2023 Volume 75 Issue 2 Pages 64-77
本稿では,奈良県の医薬品産業における企業の存立形態を明らかにした。当地域の医薬品産業は地場産業として成立した配置薬生産を起源とする。しかし,配置薬の生産は減少しており,それを専業で生産する企業は一部に限定されている。他方,配置薬だけでなく一般薬や医薬部外品,健康食品などを生産し,生産品目の多品目化を進める企業がみられるようになった。さらに,大手企業をはじめとする医薬品企業やドラッグストアからの受託生産を主軸とする企業も登場した。こうした企業は,当地域の医薬品産業の中では規模が大きく,医療用薬を主要生産品目とする点に特徴がある。このように,当地域の医薬品生産企業の存立形態には変化が認められる。そして,全医薬品の生産額に占める配置薬の割合が低下する一方で,生産品目の多品目化と受託生産が増加した結果,当地域の医薬品の生産額は2000年代半ば以降も増加傾向を示している。ただし,配置薬生産の減少は企業が奈良県に集積するメリットを低下させている。また,受託生産の拡大は生産額の増加に寄与するが,受託元企業による生産のグローバル化の推進や当産業をめぐる制度の変化などの影響を受けやすいものであるといえる。
The purpose of this paper is to clarify the forms of enterprises in the pharmaceutical industry in Nara Prefecture.
The pharmaceutical industry in Nara Prefecture originated from the production of “placement medicine,” which was established as a local industry. Placement medicines are sold under a system in which distributors place medicines in households and customers pay for the used medicines later. However, the production of placement medicines has decreased, and only a few enterprises specialize in their production. On the other hand, some enterprises have diversified into products such as over-the-counter drugs, quasi-drugs, and health foods. In addition, enterprises mainly engaged in contract production for major pharmaceutical companies or drugstores have also emerged. These enterprises are large in the pharmaceutical industry in Nara Prefecture and are characterized by the fact that their main products are prescription drugs. As described above, changes in the forms of pharmaceutical production enterprises in Nara Prefecture have been observed.
In Nara Prefecture, although the share of placement medicines in total production has been declining, the production value of pharmaceutical products has shown an increasing trend since the mid-2000s, reflecting the diversification of products and the increase in contract production. However, the decline in the production of placement medicines has reduced the advantages of enterprises concentrated in Nara Prefecture. The expansion of contract production contributes to the increase in production value, but it is susceptible to the globalization of production or institutional changes in the pharmaceutical industry.
