaCl particles on the surface showed that the transition of corrosion products during the corrosion progress can be analyzed from optical microscope images.

1. 緒言

我が国の社会資本ストックは高度経済成長期に集中的に整備されたため,今後20年間で建設後50年以上経過する施設の割合は加速度的に高くなることが見込まれており1),老朽化するインフラストラクチャを戦略的に維持管理あるいは更新することが求められている。鉄鋼材料はインフラストラクチャにおいて主要な構造材として利用されているのが常である。腐食による強度低下はインフラストラクチャに致命的なダメージを与えるので,維持管理が重要であることは改めて述べるまでもない。しかし,維持管理の対象とされる施設はあまりにも多い。腐食診断の専門知識を有する技術者も限られている。利用頻度や危険リスクの高い施設に専門家による腐食診断を集中させるため,簡便かつ汎用性のあるオンサイトでの腐食診断法を整備し,腐食診断法の底上げを図る必要がある。

鉄鋼材料の腐食は,材料と環境のみならず使用状況など多因子が複雑に影響して進行する。腐食診断には専門的知識が要求されてきたが,近年,人工知能(AI)を利用した診断法の構築も検討され始めた。例えば,鋼構造物大気腐食の解析のための機械学習の適用や2,3,4),多地点の曝露試験結果や気象情報などを集約して腐食マップが提言されている5)。ドローンカメラやスネークカメラなどの普及により高所や閉所での写真撮影あるいは動画撮影が可能となった今日,光学画像撮影は最も簡便な,汎用性の高いオンサイト情報取得法である。撮影画像から腐食に関する特性や傾向を抽出し,それらの特徴量をAIにより回帰および識別することで,腐食挙動の支配因子を捉え,腐食速度の予測に活用できると期待される。すでに腐食した鋼構造物画像から減肉量の解析がなされ,余寿命の推定に適用され始めている6)。一方で鋼構造物に形成した腐食生成物画像からその定性分析を試みた事例は皆無であり,その開発が求められている。

鉄鋼材料は置かれた環境との相互作用に関わる物理因子(熱,温度など)および化学因子(H2O,H,O2など)の影響を受けた結果,化学状態および結晶構造の異なる腐食生成物となる7,8,9)。それらの生成速度は物理・化学因子の関数でもあり,多くの腐食生成物は最安定腐食生成物(α-Fe2O3)への逐次反応中間体でもある。したがって,腐食生成物の変遷は材料の腐食寿命を知る上で重要なヒントを与えてくれる。また,腐食生成物の化学状態および結晶構造により鉄イオンの3d軌道準位の微構造が異なるため,可視光を照射した際に吸収されるエネルギーの差異から腐食生成物はそれぞれ異なった色合いを示す9)

本研究では,50倍の光学倍率で取得した光学顕微画像の色相情報を機械学習することにより,腐食生成物の定性分析の実現を図ることを目的に実施した。顕微ラマン分光測定により得た腐食生成物の定性分析結果と比較し,本分析法の有効性を検証した。

2. 実験方法

2・1 試験片と大気腐食

試験片には普通鋼SM490A(Fe-0.17 mass% C-0.02 mass% Si-1.07 mass% Mn-0.013 mass% P-0.003 mass% S)および耐候性鋼SPA-H(Fe-0.08 mass% C-0.45 mass% Si-0.40 mass% Mn-0.091 mass% P-0.007 mass% S-0.29 mass% Cu-0.15 mass% Ni-0.63 mass% Cr)を用いた。5 mm×5 mm×5 mm程度の両鋼試験片をエポキシ樹脂に埋め込んだ後,#4000までの耐水研磨紙を用いて機械研磨およびAl2O3バフ研磨した。NaClエアロゾル雰囲気10)下に所定時間曝露することで塩粒子を0.001または0.03 mm3/mm2(=付着粒子体積/観察面積)付着させた後,湿潤状態(303 K,90%RH)1 hと乾燥状態(323 K,33%RH)3 hの間をそれぞれ1 hで遷移する1サイクルを繰り返す,乾湿繰り返し腐食試験を行った。また,厚さ5 mm×150 mm×70 mmの耐候性鋼試験片を沖縄県宮古島市の日本ウエザリングテストセンター敷地内の屋外遮蔽環境にて2021年4月12日から2022年10月12日まで1.5年間曝露した。

