2024 Volume 110 Issue 6 Pages 452-462
Foaming slag generated in the steelmaking process, especially in hot-metal pretreatment and electric arc furnaces, is a gas-liquid coexistent fluid with CO gas generated by the interfacial reaction between slag containing iron oxide and hot metal or carbonaceous materials. In addition, it is essential to understand the flow behavior of foaming slag during slag-tapping and the sedimentation behavior of iron particles, which affects iron yield, and to expand our knowledge of the viscosity of gas-liquid coexisting fluids for CFD modeling of these phenomena. In the present study, the apparent viscosity of a foaming slag was systematically investigated, which was generated by reacting CaO-SiO2-FexO slag with Fe-C alloy and varying the composition, gas phase ratio, and shear rate of the slag. By adding Fe-C alloy powder to the slag, bubbles were continuously generated in the molten slag, and foaming slag suitable for viscosity measurement could be prepared. It was found that the higher the amount of Fe-C alloy powder, the larger the gas phase ratio of the foaming slag due to an increase in the number of bubbles generated. The relative viscosity of the foaming slag was found to increase with the gas phase ratio. The higher the rotation speed, the smaller the relative viscosity of the foaming slag indicating shear-thinning characteristics. The relationship between shear rate and shear stress calculated from the viscosity of the foaming slag did not show general non-Newtonian fluid behavior.
高炉・転炉法による鉄鋼精錬において,溶銑予備処理や中間排滓をともなう転炉型脱Pプロセスでは,飽和濃度の炭素を含有する溶銑とスラグ中の酸素(O)や酸化精錬のために吹き込まれたO2ガスが反応し,溶融スラグ中に微細なCOガスの気泡が多量に生成する。この気液二相共存流体はフォーミングスラグと呼ばれ,急激なフォーミング現象はスロッピングや排滓時にフォームの鎮静待ちが生じるといったような問題が生じる1,2,3)。一方,電気炉を用いる製鋼プロセスにおいて,スクラップやDRIなどの冷鉄源は炭素含有量が溶銑に比較して著しく少ないため,上記のような反応による発泡は生じにくい。そのため,炉内耐火物の保護などを目的として,炭材を吹き込むことによってフォーミングスラグを形成しているが,ここでも高温の酸化物融体中における界面反応をともなう発泡現象を制御することは容易ではないと思われる。このような背景からスラグのフォーミング現象については,様々な研究がラボレベルから試験転炉および実機転炉サイズで行われており,古くはCooper and Kitchener4),Haraら5,6)およびKitamura and Okohira7)の研究があり,気泡の滞留時間やフォーミングインデックスについては,Ito and Fruehan8,9,10)を始めとして多数報告されている11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22)。
