Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Regular Article
Settling of Particle in Foaming Slag
Shin-ichi Shimasaki Shigeru UedaNoritaka SaitoKenji Katoh
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 110 Issue 6 Pages 494-502

Details
Abstract

In the steelmaking process, molten slag is foamed through gas injection and gas generation reactions, and molten iron droplets get mixed and trapped in the slag. A settling velocity of an iron droplet in the foaming slag are very important, because a residence time of an iron droplet in the slag is directly calculated the settling velocity. According to the previous research, the settling velocity is expected to be slower than in regular non-foaming slag. However, it has yet to be quantitatively clarified. This study measured the settling velocities of particles through a foaming liquid of glycerin-water solution. A dimensionless correlation equation for particle settling velocity in the formed liquid was proposed by conducting a dimensional analysis of the experimental data. Using the obtained equation, we have predicted the settling velocity of iron particles in the foaming slag. It was clarified that the settling velocity of iron particles is highly affected by a volume fraction of gas phase in the foaming slag. There is a certain threshold for the velocity, and the velocity abruptly became zero when it falls below that threshold.

1. 緒言

適切な転炉操業のためには,フォーミングしたスラグの物性値やその内部で生じる各種の物理現象が正確に把握されねばならない。製鋼の転炉操業では,ガスの吹き込みやガスの生成反応によってスラグ内に多数の気泡が生成し,フォーミングした状態になっている。フォーミングしたスラグは,内部にメタル滴や溶け残った造滓剤などが含まれた複雑な多相流体を構成している。これらの多相流体は,気-液の場合はフォーム,固-液の場合はサスペンション,液-液の場合はエマルションと呼ばれ,それぞれのレオロジー的な性質が議論されている。

多相流体となったスラグは,その見かけ粘度が単相の場合よりも大きくなることが報告されている。多相流体の粘度は主に回転粘度計を用いて測定されている。SukenagaらやHarukiらはコールド・モデルを用いてサスペンションを構成し,その模擬スラグの見かけ粘度を回転粘度計により測定している1,2)。またフォームについても同様に,コールド・モデルで構成されたフォームの見かけの粘度を,回転粘度計を用いて測定した例が報告されている3,4)。いずれの研究においてもサスペンションおよびフォームの見かけ粘度は液体単相のものよりも大きく,粘度がずり速度に依存した非ニュートン性を示していたことが報告されている。

見かけ粘度が大きいということは,その中を沈降する粒子の相対速度が小さくなり,粒子の滞在時間が長くなることを意味する。著者らのグループは,落球法によりフォームの見かけ粘度の測定を行なっている5)。液の粘度やフォームの気相体積率,粒子密度などをパラメータとしてフォーム中に粒子を落下させ,粒子の終末速度から見かけの粘度を見積もっており,落球法により評価されたフォームの見かけ粘度は,液体単相の場合よりも大きくなることが示されている。また,フォームは複雑な非ニュートン性を示すことが見出されている。

スラグ中における精錬反応を予測するためには,メタル滴の大きさやその相対速度を知ることは重要である。Misraら6)は転炉の総合的な反応モデルの構築を試みている。また近年ではBiswasら7)が同様な転炉における精錬反応モデルの構築を試みているが,いずれのモデルにおいてもフォーミングしたスラグ中におけるメタル滴の沈降速度(すなわち滞在時間)が重要な役割を演じている。Martinssonら8)はフォーム中における粒子の沈降速度をコールド・モデルにより測定し,半経験的なモデルを提案している。さらにSubagyo and Brooks9)はフォームの中での粒子の沈降速度に関する実験式を提案している。これらの先行研究ではフォーム中の粒子の沈降が大幅に遅くなることが報告されており,場合によっては,粒子は沈降せずにフォームにトラップされてしまうこともある。Liらのレビュー10)にガス/スラグ/メタルのエマルションから回収された粒鉄のサイズがまとめられている。そのサイズの範囲は広く,小さいものは数十µm,大きいものでは数mmから10 mm以上に及んでいる。単相のスラグの場合であれば,これほど大きな粒鉄がスラグにトラップされているとは考えにくく,フォーミングしたスラグと粒子の相互作用が考慮されなければならない。また,先行研究で示されているように,回転粘度計によって測定されたフォームの見かけ粘度と,落球法によって測定されたフォームの見かけ粘度は,どちらも液体単相の場合よりも大きい。しかし,両者は単純に一致している訳ではなく,その関係については未だ不明確なままである。

