Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
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ISSN-L : 0021-1575
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Yield Prediction Based on Bed Temperature and Component in Sintering Process
Yuji Iwami Kenya HoritaTetsuya YamamotoNoritaka SaitoKunihiko Nakashima
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 111 Issue 7 Pages 355-367

Details
Abstract

The yield in the iron ore sintering process is managed in daily operations as an important indicator of manufacturing costs and CO2 emissions. Currently, general yield operation actions are “feedback” based on yield results, and do not prevent yield loss. In order to prevent yield decline by “feed-forward” type action targeting yield changes, yield prediction based on operating conditions is essential. In this study, we assumed that yield is synonymous with the strength of the discharged sintered cake, and attempted to apply the porous material strength estimation formula to the sintered cake. The sintered cake was divided into a cake pore part lost by crushing and a sintered ore part as a matrix portion containing pores that remain after crushing, and the formulation of cake porosity and sintered ore strength was studied. Using the amount of melt (melting ratio) generated in liquid-phase sintering and its penetration length into the ore as key factors, the estimation formulas for cake porosity and sintered ore strength were built. In addition, experiments using diffusion pairs were carried out to verify the hypothesis regarding the penetration distance. A pot test were carried out to verify the constructed model, and confirmed a good correlation between the calculated yield by bed temperature measured and the blending components, and the actual measured yield.

1. 緒言

焼結機から排鉱された焼結ケーキを破砕し,所定粒度で篩われたのちのケーキ重量に対する高炉送り成品の比率は成品歩留とされ,高炉から求められる生産性を確保するという目的以外に,コストやCO2排出量に大きな影響を及ぼす要素として管理されている。篩われた後の焼結ケーキの篩下である返鉱は再度焼結鉱の原料として再利用される。したがって返鉱を再度焼成するための粉コークス等の原料や点火炉の燃料,電力等のユーティリティが必要となるため,成品歩留を改善することで返鉱の発生量を削減することができれば,それによってコストやCO2排出量を削減することができる。このため,鉄鉱石焼結プロセスは脆性度の高い焼結ケーキを破砕することで成品を得るプロセスであることから,元来歩留が低いプロセスであるとされているが,その要因調査と改善検討が多くなされている1)。Satoらは焼結鉱が気孔と基質部から成ることに着目し,多孔体強度理論に基づきその気孔率と気孔率をゼロとした場合の基質部の強度を用いて焼結鉱の強度推定式の構築を行っている2)。なお,この時の基質部の強度については,基質部組織をヘマタイト,マグネタイト,カルシウムフェライト,シリケートスラグに分け,それぞれの組織単体での強度の加重平均を用いて予測を行っている。また,Oyamaらは気孔率に加えその気孔径分布の要素を取り込み,さらにヘマタイト粒子を結合しているカルシウムフェライトと非晶質ケイ酸塩でから成るボンド内において,焼結鉱の破壊が強度の低い非晶質ケイ酸塩を起点に生じると仮定し,非晶質ケイ酸塩部を構造欠陥である機構として整理することで強度を予測する式を構築している3)。両者ともセラミックス等の多孔質体の強度を表す実験式を焼結鉱の強度式に適用したものであり,焼結鉱を基地部と気孔部に分けて考察を行っている。しかし,現状の操業においてはこれらの知見を定常的なアクションに活用できているとはい言い難い。これはこれらの知見が操業条件からの強度推定式になっているわけではないため,オンラインでの強度予測ができず,現状の操業では実測結果を受けてアクションを行う「フィードバック」式の操業となってしまっているためである。

「フィードバック」から「フィードフォワード」への操業変更には,操業条件からの成品歩留予測式構築が必須である。本研究ではその前段階として,層内温度,配合成分からの成品歩留予測手法を検討した。ここで,成品歩留が焼結ケーキを破砕,分級した後の篩上比率であることに着目し,成品歩留が焼結ケーキの強度と同義であるという仮定を置いた。その上で焼結ケーキ強度を層内温度,配合成分から予測する式の構築を検討した。

2. 焼結ケーキ強度の推定方法

2・1 多孔質体強度推定式の焼結ケーキへの適用方法

今回,多孔質体強度の実験式としては,Balshin4)が報告したセラミックス多孔質体の強度式である式(1)を用いた。

  
σt=kσ01cP(1)

