THINK Lobby Journal
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Activity Report
Defending Democracy and Civic Space in Asia
Aoi HORIUCHI
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2023 Volume 1 Pages 77-81

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Ⅰ.背   景

香港における国家安全維持法の施行、ミャンマーでの軍事クーデター、アフガニスタンでのタリバンの政権掌握、ロヒンギャ危機、政府や警察によるCOVID-19ロックダウン時の残忍な弾圧や暴力、言論・結社・集会の自由への継続的な制限など、近年、アジアの民主主義は脅威にさらされている。

市民社会組織(CSOs)は、この傾向を反転させるべく、アジア開発連盟(Asia Development Alliance / ADA)が主導する「SDG16+に関するアジアフォーラム宣言」、TAP Networkが主導する「SDG16+に関するローマ市民社会宣言」、C7とC20による開かれた社会と市民社会スペースに関する政策提言、東京民主主義フォーラム2022の登壇者による「10の行動勧告」などの形式で、具体的な政策提言を行なっている。

国際協力NGOセンターは、市民社会スペースの課題に取り組むため、2019年から「東京民主主義フォーラム(Tokyo Democracy Forum / TDF)」を開催し、アジア各地の市民社会による調査研究や政策提言書を発表する機会を提供している。第1回は2019年に東京で開催されたC20サミットの一環として、第2回は2021年に、第3回は2022年にそれぞれオンライン会議「HAPIC」の一環として実施し、同時期に開催されてきた釜山民主主義フォーラム(Busan Democracy Forum / BuDF)、ウランバートル民主主義フォーラム(Ulaanbaatar Democracy Forum / UDF)、カトマンズ民主主義フォーラム(Kathmandu Democracy Forum / KMDF)や、アジア民主主義ネットワーク(Asia Democracy Network / ADN)と民主主義共同体(Community of Democracies / CoD)によるアジア・アフリカ民主主義フォーラム(Asia-Africa Democracy Forum / AADF)などの取り組みと歩調を合わせてきた。

Ⅱ.DDCSAプログラム概要

2022年度、国際協力NGOセンターは、「アジアにおいて民主主義と市民社会スペースを守る(Defending Democracy and Civic Space in Asia)」(以下、DDCSA)と題し、現場の人々、CSOs、政策立案者、政府、学術機関、企業との国際的なパートナーシップのもと、アジアにおける市民社会スペースに関する調査研究や活動、成果報告会の開催などを実施している。

1.主要な実施パートナーによるプロジェクト

国際協力NGOセンターと連携するアジアの市民社会組織や研究者に対して、DDCSAの「主要な実施パートナー」として参加することを呼びかけたところ、6団体からの応募があった。主要な実施パートナーは、定期的に会合を開き、戦略や優良事例を議論し、互いに学び合うとともに、東京民主主義フォーラム2023を含む複数の機会で、その成果を公に発表することが期待されている。

活動一覧(2022年5月~12月)
時期 活動内容
4月27日 東京民主主義フォーラム2022登壇者に対し、DDCSAへの参加呼びかけを発信
5月5日 DDCSAに関するオンライン説明会を開催
6月4日 6団体からの応募を受理
6月30日 第1回DDCSAセミナーを開催(オンライン、18名参加)
7月22日 第2回DDCSAセミナーを開催(オンライン、30名参加)
8月24-26日 「アジアにおける表現の自由国際会議」にて研究報告(タイ・バンコク、80名参加)
9月14日 主要な実施パートナーとの進捗確認会議(第1回)開催(オンライン、6名参加)
12月13日 主要な実施パートナーとの進捗確認会議(第2回)開催(オンライン、4名参加)
12月20日 主要な実施パートナーとの進捗確認会議(第3回)開催(オンライン、2名参加)

主要な実施パートナーおよびプロジェクト内容は以下の通りである。これらはすべて、アジアにおける民主主義と市民社会スペースの状況を具体的に改善し、民主的価値、人権、人間の尊厳を守り、SDG16+の達成を促進するための市民の力の強化を目的としている。

団体名 プロジェクト内容
Voluntary Action Network India (VANI), India

 「持続可能な開発報告書2021」によると、インドは165カ国中120位(総合スコアは、世界平均65.7に対して60.1)であり、SDG16に関して、「世界最大の民主主義国」であるインドは「停滞」のカテゴリーに分類されている。VANIは、政府、企業、CSOs、学術機関、シンクタンク、メディアなど様々なステークホルダーと協力し、インドのCSOsのための環境を促進することを目的として活動している。

