Tetsu-to-Hagane
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Terminal Settling Velocity of Particle in Suspension
Shin-ichi Shimasaki Shigeru UedaNoritaka Saito
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2024 Volume 110 Issue 6 Pages 473-482

Details
Abstract

In the steel making process, most slags and fluxes often contain solids phase such as CaO. It is well known that the suspension in which solid phase are suspended has higher viscosity than that of pure matrix liquid. Therefore, it is expected that the viscosity of slag containing solid phase will increase. In this study, terminal settling velocity of particle in suspension has been measured. The suspensions consist of silicone oil matrix and polyethylene beads, and the settling particles are bearing balls made of stainless steel. As a result of the higher viscosity of suspension, the terminal settling velocity of bearing ball becomes slower than that in pure silicone oil. It was clarified that the retardation of the terminal velocity and the increasing of drag coefficient depend only on the volume fraction of solid phase (the polyethylene beads) of the suspension, and it is independent of the size of the suspended beads and the viscosity of the matrix liquid. A correlation equation for predicting the drag coefficient of particles in suspension was proposed.

1. 緒言

転炉中のスラグは,複雑な混相流となっている。転炉操業中においては,ガスの吹き付けや化学反応によるガス生成によってスラグが気相により攪拌され,フォーミングしている。このフォーミングしたスラグ中には,メタル浴から巻き込まれたメタル滴や,溶け残った滓化剤などが混在しており,気体・液体・固体が入り混じった複雑な混相流を構成している。適切な転炉操業のためには,この混相流となったスラグの物性や,混相スラグ内で生じている各種の物理現象を正確に把握しなければならない。

液に固体粒子が懸濁したサスペンションでは,その見掛けの粘度が液単相よりも増大することが知られている。20世紀初頭にEinsteinが希薄なサスペンションの粘性についての理論式を提案したことに始まり,現在までにより高濃度なサスペンションについての見かけ粘度推算式が多数提案されている1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13)。Einsteinの理論は粒子間の相互作用が無視できるような無限希釈濃度のサスペンションで導出されており,適用可能な懸濁粒子の体積分率ϕはおおよそ0.03未満に限定されている1)。Simhaは,Einsteinの理論をもとにして懸濁粒子同士の相互作用を考慮し,体積分率ϕがおおよそ0.2程度まで適用できるように拡張した式を提案している2)。これに続いてVandやFordも同様の手法で固相体積分率と見かけ粘度の式を導出した3,4)。BrinkmanとRoscoeは,希薄なサスペンションに微小量の体積の懸濁粒子を追加していくというアプローチでEinstenの理論を拡張し,いわゆるEinstein-Roscoe型の粘度式を提唱した5,6)。また,Mooneyは,懸濁粒子が追加された場合の流れ場をNavier-Stokes式で解析し,固相体積分率と見かけ粘度に関して指数関数型の相関式を提案している7)。Mooneyの式は現在でも比較的良く使用されており,体積分率ϕがおおよそ0.3を超えると見かけ粘度が急激に上昇する。これらのサスペンションの見かけ粘度のモデルについては,Yagi and Ototakeによる文献8),Palによる文献9)やXia and Kruegerによる文献10)に詳しくまとめられているので参照されたい。また近年ではSaitoらのグループが,鉄鋼業における溶融スラグやフラックスを念頭にして,高粘度の液に固相粒子を懸濁させたサスペンションを構成し,その見かけ粘度を測定している11,12,13)。これらの多くの先行研究では,サスペンションは,単に見かけ粘度が増大するのみならず,見かけ粘度がずり速度に依存する,いわゆる非ニュートン性流体であることが示されている。

多相流体であるスラグ中における粒子の沈降速度を予測することは以下の観点から重要である。Misraら14)や Biswasら15)が転炉における精錬反応モデルの構築を試みているが,いずれのモデルにおいても混相流のスラグ中におけるメタル滴の滞在時間,すなわち粒子の沈降速度が重要な役割を演じている。スラグ中における各種反応を正確にモデル化するためには,スラグ中におけるメタル滴や滓化剤の大きさやその沈降速度を詳細に把握しなければならない。

