Tetsu-to-Hagane
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Alkali Elution Behavior of Steelmaking Slag into Seawater by Batch Test
Hironori TamakiMd. Azhar UddinYoshiei KatoKatsunori Takahashi
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2013 Volume 99 Issue 11 Pages 676-682

Details
Synopsis:

Kinetic study was carried out in order to clarify effects of slag properties and operation factors on alkali elution of steelmaking slag component into artificial seawater. The seawater was rotated by an impeller in a cylindrical vessel and time change in pH was measured by pH meter. Operating factors such as vessel diameter, seawater volume, slag volumes, rotating speed were varied for various slag diameter and composition.

[OH] increased lineally in the early stages of the experiment. From a theoretical study on pH buffering ability of carbonate in the seawater, it was found that the double-digit [Ca2+] increase was achieved compared with [OH] and that [Ca2+]/[OH] was kept almost constant. As alkali increase in the seawater resulted from dissolved free CaO of the steelmaking slag, its rate proceeded at the constant rate. When slag diameter was too small, alkali elution rate decreased because the penetration of the seawater in the lower part of slag layer was insufficient, whereas when slag diameter was too large, it also decreased due to the decrease in interfacial area of reaction. Alkali elution rate increased according to 1/3 power of liquid circumferential velocity, increased with free CaO content in steelmaking slag within about 2% and decreased with an increase in ratio of dredged soil.

1. 緒言

製鋼過程の副産物である製鋼スラグは,硬質・耐摩耗性や水硬性等の特長を活かして従来からアスファルトコンクリート用骨材や道路用路盤材等に有効利用されており,さらに最近では用途拡大策の一つとして海域利用1,2)が注目を集めている。例えば,海水中でのリンや硫化物濃度の減少効果を利用した海域底質の水質汚濁防止材としての利用1,3),鉄分や二酸化ケイ素等のミネラル分を多く含有することから海藻の生育基盤,すなわち藻場造成材としての利用1,3,4),軟弱な浚渫土や現地底質との混合により土質強度の向上効果を有することを利用した強度発現材としての利用1,2)等である。さらに,海水に接する場合の用途として,覆砂材や浅場造成材としての利用も注目を集めている。

しかし,海域利用に際しては,条件によっては製鋼スラグから溶出したアルカリが海水中のMgイオンと,Mg2++OH→Mg(OH)2のように反応して白濁1)が生じる場合があるので,実海域利用に適するスラグ製品のアルカリ溶出挙動を慎重に把握する必要がある。

アルカリ溶出挙動に関する研究例は文献1),2)に詳しいが,Kanayamaら5)は製鋼スラグ単体および浚渫土との混合材からのアルカリ溶出に伴う海水中でのMg(OH)2の白色沈殿・白濁状況を回分式のカラム実験で1~72時間観察し,浚渫土との混合による白濁抑制効果を明らかにした。しかし,製鋼スラグと海水との接触初期の,アルカリ溶出が最も大きくなる短時間における溶出挙動やスラグ性状や操作条件の影響に関する検討は必ずしも十分なされているとは言えない。

そこで,本研究では特に1時間以内の短時間における転炉系製鋼スラグからのアルカリ溶出挙動に関して,粒径やフリーCaO濃度等のスラグ性状や液固比,撹拌条件,スラグ厚み等の操作条件を変えた実験を回分条件下で行い,アルカリ溶出挙動におよぼす因子の影響を定量的に把握した。