 これまでVANIは、SDG16を推進するために、VNRプロセスに市民社会の参加を求め、三角協力とSDGsのローカリゼーションを推進し、重要な役割を担ってきた。また、VANIは、様々なフォーラムやプラットフォーム(例:C20)における市民社会の参加や、グローバルサウスのCSOsへのパワーシフトを要求する、世界レベルでの取り組みや行動において非常に積極的である。

 ここ10年ほど、インドのCSOsは、人道的危機に対応する能力の低下により、存続の危機に直面している。これは、規制の枠組みが制限されていることと、資金が枯渇していることが原因である。

 本プロジェクトは、リーダーシップを強化するだけでなく、協力の重要性を認識することを目的とし、SDG16の達成に向けた取り組みに注力するよう呼びかける。主な目的は、1)インドの CSOs、特に草の根レベルで活動するCSOsの間でSDG16に関する認識を高めること、2)協働のストーリーを認識し、一般化すること、3)インドの市民社会リーダーを集め、パートナーシップの強化とSDG16の達成に向けた集中的な努力を促すこと、4)CSOsの役割を強化する方法を共同で確認すること、5)地域レベルで行動を開始すること、である。

 これらの目的を達成するため、ソーシャルメディア・キャンペーンの実施、オンラインリーダーシップ・ミーティングの開催、SDG16に関する情報リーフレットの作成などを行う。

Centre for Human Rights and Development (CHRD), Mongolia

 モンゴルにおける市民社会スペースに関する調査は、2021年10月から11月にかけて、国や地方レベルで活動する120のCSOsを対象に実施された。調査の結果、COVID-19の流行期間中に市民社会スペースが悪化し、表現の自由や結社の自由の機会が狭まっていることが明らかになった。

 この傾向は、モンゴルの地方レベルでより顕著に見られる。本プロジェクトの目的は、SDGs16+のキャンペーンを通じて、市民社会スペースと民主主義を守るために、モンゴル全国のCSOsの結束を支援することである。

 このために、1)「モンゴルにおける市民社会スペース」調査結果および報告書のモンゴル語への翻訳、2) モンゴルの市民社会スペースに関する調査結果をオンラインプラットフォームにて発信、3)市民社会スペースと民主主義を守るための戦略策定に関するオンラインおよび対面でのトレーニング・ワークショップの実施、4)7~10回の戦略ワークショップ/ロードマップの結果を学び、議論する全体フォーラムの開催、5)戦略ワークショップの結果公表の各活動を実施する。

 市民社会スペースに関する調査結果は、オンラインプラットフォームを通じて一般に普及され、対象となるCSOsや地域に根ざした団体(CBO)に対しては、対面およびオンラインミーティングやコンサルテーションを行う。本プロジェクトは、10以上の県とソム(県と村の間に位置するモンゴルの行政区分)で連合を組んで活動している1,000人以上の構成員を持つ団体を対象としている。

 これらの団体は、2004年からCHRDのコミュニティベースの開発プログラムを通じて設立され、支援されてきた。少なくとも100のCSOsと200の団体が参加する予定である。

NGO Federation of Nepal (NFN), Nepal

 2015年以降、ネパールは新憲法に基づく連邦制の導入の途上にある。これには、連邦、州、地方レベルでのCSOsに関連する政策改革が必要である。新憲法の公布と連邦制の採用後、NGOやCSOsのガバナンスに関連して法律上の曖昧さが散見される。

 新法に置き換えられるべき団体登録法は、連邦法としていまだ有効である。地方政府運営法2074の第11条は、地方自治体が組織の登録と更新を行うことを認めている。団体登録法および国家指導法の下で登録された組織は、いかなる利益を生み出すことも制限されている。したがって、その財源は、寄付金、海外からの援助、会費に限られる。

 しかし、現在の政策では、CSOsがその資源を活用し、利益を共有するためではなく、社会的な目的のために投資する道を開いていない。CSOsがソーシャル・ワークのために政府と協力しようとする場合、CSOsは付加価値税(VAT)に登録するよう強制される。調達規則 2064の第19規則は、政府機関に対し、2万ルピー以上の物品とサービスをVAT登録団体からのみ購入することを義務付けている。政府の調達政策により、CSOsの中にはVATに登録された団体もある。

 また、税金を収入とみなしてプロジェクトのバランス資金に計上する監査慣行も見直しが必要である。このような状況はCSOsにとって大きな課題となっており、何十もの団体が税務関連のケースに直面している。

