Quarterly Journal of Geography
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Development of Japan Postcode-level Walkability Index and Examination of its Usefulness
Ryo TANIMOTOTomoya HANIBUCHITomoki NAKAYA
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2023 Volume 75 Issue 1 Pages 16-26

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要旨

 近年の都市政策では,ウォーカビリティ(徒歩での生活しやすさ)が注目を集めている。それが地域経済や住民の健康など生活にもたらす効果を定量的に検証するには,一貫した基準による,広域的な,利用しやすい形式の指標の整備と公開が必要である。そこで本研究では,人口密度,施設種類数,道路接続性の3要素からなる,日本全国の郵便番号界ウォーカビリティ指標(JPWI)を,公開を前提に作成した。本稿では指標の作成方法と概要を解説し,「都市的ライフスタイルの選好に関する地理的社会調査」(GULP)の結果に基づく大都市住民の歩行時間との関連性分析を通じて,その有用性を検証した。分析の結果,通勤通学,日常生活,散歩といった目的別の歩行時間とJPWIの間には,いずれも有意な正の相関が確認された。さらに,住所レベルのWIを用いた分析との比較を通じて,JPWIが近隣レベルのウォーカビリティ指標として有用であることが示された。

Abstract

  Walkability has been the focus of much attention in recent urban policy. In order to quantitatively verify the effects of walkability on local economies, residents’ health, and other aspects of daily life, it is highly desirable to develop an objective walkability index covering a large geographical extent based on consistent criteria and release it in an easy-to-use format. In this study, we developed a walkability index (JPWI) of all postal code areas in Japan for public use, consisting of three neighborhood elements:population density, number of facility types, and road connectivity. We described the outline of the index and verified its usefulness through an analysis of its relationship to the walking time of residents in large cities based on the Geo-social survey for Urban Lifestyle Preferences (GULP). As a result of the analysis, statistically significant positive associations were found between the JPWI and walking time by purpose, such as commuting, errands, and leisure. Furthermore, these associations of JPWI with walking time were almost identical to those of the walkability index at the precise address level, indicating the usefulness of JPWI as a neighborhood level walkability index.

I. はじめに

多様な財や活動機会に対するアクセシビリティは,生活の質の重要な一要素である(谷本, 2020)。とりわけ現代の都市では,個人の健康増進,まちの賑わい創出,環境負荷の低減といった目的で,徒歩で多様な目的地にアクセスできる空間の形成が推進されている。欧米諸国では“15-minute city”のような,一定の時間内で各種の都市機能や交流機会にアクセスできる都市デザインが注目されている(Logan et al., 2022)。日本でも,都市機能と居住地域の立地調整や公共交通の強化によってコンパクトシティの実現を図る立地適正化計画制度1),中心市街地の歩行空間の快適性を高め,徒歩での外出を促進するまちなかウォーカブル推進事業2)などの諸政策が進展している。

このような徒歩での生活しやすさをとらえる概念であるウォーカビリティに関する研究は,2000年代後半から急増している(中谷・埴淵, 2019; Ramakreshnan et al., 2021)。徒歩中心の生活を可能とする環境が,BMIや身体活動量などの健康指標,あるいは不動産価格や店舗売上のような地域経済の指標の向上といった,地域とそこに暮らす人々に及ぼす効果を定量的に検証するには,一貫した基準による広範囲なウォーカビリティの指標化が必要である。これにあたり,GISを用いた客観的なウォーカビリティ指標(Walkability Index:WI)は,地域間比較や広範囲の分析に有用なことが指摘されており,すでに国内外で複数のWIが提案されている(中谷ほか, 2018; Hanibuchi et al., 2015; Liao et al., 2020)。WIは,主に都市計画学や公衆衛生学などの諸分野で活用されてきたが,WIで示されるような環境と人間の生活との関係は,地理学の根源的な論点でもある。こうした関係の研究に適した,汎用的かつ二次利用可能な環境指標を公開する意義は,地理学においても大きいだろう。

