2024 Volume 110 Issue 15 Pages 1225-1236
Appropriate maintenance and maintenance of infrastructures that has been used for a long time is required because there is the concern that safety will deteriorate due to atmospheric corrosion. However, the cost of maintenance and management is also increasing, and there is required to save labor and improve efficiency of maintenance and management. Therefore, the purpose of this study was to easily estimate the rust composition by the image processing of image of steel surface corroded by the outdoor exposure test. The outdoor exposure test was conducted in Choshi City and those conditions were open exposure and shelter exposure for 2.5 years. The compositions of those corrosion products measured by X-ray diffraction. Exposed test pieces were photographed RAW with the digital camera. Those photographs were developed and trimmed. The obtained images were converted from RGB images to La*b* and LCh images. The histograms of hue were fitted to the Gaussian function to determine the peak position and the spread of the histogram. As a result, it was indicated that the peak position shown in the histogram of hue shifted to the low-angle side due to the increase in FeFe2O4. In addition, it was indicated that the composition ratio of α-FeOOH, β-FeOOH, γ-FeOOH and FeFe2O4 can be estimated by the shape, spread and peak position of the histogram of hue. As shown in the graphical abstract, the composition ratio of the corrosion products measured by RIR method and estimated by image processing was in good agreement.
一般的なインフラ構造物には鉄鋼材料が用いられ,その一部は設計時の耐用年数を大幅に超過して半世紀ほど使用されている。このように長期的に使用されているインフラ構造物,例えば,鋼橋においては,使用年数の経過とともに大気腐食による安全性の低下が懸念され,危険な状態も散見されるようになっている。これらの維持管理のためには,使用予定の鉄鋼材料を同様の環境に長期間,静置する大気暴露試験1,2)を実施し,その腐食量や腐食速度,腐食形態を評価して耐用年数を設定することが確実な方法である。しかし,長期間を要し,設計段階で評価結果の適応ができないことや,すでに供用されている鉄鋼材料の評価が難しいことなど問題点が多い。特に実環境の腐食と相関性が優れる促進腐食試験方法が確立されていないことが大きな要因である3,4)。一般的な維持管理方法は目視確認による腐食形態の調査が主に実施され,著しい腐食や異常さびが確認された場合には,その構造や付着塩分量の調査などによる腐食要因の特定,腐食深さの推定がなされ5,6),塗装による防食性能の回復7)と漏水対策などの腐食環境の改善がなされる。しかし,防食性能の回復や腐食環境の改善だけでなく,調査にも専門的な知識を要し,多くの時間が必要である。このことから調査を円滑に実施できないことが,インフラ構造物を今後も安全に使用するための障害になりつつある。そのため,調査を省力化,効率化して,予防保全が最大限に取り入れられた維持管理にすることで,防食性能の回復や腐食環境の改善においても時間やコストを抑えることが求められている。