経済のグローバル化の進展を背景に日本の工業の競争力は低下している。企業は生産拠点の海外移転や国内生産拠点の縮小・閉鎖を進めるとともに,海外からの製品などの調達も拡大させている。そして,国内では産業の空洞化が顕在化し,立地する地域にも影響を与えている。
それに対して,本稿が対象とする医薬品産業は,依然国内生産が拡大傾向にある産業の1つとなる。これには,他の消費財にはない医薬品特有の製品特性が関係する。つまり,1)生命関連性,2)多種多様性,3)公共福祉性,4)需要の周期的変動性および不規則性という製品特性1)が(川端, 1981),国内生産を指向させる要因の1つになっていると考えられる。
また,製品の安全性や有効性の保証が要求されるため,医薬品の製造や研究開発は薬事法をはじめとする制度により厳格に規制されている。医薬品の流通に関しても,薬価基準制度により価格が決定されるなど,医薬品産業は様々な制度の影響を大きく受ける産業である。
こうした医薬品特有の製品特性は流通に関わる主体の立地や機能にも反映されるため,地理学においては医薬品の流通部門を取り上げた研究が多数蓄積されてきた。川端(1981)は医薬品の製品特性を踏まえ,医薬品卸の立地展開とその特性を示した。川端(1990)と中村(2003)では,情報化の進展にともなう医薬品卸の立地変化や機能再編が検討されている。加えて,情報化の進展との関わりより医薬品の流通システムの構築を実証した研究も得られた(中村, 2005, 2007, 2011, 2013, 2019)2)。
医薬品産業の競争力の源泉である研究開発部門に関する研究もみられる。研究開発機関を対象とした研究では,全国的な立地とその変化(佐藤, 2007)やグローバル化の進展にともなう国内研究機関の再編と海外立地の動向(佐藤, 2009)が明らかにされた。また,研究者の労働市場の特性(佐藤, 2004)や企業・研究者間の研究交流ネットワークを分析した研究(佐藤, 2006)もあげられる。さらに,イノベーションの観点より,研究開発に関わる組織間関係の変化(戸田, 2000)や政策の展開(戸田, 2002, 2004)を論じた成果もある。
一方,医薬品産業の製造部門に関しては,戸田(2015)により2000年代以降における大手医薬品企業の生産体制の変化が検討された。そして,1)企業の合併・買収による企業再編,2)生産のグローバル化の進展,3)医薬品の製造委受託の自由化,4)後発医薬品(ジェネリック医薬品)の国内市場の拡大,5)バイオ医薬品の台頭という5つの環境変化が,企業の生産体制に変化を生じさせる要因であると指摘している。
ところで,当産業は大手企業が売上や研究開発の中心をなすものの,医薬品の生産を担う中小企業も一定数存在する(佐藤, 2007)。その中には,地場産業として成立した配置用医薬品(以下,配置薬)の生産に起源をもち,医薬品産業の集積地域を形成しているものもみられる。
しかし,地理学における日本の医薬品産業を対象とした研究では,流通部門と研究開発部門が取り上げられることが多く,製造部門に関する研究はこれまで手薄であった。そのため,大手企業の動向に関しては戸田(2015)により体系的な分析がされているものの,当産業に属する中小企業の存立形態や集積地域の生産動向に関しては十分に明らかにされておらず,配置薬生産を起源とする富山県の医薬品産業の企業の経営実態や課題を考察した柳井(2006)が得られているのみである。先述のように,当産業の国内生産は拡大傾向が続いている一方で,産業全体をとりまく環境は変化しており,その影響は医薬品を生産する中小企業にも及んでいると思われる。これらを踏まえると,医薬品産業の中小企業やその集積地域の動向を明らかにすることは,当産業全体の立地展開や生産体制の再編の解明の一助になり得るものと考える。
そこで,本稿は医薬品産業の集積地域に所在する中小企業の存立形態の変化を捉えるとともに,それが集積地域の生産動向に与えた影響を検討していく。研究対象地域には,富山県と同様に地場産業としての配置薬生産に起源をもち(根田, 2006),中小企業を中心とする企業の集積がみられる奈良県を取り上げる。
奈良県の医薬品産業に関する研究には,明治期以降の展開過程を経営史の分野より詳述した武知(1995, 2000, 2011)がある。特に,武知(2011)では,近年の動向に関する言及がされており,配置薬を専業に生産する企業が依然存在する一方で,生産品目の多品目化を進める企業がみられることを指摘している。加えて,大手医薬品企業などからの受託製品の生産を主軸とする企業が登場していることも述べられている。
このように,奈良県の医薬品生産企業の生産品目は多品目化しており,その存立形態に変化が生じていることが示唆されている。他方,地理学における地場産業研究においては,企業の存立形態を検討するにあたり生産流通体制の分析が重視されてきた(例えば,立川, 1997; 山本, 2006; 勝又, 2015)。これを踏まえると,企業の存立形態を解明するためには,生産品目の構成に加えて,生産流通体制を明らかにすることが必要であると考えられる。特に,配置薬は特有の形態で流通されるため,企業の生産体制だけでなく流通体制を併せて把握する重要性は高い。加えて,先述した武知(2011)では,企業の存立形態の変化が当地域の医薬品産業全体の生産動向にどのような影響を与えているかという地理学的な議論はなされていないため,本稿ではこの点に関しても議論を展開する。
