2025 Volume 111 Issue 3 Pages 95-104
The formation of inclusions during solidification in steelmaking process is a critical issue for the optimal processing and the quality of steel products. Therefore, it is required to clarify the mechanism on the inclusion formation for its adequate control. In the present work, the evaluation method of inclusion distribution via the combination of inclusion positions analysis and image analysis of dendrite structure with machine learning is proposed. Image analysis using a conditional deep convolutional generative adversarial network enabled the detection of domain boundaries and the directions of secondary dendrite arms in the cross-sectional structure of unidirectionally solidified specimens. In addition, by combining this with the analysis of inclusion position, a correlation was confirmed between micro segregation behavior and the formation behavior of TiN inclusions.
鋼中の酸化物,硫化物,窒化物などの非金属介在物は,靭性の低下を及ぼすなど鋼材特性に大きな影響を及ぼす。一方で,微小介在物を分散させることで鋼材の特性向上につながることが知られている。例えば,一部の鋼種ではTiN等の介在物が溶鋼の凝固核として作用して凝固組織が微細化され,γ結晶粒の粗大化が抑制されることで疲労特性が向上することが報告されている1)。また,鋼中の介在物によるピン止め効果を用いたγ粒成長を抑制した靭性の向上が知られている2)。そのため,介在物の生成や分散の制御が強く望まれ,脱酸等精錬過程や鋳造・熱処理過程での介在物の生成・反応挙動の調査3,4)や介在物の分析技術5,6,7)など様々な観点から融合的に研究が進められてきた。
鋼の凝固過程においては,デンドライト成長に伴うミクロ偏析と温度低下による介在物の溶解度積の低下の2つの効果により濃縮液相内で二次介在物が生じると考えられている。このようなミクロ偏析による二次介在物の生成に関する研究として,熱力学計算と鋼の凝固時における溶質のミクロ偏析モデル3,4)を組み合わせた解析が行われてきた。Amanoら8)は,窒素含有鋼のTi 濃度と冷却速度が,TiN等のTi 系介在物の生成挙動に及ぼす影響について調査し,Scheilの式に基づいた検討を行っている。Caiら9)は,タイヤコード用鋼中のTi系介在物の晶出,成長を調査し,熱力学計算とOhnakaの式10)を用いてミクロ偏析による介在物の晶出を議論している。Youら11)も同様にOhnakaの式10)を用いてTi(C, N)やMnSの介在物の晶出を説明している。Liuら12,13)は,熱力学計算とミクロ偏析,TiN介在物の成長速度を考慮して,Modified coupled modelを提案し,Ti系介在物の生成・成長のモデル化や,Fe–23Mn–10Al–0.7C鋼(mass%)における介在物の形態・組成・数密度,サイズ分布を評価している。Jinら14)は,Fe–5Mn–Al–0.15C–0.23Si系Mn鋼(mass%)のミクロ偏析によるAlNやMnSの生成について,熱力学計算とClyne–Kurzモデル15)に基づき,議論している。これらの研究により,ミクロ偏析による介在物の生成の平衡論による理解が進んでいる。
一方で,ミクロ偏析を通じた介在物の分散制御の観点からは,凝固組織と介在物の生成分布の評価が必要である。Sawaiら16)はTi, Zr脱酸鋼の一方向凝固を行い,Mn濃度の分布から求めた等固相率曲線とデンドライト組織におけるTi2O3, ZrO2介在物の分布を基に凝固過程における介在物の挙動を検討している。Wakohら17)は同様の手法を用いて,低硫鋼におけるMnSの分布からその析出機構を議論している。Kawashita and Suito18,19)は,Fe–Ni合金の一方向凝固において,エッチングにより凝固組織を顕出し,TiOx–Al2O3系介在物18),Al2O3–CaO系介在物19)の分布と凝固組織から介在物の晶出挙動を考察している。近年,Fukayaら20)はFe–36Ni合金(mass%)においてSEM-EDSによる自動介在物分析とEPMA 分析とを組み合わせることで,成分分布から推定した固相率と生成するAl2O3介在物の組成の関係を報告した。これらの研究により凝固組織と介在物分布の関係について,鋼の組成分析を用いた実験手法が示されたが,検討事例が限られている。加えて,低炭素鋼などは偏析を解析するための熱力学的データが揃っている一方で,偏析による組成分布が小さい系の組成分析を利用した解析例は著者らの知る限り報告されていない。
