Tetsu-to-Hagane
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Formation Behavior of Fe–Zn Intermetallic Layers at the Interface between Fe–Mn and Pure Zn Melt at 460°C
Suzue Yoneda Naoki Takata
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2025 Volume 111 Issue 6 Pages 297-304

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Abstract

The effect of Mn on the alloying reaction during hot-dip galvanization was investigated. The microstructure of the Fe–Zn intermetallic layers consisted of ζ, δ, and Γ phases for both pure Fe and Fe–2Mn (wt.%) alloy. The intermetallic layers grew thicker with increasing dipping time, and the growth rate of each layer was similar for both substrates. In the case of Fe–2Mn, the formation of the δ1p phase was observed after dipping for 2 s. However, δ1p formation was delayed for pure Fe, indicating that Mn may promote nucleation of the δ1p phase. It is known that the δ1p phase nucleates in the Fe-saturated ζ phase. The Fe content at the ζ/δ1p interface was found to be lower for the Fe–2Mn alloy by electron probe microanalysis, suggesting that the supersaturation of Fe for the nucleation of δ1p is decreased by Mn addition and Mn may stabilize the δ1p phase. Once δ1p became a continuous layer, the growth rates of the δ1p layer on pure Fe and Fe–2Mn were similar. Mn could affect only the nucleation of δ1p during the initial stage of the alloying reaction.

1. 緒言

亜鉛めっき鋼板は優れた耐食性を有しているため,自動車製造や建設などの産業で広く使用されている1,2,3,4,5)。自動車の軽量化と燃費向上を図るため,高強度鋼板の使用が増加している3,5)。亜鉛めっき鋼板の良好な成形性には,亜鉛めっきの鋼板との優れた密着性が求められる6,7,8,9,10,11,12,13)。亜鉛めっきプロセス中において,鋼板と溶融亜鉛の界面反応によりFe–Zn金属間化合物層が形成するし14,15,16,17),これらの金属間化合物層は,通常ζ-FeZn13,δ-FeZn7–10,Γ1-Fe5Zn21,およびΓ-Fe3Zn10で構成される1,2)。また,δ相にはδ1k-FeZn7とδ1p-FeZn10の2種類が存在し14,15,16,17),δ1kはδ1pの規則相であると報告されており18,19),Fe–Zn系状態図上にも実験的に示されている16)。Fe–Zn金属間化合物層の組織は,鋼板と亜鉛めっき界面での密着性に影響を与えるため20),組織を制御することで密着性の向上が期待される。

高強度の変態誘起塑性(TRIP)鋼には,機械的特性向上のためにSiやMnが含まれている21,22,23,24)。このような高強度鋼板に亜鉛めっきを適用するためには,これらの合金元素が界面反応およびFe–Zn金属間化合物層の形成に与える影響を理解することが重要である。先行研究では,Fe–Si合金上に形成した亜鉛めっき層は純Fe上のものよりも厚く,またFe–Si合金が浸漬中に著しく消費されることが報告されている25,26)。このFe–Si合金とZnめっきの界面反応は,基材からのSiの拡散によりζ-FeZn13中のSi濃度が増加し,ζ-FeZn13が液相とFeSi相へ分解すること起因すると提案されている26)。しかしながら,鋼板中のMn含有量がZnと鋼板の合金化反応に与える影響については十分に明らかになっていない。先行研究では,Zn合金浴にMnを添加した場合の影響27),Zn–Al浴を用いた際の金属間化合物相形成過程28,29),また,焼鈍中にMn含有鋼表面に形成する酸化物が合金化反応に及ぼす影響29,30)について調査している。本研究では,Fe–2Mn(wt.%)合金を用いて,溶融亜鉛めっきプロセス中の合金化反応に及ぼす鋼板中の溶質Mnの影響を調査することを目的とした。

