Tetsu-to-Hagane
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Effect of Al Content on Precipitation Behavior of AIN Inclusions during Unidirectional Solidification Process of Fe-(0.5-2.0)%Al-2.0%Mn Alloys
Kenta ImaiKengo KatoHideki Ono
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2025 Volume 111 Issue 3 Pages 131-140

Details
Abstract

Mn-TRIP steels of which composition is mainly Fe–(0.5–3mass%)Al–(2–10mass%)Mn are expected to be new advanced high-strength sheet steels. During the solidification process of Fe–Al–Mn alloy, AlN inclusions precipitate at the grain boundary, which leads to the severe deterioration of hot ductility. However, the precipitation behavior of AlN inclusion is not known enough. In this work, a unidirectional solidification experiment of Fe–(0.5–2.0)mass%Al–2.0mass%Mn alloys and numerical analysis on the forming condition of AlN were carried out, and the precipitation behavior of AlN inclusions was studied. Al2O3 inclusions were observed in the alloy with 0.5 mass%Al. On the other hand, AlN inclusions were observed in alloys with 1.0, 1.5, and 2.0 mass%Al. The volume fraction of AlN inclusions increased with increasing Al content of the alloy. The thermodynamic analysis revealed that AlN is thermodynamically unstable at temperatures above the liquidus of the alloy. When Al content of molten steel is increased, AlN becomes thermodynamically stable. Accordingly, the forming amounts of AlN in the alloys during the solidification were analyzed considering the segregation. The results show that the precipitation of AlN inclusions increases significantly during solidification due to the enrichment of Al in the liquid phase. In the Fe–(1.0–2.0)mass%Al–2.0 mass%Mn alloy, Al2O3–AlN inclusions were also observed, where AlN is present around Al2O3. These inclusions are considered to be formed by the precipitation of AlN, which becomes stable as the Al concentration increases due to solidification segregation, on Al2O3, which is stable and precipitated in the early stage of solidification.

1. 緒言

近年,自動車の衝突安全性の向上と車体軽量化の需要の高まりから,強度と靭性を兼ね備えた鋼板が開発されている1)。そのような鋼種はAdvanced High Strength Steel(AHSS)と呼ばれ,第一世代AHSSとしてTransformation Induced Plasticity(TRIP)鋼2),第二世代AHSSとしてTwinning-Induced Plasticity(TWIP)鋼3)が開発されている。一方,第二世代AHSSはMnを高濃度に含有するため,製造コストや溶接性に課題があった。そこで,第一世代AHSSと同等の製造コストであり,かつ第二世代AHSSと同等の強度延性バランスを有する第三世代AHSSの研究開発が進められている。そのひとつである中Mn-TRIP鋼4)は,Alを0.5–3.0mass%, Mnを2.0–10.0mass%含有する。一方,このようなFe–Al–Mnを主成分とする中Mn鋼ではAl, Mnを高濃度に含有するため,鋼中に含まれる非金属介在物の数,組成,形態は従来の鋼種と異なる挙動を示すことが予想される。特に,非金属介在物が凝固過程において生成する場合は,浮上分離せずに鋼中に残留し,鋼材特性に悪影響を及ぼす可能性があるため,その晶出挙動の把握および制御が重要となる。TWIP鋼やTRIP鋼のようなFe–Al–Mn系合金では,従来のAlキルド鋼よりもAlNが生成しやすく,溶鋼中や凝固過程においてAlNが晶出することが報告されている5,6,7)。連続鋳造時に粒界に生成したAlNは,動的再結晶を阻害して粒界すべりを促進させることで,鋼の熱間延性を低下させ,鋳片の表面割れの原因になることが知られている6,8)。したがってAlNの晶出挙動を把握することは,連続鋳造プロセスを最適化するために重要である。