以上を踏まえて,本稿は奈良県の医薬品産業における企業の生産品目の構成と生産流通体制をもとにその存立形態を明らかにすることを目的とする。そして,それを踏まえて企業の存立形態の変化が当地域の医薬品産業の生産動向に与えた影響について考察していく。
本研究を遂行するにあたり,2014年6月に現地における聞き取り調査を実施した。まず,奈良県の医薬品産業の概況や生産動向に関する聞き取り調査と資料の入手を目的に奈良県製薬協同組合と奈良県庁を訪問した。その後,同組合に加盟する医薬品生産企業8社に対し,生産品目の構成や生産流通体制などに関する半構造化の聞き取り調査を行った。聞き取り調査を実施した企業は,奈良県製薬協同組合の紹介にもとづき選定した。武知(2011)による知見を踏まえて,1)配置薬を専業で生産する企業,2)生産品目の多品目化を進める企業,3)大手医薬品企業などからの受託製品の生産を主軸とする企業が含まれる形で紹介してもらえるように現地への訪問前に同組合に依頼した。本稿では,聞き取り調査を実施した8社のうち,有効な回答が得られた6社を研究対象企業とする。
本稿の構成は以下の通りである。続くIIでは医薬品産業の全国的な生産動向と地域的特徴を概観し,奈良県の位置づけを示す。IIIでは奈良県の医薬品産業の成立過程を追うとともに,生産動向を統計データにより検討する。IVでは研究対象企業の生産品目の構成と生産流通体制をもとに企業の存立形態を分析する。最後のVにおいては,IVまでの議論を踏まえて企業の存立形態の変化が当地域の医薬品産業の生産動向に与えた影響について考察しむすびとする。
なお,先述の通り,医薬品産業には生産や流通に関わる制度が存在しその内容は法改正などにより変化していくが,本稿における制度に関わる記述は現地調査を実施した2014年6月時点のものである。
医薬品は医療用医薬品(以下,医療用薬),一般用医薬品(以下,一般薬),配置薬の3つに分類される。医療用薬は,医療機関での使用薬や医師の指示により処方されるものを指す。一般薬は,薬局やドラッグストアなどで販売され,消費者が自らの判断で使用するものである3)。配置薬は,「先用後利」と呼ばれる特有の形態で流通される。これは,配置販売業者4)が家庭に薬を配置し,消費者が使用した分の代金を後から支払うというものである。配置販売業者は,顧客の情報を記した「得意帳」5)を用いて顧客先を定期的に訪問し,薬の補充・管理や代金の集金などを行う。
医薬品の生産額の内訳(2012年)は,医療用薬が全医薬品の89.8%と大半を占め,一般薬は9.9%,配置用薬は0.4%にしか過ぎない(第1表)。生産の動向をみると,高齢化の進展や医療技術の向上などを背景に全医薬品の生産額は1991年以降増加し続けている。しかし,生産額が一貫して増加しているのは医療用薬のみであり,1991年と2012年を比較すると一般薬と配置薬の生産額は減少している。特に,配置薬の需要はドラッグストアの増加や消費者のライフスタイルの変化などを受け低迷している。また,配置販売員の高齢化や後継者不足も課題となっている。
次に,医薬品生産の地域的特徴をみる。第1図は都道府県別の医薬品生産額(2012年)を示したものである。ここでは,生産額1,000億円以上の都道府県のみを図化した。生産額は埼玉県の7,679億円が最大で,以下静岡県(6,462億円),富山県(6,083億円),大阪府(5,091億円)と続く。生産額が高い都道府県は3大都市圏とその周辺に多く,市場立地型の特徴が見出せる。ただし,富山県はその例外といえ,3大都市圏に近接していないが全国第3位の生産額を示す。先述の通り,同県の医薬品産業は配置薬生産に起源をもつが,現在は大手企業の生産拠点も含めた集積地域となっている。また,詳細は後述するが,2002年の薬事法改正6)により医薬品生産の全面委託が可能となった。これを背景に同県において受託生産が拡大していることも生産額の高さに寄与している(中村, 2008)。他方,本稿が対象とする奈良県の生産額は520億円(全国第32位)であり,全国的には生産額の高い地域とはいえない。
最後に,配置薬生産の地域的特徴を確認する。第2表は配置薬生産額の上位5都道府県を示したものである。なお,資料の制約により2004年のデータを使用する。都道府県別にみると富山県の生産額が最も高く,全生産額の50%以上を占めていた。奈良県は全国第2位の生産額にあったが,その額は富山県の3分の1以下であった。ただし,全医薬品の生産額に占める配置薬の割合をみると,富山県が9.1%であったのに対し,奈良県は27.4%と全体の4分の1以上を配置薬が占めていた。