 こうした背景から、本プロジェクトは、1)ネパールのCSOsに対して税制に関する主要な規則、規制、課題、今後の方向性について理解を深めること、2)市民社会セクターを強化し、人々に対してより敏感で透明性があり説明責任を果たせるようにするための集団行動の分野を模索すること、3)ネパールのCSOsが円滑に活動できる環境を作ることを目的とし、オンラインでのアンケートやフォーカスグループディスカッション、核となる情報提供者に対する面談による聞き取りなどを行う。

Awaz Foundation Pakistan - Centre for Development Services, Pakistan

 パキスタンのCSOsは、厳しい法的環境、財政能力、公的イメージなどの制約により、自らの存続も含め、厳しい課題に直面し、開発の成果を徐々に失いつつある。一方、サービス提供に携わる組織は、権利擁護を行うCSOsよりも活動環境が良好である。

 パキスタンの市民社会組織はいくつもの政府関連部署とやりとりをして活動許可書を得るための複雑な手続きのために、円滑に活動することが不可能になってしまった。海外から寄付を受けるすべての国際NGOと国内NGOは、事実上、内務省と財務省の経済部に再登録する必要がある。これは複雑で長く、費用がかかり、非効率で説明のつかない、人を寄せ付けない手続きである。

 CSOs職員は、安全保障部門の機関からの度重なる訪問によって嫌がらせを受けている。CSOsは、金融活動作業部会(FATF)の制限をきっかけに、不当な扱いを受けている。

 中国政府による一帯一路構想の下での中国・パキスタン経済回廊の開始によって、パキスタンの民主的な言説と市民・人権の状況がさらに悪化している。

 パキスタンは、女性差別撤廃条約(CEDAW)、障害者権利条約(CRPD)、子どもの権利条約(CRC)、市民的および政治的権利に関する国際規約(ICCPR)など、ほぼすべての主要な国際条約に署名しており、2015年9月にはSDGsを含む2030アジェンダも採択している。しかし、これらの国際条約の国レベルでの採択・実施に向けた進捗は、極めて遅い状況である。若者の保守主義、過激主義、非民主主義的な文化、女性や少女、宗教的少数派、社会的に排除された集団に対する女性差別的な考え方などの問題は、さらに悪化している。シアールコートとカネワールで最近発生した暴徒リンチ事件は、過激派の台頭と違反行為に対する国家機関の無力と無能を物語っている。

 PDA(パキスタン開発連盟)が2022年1月に行った市民社会スペース、民主主義、人権に関する最新の調査では、全国のCSOsの85%が、「政府が不必要な法律や政策の枠組みを通過させて国内の市民社会スペースや人権の声を制限している」と感じていることが明らかになった。権利に基づく課題に取り組むCSOs、NGO、コミュニティに根ざした団体(CBO)は日に日に減少している。

 調査結果についてCSOsを啓発し、「パキスタンの市民社会スペースのためのCSO憲章(CSO Charter for Civic Space in Pakistan)」を作成することが切実に必要である。このプロジェクトは、CSOsの関与を強化し、パキスタンの市民権、民主主義、人権を確保するための提言を収集するものである。

Asia Centre

 2021年にAsia Centreが執筆した『東南アジアにおける外国干渉法』報告書により、この地域のいくつかの国々が、同様の法律を導入したり、外国からの干渉に対応する意向を表明したりしていることが明らかになった。このような法律が地域内外に出現するにつれ、民主主義体制と非民主主義体制とでは、外国からの干渉法がどのように展開されるかに核心的な違いが生じてきている。

 この地域では、シンガポールが2021年に初めてこのような法律を成立させた結果、市民社会、国際NGO、野党の間で、「外国のエージェントあるいはその代理として働いている」というレッテルを貼られるのを恐れて、自己検閲がさらに強まることになった。

 2022年3月、提案された規定の制限的な性質に関する国内外の批判にもかかわらず、タイ政府はNGO法の草案に合意した。これは、アジア地域のより大きな動きを反映している。

 中国は2022年3月、反外国影響法を更新する計画を発表し、香港は米国の介入を非難するために「外患誘致」という言葉を採用した。同様に、財務報告を怠ったとして、インドの外国貢献規制法(FCRA)によって、国内にある6,000以上の外国資金によるNGOの運営が停止された。

 このことからわかるのは、外国からの干渉を非難することによって市民社会スペースの支配を強化するために、地域全体の権威主義的あるいは複合型の政権によって外国からの干渉法が使われるというパターンが存在するということである。