一方で,溶鋼組成は鋼中の非金属介在物の晶出挙動に影響を及ぼす可能性がある。Paekら9)は,Mnが溶鉄中のN溶解度を著しく増加させることに起因して,溶鉄中のAlN溶解度積がMn濃度とともに直線的に増加することを明らかにしている。しかしながら,Fe–Al–Mn系合金中のAlNの形態,組成および分布に及ぼすAl濃度の影響は不明瞭である。

Nguyenら10)はFe–Al–Mn合金の凝固過程におけるAlNの晶出挙動を明らかにすることを目的としてFe–0.5mass%Al–2.0mass%Mn合金の一方向凝固実験を行い,凝固過程においてAlN介在物およびAlN–Al2O3複合介在物が生成することを報告した。そこで本研究では,Fe–(0.5–2.0)mass%Al–2.0mass%Mn合金の一方向凝固実験と凝固過程におけるAlN, Al2O3生成の熱力学計算を行い,凝固過程におけるAlNの晶出に及ぼすAl濃度の影響について検討した。

2. 実験方法

2・1 一方向凝固実験

あらかじめ高周波誘導炉を用いて一方向凝固実験に使用するFe–Al–Mn–N合金を溶製した。溶製したFe–Al–Mn–N合金の初期組成をTable 1に示す。Mn濃度は2.0mass%とし,Al濃度は0.5, 1.0, 1.5, 2.0mass%の4水準とした。溶融Fe–Al–N合金中Al濃度が2.0mass%Alのとき1873 KにおいてN濃度が0.015 mass%以上となるときAlNが晶出する9)。そこでAlN粉末を添加し,すべての試料中のNが約0.006mass%となるよう調整した。電解鉄(99.99mass%)80 g,Mn(99.99mass%)およびAlN粉末(99.9mass%)を秤量し,Al2O3坩堝に入れた。次にAl2O3坩堝(外径38 mm,内径33 mm,高さ44 mm)をさらに保護用のAl2O3坩堝(外径47 mm,内径39 mm,高さ60 mm)に入れ,高周波誘導炉内に設置した。続いてAr-N2混合ガス雰囲気で1873 Kまで昇温し試料を溶融させた。溶融後粒状のAl(≧99.0mass%)を添加して1 h保持した後加熱を停止し,炉内で冷却した。

Table 1. Chemical composition of Fe-Al-Mn alloys. (mass%).

SamplesAlMnNO
0.5Al0.4641.920.0057<0.001
1.0Al0.9481.920.0056<0.001
1.5Al1.572.000.0066<0.001
2.0Al1.991.670.0062<0.001

一方向凝固実験は電気抵抗炉を用いて実施した。あらかじめ制御温度を1900 Kとして測定した炉内の温度分布をFig.1に示す。試料位置付近の温度勾配は約10 K/cmであり,試料表面位置で1873 Kになるよう試料台の位置を調整した。

Fig. 1.

Temperature gradient at the position of samples. (Online version in color.)

作製したFe–Al–Mn–N合金を細断後40 g秤量してAl2O3坩堝(外径15 mm,内径12 mm,高さ 100 mm)内に入れ,さらに保護用のAl2O3ホルダー(外径46 mm,内径36 mm,高さ 129 mm)内に設置した。一方向凝固実験における制御温度をFig.2に示す。Ar(300 mL/min(s.t.p.))を流しながら制御温度が1900 Kになるまで室温から10 K/mimで昇温した。制御温度が1900 Kに到達した後,試料全体を均一に溶解させるために1 h保持し,約4 K/minの冷却速度で制御温度が1723 Kになるまで冷却した。冷却速度は凝固速度が0.3 cm/minとなるように,凝固速度と温度勾配の積より決定した。降温後,制御温度が1723 Kに到達したとき,試料を炉内から取り出し水冷した。

Fig. 2.

Controlling temperature during solidification experiment.

