2024 Volume 2 Pages 117-118
2023年8月23日から25日の3日間、タイのバンコクにおいてAsia Centre(以下、アジアセンター)主催の第8回国際会議:「アジアにおける選挙と民主主義」(8th International Conference : Democracy and Elections in Asia)が開催された。筆者はJANICからの報告者として、THINK Lobbyの芳賀マネージャーと共にこれに参加した。以下に会議の報告をまとめる。
本会議は、市民社会による行動を通して、アジアにおける選挙と民主主義に関する理解を強化し、東アジア・東南アジア各国政府に対する政策提言を行うことを目的として、東南アジアや南アジア、さらに日本における選挙と民主主義をめぐる様々な21の課題を討議した。登壇者には研究者、NGO関係者など多彩な専門分野から20ヵ国、20のパートナー団体から140人以上が参加、また50人がパネリストとして登壇した。
会議の主催者である、アジアセンターは、タイを拠点とする市民社会シンクタンクである。JANICはこの会議を機にアジアセンターと今後の研究活動で連携する旨の覚書(MoU)を締結した。アジアセンターとJANICは、ともに国連の特殊諮問資格(Special Consultative Status)を持つ市民社会組織および研究機関であり、市民社会や民主主義の動向について、調査や人材育成、アドボカシー活動などを実施している。
本会議では、総選挙実施直後のタイ・カンボジアの現状と課題、クーデターにより国軍が実権を握っているミャンマーの未来の民主的な選挙、アジアの女性の政治参加、選挙におけるオンラインプラットフォームの役割、移民の参政権、政治資金、民主主義の強化のためのアカウンタビリティ、スリランカの公正なソーシャルメディア、バングラデシュの総選挙、半世紀にわたる紛争から自治への道を歩み始めたフィリピン・ミンダナオ、日本の選挙と民主主義の動きと課題など、変化するアジアの選挙、民主化と市民社会をめぐる状況などが語られた。
筆者は、8月24日のパネル3「選挙におけるオンラインプラットフォームの役割」に登壇した。この中で筆者は、「日本における選挙と市民社会スペース」と題して、日本における市民社会スペースが縮小傾向にあることを前提に「オンライン」が市民社会スペースの拡大に果たす役割を考察、発表を行った。日本の市民社会スペースが縮小傾向にあること、選挙制度の供託金および世襲制度、女性議員の不足などの問題に言及しながら、特にロバート・パットナムのソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の重要性を指摘した。日本の「忖度民主主義」やソーシャル・キャピタルの縮小は日本の市民社会の政治参加への意思を減少させる政治的な危機であることを強調し、「オンラインプラットフォーム」が市民社会スペースの拡大に果たす役割を明らかにした。また、昨今日本において、若い世代が中心となりSNSを活用した政治に参加する動きがあることにふれ、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長の辞任を求める運動や、地方議会におけるジェンダー平等へ向けた取り組みとして20代や30代の女性に公職に立候補することを呼びける「FIFTYS PROJECTS」、被選挙権の年齢引き下げを求める「立候補年齢引き下げプロジェクト」などの事例を紹介した。
本会議への参加は筆者にとって昨年に続き、2回目となった。筆者は、アジアの選挙と民主主義、とりわけアジアの権威主義的政権に対する民主化と選挙の方策や、アジアの選挙における女性参加の必要性、デジタルリテラシー等を協議する中で、対面で国際会議を行う意義、参加者と顔を合わせながら共通の課題を共有する重要性を再認識した。コロナ禍後に開かれた昨年の会議には対面で約80名、オンラインで20名の参加者があったが、今回は対面での参加者が140人以上と大幅に増えた。このことはアジアの民主主義やアジアセンターの活動への関心の高さや会議開催の意義が広く認められていることの証しであると感じた。日本では言論の自由度が高いにもかかわらず、アジアや日本の民主主義や選挙制度への関心が相対的にそれほど切実でなく、会議のテーマとして取り扱われる機会も少ない印象である。それに対し、まさに総選挙の政治的混乱の渦中にあるタイで、バンコクを拠点とするアジアセンターがこのテーマに正面から取り組み、普段から言論の弾圧を受け緊張を強いられながらも活動する東南アジア各国の参加者らを迎え、言論の場を確保・提供したことは高く評価できる。
最後に、来年もこの会議は継続される予定で「9th International Conference – Shrinking Civic Space in Asia: Stories of Resistance and Pushback」と題し、2024年8月21日から23日までバンコクで開催される予定である。来年の会議の「市民社会スペースの縮小」のテーマは、JANICでも主題テーマとして取り上げていることを付け加えておく。