2. 実験方法

本研究では,Table 1に示す純FeおよびFe–2Mn合金(神戸製鋼所製造)を用いた。200 mm×50 mm×1 mmの金属板を460°Cの溶融純亜鉛浴に浸漬した。亜鉛めっきは,亜鉛めっきシミュレータ(株式会社RHESCA製)を用いて行なった。Fig.1に,亜鉛めっき中の温度プロファイルの例を示す。浸漬前に,純Feに対しては850°Cで60秒間,Fe–2Mn合金に対しては700°Cで600秒間還元処理を行い(この温度では,フェライト単相31)),その後N2下で460°Cまで急冷した。次いで,金属板を460°Cの溶融亜鉛浴中に2秒から3600秒間浸漬した。浸漬中,金属板の表面温度は,表面に溶接した熱電対で記録した。

Table 1. Composition of pure-Fe and Fe–2Mn used in the present study.

(wt.%)
MnCSiPSAlNOCuNi
Pure Fe <0.010.0010.01 <0.001 0.0010.0020.0010.008
Fe–2Mn1.910.0010.01 <0.002 0.0010.0010.00140.020 <0.01 <0.01
Fig. 1.

Example of the thermal profile during the hot-dip galvanizing process used in this study.

亜鉛めっき後のFe–Zn金属間化合物層の組織観察は,電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて行なった。得られたFE-SEM画像より,亜鉛めっき層および各Fe–Zn金属間化合物層の厚さを測定した。また,Fe–Zn金属間相の同定は,エネルギー分散型X線分光法(EDS)および電子プローブマイクロ分析(EPMA)を用いた組成分析により行なった。

3. 結果および考察

3・1 溶融Zn浴浸漬中における亜鉛めっき層の組織変化

Fig.2に浸漬時間に伴う亜鉛めっき厚さ変化を示す。めっき厚さは両試料ともに同程度であり,浸漬時間に伴い徐々に厚くなった。60秒間の浸漬後,亜鉛めっき層の成長速度は増加する傾向を示した。Znめっき層全体の厚さ変化や成長速度にMnの影響は認められなかった。種々の時間純Feを浸漬した後のFE-SEM断面組織をFig.3に示す。2秒間の浸漬後,Fe–Zn金属間化合物層は,ζ,δ1およびΓ相で構成され,厚さはそれぞれ約8 µm,1 µm,および800 nmであった。各層は浸漬時間の増加とともに厚くなり,10秒間の浸漬後にはFig.3(b)に示すようにδ1層の上に突起状の化合物相の形成が観察された。δ1相には,δ1kとδ1pという2つの相が存在し,δ1pは形成の初期段階で突起状の形態を示すことが報告されている32)。したがって,突起状の金属間化合物は,δ1k層直上に形成したδ1pであると考えられる。60秒間の浸漬後,連続層が形成し,δ1p /ζ界面の凹凸は少なくなった。Fig.4にFe–2Mn合金を溶融亜鉛浴中で浸漬した後のFE-SEM断面組織を示す。純Feと同様に,2秒間の浸漬後にζ,δ1,Γ層の形成が観察されたが,これらの層は純Fe上に形成したものよりもやや厚いことがわかった。また,2秒浸漬後の時点で突起状のδ1p相の形成も観察され,Mnがδ1p相の核生成を促進したことが示唆される。浸漬時間に伴いすべての金属間化合物層は厚くなり,中でもδ1層の成長が最も速い傾向が認められた。

Fig. 2.

Influence of the dipping time on the thickness of the Zn coatings.

Fig. 3.

Cross-sectional FE-SEM images of pure Fe after dipping in Zn melt for (a) 2 s, (b) 10 s, (c) 60 s, and (d) 600 s.

Fig. 4.

Cross-sectional FE-SEM images of Fe–2Mn after dipping in Zn melt for (a) 2 s, (b) 10 s, (c) 60 s, and (d) 600 s.