また,排滓時のフォーミングスラグの流動挙動3)や鉄歩留に影響を与える粒鉄の沈降挙動23,24,25,26)の理解や,さらにはこれらのCFDモデリング27,28,29)には気液二相共存流体の粘度に関する知見の拡充が必要不可欠である。Uhiraは地球科学的観点から,火山噴火がマグマ中に溶解した気体成分の減圧による急激な発泡と流動性の低下が要因であるとして,シリコーンオイル中に空気を懸濁させ気液二相共存流体を調製し,回転法により粘度を実測している。その後,著者らの一部30)はシリコーンオイル中に窒素ガスをポーラスプラグを通じて導入することによって気泡を分散させた模擬フォーミングスラグを調製し,同じく回転法によりその見かけ粘度を測定した。ここでは,製鋼スラグをカバーする液相粘度範囲において,模擬フォーミングスラグの見かけ粘度が液相(シリコーンオイル)単体の数倍大きくなることや,見かけ粘度はずり速度によって変化を示す非ニュートン性を示すことを明らかにした。加えて続報31)では,炭酸水素ナトリウム水溶液とシュウ酸の反応によって生成するCO2ガスを分散させた模擬フォーミングスラグを調製し,その見かけ粘度を系統的に測定した。模擬フォーミングスラグの見かけ粘度は液相粘度の数10倍,場合によっては100倍以上とガス吹き込みによってフォーミングさせた前報より著しく大きい値を示すことがわかった。一方,高温系の研究については,近年Martinssonら32)が1873 Kにおいて溶融した43CaO-32SiO2-25FeO(mass%)スラグと炭素飽和溶鉄を反応させてフォーミングスラグを調製し,回転法によって見かけ粘度を実測した例がある。この先駆的な研究では,粘度計の回転数が上昇するにしたがって,見かけ粘度が減少する非ニュートン性が確認された。
以上のような背景から本研究では,鉄鋼精錬プロセスにおける気液二相共存流体の流動挙動に関する基礎的知見の拡充を行うことを目的とし,CaO-SiO2-FexO系スラグとFe-C合金を反応させることによって粘度測定に適したフォーミングスラグを調整し,スラグの組成,気相率およびずり速度を変化させ,見かけ粘度を系統的に調査した。
Table1に本研究に用いた試料組成を示す。実験には特級試薬のCaCO3,SiO2,およびFe2O3(シグマアルドリッジジャパン(株)製)を用いた。各試薬を所定の組成に秤量し,アルミナ乳鉢を用いて混合した。次に混合した粉末試料を白金ルツボに充填し,1773 Kの大気雰囲気下で溶融させた後,銅板上に流し出して急冷したスラグを測定用試料とした。
CaO | SiO2 | Fe2O3 |
---|---|---|
40 | 40 | 20 |
30 | 30 | 40 |
20 | 20 | 60 |
本研究では回転法によってフォーミングスラグの粘度を測定するため,測定中にフォーミング高さや気相率が測定中に変化するのは好ましくない。そこで,まず1673 Kの溶融スラグ中において気泡を安定して発生させることができる炭素源(フォーミングエージェント)の選定を行なった。実験に用いた装置の模式図をFig.1に示す。外径55 mmϕ×内径37 mmϕ×高さ70 mmのSUS310S製ルツボに測定用試料を50 g充填し,1673 Kの大気雰囲気下で溶融させ,60分間保持した。その後,アルミナ管を通じてスラグ上にフォーミングエージェントを投下し,C+(O)=CO,C+2(O)=CO2および生成したCOとの反応CO+(O)=CO2により,COおよびCO2ガスを発生させることによってフォーミングスラグを生成させ,フォーミングの持続時間を測定した。ここで,フォーミングエージェントとしてはいずれも日本鉄鋼認証標準物質のFe-1.443 mass%C,Fe-0.185 mass%CおよびFe-0.53 mass%C,炭化物のZrCおよびNbC(日本新金属(株)製)の5種類の粉末を用いた。
Schematic of the apparatus for viscosity measurement of foaming slag at high temperature.
次に,Fe-0.53 mass%Cをフォーミングエージェントとしてフォーミング高さを測定した。外径55 mmϕ×内径37 mmϕ×高さ70 mmのSUS310S製ルツボに測定用試料を50g充填し,1673 Kの大気雰囲気下で溶融させ,60分間保持した。その後,フォーミング高さの基準となる溶融スラグの液面高さを溶融スラグの導電性を利用することによって電気的に測定した。まず,LCRメータ(日置電機株式会社製,3522-50)の端子の一方を先端径10 mmϕ白金電極に,他方をステンレスルツボに接続した。次に,白金電極を溶融スラグ上部より降下させ,電極が溶融スラグと接触することによって回路が形成され電流が検出される。この時の電極高さを測定することによって基準となる溶融スラグの液面高さを測定した。その後,アルミナ管を通じて溶融スラグにFe-0.53 mass%C粉末を投下することによってフォーミングスラグを生成し,同様にフォーミング高さを測定した。また本研究では,フォーミングスラグの気相率を以下のように定義した。フォーミング高さをhfoam,および初期液面の高さをhliquid,とすると気相率ϕ(vol%)は式(1)で表される。