2. 実験方法

2・1 実験装置と方法

実験装置の模式図をFig.1に示す。円筒容器はアクリル製で,流速測定時は水道水を,スラグからのアルカリ溶出挙動測定時は金属腐食試験用人工海水(八州薬品製,アクアマリン)を用い,Fig.1の形状の撹拌翼(長さ7.5cm)で液体を回転させた。アクリル容器内径は16または23cmの2種類で,流速測定時は容器底面から,スラグ装入時は堆積スラグ上面から撹拌翼上部までの高さを5cmとした。周方向の液流速の測定は,プロペラ流速計(ケネック社製,VO-301A)を用いて円筒容器の底面から5cmの高さの位置で半径方向に対して行った。アルカリ溶出挙動測定のためのpH計のセンサー位置も円筒容器の底面から5cmの高さで,内径16cmのアクリル容器の場合は円筒内壁から2cm内側,内径23cmの場合は3cm内側の位置に設置した。また,アルカリ溶出挙動測定時,底面中央に容器内径の1/2となるように円筒体を設置し,円筒体と容器内壁の間にスラグを同一高さでドーナツ状に入れた。実験は,種々のスラグに対して,容器径,液量,スラグ量および回転数を変更して行った。

Fig. 1.

 Schematic view of experimental apparatus.

2・2 使用サンプルと実験条件

使用製鋼スラグの外観をFig.2に示す。A~Hの8種類を使用し,スラグDに2種類の浚渫土T,Kを混合したサンプルも実験に供した。スラグA~Hの粒径範囲をTable 1に,化学組成をTable 2に示す。スラグA~Fは同一化学組成で粒径のみが異なり,スラグHはフリーCaOをほとんど含有しない。また,異なる地域での浚渫土KおよびTの乾分換算化学組成をTable 3に示す。浚渫土TおよびKの含水比はそれぞれ53.4,133.6である。

Fig. 2.

 Slag used for experiment.

Table 1. Slag diameter used for experiment.
SlagABCDEFGH
Slag diameter range (cm)< 0.030.03-0.200.20-0.4750.95-1.321.90-2.653.75-5.300.95-1.320.95-1.32
Table 2. Chemical composition of slag used for experiment.
(%T.Fe)(%M.Fe)(%FeO)(%SiO2)(%MnO)(%P2O5)(%Al2O3)(%CaO)(%f.CaO)(%MgO)
A-F18.91.0012.113.52.982.321.8244.63.996.59
G18.71.9813.014.33.021.956.6040.92.225.41
H13.21.1210.533.45.942.385.5430.20.012.88
Table 3. Chemical composition of dredge soil used for experiment.
(%T.Fe)(%FeO)(%SiO2)(%T.S)(%TiO2)(%Al2O3)(%CaO)(%MgO)(%F)
T5.200.8261.60.670.6212.92.632.840.02
K3.080.5757.90.450.6819.21.071.810.04

実験条件をTable 4に示す。スラグDを基準に容器内径や液固比を変え(Run 1~5),同一液固比に対してスラグ粒径やスラグ種類(Run 1, 6-12)を変更した。浚渫土の混合実験は同一液固比で行った(Run 13~14)。浚渫土とスラグは密閉容器で均一に混ざるように10min程度混練し,その後時間をおかずに実験に供した。液固比は,アルカリの溶出量をより明瞭に把握するため,タンクリーチング等で一般的な条件であるL/S=10よりも低く,高いpH傾向となる,L/S=5を中心に検討した。なお,各Runに対して液回転数を変更した。

Table 4. Experimental condition.
Run No.φ (cm)SlagLiquidvolume (L)Mass ofslag (kg)Liquid/slag(L/kg)Slag height(cm)dredge soiladdition
116D5154.4No
216D50.5102.2No
316D50.25201.1No
423D10252.2No
523D100.5201.1No
616A5153.3No
716B5153.3No
816C5153.3No
916E5154.7No
1016F515No
1116G5154.4No
1216H5156.3No
1316D50.510Yes (T)
1416D50.510Yes (K)

3. 実験結果と考察

3・1 容器内流速分布と回転数

内径23cmの容器に水を10L(水深24cm)入れて,回転数を変化させた場合の周方向速度の半径(r)方向分布をFig.3に示す。中央部に撹拌翼が存在するために,r=6cmから測定した。回転数が大きくなるほど半径方向の各点で流速も大きくなることがわかる。また,r=0cmの軸心で液速度が最も大きく,軸から離れるにつれて小さくなることが予想されたが,おおよそ8cm以降で周速度はほぼ一定となることもわかる。

Fig. 3.

