Tetsu-to-Hagane
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Crack Formation Process in Galvanized Steel Under Dwell Fatigue
Kayo Hasegawa Shatumbu Thomas AlweedoMotoaki Morita
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2025 Volume 111 Issue 6 Pages 344-353

Details
Abstract

The study investigated the dwell fatigue characteristics of hot-dip galvanized steel. Cyclic and dwell fatigue tests were conducted, their fatigue life was compared, and fracture surfaces were analyzed. When the cyclic maximum stress (σmax) was the upper yield stress (σUYS), there was hardly a difference in fatigue life between cyclic and dwell fatigues. In σmax=0.9 × σUYS, the fatigue life in dwell fatigue was shorter than that in cyclic fatigue. The cracks under dwell fatigue were generated in σmax= σUYS before N=10 cycles. Their cracks did not grow until N=100,000 cycles. On the other hand, no cracks were observed on the specimen surface under cyclic fatigue before N=100,000 cycles. The formation of cracks on the surface of the galvanized layer under cyclic fatigue was remarkably delayed compared to that under dwell fatigue, regardless of the applied stresses in this study. Therefore, dwell fatigue mode debases the surface of the hot-dip galvanized steel. The applied stress affected the crack morphology on the specimen surface. In σmax= σUYS, the large cracks were observed at the grain boundary triple junctions. In σmax=0.9 × σUYS, not only the cracks at triple junctions of grain boundary but also some cavities along the grain boundaries were detected. Their defects were often reported under creep deformation. The cavities seemed to adjoin each other and coalesce. In the stress relaxation testing, the hot-dip galvanized steel exhibited creep behavior. The decrease in the fatigue life under dwell fatigue would be due to the creep phenomena.

1. 緒言

溶融亜鉛めっき鋼材は耐食性に優れているため,腐食環境下で使用されている。橋梁といった建築建材,自動車,機械装置部品など,その用途は多岐にわたる。溶融亜鉛めっき鋼材が使用されている環境は繰返し荷重や定荷重が負荷状態にあることも多く,それを考慮した安全な設計や適切な維持管理が必要である。しかし,溶融亜鉛めっき鋼材におけるめっきの疲労やクリープを考慮した材料設計や維持管理はなされておらず,方策を確立するためにそれらのデータの取得や損傷機構を知ることは重要だろう。溶融亜鉛めっき層は一般に純亜鉛層(η),合金層(ζ,δ)から構成され,各々の機械的特性は異なり1,2,3),3層の複合的な変形の解析が難しいことから,溶融亜鉛めっき鋼材の変形および破壊機構は未だ明確にされていない。また,溶融亜鉛めっき鋼材の疲労に関する研究はS–N curveを取得し,亜鉛めっきした鋼材の疲労強度を評価する研究に留まっていた。しかし近年,合金相の組織および力学特性を微小スケールで圧縮・曲げ破壊試験を行うことで,塑性変形能や破壊靭性が調査され4),破壊靭性値の低い相内で発生・伝播したき裂の進展が破壊靭性値の高い相で抑制され,めっきの剥離が抑制されていることが示唆された。また,疲労強度に関する研究では,出発材の組織,疲労破面の解析,き裂起点部の同定,繰返し負荷様式において圧縮変形が無いときのみめっき材の疲労強度が低下すること5)など組織学を考慮した解析が進められてきた。結果として,軟質相であるη相の変形が溶融亜鉛めっき鋼材の疲労強度に及ぼす影響が大きいことが指摘された。このように溶融亜鉛めっき鋼材の疲労強度について研究がなされてきたが,これまでの疲労強度に関する報告は応力の負荷・除荷を繰り返すcyclic疲労のみである。溶融亜鉛めっき鋼材が機械装置部品に使用される場合,たとえば回転機構のある部位で使用されたとき,駆動時には一定負荷がかかるが停止時には負荷がかからない場所がある。このとき,機械装置部品にかかる応力は負荷・一定負荷・除荷されるdwell疲労の負荷様式になる。Dwell疲労はクリープと繰り返し応力負荷による疲労の重畳現象によって生じるとされており6),Ti合金では,cyclic疲労よりdwell疲労で寿命の低下を示す研究結果が多数報告されている7,8,9,10,11,12,13,14,15)。Hcp構造を持つ材料は室温クリープを生じるという報告があり16),hcp構造であるη相を有する溶融亜鉛めっき鋼材もクリープを生じdwell疲労寿命が低下する可能性がある。溶融亜鉛めっき鋼材の安全な設計や適切な維持管理にはdwell疲労を明確にしておく必要がある。

