2026 Volume 34 Issue 2 Pages 1-9
In Japan, Japanese oak wilt has caused widespread and long-term damage, prompting growing attention toward remote sensing technologies for its detection. This study proposes a method for detecting Japanese oak wilt damage through time-series analysis of Sentinel-2 satellite imagery. We analyzed the phenological changes of vegetation indices (NDGI, NDVI, and NWI) in northern Awaji Island, Japan, during the severe 2020 outbreak, using a Random Forest classifier trained with phenology-based features. Detection performance varied with the label definition, and it was maximized when a lower dead tree area threshold (1%) was used for training labels, suggesting that low within-pixel damage signals are informative. The proposed time-series approach substantially reduced false positives relative to a single-date analysis, thereby improving precision. These findings highlight the high potential of our approach for wide-area screening of oak wilt damage.
日本では,カシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)の樹木への集中加害とその随伴菌Raffaelea quercivoriaにより生じるナラ・シイ・カシ類の集団枯損(ブナ科樹木萎凋病:以下,ナラ枯れ)が広域的・長期的に発生している(永井ほか,2021).ナラ枯れは夏季に急速な枯損が進行することが多く,落枝・倒木等による社会インフラのリスク増大に加え,生態系や林業・木材産業への影響も大きい.
被害状況の把握には現地での毎木調査が用いられてきたが,広域での実施には多大な人的・時間的コストを要し,急峻地での作業等の危険も伴う.このため近年では,ドローンや航空機,人工衛星等を用いたリモートセンシングによる広域モニタリング技術が注目されている.
木下ほか(2013)では,12 cm解像度の航空写真から正規化植生指標(Normalized Difference Vegetation Index:NDVI)に代表される植生指標を用いて画像解析をしたところ,閾値を設けることで枯死木の抽出に有効であり,人が踏査できない場所や,被害初期の広域調査に有用であると報告している.アジア航測(2023)では,1.5 m解像度のSPOTおよび50 cm解像度のPléiadesの衛星データからナラ枯れ発生前後のNDVI差分を算出し,マルチレベルスライス法による被害領域の自動抽出を行った.その結果,評価地点において98.75%の一致率でナラ枯れ被害域を抽出することができ,高解像度衛星画像の有用性を示した.永井ほか(2021)では,東京都に位置する自然教育園において発生したナラ枯れ枯死木に対してSentinel-2データからNDVIを求め,枯死木が含まれるピクセルの値を確認したところ,ナラ枯れ個体では0.6~0.8程度の値をとったとしている.この結果は,健全木が樹冠形成期におけるNDVI値の範囲:0.75~0.90(Nagai et al., 2010)と部分的に重複している.したがって,Sentinel-2の単一画像から求めたNDVIのみを用いて,ナラ枯れ個体を正確に抽出することは困難であると考えられる.
海外においても,ナラ枯れと類似した病害による樹木の集団枯損を検出する研究が行われている.Sebastiani et al.(2024)は,イタリアにおいてクリ林およびコルクガシ林に発生するink diseaseを対象に,Sentinel-1,Sentinel-2,PlanetScopeの衛星データから複数の指標を作成し,Random Forestによる学習を行うことで健全木と被害木を分類した.その結果,重症度の細分は難しい一方で,健全木と被害木の二値分類では約74%の正解率を得た.Guzmán et al.(2023)は,アメリカにおいてナラ類やカシ類に発生するoak wiltを対象にSentinel-2データからクロロフィル/カロテノイド指標(Chlorophyll/Carotenoid Index:CCI)の時系列的な変化特性に注目し,機械学習を行うことで健全木・被害木・枯死木を分類した.その結果,三値分類において80~82%の正解率で識別可能であることを示し,特定時期の分析では捉えにくい病害の進行を時系列的に分析することの有効性を示唆する.