(1) |
また,上記の実験とは独立に同様の手法でフォーミングスラグを調製し,フォーミングスラグ表面に現れた気泡を上方より撮影した。次に,撮影した画像からランダムに気泡を100個選択し,その投影面積円相当径の平均値を気泡径とした。
2・3 フォーミングスラグの粘度測定粘度測定装置の模式図をFig.1に示す。同様に外径55 mmϕ×内径37 mmϕ×高さ70 mmのSUS310S製ルツボに測定用試料を50 g充填し,1673 Kの大気雰囲気下で溶融させ,60分間保持した。次に,アルミナ管を通してスラグ上にFe-0.53 mass%C粉末を投下し,フォーミングスラグを調製した。その後,スピンドルをフォーミングスラグ中に20 mm浸漬させ,スピンドルに生じるトルクをレオメータヘッド(Anton Paar, DSR502)を用いて検出した。なお,スピンドルの詳細な形状は既報を参照されたい33)。Table 2に本測定の実験条件を示す。Table 1に示す各スラグ組成において,フォーミングスラグの気相率(40~60 vol%),スピンドルの回転速度(20, 30, 40,および50 rpm)を変化させてトルクの測定を行った。各条件において計6回の測定を行い,その平均値を測定とした。測定値をあらかじめ室温で粘度既知のシリコーンオイルを用いて,各スピンドルの回転数において作成した検量線の式に代入し,見かけの粘度を求めた。ここで,Fig.2にスピンドルの回転数20 rpmにおいて得られたトルクとシリコーンオイルの粘度の関係を表す検量線の一例を示す。これより,トルクと粘度には非常に良好な直線関係(R2=0.9998)が得られることがわかる。
Gas-phase fraction | vol% | 40~60 |
Rotational speed | rpm | 20, 30, 40, 50 |
Shear rate | s−1 | 4.50, 6.75, 9.00, 11.3 |
Temperature | K | 1673 |
A typical calibration line of viscosity as a function of detected torque.
まず,フォーミングエージェントとしてFe-1.443 mass%C粉末を投入した場合のフォーミングスラグの泡立ちについて調査した。スラグ中にFe-1.443 mass%Cを投入すると激しい発泡反応が起こり,フォーミングスラグが形成された。しかし,実験中にSUS310Sルツボが溶解し,スラグ試料が流出してしまったため実験を中断した。これは,Fe-1.443 mass%Cの液相線温度が1290°Cであり,実験温度では液相として存在するため,SUS310Sルツボを溶解したことが原因であると考えられる。そこで,液相線温度もしくは融点が本研究の実験温度である1400°Cよりも高いFe-0.185 mass%C(液相線温度:1490°C),Fe-0.53 mass%C(液相線温度:1450°C),ZrC(融点:3540°C),およびNbC(融点:3900°C)を投入した際のフォーミングスラグの発泡挙動について調査した。いずれのフォーミングエージェントを投入した場合においても反応によってガスが生成し,フォーミングスラグが形成された。Fig.3に各フォーミングエージェントを投入した際の気泡の持続時間を示す。これより,Fe-0.185 mass%Cが5分程度,Fe-0.53 mass%Cが20分程度,ZrCが40分程度,およびNbCが15分程度であった。ここで,2・3項に示した回転法による粘度測定の実施に必要な時間を考えると,スピンドルを回転させトルクを検出する際に安定的にフォーミング高さを維持する必要があるため,フォーミングの持続時間が長い方が望ましい。そこで,まずフォーミングの持続時間が最も長いZrCの利用を検討したが,気泡に巻き上げられフォーミングスラグ上に浮上することがわかった。このように,フォーミングスラグ上に固体が浮遊している場合,粘度測定時にスピンドルと固体が接触するため,測定値に影響が現れる。そのため,フォーミングエージェントは沈降する方が望ましい。そこで,次にフォーミングの持続時間が長いFe-0.53 mass%Cをフォーミングエージェントとして採用した。
Lifetime of foaming slag with various foaming agents.