 Circumferential velocity distribution in a radial direction.

各容器径に対する周方向速度と回転数の関係をFig.4に示す。周速度測定位置は,底面からの高さをz cmとおけば,内径16cm,23cmの容器でそれぞれ(r, z)=(6.0, 5.0),(8.6, 5.0)である。図から,回転数を増すにつれて周速度も増加すること,同一周速度を得るのに必要な回転数は,水量の多い容器径23cmの場合の方が大きくなることがわかる。以下のアルカリ溶出挙動は本関係にしたがい,周速度で表すことにする。

Fig. 4.

 Relation between circumferential velocity and rotation speed.

3・2 pHの経時変化

Table 2のスラグDで容器径23cm,液固比20L/kgの場合のpHおよびOHの経時変化をFig.5に示す(Run 5)。図から,時間の経過とともにpH,OHともに増加すること,液流速が大きいほどその増加速度も速いこと,OHの増加速度は図の傾きが直線で表されていることからほぼ一定であること,等がわかる。

Fig. 5.

 Typical examples of time changes in pH and OH.

次に,容器径16cm,液固比5L/kg,液周速度10cm/sでスラグ種類を変えた場合のpHおよびOHの経時変化をFig.6に示す(Run 1, 11, 12)。スラグの種類によって挙動が大きく異なり,スラグD,Gに比べてHはほとんどpH変化を示さない。これはTable 2の化学組成からわかるようにフリーCaOの存在の有無に起因すると考えられる。OHの増加が直線上になることから,Fig.5と同様,OH増加速度がほぼ一定であることもわかる。

Fig. 6.

 Typical examples of time changes in pH and OH.

3・3 アルカリ溶出挙動におよぼす諸因子の影響

3・3・1 海水での[Ca2+]と[OH]の関係

Kanayamaら5)は,Hoffertら6),Sohmaら7)の海洋化学の分野における成果をもとに,アルカリ度の変化と炭酸の2段階解離を考慮して,海水中の製鋼スラグからのアルカリ溶出に伴うpHの予測手法を以下のように示した。海水中の強塩基と強酸の濃度の差で定義したアルカリ度,[ALK]の上昇量,Δ[ALK]は,(1)式のようにスラグからのCa2+の溶出分に等しいとして,   

Δ[ALK]=2Δ[Ca2+](1)

で表す。一方,炭酸塩の2段階解離を考慮すると,[ALK]は(2)式となる。   

[ALK]={[H+]4K1[H+]3+(K1C1K1K2+Kw)[H+]2    +(2K1K2C1K1Kw)[H+]+K1K2Kw}    /{[H+]3+K1[H+]2+K1K2[H+]}(2)

ここで,K1,K2はそれぞれ海水中の炭酸の第一,第二解離定数であり,次式で与えられる。   

K1=[H+][HCO3]/[H2CO3](3)
  
 K2=[H+][CO32]/[HCO3](4)

一方,C1は(5)式で表される総炭酸濃度であり,Kwは水の溶解度積である。   

C1=[H2CO3]+[HCO3]+[CO32](5)

人工海水の組成からC1=2.39×10−3(mol/L),K1,K2の値を人工海水の塩素濃度,(Cl)=1.987(mass%)を用いて次式で求める8)。   

pK1=6.110.291³(Cl)(6)
  
pK2=9.871.099³(Cl)(7)

上記モデルにおいて,[ALK]は(2)式中のpH,すなわち-log[H+]を与えることにより求められるので,Δ[ALK]から(1)式でCa2+の増分,Δ[Ca2+]が計算できる。したがって,[H+][OH]=10−14からΔ[OH]とΔ[Ca2+]の関係を知ることができる。人工海水の組成である[Ca2+]=1.044×10−2mol/L,[OH]=1.59×10−6mol/Lを初期値として,(1)~(7)式から計算したΔ[OH]とΔ[Ca2+]の関係をFig.7に示す。図から,スラグのCaOがCa(OH)2として人工海水中に溶出しても,H2CO3,HCO3,CO32−等の炭酸物質によるpHの緩衝効果によりCa2+の増加量に対する[OH]の増加量は量論量に対して二桁程度低いことがわかる。また,Δ[OH]とΔ[Ca2+]の間にはほぼ直線関係が成立しており,製鋼スラグの海水中への溶出挙動は[OH],ひいてはpHの挙動から知ることができる。

Fig. 7.