2・2 標準鉄化合物試料

α-Fe2O3(純度 ≥ 99.99%),γ-Fe2O3(純度 ≥ 99.9%),Fe3O4(純度 ≥ 98%),α-FeOOH(純度 ≥ 99.9%)にはレアメタリックから購入したものを,γ-FeOOH(純度>99%)には高純度化学研究所から購入したものを用いた。また,β-FeOOHおよび非晶質FeOOH(以後amr-FeOOH)はそれぞれSugaeら11)およびKobayashi and Uda12)を参考にして合成し,X線回折により確認した。これら粉末状試料適量を白板ガラス上に載せ,別な白板ガラスを押し付けることにより平滑な,あるいはSUS304製メッシュ(#100,線径0.025 mmおよび#500,線径0.010 mm)を押し付けることにより粗面化した表面形態を有する参照試料を作製した。

2・3 定性定量分析

屋外曝露試験片および標準鉄化合物の定性分析には,顕微ラマン分光装置(inVia Qontor, Renishaw)を用いた。波長532 nm,出力0.5 mWのレーザー光を1 s間300回照射し,試料表面の単点あるいは10×16箇所の多点においてラマンスペクトルを得た。また,結晶性化合物の定量分析には,X線回折装置(Ultima IV-CSD, RIGAKU)を用いた。

2・4 顕微画像撮影および機械学習

一連の光学顕微画像撮影には,顕微ラマン分光装置に搭載されたLeica製光学顕微鏡(同軸落射式,対物レンズの光学倍率50倍)を用いた。試料ステージ(LiveTrack, Renishaw)により自動焦点合わせをしながら試料位置をX軸方向0.32 mm,Y軸方向0.23 mmずつ20×20箇所移動し,各照射光量あたり400枚の画像データを得た。なお,照射光量の測定には光度計(PM160T, THORLABS)を用いた。

3. 結果と考察

3・1 明度変化による腐食箇所の検出

塩粒子を付着させた炭素鋼試料の乾湿繰り返し腐食試験中の各繰り返しサイクル後,試料表面の定点光学顕微画像撮影およびラマン分光を実施した。0.001 mm3/mm2の塩微粒子が付着した普通鋼試料における表面の経時変化をFig.1(a–c)に示す。塩粒子の付着箇所などを起点として3サイクル後には暗く変化した箇所が発現し,21サイクル後には大きく拡大することが確認される。ラマンスペクトル(Fig.1(d))から,この変化箇所はamr-FeOOHなどの鉄腐食生成物の形成に由来することが確認された。耐候性鋼試料について同様の実験を行うと,3サイクル後に鉄腐食生成物の発生が確認されたが,21サイクル後での面積増加はほとんど見られなかった。付着塩粒子量を0.03 mm3/mm2に増やした場合,腐食箇所数とともに面積は増大した。腐食速度は鋼種とともに塩微粒子付着量に大きく影響することに他ならない。一方,例えば10×16箇所の多点においてラマンスペクトルを得るには5 h以上かかり,光学画像全域の瞬間的なラマン分光情報を二次元分布として得ることは難しい。光学顕微画像撮影は短時間で完了するため,撮影した画像中の例えば明度変化を特徴量として活用することで腐食生成物の形成や成長の追跡が可能であると期待された。

Fig. 1.

Optical micrographs of ordinary carbon steel surface after (a) deposition of salt particles with 0.001 mm3/mm2, (b) 3 and (c) 21 cycles of wet-and-dry test. (d) Raman spectra at the cross mark in the micrographs. (Online version in color.)

試料表面の光学顕微画像を400枚収集し,二値化反転,図形・境界検出,境界内面積算出の手順で,各画像に見られる腐食箇所の位置と面積を算出した。塩微粒子が付着した耐候性鋼試料(n=5)における光学画像の画像処理から,腐食面積率(=撮影範囲内にある腐食箇所の総面積/撮影面積)の時間変化を求めた(Fig.2)。0.001 mm3/mm2の塩微粒子が付着した場合,腐食試験サイクル数の増加とともに腐食面積率は増大し,6サイクル以降ほぼ一定となるのに対し,0.03 mm3/mm2の塩微粒子が付着した場合,サイクル開始直後で腐食面積は定常値に達する。また,普通鋼においても腐食試験サイクル数の増加にともない腐食面積率の増大が確認され,0.001 mm3/mm2の塩微粒子が付着した場合,n=5の80%の試料において腐食面積率4%以下であったが,残りの試料で腐食面積率が32%以上となり,急激な腐食の進行が認められた。腐食初期の耐候性鋼試料表面には速やかに腐食が発生するがすぐに腐食の拡大は停止し,腐食試験サイクル数が増加しても腐食の成長は抑制されると言える。耐候性鋼に添加された微量元素(Cu, Cr, Pなど)による比較的保護性の高いさび層の形成によると解釈される。

Fig. 2.