Fig.4にFe-0.53 mass%C粉末の投入量とフォーミングスラグ中の気相率の関係を示す。これより,いずれのスラグ組成においてもFe-0.53 mass%C粉末の投入量が増加することによって,フォーミングスラグ中の気相率が上昇することがわかった。これは,Fe-0.53 mass%C粉末との反応C+(O)=COおよびC+2(O)=CO2と,生成したCO気泡表面における反応CO+(O)=CO2により,COおよびCO2ガスが溶融スラグ中に発生したためである。また,同等のFe-0.53 mass%C粉末投入量にて比較した場合,スラグ中のFe2O3含有量が少ないスラグにおいて,フォーミングスラグ中の気相率が大きいことがわかった。これは,CaO-SiO2-FexO系スラグにおいて,スラグ中のFexO含有量が少ないほど(O)の活量が低下すること34,35)を考えると,上記のCOおよびCO2ガスの生成反応が穏やかになるため気相率が小さくなると予想されるが,実際にはその逆の結果が得られたことになる。ここで,フォーミングインデックスを用いてFig.4に示した結果を考察する。フォーミングインデックスとは,スラグ液相の粘度,密度,および表面張力といった融体物性をパラメータとしてフォーミングスラグ中の気泡寿命を表現する式である8,9,10)。ここでは,式(2)に示すItoらがCaO-SiO2-FeO系スラグで行った実験より作成したフォーミングインデックスΣを用いる。
(2) |
Gas-phase fraction of the foaming slag as a function of Fe-0.53C powder additive content.
ここで,Σはフォーミングの寿命(s),ηはスラグの粘度(Pa∙s),ρはスラグの密度(kg/m3),およびσは表面張力(N/m)を示す。
ここでTable 3に各組成におけるスラグの融体物性値36,37),Fig.5に算出した各スラグのフォーミングインデックスを示す。これより,スラグ中のFe2O3含有量が少ないほどフォーミングインデックスが大きい,つまりフォーミングスラグ中の気泡寿命が長いことがわかった。Table 3に示すように,CaO-SiO2-Fe2O3系スラグの表面張力および密度はFe2O3含有量が少ないほど小さく,式(2)よりフォーミングインデックスを増加させるが,表面張力および密度のFe2O3含有量に対する変化量は比較的小さい。一方において,CaO-SiO2-Fe2O3系スラグの粘度はFe2O3含有量が少ないほど大きく,同様にフォーミングインデックスを増加させるが,表面張力および密度に比較してその変化量は桁を跨ぐほどに大きく,フォーミングインデックスに与える影響が大きいと考えられる。つまり,前述したFe2O3含有量の増加にともなうCOおよびCO2ガスの生成量増加よりスラグの融体物性,特に粘度の影響が支配的であることが示唆される。したがって,Fe2O3含有量が多く粘度が低いスラグはフォーミングが持続しづらく,フォーミング高さ(気相率)を維持するのに多量のCOおよびCO2ガスが必要となるため,Fe2O3含有量が少ないスラグに比較して同等の気相率を達成するためにより多いFe-0.53 mass%C粉末を要すると考えられる。
20 mass%Fe2O3 | 40 mass%Fe2O3 | 60 mass%Fe2O3 | |
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Viscosity, η /Pa•s | 0.18 | 0.12 | 0.062 |
Surface tension, σ /Nm−1 | 0.41 | 0.47 | 0.50 |
Density, ρ /kgm−3 | 3400 | 3600 | 4000 |
Estimated foaming index as a function of Fe2O3 content in the slag phase.
Fig.6に一例として,40CaO-40SiO2-20Fe2O3(mass%)フォーミングスラグの上部観察写真を示す。また,Fig.7にフォーミングスラグ中の気相率とフォーミングスラグ上面にて観察された気泡径の関係を示す。これより,気泡径の平均値は0.4~0.6 mm程度であり,フォーミングスラグ中の気相率の上昇により大きくなることがわかった。また,スラグ中のFe2O3含有量が大きいほど,気泡径の平均値は大きいことがわかった。これらは,FexOの活量が上昇することによって反応量が増加した結果,フォーミングスラグの気相率が上昇したことにともなう気泡の合体頻度の上昇や,融体物性による影響であると推定できる。後者については,Table 3に示したようにスラグ中のFe2O3含有量が大きいほど粘度は低く,一方で表面張力は高いことが知られているため36,37),気泡液膜内における流動性の上昇による排液の促進38)や表面張力の上昇にともなう微細気泡の集合および合体によって,測定された気泡径が大きくなったと説明できる。しかしながら,Fig.7からわかるように得られた気泡径についてエラーバーが非常に大きいため,あくまで定性的な議論にとどめたい。
A typical appearance (top-view) of the foaming slag. (Online version in color.)
Measured bubble diameter in the foaming slag as a function of gas-phase fraction.