 Relation between Δ[OH] and Δ[Ca2+] in synthetic seawater.

なお,上記において大気から溶解するCO2を考慮していないが,これは今回の実験時間のt=60minにおいて円筒容器の上部を覆い,内部空間を窒素雰囲気としてもpHの経時変化に差が生じなかったためである。

3・3・2 アルカリ溶出挙動の評価

スラグから人工海水中へのアルカリ溶出挙動を,境膜説を仮定してFig.8に模式的に示す。スラグ表面においてCaOが水と反応して飽和のCa2+濃度,[Ca2+]e(mol/L)およびOH濃度,[OH]e(mol/L)になる。Ca2+は,CO32−との溶解度積がCaCO3沈殿生成の値以下であればそのまま存在して人工海水バルクに移動するのに対して,H+は(3)~(7)式からわかるように炭酸塩によるpHの緩衝効果により各成分濃度に応じて化学変化し,それにしたがいOHが変化する。したがって,OHはCa2+のようにスラグ/人工海水界面とバルク海水との間で物質収支が成立しているとは言えない。

Fig. 8.

 Schematic view of [Ca2+] and [OH].

スラグからのアルカリ溶出挙動が,スラグ−海水間での液側物質移動に律速されるとすれば,アルカリ溶出速度は,スラグ表面での飽和Ca2+濃度,[Ca2+]e(mol/L)とバルク人工海水のCa2+濃度,[Ca2+](mol/L)の差を推進力として,(8)式で表される。   

d(103V [Ca2+])/dt=ka([Ca2+]e[Ca2+])(8)

ここで,Vは人工海水体積(ℓ),k’は物質移動係数(cm/s),aはスラグ全表面積(cm2)である。

一方,[OH]の増加速度はFig.7から[Ca2+]のそれとほぼ比例関係にあるので(9)式が成り立ち,Figs.5~6からわかるようにt=30min程度までは時間に対してほぼ一定となるので(9’)式となる。   

d(103V [OH])/dtαd(103V [Ca2+])/dt         =αka([Ca2+]e[Ca2+])(9)
  
d(103V [OH])/dtβ(9’)

ここで,α,βはそれぞれ定数である。(9),(9’)式から[Ca2+]の増加速度も一定値となるので,[Ca2+]の値に依存しない形になるが,これは(9)式において[Ca2+]e≫[Ca2+]ゆえに[Ca2+]の項を無視してよいためであり,その結果(10)~(11)式のようになる。   

d(103V [OH])/dt=αka[Ca2+]e=β(10)
  
[O H ]=α( ka/ 10 3 V ) [ C a 2+ ] e t+ [O H ] 0     =( ka/ 10 3 V ) [O H ] e t+ [O H ] 0 (11)

ただし,[OH]eはCa(OH)2の溶解度積からpHe=12.4と与えられるので9),[OH]eは=10−14.0+12.4=10−1.6となる。[OH]0はt=0における人工海水中の[OH]である。また,kは次式で定義される。   

k=(α[Ca2+]e/[OH]e) k(12)