Time changes of corroded area ratio on weathering steel surfaces deposited with salt particles of (red circle) 0.03 and (blue triangle) 0.001 mm3/mm2. (Online version in color.)

上述の画像処理において腐食箇所は非腐食箇所(健全部)と比較して明度が低いことを特徴量とした。ここではカスケード分類器を用いた認識技術13)に明度変化を適用して,画像における腐食箇所の検出を試みた。大量に収集した腐食試料表面の光学画像について二値化および物体検出などの画像処理を行い,画像内における全腐食箇所の位置と面積を算出し,画像明度の違いを利用してAIに腐食箇所の特徴を機械学習させた。66あるいは470個の腐食位置および面積データリストをもとに作製した教師データを用いて,比較的腐食が緩やかに進行している箇所のテスト画像における腐食箇所検出を行うことでFig.3に示す結果を得た。腐食箇所と判断された部分(赤枠)が画像と対応しない誤検出あるいは未検出の割合は教師データ数に反比例し,470個の教師データを用いた場合の腐食箇所正解率は89%であった。機械学習の精度は教師データ数に著しく影響することが改めて示された。

Fig. 3.

Automatic detection of corroded areas (red square) by machine learning using (a) 66 and (b) 470 pieces of supervised data at relatively heavily corroded areas. (Online version in color.)

3・2 色相抽出による腐食箇所の検出

3・1では画像の明暗情報を二値化処理した。一方,熟成された腐食生成物表面の光学顕微画像は様々な色を示す。代表的な色表示法であるRGBカラーモデルでは,色の赤(red),緑(green),青(blue)それぞれを8ビット(0-255)の色深度により表現する。したがって,白黒(二値化)に比し色相を特徴量とする画像解析により,繊細な腐食検出の実現が期待される。ここでは鉄酸化物あるいは鉄オキシ水酸化物など参照試料のRGB範囲と対応させることによりテスト試料の腐食箇所を抽出することで,腐食生成物の種類および生成割合を求める。各参照試料の光学顕微画像400枚に対し最頻RGBの統計処理を行い,80%以上の頻度となるように各参照試料のRGB範囲を決定した(Table 1)。

Table 1. RGB value ranges for reference samples of iron oxides and iron oxy-hydroxides.

amr-FeOOHα-FeOOH γ-FeOOH α-Fe2O3 γ-Fe2O3 Fe3O4
R {0, 1, …, 45} {150, 151, …, 255} {15, 16, …, 105} {60, 61, …, 240} {45, 46, …, 90, 225, 226, …, 255} {0, 1, …, 45}
G {0, 1, …, 30} {90, 91, …, 255} {0, 1, …, 90} {0, 1, …, 75} {0, 1, …, 15, 150, 151, …, 210} {0, 1, …, 15}
B {15, 16, …, 90} {0, 1, …, 90} {0, 1, …, 15} {0, 1, …, 30} {0, 1, …, 15, 30, 31, …, 90} {0, 1, …, 15}