そのため,膨大にある腐食データを利用した機械学習によって,腐食速度を推定する研究8,9)がなされており,これは調査の回数を低減する効果が期待されている。本研究では,調査の省力化,効率化を目指して,屋外暴露試験により得られた腐食した鋼材表面の外観をデジタルカメラで撮影し,この画像データからさび組成を推定することを試みた。その結果を報告する。
試料には,既知の腐食生成物を4種(α-FeOOH,β-FeOOH,γ-FeOOH,FeFe2O4)と,実際に千葉県銚子市で直接暴露試験,遮へい暴露試験を行った炭素鋼(SM490A,70×150 mm)を用いた。既知の腐食生成物のうち,α-FeOOH,γ-FeOOHとFeFe2O4は市販の試薬を用い,β-FeOOHは試薬から合成して用いた。合成手順10,11,12)は,塩化鉄(III)六水和物とイオン交換水で,1 M FeCl3水溶液を調製し,溶液温度を100°Cにして蒸発させ,100°Cの定温乾燥機内で乾燥させることでFeOClを合成した。その後,合成したFeOClを吸引ろ過しながら,イオン交換水で洗浄することで加水分解し,再度,乾燥させることでβ-FeOOHを得た。Fig.1に示すXRDパターンより,前駆体のFeOCl(Fig.1 a))と合成したβ-FeOOH(Fig.1 b))の純物質であることを確認した。
XRD patterns of a) FeOCl as precursor and b) prepared β-FeOOH
撮影に用いたデジタルカメラは,2種(コンパクトデジタルカメラ(カメラA),ミラーレス一眼レフカメラ(カメラB))であり,試料を水平に置き,その直上,約20 cmから鉛直下向きに撮影した。このときの光源は左右にからLEDライトを1つずつ試料から横に30 cm,縦に30 cmの位置に設置し,斜めから光を照射した。さらに15 cmのスケールと画像補正用カラーチャートも試料と同時に写るようにして撮影した。試験片は,空向きの面を撮影しており,4種の既知の腐食生成物は,粉末状であるので,後述するXRD測定と同様にXRD試料ホルダーに充填することで,影の影響をできるだけ小さくして撮影した。また,カメラの画像処理エンジンの影響をできるだけ小さくするために,RAWで撮影した。
2・3 RAW現像と画像処理RAW現像を行うにあたり,まずRAWデータを画像編集ソフトに取り込み,腐食生成物の色調を均質にするために,ホワイトバランスを調整した。ホワイトバランスの調整は,Labカラーモードで行い,画面上のカラーチャートの白を(L, a, b=93, 0, 0),黒を(L, a, b=22, 0, 0)として行った。その後,腐食生成物だけを切り抜きツールで5×5 cm(既知の腐食生成物の場合は1.5×1.5 cm)となるように切り抜き,ガンマ補正をせずにAdobe RGBでJPEGファイルとして書き出した。ここで得られたJPEGファイル(RGB像)を1ピクセルごとに以下の式(1),式(2),式(3),式(4)を用いてLa*b*像に変換した。ここでRGB像のRGB値は0~255の範囲で表されていたが,255で除して0~1の範囲にし,式(1)の変換行列を用いてXYZ表色系に変換した。XYZ表色系からLa*b*への変換には式(2),式(3),式(4)を用いた。
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RGB像におけるRGB値は光の3原色を表し,R,G,Bは,それぞれ赤色,緑色,青色の度合いを示しているが,La*b*像におけるL,a*,b*は,それぞれ明度,色度(赤-緑),色度(黄-青)を示している。このようなLa*b*色空間を模式的に示すとFig.2 a)になる。また,Fig.2 b)では,LCh色空間を示した。LCh色空間におけるL,C,hは,それぞれ明度,彩度,色相と呼ばれ,基本的にLa*b*色空間と同じであるが,a*とb*からなる平面の座標を式(5),式(6)を用いて極座標で表している。そのため,Lについては,La*b*,LCh,どちらの色空間においても同様の値を用いた。ここでLChへ変換したのは,科学捜査において微小な色の違いを捉えるために利用されており13),腐食生成物においても微小な色の違いを捉えられる可能性があると考えたためである。
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Schematic drawings of a) La*b* color space and b) LCh color space
次に,これらの画像処理で得られた成分のうち,主に色を示すのは色相hであるので,4種の既知の腐食生成物について,色相hのヒストグラムを描き,ガウス関数にフィッティングして最頻値を示す色相hを求めた。この最頻値を示す色相hを指標として用い,試験片の腐食生成物の組成と組成比を推定した。これらの数値計算はPython 3を用いて行った。