3・2 Fe–Zn金属間化合物層の成長動力学

Fig.5およびFig.6に,Fe–Zn金属間化合物層の全厚さおよび各層の厚さの経時変化を示す。一般に,成長速度の評価には,以下のべき乗則が用いられる2)

  
x=Ktn

ここで,xは金属間化合物層の厚さ,Kは成長速度定数,tは浸漬時間,nは成長速度指数である。nの値が0.5の場合,金属間化合物層の成長は拡散律速となり,層の厚さは放物線的に増加する。しかしながら,Fe–Zn金属間化合物層の成長において,nが0.5に達しないことが多くの研究で報告されている。例えば,Jordan and Marder33)は,450°Cの純亜鉛浴中で種々の鋼を浸漬した場合のn値は0.31~0.37であったと報告している。本研究でも,Fig.5に示したように,n値は約60秒までは0.3未満だったが,その後,純FeおよびFe–2Mnの両方で約0.3に増加した。Fig.6は,ζ,δ1およびΓ層の成長動力学を示しており,純FeおよびFe–2Mnともにδ1層の成長速度がζおよびΓ層よりも大きいことがわかる。ここでのδ1層の厚さは,連続したδ1層の厚さであり,突起上のδ1p相は考慮されていない(δ1kとδ1pの厚さ変化については,3・4で議論する)。δ1層の成長速度は,純FeおよびFe–2Mnともに10秒浸漬後に増加しており,これはFig.5に示した金属間化合物層全体の成長速度の増加対応すると考えられる。10秒浸漬後,δ1層のn値は約0.5となり,δ1層は放物線的に成長することが示唆される。ζおよびΓ層のn値は両試料とも0.5未満であり,以前の研究で報告された結果と一致した2)。Marderは,Γ層はδ1層の成長によって消費されると報告し2),Onishiらはζ層は溶融亜鉛中に溶解すると述べている34)。これらがn値が0.5に達しなかった理由であると考えられる。本研究においても,3600秒間の浸漬後にζ層の厚さが減少したことから,溶融亜鉛中へのζ層の溶解が生じたことが示唆される。各層の成長速度は,Mnの添加の有無に関係なく同程度であった。

Fig. 5.

Variation of the total thickness of the Fe–Zn intermetallic layers with the dipping time.

Fig. 6.

Variation of the thicknesses of the (a) ζ, (b) δ1, and (c) Γ layers with the dipping time.

3・3 亜鉛めっき層の組成分析

Fig.7に示す2秒浸漬後の各元素のEPMA濃度プロファイルより,基板側からΓ層,δ1層,ζ層の形成が確認された。金属間化合物中のMn濃度は,Γ層中で最も高く,約0.5 at.%であった。δ1層には約0.1~0.2 at%のMnが含まれていたが,ζ層にはほとんどMnは含有していなかった。3・1で説明したように,浸漬時間の増加に伴いδ1pが核生成し,その後連続層が形成した。しかしながら,δ1kとδ1p連続層は,組織観察では区別することが困難であった。Fig.8に3600秒浸漬後のFe–2MnのEPMA濃度プロファイルを示す。δ1層中,約40 µmの位置において,FeとZnの濃度がステップ状に変化していた。このステップ状の濃度変化が生じる箇所はδ1k1p界面であると報告されている14,32)。したがって,EPMA分析中に観察されたステップ状に変化する位置をδ1k1p界面と定義した。Fig.8に示すように,δ1k相中のMn濃度はδ1p相中よりも高いことがわかった。450°CにおけるFe–Mn–Zn三元系状態図によると,δ1相中にはMnは約8 at.%まで固溶でき,等Zn濃度線に沿って相領域が広がる35)。これはMnがδ1kおよびδ1p相を安定化することを意味している。本研究でもδ1kおよびδ1p相中にMnが固溶しており,文献での報告と一致する。

Fig. 7.

EPMA concentration profiles for (a) Pure Fe and (b) Fe–2Mn after hot dipping for 2 s.

Fig. 8.

EPMA concentration profiles of Fe–2Mn after hot dipping for 3600 s.