サスペンションの見かけ粘度は,サスペンション中の粒子の沈降速度に直接影響を与えると考えられるが,その両者の関係は未だ不明なままである。見かけ粘度が高くなると,粒子の沈降速度は遅くなるものと考えられるが,非ニュートン性を有するサスペンションにおいて,見かけ粘度と粒子の沈降速度の間の関係は単純なものではない。BatchelorおよびBatchelor and Wenは,サスペンション中を沈降する粒子に関して,懸濁粒子の沈降粒子への流体力学的な作用を検討し,サスペンションの固相体積分率が高くなると,粒子の沈降速度が遅くなることを理論的に見出している16,17)。一方でWatanabeらはサスペンションが希薄な場合は,サスペンション中を高速で落下する球の抵抗係数が減少することを実験的に報告している18)。Eguchi and Karino19)は,血液(赤血球が懸濁したサスペンションとみなせる)やポリマーのサスペンションのような非ニュートン流体について回転式粘度計と落球法によって測定された粘度の比較を行い,両者が限られた場合しか一致しないことを報告している。Milliken らは,球およびロッド形状の粒子を懸濁させたサスペンション落球法を実施している20)。Felice and Rotondiも同様な実験を実施し,得られた結果をBatchelorの式16,17)と比較検討をおこなっている21)。Choらは,落球法を用いて非ニュートン流体の粘度を測定し,定常のずり速度における粘度とは一致しないことを報告している22)。またLiらは,落球法を用いてサスペンションの見かけ粘度を測定し,サスペンションが複雑な非ニュートン性を示すことを報告している23)。これらの先行研究によって示されているように,回転法などの手法で測定されたサスペンションの見かけ粘度を用いて,粒子の沈降速度を予測することは困難である。

以上のような背景をもとに,本研究においては,サスペンション中における粒子の沈降速度に焦点を当てた研究を行う。既往の研究において,シリコーン・オイル中にポリエチレン・ビーズを懸濁させてサスペンションを構成し,見かけ粘度を回転法によって測定している13)。その実験を参考にして同一のサスペンションを構成し,鋼球を落下させて沈降速度を計測する。すなわち,同一のサスペンションに関して,回転法と落球法による見かけ粘度測定を実施する。両者の結果を比較検討し,サスペンション中における粒子の沈降速度に関する相関式を提案する。

2. 回転法による粘度測定

回転法は,基本的に定常状態で一定のずり速度における見かけ粘度を測定している。高温系にも適用可能なので,スラグの粘度測定にもしばしば用いられる。Saitoらのグループは,回転法によってサスペンションの見かけ粘度を測定している11,12,13)。シリコーン・オイル中にポリエチレン・ビーズを懸濁させてサスペンションをつくり,そのサスペンションの見かけ粘度を回転法によって測定している。シリコーンオイル(信越シリコーン,KF-96)は動粘度500 mm2/s,1000 mm2/s,2000 mm2/sおよび3000 mm2/sのものを用いている。用いたシリコーン・オイルの物性値をTable 1に示す。懸濁粒子として,体積平均径がそれぞれ9.35 µm,163 µm,340 µmおよび603 µmの4種類のポリエチレン・ビーズ(住友精化,LE-1080)を用いている。文献13)にビーズのSEM画像が掲載されているが,形状は真球でその粒径範囲は狭い。このポリエチレン・ビーズを体積分率で0%,15%,30%,45%および60%になるようにシリコーン・オイルに懸濁させサスペンションとする。回転粘度計によるずり速度は2.09 s−1,4.18 s−1,10.5 s−1,12.6 s−1および20.9 s−1の5通りで測定している。その他の実験条件の詳細については,既往の文献13)を参照されたい。

Table 1. Properties of silicone oil.

density, ρl970 kg/m3
kinematic viscosity, νl500, 1000, 2000, or 3000 mm2/s
surface tension, σl14.9, 14.8, 14.8, or 14.7 mN/m

Saitoらは,これらサスペンションの見かけ粘度の測定を実施し,得られた結果をEinstein-Roscoe型の以下の無次元相関式にまとめている13)

  
ηηl=1(1aϕ)n,n=1.67Ca0.182,a=1,Ca=ηlγdpσ(1)

Saitoらの結果によると,ポリエチレン・ビーズの大きさやずり速度の大きさに関わらず,体積分率が大きくなると見かけ密度が増大していた。また,ポリエチレン・ビーズの体積分率がゼロ以外の場合は,見かけ粘度はずり速度に依存しており(非ニュートン性流体),ずり速度が小さいほど見かけ粘度が大きくなる。

