THINK Lobby Journal
Online ISSN : 2758-6162
Print ISSN : 2758-593X
Round-Table Talk
Exploring the Future of Japan's Development Cooperation: What Does the Revision of the Development Cooperation Charter Suggest for Us?
Hideki WAKABAYASHIHajiime UEDAKatsuki OKAJIMAYumiko HORIEJyotsna MOHAN
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2024 Volume 2 Pages 3-12

Details

若林 秀樹(THINK Lobby所長)

特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター(JANIC)理事。国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン理事。ビジネスと人権市民社会プラットフォーム代表幹事。アジア開発連盟(ADA: Asia Development Alliance)アドバイザー。早稲田大学Life Redesign College (LRC)講師、國學院大學法学部兼任講師。

上田  肇(在インドネシア日本国大使館公使、前外務省国際協力局政策課長)

1995年、上智大学を卒業し、外務省に入省。在フィリピン日本国大使館、国際連合日本政府代表部、在イラン日本国大使館などでの勤務を経て、2016年にハーグ条約室長、2017年に邦人テロ対策室長、2019年に南東アジア第二課長、2021年に国際協力局政策課長。2023年9月より在インドネシア日本国大使館公使。

岡島 克樹(大阪大谷大学人間社会学部教授)

1992年、早稲田大学卒業後、オランダ国立ユトレヒト大学(政府奨学生)、オランダ国立社会研究大学院(現エラスムス・ロッテルダム大学大学院)修了。JICAカンボジア事務所(企画調査員)を経て、2004年からは大谷女子大学(現大阪大谷大学)で教鞭をとりはじめ、現在は大阪大谷大学人間社会学部人間社会学科学科長・教授。国際開発学会理事(2020年~2023年)やODA政策協議会NGOコーディネーターのほか、国際子ども権利センター(C-Rights)や関西NGO協議会の理事等もつとめる。

堀江 由美子(公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アドボカシー部部長)

共同通信社に勤務後、英国大学院で農村開発修士課程修了。1999年より(特活)国際ボランティアセンター山形の駐在員としてカンボジア農村開発事業に従事し、2002年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入局。海外事業部、法人連携部を経て、2010年よりアドボカシーを担当。開発援助政策、SDGsをはじめとして、国内外の子どもの権利の実現に向けて、幅広い分野の政策提言に関わる。

コラムメッセージ:Jyotsna Mohan(Regional Coordinator アジア開発連盟:ADA)

2023年6月、「開発協力大綱」が8年ぶりに改定された。1992年に「政府開発援助(ODA)大綱」が策定されて以来、国際社会の政治、経済等の環境の変化により、その名称を変えながら今日に至っているが、我が国の国際協力に関する基本政策であることには変わりはない。

今回の改定の背景を一言で表すと、「複合危機」と捉えることができる。感染症、気候変動等の地球規模課題の深刻化、開発途上国を襲う貧困や債務問題の深刻化、権威主義国による市民活動への圧迫、力による一方的な現状変更、そして地政学的な勢力争いが複合的に危機を引き起こしているからだ。

今回の改定が、これからの開発協力にどんな示唆、影響を与えるのか。座談会では、政府、市民社会、有識者等の立場から、持続可能な開発に向けた、日本の開発協力における貢献の方向性を議論した。

(司会:若林秀樹〈THINK Lobby所長〉)

※2023年10月10日に行われた座談会およびその後の意見交換を再構成しました。肩書や国際情勢などはその当時のものです。発言者は敬称略。

◆「目指すのは国際社会が複合的危機を乗り越えるための協力」(上田氏)

若林:1992年にODA大綱ができた時、日本は世界のトップドナーだったが、その後ODA予算の削減、地政学的な対立や分断などの変化が起きている。国際情勢が変われば協力の在り方が変わるのは自然なことだが、今回の改定は、国際社会をどうみるかという示唆を与え、さまざまな課題を投げかける。今日は、それぞれの立場から、これからの国際関係の中で日本はどのような協力をするのかという議論をしたい。