 このプロジェクトを通して、Asia Centreは、この地域における外国干渉法の発展を、国境を越えた協力に対する権威主義的な措置として概念化し、最初の評価の改定版を提供する。机上調査から得られた情報、そして可能であれば東南アジアのCSOsのメンバーへのインタビューも用いて、最初の報告書を更新する。その後、報告書からの提言は、CSOsが外国干渉法を押し返す戦略を開発するための政策概要の作成に用いられる。

 本プロジェクトでは、この地域のCSOsに対する外国からの干渉法の影響についての認識を高めるために、メディア、ソーシャルメディア、講演活動を通してのアドボカシー・キャンペーンを実施する。その目的は、1)新たな法的発展を踏まえて、最初の報告書である『東南アジアにおける外国干渉法』を更新すること、2)CSOsが外国干渉法を阻止するための戦略を練るために、更新された報告書に基づき、政策概要を作成すること、3)成果物の主要な知見を、CSOsの活動および市民社会スペースの脅威に注意を向けるためのコミュニケーション戦略を実行するために活用すること、である。

INHURED International

 地域人権機構は、各国政府が人権義務を遵守しているかどうかを監視する上で重要な役割を担っている。ヨーロッパ、南北アメリカ、アフリカには、それぞれ活発な地域人権制度が存在する。それぞれの制度は国連の人権制度と多くの共通点があり、地域システムは人権に関する解釈や人権侵害への対応において、しばしば互いに、そして、国連の担当部署に指針を求めている。

 しかしながら、地域システムはそれぞれ独自のメカニズムや手続きを持っている。本プロジェクトは、アジア、中東、アフリカ、南北アメリカ、ヨーロッパに存在する主要な条約によって保護される権利に関する基礎的かつ比較可能な情報を提供し、地域的な監視メカニズムについての一般的な紹介を行う。また、国内レベルで権利が侵害された場合の救済方法と、国際システムの管轄権について解明し、国際システムによる保護について研究し、これらの地域の人権システムの共通点と相違点を、民主主義のベンチマークとともに調査する。互いに比較し、執行メカニズムの構成と運用方法、そして、人権保護と民主主義の文化に影響を与える手続きに焦点を当て、概略を説明する。

 本プロジェクトの主な目的は、主要な地域的人権文書とその様々な実施形態について、国内人権機構を含む人権コミュニティや実務家に周知させることである。さらに、これらの地域プラットフォームが、人権擁護者や法律家にとって、主に国内レベルで、監視機関への苦情提出のためにどのように利用されうるかについての基本的理解を提供することを目的としている。そのために、情報の収集、主要ステークホルダーのマッピング、情報の検証・妥当性確認、専門家・ステークホルダー・推進者によるラウンドテーブルの開催、調査報告書に対するフィードバックコメントの取り込みなどを行う。

2.アジア開発連盟(ADA)に対する支援

国際協力NGOセンターは、6団体によるプロジェクトとは別に、アジアの市民社会組織に対して政策提言能力の向上を目的とした研修を実施するためのパートナーとして、「アジア開発連盟(Asia Development Alliance、以下、ADA)」に対する資金援助も行なっている。ADAは、効果的な社会変革のために市民社会に力を与える革新的な地域ネットワークとして、南アジア、東南アジア、北東アジアおよび中央アジアから約33のナショナルCSOプラットフォームが集まり、 全体で12,000以上の組織を代表している。ADAの長期的な目標は、民主主義や人権に対する侵害に対して、アジア社会が警戒を強め、集団的な努力を奨励することである。

ADAによるプロジェクトでは、アジア全域のコミュニティレベルの活動家、ADAのナショナルCSOプラットフォームのメンバーからの参加を得て、国連総会を数週間後に控えた9月にカンボジアにおいて、3日間のSDG16+フォーラムを開催する。フォーラム中は、パネルディスカッション、アートショー、ストーリーテリングを実施し、ストーリーテラーが招待され、コミュニティレベルの環境保護者やフェミニスト、国や社会におけるSDG16+の重要性と関連性を説明するアートワークに基づいて選ばれた学校の子どもたちと「変化のための仕事」を共有し、「SDGs16+アジア宣言」を作成する。また、異なるレベル、異なる政策分野やセクターにまたがる政策間の一貫性を伴う、持続可能な開発を達成するための政策アプローチを提案する「持続可能な開発と気候正義のための政策一貫性に関するグローバルな視点」に関する報告書を作成する。このような持続可能な開発のための政策一貫性には、垂直的一貫性(地方、国、地域、国際の間)と水平的一貫性(環境、経済、社会政策分野とセクター間、およびガバナンス機構間)の両方が含まれている。

 
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