ここで,σt:多孔質体の引張強度(MPa),

σ0:基質部の強度(MPa),

P:気孔率(-),

k,c:定数(-),である。

本式を焼結ケーキに適用することを考えた。Fig.1に今回の検討における焼結ケーキにおける基質部と気孔部の考え方を示す。焼結ケーキは巨大な多孔質体であり,大小様々な気孔が存在している。焼結ケーキは排鉱後,クラッシャーにて破砕され焼結鉱となる。この時,焼結鉱の大きさ以上の粗大気孔(以下,ケーキ気孔)は失われることになる。このことから,焼結ケーキにおける気孔部をケーキ気孔とし,基質部を破砕されたのちの焼結鉱と定義した。したがって,基質部である焼結鉱には焼結鉱の粒径以下の微細気孔(以下,焼結気孔)が含まれていると考えられる。基質部である焼結鉱の強度についてはさらに細分化すれば,Satoら2)やOyamaら3)の知見に基づき焼結気孔影響と組織影響に分けて考えることができる。つまり,焼結ケーキの歩留には焼結鉱自体の鉱物組織,焼結気孔,および焼結ケーキのケーキ気孔が影響を及ぼしていると考えられる。焼結鉱の強度に及ぼす鉱物組織の影響については多くの研究が行われており,その生成条件等についても考察がなされている5)が,本検討では焼結気孔,ケーキ気孔に影響を及ぼすの操業上の因子について考察を行った。

Fig.1.

Conception of matrix parts and void parts in sinter cakes.

焼結鉱中の焼結気孔は焼結鉱中の残留元鉱,および斑状ヘマタイト組織に多いことが報告されている6)。これは結晶水が分解して揮発した際に生じた気孔を内包した鉱石が同化せずに残ったものが残留元鉱であるためと考えられ,結晶水の低い鉱石を使用することで気孔率が低下するという報告もなされている7)。また,原料中のCaO/Oreが増加すると気孔率が低下することも報告されている8)。CaO–Fe2O3系の2元系状態図によれば,一般的な自溶性焼結鉱におけるCaO濃度範囲(10%前後)において鉱石(Ore:Fe2O3)に対するCaO量が増加すると,同じ温度で比較した際の液相率が増加する。つまりCaO/Oreの増加は鉱石の同化促進を意味しており,溶融していない残留元鉱の比率が低下する。したがって焼結気孔の減少には原料の溶融率を上昇させること効果的であると考えられる。一方,焼結ケーキは生成した融液が造粒粒子間の空隙を埋めながらクラスタ状に結合点を形成することで構成される。この時,融液の流下に伴い,空隙は見掛け上ベッド表層に向かって上昇し,最終的にはベッドの収縮に伴い空隙は系外に排出される。したがって,融液の移動距離が大きいほどケーキの気孔率は低下すると考えられる。Fig.2に焼結鉱の強度,およびケーキ気孔率の支配因子としての溶融率,融液移動距離の考え方を示す。多孔質体である焼結ケーキの強度推定式における基質の焼結鉱強度は溶融率によって整理が可能であり,ケーキ気孔率は融液移動距離によって整理が可能であるという仮説を立て,その仮説の検証,および温度,配合成分による溶融率と融液移動距離の定式化を行い,式(1)を参考に式(2)に示す定式化を試みた。

  
Y=kσS1cPcake100=kfQ1cgL100(2)

ここで,Y:成品歩留(-),

σS:焼結鉱強度(%),

Pcake:ケーキ気孔率(%),

Q:溶融率(%),

f(Q):溶融率を用いた焼結鉱強度推定式(%)

L:融液移動距離(m),

g(L):融液移動距離を用いたケーキ気孔率推定式(%)

k',c':定数(-),である。

Fig. 2.

Melting ratio and melt penetration length as the factors of sintered ore strength and cake porosity. (Online version in color.)

2・2 実験方法

2・2・1 焼結鍋試験方法

まず,溶融率と融液移動距離の温度,雰囲気,配合成分による定式化,およびその検証のため,焼結鍋試験装置を用いた焼結実験を行い,層内温度の測定と同試験条件における焼結鉱の強度を実測した。

Table 1に焼結鍋試験に用いた原料の化学組成を示す。鉱石原料としては豪州産鉱石A,ブラジル産鉱石B,C,D,および返鉱を用いた。Table 2に配合・実験条件を示す。Test 1は溶融率と融液移動距離の定式化のための試験であり同一配合で粉コークス配合率を外数で4.0,4.5,5.0 mass%で変更した。Test 2試験はその検証用として行った。

Table 1. Chemical compositions of raw materials.