したがって,[OH]の経時変化の傾きから求めたkaもしくは,k,aで溶出挙動を評価できる。なお,傾きの値は0~20minのデータを用いた。

3・3・3 アルカリ溶出速度におよぼすスラグ粒径の影響

実験に用いたスラグB~Hの一部をランダムにサンプリングして,そこに含まれる質量,w(g)と個数,Nを計測し,各スラグ粒を球と仮定して,(13)式で平均径,<d>(cm)を計算した。スラグAは粒径が0.03cm未満と小さいので,<d>=0.03/2=0.015cmと仮定した。また,<d>から単位質量あたりのスラグ表面積,a/w(cm2/g)を(14)式で計算する。   

<d>={6w/(ρπN)}1/3(13)
  
a/w = 6/(ρ<d>)(14)

ここで,ρはスラグ密度(g/cm3)である。同一スラグで粒径の異なるスラグA~Hのスラグ直径範囲と平均粒径<d>をTable 5に示す。

Table 5. Average slag diameter.
SlagABCDEFGH
Diameter range (cm)< 0.030.03-0.200.20-0.4750.95-1.321.90-2.653.75-5.300.95-1.320.95-1.32
Average diameter (cm)0.0150.100.331.162.114.451.101.10

容器径16cm,液固比5でスラグ粒径が変わった場合の物質移動容量係数kaと<d>の関係,さらにkaを(14)式で計算した界面積,a(cm2)で除して得たkと<d>の関係をそれぞれ,Fig.9(a)Fig.9(b)に示す(Run 1, 6~10)。

Fig. 9.

 Relation between ka, k and average slag diameter.

Fig.9(a)から,粒径の小さい条件(スラグA, B)ではアルカリ溶出速度が小さいが,スラグCのd=0.33cmで溶出速度が最大となり,それ以降粒径が大きくなるにつれて徐々に小さくなることがわかる。

また,Fig.9(b)において,スラグCの<d>=0.33cmまではkが小さく,<d>が1cmを越えるスラグDとEはほぼ同程度の最大値を示し,平均スラグ径が4.45cmのスラグEで減少していることがわかる。物質移動係数,kは撹拌条件に影響を受けることがあっても,粒径によって変化することはない。そこで,スラグへの人工海水の浸透状況がFig.9(b)のkに影響を与えていると考え,スラグD,Eのkの平均値を真の値,kTrueとし,P=k/kTrue×100(%)を計算した。P=50%とは堆積したスラグ高さの50%分が人工海水に浸ってアルカリが溶出し,残り50%はアルカリ溶出に無関係と考えるもので,これを浸透率と定義して<d>との関係をグラフ化したのがFig.10である。液流速に無関係にスラグ粒径が大きくなるにつれてPが大きくなり,<d>=1.16cmのスラグDでP=100%,すなわちスラグ全領域からアルカリ溶出が生じていることがわかる。なお,Pと<d>の関係はスラグ高さを変えた場合に変化することが予想される。また,<d>=4.45cmのスラグFにおいてPが減少する理由は不明であるが,一因として流れに影響を与える形状因子によると考えられる。

Fig. 10.

 Penetration ratio of water and average slag diameter.

3・3・4 アルカリ溶出速度におよぼす液固比と液流速の影響

スラグDを使用してスラグ粒径を一定とした場合のkaと流速の関係をFig.11に,kと液流速の関係をFig.12に示す(Run 1~5)。両グラフから,回転数を増して液流速が大きくなれば,アルカリ溶出速度が増えることがわかる。

Fig. 11.

 Relation between ka and circumferential velocity.

Fig. 12.

 Relation between k and circumferential velocity.

Fig.11の同一容器径(16cm)において,◇,□,△と液固比を増すにつれてアルカリ溶出速度は小さくなるが,これはTable 4のRuns 1~3からわかるように,同一人工海水量に対してスラグ量が少なくなり反応界面積が減少したためである。この傾向は,容器径が23cmの場合の×,(それぞれ,Table 4のRuns 4, 5)でも同様である。

また,Fig.12において,低流速側でばらつきが大きいものの,同一液流速では容器径や液固比を変えてもほぼ同一のk値となり,kと流速,u(cm/s)の間には以下の関係が成立することがわかる。   

k=3.2×105u0.33(15)

3・3・5 アルカリ溶出速度におよぼすスラグ種類の影響

同一粒径範囲のスラグD,G,Hについて,容器径16cm,液固比5L/kgの場合のkaとフリーCaOの関係をFig.13に示す(Run 1, 11, 12)。図からフリーCaOのほとんど存在しないスラグのアルカリ溶出速度はほぼゼロに対して,フリーCaOを増すとアルカリ溶出速度は大きくなるが,フリーCaOが2%と4%ではアルカリ溶出速度にさほど変化がない。

Fig. 13.