塩粒子を付着させた普通鋼試料の乾湿繰り返し試験各サイクル後に撮影した試料表面の光学顕微画像について,RGB範囲に従い各参照試料に対応するRGBの抽出を実施した。k-means法(入力データ群の位置関係を機械学習し,任意数kの特徴的なグループを作成する教師なし学習法)を用いて腐食面積の比較的小さい箇所(S)および大きい箇所(L)にクラスタリングすることで腐食箇所の特定と腐食面積を算出し,腐食面積率と腐食生成物の平均組成を求めた。腐食面積が大きいとAIに判断されたクラスタLの平均腐食生成物組成の総計は,腐食面積が小さいと判断されたクラスタSの平均腐食生成物組成の総計よりも著しく大きく,繰り返し腐食試験サイクル数とともに増加し(Fig.4(a–c)),腐食の進展を示すことがわかる。また,クラスタLにおいて,腐食生成物はほぼα-FeOOHが形成した後,α-Fe2O3やγ-FeOOHの割合が多くなることが導かれた(Fig.4(d))。画像内の×印で示す箇所のラマンスペクトル(Fig.4(e))から,α-FeOOHの他,amr-FeOOHの形成を確認できた10)が,その他の形成は不明である。それぞれの腐食生成物のラマン活性には差異があるので,ラマンスペクトルからの特に腐食初期における腐食生成物の組成識別はそもそも難易度が高い。同様の腐食生成物画像解析を耐候性鋼試料に対しても実施した(Fig.4(f–j))。普通鋼に比べ,腐食面積の偏りが小さく比較的均一に腐食が進行する傾向にある。また,サイクル数の増加にともなう平均腐食面積率の増加の傾きも普通鋼よりも大きい。腐食面積が大きい箇所において,α-FeOOHが形成した後amr-FeOOHなどが形成するのは普通鋼試料と同様であるが,耐候性鋼試料ではα-FeOOH以外の腐食生成物の形成割合が大きい。これらの腐食生成物の形成はラマン分光からも確認された。耐候性鋼ではγ-FeOOHやFe3O4が比較的多く形成し,表面に速やかに均一に腐食生成物が広がることが示唆された。試料表面に素早く広がる腐食生成物は耐候性鋼の初期腐食において形成する保護性さび層の前駆体となる可能性がある。

Fig. 4.

Optical micrographs of (a-e) ordinary carbon steel and (f-j) weathering steel surfaces deposited with 0.001 mm3/mm2 salt particles after (a,f) 1, (b,g) 4, and (c,h) 21 cycles of wet-and-dry test. (d,i) Time changes in corrosion products composition on the sample surface. (e,j) Raman spectra at the cross mark in the micrographs. (Online version in color.)

一連の画像解析の妥当性を検証するため,12サイクル後の耐候性鋼試料表面における多点にてラマン分光測定を行い,取得した複数のスペクトルピークをもとにラマンマッピングを実施した。amr-FeOOH,α-FeOOH,γ-FeOOH,α-Fe2O3,γ-Fe2O3,Fe3O4に対応する観察範囲の塗りつぶしを行なうことで各参照試料のラマンマッピング像(Fig.5)を得た。本画像解析およびラマンマッピングにより求められた腐食生成物組成をTable 2に示す。本画像解析の組成割合はγ-Fe2O3,γ-FeOOH,α-Fe2O3の順に多く,合計は24%であるが,ラマンマッピングによる腐食生成物の組成割合の合計は100%に近い。これは,ラマン分光法が高感度である他ならない。見た目や画像解析では腐食していない非腐食箇所にも鉄腐食生成物が存在していることを意味する。鉄不働態皮膜は数nmしかないが,その主組成であるamr-FeOOHはラマン活性を示す14)。このため非腐食箇所においてamr-FeOOHが多く分類されたと考えている。amr-FeOOHを除く主要腐食生成物はγ-Fe2O3,γ-FeOOHと本画像解析結果と同順であるが,これらに続くのはα-FeOOHであり,その次は僅差でα-Fe2O3となった。本解析ではラマン活性の感度補正を考慮していないことが理由であると考えられるが,以上のラマンマッピングの特徴を鑑みると,本画像解析結果は概ね正しく腐食生成物分布を示したと評価される。一方,光学画像撮影時の照明光量は画像の色相に影響する。上述では照明光量1.21 mWを使用したが,0.87 mWにて同様の画像解析を実施したところ,腐食試験サイクルの増加にともないγ-FeOOHおよびFe3O4の増加が導かれた。Fe3O4が特異的に形成したとする誤検出の増加は,低照明光量による画像明度不足が原因であると考えられた。腐食試料表面の光学画像撮影には適切な照明光量を選択する必要がある。

Fig. 5.

(a) Optical micrograph of weathering steel surface and Raman maps for corrosion products of (b) amr-FeOOH, (c) α-FeOOH, (d) γ-FeOOH, (e) α-Fe2O3, (f) γ-Fe2O3, (g) Fe3O4 after 12 cycles of wet-and-dray test. (Online version in color.)