(mass%)
T.FeFeOSiO2CaOAl2O3MgOIg.loss
Ore A56.760.166.620.051.220.1411.13
Ore B65.750.831.100.021.060.033.64
Ore C63.290.934.420.051.210.073.28
Ore D61.941.746.180.121.460.112.73
Return fine57.727.094.979.751.801.100.00
Limestone0.090.000.4954.900.160.5143.85
Coke0.560.826.200.313.560.1287.85
Table 2. Blending condition of pot tests.

(mass%)
Ore AOre BOre COre DReturn fineLimestone
Test 133.721.512.10.020.012.7
Test 234.520.70.013.820.011.0

いずれの水準も焼成後の焼結鉱の成分についてSiO2=5.0 mass%,塩基度(CaO/SiO2重量比)が2.0となるように配合を行った。Fig.3に鍋試験のテストフロー,Fig.4に本検討における鍋試験の条件を示す。Table 2の通り秤量した乾燥原料をコンクリートミキサーに装入し20 rpmで3 min混合した後,φ1 mのドラムミキサーに装入し,水分7.5 mass%となるように水を加えながら7.5 rpmで5 min造粒を行った。φ290 mm×600 mmの鉄鍋の下部20 mmに床敷鉱を充填した。Test 1では一般的に焼結ケーキの下層部よりも上層部の歩留が低下するという現象に着目し,焼結ケーキを上層と下層に分割して評価を行うべく,造粒原料を300 mm分装入した後にもみ殻を薄く敷き,その上に残りの造粒原料を装入した。同様に,上層と下層の層内温度を測定するために,上端から150 mm,450 mmの位置に側面から熱電対を挿入した。原料への均一着火を目的とし,鍋上端に木炭を150 g敷き詰め,バーナー(プロパンガス20 L/min)で30 s点火を行い,粉コークス配合率による通気性の影響を除くため下端の風速が1.3 m3/minで一定となるように負圧を制御しながら焼成を行った。焼成後のケーキはもみ殻を挟んだ面で上下に分割し,それぞれの全量を2 mの高さから4回落下させ,上下のそれぞれのケーキ重量に対する粒径が5 mm以上の篩上重量比を歩留と定義した。一方,Test 2は通気性の影響を含めたヒートパターンの影響を見るために風量一定ではなく負圧一定の試験とし,粉コークス配合量,木炭量,設定負圧,装入密度を変更した。Table 3に実験条件を示す。なお,Table 3中のCharge voidは装入した原料間の空隙率を示しており,各原料の見掛け密度と鍋の体積,および装入重量から算出した。Test 2では,焼結ケーキを上下で分割することはせず,もみ殻は挟まなかった。また熱電対は全体を代表する温度として鍋の高さ方向の中心である300 mm地点に1本だけ挿入し,層内温度を測定した。また,焼結ケーキについてはケーキ全量を対象として同様の手法で歩留を測定した。

Fig. 3.

Schematic image of pot test flow. (Online version in color.)

Fig. 4.

Experimental method of pot test (Test1, Test2). (Online version in color.)

Table 3. Experimental conditions of pot tests (Test 2).

Coke
(mass%*)
*outer ratio
Charcoal
(g)
Suction
pressure
(kPa)
Charge
void
(%)
T2-14.01501039.8
T2-24.03001039.8
T2-34.02251040.3
T2-43.03001039.7
T2-54.03001040.5
T2-65.03001040.5
T2-75.53001044.4
T2-85.01501046.4
T2-94.03001044.5
T2-104.03001043.7
T2-114.03001034.6
T2-124.03001243.4
T2-134.03001244.0

2・2・2 焼結鉱の評価方法

焼結気孔は水銀圧入法による評価を行った。歩留を測定した後のサンプルを19~21 mmに整粒したものを100 g程度採取した後,さらにディスクミルで1~2 mmに粉砕したものを20 g程度測定に使用した。3.6 nm~200 µmを対象として気孔径分布を測定し,嵩密度と真密度から気孔率を式(3)で算出した。

  
PS=1ρS*ρS(3)

ここで,PS:焼結気孔率(-),

ρ*S:焼結鉱の嵩密度(kg/m3),

ρS:焼結鉱の真密度(kg/m3),である。

また式(2)で示した焼結ケーキの基質部強度,つまり焼結鉱の強度σSは小型ドラム強度試験機(φ140 mm×200 mm,180°対向20 mm高さリフター板2枚付)で評価した。歩留測定後のサンプルから19~21 mmに整粒したものを500 g採取し,小型ドラム試験機にて30 rpm,900回転した後,装入量500 gに対する粒径10 mm以上の篩上重量比を小型ドラム強度と定めた。

