Tetsu-to-Hagane
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Microstructure and Plasticity Evolution During Lüders Deformation in an Fe-5Mn-0.1C Medium-Mn Steel
Motomichi Koyama Takayuki YamashitaSatoshi MorookaTakahiro SawaguchiZhipeng YangTomohiko HojoTakuro KawasakiStefanus Harjo
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2024 Volume 110 Issue 3 Pages 197-204

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Abstract

The local plasticity and associated microstructure evolution in Fe-5Mn-0.1C medium-Mn steel (wt.%) were investigated in this study. Specifically, the micro-deformation mechanism during Lüders banding was characterized based on multi-scale electron backscatter diffraction measurements and electron channeling contrast imaging. Similar to other medium-Mn steels, the Fe-5Mn-0.1C steel showed discontinuous macroscopic deformation, preferential plastic deformation in austenite, and deformation-induced martensitic transformation during Lüders deformation. Hexagonal close-packed martensite was also observed as an intermediate phase. Furthermore, an in-situ neutron diffraction experiment revealed that the pre-existing body-centered cubic phase, which was mainly ferrite, was a minor deformation path, although ferrite was the major constituent phase.

1. 緒言

中Mn鋼はフェライトと準安定オーステナイトを主な構成相とし,変態誘起塑性(Transformation-induced plasticity: TRIP)効果に起因する優れた力学特性を示す。それら中Mn-TRIP鋼は不均一な塑性変形を示す1)。特に冷間圧延後に二相域焼鈍をした中Mn鋼では,降伏後に明瞭なリューダース帯2,3)およびPortevin-Le Chatelier帯4,5)の発達が観察される。このマクロに不均一な変形挙動を把握することが,塑性変形の初期段階における特異な応力ひずみ関係を理解する上で重要となる。

リューダース変形はCを含有する鋼6,7),微細結晶粒金属材料8,9,10),ならびに高加工硬化能を有する材料11)で発現することが知られる。冷間圧延焼鈍処理をした中Mn鋼もCを含有し,微細な結晶粒を有するとともに高い加工硬化率を示す材料である1,12)。また中Mn鋼のリューダース変形では,変形誘起マルテンサイト変態13,14)とミクロなひずみ分配15)が起こり,かつマクロに塑性変形の不連続性があることに特徴がある16)。これらの特徴は次のように互いに強く影響し合う。まず,変形誘起マルテンサイト変態は残留オーステナイトの主たる塑性変形機構であり,ミクロなひずみ分配の発現に寄与している。ミクロなひずみ分配が起こった領域は,マクロな局所変形の起源となり,不連続なリューダース帯の伝播を引き起こす。そしてリューダース帯の発達は表面起伏を誘起し,局所的な変形誘起マルテンサイト変態を促進する。つまり,マルテンサイト変態,ミクロひずみ分配,ならびにマクロな変形不連続性を解析して相関づけることが中Mn鋼の塑性不均一性を理解する上で本質的に重要である。

上記の観点から,我々は代表的な中Mn鋼であるFe-5Mn-0.1C鋼(mass%)1,17,1819)に着目した。Fe-5Mn-0.1Cに多少の微量元素を含む組成を有する中Mn鋼は次世代高強度高延性鋼として検討されている20,21)。特に,MnやCの量が相対的に少ない中Mn組成の検討は,コストパフォーマンスの観点から重要視される。本研究では,冷間圧延および二相域焼鈍を施したFe-5Mn-0.1C鋼を対象に,リューダース変形中のマルチスケールな変形不均一性,優先変形サイト,ならびにオーステナイトの塑性変形機構を明らかにすることを試みる。また従来報告されている中Mn鋼の結果と比較し,中Mn鋼の塑性変形の一般的特徴を明らかにする。

2. 実験方法

Fe-4.91Mn-0.092C鋼(mass%)を溶製した。インゴットを厚さ8 mmまで1200°C(仕上げ温度850°C以上)で熱間圧延し,空冷した。熱間圧延材をさらに冷間圧延することで厚さを8 mmから2 mmまで減少させた。圧延材を650°Cで30分間焼鈍し,Fig.1に示す微視組織を得た。初期組織はオーステナイトであるface-centered cubic(FCC)相と主にフェライトであるbody-centered cubic (BCC)相で構成されていた。フェライトは,結晶構造に加えて,Image qualityが高く,ラス形態を有する組織が観察されないことから判定した。この焼鈍材を放電加工し,機械的に研削することでFig.2(a)の試験片を作製した。

Fig. 1.