Table 2. Composition of corrosion products analyzed.

composition / %amr-FeOOHα-FeOOHγ-FeOOHα-Fe2O3γ-Fe2O3Fe3O4Total
image analysis0.11.38.12.1120.424
Raman peak analysis725.36.10.38.64.196

3・3 色情報の機械学習

3・3・1 平滑な表面を有する参照試料のRGBおよびHSV機械学習

3・2では各参照試料のRGB抽出範囲を80%以上として処理したが,その閾値選定は恣意的であった。そこで各参照試料のRGB色情報を大量に機械学習することでAIが各参照試料に対応するRGB範囲を決定し,それに従って腐食生成物の分類を行うことで組成の算出を試みる。3・2ではまた,腐食箇所の画像解析結果が画像撮影時における照射光量の影響を強く受けることを示した。R値,G値,B値は光量に大きく依存するためRGB範囲を決めることは難しいが,色相(hue),彩度(saturation),明度(value)の3成分により構成されるHSV色空間では,光量が大きく変化する場合でもH値およびS値の変化は小さいことから分類範囲の決定はRGB範囲決定に比べて容易である可能性がある。ここでは,RGBに加えてHSVの機械学習を実行し,分類精度の検証を行う。

複数の光量条件下における表面を平滑にした各参照試料の表面画像を1,200枚以上収集し(Fig.6),各画像について平均RGB値および平均HSV値を求めた。Fig.7(a),(b)に平均RGB分布および平均HSV分布を示す。いずれにおいても,α-FeOOH,β-FeOOH,γ-FeOOH,α-Fe2O3,γ-Fe2O3の分布が広い範囲内で重なっている。特徴差の少ない近い色情報を有する試料の分類は難しいとされるが,HSV分布における重なりはRGB分布に比べて密集しており,分類はより難しいと予想された。

Fig. 6.

Optical micrographs of reference samples under various lighting levels. (Online version in color.)

Fig. 7.

Distributions of average values of (a, c) RGB and (b) HSV calculated from optical micrographs of (a,b) smooth and (c) rough reference sample surface. (Online version in color.)

得られた平均RGB値あるいは平均HSV値を教師データとしてk近傍法による機械学習を実行した。なお,教師データを学習用70%とテスト用30%に無作為分割して実施したホールドアウト法15)により3 ≤ k ≤ 22で90%以上の分類精度を示したことから,k=3を用いることとした。Fe3O4およびα-FeOOH参照試料を隣接し(以降,このような隣接試料をFe3O4/α-FeOOHテスト試料のように称する),境界部を光量0.61および0.73 mWで観察することによりテスト画像を取得した。各参照試料のRGBあるいはHSV教師データを利用し752×480画素の各テスト画像を画素ごとにRGBあるいはHSV分類した。合計360,960個のRGBあるいはHSV分類結果をもとにRGBあるいはHSV分類マップの構築を行い,それぞれの分類精度を算出した。照明光量0.61および0.73 mWで撮影したFe3O4/α-FeOOHテスト画像のRGBおよびHSV分類マップをFig.8に示す。さらに,照明光量0.73および0.87 mWで撮影したα-Fe2O3/γ-Fe2O3参照試料においてもRGBおよびHSV分類を行った(Fig.9)。Table 3に得られた分類精度を示す。Fe3O4は照明光量に依らず,比較的高い分類精度を示す。他方,α-FeOOHは分類法および照明光量に依存して分類精度は大きく異なる。α-Fe2O3/γ-Fe2O3テスト画像の照明光量0.73 mWにおけるHSV分類はRGB分類よりもわずかに正解率が高いが,照明光量0.87 mWにすると両分類において正解率は25%以上向上し,RGB分類の正答率がHSV分類を上回った。以上より,構築した分類アルゴリズムは光学画像撮影時の照明光量に強く影響を受けることは明確である。これは,教師データの分布が一部重なることが原因である。HSV分布はRGB分布よりもデータが密集しており教師データの差が小さいため,より多くの誤分類が生じたと考えられる。分布重なりの少ない教師データを用いることが正解率向上のために重要であると言える。

Fig. 8.

Optical micrographs at light intensity of (a) 0.61 and (d) 0.73 mW and their classification results by (b,e) RGB and (c,f) HSV machine learnings for a smooth Fe3O4/α-FeOOH test sample. (Online version in color.)

Fig. 9.