2・2 観察・分析方法

Fe–Al–Mn–N合金試料中の初期O濃度および初期N濃度を不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法および不活性ガス融解-熱伝導度法によりそれぞれ分析した。初期Al濃度および初期Mn濃度はICP発光分光分析法によりそれぞれ分析した。

凝固実験後の試料は凝固進行方向に沿って切断した後,試料片(長辺約45 mm, 短辺約10 mm)を樹脂包埋した。試料断面をエメリー紙で研磨した後粒度1.0 µmのアルミナ懸濁液を用いて鏡面研磨した。その後超純水中で超音波洗浄を行い,真空に保持して乾燥させたものを観察試料とした。介在物の形態はSEMを用いて観察し,組成はEDSにより分析した。SEM観察では,倍率を80として試料底部から凝固方向に沿って4 mm間隔で計11箇所観察した。各視野の面積は1.88 mm2である。解析ソフトImageJを用いてSEM画像を解析して介在物の投影面積を測定した。介在物粒径は投影面積と等しい面積を持つ真円の直径として評価した。

3. 実験結果

3・1 Fe–Al–Mn–N合金中の介在物の形態

SEM-EDSによって各合金中に観察された非金属介在物の反射電子像およびEDSの分析結果をFig.3に示す。0.5Alの試料ではAlN介在物は観察されず,Fig.3(a)に示すAl2O3介在物が主要な介在物として観察された。一方で1.0Al~2.0Alでは,Fig.3(c),(f),(i)に示すような六角形のAlNが主要な介在物として観察された。AlNは六方晶系のウルツ鉱構造が安定であるとされており11),六角形の形態はこの結晶構造に由来すると考えられる。Fig.4にSEM-EDSにより得られたFig.3(j)の介在物の元素分布を示す。1.0Al,1.5Alおよび2.0Alの試料においては,単相のAl2O3介在物だけでなく,Fig.3(d)~(j)に示すようなAl2O3を核としてその周辺にAlNが存在するAl2O3–AlN介在物が観察された。Al2O3とAlNは固溶体としてAlONを形成することが報告されている12)が,AlONは1973 K以上で安定であり,1973 K以下においてはAl2O3とAlNの二相に分離する。したがって,本実験の温度域においてはAlONは生成せず,Al2O3とAlNの二相に分離していたと考えられる。

Fig. 3.

Typical morphology and composition of inclusions observed in samples.

Fig. 4.

Elemental mapping of Al2O3-AlN inclusion observed in the sample with 2.0mass%Al. (Online version in color.)

3・2 Fe–Al–Mn–N合金における介在物の面積率

各試料中の介在物のSEM画像を解析して得られた介在物の面積率の分布をFig.5に示す。各試料において主要な介在物であったAl2O3またはAlNの面積率は,位置に対して明確な傾向が見られなかった。これは,本研究では凝固最終部にあたる試料表面部分を観察・分析対象としていないため,観察範囲では試料表面に浮上した介在物の影響やマクロ偏析の影響を受けなかったためだと考えられる。よって観察範囲における介在物の晶出挙動はほぼ一様であると考え,0~40 mmの範囲で観察された介在物を考察の対象とした。

Fig. 5.

Area fraction of inclusions at different positions in samples.

3・3 Fe–Al–Mn–N合金における介在物の体積分率

SEM画像より得られた粒径分布をもとに,以下に示すDeHoff13)の式より介在物の晶出量を評価した。

  
d¯=n1di(1)
  
NV=2πNad¯(2)
  
fv=π6d¯3NV(3)

ここで,NVは介在物粒子の単位体積あたりの個数(m−3),Naは介在物粒子の単位面積あたりの個数(m−2),dは介在物粒子の調和平均粒径(m),fvは介在物の体積分率(%),din個の介在物粒子のうち,i番目の介在物の見かけの粒子径である。本研究では,全粒子をその粒子径に対して,0から30 µmまでの2 µm刻みで分類し,各粒径区間ごとに体積個数密度および体積分率を算出し,その総和を介在物の体積分率とした。