2・4 腐食生成物の組成と組成比腐食生成物の組成は粉末X線回折(以下XRD,Rigaku製RINTULTIMA+)により求めた。腐食生成物は,カッターナイフの刃先で軽く擦ることで回収した。回収した腐食生成物は乳鉢と乳棒で細かくしてXRD試料とした。XRD測定はCuKα線を用い,ステップスキャニング法(FT法,スキャン範囲:7~70°,0.02°毎に2秒間)で,無反射板を用いて測定した。これにより得られたXRDパターンから,腐食生成物の組成を求め,参照強度比法(RIR法)による半定量解析で組成の重量比を算出した。RIR法を用いる際,腐食生成物はα-FeOOH,β-FeOOH,γ-FeOOH,FeFe2O4の混合物として扱い,XRDパターンで観測できない組成であっても含んでいるものとして扱った。
既知の腐食生成物について,カメラAで撮影した画像処理前のRGB像をFig.3に示す。FeFe2O4は大きく色が異なるが,オキシ水酸化鉄(FeOOH)については,色が似ており,判別が難しいことが予想された。そこで,カメラA,カメラBで撮影したRGB像の各ピクセルのRGB値で散布図を描き,Fig.4に示した。Fig.4のそれぞれの散布図には,RGB値の算術平均値を示した。カメラA(Fig.4 a)~d))とカメラB(Fig.4 e)~h))は,概ね同じような分布をしていることがわかり,カメラBのほうがRGB値の標準偏差が小さく,狭い範囲にまとまって分布していた。各腐食生成物間の違いについては,FeFe2O4は,FeOOHと明確な違いがあるが,各FeOOHは重なっている部分があり,各ピクセルをRGB値を用いて腐食生成物を判別することは難しいことがわかった。
RGB images of a) α-FeOOH, b) β-FeOOH, c) γ-FeOOH and d) FeFe2O4.
Scatter plots of RGB value taken by camera A and camera B about α-FeOOH, β-FeOOH, γ-FeOOH and FeFe2O4.
そこで,Fig.3の画像(カメラA)について,RGB像をLa*b*像,さらにLCh像に変換した。このときLCh像における各ピクセルの色相を表すhについて,階級幅0.1°としてヒストグラムを描くとFig.5 a)になった。カメラBで撮影した画像をLCh像に変換し,同じ条件で色相hのヒストグラムを描くとFig.5 c)になる。また,Fig.3,Fig.4で予想された通り,Fig.5 a),c)からFeOOHの色相はほとんど違いがないことがわかった。また,FeOOHの色相を示す部分だけを抽出してFig.5 b),d)に示した。Fig.5 b),d)において,実線は,式(7)に示したガウス関数にフィッティングした曲線であり,プロットが各色相で計算されたヒストグラムの度数である。
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Histograms of hue for LCh images of corrosion products and carbon steel. a) Overall, b) FeOOH part taken by camera A, c) Overall, d) FeOOH part taken by camera B.
式(7)へのフィッティングにおいては,ヒストグラムの度数を目的変数,色相を説明変数としており,係数A,最頻値を示す色相µ,標準偏差σを求めた。これにより,各FeOOHの代表的な色相は,最頻値を示す色相とし,カメラAの場合,α-FeOOHは89.3°,β-FeOOHは84.0°,γ-FeOOHは77.1°であり,カメラBの場合,α-FeOOHは83.6°,β-FeOOHは74.8°,γ-FeOOHは71.2°であった。詳しくは示していないが,FeFe2O4の最頻値を示す色相は,カメラAが270.0°で,カメラBが330.6°であった。カメラAとカメラBを比較すると,ほぼ同じような形のヒストグラムが得られたが,FeOOHのピーク位置はカメラBのほうがカメラAよりも5~10°程,低角側に位置していた。
3・2 試験片の画像処理カメラAで撮影した暴露試験片のRGB像をFig.6に示した。直接暴露試験片(Open)と遮へい暴露試験片(Shelter)を比較すると,直接暴露試験片は色が鮮明であり,遮へい暴露試験片は暗く不鮮明な印象を受ける。また,直接暴露試験片は暴露期間が長くなるにつれて,色相の変化が認められ,色相により腐食生成物の組成を示す可能性が示された。
RGB images of exposure test pieces. a) Open exposure for 0.5 years, b) Open exposure for 1 years, c) Open exposure for 2.5 years, d) Shelter exposure for 0.5 years, e) Shelter exposure for 1 years and f) Shelter exposure for 2.5 years.