しかし,こうした指標が日本全国にわたって利用可能な形で公開されている例は,管見の限り見当たらない。また,WIが地理情報解析を専門としない分野でも用いられることを踏まえると,汎用的なWIは,GISを使用せずとも社会調査個票データと結合できる形式とするのが望ましい。他方で,WIと紐づけて利用する社会調査(特にインターネット調査)においては,個人情報保護等の観点から,居住地の情報を住所文字列ではなく郵便番号に限って回答者から収集することも多い(たとえば,近年ではJASTIS3)やJACSIS4)といった研究プロジェクトが該当する)。したがって,郵便番号界単位でWIを設計すれば,郵便番号を用いて調査データと容易に結合できるため,指標の有用性を飛躍的に高められる。しかし,郵便番号界が近隣のウォーカビリティを表す単位として有効かどうかは,議論の蓄積が必要である。

筆者らはこうした問題意識のもと,2020年の国勢調査をはじめとする各種データに基づき,日本全国の郵便番号界単位のWI(Japan Postcode-level Walkability Index:JPWI)を作成した。本稿では,その指標の設計方針および作成手順を解説するとともに,作成したJPWIが実際に住民の歩行時間と関連するか否かを,大都市住民に対する社会調査個票データを用いて検証する。JPWIのデータは,J-STAGE Dataに公開する。以下,IIでは関連の先行研究を概観した上で,JPWIの算出方法を説明する。IIIでは,有用性の検証として,国内21大都市の居住者を対象とした社会調査データを利用し,目的別の歩行時間がWIといかに関連しているかを,空間単位の影響を含めて検討する。IVで,本稿の結論を示す。

II. ウォーカビリティ指標の作成

1. 先行研究における指標設定

徒歩での生活しやすさを,広範囲にわたって一貫した形で評価するには,どのような観点から指標を設定するのが望ましいのであろうか。近年では,徒歩での生活を促す近隣の建造環境を要約する指標として,WIが多用されている。その代表的な指標は,ローレンス・フランク(Lawrence D. Frank)により提案された,徒歩圏内の人口密度,土地利用混在度,道路接続性,小売床面積比の4要素を合成したWIである(Frank et al., 2006, 2010)。当該の指標は,アメリカ合衆国における都市スプロールを背景に出現した,自動車に過度に依存し徒歩での生活が難しい低密度な郊外住宅地の特徴を,低いウォーカビリティとして評価するように構成された。また,不動産物件検索向けの商用サービスとして,密度や接続性とともに近隣の各種施設へのアクセスの程度からウォーカビリティを評価するWalk Score5)も著名なWIである。モータリゼーションの進展による自動車に依存する住宅地の拡大とそれに付随する歩行や身体活動量の低下といった問題は,さまざまな形態的差異を伴いながらも多くの先進国に共通して観察され,WIはアメリカ合衆国以外でも広く受容されている(中谷・埴淵, 2019)。

日本においても,フランクのWIを踏襲して徒歩圏を定義したうえで,指標としての有用性とデータの利用可能性の乏しい小売床面積比を除外し,人口密度(高いほど交流機会が増し徒歩での外出を促す),施設利用度(近隣の生活関連施設の充実度で,種類が多いほど外出を促す)6),道路接続性(高いほど目的地への到達が容易となり,徒歩での外出を促す)から構成されるWIが多く利用されてきた(中谷ほか, 2018; Amagasa et al., 2019; Kikuchi et al., 2018; Hanibuchi et al., 2012)。関連するものとして,徒歩圏を定義せずに施設へのアクセス距離を利用したWI(埴淵ほか, 2015; Hanibuchi et al., 2015)や,不動産価格との関連から施設アクセス度を得点化したWIも提案されている(Hino et al., 2022)。こうしたWIは,日本においても居住者の歩行量や身体活動量,運動の頻度等と関連し,歩いて生活できる居住地域の環境特性を要約する有用な指標であることが確かめられてきた。