以上より,日本のナラ枯れに対するリモートセンシングからのアプローチでは航空写真や高解像度商用衛星に基づく事例が蓄積されつつある一方,無償かつ高頻度に取得可能なSentinel-2データを用いた広域・継続的モニタリング手法の確立は十分とは言えない.それに対して,海外ではSentinel-2データを用いた病害被害木の検出事例が報告されているものの,枯損に至るプロセスがナラ枯れと異なる点に留意が必要である.例えば,oak wilt被害木では,葉の変色に加えて葉柄基部の離層に作用することで落葉が生じることが多いとされる(TeBeest, D. O., et al., 1973).一方で,ナラ枯れ被害木では,葉の褐変後に離層が形成されないため落葉が少ないと報告されている(岡山県,2025).したがって,両者では時系列的な樹冠状態状態の変化やスペクトル的な応答が異なる可能性があるため,Sentinel-2データを用いたナラ枯れ被害木抽出手法を検証する意義は大きいと考えた.
そこで本研究では,ナラ枯れ特有の季節変化に着目し,Sentinel-2データの時系列解析による被害木検出手法の有効性を検証する.本研究の目的は,オープンデータを用いて広域の被害状況を把握し,航空機や高解像度衛星による詳細調査への橋渡しとなる一次スクリーニング手法を確立することにある.ただし,ここではその初期段階の検証として,高解像度画像を用いて参照データを作成し,Sentinel-2データ単独の特徴量から枯死木の疑いがある地点をどの程度の精度で抽出可能か検証する.将来的には,コスト等の制約がある高解像度画像を前提とせず,Sentinel-2データのみで稼働するモデルの構築を目指している.本手法の確立によって,広域かつ継続的なモニタリングや翌春の防除対策等の意思決定に資することが期待される.
澤田・藤原(2019, 2024)の報告により,2020年にナラ枯れ被害が顕著に表れた兵庫県淡路島北部の広葉樹二次林(藤木,2017)を研究対象とした.図1に示す赤色の枠で囲まれた範囲の約3.11 km2(南北2,329 m,東西1,336 m)をモデルの学習に使用し,黄色の枠で囲まれた5つの範囲にモデルを適用して評価指標を算出する.学習領域と評価領域を分離することで,未学習領域に対する汎化性能を評価することを目的とする.

2.2 衛星データ
分析対象とする衛星データはSentinel-2のL2Aプロダクトを用いた.2020年の1年間を通した時系列的な分析を行うために,対象領域に雲がかからない19シーンをSCL(Scene Classification Layer)を参照して選定した(表1).Sentinel-2は欧州宇宙機関(European Space Agency:ESA)が打ち上げた光学衛星であり,観測結果のマルチスペクトル画像を5日の周期で無償で提供している.本研究では,空間分解能10 mであるGreen(バンド3),Red(バンド4),Near-Infrared(NIR)(バンド8)の波長帯を用いて,ナラ枯れに反応すると報告されているNormalized Difference Greenness Index(NDGI),Normalized Difference Vegetation Index(NDVI),およびNormalized Wilt Index(NWI)の指標を算出した(宇都ほか,2010).各指標はそれぞれ(1)~(3)で定義される.
| \[ NDGI = ( Green - Red )/( Green + Red ) \tag{1}\] |
| \[ NDVI = ( NIR - Red )/( NIR + Red ) \tag{2}\] |
| \[ NWI = - NDGI \times ( NDVI + NDGI ) \tag{3}\] |
これらのデータはSTAC APIを介してRegistry of Open Data on AWSからダウンロードした.また,L2AプロダクトはESAによって大気補正やオルソ補正等の高次処理が行われているため,追加の補正は行わず対象地域を切り出したものを使用した.座標系はWGS 84/UTM zone 53N(EPSG:32653)を用いた.
2.3 参照データ参照データとして,2020年8月27日を撮影した地上分解能50 cmのPléiades衛星画像を用いた.
QGISを用いてこの衛星画像を目視判読し,枯死木ポリゴンと,分析対象外とする水域や人工物等のマスク領域のポリゴンをそれぞれ作成した.
本研究では,参照データから正解ラベルを作成して機械学習モデルを各植生指標ごとに構築し,対象地域内の森林を枯死木と生存木に分類することを目的とした.
