THINK Lobby Journal
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Director's Greeting
Foreword : The Essence of International Cooperation and the Role of NGOs in the Revision of the ODA Charter
Hideki WAKABAYASHI
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2024 Volume 2 Pages 1-2

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世界は「複合的危機」の時代にあると言われている。気候変動、感染症、経済成長の減速や国内外の格差、地政学的な競争、武力による現状変更を加える行動、エネルギー・食糧危機、債務問題の深刻化、市民が自由に活動できる空間の縮小等、国際社会を揺り動かす課題は枚挙にいとまがない。さらには、ロシアのウクライナ侵攻が収まらないうちに、パレスチナのガザ地区を実効支配するハマスとイスラエル軍との交戦も始まった。

2023年はSDGs(持続可能な開発目標)達成期限である2030年までの中間年にあたる。9月には国連でSDGサミットが開催され、私も関連イベントに参加した。SDGsの達成状況は、残念ながら「順調に進んでいるのはわずか12%のみ、ターゲットの内、50%の進捗は乏しく、不十分であり、30%が行き詰っている、もしくは後退している」と言われている。SDGサミットの政治宣言は採択されたが、開発資金ニーズ(SDG Stimulus) をめぐる記述、経済制裁などの一方的措置などをめぐり、グローバルノースとサウスの間で根深い対立が浮き彫りになった。

国際社会は、かつて経験したことのない複雑に絡む危機の中で、歴史的転換点にあるのかもしれない。ここでいう歴史的転換点とは、1989年に東西冷戦が終わり、グローバリゼーションと相互依存が国際社会に平和と安定をもたらすと、少なくともそのような認識が約30年にわたり続いた時期からの転換点である。今後の国際秩序はどのように形成され、我々市民社会はこの動きにどのように関与すべきであろうか。このような時代状況から、THINK Lobbyジャーナル第2号では「複合的危機下の開発協力」を主題とした。

日本では1992年に初の「政府開発援助大綱(ODA大綱)」が策定された。当時は、東西冷戦が終わり、新たな国際秩序が模索された頃であり、日本がODAトップドナーとして説明責任が問われる中で、拘束力のあるODA基本法ではなく、政府が柔軟に運用できるODAの基本政策を策定することになった。私は1993年から3年間、在米国日本国大使館一等書記官として、政府開発援助(ODA)に携わっていたが、当時、他の援助国が「援助疲れ」で伸び悩む中、日本のODA実績は右肩あがりで伸び、ダントツのトップドナーであった。バブルが崩壊したといえども、まだ「経済大国」として日米経済摩擦の真只中にあり、この経済摩擦緩和策として、環境、人口、エイズ、国際保健等の地球規模課題に関する日米協力、「コモンアジェンダ」が生まれた。あれから30年あまりの間に、「政府開発援助大綱」は2回の改定を経て、2023年6月に新たな「開発協力大綱」が閣議決定された。日本経済はこの間、「失われた30年」と言われる時期に入り、一般会計におけるODA関連予算は1997年をピークに半減した。国際関係も、2001年のアメリカ同時多発テロを境に「テロとの戦い」が始まり、米国を中心としたアフガニスタンやイラクへの攻撃、ロシアのウクライナ・クリミア半島の併合、中国の台頭による周辺国への圧力等が続き、今、ウクライナやガザの状況に、世界には激震が走っている。

国際環境が変われば国際協力の「形」が変わるのも自然なことである。しかし、変わってはならないのは、開発協力を行う本質的な目的である。つまりその目的は、自国の短期的国益を追求することではなく、第一に開発途上地域の発展であり、そこで暮らす人びとの生活と幸せの向上、人権の保障であるべきである。その結果、日本も中長期的にその恩恵を受けるという考え方である。しかし残念ながら、今回の新大綱では、短期的な国益追及、安全保障や日本企業に利益をもたらす文脈でのODAの戦略的な活用が前面に出ており、「開発協力」は、誰にとっての国際協力なのか疑問を投げかけるだけで、日本にとっては得策ではない。また、今後は国際的な社会課題が共通化する流れの中で、途上国と先進国の区別なく、お互いに学び、協力し、共生する社会を築くことが、これからの国際協力のあり方となるだろう。

今回改定された開発協力大綱は、これからの開発協力のあり方、方向性について、改めて我々に考えるきっかけを投げかけている。キーワードは「新しい時代の人間の安全保障」、「自由で開かれた国際秩序」、「NGOの新たな戦略パートナーとしての位置づけ」、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」等、様々あるが、あえて1つだけ挙げるとするならば、それは「共創」ではないか。政府と市民社会が対等なパートナーシップの下で、お互いの強みを持ち寄り、開発途上国を含む多様なアクターと対話・協働することにより、新たな社会的価値、新たな解決策を共に創り上げていくことが重要である。

市民社会や政府、いかなるアクターも単独では、この複合危機における社会課題は解決できない。NGOは、市民社会の強みを活かしつつ、セクターの垣根を超えて、政府や国際機関、学術界、民間セクターと連携しながら、シナジーを生み出していく必要がある。THINK Lobbyとしても、新たな時代の、新たな開発協力大綱の下で、NGOが存分に活躍できるよう、環境を整え、様々なアクターを結びつけ、自由な議論が行える場を提供すると共に、市民社会ならではの独自の調査・研究、政策提言、情報発信力をさらに強化していきたい。

 
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