2. 指標作成の手順

本稿では,中谷ほか(2018)の日本版WIに準じつつ,データ規模に対応して適宜簡略化した手順で郵便番号界WI(JPWI)を作成することとした。以下,「代表点」はWI算出の基準地点,「徒歩圏」は代表点から道路距離1,000 m圏を指す7)。JPWIの代表点は,広い山林や公園,工場などの住宅地でない位置となることを避けるため,原則として各郵便番号界内の,人口が最大の5次(250 m)メッシュの中心点とし,離島や山間部のごく一部を除く全国113,156件のJPWIを作成した8)

まず,日本版WIの第1の要素である人口密度は,徒歩圏内(第1図薄青色部)にかかる人口1以上の国勢調査5次メッシュ(同薄赤色部)の総人口を,そのメッシュ面積で除して算出した。これは中谷ほか(2018)に準じているが,メッシュをさらに細分化する処理は行わなかった。

第2の施設種類数は,中谷ほか(2018)Hanibuchi et al.(2012)などの先行研究を参考に,生活関連施設18種(コンビニエンスストア,スーパーマーケット・デパート,その他食料品店,書店,薬局,役場,集会施設,図書館,カフェ・喫茶店,ファストフード店,その他飲食店,ジム・フィットネスクラブ,都市公園,郵便局,銀行,医療施設,クリーニング店,理髪店・美容院)の各々について,徒歩圏内にあれば1,なければ0として合算した値(0~18)とした9)第1図の郵便番号界では3(種)となる。

第3の道路接続性は,中谷ほか(2018)と同様に交差点の数で評価した。徒歩圏内の交差点(第1図では緑点)の数を徒歩圏の面積で除して,交差点密度を算出した。

これら3要素の値を,それぞれ平方根変換で分布の歪みを補正した上で標準化(Zスコア化)し,3つの和を3で除してWIを算出することとした。全郵便番号界のJPWIの平均値は0.00,標準偏差は0.94,最小値は−1.85,最大値は2.59であり,三大都市圏を中心に都市部で高い値が卓越する(第2図および電子付録)。人口密度と施設種類数,人口密度と交差点密度,施設種類数と交差点密度の相関係数は,それぞれ0.68,0.80,0.82であった。

第1図  ウォーカビリティ指標(WI)の作成方法

施設の色は種類(ここでは3種)の違いを示す。

第2図  本州中央部におけるJPWIの分布

III. WIと歩行との関係

1. データとモデル設計

JPWIの有用性の検証,ならびにWI算出時の代表点の設定が与える影響を確認するため,居住地近隣のWIと個人の歩行時間との関係を検討する。用いるデータは,2020年10月~11月実施の「都市的ライフスタイルの選好に関する地理的社会調査」(GULP)である。これは,性別,年齢,世帯年収,学歴といった一般的な個人属性のほか,居住地の番地・号レベルの住所や,歩行習慣を含む生活上の意識と習慣を問うたインターネット調査である(埴淵, 2022)。ここでは,全国の21大都市(東京特別区と政令指定都市)の居住者を対象とした本調査のデータを用いた。全体では3万件を回収したが,調査分割法(一部の設問を一部の対象者にのみ回答させる調査法)を採用しており,本分析に用いる歩行関連の設問に回答したのは10,038件であった。また,回答された住所文字列を緯度経度の座標に変換する際に,位置を町丁目レベル以上の高精度で特定できなかった370件,回答された郵便番号が不正確あるいはJPWIを算出できない地域であった8件,そして統制変数に用いる最終学歴の設問で「わからない」と回答した39件を除いた9,621件を分析サンプルとした。