衛星データの前処理として,取得した19シーンに対して(1)~(3)式を適用し,それぞれの植生指標を算出した.ここで衛星データの撮影日に関して,時系列解析簡便のためMM/DD表記からDOY(Day of Year)表記に変更した.また,取得したSentinel-2データは,雲被覆や回帰日数等の影響により撮影間隔が不均一であるため,Frantz et al.(2022)の手法に基づき等間隔時系列に整形した.補間間隔は,雲の影響を受けない有効な観測が19シーンであること,およびナラ枯れが数週間のスケールで進行することを踏まえ,月次より細かく,かつ過補間を避けるために16日を採用した.補間には,補間対象日に時間的距離が近い観測値ほど大きな重みをもつように(4)式に示すガウス関数で設定し,その重み付き平均を算出する手法を適用した.
| \[ w_{t} = \frac{1}{\sigma\cdot\sqrt{2\pi}}\cdot \mathrm{exp}\left(-0.5\cdot \left(\frac{\triangle t}{\sigma} \right) \right)^{2} \tag{4}\] |
ここで,tは観測日,Δtは補間対象日からの日数間隔,σはパラメータ(本研究では16)である.
続いて,参照データを衛星画像の空間分解能(10 m)と整合させるために100 m四方の格子データを作成した.この格子データと参照データを重ね合わせ,各格子における枯死木ポリゴンの占有率(格子面積に対する交差面積割合)を算出した.本研究では,正解ラベルの定義がモデル性能に与える影響を検証するため,枯死木に分類する閾値を1%以上,5%以上,10%以上の3条件に設定し,それぞれ独立に学習・評価用のデータセットを作成した.各条件において,マスク領域の面積割合が10%以上の格子を「マスク」として除外し,それ以外で閾値を満たす格子を「枯死木」,満たさない格子を「生存木」とした.そして,各格子に対応する衛星データを時系列に格納することで,NDGI,NDVI,NWIそれぞれのデータセットを作成した.
最後に,学習データセット(Training)および検証データセット(Test 1~5)を準備した.学習データセットについて,全31,222グリッドからマスク2,525グリッドを除去した後,各閾値条件(1%,5%,10%)ごとに「枯死木」および「生存木」グリッドを確定した.そのうえでクラス不均衡を是正するため,各条件ごとにアンダーサンプリングを行い,多数派の「生存木」から少数派の「枯死木」と同数になるよう無作為抽出して学習に用いた.各条件におけるグリッド数の分類を表2に示す.
3.2 分類学習
本研究では分類アルゴリズムとして,決定木に基づくアンサンブル学習手法であるランダムフォレスト(Random Forest)を用いた.ナラ枯れは生存木と比較して葉の萎凋・褐変が早期に進行する.そのため,植生指標の年間時系列は,ピーク時期の前後関係や生育・衰退期の持続期間などの点で曲線形状に顕著な差異が生じる.そこで本研究では,この季節変化を捉えるため,基本統計量である平均値と標準偏差に加え,曲線形状,期間,ピーク後の変化率に基づく特徴量群を表3のように定めた.ただし,Guzmán et al.(2023)を参考に,年間植生指標の総和の15%を取るDOYを植生活動の開始日,85%を取るDOYを植生活動の終了日とし,それぞれt15, t85とする.また,指標がピークを取るDOYをtpeakとする.
モデルの実装はPythonのscikit-learnライブラリで行い,ハイパーパラメータはrandom_stateを42とし,そのほかはデフォルト値を採用した.作成したモデルの精度は(5)~(8)式に示す適合率(Precision),再現率(Recall),正解率(Accuracy),およびF1-scoreを用いて評価した.
| \[ Precision = \frac{TP}{TP + FP} \tag{5}\] |
| \[ Recall = \frac{TP}{TP + FN} \tag{6}\] |
| \[ Accuracy = \frac{TP + TN}{TP + FP + FN + TN} \tag{7}\] |
| \[ F1 ~ score = \frac{2 \times Precision \times Recall}{Precision + Recall} \tag{8}\] |
ここで,TPは参照データとモデルによる検出結果がともに枯死木であるグリッドの数(真陽性:True Positive),FPは参照データが生存木であるにも関わらずモデルが枯死木と検知したグリッドの数(偽陽性:False Positive),FNは参照データが枯死木であるにもかかわらずモデルが生存木と検知したグリッドの数(偽陰性:False Negative),TNは参照データとモデルによる検出結果がともに生存木であるグリッドの数(真陰性:True Negative)である.
