2025 Volume 111 Issue 3 Pages 122-130
In order to reasonably control the precipitation of inclusions during solidification in TWIP steels, the precipitation behavior of typical MnS inclusions in high manganese steel was investigated by unidirectional solidification experiments. Through the combined analyses using ASEM-EDS, optical microscope, and thermodynamic calculation, it was found that Mn concentration in the liquid metal region were higher than those in the solid metal region. Furthermore, closer to the inclusion the liquid phase was, higher its Mn content was. In Fe–18mass%Mn–1Al–0.3C, MnS inclusions can precipitate at the positions located in the junction of dendrites at the end of the solidification (solid fraction fS = 0.96), Mn content reaching 34.88 mass%. Already existing Al2O3 particles could become the core of MnS to form composite inclusions to promote the MnS precipitation during the solidification process. When fS achieved 0.7 leading the Mn segregation in the liquid phase to 25 mass%, MnS starts to precipitate to attach the Al2O3 surface to form composite inclusion.
双晶誘起塑性(TWIP)鋼は,室温での引張強度が高く延性も大きいなど,優れた機械的特性を示すため,将来的な自動車用鋼材として検討されている1,2,3,4)。自動車の軽量化,燃費向上,排ガス削減を目指して,多くの研究者がFe–Mn–Si–Al系の第1世代からFe–Mn–Al–C系の第3世代に至るまで,TWIP鋼の開発を行ってきた5,6,7)。第3世代では,Mn濃度が約18 mass%,Al添加量が約1 mass%であり,鋼材密度を効果的に低下させるだけでなく,加工性能も明らかに向上する。しかし,製造工程,特に鋳造工程での非金属介在物の生成を避けるのは依然として困難である。多くの研究者が凝固中の非金属介在物の生成機構に注目している8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32)。
典型的な非金属介在物であるマンガン硫化物は,マンガンと硫黄のミクロ偏析により,鋼の凝固中にデンドライト間領域で優先的に結晶化・晶出することが知られている12,13,14)。MnS介在物は一般に機械的性質に対して悪影響を及ぼすと考えられているが,微細分散したMnS介在物は粒界フェライトの核生成に作用して結晶粒微細化と機械的性質の改善をもたらす。Suzukiら15)はステンレス鋼の鋳造において,実機鋳造機でスラブ内部へ向かって試料採取深さが増すにつれて,介在物粒子サイズが大きくなり介在物粒子数が減少することを見出した。Gigacherら16)は,自動SEM-EDS分析を用いて鋳造ままFe–(15-25)Mn–3Al–3Si TWIP鋼中の介在物を分析し,主な介在物はMnO–Al2O3–AlN(40%),MnO–Al2O3–MnS(10%),MnO–Al2O3–AlN–MnS(30%),およびAlN(14%)であることを見出した。Parkら17,18)はFe–Mn–Al鋼中のAlとMn濃度の影響を調査し,主な介在物を7種類に分類し,それらの中でMnSは必ず生成していた。Xinら19)はFe–16Mn–Al–0.6C中に生成した介在物の変化に対するAl濃度の影響を研究し,鋼中Al濃度が0.002 mass%から2.1 mass%に増加するにつれて,支配的な安定介在物がMnO→Al2O3/MnS→MnS→AlNと変化することを見出した。Shenら20,21)は,TWIP鋼におけるCとMnの液相への偏析への影響を明らかにし,Luoら22)は条鋼中のMnS介在物晶出の大きさと分布を予測した。分布機構を解析するために冷却速度と温度勾配の影響が考慮された23,24)。Wangら25,26,27)は方向凝固中の介在物の晶析出挙動を定性的に研究した。過去数十年にわたり,鋼中MnS介在物の形態,大きさ,分布を制御するために多くの調査が行われてきた。一方,凝固過程では粒成長とMnS粒子晶出がしばしば同時に起こる。凝固中のMnS介在物晶出挙動,特に偏析と晶出の関係については更なる研究が必要である。
本研究では,一方向凝固実験を通じてFe–Mn–Al–C鋼の凝固過程におけるMnS介在物の晶出挙動について調査した。先行研究によれば,AlおよびN濃度が注意深く制御されていない場合にはAlN介在物が容易に晶出する可能性がある。そのため,Fe–18mass%Mn–1Al–0.3C組成を研究対象とし,その溶湯を脱酸Ar雰囲気中に保持してN濃度を可能な限り低減した。SEM-EDSと光学顕微鏡測定を組み合わせて,介在物とデンドライトの位置関係を検討するためのその場観察を実現した。さらに,エネルギー分散型分光器を備えた自動走査型電子顕微鏡(ASEM-EDS)と熱力学計算も適用して,偏析と晶出の関係を解析した。
実験装置をFig.1に示す。Fe–Mn–Al–C鋼は高周波誘導炉で作製した。まず,120 gのFe–Mn–Cをアルミナ坩堝(内径30 mm,深さ90 mm)に入れ,脱酸Ar雰囲気(純度:>99.99%)で溶融するまで加熱し,次にAlワイヤを5分以内に2回添加した。融体を20分以上保持した後,ガラス質石英管(内径 4 mm)を用いて円柱状試料をを吸引し,水中で急冷した。試料表面の酸化物層およびその他の物質を除去し,次に示す一方向凝固実験用に試料中央部から10±0.1 cmの長さの試料を1つを切り取った。試料組成は炭素硫黄同時分析装置(LECO TC600),酸素窒素同時分析装置(LECO CSLS600),およびICP-OES(HITACHI PS7800)で分析し,Table 1に示した組成であった。

