THINK Lobby Journal
Online ISSN : 2758-6162
Print ISSN : 2758-593X
Report
The Role of Corporations for a Just Society
- Corporate Social Justice (CSJ) Project Report
Yuka YAMAGUCHI
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 1 Pages 67-69

Details

THINK Lobby内に発足したコーポレート・ソーシャル・ジャスティス(CSJ)プロジェクトは、当初コーポレート・ソーシャル・ジャスティス・ベンチマーク(CSJB)プロジェクトという名前で始まった。THINK Lobbyの中で中心となるプロジェクトのひとつであり、活動のテーマは「ビジネスと社会正義」だ。

国際人権基準などの「国際規範」を推進するためには、市民が市民社会スペースの中で意思決定に参加できる公正な社会を構築することが非常に重要であり、CSJプロジェクトは、市民社会を含むステークホルダーとの協働に積極的な企業とのつながりを重視し、協働を発展させていく。

企業との協働をテーマに掲げたのは、企業が公正な社会を実現するために重要な役割を担うからであり、同時に企業にとっても、公正な社会は、安定した事業活動の基盤になるからである。

本プロジェクトは、THINK Lobbyの調査研究部門の一部であり、外部のリサーチャー3名、コーディネーター3名からなるプロジェクトチームにより推進している。

本プロジェクトの出発点は、ロシアによるウクライナ侵攻、中国による香港民主化運動の阻止、ミャンマーでの軍事クーデターなど、世界各地で民主主義が危機にさらされている中、企業が、ビジネスと人権という視点での取り組みを通じてどのように民主主義を守り、発展させることができるのかという問題意識に起因するものであった。アジア各地に進出する日本企業の活動が、日本のみならず、アジア諸国における人権状況に対しどのような影響を及ぼすのかについて調査を行い、ネガティブな影響をもたらすものであれば、その是正を望む声を上げる。調査内容としては、ビジネスと人権に関する状況調査、ビジネスと人権ベンチマークの作成と分析、アジア諸国の人権状況の調査、そして、企業が民主主義にどのように貢献しているのかを独自の指標を用いて評価することを計画した。

プロジェクトを開始するにあたりチームは、企業、市民社会組織、学術者等の有識者に対して方向性や取り組みについてのヒアリングを実施した。このヒアリングを通じて、政府だけではなく、企業が公正な社会において果たすべき責任とその行動の重要性、またプロジェクトが目指す「公正な社会」とは何か、をチームがきちんとイメージし、言語化する必要があることが分かった。また、企業も対話の重要性は理解していながらも、市民社会との「触媒」のような存在を必要としていることも知ることができた。

この気付きを得て2022年8月にはプロジェクトメンバーで合宿を行い、プロジェクトのロジックモデル(施策の論理的な構造)を策定した。下記の表が現在の短期・中期・長期目標と望ましいアウトプットを示している。

この協議結果と企業との対話の重要性を鑑みたところ、チームとしては、本プロジェクトが一方的に評価を下すベンチマーキングより、企業が自発的に取り組むべき領域があることに気付いた。そこで、市民社会との対話を通じて企業と協働してアジアの民主化を深めていくことを目指し、SDGsのゴール16+1)(SDGsターゲットのうち平和・公正・インクルージョンの実現に関わるもの)に関する評価ツールを用いる戦略を練っている。

「ビジネスと人権」には昨今企業の関心の高まりを感じることができるが、チームとしては、より広範な構成要素を含む「公正な社会」の実現のためになぜ企業が人権課題に取り組むべきなのかというメッセージを伝え、より深い理解と実現のための自発的な行動を促したい。そこで、当初計画していたベンチマーキングではなくセルフチェックリストという手法を使用することにして、プロジェクトの名称も「コーポレート・ソーシャル・ジャスティス・ベンチマークプロジェクト」から「コーポレート・ソーシャル・ジャスティス・プロジェクト」に変更した。また、長期的な目標として、「事業を通じて、日本を含むアジア地域の社会に影響を与えている日本の大企業が、市民社会とともに主要なアクターとして、『公正な社会』の実現に向けて行動している状態」を掲げた。

CSJプロジェクトは以下の点を含む観点を中心にセルフチェックのための指標を作成している。

1.平和・公正・人権のためのコミットメント

2.平和・公正・人権のための仕組み・ルールづくり

3.責任ある企業行動の実現と実践

4.企業文化の醸成

5.ステークホルダーとの対話の実践(従業員・取引先・政府・地域社会・消費者/顧客 等)

また、この指標案と共にアジア諸国の人権状況や「公正な社会」の実現に向けての企業行動の調査を進行中である。今後はこの指標の草案を基に、再び企業やビジネスと人権の専門家に対してヒアリングを行い、実装性について議論を深めていく予定だ。セルフチェックの指標が完成したら、実際に企業に試してもらい、フィードバックに基づきより汎用性が高く、多くの企業に向けて公開ができるようにしていきたい。

2022年12月16日には、本プロジェクトのキックオフイベントとして、「公正な社会の実現に向けて企業ができること」を開催した。セミナーでは現在開発中の指標に含まれる「企業の責任ある行動の領域」を提案し、今後企業がどのように関わることができるのか、市民社会組織と企業はどのように連携できるかなどを議論した。その概要は、THINK Lobbyのホームページに掲載されている。

こうしたイベントや広報を通して、プロジェクトの位置づけや目的、そして企業に対して公正な社会の重要性を伝えることが、今後の課題となっている。

脚注

1)PATHFINDERS. The Roadmap for Peaceful, Just and Inclusive societies, < https://www.sdg16.plus/roadmap>

 
© Japan NGO Center for International Cooperation
feedback
Top