2025 Volume 111 Issue 3 Pages 105-111
In order to clarify the location of secondary inclusions formed during solidification, this study proposed a function to estimate the one-dimensional fraction solid at any position from the cross-section of unidirectionally solidified specimen. The function is based on an n-th order function expressed as a combination of the dimensionless distance (r/R) defined within the dendritic domain and the rotation angle θ measured from a specific secondary branch. The function has a simple form and uses only one parameter but the estimated values of fraction solid are ideal both for one-dimensional and two-dimensional ones. In addition, the predicted shape of the cross-sectional structure of the dendrite that can be derived from the proposed function is reasonable. It was also revealed that it is possible to express a variety of shapes from a cell shape without secondary branches to a dendrite shape with well-developed secondary branches, by changing the value of parameter n.
二次介在物は,凝固途中で液相中に濃縮した複数の溶質が反応して,固液界面近傍の液相中で晶出すると考えられる1)。液相中の介在物の飽和溶解度を上回り,過飽和状態になって介在物の核生成・成長が起こり,最終的に固相に捕捉されると考えられる。しかし,介在物の核生成はどの時点で起こるのか,核生成した場所で固相にトラップされるのか,介在物の成長はどの程度まで続くのかなど,二次介在物の生成過程に関して未解明である事項は多い。これらの事項を明らかにするために参考になる実験データは凝固試料中の二次介在物の存在位置である。
凝固試料中で凝固の進行を示す位置情報は固相率である。凝固初期から末期までを単位とする領域をユニットセルとして,その中の無次元長さを固相率とするのが一般的である。無次元長さを基本とすることから,一次元固相率と言える。これを用いてミクロ偏析の解析などが行われている2,3)。例えばデンドライト組織などの凝固組織が与えられた時,全ての位置の固相率が推定可能になれば偏析や介在物生成を議論するうえで理想である。
そこで本論文では,一方向凝固材の横断面組織を取得できた際に,その組織内の任意の位置の固相率を推定する手法を提案するものである。
一方向凝固材の横断面組織において,1本の柱状デンドライトの占める領域をドメインと定義した4)。Fig.1に1つのドメインを模式的に示した。対向するデンドライトの二次枝の発達方向に2本のほぼ直交する直線を引き,その交点を樹芯として定義する。樹芯からある1本の二次枝の方向を基準として,それから反時計回りに方位角θを定義する。ドメイン内の任意の位置について,樹芯からドメイン境界までの距離Rと任意の位置までの距離rとして,無次元長さr/Rを定義する。ドメイン内の凝固は樹芯からスタートしてドメイン境界で終わる。したがって,樹芯の固相率は0であり,ドメイン境界の固相率は1である。
A schematic view of dendritic domain and definition of orientation angle, θ and dimensionless length, r / R. (Online version in color.)
Fig.1に示すように,仮にデンドライトの樹芯から同じ距離に介在物AとBがある場合,これら2つの介在物が捕捉された位置の固相率は互いに異なると考えられる。二次枝はこのドメインの中では比較的早期に固相に変態するので,二次枝内に存在する介在物Aは凝固の早いタイミングで捕捉されたことを示す。一方,二次枝間は二次枝の成長に伴い溶質が濃縮するために,凝固が遅れる。ここに存在する介在物Bはドメイン内の凝固の遅いタイミングで捕捉されたことを示す。凝固のタイミングの早い/遅いはドメイン内の固相率の小さい/大きいに対応する。したがって,樹芯から等距離であっても,介在物Aの捕捉位置の固相率は介在物Bの捕捉位置の固相率と比べて小さいと判断できる。
この考え方から次のように考察できる。樹芯から二次枝の方向の一次元固相率( fs)は無次元化距離に対して,Fig.2の実線のように変化する。すなわち,二次枝が液相中に早期に成長するために,この方向では距離の増加に対してfsは緩やかに増加する。一方,二次元的な樹間に相当するFig.1の介在物Bの方向(θ=45°の方向)には,Fig.2の破線のように無次元化距離に対してfsは速やかに増加する。
Relationship expected between dimensionless length and fraction solid when θ is 0° and 45°.
