Tetsu-to-Hagane
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Application of Confocal Micro-X-ray Fluorescence Technique for Non-destructive Elemental Inspection of Damaged Reinforced Concrete
Tsugufumi Matsuyama Masaki OkudaSora YasudaLee Wah LimKouichi Tsuji
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2024 Volume 110 Issue 9 Pages 662-667

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Abstract

In this study, we obtained elemental distributions around the scratch in reinforced concrete. Confocal micro-X-ray fluorescence (CM-XRF) technique was employed for observing a sample cross section without destroying the sample. We prepared a rebar fragment, and then it was covered with concrete. The test sample was scratched with the band saw with a blade of ~1 mm width. The scratched test sample was measured using a laboratory-made CM-XRF instrument. As for the Ca distribution, the thickness of the concrete layer was estimated to be ca. 100 μm. In addition, the depth and width of a scratch were calculated to be ca. 150 μm and 1.1 mm, respectively, as observed from the Fe distribution. And then, we observed the corrosion products resulted by immersing the reinforced concrete in NaCl solution. Sphere-shaped structures were seen in the Fe and Cl distributions, therefore, we considered that it to be the corrosion product containing iron chloride. It is expected that by using a sample cell for in-situ observation, it will be possible to observe the corrosion process of reinforced concrete in real time.

1. 緒言

鉄筋コンクリートは耐久性や耐食性の観点から橋脚,道路橋のような様々な箇所で用いられている1,2)。この鉄筋コンクリートが物理的な損傷を受けた場合,その表面に傷が生じる。本来,コンクリートは例えば,塩化物イオンが鉄筋に及ぼす影響を抑制するために用いられるが,その損傷により鉄筋そのものが露出され,結果として耐久性が低下する3)。鉄筋コンクリートのひび割れの判定は,例えば打音を観測することによりなされる4)。Ito and Uomotoは,コンクリート構造物に対して打音法を検討した5)。彼らの研究では,鉄筋コンクリートの損傷と打撃音の相関について調査しており,損傷が大きいほど,温度や水分の影響を受けやすいと示している。打撃音を測定することにより,非破壊的に損傷を発見できると期待されるが,この方法では元素分析ができないため,腐食の原因特定や新しい防食材料の開発・評価をすることが困難である。また,内部に生じた損傷を直接可視化することも難しい。

本研究では,共焦点微小部蛍光X線(CM-XRF:Confocal micro X-ray fluorescence)分析法を用いて鉄筋コンクリートの損傷部を観察した。蛍光X線分析法は,試料にX線を照射し,放出された蛍光X線を計測する。この蛍光X線のエネルギーは元素によって固有で,その強度は原子の数に比例するため,定性・定量分析が可能である。一般的な蛍光X線分析法では,試料の広い領域にX線を照射し,その領域における平均的な元素情報を取得する。この蛍光X線分析法を応用した微小部蛍光X線分析法では,X線管から放出されたX線をポリキャピラリーレンズなどの集光素子で微細化し,試料に照射する。それゆえ,試料の微小領域での元素情報を取得することが可能である。また,試料の走査と蛍光X線の計測を繰り返すことで,試料の元素分布像を取得することも可能である6,7)。CM-XRF分析法は,X線管だけではなく,検出器にもポリキャピラリー素子を搭載する。この結果,この二つの焦点が重なった領域(共焦点)の信号を得ることが可能となり,試料を三次元的に走査することによって,試料の断面の元素分析を行うことが可能になる8,9,10)。それゆえ,取得した元素分布像を用いて損傷の形状を測定できると期待される。また,元素分布像により,腐食生成物を構成する元素を特定することができ,防食技術の進歩には欠かせない情報を取得できると考えられる。本研究では,鉄筋片表面をコンクリートで保護し,それに傷を付与した試料片を共焦点微小部蛍光X線分析装置で測定した。また,鉄筋コンクリートを塩水に浸漬することで生成される腐食生成物の非破壊的な分析も行った。

2. 実験

2・1 鉄筋およびコンクリートの蛍光X線分析

鉄筋片(異形棒鋼SD295)およびコンクリート(サンホーム工業株式会社, 日本)は卓上型蛍光X線分析装置JSX-1000S(日本電子株式会社, 日本)で定性分析された。コンクリート試料は,プロレンフィルム(4 µm)上に保持された。卓上型蛍光X線分析装置のX線管ターゲットは,Rhである。測定において一次X線フィルターは使用されなかった。測定時間は300 sで,管電圧・管電流はそれぞれ,50 kV, 0.1 mAに設定された。