医薬品の受託生産が拡大すると,こうした配置薬生産の傾向にも変化が生じた。2012年の配置薬生産額をみると,富山県が129.9億円,奈良県が35.8億円と2004年に比べるといずれも減少している7)。ただし,全国に占める割合は富山県が52.6%,奈良県が14.5%と大きな変化はない。一方,両県ともに当該地域の全医薬品に占める配置薬の割合は低下している。2004年と比べると富山県は9.1%から2.1%に,奈良県は27.4%から6.9%に低下した。これは,配置薬生産が減少する中で,医療用薬や一般薬の受託生産が拡大したことが要因として考えられる。奈良県の医薬品産業は,全医薬品の生産額に占める配置薬の割合の高さに特徴があったが,次章で詳述するように受託生産の拡大などにより富山県と同様に配置薬の地位は低下している。
年 | 医療用薬 | 一般薬 | 配置薬 | 全医薬品 | |||
生産額(億円) | 全医薬品に占める割合(%) | 生産額(億円) | 全医薬品に占める割合(%) | 生産額(億円) | 全医薬品に占める割合(%) | 生産額(億円) | |
1991 | 48,122.2 | 84.5 | 8,258.2 | 14.5 | 592.0 | 1.0 | 56,972.4 |
1994 | 48,811.6 | 84.9 | 8,086.8 | 14.1 | 604.9 | 1.1 | 57,503.2 |
1997 | 51,871.4 | 84.4 | 8,921.5 | 14.5 | 685.5 | 1.1 | 61,478.3 |
2000 | 53,763.3 | 87.0 | 7,521.8 | 12.2 | 541.3 | 0.9 | 61,826.3 |
2003 | 54,589.5 | 88.4 | 6,668.7 | 10.8 | 475.6 | 0.8 | 61,733.7 |
2006 | 58,035.8 | 90.1 | 5,992.6 | 9.3 | 352.4 | 0.5 | 64,380.8 |
2009 | 61,742.0 | 90.5 | 6,166.0 | 9.0 | 287.9 | 0.4 | 68,195.9 |
2012 | 62,630.1 | 89.8 | 6,890.2 | 9.9 | 246.8 | 0.4 | 69,767.1 |
薬事工業生産動態統計調査により作成。
生産額1,000億円以上の都道府県のみを示した。
平成24年薬事工業生産動態統計調査により作成。
都道府県 | 配置薬生産額(億円) | 全国に占める割合(%) | 当該地域の全医薬品に占める割合(%) |
富山県 | 231.2 | 52.3 | 9.1 |
奈良県 | 69.2 | 15.6 | 27.4 |
山形県 | 39.2 | 8.9 | 3.9 |
埼玉県 | 31.3 | 7.1 | 0.5 |
三重県 | 25.9 | 5.9 | 1.6 |
滋賀県 | 15.5 | 3.5 | 0.7 |
その他 | 30.0 | 6.8 | - |
全国 | 442.3 | 100.0 | 0.7 |
平成16年薬事工業生産動態統計調査により作成。
まず,奈良県の医薬品産業の成立過程を高取町史編纂委員会(1964),奈良県薬業史編さん審議会(1991),武知(1995, 2000)および奈良県庁の提供資料をもとに説明する。
奈良県の医薬品産業は,原料となる薬草の分布を初期条件に成立した。江戸時代には薬草の栽培や採取が奨励された。特に重要な契機となったのが江戸幕府の採薬使であった植村左平政勝による踏査である。植村は江戸駒場薬園を開設するとともに,各地を訪問し薬草の採取を行った。植村による踏査は1720年から34年間で86回を数えたが,奈良県には6度訪れた。この踏査をきっかけに奈良県においても薬園の開設や再興が進み,江戸中期以降,薬草の産出が大きく拡大した。
また,このような原料基盤に加えて,薬品の頒布組織の存在も重要であった。奈良県では古くから寺院仏閣による施薬・頒薬が行われていた。こうした組織の生産技術が民間に伝わるとともに,施薬・頒薬が次第に販売の形態に拡大した。
このような地域的条件を背景に江戸中期に行商による売薬業が成立し,徐々に配置販売の形態に変化した。これらのほとんどは農閑期を利用した農家の副業的な経営であった。また,配置薬生産の始まりは南葛城郡葛村(現在の御所市)とされており,奈良盆地南西部から吉野北部がその中心的な地域となった。
2014年時点における奈良県製薬協同組合の加盟企業54社の分布をみても,同様の分布傾向を示す(第2図)。市町村別の企業数は橿原市の15社が最多となり,以下御所市(12社)と高取町(10社)が続く。この3市町で全企業数の68.5%を占めており,生産の中心を成している。その他,この3市町に隣接する大和高田市や葛城市,明日香村にも比較的多くの企業が立地している。
奈良県製薬協同組合の提供資料により作成。
第3図は奈良県の医薬品生産企業数と生産額の推移を示したものである。第二次世界大戦期には企業整備により企業は10社に統合されていた(奈良県薬業史編さん審議会, 1991)。第二次世界大戦が終戦すると企業の分離独立が進み,1947年1月には約50社の企業が存在したとされる(武知, 1995)。第3図によると1948年の企業数は91社を数え,その後1950年代半ばまで企業数は増加したことがわかる。