そこで,既知の腐食生成物の画像と同様に,Fig.6の直接暴露試験片の画像(Fig.6 a), b), c))とカメラBで撮影した直接暴露試験片について,RGB値の散布図をFig.7に示した。Fig.7のそれぞれの散布図には,RGB値の算術平均値を示した。カメラA(Fig.7 a)~c))とカメラB(Fig.7 d)~f))を比較すると,概ね同じような分布をしていることがわかるが,RGB値はカメラBのほうが小さく,また,標準偏差が小さくまとまって分布していた。次に直接暴露試験片の暴露期間の違いにおいて,Fig.6で大きな違いがあるように思われた色相であるが,Fig.7 a)とc),また,Fig.7 d)とf)では,RGB値の平均値がほぼ同じ値を示した。また,Fig.7 a),c)とb),また,Fig.7 d),f)とe)ではRGB値の平均値に違いが見られるものの,RGB値の散布図で区別できるほどの明確な違いは認められなかった。さらにFig.4で示された既知の腐食生成物のRGB値がプロット範囲を単純に足し合わせただけでは,複合的な色相を示すと考えられるFig.7のプロットされた範囲を示すことができず,RGB値を用いて腐食生成物の組成比を求めることは困難であることがわかった。
Scatter plots of RGB value taken by camera A and camera B about open exposure test piece images for 0.5 years, 1 years and 2.5 years.
そのため,既知の腐食生成物で用いたLa*b*像,LCh像に変換し,色相hを用いることとした。各ピクセルの色相hを階級幅0.1°としてヒストグラムを描くとFig.8になった。ここでは,色相全体を示すグラフ(Fig.8 a), c))と得られたピークを拡大したグラフ(Fig.8 b), d))を示した。また,既知の腐食生成物と同様,ガウス関数(式(7))にフィッティングした。Fig.5に示した既知の腐食生成物の結果から,α-FeOOH,β-FeOOH,γ-FeOOH,FeFe2O4を示す複数のピークが存在し,組成比に合わせて高さが変わることを予想していたが,一つのLCh像からほぼ一つのピークしか得られず,単純な色相を足し合わせたヒストグラムにはならないことがわかった。したがって,複数のピーク位置とその度数によって,腐食生成物の組成とその組成比を求めることは困難であることがわかった。しかし,RGB値(Fig.7)と比較すると,ピーク位置が異なることがわかり,色相が異なることが示されている。また,RGB像(Fig.6)で暗い印象の画像ほど,低角側にピークが得られている傾向があった。これは,La*b*像やLCh像における黒や白は,Fig.2からa*,b*,C,hが0の状態でLが最大の場合に白,最小の場合に黒が示されることがわかるので,暗くなることはL,a*,b*,C,hの全ての値が小さくなることを示している。そのため,暗い印象を受ける画像ほど,色相hのピーク位置が低角側になることは妥当であると思われる。さらに,黒色を示す既知の腐食生成物はFeFe2O4であるため,低角側にピークが現れるほど,FeFe2O4の組成比が大きいと予想され,ピーク位置とXRDのピーク強度比から求められたFeFe2O4の組成比の相関があった。本件について,詳細は後述する。
Histograms of hue for LCh images of exposure test pieces. a) Open, b) Shelter taken by camera A, c) Open, d) Shelter taken by camera B.
千葉県銚子市で暴露した試験片に生成した腐食生成物のXRDパターンはFig.9に示した。既知の腐食生成物のXRDパターンを重ねたとき,それぞれの腐食生成物における特徴的なピークは,α-FeOOHでは21.27°,β-FeOOHでは11.82°,γ-FeOOHでは14.15°,FeFe2O4では30.09°または43.08°に得られる。したがって,直接暴露試験(Open)で生成する炭素鋼の腐食生成物は,α-FeOOH,γ-FeOOH,FeFe2O4であり,遮へい暴露試験(Shelter)で生成する炭素鋼の腐食生成物は,α-FeOOH,β-FeOOH,γ-FeOOH,FeFe2O4であることがわかった。
XRD patterns of corrosion products sampled from a) open exposure test pieces and b) shelter exposure test pieces.