以上のような背景をもとに,本研究においては,フォーム中における粒子の落下速度に焦点を当てた研究を行う。落球法ではフォームの見かけ粘度を測定することができるが,同時に,フォーム中における粒子の終末沈降速度を直接測定していることになる。落球法によるフォームの見かけ粘度の測定実験5)を,粒子の落下速度測定実験として解釈し,回転法によって得られた見かけ粘度との関係を議論する。次元解析を行い,得られた実験結果をフォーム中における粒子の沈降速度に関する無次元相 間式としてまとめた。

2. 落球法の実験方法

落球法の実験はコールド・モデルで行なっている。フォーミングしたスラグ中における粒子の沈降を模擬するために,模擬スラグとして化学反応によるガス発生を利用した方法11)によりグリセリン水溶液系の気液混相流体を生成した。ガスの発生には次式による炭酸水素ナトリウムNaHCO3とシュウ酸C2H2O4の反応を用いている。

  
C2H2O4+2NaHCO3Na2C2O4+H2O+CO2(g)(1)

炭酸水素ナトリウムとシュウ酸をあらかじめグリセリン水溶液に溶解させ,実験容器内で混合することによって二酸化炭素の気泡を生成させた。実験容器は内寸が底面積25 mm×44 mm,高さ300 mmとなるように厚さ3 mmのアクリルで構成されている。容器内にフォームが充満したところで,直径2 mmの密度の異なる球(ステンレス鋼・チタン・ガラス)を上部から投入し,その沈降速度を計測した。実験方法の詳細は既往の文献5)を参照されたい。

実験条件をまとめたものをTable 1に示す。実験はグリセリン水溶液の濃度x,フォームの気相体積率ϕ,落下させる粒子の密度ρpをパラメータとして実験を行なっている。フォームの気泡径dfは,フォームを撮影した写真の画像解析を行なって平均値を算出している。Table 2に示すように,dfはグリセリン水溶液の濃度とフォームの気相体積率に依存して1.19 mmから1.80 mmの範囲で変化していた。落下させた球の直径は2 mmであるので,フォームの気泡径は球と同程度か球よりも小さい。

Table 1. Experimental conditions.

particle diameter, dp2 mm
density of particle, ρp2500, 4510, and 7930 kg/m3
glycerol mass fraction, x0.2, 0.35, 0.5, 0.65, and 0.8
density of glycerol solution, ρl1051, 1090, 1129, 1168, and 1208 kg/m3
viscosity of glycerol solution, μl1.76, 3.06, 6.00, 15.2, and 60.1 mPa s
surface tension of glycerol solution, σl71.7, 70.4, 69.3, 68.3, and 67.4 mN/m
volume fraction of gas, ϕ0.3, 0.5, and 0.7
bubble diameter of foam, df1.19 – 1.80 mm
Table 2. Mean diameter of foam bubble. (unit: mm)

glycerol mass fraction, x
0.20.350.50.650.8
Volume
fraction
of gas, ϕ
0.31.191.311.431.431.43
0.51.311.431.551.591.64
0.71.541.591.641.721.80

落球法においては,粒子の終末沈降速度を求めることによって,フォームの見かけ粘度を評価する。ストークスの領域を仮定すると,粒子の終末沈降速度vp

  
vp=dp2(ρpρf)g18μf(2)