分析方法は,「通勤通学」「買物などの日常生活(以下「日常生活」)」「散歩・ウォーキング(以下「散歩」)」の3つの目的での歩行時間を従属変数とした,マルチレベル順序ロジスティック回帰分析である。調査では「歩かない」「1日30分未満」「1日30分以上60分未満」「1日60分以上90分未満」「1日90分以上」の5つの選択肢を与えていたが,60分以上の回答が少なかったため,分析では3カテゴリ(「歩かない」=0,「1日30分未満」=1,「1日30分以上」=2)の順序変数として扱うこととした。グループ変数は21大都市および郵便番号界であり,個人─居住地の郵便番号界─居住地の属する都市の3レベルの階層性を仮定したランダム切片モデルを利用した。第3図に,JPWIと通勤通学での歩行との関係を示す。

主たる独立変数はJPWIであり,この値が高い地域(郵便番号界)の住民ほど歩行時間が長い傾向があるかを検討する。これに加え,調査回答者の居住地(番地・号レベル)を代表点としてJPWIと同様の手順で算出した「回答者WI(Residential address-level Walkability Index:RWI)」を用意した。この分析では,JPWIとRWIの比較のため,サンプルにおいて両者を再度標準化した値を使用する。

「下記以外の都市」は札幌,仙台,新潟,静岡,浜松,岡山,広島,福岡,北九州,熊本,「東京以外の首都圏」はさいたま,千葉,横浜,川崎,相模原,「京阪神」は京都,大阪,堺,神戸の各市。個々の点は20%透過して示した。

第4図は,サンプルにおけるJPWIとRWIの散布図である。大都市部で値が高いのは前記の通りで,両指標の相関係数は0.93と大きいが,WIが低いほど両指標間で評価の差が大きいケースが散見される。これは都心部よりも縁辺部において郵便番号界の範囲が広く,代表点の設定方法による違いがより強く反映されたためと考えられる。理論上は,JPWIよりRWIの方が回答者の居住地近傍のウォーカビリティをより正確に反映しているため,回答者の歩行時間との関係もRWIの方が強いと想定される。RWIを用いた分析とJPWIを用いた分析が同様の結果を示す場合,JPWIはウォーカビリティ指標としての妥当性と高い有用性をもつと判断できる10)

なお,回帰分析ではウォーカビリティ関連の先行研究で頻繁に使われる基本的な人口学的・社会経済的特性(性別,年齢階級,世帯類型,最終学歴,世帯年収,就業状況)を統制変数とした。第1表は,従属変数と独立変数の記述統計量である。

第3図  歩行時間別のJPWIの箱ひげ図
第4図  JPWIとRWIの散布図
第1表  各変数の記述統計量
n=9,621) 度数 %
歩行の有無,1日あたり時間(通勤通学) 歩かない 3,547 36.9
30分未満 4,220 43.9
30分以上 1,854 19.3
歩行の有無,1日あたり時間(買物など日常生活) 歩かない 888 9.2
30分未満 6,063 63.0
30分以上 2,670 27.8
歩行の有無,1日あたり時間(散歩,ウォーキング) 歩かない 4,169 43.3
30分未満 2,953 30.7
30分以上 2,499 26.0
性別 4,816 50.1
4,805 49.9
年齢階級 20代 1,533 15.9
30代 1,965 20.4
40代 2,409 25.0
50代 2,094 21.8
60代 1,620 16.8
世帯類型 単身世帯 2,377 24.7
自身と配偶者のみ 1,976 20.5
自身と配偶者に加え18歳未満の子を含む他の家族あり 2,188 22.7
自身と配偶者に加え他の家族あり,18歳未満の子はなし 1,100 11.4
その他(自身と親など) 1,980 20.6
最終学歴 中学校,高等学校 1,788 18.6
高等専門学校,短期大学,大学(院) 7,833 81.4
世帯年収 収入なし~200万円未満 1,049 10.9
200~400万円未満 1,916 19.9
400~700万円未満 2,646 27.5
700~1,200万円未満 2,192 22.8
1,200万円以上 702 7.3
わからない 1,116 11.6
就業状況 フルタイム 5,576 58.0
パートタイム 1,598 16.6
求職中,在学,退職,専業主婦(夫)など 2,447 25.4