本研究では,溶融亜鉛めっき鋼材のdwell疲労の理解を目的としcyclic疲労,dwell疲労試験を行った。Dwell疲労におけるき裂の発生・進展過程の特徴を明確にするため試験を適宜中断し詳細にき裂を観察した。破面解析の結果を基に,負荷応力と破壊形態を対応させcyclic疲労と比較した。

2. 実験方法

本研究では,一般構造用圧延鋼材であるSS400をFig.1に示すように加工した鋼材および,鋼材を溶融亜鉛めっきしためっき材を用いた。溶融亜鉛めっきは,JIS H 864117)およびJIS H 040118)に準拠して実施した。SS400の化学組成をTable 1に示す。めっき材の一部を平和テクニカ(株)製HS-25型高速精密切断機で切り出し,樹脂埋めした後,耐水研磨紙#2000まで湿式研磨,アルミナ粉末による鏡面仕上げをしたサンプルを準備した。組織は走査型電子顕微鏡鏡(scanning electron microscopy:SEM(株)日立ハイテクノロジーズ製S-3500N)を用いて観察した。引張試験はめっき材を室温,初期ひずみ速度6.66×10−4 s−1(クロスヘッド速度1 mm/min)の条件で行った。引張試験機は(株)島津製作所製Autograph DSC-10Tを用いた。応力緩和試験は大気雰囲気下(大気解放下室温),初期ひずみ速度6.66×10−4 s−1(クロスヘッド速度1 mm/min)の条件で行った。試験片形状はFig.1で示す形状の試験片を用いた。試験片にはσUYSの80%,90%の応力を負荷し,その後クロスヘッドを停止させ96時間後の応力緩和量を測定した。疲労試験はcyclic疲労およびdwell疲労ともに室温環境下,繰り返し最大応力σmaxσUYSの90%,100%とし,応力比Rσmin/σmax)=0.01で行った。疲労試験機は(株)島津製作所製サーボパルサEHF-EU B5を用いた。Fig.2は疲労試験で用いた負荷波形の模式図である。Cyclic疲労の負荷波形は0.5 s負荷・0.5 s除荷の三角波(Fig.2(a))とし,dwell疲労の負荷波形は1 s 負荷・5 s保持・1 s除荷の台形波(Fig.2(b))とした。Cyclic疲労およびdwell疲労ともに繰り返し最大応力(σmax)は,引張試験で得た上降伏点(σUYS)の90~100%とした。Dwell疲労において,き裂の進展挙動を詳細に観察するため,破断までの繰り返し数N=0,101,102,103,104,105回で試験を中断し,試料表面の同じ場所を観察した。き裂の発生および進展はSEMを用いて観察した。測定箇所はめっき層であるが,最表面から基材部方向にZn含有量が異なることが推定される。最表面から同じ距離にある各相中央部のZn含有量を測定した。各相10箇所測定し,測定値の上値および下値を除いた測定値の平均を算出した。

Fig. 1.

Configuration of specimen.

Table 1. Chemical composition of specimens. (mass%)

CSiMnPSFe
0.150.0010.440.150.004Bal.
Fig. 2.

Diagram of loading waveforms: (a) cyclic and (b) dwell fatigues.

3. 実験結果

3・1 機械的性質と亜鉛めっき層の組織

SS400とめっき材を引張試験に供した結果,SS400は上降伏点(σUYS):361 MPa,下降伏点(σLYS):350 MPa,引張強さ(σUTS):438 MPa,公称ひずみ(El.):37.1%であった。めっき材はσUYS:326 MPa,σLYS:317 MPa,σUTS:416 MPa, El.:32.8%であった。SS400は,めっき材と比較して,上降伏点,引張強さ,伸びに優れていた。炭素鋼材を溶融亜鉛めっき処理すると基材部は回復もしくは再結晶を生じ,また生成される溶融亜鉛めっき層のビッカース硬さは基材部のそれよりも小さいため引張強度は低下することが報告されている19)。本研究におけるめっき材の引張強度低下は従来知見とほぼ同様の傾向であった。Fig.3は基材部近傍における溶融亜鉛めっき層のSEM画像である。めっき層は3相に大別できた。最表面から基材部方向へSEM-EDSによる成分分析をした結果,Zn含有量は最表面からおよそ97 at%,94 at%,90 at%であり先行研究結果と一致した13)。Zn含有量から最表面はη相,隣接してζ相,基材部側はδ相であった。

Fig. 3.