Experimental apparatus for master alloy preparation. (Online version in color.)
| Content (mass %) | Mn | Al | C | S | O | N |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Fe–Mn–Al–C | 18.1 | 1.0 | 0.237 | 0.0079 | 0.0007 | 0.0042 |
一方向凝固の実験装置概略図をFig.2に示す。試料を入れたアルミナ管を高温炉に15分かけてゆっくりと底から1 cm上方の位置まで挿入し,Arガス中で加熱した。炉底部の温度は1773 Kであり,試料が確実に部分溶融するように30分間保持した。次に,炉に備えられた温度制御器を使用して,炉内で試料を一定速度で冷却した。その後,試料を炉から取り出して水冷した。一方向凝固実験前に,制御器での測定温度が1783 Kに維持されている際の炉内温度分布をB型熱電対で測定したところ,Fig.3(a)のようであった。試料長さが10 cmのとき,炉内で上部から下部に向かって凝固が一方向に進行することを確認した。水冷前に下部の液相を維持するために温度低下は70 K以内でなければならない。さらに,Fig.3(b)に示すように制御冷却中の温度変化も事前に測定した。異なる位置での冷却速度は基本的に0.38 K/sと同じであり,試料はプログラムされた温度変化から約2分遅れて冷却されることが確認された。以上より,冷却速度は0.38 K/sであり,冷却時間を120 sとした。

Experiment apparatus for unidirectional solidification. (Online version in color.)

Temperature calibration; (a) temperature in different positions, and (b) cooling rates in different positions. (Online version in color.)
試料はFig.4に示すように縦方向と横方向に切断された。研削および研磨後,鏡面研磨面をEDS(HORIBA EMAX)を備えたSEM(HITACHI S4200)で,加速電圧10 kV,作動距離15 mm,放出電流10 µAで観察し,二次電子イメージングモードで介在物を観察して種類を同定した。さらに,自動走査型電子顕微鏡(ASEM-EDS,ZEISS,EVO18)を使用して,介在物の統計分析データを取得した。検出可能な最小サイズを0.5 µm,介在物あたりのEDS取得時間は0.2 sに設定した。分析結果には空間座標,円相当径,アスペクト比,および介在物組成が含まれていた。上記の観察後,試料をピクリン酸2 gと100 mlの7 vol%硝酸–93 vol%メタノール混合液からなる溶液でエッチングした。固液領域におけるデンドライト形態を光学顕微鏡(KEYENCE,VHX-1000)で観察した。

Schematic illustration of the selection of the observation position. (Online version in color.)
介在物とデンドライト間のその場観察を試みた。形態観察の手順をFig.5に示す。まず,二相領域の試料表面に幾つかのマークを施し,SEM-EDSで表面を観察した。介在物の組成と種類を分析し,介在物とマークの位置関係を記録した。結果として,上記の位置関係に従って光学顕微鏡を用いて分析した介在物を見つけ出し,その場観察を実現した。

The in-situ observation steps. (Online version in color.)
試料中の単相MnS介在物の形態の代表例をFig.6に示す。Fig.6(a)には,粒界に微細な孔状欠陥があり,この欠陥近傍にMnS介在物があった。位置関係に基づいて,MnS介在物はFig.6(b)に示すように粒界に晶出していることが確認された。さらに,Fig.6(c)に示すように介在物周辺領域をEDS点分析で測定した。Fig.6(c)でマークした各位置のMn濃度に基づき,偏析によるMn濃度分布をFig.6(d)のように決定した。液相領域のMn濃度は固相領域よりも高く,液相中においても介在物に近いほどMn濃度が高いことが示された。