次に,前述した通り,RGB像(Fig.6)で暗い印象の画像ほど,Fig.8のヒストグラムは,低角側にピークが得られている傾向があった。そこで,Fig.9のXRDパターンからRIR法によって求めた黒色の腐食生成物であるFeFe2O4の組成比とピーク位置の関係をFig.10に示した。これにより, FeFe2O4の組成比とピーク位置に相関があると思われる。ただし,XRDパターンにRIR法を適応して,実際にFeFe2O4の組成比が大きくなっていることが認められても,XRDを測定した腐食生成物は表面だけでなく,生成した腐食生成物全体を測定している。一方で,撮影は,腐食生成物の表面の画像を取得している。炭素鋼の腐食過程において,γ-FeOOHが還元されて,再酸化されることでFeOOHの結晶構造が変化していく14,15,16)ので,FeFe2O4のように2価のFeを含む腐食生成物は,さび層内部にあると考えられる。ここで0.5年間,直接暴露した試験片の場合,表面はFeOOHとFeFe2O4の混合物で覆われることで,暗い画像が得られたと思われる。しかし,1年間,直接暴露した試験片の場合は,腐食が進行し,FeOOHの還元,再酸化により表面でFeOOH,腐食生成物の内層でFeFe2O4と2層に分かれた結果,0.5年間,直接暴露した試験片よりも鮮明な画像が得られたものと考えられる。その後,さらに腐食が進行するとFeFe2O4層が厚くなったことで2.5年間,直接暴露した試験片では,1年間,直接暴露した試験片よりも暗い画像が得られたと思われる。実際,Fig.10において,1年間,直接暴露した試験片のプロットのみ傾向から外れていた。そこで,Fig.10中の推定直線を描く際は,1年間の直接暴露試験片のプロットは除いて最小二乗法を適応し,画像処理においては,この推定曲線をFeFe2O4の組成比の決定に用いた。
Relationship between FeFe2O4 and peak position.
前述(Fig.10)の通り,画像の色相hからFeFe2O4の組成比が推定できたが,色相hのヒストグラムには一つのピークしかなく,各FeOOHの推定はできていなかった。また,ピーク位置がFeFe2O4の組成比でシフトすることから,ピーク位置から各FeOOHの組成比を推定することはできないと考えられた。ただし,FeFe2O4の組成比に応じてピークがシフトするが,α-FeOOH,β-FeOOH,γ-FeOOHのそれぞれのピークに等しく影響するのであれば,ピークの位置関係,すなわち,α-FeOOHとγ-FeOOHのピークの間隔とβ-FeOOHとγ-FeOOHのピークの間隔(Fig.5 b),d))は変わらないと予想した。また,中性溶液中の炭素鋼の腐食では主にγ-FeOOHが生成することが知られており,腐食の初期段階において,写真が撮影される表層にはγ-FeOOHが生成しやすいことも知られている14,15,16)。これらのことから,色相hのヒストグラムにおいてガウス関数にフィッティングして得られるピーク位置がγ-FeOOHが示すガウス関数のピーク位置であり,カメラAの場合にはFig.5 b)から,γ-FeOOHのピーク位置から低角側に6.9°の位置にβ-FeOOHのピークが,高角側に5.3°の位置にα-FeOOHのピークがあると仮定した。カメラBの場合にはFig.5 d)からγ-FeOOHのピーク位置から低角側に3.6°の位置にβ-FeOOHのピークが,高角側に8.8°の位置にα-FeOOHのピークがあると仮定した。これにより,hのヒストグラムは,この仮定に従ったピーク位置を示す3つのガウス関数を足し合わせた関数にフィッティングすることで得られると考えた(このフィッティングの目的変数は,画像から得られた色相hのヒストグラムであり,説明変数はピーク位置が決まっている各ガウス関数の係数と標準偏差である)。このようにフィッティングして得られたガウス関数(各FeOOHのガウス関数とそれらを足し合わせた関数)とヒストグラムをプロットするとFig.11とFig.12になる。Fig.11に直接暴露試験片の場合を,Fig.12に遮へい暴露試験片の場合を示した。これらの結果から直接暴露試験片については,α-FeOOH,β-FeOOH,γ-FeOOH,それぞれのガウス関数が足し合わさり,うまくヒストグラムにフィッティングできているものと考えられる。しかし,遮へい暴露試験片については,色相hのヒストグラムが一つのピークではなく,複数の細いピークがあるように認められ,これに伴い,各FeOOHのガウス関数を足し合わされた形が大きく歪んでいることが確認できた。