2・2 損傷した鉄筋コンクリート試料の調製と共焦点微小部蛍光X線分析

試料断面の元素分布像を取得するために,研究室所有の共焦点微小部蛍光X線分析装置を用いた11)。本装置のX線管(rtw, ドイツ)のターゲットはRhで,蛍光X線はシリコンドリフト検出器(Hitach High-Tech, アメリカ)により観測される。集光素子としてのポリキャピラリーフルレンズおよびハーフレンズ(共にXOS, アメリカ)は,X線管および検出器にそれぞれ取り付けられた。Mo Kαのエネルギーに相当する17.48 keVにおけるそれぞれの焦点でのビームサイズはおおよそ10 µmである。試料の走査にはX-Y-Z自動ステージ(神津精機, 日本)を用いた。検出器で取得した信号は,アンプで増幅され,アナログデジタル変換器を通したのちに処理された。

SD295の鉄筋を切り出し,コンクリートを塗布した。この際に,コンクリートと脱イオン水を4:1程度の割合で混合した。表面をコンクリートで保護した鉄筋片に対して,~1 mmの幅を持つ刃が搭載されているバンドソーで傷をつけた(Fig.1(a, b))。なお,傷は3箇所つけられた。傷をつけた鉄筋コンクリート片をスライドガラスにエポキシ系の接着剤(アラルダイト)を用いて固定した。

Fig. 1.

Schematic diagram (a) and photograph of damaged reinforced concrete (b). (c) is corroded reinforced concrete. (Online version in color.)

Fig.2(a)に今回作製した,試料を固定するための治具の写真を示す12)。この治具を用いてスライドガラスを固定し,共焦点蛍光X線分析装置に取り付けた。試料を測定している様子の模式図をFig.2(b)に示す。このように,スライドガラス上に固定された傷を付与した鉄筋コンクリートの断面を分析した。Fig.1(a)に示すように鉄筋コンクリートの長辺をX軸,深さ方向をZ軸と定義し,傷の断面を非破壊的に分析した。元素分布の取得におけるX軸およびZ軸に対するステップサイズは80および50 µmである。管電圧,管電流はそれぞれ,50 kV, 0.5 mAに設定した。なお,1点当たりの測定時間は10 sである。X線管のターゲットはRhなので,そのLX線がCl Kα線と干渉する。それゆえ,Al薄膜を一次X線フィルターとして用いた。その試料は測定されたのちに,5 wt%の塩化ナトリウム水溶液におおよそ20–21時間浸漬された。その試料は蒸留水でリンスされたのちに同じ条件で分析された。

Fig. 2.

Photograph of sample holder (a) and schematic diagram of CM-XRF analysis. (Online version in color.)

3. 結果と考察

3・1 鉄筋片およびコンクリートの蛍光X線分析

Fig.3(a, b)に鉄筋片およびコンクリートの蛍光X線スペクトルを示す。両スペクトルの縦軸は対数表示されている。X線管のターゲットとしてRhが用いられたので,その散乱X線が観測された。また,Rh Kα線の低エネルギー側に存在する幅の広いピークはRh Kα線がコンプトン散乱されることによって観測されるものである。鉄筋片の蛍光X線スペクトル(Fig.3(a))には,MnやFe,Cuに由来する蛍光X線ピークが観測された。主成分であるFeのサムピークも観測された。コンクリートの蛍光X線スペクトル(Fig.3(b))においてもFeのピークが観測されたが,鉄筋片のスペクトルと比較して非常に低いことが分かった。Fig.3(b)内部には低エネルギー領域を拡大したスペクトルを示す。Sasaki and Saeki13)が使用したコンクリートの成分に含まれる主な元素の成分は,SiO2:21%, Fe2O3:2.3%, CaO:65%, SO3:2%であり,これらの元素は明瞭に観測された。しかし,Al2O3は5.3%含まれているのにも関わらず観測されなかった。これは,今回ポリプロレンフィルムを試料保持材として用いたが,入射X線および蛍光X線がこれで吸収されたためだと考えられる。今回用いたポリプロピレン膜の厚さは,4 µmであった。X線管および検出器は試料に対して45ºの角度で設置されているため,入射X線および蛍光X線は,~5.66 µm通過することになる。CXRO(The center for X-ray optics)はX線の透過率を計算するためのプログラムを一般公開しており14),利用されている15)。これを用いて厚さ5.66 µmのポリプロピレン膜における1.49 keVのX線の透過率は~73%で,Al K吸収端(1s軌道の結合エネルギー)に相当する1.56 keVでは,~76%であった。それゆえ,単純に考えると蛍光X線強度はその積である55%程度減衰すると考えられる。他にも,試料自身や空気での吸収の影響を受けたため観測されなかったと考えた。今回ターゲットとする鉄筋の主成分であるFeおよびコンクリートの主成分であるCaは明瞭に観測することができたので,これらを共焦点蛍光X線分析法により観測できると期待される。

Fig. 3.