しかし,高度経済成長期になると一転して企業数は減少傾向を示した。これは,戦後復興期に乱立した企業が淘汰されたことに加え,大手医薬品企業の成長による競争の激化が要因として考えられる。また,大阪に近接するため,他産業への就業や労働力の流出も要因の1つであると思われる。一方,生産額は漸増し1960年代後半以降は大きく拡大した。
その後,1976年に実施開始されたGMP(Good Manufacturing Practice)により,当産業は大きな転機を迎える(奈良県薬業史編さん審議会, 1991)。GMPとは医薬品の製造管理および品質管理の基準のことで,高品質の医薬品を製造するために製造設備や製造方法,品質管理などを定めたものである。そして,企業には医薬品の製造・管理の合理化や工場設備・研究機関の充実,人材育成などが求められることとなった。
配置薬生産企業では,中小企業近代化促進法適用の業種指定を受けこれに対応した(奈良県薬業史編さん審議会, 1991)。しかし,小・零細企業を中心にGMPへの対応が困難な場合も多く,廃業や配置販売業者へと転業する企業もあった。また,企業間での協業化や合併などの動きもみられたが,どちらも大きな成果には結びつかなかった(武知, 2011)。このような動きの中で,企業数は1970年代後半から80年代前半にかけて大きく減少した。一方,GMPへの対応により工場の近代化が進んだため生産額は大幅に拡大した。
さらに,1993年の薬事法改正においてGMPの基準が強化され,国際レベルに合致した製造管理が必要となった(武知, 2011)。配置薬生産企業では再び中小企業近代化促進法の指定を受けこれに対応したが,設備投資や人材育成などの負担は大きかった。そのため,バブル経済崩壊の影響もありこの時期においても企業数は大きく減じた。
最後に,近年の生産動向を確認すると2007年以降生産額が大きく拡大している。これは2002年の薬事法改正を反映したものである。この改正は医薬品製造の承認・許可制度を見直したもので,生産委託に関する規定が変更された。薬事法の改正前は生産の一部工程の委託のみが許可されていたが,改正により他社への全面委託が可能となった。これを受けてドラッグストアも自社のプライベート商品を中心に医薬品の生産委託を進めるようになった。そして,こうした制度の変化を背景に,奈良県では大手企業をはじめとする医薬品企業やドラッグストアからの生産委託が増加し,それが配置薬以外の生産額の拡大に寄与している。
配置薬の生産額は1995年をピークに減少し続けており,2012年にはピーク時の34%ほどにまで縮小した。その結果,全医薬品の生産額は増加傾向を示す中で配置薬の占める割合は低下し,医療用薬や一般薬の地位が相対的に高くなっている。
データの制約により1989年以降の企業数は事業所数で代用した。
1974年以前は配置薬と配置薬以外を区分した生産額のデータはなし。
奈良県庁の提供資料および平成26年奈良県薬事年報により作成。
最後に,奈良県の医薬品産業を特徴づける配置薬の生産流通体制を確認しておく(第4図)。
主原料である生薬の供給に関わる主体は大きく1)原料卸,2)原料製造販売業者,3)原料輸入業者の3つに大別される。配置薬生産企業では生薬を原形のまま購入することは少なく,粉末やエキスなどに加工されたものを仕入れるのが一般的である。こうした生薬の加工は原料製造販売業者が行い,加工後の原料を原料卸や配置薬生産企業に供給する。奈良県の配置薬生産企業は中小企業が中心であり,原料の仕入れロットが小さいため原料卸より仕入れることが多い。規模の大きな配置薬生産企業の場合は,原料製造販売業者から直接仕入れることもある。なお,生薬を原形のまま仕入れる場合は,原料輸入業者と取引するか,国内外の生薬産地と直接取引することになる。
生産体制は自社内での一貫生産が基本であるが,配置薬を生産する同業他社との分業もみられる。配置薬生産企業間での分業には2つの形態がある。1つ目は製品間分業である。これは自社で生産しない製品を同業他社に生産委託するものである。2つ目は工程間分業であり,製品の包装やパッケージなどの一部工程を同業他社に外注するものである。なお,このような分業は奈良県内の企業間のみならず,富山県や滋賀県8)など県外の企業との間でも行われる。
製品の流通経路は1)配置薬生産企業が自社で雇用する配置販売員を通じた販売,2)配置薬生産企業外の配置販売業者を通じた販売,3)配置薬生産企業と配置販売業者との間に介在する医薬品卸への販売の3つに大きく分かれる。また,2013年の薬事法改正後は,自社のウェブサイトなどを通じた通信販売を行う配置薬生産企業も登場している。
聞き取り調査により作成。
本稿の研究対象企業は1)配置薬を専業で生産する企業,2)生産品目の多品目化を進める企業,3)大手医薬品企業などからの受託製品の生産を主軸とする企業の3類型に分かれる(第3表)。以下では,1)を「専業型企業」,2)を「多様化型企業」,3)を「受託中心型企業」と呼ぶ。