となる。ここでρfµfはそれぞれフォームの見かけ粘度と見かけ密度である。ρfは気相体積率ϕを用いて,

  
ρf=(1ϕ)ρl+ϕρb(1ϕ)ρl(3)

となる。また式(2)よりµf

  
μf=dp2(ρpρf)g18vp(4)

となり,フォームの見かけ粘度を粒子の終末速度から評価することができる。Fig.1に,フォームの気相体積率が0.7の場合のグリセリン水溶液の濃度と測定された粒子の終末沈降速度の関係を示す。グリセリン濃度が高くなり液の粘度が高くなるにつれて沈降速度が遅くなっていること,粒子が重くなると沈降速度が速くなっていることが分かる。このときの相対粘度(フォームの見かけ粘度を液の粘度で除したもの)をFig.2に示す。基本的には液の粘度が大きくなるにつれて相対粘度は大きくなっており,相対粘度は最大で100倍以上に達している。ただしグリセリン濃度が最も高い0.8の場合の相対粘度は20倍前後となっており,単調な関係ではない。また,粒子の密度が小さくなるほど相対粘度は小さくなる傾向がある。

Fig. 1.

Experimental results: relationship between glycerol mass fraction of liquid and terminal velocity. Gas fraction of foam is 0.7. (Online version in color.)

Fig. 2.

Experimental results: relationship between glycerol mass fraction of liquid and relative viscosity of foam. Gas fraction of foam is 0.7. (Online version in color.)

3. 回転法と落球法により測定されたフォームの見かけ粘度

Yamashitaら3)はコールド・モデルを用いて,フォーミングした液体の見かけ粘度を回転粘度計により測定している。彼らの結果によると,フォームの見かけ粘度と液の粘度の比は,Einstein-Roscoeの式を用いて気相体積率ϕの関数として以下のようにまとめられている。

  
μfμl=1(1aϕ)n(5)

ここで

  
n=0.148Ca0.371,Ca=μ1γdbσ1(6)

である。回転粘度計の場合のずり速度γは,内側の円筒半径riと外側の円筒半径roおよび回転角速度ωを用いて

  
γ=2ω1(ri/ro)(7)

と表すことができる。式(5)におけるaは形状因子であり,気泡が球形の場合は定数1となる。グリセリン濃度x=0.8のときの,ずり速度とフォームの見かけ粘度の関係をFig.3に示す。式(5)では,フォームの気相体積率ϕが大きくなるにつれて,また,ずり速度γが小さくなるにつれて,見かけの粘度が大きくなることが分かる。

Fig. 3.

Relationship between shear rate and apparent foam viscosity. (Online version in color.)

回転法で得られた粘度の推算式を,落球法の実験で生成したフォームに適用することを考える。粒子によって生じる流れ場のずり速度は粒子の落下速度をvpとして,

  
γ=3vp/dp(8)

と見積もることができる12)。落球法の測定で得られた粒子の落下速度vp式(8)(6)および(5)に順次代入していくと,回転法によって得られた粘度推算式を使って,粒子が落下しているフォームの粘度を評価することができる。Fig.4に,このようにして得られたフォームの粘度を比較した図を示す。横軸は落球法の式(4)により評価された見かけ粘度であり,縦軸は式(5)から評価された見かけ粘度である。両者の傾向は概ね一致しているが,その大きさはかなり異なっている。落球法によって評価された粘度は,回転法によって得られた式から評価された粘度よりも数倍から20倍程度大きくなっており,その差は主に気相体積率に依存しているように見える。これは回転法によって得られた見かけ粘度を用いてフォーム中の粒子の終末速度を評価すると,終末速度を過大に評価してしまうことを意味する。またFig.4には比較のためにMartinssonら8,13)によって得られた実験値もプロットしてあるが,その傾向は本研究で得られた結果と一致しており,落球法で評価した粘度は回転法のものよりも大きい。

Fig. 4.

Comparison of estimated foam viscosity between falling sphere method and rotation viscometer. (Online version in color.)