2. 分析結果と考察

従属変数(歩行目的)3種類×WI2種類の計6モデルのうち,JPWIに関するモデルの結果を第2表に,RWIに関するモデルは紙幅の都合上,RWIのオッズ比のみを第3表に,それぞれ示す。なお,各モデルに対する,通常の順序ロジスティック回帰分析(シングルレベルモデル)との尤度比検定の結果,p値はいずれも0.001を下回っており,マルチレベル分析の利用は適切と判断できる。

JPWIのオッズ比は,いずれのモデルでも1より大きく,JPWIは歩行時間の長さと一貫して有意な正の相関を示している11)。また,WIのオッズ比は,余暇的な歩行(散歩)よりも通勤通学の方が大きい。ウォーカビリティと歩行・身体活動との間に関連があること,それが特に移動に関する歩行・身体活動で顕著である点などは,先行研究と概ね整合的である(中谷・埴淵, 2019; Prince et al., 2022)。日本を対象とした先行研究でも,客観的データを用いたWIおよびその構成要素が歩数や目的別歩行の有無に関連するという結果は一定程度得られている(Hino et al., 2022; Koohsari et al., 2017)。したがって本研究は,郵便番号界に基づくWIがそれらと同様の結果を示すことを,国内の21大都市を対象に確認したものといえる。

また第3表から,代表点によらず結果は類似しており,いずれのモデルでも歩行とWIの間には有意な関連がみられた。つまりJPWIは,住民の歩行時間に対して番地・号レベルの位置精度に基づく分析と同程度の説明力を有していることが示された。なお,実質的な差はほとんど無いものの,同じ歩行目的であれば,JPWIよりRWIの方がオッズ比は若干小さい。しいていえば,その一因として,特に郵便番号界が概して広い縁辺部で,居住地とJPWIの代表点が離れている可能性が高いことが挙げられる。JPWIの代表点である各郵便番号界内の人口最大メッシュの中心には,往々にして店舗・施設等の目的地やバス停などの移動の基点が立地している。人々の実際の行動範囲は居住地近傍よりも外側に広がることが多い(Rodríguez et al., 2005; Zenk et al., 2011)との指摘も踏まえると,JPWIの代表点周辺の歩行環境の方が,居住地近傍の環境よりも住民の歩行習慣をより良く説明しうるのかもしれない。ただし,JPWIとRWIについての結果の差は小さいため,ウォーカビリティの計測にあたり,どのような地点を基点とすべきかについては,さらなる検討を要する。

いずれにせよ,上記の結果は,JPWIの有用性を示すものといえる。公開用のWIを郵便番号界単位としたのは,一義的には調査データとの結合の便宜を図ったものだが,分析結果からは,調査データが郵便番号界より詳細な位置情報を有していても,JPWIを用いて十分に有用な分析が可能なことが示唆される。施設や道路網のデータを都度用意し,さまざまな空間単位のWIを作成するのは,GISソフトウェアやデータの価格,(無償であっても)機能や精度を考えると効率的ではない。生活環境の評価にかかわる研究でも大規模データの分析が普及している一方で,多様なテーマや地域の研究を数多く蓄積するためには,取り扱いが簡便で汎用的なデータを積極的に活用すべきである(谷本, 2020)。こうした観点からもJPWIは,徒歩での暮らしやすさという現代の諸地域における重要なテーマに基づく環境指標と,人々の生活との関係について,公衆衛生や都市計画,地域経済といった幅広いテーマを通じて理解を深めることに寄与しうると考えられる。