Secondary electron (SE) image of the sectional galvanized layer.

3・2 Cyclic疲労強度とdwell疲労強度

Table 2は疲労試験の結果である。σmax=326 MPa(= σUYS)のとき,cyclic疲労とdwell疲労の時間強度に差はあまり生じなかった。ある繰り返し強度あるいは振幅でdwell疲労における時間強度に対するcyclic疲労の時間強度の比(以下dwell debit)は1.03であった。σmax=293 MPa(σUYSの90%)のとき,dwell debitは1.46であった。低応力側でcyclic疲労の寿命とdwell疲労の寿命の差は大きくなった。

Table 2. Fatigue data of galvanized steel sheet under cyclic and dwell fatigues.

SampleMaximum stress (MPa)Minimum stress (MPa)Loading modeNumber of cycles at
failure Nf / cycles
13263.26Dwell147,699
23263.26Cyclic152,900
32932.93Dwell465,093
42932.93Cyclic680,640

3・3 き裂の発生および進展

Fig.4に繰り返し最大応力σmax=326 MPaにおける供試材表面の観察結果を示す。N=0は試験前の表面の組織を示している。Cyclic疲労において試験開始後N=100,000回までの供試材表面にき裂は生じなかった(Fig.4(a)~(c))。供試材はN=147,699回で破断に至っており,σmax=326 MPaにおけるcyclic疲労では破断直前までき裂は生じなかったと考えられる。一方,dwell疲労ではN=10回までに引張方向に対して垂直方向にき裂が生じ(Fig.4(e)),めっき皮膜に表面欠陥が形成された。Fig.5はdwell疲労,繰り返し最大応力σmax=326 MPaにおいてき裂進展の有無を確認したSEM画像である。き裂の位置はFig.4(g)に示すものであり,試験片の端部にあった。き裂は試験開始後N=10回で生じたが(Fig.5(a)),N=100,000回で試験を中断し観察した時と変化がないことが確認できる(Fig.5(e))。

Fig. 4.

SE images of surface microstructure at N = 0, 100, and 100,000 cycles under cyclic and dwell fatigues.

Fig. 5.

Magnified SE images shown in Fig. 4(g) (σmax = σUYS (326 MPa), N=147,699 cycles).

以上のことから,σmax=326 MPaにおけるdwell疲労ではき裂は早期に発生するが,その後進展はしないと言える。Fig.6に試験片の表面中央部におけるき裂のSEM画像を示す。Fig.6(a)は疲労試験前の試験片表面である。画像中央部において粒界に沿って一部き裂が確認できた。このき裂は試験開始後N=10回で大きくなったが,その後N=100,000回まで成長することはなかった。繰り返し最大応力σmax=293 MPaにおけるcyclic疲労およびdwell疲労では,σmax=326 MPaと同様N=100,000回まで途中試験を中断し表面を観察したがき裂はいずれも生じなかった。Fig.7は繰り返し最大応力σmax=326 MPaにおけるcyclic疲労のき裂起点部である。Fig.7(a)にある破線はき裂の安定成長域(Stage II)から急速破断域(Stage III)20)への境界を示している。き裂起点部はめっき層の最表面であるη相であった(Fig.7(b))。き裂はめっき層から母材へと進展していた。Fig.7(c)Fig.7(b)の(c)方向から観察したき裂起点部のSEM画像である。き裂起点部近傍は粒内破壊であり起点部も粒内破壊であった。Fig.8は繰り返し最大応力σmax=326 MPaにおけるdwell疲労のき裂起点部である。き裂起点部はη相であり(Fig.8(b)),き裂はめっき層と母材の剥離はなく進展していた。Fig.8(c)Fig.8(b)の(c)方向からき裂起点部を観察した画像である。き裂は粒内破壊であった。

Fig. 6.

SE surface images on the side at N = (a) 0 cycle, (b) 10 cycles, (c) 100 cycles, (d) 1,000 cycles, (e) 10,000 cycles, and (f) 100,000 cycles at σmax = σUYS (326 MPa) under dwell fatigue.

Fig. 7.

SE image of the fracture surface at σmax = σUYS (326 MPa), N = 152,900 cycles under cyclic fatigue (a) and its enlarged one near the crack initiation site (b) (c).

Fig. 8.

SE image of the fracture surface at σmax = σUYS (326 MPa), N = 147,699 cycles for dwell fatigue (a) and its enlarged one near the crack initiation site (b) (c).