回転法によって測定されたフォームの見かけ粘度と,落球法で評価されたフォームの見かけ粘度の違いについて考察してみる。回転法においては,測定対象であるフォームは定常状態で回転している。そのため,回転の内側と外側で気相体積率などが分布を持つ可能性がある。また,回転法では空間的・時間的にも一定のずり速度のもとでの粘度を測定している。一方で,粒子法においては均一なフォームに粒子を落下させるので,回転に伴うフォームの不均一さを考慮する必要がない。また,静止状態のフォームに対して粒子が相対運動を行うので,粒子周辺のずり速度は空間的・時間的に分布を持っており,一定ではない。すなわち回転法と落球法では,そもそも異なる状態における粘度を測定していることになる。

さらに,フォームの気泡径が落下粒子と同程度か大きい時(dbdp)は,フォームはもはや均一な流体として近似することができず,粒子はフォームの構造の影響を顕著に受けるようになる。この場合,(1)粒子はフォームの泡を押しのけるか,(2)フォームの構造に沿ってジクザグに落下するか,あるいは,(3)フォームの構造を破壊しながら直線的に落下することになる5,13)。いずれの場合においても,均一流体中の場合に比べて粒子は余分な仕事をする必要がある。これらの影響を受けて,回転法により測定した見かけ粘度から粒子の終末速度を計算すると過大に評価してしまうと考えられる。

Eguchi and Karinoは,血液やポリマーの懸濁液のような非ニュートン流体について回転式粘度計と落球法によって測定された粘度の比較を行い,両者が限られた場合しか一致しないことを報告している12)。またChoらは14),落球法を用いて非ニュートン流体の粘度を測定し,定常のずり速度における粘度とは一致しないことを報告している。Fig.4やこれらの先行研究によって示されているように,非ニュートン流体の場合は,回転法によって測定された見かけ粘度を用いて単純に粒子の沈降速度を評価することはできない。

4. 無次元相間式

静止流体中を終末速度で沈降/浮上する粒子を扱う場合には,レイノルズ数とアルキメデス数の二つの無次元数を使うと見通し良く議論することができる。Stokes則の式(2)の両辺に(dp ρf)⁄µfをかけると,

  
dpvpρfμf=118dp3ρf(ρpρf)gμf2(9)

すなわち

  
Re=118Ar(10)

が得られる。ここで左辺のReは終末沈降速度に対応した粒子レイノルズ数,右辺のArは重力場における浮力と粘性力の比を表した無次元数でアルキメデス数と呼ばれる。Haider and Levenspielはこの式をストークスの領域外にも適用できるように補正して,以下の無次元相間式を提案している15)

  
Re=(18Ar+2.4124Ar1/2)1(11)

右辺括弧内の第二項はストークス領域からの差異を表しており,Ar≪1の場合,上式はストークス則の式(10)に一致する。

落球法の実験で得られた終末速度をRe-Ar図にプロットしたものをFig.5に示す。ここでは無次元数の計算に用いた密度と粘度は,それぞれ式(3)および式(5)で評価したものを用いている。図より,フォーム中の粒子は通常の単相中における終末速度よりも数倍から十数倍遅くなっていることが分かる。実験結果を見るとフォームの気相体積率が大きくなるとHaider and Levenspielの式から離れる傾向が見られるが,Martinssonらの結果(気相体積率ϕ=0.73–0.85)を併せて考えると,単純に気相体積率だけに依存しているわけではない。Haider and Levenspielの式(単相流)からの差異は,気相体積率に主に依存し,さらに表面張力などの別の要因も併せて考慮する必要がある。

Fig. 5.

Re-Ar diagram. (Online version in color.)