そこで本研究では,鋼の凝固過程における介在物の生成挙動の解析に先立ち,凝固組織と介在物分布の関係を評価するシステムの構築を目的とした。一方向凝固材のエッチング組織について,機械学習を利用した画像処理技術を開発し,介在物分布分析と組み合わせることで,ミクロ凝固過程における介在物生成位置の評価の検討を行った。また本研究では,溶鋼中の溶解度が比較的大きいTiNを介在物の対象とし,また偏析による組成変化が微小となるように炭素を0.1 mass%添加したFe–C–Ti–N鋼を供試材とした。
本研究で提案する凝固中ミクロ偏析に伴う鋼中二次介在物の生成挙動の評価手法のフローをFig.1に示す。本評価手法では,A. 鋼材の一方向凝固実験を実施し,凝固後の試料中のデンドライト成長部での成長横断面にて,B. 介在物の位置情報の取得,C. 柱状デンドライトのユニット(ドメイン)とドメイン中のデンドライト二次枝の方向(十字線)の推定を行う。BとCの情報を基に,D. 各ドメインでの介在物の生成位置の解析を実施する。Bでは,介在物の観察可能倍率にてSEMを用いた研磨面のタイリング観察を行う。取得されたタイリング画像群にて介在物の位置,形状情報を取得する。Cでは,横断面をエッチングしてデンドライト組織を露出させたのち,機械学習によってドメイン境界と十字線,ならびに樹芯位置を決定する。これを踏まえDでは, Bの介在物の位置情報とCで推定したドメイン情報を組み合わせ,各ドメインにおける介在物位置と固相率の関係を見出す。樹芯から介在物までの距離をr,その延長線上にあるドメイン境界と樹芯との距離をR,各ドメイン内の二次枝方向のいずれか一つを角度の基準としてθ=0°と定義し,各ドメイン中の介在物位置(r / R, θ)を得る。
Schematic analytical flow of evaluation of inclusion formation caused by micro segregation.
Fe–C–Ti–N試料の作製には25 kHzの高周波誘導加熱装置を用いた。1873 K,Ar–10%H2流通下,アルミナるつぼ中で電解鉄(純度99.95%)と黒鉛塊ならびにFe3P粉をCaO–Al2O3系スラグとともに溶解後,Ar–10%H2–20%N2流通下に変更して加窒した後にTiを添加し,石英管に吸引することでFe–C–Ti–N合金の急冷試料を得た。作製した試料の組成は,Fe–0.1C–0.02P–0.07Ti–0.011N(mass%)である。鋼中N濃度はガス組成から推定される溶鉄中の平衡N濃度21)0.02 mass%より低い値であった。また,本研究ではPを微量添加することで凝固過程でPを液相側に分配させ,リン偏析部のピクリン酸によるエッチング処理でδフェライトの凝固組織を顕出させる。
一方向凝固実験に25 kHzの高周波誘導加熱装置を用いた。装置主要部の模式図をFig.2に示す。黒鉛サセプターの下方より差し込まれたアルミナ管内にϕ4.5 mm×30 mm の鋼試料を装入し,サセプターを加熱することで試料の鉛直方向に温度勾配を設けた。Ar雰囲気下でサセプター上部を1904 Kに昇温し,試料上部の約2/3を融解させた後にサセプターの温度を低下させ,Fe合金の非融解部から上方へ向け一方向凝固させた。試料の凝固の最終期に合金上部にMo棒を挿入し,鋼試料を急冷した。
A schematic view of a furnace for unidirectional solidification.
凝固後の試料の縦断面に対してピクリン酸によるエッチング処理を行い,デンドライト成長部を確認した。Fig.3に縦断面の観察例を示す。柱状デンドライトが下方より成長している一方,最上部では上方からのMo棒による急冷により,より微細なデンドライト組織が得られている。Fig.3のデンドライトの成長部に引いた実線の箇所で試料を切断したのち半円の横断面を観察した。コロイダルシリカを用いた鏡面研磨後,SEM(日立ハイテック:TM4000Plus)の自動タイリング機能を利用して試料全面を500倍で観察・撮影した。Fig.4 a)に自動タイリング測定による広域つなぎ像を示す。同画像を用いて,Bの介在物の位置情報を取得した。SEM観察後に横断面をエッチングした組織をFig.4 b)に示す。二次枝の成長方向から結晶方位も推定可能な凝固組織が形成されており,同画像を基に,Cのドメインと十字線を推定した。
Longitudinal cross section of unidirectionally solidified sample.
Transverse sectional view of sample: a) SEM tiling images and b) etched morphology.