3.3 単一時期画像解析提案手法との比較検証のため,単一時期の植生指標を用いた閾値処理による枯死木抽出を行った.評価条件を統一するため,学習・検証領域の分割は前節3.1と同様とし,学習用領域を用いて最適な閾値を決定した後,その閾値を検証用領域に適用することで汎化性能を評価した.
閾値決定の客観性を担保するため,本研究では受信者動作特性曲線(Receiver Operating Characteristic curve:ROC曲線)を用いた分析を行った.ROC曲線は,閾値を連続的に変化させた際の真陽性率(True Positive Rate:TPR)を縦軸に,偽陽性率(False Positive Rate:FPR)を横軸に取ったものである.本分析では,学習領域における正解ラベル(枯死木,生存木)と植生指標の値を用いてROC曲線を算出し,YoudenのJ統計量が最大となる点を最適な閾値として採用した(Fluss et al., 2005).YoudenのJ統計量は(9)式で定義される.
| \[ J = TPR - FPR = TPR + TNR -1 \tag{9}\] |
ここで,TNRは真陰性率(True Negative Rate:TNR)である.Jが最大となる点は,真陽性率と真陰性率の和が最大となる点であり,両クラスの誤分類リスクを最小化する閾値に相当する.
決定された閾値を検証用領域に適用し,得られた分類結果と正解ラベルの比較から,提案手法と同様に適合率,再現率等の評価指標を算出し,定量的な比較を行った.
図2は,学習領域内の生存木と枯死木の各クラスから無作為に抽出した100グリッドにおける,NDGI,NDVI,NWIの平均的な時系列推移を示すものである.いずれの指標においても,DOY193(7月11日)付近を境として両クラスの推移に明確な差異が生じ,枯死木ではピーク後の低下が急速に進行した.加えて,生存木では年初と同程度の値へ収束する一方で,枯死木では年末にかけて低下傾向が継続することが確認された.
これらの差異はナラ枯れの季節的特性を反映していると考えられる.ナラ枯れは夏季に被害が顕在化し,被害木では健全木の通常の紅葉期より早期に萎凋・褐変が進行するため,植生指標のピーク後に急速な低下が生じる.また,冬季において枯死木の値が低下傾向を継続した点については,枯死木では褐変・枯死葉の残存等により反射特性が健全木と異なる可能性,ならびに健全木の落葉後に下層や林床における常緑植生の寄与増大など,複数の要因が考えられる.本結果は,ナラ枯れに伴う早期の生理・形態変化がSentinel-2データ上でスペクトル特性の差異として捉えられた可能性を示唆する.

4.2 分類モデルの学習結果
表4に,学習用領域で構築した各モデルを検証用領域に適用した際の枯死木抽出における評価指標を示す.なお,表には比較のために単一時期画像解析の結果も併記しているが,これについては次節4.4で言及し,本節では時系列モデルの指標間およびラベル条件間の比較に焦点を当てる.
まず,全体的な傾向として,いずれの条件においてもAccuracyは0.87~0.92と高い値を示した.しかし,本研究の対象地のような森林では,多数を占める生存木に対して枯死木が少ないというクラス不均衡が存在する.そのため,すべてを「生存木」と予測しても見かけのAccuracyは高くなることから,参考程度に留める.そこで,枯死木検出性能を評価するため,以下ではPrecision,Recall,およびその調和平均であるF1-scoreに基づいて議論を行う.