静止流体中を終末速度で沈降する粒子に関して,以下の式を用いて無次元相間式を構築する。

  
Re=f(Ar, La,ϕ)(12)

ここでLaはラプラス数であり,慣性力と表面張力の積に対する粘性力の比率を表す無次元数である。Martinsonはフォームの表面張力をパラメータとして粒子落下実験を行い,表面張力が大きいほど粒子の落下速度が小さくなる傾向があることを報告している8)。すなわち,粒子の終末速度(すなわちRe)は,表面張力を含んだ無次元数によって相間されるものと考えられる。候補となる無次元数はキャピラリー数,ウェーバー数など幾つか考えられるが,ここでは最も相間の良かったラプラス数を採用した。

本研究における実験条件では,フォームの気相体積率ϕおよびLa数のいずれにおいても値が増加するに従って,粒子の沈降速度が遅くなる傾向が見られた。そこで無次元相間式の関数形として以下の形を採用した。

  
Re=(18Ar+2.4124Ar1/2)111.0+αLaβϕγ(13)

フォームの気相体積率ϕもしくはLa数がゼロの場合は,上式は単相流の場合のHaider and Levenspielの式(11)に帰着する。実験データをフィッティングすることにより,式(13)の係数αβおよびγを以下のように決定した。

  
Re=(18Ar+2.4124Ar1/2)111.0+18.6La0.226ϕ5.26(14)

式(14)のHaider and Levenspielの式(単相流)からの差異を表す項を見ると,La数に対しては0.226次,気相体積率ϕに対しては5.26次の依存性となっており,気相体積率に主に依存していることがわかる。

この無次元相間式によって評価した粒子の沈降速度を実験値と比較したものをFig.6に示す。実験データと相間式は広い範囲で最大で5倍程度の誤差で一致している。なお参考のために図中にはMartinssonらの実験データ8,13)もプロットしてあるが,傾向は概ね一致している。誤差の要因について考察してみる。回転法による見かけ粘度の式(5)においては,フォーミングしたスラグの見かけ粘度はずり速度,すなわち粒子の沈降速度に依存しており,粒子が遅くなるに従って見かけ粘度が増加し,粒子が速くなるに従って見かけ粘度が減少する。粒子の沈降速度が見かけ粘度に対してこのような依存性を有しているため,実験条件のほんの僅かの速度の差が大きく拡大されやすい。このため,Fig.6に示すようなデータのばらつきが生じたものと考えられる。

Fig. 6.

Comparison of terminal settling velocity between the experiments and the correlation equation. (Online version in color.)

5. フォーミングしたスラグ中における粒鉄の沈降の試算

提案した無次元相間式を用いて,フォーミングしたスラグ中における粒鉄の沈降速度を試算した。計算に用いた物性値16)Table 3に示す。用いた式は式(5)式(6)および式(8)である。これらの式を用いてフォームの見かけ粘度を推算する場合,フォームの粘度は粒子の落下速度に依存し,同時に落下速度はフォーム粘度に依存することになり,式が閉じていない。そのため,反復法を用いた計算で収束させる必要がある。対象とした粒鉄の直径は10 µmから10 mmの範囲とし,フォームの気相体積率は0.6,0.7,0.8および0.9で計算を行った。

Table 3. Properties used for estimation16).

particle diameter, dp10 μm–10 mm
density of particle, ρp7580 kg/m3
density of molten slag, ρl3500 kg/m3
viscosity of molten slag, μl0.1 Pa s
surface tension of molten slag, σl0.470 N/m
bubble diameter of foam, df5 mm
volume fraction of gas, ϕ0.6, 0.7, 0.8, and 0.9

試算した結果をFig.7に示す。気相体積率ϕ=0の線はスラグ単相の場合の結果である。スラグがフォーミングすると粒子の沈降速度が遅くなっていることがわかる。気相体積率が高くなるほど沈降速度はより遅くなっている。この試算結果で特徴的なのは,粒子径に閾値があり,その閾値を下回ると急激に粒子の沈降速度が遅くなりゼロになってしまうことである。先に議論したように,回転法による見かけ粘度の式(5)においては,フォーミングしたスラグの見かけ粘度はずり速度に依存しており,粒子が遅くなるに従って見かけ粘度が増加する。粒子径が閾値を超えて小さくなり粒子の沈降速度が遅くなるとこのフィードバックがかかり,粒子沈降速度がゼロになってしまうと考えられる。フォーミングした液体に粒子がトラップされ,沈降速度がゼロになる現象がしばしば観察されているが,閾値の存在はこのトラップ現象に相当するものと推察できる。

Fig. 7.