このような複数の細いピークは,カメラBのほうが生じやすい傾向にあるが,これはカメラの性能とヒストグラムの階級幅の設定によるものと考えられる。カメラAはコンパクトデジタルカメラで,カメラBはミラーレス一眼レフカメラであり,画素数が異なっていることに加え,おそらくイメージセンサーの性能もカメラBのほうが高いことが予想された。そのため,カメラBのほうがより複雑な色や黒色を正確に捉えることができたものと思われる。また,各ピクセルの色相hの値は,カメラBのほうがバラツキが小さくなると思われる。これらのことから,ヒストグラムを描いた際の階級幅が小さすぎたことで,ヒストグラムに複数の細いピークが生じたものと考えられる。
Histograms of hue for LCh images of open exposure test piece. a) 0.5 years, b) 1 years and c) 2.5 years taken by camera A, d) 0.5 years, e) 1 years and f) 2.5 years taken by camera B.
Histograms of hue for LCh images of shelter exposure test piece. a) 0.5 years, b) 1 years and c) 2.5 years taken by camera A, d) 0.5 years, e) 1 years and f) 2.5 years taken by camera B
このような色相hのヒストグラムから腐食生成物の組成比を推定することを考える。Fig.11に示した直接暴露試験片の場合,これらα-FeOOH,β-FeOOH,γ-FeOOHのガウス関数について,それぞれのピークの高さを示す係数の割合がα-FeOOH,β-FeOOH,γ-FeOOHの組成比であると予想し,各FeOOHの組成比を計算した。このような組成比の計算方法では,うまくフィッティングできていない遮へい暴露試験片の場合,各FeOOHの組成比が算出できないことが予想されたが,Fig.12にも適応した。また,このようにして得られた各FeOOHの組成比は,FeFe2O4を含まないので,XRDパターンにRIR法を適応して算出される組成比と比較することができない。そこで,XRDパターンと同様に腐食生成物がα-FeOOH,β-FeOOH,γ-FeOOH,FeFe2O4の4種であると仮定した。この仮定とFig.10中の計算式で得られたFeFe2O4の組成比を考えると,FeFe2O4以外の割合はFeOOHということになる。そのため,フィッティングにより得られた各FeOOHの組成比をFeFe2O4以外の割合に掛けることで,α-FeOOH,β-FeOOH,γ-FeOOH,FeFe2O4の組成比とした。XRDパターンにRIR法を適応して得られる組成比と画像処理により得られる組成比をFig.13に示した。まず,Fig.9のXRDパターンにおいて,0.5年間,直接暴露した試験片の腐食生成物に,β-FeOOHはほぼ認められないが,組成比では非常に大きく算出された。これは,Fig.9の0.5年間,直接暴露した試験片の腐食生成物のXRDパターンにおいて,27°付近のピークはβ-FeOOHとγ-FeOOHのピークが重なっているので,γ-FeOOHではなく,β-FeOOHとして認識された事によると思われる。そのため,本来はβ-FeOOHの組成比は小さく,γ-FeOOHの組成比が非常に大きいと考えられる。また,α-FeOOHの組成比は暴露期間が長くなることで徐々に大きくなり,γ-FeOOHの組成比は小さくなる傾向にあることがわかった。ここで,大気腐食において,γ-FeOOHは還元されて,FeFe2O4となり,再酸化されてα-FeOOHへと相変態していくとされている14,15,16)。このことも合わせて考えると,γ-FeOOHの組成比が小さくなるのに合わせて,α-FeOOH,FeFe2O4の組成比が大きくなっているように見受けられた。
Composition of corrosion products measured by a) RIR method from XRD pattern and estimated by image processing of images taken by b) camera A and c) camera B.