1つ目の類型の専業型企業にはA社が分類され,生産品目は配置薬のみである。2つ目の多様化型企業に該当するのはB社,C社,D社の3社であり,配置薬に加えて一般薬と医薬部外品や健康食品などの医薬品以外の製品も生産している。3つ目の受託中心型企業にはE社とF社が当てはまる。医療用薬を生産する点が多様化型企業とは異なる特徴であり,両社ともに全生産額に占める医療用薬の割合が半数を超えている。また,医療用薬以外の生産品目も含め,その多くが大手企業をはじめとする医薬品企業やドラッグストアなどからの受託生産によるものとなる。
研究対象企業の創業年はF社を除くといずれも第二次世界大戦前であり,6社中4社は明治期以前の創業となる。従業者数は専業型企業のA社と受託中心型企業のE社,F社で100人を超え,多様化型企業の3社に比べると規模が大きい。従業者規模別にみた奈良県の医薬品生産事業所数(2014年)を確認すると,全68事業所のうち従業者9人以下が27事業所,同10人以上49人以下が29事業所,同50人以上99人以下が6事業所,同100人以上が6事業所となる9)。研究対象企業には従業者が10人を下回るような零細な企業が含まれないことに留意が必要であるが,これらの企業の多くは自社で製薬を行わず同業他社から製品の包装やパッケージなどの一部工程を受注する企業が該当するものと思われる。また,配置販売員を自社で雇用する企業はA社,B社,C社の3社であり,受託中心型企業では雇用されていない。
次節以降では,企業類型ごとに各社の生産品目の構成と生産流通体制を分析し,奈良県の医薬品生産企業の存立形態を明らかにしていく。
企業の類型 | 企業 | 従業者数(人) | 配置販売員数(人) | 資本金額(万円) | 創業年(年) | 生産品目の構成(%) | 受託生産の割合(%) | 本社所在地 | 本社以外の工場数 | ||||||
医療用薬 | 一般薬 | 配置薬 | 医薬品以外 | 医療用薬 | 一般薬 | 配置薬 | 医薬品以外 | ||||||||
専業型 | A社 | 117 | 75 | 4,800 | 1319 | - | 0 | 100 | - | - | - | 0 | - | 御所市 | - |
多様化型 | B社 | 30 | 5 | 1,000 | 1931 | - | 80 | 19 | 1 | - | 13.3 | 26.6 | 35.9 | 高取町 | - |
C社 | 38 | 14 | 3,000 | 1875 | - | 18 | 82 | - | - | 100 | 0 | - | 高取町 | - | |
D社 | 43 | 0 | 1,000 | 1887 | - | 65 | 3 | 32 | - | 0 | 0 | 0 | 田原本町 | - | |
受託中心型 | E社 | 106 | 0 | 4,000 | 1900 | 60~70 | ? | ? | - | 100 | 受託中心 | ? | - | 大和高田市 | 1 |
F社 | 505 | 0 | 30,000 | 1947 | 64 | 23 | 3 | 10 | 97 | 98 | 0 | ? | 橿原市 | 1 |
-は当該生産品目を生産していないことを示す。
?は不明もしくは秘匿であることを示す。
F社の生産品目のデータと本社以外の工場数は生産部門の系列会社を含めたものである。
聞き取り調査により作成。
A社は奈良県の医薬品産業の中で長い歴史を有し,現在では少数となった配置薬を専業で生産する企業である。同社の生産する製品は胃腸薬1品目のみである。従来は自社で様々な製品を生産していたが,1970年代以降,生産効率の悪い製品から生産の絞り込みを進めた。現在は胃腸薬以外の製品の生産は同業他社に委託し,それを自社製品として取り扱っている。
このように,A社は1品目にのみ特化した生産体制をとるが,これを可能にするのが同社の長い歴史に基づく製品のブランド力や品質に対する信頼である。そのため,A社では製品品質を維持するために,良質な原料の確保を重視した生産体制をとっている。先述のように,配置薬生産企業では粉末やエキスなどに加工された生薬を購入するのが一般的である。しかし,A社の場合は原料製造販売業者から生薬を原形の状態で仕入れ,自社で生薬の加工設備を設け,原料の加工を手掛けている。これにより粗悪原料の混合などのリスクを回避し,製品品質の維持を図っている。
また,A社は常に数年分の原料在庫を確保している。これは生薬の品質変化や価格変動に対処するためである。近年では日本への輸出量が減少している原料もあり,その対応が重要な要件となる。また,海外の生薬産地からの直接仕入れはないが,一部の原料は長野県の契約農家からも仕入れている。このように,A社は製品品質の維持を重視した生産体制を構築することにより,生産品目の単一化によるリスクを回避している。
製品の流通体制は一部を自社のウェブサイトを通じて通信販売をしているものの,配置販売がほとんどであり医薬品卸を経ることはない。A社は自社で75人の配置販売員を雇用し(第3表),本社以外にも全国13ヵ所に自社の営業所を配置している10)。ただし,自社による配置販売は全体の20~30%ほどであり,残りは企業外の配置販売業者によるものとなる11)。