Estimation of settling terminal velocity of iron particles in foaming slag. (Online version in color.)

転炉での吹錬が終わって排滓する前に,スラグを沈静させてスラグ内に残留している粒鉄を沈降させて回収することを考える。スラグの厚みを5 m,沈静時間を300秒と仮定すると,スラグ最上部にあった粒子が全て沈降するために必要な速度は16.7 mm/s(=5000 mm/300 s)である。Fig.7によると,気相体積率が高いフォーミング・スラグ(ϕ=0.9)の場合,7 mm以上の粒子は全て沈降し,3 mm以下の粒子は全てトラップされることになる。気相体積率が低いフォーミング・スラグ(ϕ=0.6)の場合,2 mm以上の粒子は全て沈降し,65 µm以下の粒子は全てトラップされる。沈降速度は気相体積率に依存しているため,沈降速度を速くするには気相体積率を小さくする必要がある。

Liら10)は,エマルション化したスラグ中から回収された粒鉄の大きさをまとめて報告している。それによると,回収された粒鉄の大きさは,小さいもので十数µm,大きいもので数mmから10 mm以上となっている。これらは操業中のスラグから回収されたものや,転炉の外に飛び出たスプラッシュから回収されたものも含んでおり,必ずしも沈静中のスラグ中の粒鉄と一致するとは限らないが,その大きさのオーダーはFig.7の予測値と一致している。

6. 結言

本研究ではフォーミングした液体中における粒子の落下速度を実験的に調査し,以下の結論を得た。

(1)フォームの見かけ粘度は,液単体の場合に比べて大幅に増加する。

(2)落球法によって測定されたフォームの見かけ粘度は,回転法によって測定された粘度よりも大きく,回転法によって測定された粘度を用いて粒子の沈降速度を評価すると,終末速度を過大に評価してしまう。

(3)フォーム中における粒子の終末沈降速度を予測するための無次元相間式を以下のように構築した。

  
Re=(18Ar+2.4124Ar1/2)111.0+18.6La0.226ϕ5.26

(4)得られた無次元相間式を用いてフォーミング・スラグ中の粒鉄の終末沈降速度を評価したところ,スラグ単相の場合よりも遅くなっていた。粒子径には閾値が存在し,その閾値以下の粒鉄は沈降速度がゼロになりフォームにトラップされる。

謝辞

本研究は日本鉄鋼協会「多相融体の流動理解のためのスラグみえる化」研究会に対する助成によるものである。ここに記して感謝の意を表す。

使用記号

  • a[-]:Einstein-Roscoe式における定数
  • d[m]:直径
  • g[m/s2]:重力加速度
  • n[-]:Einstein-Roscoe式における指数
  • v[m/s]:速度
  • x[-]:グリセリン質量濃度

無次元数

  • Ar[-]:アルキメデス数,Ar=dp3gρf(ρpρf)μf2
  • Ca[-]:キャピラリー数,Ca=μlγdbσl
  • La[-]:ラプラス数,La=dpσlρfμf2
  • Re[-]:レイノルズ数,Re=dpvpρfμf

ギリシャ文字

  • γ[1/s]:ずり速度
  • µ[Pa s]:粘度
  • σ[N/m]:表面張力
  • ϕ[-]:気相体積率
  • 下付き文字
  • b:気泡
  • f:フォーム
  • l:液
  • p:粒子

文献
 
© 2024 The Iron and Steel Institute of Japan

This is an open access article under the terms of the Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top