2・2・3 焼結ケーキの評価方法

ケーキ気孔率は焼結ケーキの真密度,焼結ケーキの見掛け密度,および2・2・2節で求めた焼結気孔の気孔率から算出した。焼結ケーキの真密度は以下の方法で算出した。まず焼結鉱を縮分した後100 g程度採取し,化学分析でT.Fe,FeO,CaO,SiO2,Al2O3,およびMgOの比率を測定した。FeOはFe3O4に換算し,残分は全量Fe2O3と仮定することで,T.FeとFeOからFe2O3比率,Fe3O4比率を計算した。Fe2O3比率,Fe3O4比率,CaO,SiO2,Al2O3,およびMgOの比率と各成分の真密度の加重平均を焼結ケーキの真密度とした。一方,ケーキの見掛け密度は鍋試験後の収縮量からケーキの体積を算出し,ケーキの重量をその体積で除することで求めた(式(4))。焼結ケーキの真密度,見掛け密度を用いて算出した気孔率は,焼結鉱の気孔率を含んでいるため,焼結鉱の気孔率を差し引いた値をケーキ気孔率とした(式(5))。

  
ρcake*=4WcakeHHSφ2π(4)
  
Pcake=1ρcake*ρcakePS/1PS(5)

ここで,ρ*cake:焼結ケーキの見掛け密度(kg/m3),

Wcake:焼結ケーキの重量(kg),

H:装入時の原料層厚(=0.58)(m),

HS:鍋試験における収縮量(m),

φ:鍋の直径(=0.29)(m),

Pcake:焼結ケーキの気孔率(-),

ρcake:焼結ケーキの真密度(kg/m3),

PS:焼結鉱の気孔率(-)である。

2・2・4 融液移動距離の実証試験

本検討で構築した温度および成分を用いた融液移動距離の推定式について,定性的な傾向の検証,および検討課題抽出のため,簡易的な系での拡散対実験を行った。実鉱石を模擬したタブレットの上に生石灰のタブレットを置き,荷重をかけながら大気雰囲気内で所定のヒートパターンで加熱した。

模擬鉱石タブレットの成形条件を以下に示す。Fe2O3(99.8%),SiO2(99.0%),およびAl2O3(98.0%)の試薬をTable 4に示す組成で秤量,混合した。Component 1~4は実際の鉱石を模擬したものであり,Component 1は南米産のヘマタイト鉱石,Component 2は豪州産のヘマタイト鉱石,Component 3は豪州産のピソライト鉱石,Component 4はComponent 3と同様に豪州産のピソライト鉱石だがカオリンを多く含有する鉱石を模擬した。一方,Component 0はFe2O3試薬のみで脈石影響を排除した参考水準として準備した。なお,本試験では実機で主として使用する代表鉱石を選択し,その成分影響を見るために試薬での模擬を行い,結晶水の影響は未考慮とした。配合した試薬を250 mlのポリエチレン製ポットにφ2 mmZrO2ボールと体積比が1:1となるように装入し,装入物が浸かる程度にエタノールを添加し,24 h粉砕処理を行った。粉砕後のスラリーからZrO2ボールを除去し,乾燥機でエタノールを乾燥させた後,50×47メッシュ(目開き351 µm)の篩で整粒した。得られた粉末をφ12 mmのモールドで一軸加圧成型(18.2 kPa)し,冷間等方圧加圧装置(CIP)により,200 MPaで3 min成型したものを白金皿に設置し,マッフル炉にて昇温速度10°C/minで950°C,3 h焼成した。この焼成後タブレットをアルミナ乳鉢において粉砕した後,−0.25 mmと0.25~0.50 mmに分級し,それぞれ50 mass%ずつ配合したものを原料粉末とした。この原料粉末をφ12 mm,あるいはφ15 mmモールドを用いて20 MPaで一軸加圧成型した後,冷間静水圧加圧法(CIP)により200 MPaで3 min成型したものを模擬鉱石タブレットとした。一方,発生した融液を鉱石タブレット側のみに浸透させるべく,生石灰タブレットには99.9%のφ10 mm×5 mmHで気孔率が約8%の緻密質な市販品タブレットを使用した。

Table 4. Chemical composition of sinters simulating vein components of various iron ores.

