Tetsu-to-Hagane
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Macrosegregation of a Sn–Pb Alloy under Imposition of Oscillating Electromagnetic Force
Tomosumi FujimuraKazuhiko Iwai
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2025 Volume 111 Issue 14 Pages 879-886

Details
Abstract

Recycling of metallic products is one of the important technologies for the formation of a resource-recycling society to reduce carbon dioxide emissions. Because most metal waste is an alloy and it usually consists of various elements, an efficient method to separate these elements from the metal waste is required. Separation of solid and liquid under two phase co-existing condition is one of the promising methods since their chemical components are different. Electromagnetic separation is expected for this purpose because large difference between the solid and the liquid in electrical conductivity induces relatively large difference in the electromagnetic force than that in the gravitational force. Thus, solidification experiment using a low melting point binary Sn-10 mass% Pb alloy under different electromagnetic field imposition conditions has been done, and eutectic ratio adopted as an index of solute separation or segregation was evaluated. Obvious segregation was not observed under a static magnetic field imposition condition because it has a flow suppression function. Segregation was enhanced under the condition of simultaneous imposition of the static magnetic field and an alternating current. The degree of the segregation under the no-electromagnetic field condition was intermediate between those under the magnetic field imposition condition and the simultaneous imposition condition. The eutectic size under the simultaneous imposition condition was larger and this might become easier the liquid motion in the latter stage of the solidification.

1. 緒言

近年,資源循環型社会の形成が求められている。そのため,鉱石を用いた精錬と比較して二酸化炭素の排出量が少ない金属(合金)スクラップのリサイクル1,2)は,その重要性が増している。しかし,金属スクラップのリサイクルには解決すべき問題点がある。市中から回収した金属スクラップには熱力学的に分離できないトランプエレメント,例えば鉄の場合,モータからCu,ブリキからSn,ステンレスからNiが混入する。アルミの場合,廃自動車や廃建材からFe,Cu,Si,Mnが混入する3)。これらのトランプエレメントは精錬過程で除去できないので,リサイクルすると製品内に取り込まれる。リサイクルを繰り返すことでトランプエレメントが濃化して,最終的には金属スクラップとしての利用が不可能になる4,5)。従って,金属スクラップの利用にはそこに含まれる不純物の分離手法が必要となる。

固液共存の平衡状態では固相と液相との溶質濃度は同一ではなく,分配比に応じてどちらかに濃化する。この状態で凝固が終了すると溶質分布が不均一な偏析を形成するので,偏析を意図的に助長させて,凝固中に固相と液相とを分離する,あるいは凝固後に溶質が濃化した領域と濃化していない領域とを分離する,などの操作によってスクラップから溶質(あるいは溶媒)として不純物が分離可能6)である。

凝固中の固相と液相の濃度不均一による溶質分離方法の例としてゾーンメルティング法7)やFlemingsらによる外力利用手法8,9)が挙げられる。ゾーンメルティング法は固体原料の一端から他端へと部分的な溶融箇所を移動させることで最終溶融部分に溶質を濃化(または希薄化)させて分離する方法である。この方法は生産性が必ずしも高くなく,有機化合物や半導体等には使用されるが,鉄やアルミニウムなどの大量に生産される金属への適用は商業的に困難と考えられる。Flemingsらの手法では固液混相下の合金に重力,遠心力,圧縮力等の外力を印加して固相と液相を分離する手法である。固相と液相との密度差は数%程度であるため,重力(遠心力)による分離には大きな外力を必要とすることが課題である。特に,高固相率下での液相領域は小さく,大きな粘性力が作用する条件下での分離は困難と推定される。圧縮力印加の場合,非常に大きな力を加えないと固相と液相との分離効率が低下してしまう10)。これらの方法では偏析を助長させることで分離効率が向上しうる。

通常,凝固は鋳壁の側面から中心部に向かって進行する。よって,固相に囲まれた液相へ外力を直接印加することはできないため,流動制御には電磁場や超音波といったツールの利用が必須である。また,固相と液相との電気伝導度の差は数倍程度11)であり密度差より大きいので電磁気力の差は重力の差より大きく,分離に有利である。かつ,電磁場は強度や周波数を変えることで力の向き,強度や分布を変えることができる12,13)