Example of MnS single inclusion; (a) the morphology in low magnification by SEM, (b) the morphology by OM, (c) the morphology in high magnification by SEM, and (d) Mn concentration distribution. (Online version in color.)
試料中のAl2O3–MnS粒子の形態の代表例をFig.7に示す。Fig.7はAl2O3–MnS粒子のその場観察手順を示しており,この複合介在物が粒界に位置していることがわかる。Fig.7(a)から粒界近傍に金属液相領域が存在しており,その位置関係に基づいて固相–液相–固相領域のEDS点分析を併せて行った。同様に,Fig.7(b)に示すようにAl2O3–MnS粒子近傍でEDS点分析を行った。マークされた各位置の化学組成をFig.7(c)から7(f)に示す。点1~8や点22~29のように,Mnの偏析は固相から液相へ生じていることが示された。Mnの偏析はAl2O3–MnS粒子の近傍でも生じていたが,その変動は単相MnS介在物近傍の変動よりもはるかに小さかった。これは,Al2O3–MnS複合粒子が凝固過程終盤で生成しないためと考えられる。Fig.7(e)の点15~21では,Mn濃度は25 mass%未満であり,Fig.7(d)の場合よりも低い。これは,Al2O3が核となってMnS晶出を促進し,複合粒子を生成したことを示している。

Morphology of Al2O3–MnS particles; (a) the morphology in low magnification by SEM, (b) the morphology in high magnification by SEM, (c, d) Mn concentration distribution in the solid-liquid-solid region, and (e, f) Mn concentration distribution near the Al2O3–MnS particle. (Online version in color.)
Al2O3粒子は母材溶解時の脱酸過程で生成したと考えられる。そのため,この一方向凝固実験では初めより存在する介在物がMnS晶出に影響を及ぼした。SEM-EDSおよび光学顕微鏡で観察したAl2O3粒子と結晶粒の形態および位置関係をFig.8に示す。Fig.8(a)および8(b)に示すように,Al2O3粒子は結晶粒接合部に存在した。結晶粒内にもいくつかの粒子が存在した。これは,Al2O3粒子がMnSの核となって複合介在物を生成するだけでなく,デンドライト成長中に結晶粒内に取り込まれたことを示している。

Morphology of Al2O3 inclusions; (a) and (c) the Al2O3 inclusion by SEM, and (b) and (d) the spatial relationship between inclusion and grains. (Online version in color.)
固相率fSは元素の偏析に影響を与えるため,二相領域でのfSを解析する必要がある。Fig.4に基づく横断面より,3.7 cmから2.8 cmの位置が二相領域である。ここでfSの計算はImageJソフトウェアを用いた二値化プロセスに基づいた。一例として3.1 cmの位置での計算プロセスをFig.9に示す。試料表面端には,表面から内部に向かって成長する小さなデンドライトが散見された。これらは試料水冷中に生成したものであり,fSの計算に影響を与えた。そのため,画像二値化のために複数の領域を選択し,同じ閾値を決定し,エッチング表面の白い固相領域の面積率を計算する手順で画像処理を実行した。5か所以上の領域を計算することで,Table 2に示すfSの平均を決定した。fSは凝固方向に沿って明らかに減少していた。

fS calculation process in the position 3.4 cm (Online version in color.)
| Position (cm) | 3.7 | 3.4 | 3.1 | 2.8 |
|---|---|---|---|---|
| fS | 0.731 | 0.700 | 0.685 | 0.629 |
横断面の介在物分布をASEM-EDSで凝固方向に分析した。介在物数密度をFig.10に示す。単相MnS粒子の数密度が最も大きい一方で複合酸硫化物粒子の数密度が最も小さく,また,二相領域での固相率の増加とともに介在物密度が増加することがわかる。液相内でのデンドライト先端の成長と等軸晶の成長を区別することは困難である。比較のために1.9 cmの位置を液相領域として選択した。液相中の介在物数密度は二相領域よりもはるかに小さいことが明らかになった。単相MnS粒子の晶出に関しては,fSが大きいほど液相での偏析が顕著になり,単相MnS粒子の生成が促進された。一方,水冷前の1.9 cmの位置の試料ではfSが非常に小さいためにほとんど偏析がなく,そのため介在物密度が小さい結果となった。既存のAl2O3粒子に関しても数密度は凝固方向に沿って減少傾向を示した。これは,Fig.8に示したように一部のAl2O3粒子が捕捉されてデンドライト核となったためと考えられる。酸硫化物複合粒子においては,その傾向はAl2O3粒子の傾向と一致した。Al2O3粒子が多いほど,複合介在物が生成されやすい。

