2025 Volume 111 Issue 6 Pages 273-274
溶融亜鉛めっき(GI)および合金化溶融亜鉛めっき(GA)を用いた表面処理技術は鉄鋼材料に優れた耐環境性(保護防食作用と犠牲防食作用)を付与するため,建築構造部材や家電製品,自動車用鋼鈑などの幅広い分野に広く普及している。溶融亜鉛めっき処理技術は従来のフェライト母相の軟鋼だけでなく,近年C,SiおよびMn元素を多く含有する高強度複相鋼にも適用されつつある。溶融亜鉛めっき処理によって形成するめっき皮膜の凝固組織や鋼材/めっき界面に形成する金属間化合物相は,耐環境性や加工性など表面処理鋼板に要求される諸特性を支配する。従来,亜鉛めっき処理技術は蓄積された経験に基づくプロセスであるため,溶融亜鉛めっき皮膜の基礎的知見に関する未解明点は多く残されてきた。これまで,日本鉄鋼協会が支援する産発プロジェクト展開鉄鋼研究(2013年~2015年,代表者:山口 周)にて,Fe–Zn金属間化合物相の構造と結晶塑性に焦点を当て,GAめっき皮膜の加工性について系統的に調査された。また,「高機能溶融亜鉛めっき皮膜創成とナノ解析」研究会(2016年~2018年,主査:貝沼亮介)において,めっき皮膜の加工性改善だけでなく,素地鋼板の熱処理・溶融めっき処理・合金化処理等のプロセス制御に繋がる新たな基礎知見が見出された。これらの成果は,第11回亜鉛および亜鉛合金表面処理鋼板に関する国際会議「11th International Conference on Zinc and Zinc Alloy Coated Steel Sheet(GALVATECH 2017)」(2017年11 月東京開催)やISIJ International 特集号「Cutting-edge Technologies and Scientific Researches of Zinc and Zinc Alloy Coated Steel Sheet」(58巻9号)と鉄と鋼特集号「高機能溶融亜鉛めっき皮膜創成に向けた基礎研究と応用技術」(105巻7号)にて多数報告され,本分野の研究が盛り上がりを見せた。一方,高強度鋼板を複雑形状へ加工するための熱間プレスの加工性や溶接性等も近年要求され,溶融めっき皮膜に求められる機能は多様化しているのが現状である。そこで,様々な専門分野の産学の研究者を集い,機能多様化に対応する溶融めっき皮膜の創製プロセス開発を見据え,種々の機能性を支配する構造因子の理解に関する基盤研究を推進する「溶融めっき皮膜の機能創出に資する構造因子」研究会(2022年~2024年,主査:高田尚記)を発足した。研究会では,亜鉛めっき処理技術に関する要素に基づき分類した3つの研究グループ(相平衡・構造,反応プロセス,機械的性質)にて研究活動を進めてきた。その結果,溶融めっき鋼板の固液界面反応の基礎知見を始め,高強度鋼板の酸化還元機構の精密測定や計算機シミュレーションによる溶融亜鉛めっき皮膜の反応・凝固組織形成機構に関する成果だけでなく,めっき鋼板の疲労特性,摺動性および加工性を向上させる新たな変形様式など力学機能に関する知見を見出した。これらの成果の一部は,韓国ソウルで開催された「GALVATECH 2023」(2023年10月開催)にて報告されており,後継のフォーラムを通じて溶融めっき技術に関する総合科学の基盤構築が今後期待される。ここでは,多機能性を発現させる溶融亜鉛めっき皮膜構造因子やその構造制御プロセスに関連した基礎研究や応用技術に関する最近の成果を日本鉄鋼協会の会員各位や読者各位に纏まった形で報告したいと考え,本特集号を企画した。本特集号は,溶融亜鉛めっき処理における酸化反応や固液界面反応,溶融めっきの凝固に伴う組織形成過程やめっき皮膜の疲労特性・摩擦特性に関する最新の研究成果を包括した幅広い内容である。
最後に,本特集号は日本鉄鋼協会「溶融めっき皮膜の機能創出に資する構造因子」研究会メンバーだけでなく,「材料の組織と特性部会」における「表面処理鋼板学術委員会」の委員の支援も受けた。本特集号に尽力頂いた日本鉄鋼協会の関係者の皆様に,心より厚く感謝申し上げる。