凝固中の合金に静磁場を印加することで流動を抑制できること14),また,静磁場と交流電流を重畳印加することで凝固組織が微細化されること15,16,17),凝固後期の印加が溶質分布に影響を及ぼす可能性18)などは既に報告されている。後者の結果は偏析助長の可能性を示唆する結果である。しかし,偏析が助長されるか否かについては未だ解明されていない。そこで,本研究では振動電磁気力が偏析を助長する機能を有するのか否かについて,低融点合金を用いた実験で調査した。

2. 実験方法

実験試料には比較的低融点で扱いやすいSn-10mass%Pb合金(液相線温度219°C,共晶温度183°C)を採用した。実験装置をFig.1に示す。高さ35 mm,内径17 mmのSSA-H製セラミック管をるつぼとして採用した。その内側底部を基準として5 mm上部の側壁,12.5 mm, 20 mm上部の対向する側壁の3か所にK熱電対を設置した。熱電対は先端以外を外径2.5 mmのHB絶縁管で被覆するとともに,測温部を無定形耐火物で保護した。るつぼ上部から見て,上述の3対の熱電対とは90度の位置の側壁近傍に一対の銅電極(直径2 mm)を挿入した。先端5 mmを除いて絶縁被覆した片方の電極はその先端が底部から5 mmの位置に,先端10 mmを除いて絶縁被覆した他方の電極はその先端が底部から20 mmの位置に,それぞれ設置した。これによりSn-10mass%Pb合金試料の底部から5~30(10~20)mmの間の上下方向に電流が流れるようにした。なお,絶縁被覆は耐熱ガラスクロステープを使用した。磁場の向きは対向する熱電対を含む鉛直面内の水平方向である。試料サイズが30 mm程度であることを考えると,磁場強度は2%程度しか差異がないため19),試料全体に印加される磁場強度はほぼ均一と見なせる。電流の主成分は鉛直方向なので,主たる電磁気力の向きは電極とるつぼの中心軸を含む鉛直平面に並行かつ水平となる。

Fig. 1.

Experimental equipment.

電磁場印加条件をTable 1に示す。表中の・Condition1は電磁場を印加しなかった条件(以下,無印加条件と略称する),・Condition2は静磁場を印加した条件(以下,磁場印加条件と略称する),・Condition3は静磁場と交流電流を重畳印加した条件(振動電磁気力を誘起させるので以下,振動条件と略称する)である。振動条件と自然対流が発生しうる無印加条件,流動を意図的に抑制した磁場印加条件を比較して,振動電磁気力が与える偏析の影響を確認した。

Table 1. Electromagnetic field condition in the experiment.

Magnet fieldCurrent
Condition 1
Condition 20.47 T
Condition 30.47 T±7.5 Ap-p (1Hz)

実験方法の概略をFig.2に示す。Table1に示した全ての実験条件で凝固組織を粒状晶に揃えて偏析を評価するため,①に示す通り,液相試料が注湯されたるつぼの底部から5 mmの温度が液相線温度(219°C)より51°C高い270°Cとなったときに0.47 Tの静磁場を印加開始,液相線温度よりも21°C高い240°Cとなったときに片振幅7.5 A,周波数1 Hzの交流電流の通電を開始して,底部から5 mmで凝固に伴う復熱が完了するまで印加した。次に②に示す通り,復熱が完了したタイミングで磁場と電流の重畳印加から所定の印加条件に変更した。その後③に示す通り,底部から5 mmの温度が共晶温度より13°Cより低い170°Cになったときに水浴を用いて試料全体を急冷させた。

Fig. 2.

Sample treatment during solidification experiment.

水冷後の試料を電磁気力印加方向と平行な縦断面で切断し,切断面を耐水研磨紙(#40~#1500番)で研磨した後,さらにバフ研磨(0.05 µmアルミナ粉)で表面仕上げした。このバフ研磨後の試料を顕微鏡撮影した組織写真から共晶割合を求めた。一方,さらに化学腐食(腐食液は塩酸5 mL,塩化第二鉄2 g,アルコール60 mL,蒸留水30 mLの混合液を使用)することでマクロ組織を撮影した。その写真を使用して粒状晶の粒径を測定した。測定方法であるが,底部から5 mm~20 mmの領域内に半径方向,上下方向を勘案しつつ,ランダムに長さ6 mmの線を水平方向に18本引き,線上に存在する粒の数の総和を線の長さの総和で割って求めた。