XRF spectra of (a) rebar and concrete (b).

3・2 共焦点蛍光X線蛍光X線分析法を用いた鉄筋コンクリート断面の分析

Fig.4(a)に今回取得した付与した3つの傷うち,任意の一か所の蛍光X線マッピングを取得する上で得たサムスペクトルを示す。サムスペクトルは各ピクセルでの蛍光X線スペクトルの和として定義された。これからわかるように鉄筋の主成分であるFeやコンクリートの主成分であるCaの蛍光X線ピークが観測された。Rh LX線のエネルギーは~2.7 keVでこの領域にはピークが観測されなかったことが分かる。つまり,もしClが含まれていた場合,その蛍光X線は計測できると考えられる。Fig.4(b-d)に,Fe, Ca, Clの元素分布像を示す。カラーバーは各蛍光X線のグロス(Netおよびバックグランド信号強度の和)信号強度を示し,横軸および縦軸はFig.1およびFig.3のX軸およびZ軸にそれぞれ対応する。Feの元素分布像(Fig.4(b))から傷のおおまかな輪郭を得ることができた。傷の幅はおおよそ1.1 mmでバンドソーの刃の幅とおおよそ一致した。また,傷の深さはおおよそ150 µmであると推測される。また,X<200およびx>1400の領域においてFeの蛍光X線強度はほとんど観測されなかった。これは,Feの上に存在するコンクリートによってその蛍光X線が吸収されたためだと考えられる(Fig.4(c))。また,Caの元素分布像から,コンクリートの厚さはおおよそ100 µmであると推定された。Clの元素分布からわずかに信号が観測された(Fig.4(d))。しかし,サムスペクトルから明らかなように(Fig.4(a)),Clの蛍光X線が観測されないため,傷がむき出しになり,入射X線がそこで散乱され,バックグランド強度が増加したためだと考えられる。

Fig. 4.

Sum spectrum of reinforced concrete (a). (b-d) are elemental distributions of Fe, Ca and Cl. (Online version in color.)

同じ鉄筋コンクリートを塩化ナトリウム水溶液に浸漬し,3つの傷のうちの任意の1つ傷に対して,共焦点蛍光X線分析を行った。塩化ナトリウム水溶液から取り出した鉄筋コンクリートの写真をFig.1(c)に示す。その取得したサムスペクトルをFig.5(a)に示す。塩化ナトリウム水溶液に浸漬する前と比較して,Clのピークが観測されたことが分かる。Fig.5(b-d)に,Fe, Ca, Clの元素分布像を示す。Feの元素分布像から,浸漬前では見られなかった,(X, Z)=(200, 350)から(1200, 500)の領域に新たな分布が観測された。これは,鉄の腐食生成物であると考えられる。また,Clの元素分布からも同様な新しい分布が観測された。(X, Z)=(880, 550)周辺のスペクトルを確認すると,Clのピークが観測されたので,これはバックグランドではなく,Cl自身のものであると考えられる。それゆえ,この領域には塩化鉄が少なくとも腐食生成物として存在することが示唆された。また,Z=250の領域のサムスペクトルから,Ca, Fe, Clが観測されたが,Ca Kα線の強度は非常に低く,大部分はFe Kα線だったので,コンクリートの成分はほとんど溶出したことが分かった。それゆえ,共焦点蛍光X線分析法を用いることで,非破壊的に鉄筋コンクリートの損傷状況やその腐食生成物の3次元的な元素分布を観察できると示唆された。

Fig. 5.

Sum spectrum (a) and Fe (b), Ca (c), Cl (d) distributions of reinforced concrete immersed by NaCl solution. (Online version in color.)

4. 結言

共焦点蛍光X線分析法を用いて損傷した鉄筋コンクリートの断面の元素分布像を非破壊的に観察した。元素分布像からコンクリートの厚さはおおよそ100 µmだと推定された。また,塩化ナトリウム水溶液に浸漬された元素分布に盛り上がりが観測され,FeとClが観測されたため,これらが腐食生成物を形成していることが想定される。その場観察用の試料セルなどを用いることで8),リアルタイムに鉄筋コンクリートの腐食過程を観察することができると期待される。

謝辞

本研究はJSPS科研費(21K14665, 22H02108)および第31回鉄鋼研究振興助成の補助を受けた。

文献
 
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