Initial microstructure consisting of ferrite and austenite. The austenite area fraction is 21%. The beam step size is 50 nm. The regions where confidence index is below 0.1 are show in black. (Online version in color.)

Fig. 2.

Specimen geometries used for (a) the normal tensile tests and (b) the in-situ neutron diffraction experiment (unit: mm).

引張試験は21°C,初期ひずみ速度10-2 s-1,10-3 s-1,10-4 s-1,10-5 s-1で行った。また,初期ひずみ速度10-4 s-1で5%ひずみまで変形した試料も作製した。ひずみは非接触型ビデオ伸び計を用いて測定した。5%変形材は,引張試験前にSiC耐水研磨紙,粒子径9 µmおよび3 µmのダイヤモンドサスペンションならびに粒子径60 nmのコロイダルシリカを用いて研磨した。5%変形後にも,9 µmと3 µm径のダイヤモンドサスペンションおよび60 nm径のコロイダルシリカを用いて研磨した。研磨表面は,電子チャネリングコントラストイメージング(ECCI)法および電子後方散乱回折(EBSD)法を用いて観察した。ECCI法とEBSD法による観察はそれぞれ加速電圧30 kVおよび20 kVで行った。

引張変形中その場中性子回折測定は大強度陽子加速器施設(J-PARC)内の物質・生命科学実験棟(MLF)に設置された飛行時間型の工学材料回折装置である“TAKUMI”22)にて実施した。引張試験条件は25°C,初期ひずみ速度2.0×10-5 s-1とし,入射中性子ビームに対して引張負荷方向が45°となるように試験片を配置することで,引張方向(axial)と引張方向に垂直な方向(Transverse)の中性子回折データを同時に測定した。入射ビームのスリットサイズは5 mm幅×5 mm高とし,5 mmのラジアルコリメーターを採用した。中性子回折に使用した陽子のビーム強度は600 kWであった。Fig.2(b)にその場中性子回折測定に用いた試験片形状を示す。中性子回折測定は最大引張強度に到達するまで実施し,得られた中性子回折のデータは300 s間隔で時分割した。引張負荷方向のフェライトとオーステナイトのいくつかのhkl格子面の半値全幅はリートベルト解析ソフトウェア“Z-Rietveld”23)によるシングルピークフィッティングにより解析した。フェライトとマルテンサイトのピークの分割の際には,変形中においてマルテンサイトのc/a比が一定であると仮定し,簡潔のためにマルテンサイトの結晶構造をブロードなピークを有するBCCであるとして取り扱った。

3. 結果および考察

3・1 応力ひずみ応答

Fig.3は各ひずみ速度の公称応力ひずみ曲線を示している。流動応力に有意なひずみ速度依存性は見られなかったが,低ひずみ速度では明瞭なセレーションが現れた。このセレーションは動的ひずみ時効に由来する4)。リューダース変形は全てのひずみ速度で現れ,リューダース伸びにひずみ依存性は見られなかった。本研究では,このリューダース変形に関連する組織発達に注目する。

Fig. 3.

Engineering stress-strain curves obtained at different strain rates. (Online version in color.)

3・2 リューダースフロントの形態と関連する変形帯の形成

5%公称ひずみでリューダース帯の伝播は終了直前まで至っていた。このときのリューダースフロント周辺のECC像をFig.4(a)に示す。リューダースフロントでは変形が不均一かつ不連続に起こっていることがわかる。このため,リューダースフロントの位置を明確に決定することができない。代替として,本研究では変形帯が密に形成している領域をリューダースフロントとする(本来の変形帯の定義と異なるが,ここで観察される変形で誘起された帯状組織を一語で表現するため,本論文ではこれを便宜的に変形帯と呼称する。)。多数の変形帯がリューダースフロント周辺で観察され,黒矢印で示すように太い変形帯が互いに有意な間隔をもって形成している。また黄矢印で示すように,粗く分布している太い変形帯の間に微細な変形帯が形成していた。Fig.4(b)に示す拡大像では,リューダースフロントの最前線が高密度かつ微細な変形帯の集団で構成されていることがわかる。ECC像で現れている明るいコントラストは二次電子線像では観察されないので(Fig.4(c)),観察された変形帯に対応するECC像中のコントラストは試料内部の微視組織変化に対応しているといえる。

Fig. 4.