Fig.8に気相率がCaO-SiO2-Fe2O3系フォーミングスラグの粘度(上列)および相対粘度(下列)に与える影響を示す。ここで,Fig.8の下列に示す相対粘度はフォーミングスラグの粘度を液相の粘度で除した相対値であるが,これらはつまり,フォーミングスラグの粘度が均一液相の粘度に比較して何倍高いかを示す値である。Fig.8(上列)より,いずれの組成においてもCaO-SiO2-Fe2O3系フォーミングスラグの粘度は気相率の上昇にともなって増加することがわかった。これはシリコーンオイルに窒素ガスを分散させた模擬フォーミングスラグ30),および炭酸水素ナトリウム水溶液にシュウ酸水溶液を混合させることによって二酸化炭素ガスを分散させた模擬フォーミングスラグ31)の粘度を測定した室温系のデータと同様の傾向である。この現象は液相中に気相や固相などの第二相が分散することによって,第二相との界面に流れの主方向,つまり回転法による粘度測定の場合は回転方向と異なるずり速度および応力が生じるためと理解されている39)。また,いずれの組成においても粘度測定時の回転数(ずり速度)が高いほど粘度が減少することがわかった。これは,上記の室温系模擬フォーミングスラグ30,31)および固相が分散したサスペンション系においても同様の測定結果が得られている40,41,42)が,ずり速度が大きいほど分散した第二相の再配列が促進され,より低い応力で流動を伝播させることができるようになる,いわゆるシェアシニング現象が現れていると考えられる。近年Martinssonら32)は1873 Kにおいて溶融した43CaO-32SiO2-25FeO(mass%)スラグと炭素飽和溶鉄を反応させてフォーミングスラグを調製し,回転法によって見かけ粘度を実測した。この研究では,粘度計の回転数が上昇するにしたがって,見かけ粘度が減少する非ニュートン性が確認されたが,本研究でも類似の傾向が得られた。
Viscosity (upper-row) and relative viscosity (bottom-row) of the foaming slag as functions of gas-phase fraction and rotational speed of the spindle.
加えてFig.8(上列)より,CaO-SiO2-Fe2O3系フォーミングスラグの粘度はFe2O3含有量が少ないほど,気相率の上昇にともなう粘度の増加が顕著であることがわかった。これはTable 3に示すようにFe2O3含有量が少ないほど液相の粘度が高いため,前述の第二相分散による粘度増加の効果がより顕著に現れたことを示していると考えられる。Fig.8(下列)より,CaO-SiO2-Fe2O3系フォーミングスラグの相対粘度について,これらはFig.8(上列)に示したフォーミングスラグの粘度を液相粘度で除した相対値であるため,気相率および回転数に対する変化は同様である。しかしながら,注目すべきはそれらの値である。つまり,相対粘度値が液相粘度の数百倍となる条件が存在することが明らかとなったが,これは前述の室温系模擬フォーミングスラグ30,31)および固相が分散したサスペンション系の相対粘度40,41,42)がそれぞれ大きくても,それぞれ約120および約60程度であったことを考えると非常に大きな値である。
Fig.9に回転数などの粘度測定条件から得られたずり速度と,CaO-SiO2-Fe2O3系フォーミングスラグの粘度とずり速度を乗じることで得られたずり応力の関係を示す。これより,いずれの組成においてもずり速度の上昇にともなって,ずり応力が減少するシェアシニング現象を示していることがわかった。しかしながら,室温系模擬フォーミングスラグ30,31)に比較して,大きく異なるずり応力のずり速度依存性を示していることがわかった。つまり,室温系フォーミングスラグのずり応力とずり速度の関係は原点を通る上に凸の曲線で表される擬塑性流体,もしくは原点を通らず正の切片を有する上に凸の曲線で表されるHerschel-Bulkley流体,などのいわゆる一般的な非ニュートン流体43)に分類されたが,本研究の結果はFig.9に示すように,いずれの非ニュートン流体にも分類できないずり応力とずり速度の関係を呈することが明らかとなった。これはCaO-SiO2-Fe2O3系フォーミングスラグのレオロジー特性がずり速度の変化に対して大きく変化したことを示唆していると考えられるが,正しくは一定のずり速度ではなく様々な角速度や振動数でレオロジー特性を評価可能な粘弾性測定を行うことが必要と思われる。
Shear stress generated in the foaming slag as a function of shear rate.