Fig.6には各合金中に占める介在物の体積分率,Fig.7には全介在物に占める各介在物種の体積分率の割合を示した。Fig.6より初期Al濃度の増加にともなって合金中の介在物の総体積分率は増加した。さらにFig.7より0.5Alの試料では,介在物種はAl2O3のみであったが,1.0Al, 1.5Alおよび2.0Alの試料では,全介在物のうち90%以上をAlNが占めていた。よって,Al濃度の増加にともなってFe–Al–Mn合金中の主要な介在物はAl2O3からAlNに変化し,Al2O3介在物の割合が低下することがわかった。

Fig. 6.

Volume fraction of inclusions in each sample.

Fig. 7.

Volume fraction of each inclusion in all inclusions in each sample.

4. 考察

4・1 AlN,Al2O3生成の熱力学的考察

Fe–(0.5–2.0)mass%Al–2.0mass%Mn合金におけるAlN, Al2O3およびAl2O3–AlNの生成条件について熱力学的に考察した。溶鉄中におけるAlN,Al2O3およびN2の生成反応は以下のように表される。

  
Al_+N_=AlN( s )(4)
  
ΔGAlNo=303500+134.6T(J/mol)(5)14)
  
1 2 N 2 ( g )=N (6)
  
ΔGNo=9916+20.17T(J/mol)(7)15)
  
2Al_+3O_=Al2O3(s)(8)
  
ΔGAl2O3o=867000+222.50T(J/mol)(9)16)

ここで∆G0AlN, ∆G0NおよびΔGAl2O3oはそれぞれ式(4),(6)および(8)で表される反応式の標準自由エネルギー変化である。また,式(4),(6)および(8)で表される反応式の平衡定数をそれぞれKAlN, KNおよびKAl2O3とするとそれぞれ次のように表される。

  
logKAlN=logaAlNaAlaN=log1fAl[mass%Al]fN[mass%N](10)
  
logKN=logaNPN2=logfN[mass%N]PN2(11)
  
logKAl2O3=logaAl2O3aAl2aO3=log1fAl2[mass%Al]2fO3[mass%O]3(12)

ここでPN2は窒素分圧(atm),aAlN, aAl2O3はAlN,Al2O3の純物質基準の活量であり,aAl, aN, aOはそれぞれAl, N,およびOの希薄溶液基準(mass%表記)の活量,[mass%Al],[mass%N]および[mass%O]はそれぞれ溶鉄中のAl, NおよびOの質量濃度,fAl, fNおよびfOはそれぞれ希薄溶液基準のAl, NおよびOの活量係数である。AlN(s)およびAl2O3(s)を純粋固体物質とすると,式(10),(12)においてそれぞれaAlNおよびaAl2O3は1になる。さらに式(10),(11)および(12)はそれぞれ次のように書き換えられる。

  
logKAlN=(log[mass%Al]+log[mass%N]+logfAl+logfN)(13)
  
logKN=log[mass%N]+logfN12logPN2(14)
  
logKAl2O3=(2log[mass%Al]+3log[mass%O]+2logfAl+3logfO)(15)

式(13),(14)および(15)において活量係数は以下のWagner17)の展開式により算出した。

  
logfi=jeij[mass%j]+jkrij,k[mass%j][mass%k](i=Al,N;j=Al,Mn,N,O;k=Al,Mn,O)(16)

ここでeijおよびrij,kはそれぞれ溶鉄中の一次および二次の相互作用助係数である。1873 Kの溶鉄中におけるeijおよびrij,kの値14,15,16,18,19,20)Table 2に示す。相互作用助係数および式(5)から(16)を用いて,溶融Fe–Al–Mn–N合金がAlNまたはAl2O3と平衡する時のNまたはOの溶解度を計算し,Fig.8(a),(b)に示した。ここで実験にはAl2O3坩堝を使用しているため,Al2O3飽和であると仮定し,Al濃度に対するOの溶解度を初期組成として示した。実線が1873 K,破線がFe–2.0%Al–2.0%Mn合金の液相線温度(1791.8 K)における溶解度である。液相線温度は式(17)に示すDiederichs and Bleck21)の推算式より算出した。