3・4 Fe–Zn金属間化合物層の形成挙動に及ぼすMnの影響

Fig.9に純FeおよびFe–2MnにおけるFe–Zn金属間化合物層の形成挙動の模式図を示す。Mnは,Fe–Zn金属間化合物層の構造や成長速度に大きな影響を与えず,上述のように,金属間化合物層は基板側からΓ,δ1k,ζ層で構成されており,浸漬時間が増加すると突起状のδ1p相が形成する。純FeとFe–2Mnの間で観察された唯一の違いは,δ1p相が形成するまでの浸漬時間であり,Fe–2Mn合金ではδ1k層上の突起状δ1p相の形成は2秒浸漬後に観察されたが,純Feでは10秒浸漬後だった。これは,Mnがδ1p相の核生成を促進することを示している。δ1pは,Feが飽和したζ相で核生成することが知られている14)Fig.7に示した2秒浸漬後のEPMA結果によると,ζ/δ1k界面におけるFe濃度は純Feで約10.6 at.%,Fe–2Mnで9.6 at.%であり,δ1p層には少量のMnが含まれていた(Fig.8)。したがって,Mn添加によってδ1p相の核生成に必要なFeの過飽和度が低下し,純Feではより多くのFeがδ1p核生成に必要であることが示唆される。

Fig. 9.

Schematic of the formation behavior of the Fe–Zn intermetallic layer on (a) pure Fe and (b) Fe–2Mn.

Fe–Zn系におけるζ相とδ1p相のGibbs自由エネルギー曲線の模式図をFig.10に示す。δ1p相の核生成に必要なFe濃度がXζpure-Feである場合,純Feにおけるδ1p相生成の駆動力ΔGnclpure-Feは線分ABで表される。Fe–2Mnの場合,δ1p相の核生成に必要なFe濃度はXζ2Mnまで減少すると考えられる。純FeとFe–2Mnでδ1p生成の駆動力が同じであると仮定すると,Fig.10中の点線で示すようにMn添加によってδ1p相が安定化する。Fig.8に示したEPMA結果より,δ1p相のMnは約0.15 at.%であり,Mnの固溶によってδ1p相が安定となったことが示唆される。しかしながら,δ1p相の安定性に関する詳細は現時点では明らかになっておらず,今度さらなる検討が必要である。

Fig. 10.

Schematic Gibbs free energy curves for the ζ and δ1p phases in the Fe–Zn system.

Fig.11に浸漬時間に伴うδ1kおよびδ1p層厚さの変化を示す。黒矢印はδ1pの形成が観察され始めた時間を示している。δ1k層の成長は,短時間側では遅かった,δ1p層が連続層になると,δ1pおよびδ1k層ともに急激に成長した。δ1pおよびδ1pn値はともにほぼ0. 5であった。しかし,成長速度定数Kはδ1pの方が大きく,その結果,δ1p層は純FeとFe–2Mnの両方でδ1kよりも厚く成長したと言える。Wakamatsu and Onishi36)は,460°Cでのδ1相における拡散係数はFe濃度の減少とともに増加することを報告した。δ1p相のFe濃度はδ1k相よりも低く,δ1p層の急速な成長を示唆してる。純FeとFe–2Mnの間でnおよびK値に顕著な差は認められなかったことから,Mnは合金化反応の初期段階でδ1pの核生成にのみ影響を与えると考えられる。

Fig. 11.

Variation of the thicknesses of the δ1k and δ1p layers on (a) pure Fe and (b) Fe–2Mn with the dipping time.

4. 結言

溶融亜鉛めっき時の合金化反応に及ぼすMnの影響を,Fe–2Mn合金を用いて調査した。得られた主な結果を以下に示す。

(1)純FeおよびFe–2Mnにおいて,同様のFe–Zn金属間化合物層形成挙動が観察された。ζ層およびΓ層の成長速度はδ1層よりも遅いことが確認され,成長速度に純FeとFe–2Mnの間で顕著な違いは認められなかった。

(2)Mnはδ1p相の核生成を促進したことから,Mnの添加により核生成のためのFeの過飽和度が低下すること,δ1p相が安定化することが示唆された。

利益相反宣言

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。

謝辞

本研究は,一般社団法人日本鉄鋼協会 研究会I「溶融めっき皮膜の機能創出に資する構造因子(2022年~2024年)」にて活動した成果である。本研究のZn浴浸漬実験は,(株)神戸製鋼所のご協力によるものである。ここに特記して謝意を表す。

文献
 
© 2025 The Iron and Steel Institute of Japan

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