Optical micrographs at light intensity of (a) 0.73 and (d) 0.87 mW and their classification results by (b,e) RGB and (c,f) HSV machine learnings for a smooth α-Fe2O3/γ-Fe2O3 test sample. (Online version in color.)

Table 3. Classification accuracy on adjacent test samples.

light intensity,
L / mW
RGB classification / %HSV classification / %
Fe3O4/α-FeOOHα-Fe2O3/γ-Fe2O3Fe3O4/α-FeOOHα-Fe2O3/γ-Fe2O3
0.61100/80100/62
0.73100/4956/15100/3858/19
0.8799/6979/58

3・3・2 粗い表面を有する参照試料のRGB機械学習

実際に長期間屋外曝露した腐食試料表面は金属の溶解および腐食生成物の形成などにより粗い表面を有する。その表面の凹凸箇所において影の形成および光の反射が起こり,色相のばらつきが生じることで分類精度への影響が懸念された。そこで,試料表面粗度の影響を考慮した分類アルゴリズム構築を検討した。表面が平滑な鉄酸化物および鉄オキシ水酸化物参照試料にメッシュを押し付けることで屋外曝露試験片同等あるいはそれ以上の表面粗度を有する凹凸パターンを転写した粗面試料を作製した(Table 4)。粗面参照試料のRGB分布をFig.7(c)に示す。平滑参照試料のRGB分布(Fig.7(a))には大きな差はないが,粗面試料は平滑試料に比べて分布の広がりが特にB値において確認された。分布の拡大は画像明度の偏差が大きくなったことを意味する。平滑および粗面の総データ数に対する粗面データ数を粗面データ割合Rrと定義し,Rr=0%,20%,100%の教師データを用いてα-Fe2O3/γ-Fe2O3テスト画像およびα-FeOOH/γ-FeOOHテスト画像の分類を行った(Fig.10)。粗面データを用いることにより試料表面の凹凸箇所における分類精度が向上することがわかる。Rrを変えて分類精度を検証したところ,20%以上で比較的高い分類精度を示した。α-Fe2O3Rrに依らず100%の分類精度を示すのに対し,γ-Fe2O3の分類精度は55%が最大であった。γ-Fe2O3はβ-FeOOHと誤って分類されやすく,α-FeOOHにも同様の傾向が見られた。これは,β-FeOOHのRGB分布が他の参照試料と広く重なっていることが理由である。また,粗面データ割合100%の場合においてFe3O4と誤分類される箇所が見られる。粗面データのみの教師データには低明度のRGB情報が多く含まれることが理由であると考えられた。なお,平滑なα-Fe2O3/γ-Fe2O3テスト試料の表面光学画像について粗面試料のRGBデータを有する教師データによりRGB分類を実行したところ,教師データ中の粗面データ割合が増加するとともに分類精度はやや低下した。

Table 4. Arithmetic mean roughness Ra measured by confocal scanning laser microscope.

sampleRa / μm
smooth α-FeOOH2.9
rough α-FeOOH, #10017.4
weathering steel, 1.5 year, AM2315.7
Fig. 10.

(a,e) Optical micrographs at light intensity of 0.87 mW and their classification results by RGB machine learnings with Rr = (b,f) 0%, (c,g) 20%, and (d,h) 100% for rough (a-d) α-Fe2O3/γ-Fe2O3 and (e-h) α-FeOOH/γ-FeOOH test samples. (Online version in color.)

粗面α-FeOOH/γ-FeOOHテスト試料について照明光量を変えてRGB分類精度を調査した(Fig.11)。いずれの照射光量においてもRr=0%よりも20%の方が高い分類精度を示した。凹凸箇所における明度偏差が大きく,教師データに粗面試料のRGBデータを含むことで分類精度が向上したと考えられる。

Fig. 11.

(a,d,g) Optical micrographs at light intensity of (a-c) 0.73, (d-f) 0.87, and (g-i) 1.03 mW and their classification results by RGB machine learnings with Rr = (b,e,h) 0% and (c,f,i) 20% for a rough α-FeOOH/γ-FeOOH test sample. (Online version in color.)