流動によって溶質が濃化した液相が流入した領域は共晶割合が高くなり,流出した領域は共晶割合が低くなる。このことから共晶割合を偏析の評価指標とした20)。共晶割合を評価するために,バフ研磨後の腐食していない試料断面を100倍の倍率でカラー写真を撮影した。写真のRGBからしきい値を決定して二値化し21),白色領域をα相(初晶),黒色領域をβ相(共晶)として共晶割合を求めた。一つの評価領域の大きさは2.82×2.12 mmで3200×2400 pixelである。

3. 実験結果

3・1 温度履歴および凝固組織

温度履歴の一例として無印加条件のそれをFig.3に示す。磁場印加開始から通電開始までは底部から5 mm,20 mm,12.5 mmの順序で温度が低く,温度差は3°C程度であった。240°Cで通電開始すると振動電磁気力によって対流が誘起22)されるので温度差が約3°Cから1°Cに減少した。また,3対の熱電対で復熱が観測された時刻の差異は1 s以内であった。凝固中の温度は底部から12.5 mmが一番高かった。かつ,温度差は3°C以内であった。これらの現象は他の2条件においても同様であった。

Fig. 3.

Temperature history under condition 1.

マクロ組織写真をFig.4に示す。いずれの試料も左側に棒状の電極あるいはその跡が見られる。それ以外の観察面全体は粒状晶組織で構成されている。従って,ここで示した試料を用いて共晶割合を評価した。なお,3条件,それぞれの粒状晶の粒径は無印加条件では420 µm,磁場印加条件では500 µm,振動条件では420 µmであった。

Fig. 4.

Macrostructure obtained under each condition.

3・2 共晶割合

共晶割合の評価領域はFig.5(a)に示す通り,上部,下部,中間の3か所,半径方向は電極側,軸心,電極の反対側(以下,反対側と略称する)の3か所,すなわち合計3×3の9か所で評価した。ただし,巣が存在する場所を避けて共晶領域をとったため,条件によって測定位置に最大2 mm程度のずれが生じた。Fig.5(b),(c)および(d)に得られた共晶割合を示す。図中に示すEuEqの破線は平衡凝固で凝固した時の共晶割合EuEq=0.189,EuScの破線はScheilモデルで凝固した時の共晶割合EuSc=0.216をそれぞれ表す。共晶割合がこの範囲に収まっていない場合,溶質は拡散ではなく液相流動により移動した可能性がある。Fig.5(b)に無印加条件の共晶割合を示す。上部から下部に向かうにつれて共晶割合が高くなった。すなわち,下部に溶質が濃化した。また,中間の反対側と下部の電極側では共晶割合がScheilの理論値よりも高いことから濃化液相が流入したと判断される。Fig.5(c)に磁場印加条件の共晶割合を示す。高さ方向,半径方向のいずれも共晶割合の大きな差は見られなかった。Fig.5(d)に振動条件の共晶割合を示す。高さによらず電極側の共晶割合が高く,反対側は全ての高さで共晶割合が平衡凝固の理論値を下回った。このことから反対側では濃化液相が流出し,電極側へ移動したものと判断される。

Fig. 5.

Measurement regions of eutectic ratio and the results under each condition.

4. 考察

4・1 発熱および抜熱が試料温度に与える影響

周囲の空気への抜熱,銅電極を通じての抜熱,通電による発熱,相変態による潜熱放出が試料には起きる。これらは凝固現象に影響を与えるので,試料の熱収支を評価した。試料全体が均一温度,T(K)だと仮定すれば熱収支式は式(1)で表せる。

  
C p ρ V dT dt = Q in Q out + L h ρ V d ε s dt (1)

ここで,Cpは比熱(J/kg·K),dT/dtは冷却速度(K/s),Lhは試料の潜熱(J/kg),Qinは通電による発熱速度(W),Qoutは試料全体からの抜熱速度(W),Vは試料体積(m3),εsは固相率(-),ρは密度(kg/m3)である。

通電による発熱速度は次式で与えられる。

  
Q in = J 2 σ V J (2)