ここでは次式に示すEinstein-Roscoeの式44,45,46)を基にCaO-SiO2-Fe2O3系フォーミングスラグ相対粘度を表現することができる実験式を提案する。
(3) |
ここで,η/ηLは相対粘度,ϕは気相率,aおよびnは係数である。なお,本研究のように気泡の周りに液相があり自由に動ける場合a=1.0である。著者らの一部はこれまでにEinstein-Roscoeの式を利用し,式(3)中の係数nを粘性力と異なる流体間の境界に作用する表面張力との比を表す無次元数であるキャピラリー数Caの関数として,気液共存流体の見かけ粘度を推算する式を提案してきた。式(4)にキャピラリー数を示す。
(4) |
ここで,ηLは液相粘度,Uは代表速度,σLは液相の表面張力,
(5) |
本研究の実験条件,つまり液相粘度,ずり速度,気泡径および表面張力から算出したCa数と気相率を式(5)に代入することによってEinstein-Roscoeの式中の係数nを求め,CaO-SiO2-Fe2O3系フォーミングスラグの相対粘度を再現することを試みた。結果の一例として回転数20 rpmの場合の相対粘度を算出した結果をFig.10に示す。これより,実線,点線および一点鎖線で示した計算値はプロットで示した実測値を大きく下回ることがあきらかとなった。この傾向は,他の回転数においても同様であった。次に,本研究で測定したCaO-SiO2-Fe2O3系フォーミングスラグの相対粘度と気相率からEinstein-Roscoeの式中の係数nを求め,他の実験条件から算出したCa数との関係を調査した。Fig.11にその結果を示す。これより,ばらつきは大きいもののCa数の増加にともなってEinstein-Roscoeの式中の係数nが減少する傾向が得られた。つまりこれは相対粘度が増加することを示している。Fig.11中の点線で示した係数nとCa数の関係式を式(6)に示す。
(6) |
Comparison of measured and estimated relative viscosity on the basis of aqueous glycerol-based foaming slag.
Coefficient n of the Einstein-Roscoe’s equation calculated from the apparent viscosities of the foaming slag and the other experimental parameters as functions of the Capillary number estimated from the experimental conditions.
この回帰式を用い本研究で測定したCaO-SiO2-Fe2O3系フォーミングスラグの相対粘度を再現することを試みた。Fig.12にその結果の一例として,30CaO-30SiO2-40Fe2O3(mass%)スラグの相対粘度を算出した結果を示す。これより,実線,点線,一点鎖線および二点鎖線で示した計算値は気相率の上昇および回転数の低下にともなって,相対粘度が増加する大まかな傾向は再現しているが,プロットで示した実測値を再現することができないことがわかった。これは他のスラグ組成においても同様であったが,式(6)に示す係数nとCa数の関係の低い相関係数(R2=0.237)によるものと思われる。
Comparison of measured and estimated relative viscosity on the basis of CaO-SiO2-FexO foaming slag.