  
TL=T05[mass%Mn]3.6[mass%Al](17)

ただしT0=1809 Kは純鉄の融点である。1873 KではFe–2.0mass%Al–2.0mass%Mn合金の液相線温度のどちらの温度においてもN濃度はAlNの溶解度よりも低いため,溶鉄中にAlNは晶出しないことがわかる。したがって実験試料中に観察されたAlNは凝固過程において晶出したことが示唆された。

Table 2. First and second interaction parameters eij and rij,k at 1873 K used in this work14,15,16,18,19,20).

ieiAleiNeiOeiMn
Al0.04315)0.03314)−1.9816)
N0.01714)−0.1215)−0.02318,19)
O−1.1715,16)−0.1420)−0.17415)−0.02120)
i j k rij rij,k
Al O 39.816)
O Al −0.02816)
OAl−0.01016)
AlO47.4516)
NMnMn8.1×10−5 19)
Fig. 8.

Equilibrium relation between (a) Al and N, and (b) Al and O in samples. (Online version in color.)

SEM観察より,1.0Al, 1.5Al, 2.0Alの試料においてはAlN介在物の他に,Al2O3とAlNが隣接したAl2O3–AlN介在物が観察された。そこでAl2O3–AlN介在物の生成を熱力学的に明らかにするために,Al2O3とAlNの平衡関係を解析した。上記に示した式(4),(5),(8),(9)より式(18)(19)(20)が得られる。

  
Al2O3(s)+2N_=2AlN(s)+3O_(18)
  
ΔGAl2O3AlNo=2ΔGAlNoΔGAl2O3o=260000+46.70T(J/mol)(19)
  
logKAl2O3AlN=logaAlN2aO3aAl2O3aN2=log[mass%O]3fO3[mass%N]2fN2(20)

ここでΔGAl2O3AlNo式(18)の標準自由エネルギー変化(J/mol),KAl2O3AlN式(18)の反応の平衡定数である。式(20)式(21)のように書き換えられる。

  
logKAl2O3AlN=3log[mass%O]+3logfO2log[mass%N]2logfN(21)

式(21)から溶融Fe–Mn–Al合金中におけるAlNとAl2O3間の平衡関係を計算することができる。1873 Kにおける溶融Fe–Mn–Al合金中AlNとAl2O3間の平衡関係に及ぼすAl濃度の影響をFig.9に示す。Al濃度が上昇するほど図の左上にあたるAl2O3安定領域が縮小し,図の右下にあたるAlN安定領域が拡大していくことがわかる。これはAl 濃度が増加することで,溶鉄中におけるAl–O間の相互作用の影響によりOの活量が低下し,相対的にAl2O3よりもAlNが安定になるためだと考えられる。この解析結果は,初期Al濃度が増加するほど主要な介在物がAl2O3からAlNに変化するという本研究の観察結果の傾向とも一致する。

Fig. 9.

Effect of Al content on the relationship between the stable conditions of Al2O3 and AlN in molten Fe–Mn–Al alloy at 1873 K. (Online version in color.)

4・2 凝固過程におけるAlNの晶出挙動

凝固過程では固相中と液相中の溶質元素濃度の差に起因して偏析が生じ,溶鋼中の溶質濃度が変化する。δFe–溶鉄間のAl, Mn, NおよびOの平衡分配係数kの値22)Table 3に示す。平衡分配係数の値が1より小さいことからMn, Al, N, Oは液相中へ濃化することがわかる。したがって凝固前においてAlNが生成しない条件においても,凝固過程においてAlおよびNが液相中に濃化した場合にはAlNが生成する条件へと変化している可能性がある。そこでミクロ偏析を考慮して介在物の晶出挙動を考察した。本研究では式(22)に示すClyne and Kurzのモデル23)を用いて,凝固過程における溶鉄中のAl, Mn, N濃度の変化を解析した。