植生指標ごとの結果を比較すると,NDGIとNWIを用いたモデルはF1-scoreが最大で0.75に達し,同程度の良好な精度を示した.一方,NDVIを用いたモデルはF1-scoreが最大0.67に留まった.この要因として,植生に対する各指標の反応性の差異が挙げられる.図2の時系列推移において確認されたように,NDGIとNWIでは年間を通した変動幅が大きいことから,ナラ枯れ進行に伴う枯死木と生存木の乖離が明確であった.対してNDVIは,年間を通して0.7~0.9という高い値の範囲で推移しており,生存木との差異が相対的に小さかった.その結果,NDVIモデルでは生存木を枯死木と誤検知するケースが増加し,Precisionが0.57(1%条件)と低迷したことが総合的な精度低下につながったと考えられる.
次に,学習データ作成時の枯死木ラベルの閾値条件(1%,5%,10%)が精度に与える影響について考察する.表2より,いずれの植生指標においても,閾値を10%から1%へと小さくすることでF1-scoreが向上する傾向が確認された.そして,閾値を10%に高く設定するほどPrecisionが顕著に低下している点に注目する.例えば,NWIでは,1%条件でのPrecisionが0.67であることに対し,10%条件では0.49まで低下している.
この要因として,Sentinel-2画像の空間分解能と枯死木形状の関係が挙げられる.ナラ枯れは単木的な発生から集団枯損まで及ぶため,10 mグリッド内の枯死木面積率は一様ではない.特に被害周縁部などでは1グリッド内に枯死木と生存木が混在しており,リモートセンシングにおいてこのような画素はミクセルと呼ばれる(北本,高木,1996).ミクセルにおいては,枯死木と生存木の分光特性が混在して観測されるが,本結果よりナラ枯れ特有の急速な褐変は,面積割合が小さくとも画素のスペクトルに有意な変化をもたらすことが推測される.ここで,ラベル分類の閾値を10%などの高い値に設定すると,スペクトル特性は枯死木の特徴を示しているにもかかわらず,ラベルは「生存木」と定義されるグリッドが生じてしまう.このようなスペクトルとラベルの不整合が学習時のノイズとなり誤検知の増加(Precisionの低下)を招いたと考えられる.以上の結果は,Sentinel-2データを用いたナラ枯れ検知において,ミクセルに含まれる微弱な枯死木の特徴を「枯死木」として学習させることが全体の分類精度向上に寄与することを示唆している.
4.3 特徴量重要度前節の結果より,いずれの指標においても枯死木ラベルの閾値を1%とした場合に最も高い分類精度が得られることが明らかになった.そこで本節では,1%条件における各学習モデルの特徴量重要度を比較し,各植生指標がナラ枯れのどのような時系列的特徴を捉えて分類を行っているかを考察する.図3に各指標における特徴量重要度の算出結果を示す.

まず,いずれの指標においてもdecline_slopeが最も高い重要度(0.31~0.34)を示した.これは,健全木が秋季に比較的穏やかな紅葉・落葉することに対し,ナラ枯れ枯死木では夏季を中心に短期間で枯損が進行するという挙動の差異が,時系列における指標の急激な低下として反映されたためと考えられる.したがって,指標の種類にかかわらず,指標の変化速度がナラ枯れ抽出における主要な情報であることが示唆された.
次に,NDGIとNWIでは特徴量の重要度順位が概ね一致していることから,分類に寄与する情報は類似している.両指標とも,decline_slopeに続いてstd(NDGI:0.22, NWI:0.18)やauc_total(NDGI:0.16, NWI:0.19)が一定の寄与を示した.これらは,衰退の激しさに加えて,枯損前後の変動幅および枯損後における推移の差異が補助的な識別情報として用いられたことを示す.
これらに対し,NDVIは他の2つの指標と異なる重要度の分布を示した.NDVIでは,std(0.14)およびauc_total(0.12)の寄与がNDGI・NWIより相対的に小さい一方,doy_of_peakの重要度が0.14と,他の2指標(0.07)より大きかった.これは,NDVIでは時系列の変動幅が相対的に小さく,枯死に伴う差異が変化量として表れにくいた,モデルが枯死の進行時期を相対的に重視した可能性を示唆する.