 Relation between k and free CaO (%) in slag.

3・3・6 アルカリ溶出速度におよぼす浚渫土混合割合の影響

浚渫土をスラグDに対する質量比5,10,30,50%を混合してアルカリ溶出試験を行った。kと浚渫土混合比の関係をFig.14に示す。図から混合比を増すにつれてアルカリ溶出速度は減少することがわかる。これは,Ishikawaら10)がTEM観察結果で明らかにしたように液中に浸漬させることでスラグ中のフリーCaOがSiO2の多い浚渫土の一部と水和反応したためと考えられる。

Fig. 14.

 Relation between ka and ratio of dredged soil.

4. 結言

製鋼スラグから海水中へのアルカリ溶出挙動に関する速度論的検討を回分式実験で行い,以下の知見を得た。

1)[OH]は実験開始初期においてほぼ直線的に増加した。

2)理論的検討によれば,炭酸塩によるpHの緩衝効果のため,[Ca2+]増加量に対して[OH]増加量は約二桁小さくなり,[Ca2+]と[OH]増加量の比はほぼ一定となった。

3)スラグ粒径が一定以上に大きい場合は,スラグの比表面積が小さくなるにしたがってアルカリ溶出速度は低下した。一方,粒径が小さすぎる場合もアルカリ溶出が低下した。支配要因が変化し,堆積したスラグの下部からのアルカリ溶出が抑えられたためと推定される。

4)アルカリ溶出速度は液流速の1/3乗に比例して増加した。

5)フリーCaOが2%程度まではフリーCaOが多い方がアルカリ溶出速度は大きいが,2%と4%ではさほど変化がなかった。

6)アルカリ速度は浚渫土混合割合を増すほど低下した。

謝辞

本研究は,鐵鋼スラグ協会および一般社団法人日本鉄鋼連盟技術政策委員会鉄鋼スラグ海域利用促進ワーキンググループの協力によって行われた。ここに,謝意を表します。

文献
  • 1)   転炉系製鋼スラグ 海域利用の手引き,社団法人 日本鉄鋼連盟,(平成20年9月), 27.
  • 2)   転炉系製鋼スラグ 海域利用の手引き 別冊,転炉系製鋼スラグと浚渫土殿混合改良工法 技術資料,社団法人 日本鉄鋼連盟,(平成20年9月), 55.
  • 3)    Y.  Miyata,  Y.  Sato,  S.  Shimizu and  K.  Oyamada: JFE Giho, 19(2008), 1.
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  • 5)    S.  Kanayama,  A.  Sohma,  Y.  Tanaka,  M.  Tsujii, E.KISO and M.Nakagawa: J. Civil Engineering in the Ocean, 24(2008), 333.
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  • 7)    A.  Sohma,  T.  Kakio,  Y.  Sekiguchi and  M.  Akai: Proc.7th International Conference on Greenhouse Gas Control Technologies, (2005), 2389.
  • 8)   岩下光男,小牧勇蔵,星野通平,堀部純男,増沢譲太郎:海水の化学(海洋科学基礎講座10),東海大学出版会,(1972), 246.
  • 9)   化学便覧 基礎編II(改訂2版),日本化学会編,丸善,(1975), 800.
  • 10)  )N.Ishikawa, H.Nagai and K.Takahashi: CAMP-ISIJ, 24(2011), 151, CD-ROM.
 
© 2013 The Iron and Steel Institute of Japan

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