3. サスペンション中の粒子沈降速度

サスペンション中の粒子沈降速度を計測した。実験に供したシリコーン・オイルとポリエチレン・ビーズは,回転法による見かけ粘度測定に用いたものと同一である。シリコーン・オイルに,体積分率が0%,20%,30%,40%になるようにポリエチレン・ビーズを懸濁させてサスペンションとした。ここにSUS304製のベアリング球(直径1 mm,2 mm,2.5 mmおよび3 mm,密度7930 kg/m3)を落下させて,その様子をビデオ・カメラで撮影した。動画から粒子の沈降速度を測定している。なお,回転法においては体積分率60%までの見かけ粘度を測定しているが13),今回の落球法の実験では体積分率は最大で40%までとしている。ポリエチレン・ビーズの体積分率が60%にもなると,剛体球の最密充填に近くなる。この場合,大きな粒子(ベアリング球)を投入しても沈降速度が非常に遅くなり,落球法のデータが取得できなくなる。そこで今回は比較的体積率が低い領域(40%以下)までの実験にとどめている。

測定結果の一例をFig.1およびFig.2に示す。Fig.1は動粘度500 mm2/sのシリコーン・オイルにポリエチレン・ビーズを懸濁させたサスペンションの結果,Fig.2はシリコーン・オイルの動粘度が1000 mm2/sの場合である。図より分かるように,懸濁させたポリエチレン・ビーズの体積分率が大きくなるにつれて沈降速度が大幅に減少していることがわかる。一方で,ポリエチレン・ビーズの大きさに対しては明確な依存性は見られなかった。他の動粘度(2000 mm2/s,3000 mm2/s)の場合も同様な結果が得られた。

Fig. 1.

Relationship between terminal settling velocity and volume fraction of suspended particle. Kinematic viscosity of silicone oil is 500 mm2/s. (Online version in color.)

Fig. 2.

Relationship between terminal settling velocity and volume fraction of suspended particle. Kinematic viscosity of silicone oil is 1000 mm2/s. (Online version in color.)

ここで式(1)の回転法による見かけ粘度を用いて,ベアリング球の沈降速度を評価した。ストークスの領域を仮定すると,粒子の終末沈降速度vp

  
vp=dp2(ρpρs)g18ηs(2)

となる。ここでηsρsはそれぞれサスペンションの見かけ粘度と見かけ密度である。ηs式(1)より算出される。ρsは懸濁粒子の体積分率ϕを用いて,

  
ρs=(1ϕ)ρl+ϕρb(3)

となる。ここでρlρbはそれぞれシリコン・オイルとポリエチレン・ビーズの密度である。式(2)から粒子の終末速度が決まると,そこからずり速度γを以下の式で見積もることができる19)

  
γ=3vpdp(4)

ずり速度を用いて式(1)からサスペンションの見かけ粘度が求まり,見かけ粘度から式(2)を用いて粒子の終末速度が求まる。すなわち式(1)(2)(4)は閉じていないため,解を求めるには反復計算が必要となる。

得られた結果をFig.3に示す。横軸に沈降速度の測定値,縦軸に式(1)(2)(4)から計算された沈降速度を示している。グラフ中の直線は測定値と計算値が一致することを表している。図より,ポリエチレン・ビーズの体積分率がゼロのとき(すなわちシリコーン・オイル単相の場合)は,実測値と計算値が非常によく一致していることが分かる。これは,今回の回転法による粘度測定と落球法による粘度測定の結果が一致していることを示している。シリコーン・オイルはニュートン流体である。ニュートン流体でかつストークス領域の場合は回転法と落球法による粘度測定の結果が一致することは,既往の文献でも報告されている19)

Fig. 3.

Relationship between observed terminal velocity and estimated terminal velocity by equations (1) and (2). (Online version in color.)

一方でポリエチレン・ビーズの体積分率がゼロでないときは,両者は1:1の実線から上にずれている。すなわち,計算によって得られた沈降速度よりも,実測された沈降速度の方が小さい。これはポリエチレン・ビーズの存在によって粒子の沈降が阻害されていることを示している。また,その阻害の度合いは,もっぱら体積分率に依存しており,体積分率が大きくなると沈降がより大きく阻害されていることが分かる。BatchelorおよびBatchelor and Wenはサスペンションの固相体積分率と粒子の沈降速度の関係式を導出し,固相体積分率が大きくなると粒子の沈降速度が遅くなることを報告している16,17)

同じことであるが,Fig.3の計算値と実測値のずれは,回転法によって得られた見かけ粘度と落球法によって評価される見かけ粘度が一致しないことを示している。ストークス域を仮定すると,式(2)を変形することにより,落球法によるサスペンションの見かけ粘度ηsは以下の式で求められる。

  
ηs=dp2(ρpρs)g18vp(5)