(wt%)
Fe2O3SiO2Al2O3
Component 0100.000.000.00
Component 196.171.731.56
Component 293.014.392.60
Component 391.027.251.73
Component 490.286.283.44

まず,模擬鉱石タブレットと生石灰タブレットの接合面について,それぞれ耐水性研磨紙による手研磨を施した。Fig.5に炉内でのサンプルイメージを示す。研磨後の模擬鉱石タブレットの上に生石灰タブレットを置き,その上に5.8 kPaの荷重となるようにZr2Oの重しを置いた状態で電気炉を用いて大気雰囲気で加熱した。Fig.6にヒートパターン条件を示す。CaO–Fe2O3の共晶点が1205°Cであることから,1200~1350°Cで最高温度条件を設定し,その温度まで120°C/minで加熱した後,1200°C以上の保持時間が同じになるように冷却速度を調整した。得られたサンプルは樹脂埋めし,研磨紙によるアルコール研磨,ダイヤモンドペーストによる研磨による面出しを行った。金スパッタを行った後SEM-EDS(加速電圧15 kV,倍率500倍)による断面観察を行った。

Fig. 5.

Sample image of penetration test in electric furnace. (Online version in color.)

Fig. 6.

Heat pattern condition for penetration test of CaO–Fe2O3 melt into ore tablet.

3. 実験結果および考察

3・1 溶融率の計算方法

まず,溶融率の推定に際し,原料成分の影響を検討した。焼結反応は数分という短時間で完了する非平衡のプロセスであり9),擬似粒子の外周部である付着粉層が優先的に溶融すると推察される。そこでまずは付着粉層として配合原料の1 mm以下の粒度範囲に着目し,その粒度範囲の化学成分値を用いた平衡液相率を算出した。平衡液相率の計算には熱力学平衡計算ソフトFactSageのFToxidデータベースを用いた。Fe2O3,Fe3O4,CaO,SiO2,Al2O3,およびMgOの6成分をインプットデータとし,Fe3O4,CaO,SiO2,Al2O3,およびMgO成分以外がFe2O3であると仮定した上で,合計が100%となるようにFe2O3を調整した。また,計算時の雰囲気はO2=0.21 atmの大気雰囲気とした。

次に温度影響を検討した。前述の通り焼結反応は短時間で完了する非平衡プロセスであり,平衡液相率は実際の液相率と比較し大きな値を示すものと考えられる。そこで,平衡に達するまでの反応時間を仮定することで非平衡要素の追加を試みた。Fig.7に今回の検討における層内温度からの溶融率計算の考え方を示す。層内温度が溶融反応の生じる1200°Cに達した時点での時間をt0とし,その点から平衡に達したと仮定した時間teに至るまでの間のある任意の時間tiにおける温度をTiとする。FactSageによる所定の成分,雰囲気における平衡溶融率は温度によって一意的に決まる値であり,qe(Ti)と表現する。これらを用いて任意の時間tiにおける微小時間刻みでの溶融量∆qi式(6)で表現することができる。

  
Δqi=qeTitet0Δt(6)

ここで,∆t:任意の微小時間刻み(s)である。

したがって,合計の溶融率Q式(7)で表すことができる。

  
Q=t0teΔqidt(7)

今回の検討ではSatoらの検討の中での溶融率の実測範囲10)式(7)での計算結果が合うようにパラメータフィッティングを行い,1200°Cに達してから平衡に至るまでの時間tet0を180 sと設定した。

Fig. 7.

Calculation method of melting ratio from bed temperature under non-equilibrium conditions in this study.

3・2 融液移動距離の計算方法

生成した融液は鉱石間の空隙を移動する。この移動の駆動力は毛細管力であると考えられることから,毛細管現象のモデルを用いた定式化を試みた。毛細管現象のモデル化には一般的に式(8)に示すLucas-Washburnの式が適用される11,12)

  
l2=Rγcosθ2ηt(8)

ここで,l:融液の移動距離(m),

R:毛管半径(m),

γ:融液の表面張力(N/m),

θ:接触角(-),

η:融液の粘度(Pa・s),

t:時間(s),である。

本式において温度影響を加味する検討を行った。Fig.8に今回の検討における層内温度からの移動距離計算の考え方を示す。式(8)中では融液の表面張力γ,接触角θ,融液の粘度ηが温度によって変化するため,これらを温度Tの関数としてそれぞれγ (T),θ (T),η (T)と表現し,3・1節と同様に層内温度が1200°Cに達した以降の任意の時間tiにおける温度をTiとすると,微小時間刻みでの移動距離ΔLi式(9)で表すことができる。

  
ΔLi=RγTicosθTi2ηTiΔt(9)

融液の移動ついては反応の平衡は考慮せず,融液が存在する限り移動が生じるとした。したがって,実測した温度が最高温度到達後1200°Cを下回る時間をtfとすると,合計の融液移動距離L式(10)で表すことができる。

  
L=t0tfΔLidt(10)
Fig. 8.