  
CL=C0[1(12Ωk)fS]k112Ωk(22)

ここで,CLは液相中の溶質濃度,CSは固相中の溶質濃度,C0は初期溶質濃度,fSは固相率,kは固液間平衡分配係数(kCS/CL),Ωは以下の式(23)で表される後方拡散の寄与を表す無次元パラメーターである。

Table 3. Partition coefficients (k) and diffusion coefficients (D) in δ-iron phase of solute elements22).

ElementsDs×104 (m2/s)k
Al5.9exp (−241417/RT)0.60
Mn0.76exp (−224430/RT)0.77
N0.008exp (−79078/RT)0.25
O0.0371exp (−96441/RT)0.03

  
Ω=α[1exp(1α)]12exp(12α)(23)
  
α=DStf(0.5λs)2(24)

ここでαは逆拡散係数(-),Dsは固相内の溶質の拡散係数(m2/s),λsは二次デンドライトアーム間隔(m)である。λsは,鉄中の炭素濃度が0.53mass%以下のとき冷却速度の関数として次式24)で表される。

  
λs=148×106×CR0.38(25)

tfは局所凝固時間であり,次式で定義される。

  
tf=TLTSCR(26)

式(25)(26)においてCRは冷却速度であり,実験条件よりCR=4 K/minとした。TL, TSはそれぞれ液相線温度および固相線温度でありそれぞれ式(17)および式(27)より算出した。

  
TS=T06.8[mass%Mn]4.1[mass%Al](27)21)

解析に用いたδFe中のAl, Mn, NおよびOの拡散係数Ds22)の値をTable 3に示した。式(13)を整理すると式(28)が得られる。

  
log([mass%Al][mass%N])=logKAlN(logfAl+logfN)(28)

左辺はAlNと平衡する溶融Fe–Mn–Al合金中のAlおよびNの溶解度積であり,液相中のAl濃度とN濃度の積が式(28)より算出される溶解度積より大きくなると液相中においてAlNが晶出する条件となる。そこで各実験試料の組成を初期組成として式(17)(22)(23)(24)(25)(26)(27)により凝固過程における液相中の溶質濃度を計算し,AlとNの濃度積,AlNの溶解度積を計算した。ただし凝固中の温度は式(17)より算出できる液相線温度とした。凝固過程における液相中のAl濃度とN濃度の積および溶解度積の変化をFig.10に示す。いずれの試料も凝固開始時はAl濃度とN濃度の積log([mass%Al][mass%N])が溶解度積よりも小さいため,溶鉄中からAlNは生成しない条件である。一方で凝固が進行するとミクロ偏析にりAlおよびNが液相へ濃化するためAl濃度とN濃度の積は上昇する。加えて,温度低下にともなって溶解度積は低下する。したがって,凝固後半においてAlNが生成する条件へと変化することがわかった。そこでAlNが生成する条件となった場合にはAlとNの質量保存を考慮してAlNの生成量を推算した。ここでAlN晶出後の液相中Al濃度とN濃度の積は式(28)より計算される溶解度積と一致すると仮定した。Fig.11に計算より得られた凝固終了時におけるAlNの質量割合と実験より得られたAlNの体積分率を示す。ここで実験結果はFig.6に示したAlNの体積分率を,AlNの密度(3260(kg/m3))およびFeの密度(7870(kg/m3))の値を用いて質量濃度(mass%)へと換算した値を示している。解析結果は実験結果の約2倍の値となっているが,Al濃度が増加するほどAlNの晶出量が増加する傾向は両者で一致した。

Fig. 10.

Change of concentration product of AlN, solubility product of Al and N, and temperature as a function of solid fraction. (Online version in color.)

Fig. 11.