4.4 単一時期画像分析との比較本節では,提案手法である時系列データを用いた機械学習モデルの有効性を検証するため,単一時期の植生指標を用いた閾値処理による抽出結果と比較を行う.比較対象とする単一時期画像には,参照データの作成に用いた高解像度衛星画像の撮影日(8月27日)に最も近く,かつ図2の時系列推移において生存木と枯死木のスペクトル差異が顕著であった8月26日(DOY239)の観測データを選定した.また,正解ラベルの定義には,前節で最も良好な結果を示した「グリッドに占める枯死木占有率1%以上」の条件を適用した.表4のsingleに単一時期画像解析の結果を,ThresholdにYoudenのJ統計量に基づき決定された最適閾値を示す.
表4の結果より,NDGI,NDVI,NWIのいずれの指標においても,単一時期画像解析と比較して時系列解析のF1-scoreが高い値を示した.その内訳に着目すると,Recallの向上はわずかであった一方で,Precisionにおいては顕著な向上が確認された.具体的には,NDGIではPrecisionが0.51から0.67へ,NDVIでは0.36から0.57へ,NWIでは0.50から0.67へと大幅に上昇した.
このような単一時期画像解析と時系列解析の差異は,ミクセルに起因する不確実性への対応力の違いによるものと考えられる.ミクセルでは,枯死木の寄与が画素内の一部にとどまるため,指標値は「生存木に近い値」から「枯死に近い値」まで連続的に分布し得る.このような状況下の単一時期画像解析では,樹冠構造の差異や個体差,観測条件等に伴うわずかな指標値の変動によって誤分類が生じやすいと考えられる.これに対し時系列解析では,decline_slopeに代表される変化過程を利用することができるため,一時的な変動や観測条件に起因するノイズの影響を抑制しつつ,安定的な抽出が可能になったと解釈できる.
4.5 モデルの適用本節では,構築した学習モデルを検証用領域(Test 1~5)に適用し,検出結果の空間分布および検証領域ごとの評価指標について検証する.適用モデルには,代表としてNDGI(閾値1%条件)を用いた.図4に,参照データ作成に用いたPléiadesトゥルーカラー画像,2020年8月26日観測のSentinel-2データより算出したNDGI,および時系列解析と単一時期画像解析による抽出結果を示す.また,表5に各検証領域における評価指標を示す.

表5の評価指標に基づき領域ごとの特性を確認する.時系列解析(Time-series)のF1-scoreに着目すると,Test 2やTest 4では約0.80と高い精度が得られた一方で,Test 1やTest 5では0.68~0.71と相対的に低い値に留まった.この精度のばらつきは,主にPrecisionの低下に起因している.Test 1とTest 5のPrecisionはそれぞれ0.61,0.62であり,他領域と比較してFPが多く発生したことを示している.エリア間の差異は,枯死木の空間的形状やマスク領域,地形,観測条件等の影響が複合的に関与した可能性があり,詳細な要因分析は今後の検討課題である.しかしながら,単一時期画像解析(Single-date)との比較においては,すべての検証領域で時系列解析の優位性が確認された.特に,Test 5では単一時期解析のPrecisionが0.37と極めて低かったが,時系列解析によって0.62へと顕著に改善された.
次に,図4の空間分布図を用いて,両手法の定性的な差異を考察する.単一時期画像解析(Single-date analysis)の結果では,Test 2の左上部やTest 3の右側中段に見られるように,FPが局所的に集中して大規模な塊として検出される傾向が確認された.さらに,Test 4の道路沿いやTest 5の造成地周辺など,マスク領域との境界部分においてFPが多発している.本研究では,非植生地表面をマスク領域として除外しているが,道路や造成地等の人工被覆は高い反射特性を示す場合が多いため,マスク外の隣接画素にもこの反射成分が取り込まれ得る.その結果,単一時期画像解析ではマスク領域に隣接しているグリッドにおいてFPが増加した可能性がある.