ECC images showing (a) an overview and (b) a magnified image of the Lüders front. (c) Secondary electron image at the location identical to (b). The black and yellow arrows in (a) indicate coarse and fine deformation bands, respectively. (Online version in color.)

リューダース帯が通過した領域の相マップ(Fig.5(a))では,オーステナイト分率が9%と測定された。初期オーステナイト分率は21%であったので,変形帯の発達に関係する微視組織変化の一つはFCC相からBCC相またはbody-centered tetragonal(BCT)相へのマルテンサイト変態である。この挙動は従来報告されている他の中Mn鋼と同じである13,14)。以降,BCCまたはBCTマルテンサイトについては簡単のためBCCマルテンサイトと呼称する。Hexagonal close-packed(HCP)構造を有するマルテンサイトもEBSDで検出された。さらに,リューダース帯伝ぱにともなう塑性発達の初期段階であるリューダースフロントの領域では板状マルテンサイトが形成していた(Fig.5(b))。この板状マルテンサイトは中Mn鋼においてはHCPマルテンサイトであることが報告されている12)。これら結果は少なくともBCCマルテンサイトの一部がHCP構造を経て形成していることを示唆している。

Fig. 5.

(a) EBSD phase map of the region where the Lüders band fully propagated. The fraction of austenite in this region is 9%. The beam step size is 30 nm. The regions where confidence index is below 0.1 are shown in black. (b) ECC image of the Lüders front region. (Online version in color.)

3・3 リューダース変形中におけるマルテンサイト変態およびミクロ塑性発達

次に,リューダースフロントの前方における組織発達に注目した。Fig.6Fig.4(a)にハイライトしてある変形帯の画像である。5%変形後に試料表面を機械研磨しているので,Fig.6(b)の二次電子線像で示されるように表面起伏は存在しない。変形帯ではマルテンサイトの形成が確認された(Fig.6(c))。対応して,EBSD測定で得た相マップ(Fig.7(b))は変形帯における有意なオーステナイト分率の減少を示している。つまり,変形帯内の支配的な塑性変形機構の一つはBCC相への変形誘起マルテンサイト変態である。また,変形帯外の領域では変態が起こっておらず,これら結果は他の中Mn鋼のリューダース変形に関する従来報告内容と同じである16)

Fig. 6.

(a) ECC images showing the coarse deformation band highlighted in Fig. 4(a). (b) Magnified secondary electron and (c) ECC images of the locations indicated in (a). The yellow arrows indicate martensite. (Online version in color.)

Fig. 7.

(a) ECC image highlighted in Fig. 4(a). (b) Phase map of the region indicated in (a). The beam step size is 50 nm. The regions where confidence index is below 0.1 are shown in black. (Online version in color.)

Fig.8に複数変形帯の間の領域における高分解能EBSD観察の結果を示す。Fig.8(a)に示す相マップは20%のオーステナイト分率を示している。つまり,この領域では有意なマルテンサイト変態が起こっておらず,Fig.7(b)の結果と整合している。さらに,転位の導入とともに低下するImage quality(IQ)値24)(IQ値のひずみ依存性は単調ではないので像の定量的解釈には注意が必要である25)。)は各相において均一に分布している。つまり,変形帯間では転位すべりがフェライトおよびオーステナイトの両相において有意に起こっておらず,Fe-10Mn-0.05C-1.6Al中Mn鋼で報告されている結果16)に合致している。対照的に,変形帯を含む相マップ(Fig.9(a))に着目すると,変形帯が発達した像右半分の領域ではオーステナイト分率が8%まで低下している。対応するIQマップ(Fig.9(b))では,変形帯領域でIQ値の著しい低下が観察される。マルテンサイトは多数の転位を内包するため,BCCマルテンサイトの領域において最低のIQ値が観測される。興味深い点として,主にフェライトで構成される先在BCC相では,変形帯領域においてもIQ値の顕著な低下が観察されない。一方,未変態オーステナイトではIQ値の低下がみられる。より明瞭にIQ値の低下を示すため,オーステナイトの粒平均IQマップをFig.9(c)に示す。像右半分の領域における粒平均IQ値は左半分における値よりも低いことがわかる。つまり,変形誘起マルテンサイト変態が起こらない結晶粒であっても,フェライトに比べてオーステナイトが優先的に変形したことがわかる。この未変態オーステナイトにおける局所変形は中Mn鋼の動的ひずみ時効発現時にも同様に報告されている4)

Fig. 8.