Comparison between calculated and experimental results of precipitated amount of AlN inclusions in the experimental alloys.

そこで,Clyne and Kurzモデルによる液相中の溶質濃度の計算と熱力学平衡計算を組み合わせることで凝固過程におけるAlNとA2O3の生成挙動について考察した。Fig.12に,1.0Al試料の凝固過程におけるO,Nの組成変化を示す。ここで初期O濃度は1873 KにおいてAl2O3と平衡するときのO濃度とした。温度の低下に伴いAl2O3の晶出するためO濃度が減少した((i)の区間)。温度が液相線温度に達すると凝固が開始し,ミクロ偏析によって,O, N, Al濃度が上昇した((ii)の区間)。AlNの溶解度を超えるとAlNの晶出が開始した。AlN晶出後はAl2O3とAlNの両相飽和条件となり,式(18)の平衡関係が成立している。ミクロ偏析によってAl濃度がさらに上昇すると,Al–O間の相互作用によって溶鉄中Oの活量が低下し,AlN安定領域は左上へ拡大する((iii)の区間)。その過程で,溶鉄中に存在するAl2O3上にAlNが晶出することで,Al2O3–AlNが生成すると考えられる。以上の考察を踏まえたAlN生成機構の模式図をFig.13に示す。

Fig. 12.

Variation of Mn, Al, N, and O concentrations during solidification. (Online version in color.)

Fig. 13.

Schematic illustration of precipitation of AlN inclusions during solidification.

(a)凝固開始前:Al2O3生成条件であるため,溶鉄中にAl2O3が晶出する。

(b)凝固開始後:凝固が開始するとミクロ偏析によって溶鉄中のAl, Mn, N, O濃度が増加する。

(c)AlNの晶出開始:ミクロ偏析によってAl濃度が上昇し,Al濃度とN濃度の積がAlNの溶解度よりも大きくなると溶鋼中およびAl2O3上にAlNが晶出する。

初期Al濃度が増加すると,凝固初期からAl濃度とN濃度の積がAlNの溶解度よりも大きくなるため,AlNの晶出量が増加することがわかった。

5. 結言

Fe–(0.5–2.0)mass%Al–2.0mass%Mn合金の一方向凝固におけるAlNの晶出挙動を調査し,以下の知見を得た。

(1)Fe–0.5mass%Al–2.0mass%Mn合金において,主要な介在物はAl2O3であった。一方で,Fe–(1.0–2.0)mass%Al–2.0mass%Mn合金ではAlNが主要な介在物として存在し,Al2O3の周囲にAlNが晶出したAl2O3–AlNが存在した。

(2)Fe–(0.5–2.0)mass%Al–2.0mass%Mn合金において,AlNの晶出量は初期Al濃度の増加にともなって増加した。一方で単独のAl2O3の晶出量はAl濃度の増加にともなって減少した。これは,Al濃度が増加すると溶鉄中におけるAl–O間の相互作用の影響によりOの活量が低下し,相対的にAl2O3よりもAlNが安定になるためだと考えられる。

(3)凝固過程におけるミクロ偏析によって溶鉄中のAlおよびNの濃度が増加することでAlNの生成条件となり,溶鉄中からAlNが晶出することがわかった。初期Al濃度が増加すると,凝固初期からAlNの生成条件となるためAlNの晶出量が増加することがわかった。

(4)Fe–(1.0–2.0)mass%Al–2.0mass%Mn合金において観察されたAl2O3–AlN介在物は,凝固初期に安定で晶出するAl2O3上に,凝固偏析によるAl濃度の上昇に伴い安定となるAlNが晶出することにより生成したと考えられる。

利益相反に関する宣言

本論文に関して,利益相反に関する事項はない。

謝辞

本研究は,日本鉄鋼協会の鉄鋼研究振興助成を受けて実施されたものであり,日本鉄鋼協会の支援に心より感謝申し上げる。

文献
 
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