3. 多様化型企業まず,B社の生産品目をみると生産額に占める配置薬の割合は19%であり,一般薬の割合が80%と同社の主要生産品目となっていることがわかる(第3表)。配置薬の流通体制は自社雇用の配置販売員を通じた販売と企業外の配置販売業者を通じた販売,医薬品卸への販売という一般的な形態である。
一般薬には同社の自社製品に加えて,医薬品企業やドラッグストアなどからの受託製品が含まれる。ただし,一般薬における受託生産の割合は13.3%であり自社製品の割合が高い。自社製品の一般薬は医薬品卸を通じて販売する場合がほとんどである。
また,B社は配置薬と一般薬の生産にあたり同業他社との分業体制をとっている。具体的には,自社の設備では困難な生産工程や包装,パッケージの一部などを奈良県内の医薬品企業に外注している。その他,一部の量産製品の生産を同業他社に委託するがその委託先は兵庫県の企業である。
C社は配置薬を主要生産品目とし,生産額に占める割合は80%を超える(第3表)。一般薬の割合は18%であり,B社と比べると配置薬と一般薬の割合がほぼ逆転した構成にある。また,配置薬は全て自社製品であるのに対し,一般薬は滋賀県の医薬品企業からの受託製品のみとなる。こうした生産品目の構成を反映し,C社では14人の配置販売員が雇用されている。配置薬の流通体制は上述のB社と同様であるが,自社の配置販売員を通じた販売が約半数を占める。
C社はB社のように同業他社との工程間分業はとらず,自社での一貫生産を基本とする。一方,自社で生産することのできない製品に関しては奈良県と富山県の医薬品企業に生産を委託しており製品間分業はみられる。
最後のD社は3社の中で全生産額に占める配置薬の割合が最も低く3%にしか過ぎない(第3表)。一般薬の割合は65%,医薬部外品や健康食品などの医薬品以外の製品の割合が32%となり,上記の2社に比べるとこれらの割合が高い点が特徴である。医薬品以外の製品は自社による直接販売や医薬品卸を通して流通するほかに,中国や香港,台湾などへの海外輸出もある。
ところで,D社の生産品目は全てが自社製品であり,医薬品企業からの受託生産は受注していない。加えて,同社は工程間,製品間ともに同業他社との分業体制を敷かず,自社製品を全て自社内で生産する体制を整えている。D社は生薬と西洋薬を調合する独自のノウハウにより一般薬を生産することにより,同業他社との差別化を図っている。同業他社との分業体制を構築しないのは,こうした独自のノウハウの流出を防止するためである。D社は配置薬からの生産品目の転換を積極的に進めるとともに,他の医薬品企業からの受託生産に依存しない自立的な生産体制を確立している。
以上のように,生産額に占める配置薬の割合には企業ごとに差異がみられる。各社の生産体制をみると,配置薬から一般薬や医薬部外品への生産品目の転換を進める企業では工程間・製品間ともに同業他社との分業体制を形成せず,自社での一貫生産をとるようになっている。他方,いずれの企業も大手企業をはじめとする医薬品企業やドラッグストアからの受託生産の割合が高くない点は共通している。
4. 受託中心型企業E社は従業者数100人以上を擁し,奈良県の医薬品産業の中で規模の大きな企業である(第3表)。主要生産品目は医療用薬として使用される漢方薬であり,その全てが大手企業を中心とする医薬品企業からの受託生産となっている。また,同社の生産する一般薬も同業他社やドラッグストアからの受託生産が中心である。少数ではあるが配置薬の生産も続けており,こちらは企業外の配置販売業者を通じて販売される。
同社は大和高田市の本社工場のほかに五條市に分工場を有する。ただし,分工場は素材研究や試作開発を主な業務としており,医薬品の生産は行われていない。医薬品は本社工場で全て一貫生産し,同業他社との工程間・製品間の分業体制は形成されていない。これは同社の生産品目の大半が受託生産であることを反映したものである。
F社は500人以上の従業者を有し,奈良県の医薬品産業で最大規模の企業である(第3表)。同社もE社と同様に,医療用薬を主要生産品目とする。一般薬も含め同社の生産品目のほとんどが受託生産により占められる点も共通している。なお,同社が生産する医療用薬と一般薬はカプセル剤が中心となる。生産額に占める割合はわずかであるが,配置薬の生産も残っている。
第5図はF社の生産流通体制を示したものである。医療用薬と一般薬はE社と同じく受託生産が中心であるため,自社での一貫生産が基本である。他方,配置薬はロット数の少ない製品の生産を同業他社に委託することがある。また,医薬部外品や健康食品などはF社の系列会社が生産と流通を担っている。
製品の流通体制に目を向けると,受託生産分の医療用薬と一般薬は委託元企業やドラッグストアに供給する。受託生産以外の医療用薬は医薬品卸,一般薬は販売部門の系列会社2社を介した流通体制をとる。一方,配置薬の販売はほとんどが販売部門の系列会社2社を通じたものである。
聞き取り調査により作成。
本稿では,奈良県の医薬品産業における企業の存立形態を明らかにした。具体的には,先行研究の知見をもとに1)専業型企業,2)多様化型企業,3)受託中心型企業という3つの類型の企業を研究対象企業に設定し,生産品目の構成と生産流通体制の分析を通じてその存立形態を検討した。最後にここまでの議論を踏まえて,企業の存立形態の変化が当地域の医薬品産業の生産動向に与えた影響について考察しむすびにかえる。