Fig.4にSaitoの相関式式(1)で求められた見かけ粘度を横軸に,落球法の式(5)で評価された見かけ粘度を縦軸に取ったグラフを示す。ニュートン流体である固相体積分率ϕ=0%の場合は両者は一致しているが,固相体積分率φが0%でない場合,すなわち,非ニュートン流体性を示すようになると両者が乖離しており,落球法で評価した見かけ粘度の方が大きくなる。回転法によって得られた見かけ粘度は,ずり速度が一定の定常状態の場合に生じる粘度である。一方の落球法では,静止したサスペンション中を球が落下していくので,球の周囲のずり速度は大きく,球から離れるに従ってずり速度は小さくなり,ずり速度は空間分布を持っている。さらに,静止した状態の液体とビーズが,球の接近に伴って変形し,球が離れるに従って再び静止状態に戻る。すなわち,液体とビーズは非定常で過渡的な履歴を辿る。このように両者の測定条件が異なるために,特に非ニュートン性流体の場合は,両者は異なる見かけ粘度を生じさせるものと思われる。

Fig. 4.

Comparison of apparent viscosity measured by rotational viscometer and falling ball method. (Online version in color.)

4. サスペンション中の粒子抵抗係数

静止流体中を一定の速度vpで沈降する粒子の抵抗係数は,以下の式で求めることができる。

  
CD=π6dp3g(ρpρs)π4dp212ρsvp2(6)

これは実測値vpから求めた抵抗係数である。一方でストークス域の場合,抵抗係数は以下の式で理論的に評価される。

  
CD=Re24=124ηsdpρsvp(7)

横軸に粒子沈降速度に対応したRe数をとり,縦軸に抵抗係数をとったグラフをFigs.5, 6, 7, 8に示す。グラフはそれぞれ固相体積分率ϕ=0%,ϕ=20%,ϕ=30%およびϕ=40%の場合である。

Fig. 5.

Relationship between Reynolds number and drag coefficient. Volume fraction of solid phase, ϕ=0%. (Online version in color.)

Fig. 6.

Relationship between Reynolds number and drag coefficient. Volume fraction of solid phase, ϕ=20%. (Online version in color.)

Fig. 7.

Relationship between Reynolds number and drag coefficient. Volume fraction of solid phase, ϕ=30%. (Online version in color.)

Fig. 8.

Relationship between Reynolds number and drag coefficient. Volume fraction of solid phase, ϕ=40%. (Online version in color.)

固相体積分率がゼロの場合(Fig.5),流体はサスペンションではなくシリコーン・オイル単相である。この場合,式(1)の見かけ粘度はシリコーン・オイルの粘度となり,測定値は式(7)のストークスの式に良く一致している。固相体積分率がϕ=20%になると(Fig.6),測定された抵抗係数はストークスの式よりも大きくなる。これは,サスペンション中における粒子の沈降速度が遅くなっていることに対応している。多少のばらつきはあるが,その抵抗係数の増大率はシリコーン・オイルの粘度やポリエチレン・ビーズのサイズによらずほぼ同一である。さらに固相体積分率が大きくϕ=30%,ϕ=40%になると(Fig.7およびFig.8)抵抗係数はよりストークスの式から離れるようになっているが,やはり抵抗係数の増大率はオイルの粘度やビーズのサイズには依存していない。すなわち抵抗係数はもっぱら固相体積分率に依存して大きくなっている。

抵抗係数が固相体積分率に依存して大きくなっていることを表すために,以下の相関式を用いる。この関数形を用いた理由は,(1)抵抗係数が常に増大していること,(2)抵抗係数の増大が固相体積率ϕにのみ依存していること,(3)固相体積率ϕ=0%のときに,抵抗係数がCD=CD0となることを満たしているからである。

  
CD=CD0(1.0+αϕβ)(8)

ここでCD0は固相体積分率がゼロの時の抵抗係数である。実測データをこの式にフィッティングして,係数αβを決定したところ,以下の式が得られた。

  
CD=CD0(1+13.8ϕ1.50)(9)

Fig.9に実測から得られた抵抗係数と,式(9)から得られた抵抗係数の比較を示した。広い範囲で両者が一致していることが分かる。相関係数はR=0.987である。

Fig. 9.

Comparison of observed drag coefficient and estimated drag coefficient.

ストークスの領域では,抵抗係数は終末沈降速度に反比例する。すなわち,

  
vv0=11+13.8ϕ1.50(10)

となる。ここでv0ϕ=0%のときの終末沈降速度である。固相体積分率を横軸にして式(10)をプロットしたものをFig.10に示す。図中のボックス・プロットは測定値で,図中の外れ値(outlier)は,四分位範囲(IQR)の1.5倍をひげの長さの上下限としたものである。

Fig. 10.