4. 考察

4・1 Dwell疲労の時間強度に及ぼすき裂の形態

Fig.9(a)は繰り返し最大応力σmax=326 MPaにおけるcyclic疲労のき裂起点部近傍の試料側面のSEM画像である。き裂起点部近傍には引張軸に対して垂直方向にき裂が存在した。これらのき裂は複数の粒での粒内破壊が連続して形成されたき裂であった(Fig.9(b)(c))。一方,dwell疲労ではき裂の様相が異なった。Fig.10(a)は繰り返し最大応力σmax=326 MPaにおけるdwell疲労のき裂起点部近傍の試料側面のSEM画像である。き裂の数がcyclic疲労よりも多く,特にき裂起点部の近傍で粒界割れが多数観察された(Fig.10(b)(c))。加えて,Fig.10(b)(c)内の丸印で示す粒界の3重点でき裂が大きくなっていた。このような粒界3重点のき裂はクリープ変形で観察される様相21,22)と一致する。粒界3重点でのき裂は粒界すべりによって応力集中が生じた結果粒界が引き離されたと考えられている22)。粒界すべりが生じるクリープ条件下では,変形は均一にならず粒界3重点近傍において変形の大きい部分と小さい部分が生じる。その結果,き裂も不均一になる23)Fig.10(b)(c)に示すように,本研究結果においても粒界のき裂は不均一であった。

Fig. 9.

SE surface images on the side near the crack initiation site of fracture surface at σmax = σUYS (326 MPa), N = 152,900 cycles under cyclic fatigue (a). Magnified SE images for white rectangle regions (b) and (c) depicted in (a).

Fig. 10.

SE surface images on the side near the crack initiation site of fracture surface at σmax = σUYS (326 MPa), N = 147,699 cycles under dwell fatigue (a). Magnified SE images for white rectangle regions (b) and (c) depicted in (a). White circles indicate the crack from triple junctions of grain boundaries.

一方,繰り返し最大応力σmax=293 MPaにおけるdwell疲労の側面の様相は異なった。Fig.11(a)は繰り返し最大応力σmax=293 MPaにおけるdwell疲労のき裂起点部側面の画像である。Fig.11(b)において粒界3重点でき裂が確認できた。加えて,Fig.11(c)(d)で示すように粒界に沿って空泡型空洞が観察された。空泡型空洞はσmax =326 MPaにおけるdwell疲労の表面には観察されなかった。Fig.11(c)(d)のような空泡型空洞もクリープ変形で見られる様相である24,25,26)。一般に粒界3重点型のき裂は空泡型空洞より高い応力および低温の場合に発生する27)。本研究においてもこの観察結果と一致した。空孔は発生初期では球状であるが,成長し隣接する空孔と合体すると鋸歯状の破面となる27)Fig.12は繰り返し最大応力σmax=293 MPaにおけるdwell疲労のき裂である。隣接する空孔が合体した様相が確認できた。粒界3重点のき裂,空泡型空洞の形成,いずれも粒界すべりが必要とされている27)。Hcp金属は室温において活動できるすべり系が少ないため,転位の絡み合いが少なく転位は粒内を容易に移動できる28)。直線的な転位列となった転位は粒界に堆積・吸収され,粒界すべりを発生させるという報告がある29)。溶融亜鉛めっき層の最表面はhcp金属である純亜鉛であり,本研究においても粒界すべりが生じたと考えられる。また,空泡型空洞が発生していることから空孔拡散が室温でも生じていることが示唆される。近年,第一原理計算によりZnにおける室温のアレニウスパラメーターが求められた30)。それを用いて300 Kにおける1時間での拡散距離を計算した結果,15−23 nm(D=1.52−3.99×10−20)であり,空孔拡散が伴う空泡型空洞が生じるに現実的な値であった。

Fig. 11.

SE images of specimen surface near the crack initiation site of fracture surface at σmax = 0.9 σUYS (293 MPa), N = 147,699 cycles under dwell fatigue (a). Magnified SE images for white rectangle regions (b), (c), and (d) depicted in (a). White circles indicate the cracks from triple junctions of grain boundaries. The white arrows exhibit cavities along the grain boundary.

Fig. 12.

SE image of coalesced cavities at σmax = 0.9 σUYS (293 MPa), N = 147,699 cycles under dwell fatigue.