いずれの方向についても,凝固の出発点である樹芯ではfsは0であること,またドメイン境界はその方向の最終凝固位置であるのでfsは1であることは前述の通りである。
前述したように,無次元化距離(r/R)に対して,一次元固相率( fs)がどのように増加するかについて定式化する。まず,凝固組織形成について簡略化するために,以下のような仮定を設ける。
考える合金は,優先成長方向が[100]の立方晶系の合金であるとする。一方向凝固により,デンドライト主軸は成長方向に平行に成長する。主軸に対し,4本の二次枝が垂直に成長する。これら4本の二次枝は同等であり,4回対称であるとする。今回の解析では三次枝の生成は考えない。また,二次枝が粗大化する際に溶質を濃縮した液滴を取り込むことがありうる5)が,ここでは無視する。
合金組成や凝固条件により,二次枝が十分に発達してデンドライトが十字型に見える例もあれば,二次枝の発達が不十分で同心円状に近い例もある。これらを包括的に定式化できることが望ましい。
3・2 定式化の具体的条件上述した仮定に基づいて定式化する際の満足すべき条件は以下の4点である。
1)あらゆるθに対し,r/Rの0から1への増加に対してfsは単調に増加する。また,r/R=0でfs=0,r/R=1でfs=1を満足する。
2)デンドライト形状の場合,θ=0°ではr/Rの増加に対して,fsは初期には緩やかに,後期には急激に増加する。θ=45°ではr/Rの増加に対して,fsは初期には比較的急激に,後期には緩やかに増加する。デンドライトの幹の太さに対応するr/Rまでのごく初期には緩やかに増加することが望ましい。
3)fsを記述する関数はできるだけ単純であり,用いるパラメータの数は少ない方が望ましい。
4) 用いる関数とパラメータに物理的意味があることが望ましい。
3・2に示した条件のうち,1)と2)を満足する関数として式(1)(=n次曲線)を提案する。
(1) |
ここでパラメータnはn ≥ 1を満足する数値である。
これは関数の形が単純で,パラメータは1つであり,上記条件の3)も満足する。さらに,n=1ではr/Rに対して直線,n>1では下に凸の曲線であり,nの値によって下に凸になる程度が変化することから,組織変化による固相率の増加挙動の差を表現できる可能性を有している。ただし,式(1)そのものには物理的意味はなく,関数の形がFig.2に示したθ=0°での固相率変化の予想に近いことから有用と判断した。
4・2 θ=45°での挙動についてθ=0°と同じ関数形と同じ値のパラメータを用いることを優先し,3・2に示した1)~3)の条件を満足する関数として,式(2)を提案する。
(2) |
これは式(1)と同じn次曲線であるが,上に凸となり,かつr/R=1,fs=1が頂点になるように変換したものである。ただし,2)の後半で述べた,r/Rがごく初期にはfsは緩やかに上昇することが望ましい,という条件は満足しない。
4・3 θが0°から45°の間の変化についてθ=0°~45°において,θ=0°の下に凸の曲線から,θ=45°の上に凸の曲線へ滑らかに変化させる。式(1),式(2)の曲線はr/R=0.5, fs=0.5で点対称である。そこで,θが中間点の22.5°まではfs=(r/R)nとfs=r/Rとの差を角度に応じて按分し,fs=r/Rに加える式(3)とした。
(3) |
ただし,αは以下の通りである。
また,θが22.5°から45°まではfs=−{1−(r/R)}n+1とfs=r/Rとの差を,22.5°からの角度増加分に見合った量をfs=r/Rに加える式(4)とした。
(4) |
ただし,α'は以下の通りである。
ここでの取り扱いで,θ=22.5°でfs=r/Rとしたこと,また角度に応じて固相率が按分されるとしたが,これらの物理的意味はない。なお,θ>45°ではデンドライト組織の対称性から,周期変化するとした。
n=1,n=1.2,n=3の3つの場合について,r/Rとfsとの関係をFig.3に示す。ただし,ここでは方位角θは0°と45°の2つの場合のみを表示した。実線で示したθ=0°の場合,n=1では直線,n=1.2では緩やかな下に凸の曲線,n=3では顕著な下に凸の曲線を示している。検討の範囲内では,nが大きいほど,r/Rの増加に対してfsが緩やかに上昇しており,当初予想した挙動に近いと言える。また,破線で示したθ=45°の場合,nが大きいほど,r/Rの増加に対して初期にfsが大きく増加しており,これについても当初予想した挙動を表していると判断できる。なお,n=1ではθ=0°とθ=45°の挙動が一致している。これはfsの挙動が方位角θに依存しないことを表しており,等方的であることを意味する。
Predicted relationship between dimensionless length and fraction solid as a function of parameter n.
n=1.2とn=3の二つの場合について,θを4.5°刻みで0°から45°まで変化させてfsを計算した結果をFig.4に示す。なお,煩雑になるため方位角θの値の表示は省略した。いずれのnに対しても,θ=0°からθ=45°まで滑らかにfsが変化している。また,いずれのθについてもr/Rの増加に対して一様にfsが増加している。以上より,fsの滑らかな上昇という観点で,今回の固相率推測式の記述は妥当であると判断できる。
Predicted relationship between dimensionless length and fraction solid in cases of n=1.2 and n=3, depending on θ. (Online version in color.)