Fig.3中の実線の横断面のSEM-EDSによる断面観察および介在物の元素分析結果の一例をFig.5に示す。Fig.5 a)では約2 µm大の直方体形状のTiN介在物が確認された。また,Fig.5 b)の約20 µm大の球形物はAl–Si–O系介在物と考えられる。両介在物は試料面全体で確認され,TiN介在物は概ね1–2 µm程度,酸化物介在物は5 µm以上であった。上述の自動タイリング測定による広域つなぎ像を画像解析ソフトウェアのImageJ v1.53eを用いて二値化し,Analyze Particle(粒子解析)により 介在物の位置(座標)とサイズ(ピクセル数)を取得した。同画像では0.4 µm大以上の介在物を検出可能である。ここでは上記の観察結果に基づき0.7–2.2 µm(画素数:10–100 pixel)大の母相と異なる粒子をTiN介在物として抽出した。SEMで同定した介在物位置(B)をFig.4 b)のエッチング組織に重畳したものの一例をFig.6に示す。ここでは,介在物のサイズは考慮せず,検出位置のみを点として表示している。介在物はエッチング組織の黒い領域,すなわちミクロ偏析部に多く存在しており,一次枝や二次枝の幹に相当する白い部分の存在数は限られていた。
Examples of inclusions morphology and their EDX spectra.
Comparison between solidified structure and the positions of inclusions detected in the cross section of unidirectionally solidified sample for Fe−0.1C−0.07Ti−0.011N (mass%). (Online version in color.)
取得したデンドライト横断面組織画像およびドメイン境界ならびに二次枝の十字線の教師データから,条件付き深層畳込み生成敵対ネットワーク(Conditional Deep Convolutional Generative Adversarial Networks:cDCGAN)22)を用いて,組織画像を基にしたドメイン境界ならびに二次枝の十字線の検出を行った。敵対的生成ネットワーク (GAN)は,画像等の処理に用いられる深層学習ネットワークの一種で,生成器と識別器の2つのネットワークで構成される(Fig.7)。識別器は,生成器で潜在変数から生成された疑似画像を入力とし,本物のデータの画像か,生成された画像かを判別する。判別結果に基づき,生成器と識別器が繰り返し学習することで,生成・識別精度が向上し,より本物に近い画像が生成される。cDCGANは,GANにおいて生成器と識別器に畳み込み処理を適用して設計されている(DCGAN)とともに,生成器と識別器の入力に画像などの追加情報を参照データとして加えることで,参照画像に紐づいた画像を生成することができる(cGAN)。本研究で用いた深層学習のネットワーク構造を付録に記載した。
Schematic illustration of machine learning with generative adversarial network (GAN) and conditional GAN (cGAN).
ドメイン境界と十字線の識別は,一方向凝固実験の試料を用いて以下の手順で行う。デンドライト成長部の横断面にて,エッチングで得られた組織像(i)(Fig.8 a))に対して画像処理ソフトウェアにより別レイヤーでドメイン境界およびデンドライトの二次枝の方向の十字線を描き,ドメイン境界(ii)(Fig.8 b))と十字線のみからなる画像(iii)(Fig.8 c))を作成する。ここで,ドメイン境界と十字線の決定には以下の基準を用いた。ドメイン境界線は,1)可能な限り直線,2)ミクロ偏析部を通る,3)凸状が望ましいが凹状も可能とする,4)正方配置もしくは六方配置が望ましい,5)途中で途切れることはなく,全空間を埋める。十字線は,1)二線はほぼ垂直に交わる,2)単結晶と思われる部分は十字の方向をそろえる。組織像(i)を入力データとして生成器と識別器に与え,ドメイン境界(ii)と十字線画像(iii)を教師データとして識別器に入力する。まず,組織像(i)と潜在変数を基に生成器により推定ドメイン境界と十字線画像が生成され,識別器において教師データとの比較により推定ドメイン境界と十字線画像の真偽が判定される。同時に生成器,識別器それぞれに対する損失関数を基に,誤差逆伝播法により生成器と識別器の学習が進められ,教師データを再現するドメイン境界と十字線を推定することができる。学習回数に対する損失関数,生成画像の変化を総合的に判断し,学習の終了を決定する。学習後のネットワークモデルに任意の組織画像を入力すると,ドメイン境界と十字線の画像の出力が可能である。Fig.9に,生成器で生成されたドメイン境界と十字線の学習の進行に伴う変化を示す。学習回数の増加により,ドメイン境界と十字線が教師データであるドメイン境界(ii)と十字線画像(iii)に近づいている。よってcDCGANを用いた機械学習により一方向凝固実験後の断面組織像を基にドメイン境界と十字線画像を再現できた。このネットワークモデルを,合金系,冷却速度,温度勾配などを変化させた一方向凝固試料に適用すれば,多種多様な凝固組織に対応したドメインおよび十字線の推定システムを構築することが可能と考えられ,この点は今後実施する予定である。
A part of transverse sectional view of sample for machine learning: a) etched section and teaching data: b) domain boundaries and c) cross shapes.