(a) Phase and (b) image quality maps in the region between two deformation bands as highlighted in Fig. 7(a). The beam step size is 20 nm. The regions where confidence index is below 0.1 are show in black. The displayed values in (b) indicate actual minimum and maximum image qualities. The values for scaling the gray contrast are set at 7857 and 166743 for minimum and maximum values, respectively, which are identical to the actual minimum and maximum values shown in Fig. 9(b). (Online version in color.)

Fig. 9.

(a) Phase and (b) image quality, and (c) grain average image quality maps in the region highlighted in Fig. 7(a). The right parts of the images contain the deformation band. The beam step size is 20 nm. The regions where confidence index is below 0.1 are shown in black. (Online version in color.)

フェライトよりも未変態オーステナイトで優先変形していることを証明するために,その場中性子回折実験を引張変形中に行った。Fig.10は引張ひずみに対する回折ピークの半値幅(FWHM)の変化を示している。この値は定性的には塑性発達に対応している26)。オーステナイトであるFCC相のFWHMはひずみとともに連続的に増加しており,未変態オーステナイト中の転位密度増加が示されている。FCC相と比較して,BCC相におけるひずみ発達にともなうFWHMの増分は小さい。BCC相は多数の転位が内在するマルテンサイト形成の影響を含んでいるので,FWHMがわずかにしか上昇していない結果はフェライトの塑性変形がFCC相に比べて大きくないことを示唆している。これら結果は,Fig.9(c)に示したフェライトが支配的な塑性変形パスではない,という結果を支持している。

Fig. 10.

Full width at half maximum plotted against measurement time in (a) FCC (γ) and (b) BCC (α) phases. (Online version in color.)

先行研究と本研究結果から考えると,冷間加工後に熱処理をした中Mn鋼のリューダース変形中の塑性発達におけるフェライトの役割は化学組成および微視組織に依存することがわかる。650°Cで熱処理をしたFe-10Mn-0.05C-1.6Al鋼16)では,フェライトの塑性発達挙動が本研究結果と類似している。つまり,フェライトは支配的な塑性変形パスではなかった。対照的に,600°Cで熱処理したFe-7Mn-0.1C鋼12)では,本鋼と微視組織は類似するものの,リューダース変形を伴う降伏段階でフェライトとオーステナイトの両相で有意な塑性発達が起こっていた。これら局所塑性挙動を支配する因子として,(1)結晶粒径,(2)オーステナイト粒の連結度,(3)各相の固溶強化の程度,(4)降伏段階におけるオーステナイトの安定度,(5)初期転位密度,の5つが考えられる。これら鋼のオーステナイト特性をTable 1にまとめる。これら因子の中で粒径については,Fe-10Mn-0.05C-1.6Al鋼,Fe-7Mn-0.1C鋼ならびに本鋼の間に有意な差はない。またWangら15)は,リューダース変形中の局所塑性は粒径と結晶方位に鈍感であると報告している。本鋼のオーステナイト粒の連結度は,他の二つの鋼よりも低い。これはオーステナイト分率が他の二種の鋼の半分であることに起因する。このためオーステナイト連結度の観点では,Fe-7Mn-0.1C鋼は本鋼よりもオーステナイトが変形し易い。つまり,粒径とオーステナイト連結度はFe-7Mn-0.1C鋼でフェライトの塑性変形が有意に起こった理由を説明する因子にならない。固溶強化に観点では,Alがフェライトを,Cがオーステナイトをそれぞれ強化している。よって,Fe-7Mn-0.1C鋼と比較すると,Alが添加されており,C量が低いFe-10Mn-0.05C-1.6Alはより硬いフェライトと軟らかいオーステナイトを有しているはずなので,Fe-7Mn-0.1C鋼でフェライトが有意に変形している事実と合う。しかし,本鋼のオーステナイト分率はFe-7Mn-0.1C鋼の半分でかつ公称炭素量が同じなので,本鋼のオーステナイト中のC量はFe-7Mn-0.1C鋼よりも高い。よって,固溶強化の観点では,本鋼でもフェライトが塑性変形するはずであり,この点が本研究結果と整合しない。相安定度の観点では,オーステナイト安定度の低下がマルテンサイト変態の臨界応力を低下させる。つまり,降伏がマルテンサイト変態で支配されているとき,オーステナイトの降伏応力はオーステナイト相安定度の低下とともに下がる。この考えとともに,Fe-10Mn-0.05C-1.6Al鋼とFe-7Mn-0.1C鋼の化学組成に注目する。オーステナイト中のMn量は両鋼とも13 wt.%と見積もられている12,16)。つまり,Alの影響は小さいと仮定すれば,Fe-10Mn-0.05C-1.6Al鋼と比較して二倍のC量を有するFe-7Mn-0.1C鋼はより高いオーステナイト相の安定度を有しているはずである。つまり,降伏におけるオーステナイトの相安定性と関連するマルテンサイト変態の挙動はFe-7Mn-0.1C鋼におけるフェライトの優先的な塑性発達を説明する因子となりうる。しかし,固溶強化に対する議論と同様に,本鋼のオーステナイトはFe-7Mn-0.1C鋼よりも固溶炭素を含んでいるので,降伏における相安定性の影響も中Mn鋼の局所塑性を包括的に説明する因子にはならない。残る因子である初期転位密度はこれまで観察された局所塑性発達に対して包括的な解釈を与えうる。Wangらの報告によると15),中Mn鋼におけるリューダース変形中のフェライトの局所塑性は各粒の初期転位密度に依存するとされる。より具体的には,フェライト中の先在転位の存在がフェライトの局所変形開始を助けるとされている。この報告に準じて考察すると,より低い二相域焼鈍温度で熱処理したFe-7Mn-0.1C鋼(600°C)では他の鋼(650°C)よりも熱処理後の転位密度が高いと考えられるので,リューダース変形中のフェライトの塑性発達を助長していると想定される。