Fig.4では無次元化距離とfsとの関係に対する方位角θの影響を示した。この図から,あるfs(=固相率の目標値)を与える座標(r/R, θ)が得られる。これを利用し,デンドライト二次枝の形状は4回対称である仮定に基づけば,ドメイン内の等固相率線が推定できる。等固相率線はそれぞれの時点での固液界面形状とみなせるので,そのままデンドライトの形状と考えられる。なおここでは,ドメイン形状は円で,樹芯は円の中心にあるとし,樹芯からの距離をr/R×100とし,基準となる二次枝の成長方向を水平に合わせた。
n=1.2の場合,fsが0.1~0.8でのデンドライトの形状をFig.5に示す。fsの増加に対して,ほぼ同心円状に大きくなっていることが確認できる。ただし,二次枝の成長方向に少し凸部が認められる。二次枝が十分には発達していないため,ここでの形状はデンドライト状セル(dendritic-cell)に分類6)される。
Evolution of dendrite predicted by a proposed function with n=1.2. (Online version in color.)
n=3の場合の同様の結果をFig.6に示す。fsが小さい時には二次枝の先端が尖っていること,二次枝の途中が太っていることなど,デンドライトの成長挙動が実際とは異なる部分もあるが,おおむねデンドライトの成長が表現できている。ここではn=1.2との比較のみであるが,主軸の太さに対して二次枝が十分に長く,二次枝が発達したデンドライトを描写できている。
Evolution of dendrite predicted by a proposed function with n=3. (Online version in color.)
Esakaらは二元系合金のデンドライトの成長方向を統一的に理解するために,ブリッジマンタイプの一方向凝固において,成長速度をその条件下の組成的過冷の臨界成長速度で除した無次元化成長速度(Vnorm)を定義した7)。
(5) |
ここで,C0は溶質濃度,mは液相線勾配,kは溶質の固液間の平衡分配係数,Dは溶質の液相中の拡散係数,Gは温度勾配である。この式は成長速度が,固液界面が不安定化する臨界速度からどの程度かけ離れているかを示すものであり,温度勾配に引きずられるセルと,優先成長方向に成長するデンドライトの両方の兼ね合いから固液界面の形態および成長方向の変化を合理的に説明できた。
これを発展させれば,横断面での二次枝の成長の程度もVnormを用いて説明できる。すなわち,Vnormが小さい時には二次枝の発達が不十分なセル的な性質が残るため,今回提案したパラメータnは小さくなる。一方,Vnormが大きくなると十分に二次枝が発達するためにnは大きくなる。
以上のことから,Vnormとnとは正の相関があると判断できる。したがって,nはデンドライトの形態を表現しうるパラメータであり,形態係数と名付けることが可能である。具体的にはn=1は二次枝の全く成長しないセル組織,おおむね1<n<1.5では二次枝が少し発達した,ずんぐりとしたデンドライト,1.5 ≤ nで二次枝が発達したデンドライトとしてよいと思われる。ただし,具体的な合金組成や凝固条件での凝固組織と形態係数nとの関連についてはさらなる検討が必要である。
6・3 固相率との対応 6・3・1 一次元固相率Fig.5とFig.6に示したように,今回提案した関数からデンドライト形状が確認できた。これはfsの目標値に対して,r/Rとθの組み合わせとして固液界面位置を決定したものである。換言すれば,r/Rの値は方位角θでのそれぞれの一次元固相率を表す。そこでθ=0°から1°刻みで45°までのr/Rを求め,その算術平均( f1)を求めた。目標固相率とf1との関係をn=1.2,n=3のそれぞれについて求めた結果をFig.7に示す。n=1.2,n=3ともに,各測定点はf1=fsのラインに極めて近い。一次元固相率が樹芯から各方位への固相の成長の平均で表わされたことから,提案した関数が十分正しく設定できていると判断できる。ただし詳細に見ると,nが大きい場合,目標固相率が小さい範囲で平均固相率がやや大きく,目標固相率が大きい範囲でわずかに小さいことは注意すべきである。
Relationship between predicted fraction solid and one-dimensional fraction solid in case of n=1.2 and n=3. (Online version in color.)