第2表  歩行とJPWIの関係の推計値
歩行目的 通勤通学 日常生活 散歩
オッズ比 95%信頼区間 オッズ比 95%信頼区間 オッズ比 95%信頼区間 オッズ比
JPWI 1.19*** 1.12, 1.26 1.14*** 1.07, 1.21 1.12*** 1.06, 1.18
性別(ref. 男性)
女性 0.82*** 0.75, 0.89 1.66*** 1.52, 1.82 0.71*** 0.65, 0.77
年齢階級(ref. 20代)
30代 0.68*** 0.60, 0.78 0.84* 0.73, 0.96 0.91 0.80, 1.03
40代 0.62*** 0.54, 0.70 0.71*** 0.62, 0.81 0.77*** 0.68, 0.87
50代 0.57*** 0.49, 0.65 0.70*** 0.61, 0.81 0.81** 0.71, 0.92
60代 0.41*** 0.35, 0.49 0.77** 0.66, 0.90 1.12 0.97, 1.29
世帯類型(ref. 単身世帯)
自身と配偶者のみ 0.69*** 0.60, 0.79 0.95 0.83, 1.09 1.20** 1.06, 1.36
自身と配偶者に加え18歳未満の子を含む他の家族あり 0.68*** 0.59, 0.78 1.03 0.89, 1.18 0.93 0.82, 1.06
自身と配偶者に加え他の家族あり,18歳未満の子はなし 0.67*** 0.57, 0.80 0.95 0.80, 1.13 0.88 0.75, 1.02
その他(自身と親など) 0.98 0.87, 1.11 1.01 0.89, 1.15 1.08 0.96, 1.21
最終学歴(ref. 中学校,高等学校)
高等専門学校,短期大学,大学(院) 1.38*** 1.24, 1.54 0.97 0.87, 1.08 1.35*** 1.21, 1.49
世帯年収(ref. 収入なし~200万円未満)
200~400万円未満 0.79** 0.67, 0.93 1.07 0.91, 1.26 0.97 0.84, 1.13
400~700万円未満 0.88 0.75, 1.04 1.14 0.97, 1.34 1.12 0.97, 1.30
700~1,200万円未満 1.14 0.96, 1.36 1.07 0.90, 1.28 1.29** 1.10, 1.52
1,200万円以上 1.16 0.94, 1.44 1.05 0.84, 1.30 1.63*** 1.33, 1.99
わからない 1.02 0.85, 1.23 1.02 0.85, 1.23 1.10 0.93, 1.30
就業状況(ref. フルタイム)
パートタイム 0.88* 0.78, 0.99 1.18* 1.04, 1.33 0.99 0.88, 1.12
求職中,在学,退職,専業主婦(夫)など 0.11*** 0.10, 0.12 1.07 0.95, 1.20 1.34*** 1.21, 1.49
グループ変数分散
21大都市 0.13 0.03 0.01
郵便番号界 0.00 0.04 0.01
対数尤度 -8636.6 -8198.8 -10168.4

***:p<0.001 **p<0.01 *:p<0.05

第3表  歩行に対するRWIのオッズ比
歩行目的 通勤通学 日常生活 散歩
オッズ比 1.15*** 1.12*** 1.09***
95%信頼区間 1.09, 1.22 1.06, 1.19 1.04, 1.15
対数尤度 −8639.1 −8199.5 −10171.0

***:p<0.001

IV. おわりに

本稿では,日本全国の郵便番号界単位のWI(JPWI)を作成し,その手順と分析上の有用性を示した。都市住民の歩行とJPWIは一貫した関連性を示しており,住所レベルのWIを用いた分析との比較を通じても,近隣レベルのウォーカビリティ指標としてのJPWIの有用性が確認された。JPWIが広く活用され,現代的な生活環境整備に関する知見の深化に寄与することを期待している。