ここで,Jは電流密度(A/m2),VJは通電領域(m3),σは電気伝導度(S/m)である。

この式を用いて発熱速度を計算した。合金内の通電断面積として,るつぼの水平方向断面積の約1/2である10−4 m2,体積はこの値に高さ25 mmを乗じた値とした。なお,通電断面積をるつぼの水平方向断面積とすれば発熱速度は1/2となる。一方,電極の通電領域は合金試料中に入っている銅電極の体積とした。

式(2)を用いて銅電極と試料の発熱速度を計算するとそれぞれQin_Sn=3.6×10−3 W,Qin_Cu=5.3×10−4 Wとなった。ここでQin_Snは通電による合金試料の発熱速度(W),Qin_Cuは通電による銅電極の発熱速度(W)である。

銅電極を通じての抜熱速度は式(3)で評価し得る。

  
Q out _ Cu = λ Cu A dT dx (3)

ここで,Aは銅電極の断面積(m2),Qout_Cuは銅電極からの抜熱速度(W),dT/dxは銅電極の温度勾配(K/m),λCuは銅の熱伝導度(W/m·K)である。

銅電極の液面から20 mm上部に設置した熱電対のデータを用いて銅電極の温度勾配を求め,銅電極による抜熱速度を計算したところ,Qout_Cu=4.1 Wとなった。次に,凝固開始前の240~230°Cの試料の冷却速度を用いて,試料からの抜熱速度を計算したところ,Qout=5.3 Wであった。よって,抜熱は,銅電極の占める割合が大きく,通電による発熱は無視し得ることが分かった。すなわち,電極側は反対側よりも凝固の進行が早いと推定される。よって,無印加条件で上部および下部の電極側および振動条件の電極側で共晶割合が高いのは,電極からの抜熱によって電極側が先に凝固し,凝固収縮によって濃化液相が電極側に流入した可能性が挙げられる。

4・2 磁場が液相流動に与える影響

Hartmann数,Haは粘性力に対する静磁場による電磁制動力の比とみなすことができ,層流における磁場の流動抑制効果の指標である。Hartmann数は式(4)で定義される。

  
Ha = σ η BL (4)

ここで,Bは磁場強度(T),Lは代表長さ(m),ηは粘性係数(Pa·s)である。磁場による流動抑制効果はHa≫1のときに顕在化する。

液体のSn–10mass%Pbの粘性係数と電気伝導度を液体の純Snと液体の純Pbの物性値からη=2.33×10−3 Pa·s,σ=1.98×106 S/mと推定した。これらの値および磁場強度は実験で用いた値を用いて,Hartmann数を代表長さの関数として求めた。結果をFig.6に示す。Ha=1となる代表長さはL=70 µmなので,代表長さが100 µm以上のオーダーでは磁場による流動抑制効果が顕在化する。このことから磁場印加条件ではマクロスケールの流動が抑制されて高さ方向,半径方向によらず共晶割合が比較的均一になったと考えられる。一方,デンドライト樹間や凝固後期の固体粒間等のミクロスケールでは流動抑制効果は顕在化しない。よって,凝固後期ではたとえ磁場印加条件であっても凝固収縮などによる流動は抑制されづらい。磁場印加条件における上部の反対側で共晶割合が平衡凝固の理論値以下となったのは,凝固後期に濃化液相が測定領域の周囲へ流出した可能性がある。

Fig. 6.

Hartmann number of Sn-10mass%Pb.

4・3 不均一温度,固液の密度差による液相流動,固相運動の評価

温度履歴の温度回復開始から無印加条件,磁場印加条件での通電停止までは10 s程度であり,この時の固相率は温度から推定すると0.1~0.25程度となる。ここまでは,いずれの条件でも磁場と電流の重畳印加に起因する対流があったと推定される。温度回復開始から固相率が0.3になるまでは25~40 s程度であった。固相率が0.3のときの見かけ粘性係数は真値の100~1000倍程度のオーダー23)なので,対流が誘起される振動条件でマクロな対流が存在したとしても凝固開始から10 sオーダーで著しく減衰すると推定される。

固液混相内における液相の密度差に起因する自然対流誘起の指標として,透過率K(-)の関数で与えられるレイリー数がある24)。本実験では粒状晶組織が得られたことから,エルガン式25)から計算される摩擦係数から透過率を求めた。また,自然対流誘起の臨界値は(π2~4π226)であるとした。

  
Ra h = Δ ρ / ρ 0 gKh α ν (5)