Fig.5とFig.6では凝固の進行に伴って,ドメイン内でデンドライトがその領域を広げることが示された。ドメイン内でのデンドライトの面積率を二次元固相率(f2)として計測し,その変化をfsの目標値に対してプロットしたものをFig.8に示す。なお,ここでもドメインは樹芯を中心とする円であると仮定した。なお,図中には一次の依存性のライン( f2=fs)と二次の依存性のライン( f2=fs2)を合わせて示した。
Relationship between predicted fraction solid and two-dimensional fraction solid in case of n=1.2 and n=3. (Online version in color.)
n=1.2,n=3ともに各測定点はf2=fs2にほぼ沿って変化していると判断できる。これは一次元固相率を2乗した値で面積率が求められることを示している。極めて妥当な結果と言えるが,これは本研究で提案した一次元固相率の推測式が凝固組織形成過程を十分正しく説明できていることを示している。
ただし詳細に見ると,nが大きい場合に目標固相率が比較的小さい範囲ではf2=fs2のラインよりも正にずれ,目標固相率が大きい範囲では負にずれる傾向が認められる。これは6・3・1での一次元固相率のずれの原因とも共通するが,今回提案した関数および方位角の影響の記述に改善の必要があることを示している。
6・3・3 溶質濃度推定のための固相率の考え方二次介在物の生成挙動を解析する場合に重要なのは,その位置での溶質濃度である。凝固モデルを樹芯からドメイン境界にかけて断面積が変化しないユニットセルを考えるならば,今回提案した関数形をそのまま用いた一次元固相率を用いて溶質濃度を推定することになる。一方,樹芯からドメイン境界にかけて断面積が大きくなると考える二次元的なユニットセルであれば,今回提案した関数で求めた値を2乗した値がその位置での固相率に対応する。
どちらが合理的であるかは,凝固様式をどのように考えるかに依存する。柱状デンドライトの横方向の凝固は複雑であるため,6・5で述べるように,モデル計算と組み合わせたさらなる検討が必要となる。
6・4 提案式の応用凝固組織観察と介在物の分布計測から,模式的にFig.1に示したようなデジタル化されたデータが得られる。具体的には,ドメイン境界,二次枝の方向と樹芯の位置,そして個々の介在物の位置やサイズなどである。これらのデータから,ドメイン内の介在物位置のr/Rとθが求まり,凝固組織の対称性から方位角θを0°~45°に規格化すれば,式(3)と式(4)により,当該介在物位置の一次元固相率を推算できる。
今回提案した推測式を利用すれば,多数のデータを統計的に扱う必要のある介在物挙動の解析において,r/Rを指標とした解析と比較して一次元固相率をより正確にかつ簡便に推算できるものと考えられる。ただし形態係数nについては,Fig.1に模式的に示した凝固組織の場合には3程度と考えられるが,具体的にはより詳細な検討が必要である。
6・5 今後の展開について柱状デンドライトの二次枝を含めた横方向の凝固を解析的に取り扱った例は,著者らの知る範囲では存在しない。二次枝の粗大化なども進行し,確率論的な要素が多く含まれることが原因だと思われるが,それだけ複雑であることを示している。しかし,二次介在物はこのような環境下で生成し,固相に捕捉されると考えられるので,二次介在物の制御や高度利用を目指すためにはこの部分を解明してゆく必要がある。そのために,これらを解決できるポテンシャルを持つセルラーオートマトン法(CA法)8)やフェーズフィールド法(PF法)9)によるモデル解析の適用に期待したい。なお,本研究で試みたように,比較的簡便な式を用いて現象を表現することは,見通しを良くする観点からも重要である。そのことから,上記のシミュレーション解析と組み合わせた総合的な検討を進める必要がある。
凝固途中で生成する二次介在物の存在位置を明らかにするために,本研究では一方向凝固材の横断面組織から,任意の位置の一次元固相率を推算するための関数を提案した。それは,デンドライトドメイン内で定義した無次元化距離(r/R)と特定の二次枝から測定する回転角θとの組み合わせで表した,n次関数を基本とした関数である。その関数は単純な形で,用いるパラメータは1つのみであるが,これを用いて予測できる固相率の値は一次元での値も,二次元での値も理想的なものであった。また,その関数から導出できるデンドライトの横断面組織の予測形状は合理的なものであった。パラメータとして用いたnの値を変更すれば,二次枝の発達しないセル形状から,二次枝が十分に発達したデンドライト形状までを表現しうることが明らかになった。
本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。