Table 1. Comparison of the characteristics of retained austenite in three cold-rolled and intercritically annealed medium Mn steels with sub-micrometer-sized austenite grains.

Heat treatment temperatureAustenite fractionMn content in austeniteAustenite morphologyStrain pathRef.
Fe-10Mn-0.05C-1.6Al650 °C40%13 wt.%BlockyAustenite[16)]
Fe-7Mn-0.1C600 °C39%13 wt.%BlockyFerrite and austenite[12)]
Fe-5Mn-0.1C
(Present steel)
650 °C21%BlockyAustenite

総括すると,中Mn鋼におけるリューダース変形中の局所塑性発達に影響する主因子として,フェライトに対するオーステナイトの相対的転位易動度およびオーステナイトの機械的安定度に加えて,フェライトの初期密度を考慮する必要性が示唆された。

4. 結論

モデル合金として冷間圧延後に二相域焼鈍したFe-5Mn-0.1C鋼(wt.%)に着目し,リューダース変形中の組織および塑性発達の挙動を観察した。得られた結果を以下に示す。

(1)他の中Mn鋼と類似して,Fe-5Mn-0.1C鋼はサブmmスケールの変形不連続性が観察された。塑性変形の優先パスは残留オーステナイトであり,リューダース変形中にマルテンサイト変態が起こっていた。

(2)変形誘起マルテンサイト変態はFCC→HCP→BCC/BCTの順に起こった.

(3)粗い変形帯がリューダースフロントの前方に形成し,微細な変形帯が粗い変形帯の間に形成した。

(4)先在BCC相は主にフェライトであり,微視的塑性変形パスとしては支配的ではない。この結果はその場中性子回折実験によっても支持された。

(5)リューダース変形中,変形帯以外の領域では有意な塑性発達が起こらなかった。

これら挙動はFe-10Mn-0.05C-1.6Al鋼で報告されている結果と類似しているが,Fe-7Mn-0.1C鋼における結果とは異なる。この差は,初期転位密度の差異によるものである可能性がある。

謝辞

本研究はJSPS科研費(JP20H02457)の助成を受けて遂行した。中性子回折実験は日本原子力研究開発機構のJ-PARC内のMLFに設置された工学材料回折装置TAKUMIにて一般課題(No. 2019P0600)として実施した。

文献
 
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