ここで,その要因を推測するとCa数を実験条件から算出する際に必要な液相粘度,表面張力,ずり速度および気泡径のうち,液相粘度とずり速度は本研究の実験系において変化しないが,表面張力と気泡径については一考の余地があると考えられる。つまり,本研究においてはフォーミングエージェントであるFe-0.53 mass%C粉末と溶融したCaO-SiO2-Fe2O3系スラグの界面反応によって,COもしくはCO2ガスを発生させ,粘度測定に適したフォーミングスラグを調製しているため,生成したCO気泡表面における表面張力が反応によって減少する可能性がある。Tanakaらは還元・酸化反応にともなう液体Fe合金と溶融スラグの界面張力の低下のメカニズムを解明するため,1823 Kにおいて様々な溶融スラグと液体Fe合金の組み合わせについて界面張力の経時変化を調査した結果,界面張力の経時変化の挙動は,界面での酸素の吸着と界面から液体Fe合金および溶融スラグへの酸素の拡散によって説明できると結論づけている47)。本研究では,FexOを含むスラグと生成したCO気泡表面においてCO+(O)=CO2の反応が生じていたとすると,類似の機構によって溶融スラグ相中に分散したCO気泡表面の表面張力は低下すると推測される。また一方でFig.7で示したフォーミングスラグの気泡径は,スラグ表面に出現した気泡を実測したものであり,るつぼ底部で発生した微細な気泡が上昇にともない合体48)したと考えると,より小さな気泡が分散したフォーミングスラグの粘度を測定していた可能性も考える必要がある。
そこで,式(4)中の表面張力と気泡径をフィッティングパラメータとしてCaO-SiO2-Fe2O3系フォーミングスラグの相対粘度を再現する表面張力と気泡径を推定した。Fig.13およびFig.14に表面張力および気泡径の推定結果をそれぞれ示す。まずFig.13より,表面張力の文献値は酸化鉄含有量の増加にともないシリケートの重合度が低下することによって表面における不飽和結合が増加することによって上昇するが,フィッティングによって求めた表面張力は逆に低下することがわかった。これは,スラグ中のFexO含有量が多いほど(O)の活量が上昇する34,35)ことを考えると,CO気泡表面における反応がより活発になったためと推測される。またFig.14より,フィッティングによって求めた気泡径は0.01~0.3 mm程度であり,Fig.7で示した表面観察で得られた気泡径の平均値0.4~0.6 mmより小さい値となった。ここで,Tanakaらは前述の研究において界面反応による界面張力の低下にともない接触角が大きく低下すること47),またOgawaらはこの接触角が小さいほど界面で発生した気泡が離脱する際の気泡サイズが微細になることを物理モデルと冷間および熱間実験の結果との比較から報告49)している。本研究においてもFexOを含むスラグと添加されたFe-C合金粉末の界面において反応が生じているとすると,同様のメカニズムによって観察された気泡径に比較してより微細な気泡が溶融スラグ中に分散していた可能性が考えられる。また,気相率および回転数の上昇にともなって推定した気泡径が大きくなることがわかった。これは,スラグ中における気泡の衝突および合体の頻度が高くなったためと考えることもできる。しかしながら,上記の推定結果はあくまでEinstein-Roscoeの式およびCa数によるフォーミングスラグの粘度推算が正であるとの前提に成り立っているため,今後このような高温界面における反応をより高精度に可視化およびセンシングすることのできる技術開発に関する研究が必要であると考えられる。
Comparison of measured and estimated surface tension of the slag phase as a function of Fe2O3 content.
Estimated bubble diameter of the foaming slag as functions of gas-phase fraction and rotational speed of the spindle.
フォーミングスラグをともなう種々の鉄鋼精錬プロセスにおける,多相融体の流動挙動を理解するための基礎的知見を拡充することを目的とし,1673 KにおいてCaO-SiO2-FexO系フォーミングスラグを調製し,回転法により粘度を系統的に測定した結果,以下に示す知見を得た。
(1)CaO-SiO2-FexO系スラグにFe-C合金粉末を添加することによって,継続的に気泡が溶融スラグ中に発生し,粘度測定に適したフォーミングスラグを調製することができた。
(2)Fe-C合金粉末の投入量が多いほど,気泡の発生量が増加することによってフォーミングスラグの気相率が大きくなることがわかった。また,Fe2O3含有量が少ないほど気相率が大きくなることがわかったが,これはフォーミングインデックスからも予想できる通り,スラグ液相の粘度が高くなるためである。
(3)フォーミングスラグの気相率が大きいほど,分散する気泡近傍に流動の主方向と異なる方向にずり速度および応力が生じるため相対粘度が大きくなることがわかった。
(4)回転数が大きいほどフォーミングスラグの相対粘度が小さい,つまり分散した気泡の再配列が促進され,より低い応力で流動を伝播させることができるようになる,シェアシニング性を示すことがわかった。
(5)フォーミングスラグの粘度と実験条件から算出したずり速度とずり応力の関係は,ビンガム流体などの一般的な非ニュートン流体の挙動を示さなかった。
(6)Einstein-Roscoeの式と室温系の模擬フォーミングスラグの粘度値から回帰した実験式は,1673 Kのフォーミングスラグの粘度を再現することができなかった。