Generated a) domain boundary and b) cross shapes based on constructed network with different training sessions.
機械学習によるドメイン,十字線の推定(C)で獲得したドメイン境界を基に,同じ明度のピクセルの集合を一つの領域として認識することによりドメインのラベリング23)を行い,BとCでそれぞれ得た介在物の存在位置および十字線を各ドメインに帰属させた。十字線の方向および樹芯の位置は,「近傍画素の全てに対して,画素値が大きく変化している点」をコーナー・エッジと定義するHarrisのコーナー検出24)を用いて決定した。上記を通じて,ラベリングされた各ドメインにおける樹芯,十字線の4つの先端の座標を獲得した。決定した樹芯座標を基にドメイン境界までの距離Rに対する介在物の相対距離r / Rが得られるとともに,ある一つの十字線の先端の座標より基準方向を定め,それより介在物との角度θを算出した。以上のようにして,Fig.1 Dに示すように各ドメインにおける介在物位置(r / R, θ)を算出した。
観察・解析はFig.4 b)に示す横断面の全領域において実施した。解析ドメイン数は262個,介在物数は828個である。Fig.10に,介在物の分布をr / Rに対して示す。ここでは,r / Rが0.1ごとの区間における介在物の存在数を示している。介在物数はr / Rが大きくなるとともに増加する傾向を示した。特に,r / Rが0.6未満では数十個以下に対して,0.6以上では各区間で100 – 200個以上というようなr / Rが大きな場合に介在物は多く分布し,全体の80%近くの介在物がr / Rが0.6以上に存在していた。このことから,介在物は固相率が高い領域において多数分布することがわかる。一方で,Fig.1 Dの固相率のイメージ図,Fig.4やFig.6に示される横断面におけるデンドライトの形状,つまり,二次枝方向は大きく成長し,樹間は二次枝と比較して成長が鈍いことを考慮すると,樹芯からの相対位置r / Rが等しい場合でも,二次枝方向からの角度θにより固相率が異なり,介在物分布への影響が予測される。そこで,θ=0–360°の存在方向をもつ介在物に対して,二次枝が4回回転対称性と軸対象性をもつことを仮定し,0–45°に集約したϕ=0–45°の範囲で介在物分布の角度依存性を調べた。
Number of inclusions with r / R.
Fig.11にϕ=0–15, 15–30, 30–45°の区間ごとの介在物分布を示す。ϕ=0–15°では,r / Rに対して徐々に介在物数が増加する傾向にある。ϕ= 15–30°では,ϕ=0–15°よりも大きな増加傾向を示している。一方で,ϕ=30–45°では,他の領域とは異なり,r / R=0.6で急激に増加し,それ以上でも多くの介在物が存在している。Fig.12は,r / Rおよびϕに対する介在物の分布を示したものである。ここでは,二次枝が軸対象性をもつことを仮定し,ϕ=0–45°に集約したデータと同じものを複製してϕ=45–90°の範囲にもプロットしている。また,MATLABを用いて,カーネル密度推定25)により介在物の存在密度を推定した結果も併せて示している。存在密度推定で濃い領域は存在密度が高く,薄い領域は存在密度が低いことを示している。なお,ここでのドメイン形状は正方形であると仮定した。図から介在物は主としてϕ=0°のr / R=1とϕ=90°のr / R=1とを結ぶ直線よりもr / Rが大きい側に存在しており,密集している領域と疎な領域との境界に注目すると,デンドライトの二次枝の方向であるϕ=0, 90°でr / Rが大きく,ϕ=45°でr / Rが比較的小さいといったデンドライト形状を連想させる介在物分布となっている。このような介在物数の角度依存性は,ミクロ偏析のr / R依存性から予測されるTiNの晶出挙動から説明できる。Fig.1の固相率のイメージ図と合わせると,早期に二次枝が発達し,θ=0°に近い箇所では高r / RでTiN介在物が生成を開始し,固相の成長が遅れると予測される例えばθ=45°近傍では低r / RからTiNが生成を開始するという傾向を表している。このことは,ミクロ偏析により液相中のNとTi濃度の増加と対応したTiNの分布を示唆している。また,Fig.6に示した介在物分布とエッチング組織との重畳において介在物がエッチング組織の黒い領域,すなわちミクロ偏析部に多く観察されたこととも対応している。
Number of inclusions with r / R in different ϕ.
a) Distribution of inclusions with r / R and ϕ and b) with kernel density estimation.