また,Sentinel-2データから算出したNDGI画像を確認すると,Test 2,Test 4,Test 5においてデータの欠損を示す白色ピクセルが確認された.Sentinel-2データではこのような欠損が散見されるため,単一時期画像のみを用いた解析は,欠損やその周辺のノイズの影響を直接受けやすく,分類精度が不安定になるリスクがある.
時系列解析(Time-series analysis)における抽出結果の空間分布を確認すると,単一時期画像解析の空間分布に比べて孤立したFPやFNが減少し,集団枯損している領域の周縁部や近傍に局在する傾向がみられる.
この要因の一つとして,参照データの作成時期とナラ枯れ進行のずれが挙げられる.本研究の正解ラベルは8月27日撮影の高解像度衛星画像に基づいているが,ナラ枯れによる褐変は9月以降も継続して進行する.時系列解析モデルは,8月27日以降を含む年間のスペクトル変化を利用して学習を行っているため,参照データの撮影時点では「生存木」と判定されていたものの,それ以降に被害が進行した樹木を「枯死木」として検出している可能性がある.
本来であれば,ナラ枯れの収束時期にあたる9月~10月の高解像度画像も加えて正解データを補正・検証することが望ましいが,本対象地において,アーカイブの取得条件等の制約により実施できなかった.しかしながら,被害進行の途中段階である8月27日時点のデータによる検証においても高いF1-scoreが得られたことは,本モデルがナラ枯れに伴う主要なスペクトル変化を一定以上適切に学習していると考えられる.
本研究では,Sentinel-2衛星データを用いた時系列解析により,広域かつ高精度なナラ枯れ被害木の抽出手法を構築することを目的とした.具体的には,枯死木ラベルの定義(面積割合閾値)および複数の植生指標(NDGI,NDVI,NWI)が機械学習モデルの分類精度に与える影響を検証するとともに,従来手法である単一時期画像解析との比較を通して,提案手法の有効性を評価した.本研究で得られた主な知見は以下のとおりである.
第一に,学習データの作成において,各グリッド内の枯死木面積割合の閾値を1%まで緩和することがモデルの検出精度向上に寄与することを明らかにした.10 m分解能の衛星画像において,ナラ枯れ被害の多くは生存木とのミクセル(混合画素)として観測される.閾値を厳しく設定することは,スペクトル上枯死の特徴を含んだグリッドを生存木として学習させることにつながるため,微細な枯死のシグナルを許容する1%条件が中分解能データを用いた機械学習において有効であることが示唆された.
第二に,植生指標の選定と時系列特徴に関する知見である.NDGIおよびNWIを用いたモデルは,NDVIを用いたモデルよりも高いF1-scoreを示した.特徴量重要度の分析からは,ナラ枯れ特有の急激な褐変やしおれを反映するdecline_slopeが最も支配的な特徴量であることが確認された.
第三に,単一時期画像解析との比較により,時系列解析手法の有効性を実証した.単一時期の指標値のみを用いた閾値処理では,ミクセルやその他ノイズによる影響を受け多くの誤検知が生じた.これに対し,提案手法である時系列解析では一年を通した指標の変化パターンを学習することで,ノイズの影響を抑制しPrecisionを大幅に改善させた.
以上より,オープンデータであるSentinel-2データを用いた本手法は,広域な被害状況を一定の精度でスクリーニングし,詳細調査への橋渡しとして有用である可能性が示された.今後の課題として,ミクセル内における枯死木占有率や配置がスペクトル応答に与える影響のより詳細な定量化が挙げられる.また,参照データとナラ枯れ被害の進行におけるタイムラグを考慮するため,複数時期の高解像度画像を用いた検証や,他地域・多年度への適用による汎化性能のさらなる評価が求められる.
本研究はJSPS科研費25K04614の助成を受けたものである.また2名の査読者による貴重なご意見は本論文の改善に大いに役立った.ここに記して謝意を表したい.