3・4 ラマン分光法との比較

3・4・1 ラマンスペクトルの機械学習

平滑な各参照試料表面について160点ずつラマンスペクトルを収集した。測定に要した時間は5.4 hであった。収集したスペクトルのフーリエ変換スムージングおよびbeads関数を用いたベースライン補正,Scipy signal.argrelmax16)を用いたピーク検出処理により各ピークの波数抽出を実行した。検出ピーク強度の閾値を小さくすると抽出ピーク数が多く,波数分布も広く重なり誤分類が生じやすい教師データとなった。そこで,微小ピークを除外することで各鉄酸化物および鉄オキシ水酸化物の典型的なラマンピークが抽出されるよう閾値を設定し直し,Table 5を得た。k近傍法(k=3)を用いピーク波数の機械学習を実行し,テストスペクトルにおけるピークの分類を実施した。粗面α-FeOOH/γ-FeOOHテスト試料の境界部における光学顕微画像とラマンピーク分類の結果をFig.12に示す。分類精度に表面の凹凸はあまり影響しないが,ラマン活性が高く典型的ピークの強度が大きいα-FeOOHでは分類精度が高い一方,典型的ピークの強度が比較的小さいγ-FeOOHでは多少誤分類が生じることがわかる。

Table 5. Extracted wavenumber ranges for reference samples.

referencewavenumber ranges / cm−1
200–280280–350350–450450–550600–7501250–1350
amr-FeOOH
α-FeOOH
β-FeOOH
γ-FeOOH
α-Fe2O3
γ-Fe2O3
Fe3O4
Fig. 12.

(a) Optical micrograph at light intensity of 0.87 mW and (b) its classification result by machine learning of typical peaks in Raman spectra for rough α-FeOOH/γ-FeOOH test sample. (Online version in color.)

3・4・2 RGB分類およびラマンピーク分類による耐候性鋼の腐食生成物識別

耐候性鋼試料上に形成した腐食生成物の組成を解析するため,RGB分類およびラマンピーク分類を実施した。試料から削り取った腐食生成物を粉末状に磨り潰し試料とした。光学顕微画像,RGBおよび典型的ラマンピーク分類結果,これらから求めた腐食生成物組成分布をFig.13に示す。粉末化したことによりさまざまな化合物が平均的に分布している。方法によらずγ-FeOOHが最も多く分類されるが,RGBではα-,γ-Fe3O4,amr-FeOOH,Fe2O3が,ラマンピークではα-,β-,γ-FeOOHがより多く存在するように判別されている。これらの特にRGB分類によるFe3O4およびamr-FeOOHの割合は照明光量に依存した。

Fig. 13.

(a) Optical micrograph of powder rust formed on a weathering steel after 1.5 years of atmospheric exposure. Classification results by machine learnings of (b) RGB values based on supervised data with a rough surface data of Rr = 20% and (c) typical peaks in Raman spectra. (d) Compositions in the powder rust obtained in b (left) and c (right). (Online version in color.)

1.21 mWの照明光量下で撮影した耐候性鋼試料表面について,光学顕微画像(Fig.14(a)),Rr=20%の教師データを用いたRGB分類結果(Fig.14(b)),典型的ラマンピークを用いた分類結果(Fig.14(c))を示す。粉末状試料に比べて顕著に画像の暗所は,RGB分類においてFe3O4やamr-FeOOHと分類される傾向にある。この傾向は,低照明光量画像に対する分類やRr=0%教師データによる機械学習の結果に比べると減少したものの,照明光量不足が主原因である。一方,ラマンピーク分類では測定点の少なさから分布を見出すことが難しいが,RGB分類において直径20 µm程度のクラスタ形成もいくつか見られた。これらはβ-FeOOHやγ-Fe2O3などから構成されることがラマンスペクトルからも確認されたが(Fig.14(d)),全体にγ-FeOOHが広く分布するというRGB分類結果となった(Fig.14(e))。照明光量不足による誤分類が含まれる傾向があるものの,RGB分類によって,本試料表面に耐候性鋼特有の初期さび層が形成していることが確認できたと言える。

Fig. 14.

(a) Optical micrograph of rust formed on a weathering steel after 1.5 years of atmospheric exposure. Classification results by machine learnings of (b) RGB values based on supervised data with a rough surface data of Rr = 20% and (c) typical peaks in Raman spectra. (d) Raman spectra at A and B in a–c. (e) Compositions in the rust obtained in b. (i) Cycle number variation of corrosion products composition. (Online version in color.)