Fig.13に介在物の直径へのr / Rの影響を示す。同図ではϕ=0–15, 15–30, 30–45°の結果を区別して示している。全体的にr / Rが0.6を超えたあたりから1 µm程度の微細な介在物が多く存在していることが確認できる。これは,上述のように凝固の進行によるミクロ偏析により,核生成でTiNが晶出したことによるものと考えられる。一方で,介在物の直径への角度依存性については本結果から明確な違いは確認されなかった。
Size distribution of inclusions with r / R. (Online version in color.)
以上のように,本評価手法では,多数の介在物のドメイン境界,樹芯,デンドライトの二次枝方向の位置情報を自動的に評価可能となり,介在物の生成挙動の定量的な評価の基盤となる手法が構築できた。一方で,介在物生成における過飽和の評価に不可欠な固相率分布を推定するためには,上述のようにミクロ偏析場を決定するデンドライト形状の正確な把握が不可欠であり,デンドライトの形状を推測するための計算モデルが一躍を担う。デンドライトの成長は合金組成,温度勾配,凝固速度等の条件に依存し,固有のデンドライト形状が形成される。今後は,フェーズフィールド26)やセルオートマトン27)など各種設定条件において一意的にデンドライト形状が定まる計算機シミュレーションと融合することで詳細な介在物の生成挙動の評価を行う予定である。
本研究では凝固中ミクロ偏析に起因した鋼中二次介在物の生成分布を評価するシステムの構築へ向け,凝固組織を基にした機械学習によるドメイン境界と二次枝方向の推定ならびに,介在物位置の自動分析システムの作成を行った。
cDCGANを用いた機械学習により,凝固組織画像中のドメイン境界ならびにデンドライトの二次方向が再現された。また,介在物分布の評価の予備的検討を試み,ミクロ偏析による成分濃縮とTiN介在物の生成挙動の相関性を示唆する結果を得た。
本研究の遂行に関して利益相反は無いことをここに宣言する。
本研究では,セマンティックセグメンテーションのフレームワーク28,29)を基に,MATLAB R2023bにてDeep Learning Toolbox, Image Processing Toolbox, Computer Vision Toolboxを利用して独自に画像認識・推定のプログラムを作成した。Table A1に本研究での生成器と識別器のネットワーク構造を示す。生成器のエンコーダ部は,バッチ正規化とLeakyReLU層を用いた一連の畳み込み層によって,入力画像をダウンダンプリングする。デコーダ部では,畳み込み演算でアップサンプリングする。活性化関数にはLeakyReLUを用い,出力層のみ活性化関数をtanhとした。識別器は,連結層とともに一連の畳み込み層から構成され,活性化関数としてLeakyReLUを使用した。
a) | b) | |||||
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Encoder | Decoder | Layer | ||||
Layer | Layer | |||||
1 | Input | 16 | Transposed Convolution | 1 | Input | |
2 | Convolution | 17 | Batch Normalization | 2 | Contactenation | |
3 | LeakyReLU activation | 18 | Dropout | 3 | Convolution | |
4 | Convolution | 19 | LeakyReLU activation | 4 | LeakyReLU activation | |
5 | Batch Normalization | 20 | Transposed Convolution | 5 | Convolution | |
6 | LeakyReLU activation | 21 | Batch Normalization | 6 | Batch Normalization | |
7 | Convolution | 22 | Dropout | 7 | LeakyReLU activation | |
8 | Batch Normalization | 23 | LeakyReLU activation | 8 | Convolution | |
9 | LeakyReLU activation | 24 | Transposed Convolution | 9 | Batch Normalization | |
10 | Convolution | 25 | Batch Normalization | 10 | LeakyReLU activation | |
11 | Batch Normalization | 26 | Dropout | 11 | Convolution | |
12 | LeakyReLU activation | 27 | LeakyReLU activation | 12 | Batch Normalization | |
13 | Convolution | 28 | Transposed Convolution | 13 | LeakyReLU activation | |
14 | Batch Normalization | 29 | Batch Normalization | 14 | Convolution | |
15 | LeakyReLU activation | 30 | LeakyReLU activation | 15 | Batch Normalization | |
31 | Transposed Convolution | 16 | LeakyReLU activation | |||
32 | Tanh activation | 17 | Convolution |