ここで,gは重力加速度(m/s2),hは固液混相領域長さ(m),Rahは固液混相下でのレイリー数(-),αは熱拡散係数(m2/s),Δρは密度差(kg/m3),ρ0は合金試料の初期液相密度(kg/m3),νは動粘性係数(m2/s)である。

Fig.3で示した通り,凝固中の試料内の温度差は最大で3°Cであった。液相線に沿って液相組成が変化したとすれば密度変化は60 kg/m3と推算される。固相直径を190 µm(凝固終了後の粒径を420 µmとすれば固相率0.1相当)として今回の実験条件を適用すると自然対流が誘起される臨界固相率は0.07程度であり,それ以上の固相率では密度差起因の自然対流は誘起されないものと推測される。

初晶は液相より密度が小さいので浮上する。初晶が球形だとすれば浮上速度はストークス式で表せる。

  
v s = D p 2 ρ S ρ L g 18 η (6)

ここで,Dpは固相粒子の直径(m),vsは固相粒子の浮上速度(m/s),ρLは液相密度(kg/m3),ρSは固相密度(kg/m3)である。

固相と液相との密度差を70 kg/m3,球形固相の直径を190 µm, 280 µm(凝固終了後の粒径を420 µmとするとそれぞれ固相率0.1, 0.3に相当)として浮上速度を計算すると,0.7 mm/s,3.2 mm/sとなった。すなわち,10 sでそれぞれ7, 32 mm浮上することとなる。

以上のことから,無印加条件で高さ方向に偏析が観察された理由の一つとして密度の小さな固相が浮上して相対的に濃化液相が沈降した可能性が挙げられる。他の条件で高さ方向に偏析が観察されなかった理由であるが,磁場印加条件では液相流動が抑制されるので固相の移動抵抗も増加すること,振動条件では密度差による固相移動より対流の方が大きかったこと,が可能性として挙げられる。

4・4 固液混相状態での液相流動

振動条件では,高さによらず電極側で共晶割合が高く,反対側で低く,かつ,重力偏析が認められなかった。よって,固液混相状態で液相が水平方向に移動しやすかった可能性がある。この要因として,凝固末期まで主として水平方向に電磁気力が印加されることにより,ミクロスケールで鉛直方向と水平方向との組織異方性が生じた可能性が考えられる。

固液混相領域内の液相を円管束として見なした流動モデルをFig.7に示す。流動層でよく用いられるErgun式では各円管の直径は同一としているが,ここでは円管ごとに異なるものと考える。長さLct(m)は全ての円管で同一である。このうちの一つ,直径D(m)の円管の両端の圧力差がΔP(Pa)のとき,そこを通過する液体の流量Q(m3/s)はハーゲン・ポアズイユ式で与えられる。

  
Q = π Δ PD 4 128 η L (7)
Fig. 7.

Flow model for solid-liquid mixed region in which bundle of circular pipes is considered as liquid.

この式から,流量は円管直径の4乗に比例することが理解できる。円管束を考えると,断面積の総和が同じでも同一直径の円管から構成される円管束と,直径の異なる円管から構成される円管束では流量が異なることとなる。今回の実験系では,液相が濃化した領域ほど凝固が遅れるので共晶領域は凝固後期まで液相の流路となりうる。そこで,無印加条件,振動条件で共晶長さDEu(m)を計測した。具体的には,共晶割合の測定領域の内,中間の電極側,中間の反対側,下部の電極側の三領域を対象として,長さ2 mmの直線上に存在する共晶の長さを一つ一つ計測した。直線は鉛直方向に3本,水平方向に3本の合計6本である。一例として下部電極側で測定した共晶長さを小さいほうから順番に並べた分布図をFig.8に示す。無印加条件での最大値は,鉛直方向,水平方向によらず約80 µmであるが,振動条件での最大値は水平方向で約80 µm,鉛直方向で約180 µmと,水平方向に比べて鉛直方向の共晶長さが大きく,異方性が存在した。

Fig. 8.

Eutectic size distribution at the lower and near electrode position under conditions 1 and 3.