4・2 応力緩和特性

クリープ変形の領域は,応力負荷時の変形,応力拘束による応力緩和時の変形,クリープ時の変形に大別される。このうち,応力緩和は比較的短距離の転位運動によるクリープ現象によるものと考えられている31)。そこで本研究では応力緩和量を測定した。測定結果をFig.13に示す。クロスヘッド停止時の応力はSS400およびめっき材ともに上降伏点もしくは上降伏点よりも低い応力である。しかしながら,両試料はクロスヘッド停止後応力緩和を生じていた。クロスヘッド停止時の応力約290 MPaにおける緩和量はSS400では12.5 MPaでありめっき材のそれは38.4 MPaであった。したがって溶融亜鉛めっき処理は応力緩和量を著しく増加させたことになる。めっき材における応力緩和量の増加は,引張変形中にめっき層と母材の剥離やめっき層の破壊による可能性が考えられる。そこで応力緩和試験後の試験片を観察した。Fig.14σmax=0.9σUYSを負荷した応力緩和試験後のめっき層と母材境界のSE画像である。Fig.14(a)~(c)のいずれの箇所もめっき層と母材の剥離およびめっき層の破壊は観察されなかった。応力緩和量の増加が塑性変形量に応じ,運動した転位に比例する32)と仮定した場合めっき材はSS400より可動転位が多いと言える。また,η相は融点が692 K33)と低温であり,本実験の温度は絶対温度表示において融点の0.4倍程度であったことからクリープが生じたと考えられる。

Fig. 13.

Stress relaxation properties for (a)SS400 and (b)galvanized steel.

Fig. 14.

SE images of galvanized steel after stress relaxation test (σmax = 0.9 σUYS (293 MPa)); (a)(c) surface and (b)ground corners.

以上の結果より,めっき材における応力緩和の増加はクリープが生じたという仮定を支持した。

Fig.15(a)(b)にdwell疲労におけるき裂の模式図を示す。最大繰り返し応力σmaxσUYSであったとき,すなわち高応力側では,き裂は応力集中部である粒界3重点で生じる(Fig.15(a))。一方,最大繰り返し応力σmaxが0.9×σUYSである低応力側であったとき,粒界で空泡型空洞が生じ,それらが合体し粒界割れを生じる(Fig.15(b))。粒界に沿った空洞は粒内の可動転位に起因すると考えられる。室温下において活動できるすべり系が少ない純亜鉛は転位の絡み合いが少ないため,純亜鉛層を有するめっき材では転位は粒内を容易に移動する。これらの可動できる転位が粒界に堆積され,内部応力を緩和するために転位を吸収し粒界ですべりを発生させたと考えられる。粒界すべりの誘発はクリープを進行させるという報告34)があり本研究においても粒界すべりによりクリープが生じdwell疲労寿命が低下したと考えられる。

Fig. 15.

Schematic illustration of defects formed on the surface of galvanized layer in (a) σmax = σYS (326 MPa) and (b) σmax = 0.9 σUYS (293 MPa) under dwell fatigue.

5. 結言

溶融亜鉛めっき鋼材をcyclic疲労試験およびdwell疲労試験に供し,低サイクル側(105回付近)の疲労寿命とき裂形態を比較した結果,以下の結論を得た。

(1)最大繰り返し応力σmaxを上降伏点σUYSとした時,cyclic疲労とdwell疲労(保持時間5 s)で疲労強度に差は生じなかったが,最大繰り返し応力σmaxが 0.9×σUYSであったとき,cyclic疲労とdwell疲労における疲労強度の差は大きくなった。

(2)Cyclic疲労試験において,繰り返し負荷回数100,000回までに試料側面にき裂は生じていなかった。Dwell疲労試験では繰り返し負荷回数10回までに微小き裂が生じた。Dwell疲労においてめっき皮膜の損傷が顕著であった。

(3)Dwell疲労の破断面は最大繰り返し応力によって異なった。最大繰り返し応力がσUYSであったとき粒界3重点で,最大繰り返し応力が0.9×σUYSであったとき,粒界3重点および粒界に沿って空洞が観察された。破壊の様相からクリープが生じたと考えられる。

(4)Dwell疲労寿命の低下は亜鉛のクリープ現象に起因すると考えられる。

謝辞

本研究の一部は,一般社団法人日本鉄鋼協会研究会I「溶融めっき皮膜の機能創出に資する構造因子」および公益財団法人池谷科学技術振興財団の助成を得て行った。

利益相反に関する宣言

本研究の遂行に関する利益相反は無い。

文献
 
© 2025 The Iron and Steel Institute of Japan

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