最後に,本稿で提示したWIの課題を述べる。指標の設定では,多くの既往研究に準じて,人口密度,施設種類数,道路接続性を用いたが,これらを用いること,および具体的な計測方法(たとえば,対象とする施設や近隣の範囲)の妥当性は対象とする国や地域の状況を踏まえて検証する必要がある(Liao et al., 2020; Hino et al., 2022)。とりわけ,地形条件や公共交通の利用可能性は,日本の諸地域における暮らしに深く関わる要素であり,今後の検討材料としたい。また,JPWIの有用性の検証は,本稿では大都市部に限られており,他地域における考察も必要である。そして,各種のデータは可能な範囲で新しいものを用いたが,一時点で統一できてはいない。このことはJPWIの有用性を著しく損ねるものではないと考えているが,今後の更新の可能性も含めて検討したい。

謝辞

本研究は,JSPS科研費(20J00161,17H00947,18KK0371,20H00040),AMED(JP22ck0106778)の助成を受けました。本研究の骨子は,2022年人文地理学会大会(2022年11月)で発表した。

(2023年11月5日受付,2023年1月18日受理)

Data Availability Statement

本研究の成果物であるJPWIデータは J-STAGE Data で利用できます。 (リンク先) The JPWI datasets resulting from this study are available on J-STAGE Data,(link here)


1) 国土交通省,立地適正化計画制度,https://www.mlit.go.jp/en/toshi/city_plan/compactcity_network.html(2022年9月15日閲覧)

2) 国土交通省,まちなかウォーカブル推進事業,https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_gairo_tk_000092.html(2022年9月15日閲覧)

3) 田淵貴大,日本における社会と新型タバコに関するインターネット調査研究プロジェクト,https://jastis-study.jp/(2022年10月17日閲覧)

4) 田淵貴大,日本におけるCOVID-19問題による社会・健康格差評価研究,https://jacsis-study.jp/(2022年10月17日閲覧)

5) Walk Score, Find Apartments for Rent and Rentals-Get your Walk Score, https://www.walkscore.com/ (2022年9月15日閲覧)

6) フランクのWIで利用されている土地利用混在度は,日本では詳細なカテゴリ区分を持つ土地利用データの利用が難しいこともあり,施設POI(Point of interest)データに基づく施設利用度で代替することが多い。Hino et al.(2022)は,住宅・商業・業務のように単純化された土地利用データで土地利用混在度を求めたWIよりも,多様な施設POIによる施設利用度を用いたWIの方が,歩行量とより強い関連性を示すことを示している。

7) 道路距離の算出には,ESRI社のArcGIS Geo Suite 道路網2021年版を用いた。

8) メッシュ中心点が含まれない狭小な郵便番号界では,幾何重心を代表点とした。郵便番号界のポリゴンデータは,NTTインフラネット社製の2021年版を用いた。

9) 位置情報については,役場(2014年),集会施設(2010年),図書館(2013年),都市公園(2011年),郵便局(2011年),医療施設(2020年)は国土交通省の国土数値情報,他は2021年版のNTTの電話帳データによった。電話帳データと後述のGULPの回答者住所は,マップル社のアドレスマッチングツールで緯度経度の座標に変換した。なお,駅やバス停といった公共交通関連の施設は,通常は生活行動の目的地ではなく通過点であると思われることや,運行本数などのサービスレベルの差異が大きく,それを簡明な形で指標に追加するのが難しいと考えられることから,既存の指標にならい,本稿でのWIには含めなかった。

10) 大都市部での調査データを用いた本分析では,日本全国におけるJPWIと歩行との関係は確認できないが,Ⅰ章で述べた通り,ウォーカビリティ関連の諸課題の焦点は主に都市部であることから,実用上の有用性は十分に検証できると考えられる。

11) 推計値は省略するが,従属変数を0以上の連続値(「歩かない」=0,「1日30分未満」=15,「1日30分以上60分未満」=45,「1日60分以上90分未満」=75,「1日90分以上」=90)とみなしたマルチレベルトービットモデルとした場合と,従属変数を「歩かない」と「歩く」の2カテゴリとしてマルチレベル二項ロジスティックモデルで分析した場合,およびサンプルを男女別に分け,性別の変数を外して分析した場合も,WIと歩行との間には一貫して有意な正の相関がみられた。

References
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