計測された各共晶長さが円管束内の各円管の直径に相当すると仮定して,その4乗の総和を計測対象の三領域のそれぞれについて計算した。式(7)より各共晶長さの4乗の総和は凝固後期の流動のしやすさの指標となる。また,三領域の共晶割合は異なるので,平衡凝固した時の共晶割合であるEuEqに対する各領域の共晶割合であるEuの比率の4乗で規格化した。これは各共晶長さの4乗の総和から溶質濃化の影響を除いたものである。それらの結果をFig.9Fig.10に示す。図中左のa,b,cは測定位置を示す。両図とも同一傾向であったので合わせて述べる。無印加条件では位置による著しい差がないものの,振動条件では電磁気力が強く作用すると推定される下部の電極側(Fig.9Fig.10のc)では大きな値となり,電磁気力が弱いと推定される中間の反対側(Fig.9Fig.10のb)では小さな値となった。すなわち,振動条件で電磁気力が強いと推定される領域では無印加条件に比べて流動しやすいことが推定される。

Fig. 9.

Summation of the fourth power of eutectic size under conditions 1 and 3.

Fig. 10.

Ratio of summation of the fourth power of eutectic size to the fourth power of eutectic ratio under conditions 1 and 3.

Fig.9に示した共晶長さの4乗の総和のうち,鉛直成分が占める割合を求めた。その結果をFig.11に示す。無印加条件では,鉛直成分の比率が0.1–0.7の間で大きくばらついており,特定の傾向が見られなかった。一方,振動条件における鉛直成分の比率は0.6–0.98で,全ての計測位置で水平成分よりも鉛直成分の比率のほうが大きくなった。これは,水平方向へ液相が流動しやすかったことを意味する。よって,振動電磁気力は樹間の濃化液相とバルク液相とを攪拌することで濃化液相領域の幅が広がり濃化液相の移動を容易にした。すなわち,電極側での凝固収縮領域へ反対側から濃化液相が容易に流入できたことで,電極側の共晶割合が高くなった可能性がある。しかしながら,詳細は今後の検討が必要である。

Fig. 11.

Ratio of vertical component in the summation of the fourth power of the eutectic size under conditions 1 and 3.

5. 結論

本研究では振動電磁気力が偏析を助長する機能を有するのか否かについて,電磁場無印加条件,静磁場印加条件を比較しつつ,低融点合金を用いた実験で調査した。

その結果,以下の結論を得た。

・静磁場印加条件では偏析が抑制された。

・振動電磁気力印加条件では偏析が助長された。

・電磁場無印加条件の偏析の程度は磁場と振動の中間だった。

・振動電磁気力印加条件では振動電磁気力が樹間の濃化液相と周囲液相とを攪拌することで濃化液相領域の幅が広がり濃化液相の移動を容易にした可能性がある。

利益相反に関する宣言

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項は存在しない。

Nomenclature

  • A:銅電極の断面積(m2
  • B:磁場強度(T)
  • Cp:比熱(J/kg·K)
  • D:円管の直径(m)
  • DEu:共晶長さ(m)
  • Dp:固相粒子の直径(m)
  • dT/dt:冷却速度(K/s)
  • dT/dx:銅電極の温度勾配(K/m)
  • g:重力加速度(m/s2
  • h:固液混相領域長さ(m)
  • J:電流密度(A/m2
  • K:透過率(-)
  • L:代表長さ(m)
  • Lct:円管の長さ(m)
  • Lh:試料の潜熱(J/kg)
  • ΔP:圧力差(Pa)
  • Q:液体の流量(m3/s)
  • Qin:通電による発熱速度(W)
  • Qin_cu:通電による銅電極の発熱速度(W)
  • Qin_sn:通電による合金試料の発熱速度(W)
  • Qout:試料全体からの抜熱速度(W)
  • Qout_cu:銅電極からの抜熱速度(W)
  • Rah:固液混相下でのレイリー数(-)
  • T:温度(K)
  • V:試料体積(m3
  • VJ:通電領域(m3
  • vs:固相粒子の浮上速度(m/s)
  • α:熱拡散係数(m2/s)
  • εs:固相率(-)
  • η:粘性係数(Pa·s)
  • λCu:銅の熱伝導度(W/m·K)
  • ρ:密度(kg/m3
  • ρ0:合金試料の初期液相密度(kg/m3
  • ρS:固相の密度(kg/m3
  • ρL:液相の密度(kg/m3
  • Δρ:密度差(kg/m3
  • σ:電気伝導度(S/m)
  • ν:動粘性係数(m2/s)

文献
 
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