Tetsu-to-Hagane
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Preface
Preface to the Special Issue “Latest Research Aiming the Elucidation of the Formation, Growth, and Evolution Mechanisms of Non-metallic Inclusions during the Solidification Process of Molten Steel”
Hiroyuki Matsuura
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2025 Volume 111 Issue 3 Pages 63-64

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鋼中非金属介在物の低減・制御は,高級鋼製造を指向する日本の鉄鋼製造プロセスにおける重要な課題であり,本会のロードマップにおいても「高機能鉄鋼材料の工業規模製造技術」確立へ向けて,「精錬から鋳造段階を俯瞰する介在物の発生・成長・変性・分離の予測・制御技術」開発が重要課題として掲げられている。これまでも鋳片の表面・内部欠陥低減や浸漬ノズル閉塞抑制のため,溶鋼中の一次介在物の生成・組成変化に関する熱力学・速度論が長年かつ多岐に渡り検討されてきた。さらに近年では,熱間加工工程での鋼中介在物変性の解明を目指した「非金属介在物の固相内組成組織制御」研究会(北村信也教授(東北大学)主査,2008-2011年度)や「非金属介在物と硫化物・窒化物の固相内反応」研究会(柴田浩幸教授(東北大学)主査,2012-2014年度)の活動を通じて,熱間工程での介在物挙動把握の重要性が示された。これらの活動を通して,介在物の生成・成長挙動に対する科学的理解と制御技術が向上し,現場的なアプローチの基礎を築いた。一方,求められる介在物制御レベルは製造技術の進歩や需要家の要求に応じて益々高まっている。製造現場で見られる欠陥起因介在物の組成・形態等は精錬段階での介在物のものと大きく異なり,その発生起因の特定に至らないケースが多々ある。この現象は鋳造・加工工程における反応・相変態に起因した介在物の変性に依ると推測される。特に,鋳造条件や鋳片部位により介在物のサイズ・形態が異なり,凝固組織に差異が現れることが報告されており,凝固過程における介在物制御の注目度が増している。上記の背景に基づく非金属介在物の高度制御技術の一層の向上は,鉄鋼材料の更なる高機能化,およびその帰結として達成される長寿命化に繋がる。世界的な喫緊の課題である地球温暖化防止のための二酸化炭素排出削減の観点からも,介在物制御技術が今後益々重要になることは論を待たないであろう。

以上を踏まえて,本会高温プロセス部会精錬フォーラムにおいては産学メンバーによる数年間の検討を行い,凝固過程のミクロ偏析による溶質濃化が引き起こす介在物変性や,濃化溶質の過飽和による二次介在物生成・成長挙動やその反応機構の解明は未踏であり,高級鋼溶製技術の開発に必須な要素であるとの共通認識を得るに至った。以上の経緯より,精錬・加工工程を経た最終製品に内在する介在物の起源とその履歴を詳らかにし,さらに二次介在物の極限利用による鋼材の機械的特性向上を図るために,精錬から鋳造段階を俯瞰する介在物の生成・成長・変性の学理面での解明を目指した「凝固過程の介在物生成・成長・変性機構」研究会が2020年度に始動した。

始動とほぼ同時に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大により,研究会活動の大幅な遅延や制限により,暫くはいわゆるポストコロナをも見据えた手探り状態の活動が続いたが,その反動もあって活動後期に至って非常に活発な活動を行うことができ,最終的には20名の委員による10回の研究会と中間・最終報告として2回の講演大会討論会(最終は2025年3月開催予定)の実現に至った。さらには,研究会活動概要とそのミッションを会員諸氏に広く知らせるためにFig.1のポスターを作製(企画・デザイン:吉川健幹事(大阪大学教授),川西咲子幹事(京都大学准教授))し,また,オンライン会議の特性を最大限に活用して,本会会員を対象とする2回のオンライン特別講演会も開催することができた。

本特集号「溶鋼の凝固過程における非金属介在物の生成・成長・変性機構の解明を目指す最新研究」は,これまでの本研究会活動をまとめて関連分野の読者各位に広く報告して意見を頂戴するとともに,今後の活動を見据えた新たな議論が起こることを期待して企画した。結果として研究会成果のみならず,関連する最新研究報告も含めた12報の論文を掲載することができ,この分野の最新研究を幅広く知ることができる特集号を発刊することができた。本特集号の読者の皆様から本研究会活動や掲載論文についての様々な意見や議論が生まれ,今後の鉄鋼材料および製造プロセスの研究・技術開発がより活発になることを期待してやまない。

末筆ながら,執筆依頼をご快諾いただいた著者各位および本特集号の実現にご尽力頂いた日本鉄鋼協会編集グループと編集委員会の皆様に対して篤く御礼申し上げる。

Fig. 1.

Poster summarizing the research group activities and missions (Planned and designed by the research group coordinators, Takeshi Yoshikawa (Professor, Osaka University) and Sakiko Kawanishi (Associate Professor, Kyoto University)). (Online version in color.)

 
© 2025 The Iron and Steel Institute of Japan

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