Calculation method of penetration length from bed temperature in this study.

Fig.9に毛管半径の計算方法について示す。毛管半径については付着粉層を想定した仮定に基づき設定した。Matsumura and Kawaguchi13)の手法に基づき,付着粉層を0.25 mm以下と定義し,実験に用いた鉱石に対し0.25 mm以下の粒度における調和平均径を付着粉層の代表粒径と設定した。この代表粒径の粒子が互いに接触しあう形で並んだ際に生じる中央部分の空隙を毛管とし,その面積の円相当半径を式(11)から算出した。

  
R=d223π2π(11)

ここで,R:毛管半径(m),

d:実験鉱石の付着粉層での調和平均径(m),である。

表面張力,接触角,粘度の温度による定式化ついては過去の文献値を参照した。表面張力についてはCaO–Fe2O3二元系カルシウムフェライト融体の測定結果14),接触角についてはCaO–Fe2O3二元系カルシウムフェライト融体の測定結果15),粘度についてはFe2O3,CaO,SiO2,Al2O3,およびMgOの5成分系の粘度推定式16)を使用した。

Fig. 9.

Calculation method of capillary radius. (Online version in color.)

3・3 焼結鍋試験結果(Test 1)

Fig.10に焼結鍋試験Test 1における上層部と下層部の成品歩留(a),小型ドラム強度(b),ケーキ気孔率(c)を示す。上層部,下層部共にコークス配合量の増加とともに成品歩留,小型ドラム強度が増加した。また,上層部よりも下層部の方が成品歩留,小型ドラム強度ともに高くなった。一方,ケーキ気孔率については,上層部では粉コークスの増加とともにケーキ気孔率が低下し,下層部は粉コークス配合量による一様な傾向は確認できなかった。しかし,いずれのコークス配合量においても下層部の方が上層部よりもケーキ気孔率が低かった。

Fig. 10.

Results of sintering pot Test 1((a) yield, (b) small drum strength, (c) cake porosity).

Fig.11に各コークス配合量における上層部と下層部のヒートパターンの計測結果を示す。上層部,下層部共にコークス配合量の増加に伴い1200°C以上の保持時間が増加しており,さらに下層部の方が上層部と比較して1200°C以上の保持時間が長かった。3・1節に示す手法でヒートパターンと成分から求めた計算溶融率と小型ドラム強度,および焼結気孔率の関係をFig.12に示す。計算溶融率と小型ドラム強度の間には強い正の相関が確認でき,計算溶融率と焼結気孔率の間には強い負の相関が確認できた。つまり前述した焼結鉱の強度は焼結気孔率に大きく影響を受け,その焼結気孔率が溶融率で整理可能であるという仮説の正当性が確認でき,結果として焼結鉱の強度が溶融率で整理できたと考えられる。一方,式(1)に示すように多孔質体の強度は気孔率以外に基質の強度も要因として考えられている。Test 1は同一原料による試験であり水準間の成分差がほぼ無いことに加え,FactSageによる溶融率には組織変化の要素が偽相関として含まれている可能性があるため,基質強度の影響が小さく表れたと考えられる。

Fig. 11.

Measured heat pattern of top and bottom layer with each coke ratio.

Fig. 12.

Relationship between calculated melting ratio and (a) small drum strength, (b)sintered ore porosity.

Fig.12(a)から焼結鉱強度σS(小型ドラム強度)は式(12)で表される。

  
σS=0.08Q+90.79(12)

次に,3・2節に示す手法でヒートパターンと成分から求めた計算移動距離とケーキ気孔率の関係をFig.13に示す。2・1節で述べた通り,ケーキ内の気孔は融液の移動に伴い系外へ排出されると考えられるため,計算移動距離とケーキ気孔率の間には強い負の相関を確認した。これらの結果から,ケーキ気孔率は式(13)で表される。

  
Pcake=90.40L+63.47(13)

したがって,式(2)式(12)式(13)を適用することで,歩留推定式として式(14)を得ることができる。

  
Y=k0.08Q+90.791c90.40L+63.47100(14)

ここで,k'c':は定数であり,パラメータフィッティングにより,k'=1.73,c'=0.820を導いた。

Fig. 13.

Relationship between calculated penetration length and cake porosity.