Number density of inclusions in various positions. (Online version in color.)
酸硫化物粒子においては,EDS測定でMn,S,O,Alが検出されたため,そのMn濃度は単相MnS粒子に比べて低かった。そのため,複合粒子近傍を点分析することは有意義である。粒子をMnS,酸硫化物,およびAl2O3として分類する他,分類されない分析点も多数あった。酸硫化物近傍の未分類点のMn濃度は複合介在物周囲のMn偏析を効果的に反映しており,その生成条件を示すことができる。複合介在物周辺の未分類粒子中Mn濃度を平均化してTable 3に示す。複合介在物近傍のMn濃度は22–24 mass%の範囲にあることがわかる。比較のために単相MnS粒子中の平均Mn濃度もASEM-EDSによって統計的に定量化され,その結果をTable 3に示す。単相粒子中のMn濃度は29 mass%より大きく,これからもAl2O3が核としてMnS晶出を促進できることが示された。
| fS | Mn near oxy-sulfides | Mn in single MnS particle |
|---|---|---|
| 0.731 | 24.09 | 30.52 |
| 0.700 | 23.15 | 32.08 |
| 0.685 | 21.66 | 31.97 |
| 0.629 | 22.51 | 29.09 |
| 0 | 22.49 | 32.29 |
FactSage 8.0ソフトウェアを用いて,Scheil-Gulliver凝固機構に基づくMnS晶出平衡,固相率fS,および,凝固過程中温度の関係を計算した。
Fig.11に単相MnS粒子の晶出平衡を示す。この図において,実線は1773 Kでの液体金属中の[Mn]+[S]=MnS(s)平衡から計算したものである。一方,他の破線は,溶存元素の偏析を考慮した凝固過程中のMnS晶出平衡を示すために計算されたものである。温度が1704 Kまで低下すると試料の凝固が始まり,このとき,fS=0,[C]=0.237 mass%,[Al]=1 mass%である。さらに温度が低下すると,液相中元素の偏析が進み,溶存元素濃度が初期濃度から変化する。そのため,破線は1773 Kでの実線とは異なり,例えば,1663 Kでの晶出平衡計算のための入力組成は[C]=0.71 mass%,[Al]=1.14 mass%であるが,1608 Kでは[C]=1.58 mass%,[Al]=1.11 mass%である。

Precipitation equilibrium of single MnS particle. (Online version in color.)
この図には偏析による[Mn]と[S]の変化も示されており,様々な温度で計算されたMnS晶出条件と[Mn],[S]を比較することで,MnS晶出温度を推定できる。単相MnS介在物はfSが0.96でMn濃度が34.88 mass%となったときに晶出しうる。推算Mn濃度はEDS分析の測定値よりやや大きいが,これは本研究の鋼の組成系において単相MnS介在物は凝固過程の最後に晶出したことを示している。単相MnS粒子の晶出は試料の水冷の結果として生じる可能性もある。さらに,fSが0.7の場合,液相中Mn偏析は25 mass%前後に到達しうる。これはASEM-EDSの結果と一致しており,本研究においてAl2O3–MnS複合介在物は凝固過程で晶出しうることを示している。固相率が約0.7のとき,この鋼ではAl2O3表面にMnSが付着して複合介在物を生成する条件に達した。
3・2・5 凝固過程におけるMnS晶出挙動以上の解析に基づいて,凝固過程におけるMnSの晶出挙動をFig.12に示す。初期には,デンドライト成長によって取り込まれたAl2O3粒子が一部存在した。固相率が増加すると,元素の偏析により液相中の[Mn]と[S]濃度が増加した。fSが約0.7に達して[Mn]濃度が約25 mass%に達すると,Al2O3粒子の一部が核となってAl2O3–MnS複合粒子を生成した。凝固終了時には,固相率が高く,液相領域が小さくなって分散していたため,単相MnS粒子がデンドライト接合部で晶出した。

MnS precipitation behavior during the solidification process; (a) the initial period, (b) the period of forming the Al2O3–MnS composite particles, and (c) the period precipitating single-phase MnS particles (Online version in color.)
Fe–Mn–Al–C鋼を用いて他種介在物の干渉を可能な限り排除した条件下で複合介在物および単相介在物を生成するMnS晶出機構を調査した。偏析挙動を研究するために一方向凝固実験を実施し,SEM-EDS,ASEM,光学顕微鏡を用いて介在物のその場観察および統計分析を組み合わせた。観察結果および考察は以下の通りである。
(1)液相領域のMn濃度は固相領域の濃度よりも高値であった。また,液相内でも介在物に近いほどMn濃度が高かった。
(2)Fe–18mass%Mn–1Al–0.3Cの組成において,MnS介在物は凝固終了時のfS=0.96でMn濃度が34.88 mass%に達したときにデンドライト接合部で晶出した。
(3)凝固前にすでに含まれるAl2O3粒子は凝固プロセス中にMnS晶出を促進する核となり,複合介在物を生成した。固相率が0.7でMn偏析が25 mass%に達した時点で,Al2O3表面でMnSが晶出して付着し,複合介在物を生成した。
本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項は存在しない。
著者(范 越文)は,China Scholarship Council(CSC202106460042)からの財政的支援に感謝の意を表します。