3・3で示した通り,XRDパターンによる組成比が表面の組成比を示しているかについても議論があるが,仮に真の値であるとして,画像処理で推定された組成比(Fig.13 b),c))と比較すると,傾向はよく一致しているように思われる。特にFig.12で示したように,色相hのヒストグラムにうまくフィッティングできていない試験片であっても,組成比の傾向は概ね一致したように思われる。したがって,この方法により,カメラによらず腐食生成物の画像からα-FeOOH,β-FeOOH,γ-FeOOH,FeFe2O4の組成比を求めることができると思われる。このようにカメラの影響を小さくできたのは,RAW撮影をしていたこと,画像を現像する際,カラーチャートを用いてホワイトバランスを調整したことと,ガンマ補正をしていないことの3つにより,カメラごとの影響で捉えられる色相の違いをピークシフトだけに抑えたことによると考えられる。
ただし,ここで画像処理により推定された組成比は,α-FeOOHの比率は小さく,β-FeOOHの比率は大きく推定される傾向にあった。また,一般に暴露期間が長くなるにつれて,γ-FeOOHはFeFe2O4を経てα-FeOOHやβ-FeOOHに相変態することが知られている14,15,16)。今回の実験においては,2.5年間,暴露された試験片でも傾向が一致したが,画像処理による推定方法では,γ-FeOOHのピークを中心に捉えているので,主要な腐食生成物がγ-FeOOHでなくなった場合には,推定される組成比が大きく変動する可能性がある。これについては,より長期間,暴露した試験片の適応を検証する必要がある。また,一部の試験片は,色相hのヒストグラムにうまくフィティングできておらず,階級幅の検討が必要である。これらを今後の検討課題としたい。
本研究では,屋外暴露試験により得た腐食した鋼材表面の外観をデジタルカメラで撮影し,この画像データからさび組成の推定方法を検討した。これにより得られた結果は以下の通りである。
(1)既知の腐食生成物をデジタルカメラで撮影し現像した画像を,RGB像からLa*b*像,LCh像へ変換し,色相hのヒストグラムを描くと,そのピーク位置は,α-FeOOH,β-FeOOH,γ-FeOOHとFeFe2O4で異なっていた。
(2)また,各FeOOHの色は,肉眼ではよく似ているように見受けられたが,色相hのヒストグラムにおいて,各FeOOHのピーク位置は,β-FeOOH,γ-FeOOH,α-FeOOHの順で高角側にあった。
(3)暴露試験片を撮影した画像の色相hのヒストグラムは,既知の腐食生成物ごとにピークが得られるのではなく,1つのピークとして得られることがわかった。
(4)また,腐食生成物の組成比において,FeFe2O4の組成比が大きくなるにつれて,色相hのヒストグラムのピーク位置は,低角側にシフトすることがわかった。
(5)暴露試験片を撮影した画像の色相hのヒストグラムで見られる一つのピークの形や広がりは,各FeOOHの組成比によって決まると考えられ,それぞれのFeOOHについて,ガウス関数を足し合わせた形でフィッティングしたとき,それぞれのピークの高さは組成比を表すと考えられる。
(6)ここで得られた推定方法については,カメラを変更してもある程度,適応できることを示した。これはRAWで撮影し,現像の際にホワイトバランスを調整したこととガンマ補正をしていないことにより,カメラごとの違いをピークシフトだけにしたことによると思われる。
本研究の遂行に関する利益相反の有無を宣言する。