3・4 融液移動距離測定試験結果

Fig.6に示した1200°Cまで120°C/minで昇温し,約250 s保持した(a)の条件ではいずれの模擬鉱石タブレットにおいても明確な融液の生成は認められなかった。これはCaO–Fe2O3系の状態図においても今回の実験配合に近い組成での共晶点は1205°Cであり,また反応時間も短いことから融液の生成が促進されなかったものと考えられる。Fig.141516に条件(b),条件(c),条件(d)におけるSEM像,およびCaのマッピング像を示す。本試験では模擬鉱石タブレットにCa成分を配合していないため,模擬鉱石タブレット内で確認できるCaは全量生石灰タブレット由来であると考えられる。

Fig. 14.

SEM-EDS elemental mappings of the polished section at case (b). (Online version in color.)

Fig. 15.

SEM-EDS elemental mappings of the polished section at case (c). (Online version in color.)

Fig. 16.

SEM-EDS elemental mappings of the polished section at case (d). (Online version in color.)

これらの結果から,模擬鉱石タブレットと生石灰タブレットの界面の下方にCaが確認できることから,模擬鉱石タブレット内に融液が浸透していることを確認した。そこで,このCaマッピング画像から模擬鉱石タブレット内に浸透した融液の移動距離を6か所測定した。各温度条件,鉱石条件における平均移動距離をFig.17に示す。条件(b)ではComponent 0,1,2,3,4の順に高い移動距離を示した。また,条件(c)ではComponent 0~2は著しく移動距離が増加したが,Component 3と4はあまり大きな変化はなく最終的な移動距離はComponent 0,1,3,2,および4の順に高くなった。条件(d)では温度が高いにもかかわらず,全水準で移動距離が低下する結果となった。

Fig. 17.

Penetration length of each component with case (b), (c), (d). (Online version in color.)

Fig.18にFactsageを用い,各Componentの組成に対し,CaO濃度が増加した際の1250~1350°Cにおける平衡液相率を計算した結果を示す。CaO増加時の計算では,Component内のFe2O3とSiO2,Al2O3の比が変わらないように調整した。いずれの温度条件においてもComponent 0と1については,CaO濃度の増加に伴い液相率はほぼ直線的に増加した。一方,他のComponentについては,CaO濃度の増加に対する液相率の増加が鈍く,CaO濃度が6~8%付近でComponent 2の液相率が急激に増加する傾向となった。

Fig. 18.

Calculation of liquid phase ratio by Factsage. (Online version in color.)

Fig.17における条件(b)の移動距離の順は,Fig.18に示す1250°CにおけるCaO濃度が約8%以上範囲での液相率の大きい順と同様であった。現状,日本での焼結プロセスでは使用する原料中のSiO2の量からCaO濃度は8%以上に設定されることが多く,低い温度領域では配合原料におけるバルクでのCaO濃度の液相率に大きく影響を受けることが考えられる。これは生成した液相量が十分ではないため,液相量が移動距離の律速となっているためと考えられる。Fig.18条件(c)ではComponent 0と1は高い移動距離であり,1300°Cの液相率の計算結果も高かった一方,Component 3では液相率の計算結果は他Component よりも低いにも関わらず,移動距離はComponent 0と1に次いで高い結果となった。EDSによる融液部分の点分析結果と同じ組成の融液における粘度の測定結果17)から,Component 0,1,3の粘度は約0.2Pa・sであるのに対し,Component 2,4は約7.5倍の約1.5Pa・sの粘度を有していた。式(8)に示すLucas-Washburnの式では粘度が7.5倍になると移動距離は0.37倍になる。今回のComponent 2,4の移動距離測定結果もComponent 0,1,3の0.3~0.4倍となっており,計算結果と類似した範囲であった。また,Fig.18における1300°Cの液相率では,Component 3のCaOが0~6%の範囲における液相率では移動距離の小さいComponent 2,4と比較しても同等であり,CaOが6%よりも大きい範囲では最も低くなっていることから,移動距離は生成した液相の粘度にも影響を受けることが示唆された。しかし,生成した融液は周辺組織との同化を伴いながら移動すると考えられ,それに伴い融液の組成も変化することで粘度を含む物性も変化することが考えられ,物性の時間変化と移動距離の詳細な関係性の解明については依然課題として残る。条件(d)では全Componentで移動距離が減少し,Component 1,3,0,4,2の順で高かったがその差は小さかった。液相率の計算結果においても1300°Cの液相率よりも1350°Cの方が高い値を示した。1350°Cの焼成後ではタブレット間で生じた融液が模擬鉱石タブレットの側面を流れ落ちたため,移動距離が短くなったと考えられる。これは,1350°Cの高温条件では模擬鉱石タブレットの焼結が進み,タブレット内の細孔が閉塞してしまったためと考えられる。