Change in terminal velocity with volume fraction of suspension particles. (Online version in color.)

ϕ=0%の測定値はFig.5ϕ=20%,30%,40%の測定値はそれぞれFigs.678に相当する。理論上はϕ=0%のときv/v0はちょうど1になるはずであるが,測定値(Fig.5)は0.87から1.03の範囲(中央値は0.94)に散らばっていた。ただしこれはFig.5の測定値を全て一つの点に集約したために生じたばらつきであり,Fig.5を見ればわかるように測定値は広いRe数の範囲で理論値とよく一致している。サスペンションの場合(ϕ=20%,30%,40%)は,粒子は常に一定の速度で真っ直ぐ沈降しているのでなく,速度が不規則に変化しながら,あるいは,ジグザグと向きを変えて沈降している。このことを反映して測定値はかなりばらつきがあるものの,固相体積分率が大きくなるにつれて沈降速度が遅くなっている様子が分かる。

またFig.10には,既往の文献によるデータを比較のためにプロットしてある。Liらの実験23)は,本実験と同じくシリコーン・オイル中にポリスチレン・ビーズを懸濁させてサスペンションを構成し,SUS304製のベアリング球を沈降させている。一方のEguchi and Karinoによる実験19)は血液中にポリスチレン粒子を落下させている。血液の場合,懸濁粒子に対応するものは赤血球であり,その固相体積分率はおおよそ45%前後となる。いずれの文献のデータにおいても,懸濁粒子の固相体積分率が大きくなるにつれて粒子の沈降速度が遅くなるという,式(9)と同じ傾向を示している。Liらのデータのうち低い固相体積分率のものを除くと,いずれの文献のデータも式(9)と定量的に一致している。

Fig.10より,例えば固相体積分率が10%のときには,Saitoの相関式式(1)で求められる見かけ粘度より計算した終末沈降速度よりも,さらに0.7倍遅くなる(v/v0=0.70)と予測できる。同様に,固相体積分率が20%のときには0.45倍遅くなっており,固相体積分率が大きくなるほど終末沈降速度は遅くなっている。この結果は,サスペンションとなったスラグやフラックス中における粒子の沈降速度を予測するために役立つと考えられる。また,逆に落球法を用いた見かけ粘度の測定において,得られた測定値から回転法による見かけ粘度を推定するためにも,本結果は利用できる。

5. 結言

本研究では固体粒子を懸濁したサスペンション中における粒子の落下速度を実験的に調査し,以下の結論を得た。

(1)固体粒子を懸濁しない場合,すなわち,ニュートン流体である単相のシリコーン・オイルの場合,回転法と落球法によって測定された粘度は一致していた。

(2)固体粒子を懸濁した場合(非ニュートン流体の場合),サスペンションの見かけ粘度は液単相の場合よりも増加していた。

(3)落球法によって測定されたサスペンションの見かけ粘度は,回転法によって測定された粘度よりも大きく,回転法によって測定された粘度を用いて粒子の沈降速度を評価すると,終末速度を過大に評価してしまう。

(4)サスペンション中における粒子の抵抗係数の増大は,懸濁された粒子のサイズによらず,その体積分率のみで決まっていた。サスペンション中の粒子の抵抗係数を予測するための相関式を以下のように提案した。

  
CD=CD0(1+13.8ϕ1.50)

謝辞

本研究は日本鉄鋼協会「多相融体の流動理解のためのスラグみえる化」研究会に対する助成によるものである。ここに記して感謝の意を表す。

使用記号

  • a[−]:Einstein-Roscoe式における定数
  • d[m]:直径
  • g[m/s2]:重力加速度
  • n[−]:Einstein-Roscoe式における指数
  • v[m/s]:速度

無次元数

  • CD[−]:粒子の抵抗係数
  • CD0[−]:ϕ=0の場合の粒子の抵抗係数
  • Re[−]:レイノルズ数, Re=dpvpρsηs

ギリシャ文字

  • γ[1/s]:ずり速度
  • η[Pa s]:粘度
  • σ[N/m]:界面張力
  • ϕ[−]:固相体積率

下付き文字

  • b:ビーズ(懸濁粒子,ポリエチレン製)
  • l:液(シリコーン・オイル)
  • p:粒子(沈降粒子,SUS304製ベアリング球)
  • s:サスペンション

文献
 
© 2024 The Iron and Steel Institute of Japan

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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