腐食生成物組成の時間変化を調査するため,耐候性鋼試料の乾湿繰り返し試験を行った。光学顕微画像および点線内画像のRGB分類マップをFig.15に示す。5サイクル後の試料表面では,光の反射による誤分類箇所も確認されるがamr-FeOOHの形成が比較的見られる。しかし,サイクル数が増加するとamr-FeOOHは消失し,γ-FeOOHおよびα-Fe2O3に換わっている。興味深いことに,全画素のRGB分類マップより得られた腐食生成物組成のサイクル数依存性(Fig.15(i))における5サイクル後のα-Fe2O3割合の変動はあまりない。初期の主腐食生成物はamr-FeOOH,γ-FeOOHおよびα-Fe2O3であるが,相互に置き換わり易いことが示された。腐食生成物の組成変化を集計し,頻度の高い上位5経路についてTable 6に示す。早々5サイクル目にγ-FeOOHやα-Fe2O3となる箇所も多いが,amr-FeOOHからγ-FeOOHあるいはα-Fe2O3に変化する箇所やα-Fe2O3からγ-FeOOHに変化する箇所が見受けられる。最安定さびであるα-Fe2O3の代わりに,19サイクル目にγ-FeOOHが見られるのは,乾湿繰り返し試験中の湿潤環境の効果によると推定される。本機械学習アルゴリズムの適用により鉄鋼材料腐食生成物の時間変化を光学顕微画像からある程度の精度で追跡することは可能であると結論づけられた。

Fig. 15.

(a-d) Optical micrographs and (e-h) RGB classification results within the dashed line frames in a-d of weathering steel deposited with salt particles after wet-and-dry test of (a,e) 1, (b,f) 5, (c,g) 11, and (d, h) 19 cycles. (i) Cycle number variation of corrosion products composition. (Online version in color.)

Table 6. Time variation of the three main corrosion products.

cyclefrequency / %
51119
γ-FeOOHγ-FeOOHγ-FeOOH11
amr-FeOOHγ-FeOOHγ-FeOOH9.6
α-Fe2O3γ-FeOOHγ-FeOOH8.7
α-Fe2O3α-Fe2O3α-Fe2O36.7
amr-FeOOHα-Fe2O3α-Fe2O36.0

4. 結論

いくつかの機械学習アルゴリズムを腐食した鋼材表面の光学顕微画像データに適用し,腐食寿命予測に資する腐食解析を試行,以下の知見を得た。

(1)画像中の明度変化を利用して腐食初期の発錆箇所の検出や腐食面積の追跡が可能である。普通鋼に比べて耐候性鋼の発錆は速いが,腐食の成長は遅いことが示された。

(2)画像中の色相をRGBカラーモデルにより抽出することにより,鉄化合物の組成分類が可能であることが示された。鉄化合物の場合,G値およびB値に比べてR値の分布が広範囲であり,機械学習の特徴量として有効であるものの,Fe3O4やamr-FeOOHのような鉄化合物は分布範囲が狭く,誤分類を生じやすい傾向にあった。特に照明光量が小さい場合に誤分類を生じやすく,照明光量が重要パラメーターとなることが示された。

(3)同様にHSVを用いて鉄化合物の組成分類も可能であることが示された。しかし,RGBと比較した正答率は同等あるいはやや劣り,H値およびS値の分布範囲の狭さが誤分類に反映されたものと示唆された。

(4)表面に凹凸がある試料の光学顕微画像には反射条件が不均一化し組成識別の誤分類を生じていたが,教師データに粗面試料の光学顕微画像を含めることにより正答率が増加することが示された。

(5)光学顕微画像のRGBによる組成分類は,ラマン分光スペクトルの代表的ピークを教師データに用いた機械学習による組成分類よりも著しく高速に,おおよそ同等の結果を導くことが示された。

(6)NaCl微粒子を付着させた耐候性鋼の乾湿繰り返し試験により,発錆,成長する腐食生成物は,amr-FeOOHからやがてγ-FeOOHに変化していくことがわかった。

謝辞

本研究は,日本鉄鋼協会研究会I「インフラ劣化診断のためのデータサイエンス研究会」からの研究支援をいただいて遂行した。用いた普通鋼SM490Aおよび耐候性鋼SPA-Hは研究会の炭素鋼共通試験片であり,屋外曝露試験も研究会により実施された。ここに謝意を表する。

利益相反に関する宣言

本研究の遂行に関する利益相反の無きことをここに宣言する。

文献
 
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