以上のことから融液の移動距離については液相率と粘度を加味することで整理が可能である一方,高い温度では鉱石間の空隙の変化について別途考察を加える必要がある。式(10)で構築した融液移動距離の式をTest 1に当てはめた結果と比較すると,今回の実験結果は1/100程度のオーダーを示した。これについては液相が十分な量を生じていること,および直線的で十分な長さを持った細孔が存在していること等を前提にしたためであると考えられるが,Fig.13に示すようにケーキ気孔率には高い相関性を示しており,本推定式で考慮しなかった要素についても全条件でおおよそ一様な影響を及ぼしているものと考えられる。

3・5 焼結鍋試験結果(Test 2)

Fig.19にそれぞれTest 1,Test 2について,本検討で得られた歩留推定式による計算歩留と実測歩留の関係性を示す。図中の破線は計算歩留と実測歩留の±5%誤差範囲を示している。本推定式はTest 1の結果に基づいて構築されたものに対し,Test 2はその検証用に各種条件を変更したものであるが,概ね±5%の誤差以内での推定精度を示すことができた。

Fig. 19.

Comparison of yields between calculation and observation.

Test 2は全体的に実測歩留の方が計算歩留に対して若干高位であった。これは,Test 1がケーキを上下に分けて評価を行ったためと考えられる。成品歩留は下層に向かうにつれて線形に低下するわけではなく,中層部の歩留は下層部の歩留とほぼ変わらない。これは焼結ケーキにおける脆弱な部分は上層に限られたものであり,ケーキを上下に分けた評価では上層部の歩留低下影響を大きく受けているものと考えられる。一方,これはFig.11に示すように上層部と下層部のヒートパターンの差に起因するものであり,歩留推定に使用するヒートパターンについては測定位置等の高さ方向での熱量偏析を考慮することで精度を向上させることが可能であると考えられる。さらには上下に分割して歩留評価を行ったため,Test 1の供試重量が小さいこともTest 2の実測歩留が計算歩留に対して高い要因である可能性がある。また,鍋側面から挿入された熱電対はケーキを支持することでケーキの収縮を抑制する可能性がある。Test 1ではケーキを上下に分けて評価を行う上で上下に2本の熱電対を挿入しているが,Test 2では中央部1点のみに熱電対を挿入していることから,Test 1の方がケーキの収縮率の低下が大きいと考えられ,このこともTest 2の実測歩留が計算歩留に対して高位となった要因である可能性がある。本検討では平衡に達するまでの時間や毛管半径等に仮定値を与えており,その点も誤差を生じる要因であると考えられる。

以上から,層内温度と配合成分からの成品歩留予測は可能であると考えられる。各操業条件からの層内温度を推定するモデルは数多く検討されており18,19,2021),これらのモデルと本モデルを組み合わせることで各操業条件からの歩留推定が可能になると考えられる。

4. 結言

成品歩留を対象としたフィードフォワード方式での操業アクションのためには操業条件からの成品歩留予測が必須である。本研究では操業条件からの成品歩留予測に向け,前段階として層内温度と配合成分からの成品歩留予測を検討した。成品歩留は焼結ケーキ強度と同義であると仮定し,焼結ケーキに多孔質体の強度推定式を適用することで,焼結ケーキ強度の定式化を試みた。

詳細を以下に示す。

(1)焼結ケーキへの多孔質体強度推定式の適用に際し,気孔部として破砕時に消失するケーキ気孔,基質部として破砕後に残留する気孔を含む焼結鉱の2要素に分け,それぞれ評価指標としてケーキ気孔率,焼結鉱強度を用いたケーキ強度推定式を構築した。

(2)焼結鉱強度に影響を及ぼす焼結鉱中の気孔率が反応中の溶融率に支配されると仮定し,焼結鍋試験にて実測した層内温度と配合成分から算出した溶融率を用いて焼結鉱強度の定式化を行った。

(3)ケーキ気孔率は生成した融液の移動距離に支配されると仮定し,焼結鍋試験にて実測した層内温度と配合成分から算出した融液移動距離を用いてケーキ気孔率の定式化を行った。

(4)検証用の鍋試験において,定式化したケーキ気孔率と焼結鉱強度を適用した成品歩留推定式によって計算した成品歩留と実測した成品歩留の間には良好な相関性を確認した。

利益相反に関する宣言

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項は存在しない。

文献
 
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