専業型企業は配置薬を専業で生産する企業である。事例に取り上げたA社は1品目にのみに特化した生産品目構成を示している。これは同社の長い歴史に基づく製品のブランド力や品質に対する信頼により可能となっている。生産体制の特徴としては,製品品質の維持を目的に良質な原料の確保を重視する点があげられる。これにより,粗悪原料の混合など生産品目の単一化によるリスクを回避している。なお,配置販売業者通じた流通体制を依然主体としており従来の形態から大きな変化はない。
このように,当地域の医薬品産業の起源である配置薬生産を専業とする企業は依然みられる。ただし,当地域の配置薬の生産額は1990年代半ば以降減少の一途にある。それゆえ,配置薬生産を専業とする企業は少数となっており,A社のような配置薬生産の有力企業のみが専業型企業として存立し続けている。
これに対して,多様化型企業は配置薬だけでなく,一般薬や医薬部外品,健康食品などの医薬品以外の製品も生産する企業を指す。研究対象企業のうち3社が該当するが,各社の生産額に占める配置薬生産の割合には企業ごとに差異が認められる。これを生産体制との関わりでみると,配置薬からの生産品目の転換を積極的に進めている企業では工程間・製品間ともに同業他社との分業体制を敷かずに,自社での一貫生産体制をとっている点が特徴である。ただし,いずれの企業も大手企業をはじめとする医薬品企業やドラッグストアからの受託生産の割合が高くない点は共通しており,独自のノウハウにもとづく生産を重視し受託生産を受注しない企業もみられる。
そして,受託中心型企業は生産品目の大半が大手企業などの医薬品企業やドラッグストアからの受託生産により占められる企業が該当する。こうした受託生産は2002年の薬事法改正を契機に増加したものである。当類型の企業は奈良県の医薬品産業の中では規模の大きな企業であり,医療用薬を主要生産品目とする点に特徴がある。また,他の医薬品企業やドラッグストアからの受託生産を主軸とするため,同業他社との工程間・製品間分業を形成せずに自社での一貫生産を基調とする生産体制を構築している。
以上の通り,奈良県の医薬品生産企業には存立形態の変化が認められる。そして,これにともない当地域では全医薬品の生産額に占める配置薬の割合が低下する一方で,医療用薬や一般薬,医薬部外品,健康食品などへの生産品目の多品目化が進んでいる。その結果,当地域の全医薬品の生産額は2000年代半ば以降も増加傾向にある。特に,受託生産の増加が生産額の拡大に大きく寄与しており,戸田(2015)の指摘した当産業をめぐる環境変化の1つである医薬品の製造委受託の自由化の影響を多大に受けていることが示された。他方,専業型企業と多様化型企業は,医薬品のもつ多種多様性という製品特性(川端, 1981)を反映し,大手企業との生産品目の棲み分けを図ることにより存立し続けている。
ただし,多様化型企業の一部や受託中心型企業のような配置薬生産の割合が低い企業では,同業他社間での生産をめぐる分業は限定的となっている。そのため,配置薬生産の減少は地域内における企業間分業の減少にもつながっており,企業が奈良県に集積するメリットは低下している。さらに,受託生産の増加は大手企業をはじめとする他の医薬品企業やドラッグストアの生産流通体制の一部に組み込まれることを意味する。それゆえ,受託生産の拡大は当地域における医薬品の生産額の増加に結びついているものの,受託中心型企業は受託元企業による生産のグローバル化の推進や当産業をめぐる制度の変化などの影響を受けやすい存立形態にあるといえる。
本稿の作成にあたり聞き取り調査や資料の提供などにご協力いただきました医薬品企業,奈良県製薬協同組合,奈良県庁,富山県庁の皆様に感謝申し上げます。また,調査実施当時にご指導いただきました先生方に御礼申し上げます。
本稿の内容は2015年度地理科学学会春季学術大会(広島大学)にて口頭発表した。
(2021年10月13日受付,2023年3月15日受理)
1) これら4つの製品特性に加えて,高品質性,軽量高価格性という特性もあげられる(川端, 1981)。
2) その他,日本の医薬品産業を事例とした研究以外にヨーロッパにおける医薬品の流通とその変化を検討した中村(2020)がある。
3) OTC(Over The Counter)医薬品とも呼ばれる(長尾, 2009)。
4) 配置販売業者には大きく個人業者と法人業者がある。
5) 「得意帳」は奈良県における呼称であり,富山県では「掛場帳」と呼ばれる(柳井, 2006)。
6) 改正後の薬事法の施行は2005年である。
7) 富山県庁の提供資料と平成26年奈良県薬事年報による。
8) 滋賀県も奈良県や富山県と同様に,地場産業として配置薬生産が成立した地域である。
9) 平成28年奈良県薬事年報による。
10) 自社の営業所の所在地は秋田県2ヵ所,福島県1ヵ所,新潟県1ヵ所,静岡県2ヵ所,岐阜県1ヵ所,三重県1ヵ所,奈良県1ヵ所,岡山県1ヵ所,広島県1ヵ所,島根県1ヵ所,福岡県1ヵ所である。
11) A社の製品を取り扱う配置販売業者は全国に約180社ある。