まず、政府の立場で、今回の改定当時、外務省国際協力局政策課長だった上田肇公使からご発言をお願いしたい。

上田:大綱の改定にあたり、まず現状認識として、現在の国際社会というものが、歴史的な転換期にあるということ、そして複合的危機に直面していると考えた。

複合的危機とは何か。3つ挙げたい。まず、気候変動やコロナをはじめとする感染症という地球規模課題が深刻化し、SDGsの達成にも遅れが見られること。2点目は、そのような中で、ウクライナ侵略など国際秩序への重大な挑戦があり、分断のリスクが深刻化していること。3点目は、そういった2つの点に連動した形で、途上国経済に対する打撃や、人道危機が起きていることだ。

もう少し申し上げれば、例えば、一部の新興ドナーによる、債務持続可能性への配慮が十分ではない借款供与が債務問題を深刻化させている。こうした状況に対しては、「透明かつ公正なルール」に基づいた開発協力ができる環境をつくっていくということが、求められていると思う。こういった複合的危機の中にあるからこそ、危機の克服のために、価値観の違いを乗り越えて国際社会が協力するということが重要だ。そして、日本はそうした協力をけん引する立場にあると思う。

一方、ポジティブな変化もある。途上国への民間資金の流入が、ODAをはじめとする公的資金をボリューム面で大きく上回ってきた点である。政府以外の、市民社会、民間などさまざまなアクターの役割が重要になっている。ODAをつかさどる政府として、多様なアクターとの連携、あるいは新しい資金供与に向けた取り組みがますます重要になってきた。

このような背景のもと、新しい開発協力大綱が閣議決定された。その中身を見ていきたい。開発協力大綱というのは、日本の開発協力の目的、基本方針、重点政策、実施方法を示すものだ。目的に関していうと、国際社会の平和と安定、繁栄に貢献して、日本と世界にとって望ましい国際環境を作り出し、より多くの国との間で信頼関係を構築すること。そのことが、とりもなおさず日本自身の国益の増進につながることを踏まえたうえで、開発協力の目的を明確にした。

それから、新たな時代の「人間の安全保障」を理念に掲げて、平和と繁栄の貢献、途上国との対等な立場での対話、協働を通じた社会的価値の共創、包摂性や透明性、公正性に基づくルールの普及、あるいは実践というのを、わが国の開発協力の基本方針としている。

では実際にその基本方針の中で重点政策として何をやっていくかということだが、3点あげている。

1つは、新しい時代の質の高い成長である。デジタル、食料、エネルギーの安全保障など、新しい課題を含む質の高い成長を、途上国を含む全世界で実現していきたい。2つめは、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化である。こうした国際秩序の維持・強化があってこそ、質の高い成長が担保される。具体的には、人道支援、平和構築協力、海上保安能力強化など。現下の国際状況をみると、こういった支援への要請は高まってきている。3つめはSDGsである。保健分野など、日本の強みを生かした形で、SDGsへの取り組みを加速化させ、地球規模の課題に取り組んでいきたい。

なお、人間の安全保障について、「新しい時代の」という形容詞をつけて、基本方針の中に定めた。つまり、今のような複合的危機に直面している時代だからこそ、目線を低くした一人ひとりの「保護」と「能力強化」に加えて、目線を少し高くして、政府、国際機関、地域社会といったさまざまな主体の間の「連帯」という要素を加えた。連帯なしには、人間の安全保障が実現できない。連帯という部分に関する協力、中身は市民社会の皆さんとともに考えていかなければならないが、その努力を積み重ねることが、人間の安全保障の実現への近道になるということを考えている。

◆「開発協力における国益の追求と外交のツール化が進展」(岡島氏)

若林:続いて岡島克樹さんに、大綱改定のポイントなどお話しいただきたい。

岡島:まず今回の大綱の改定のポイントは何かというと、開発協力を行ううえで、国益の追求がさらに主流化したこと、あるいは外交のツール化が進展したことだ。

大綱には、2015年の前回の改定時に初めて「国益」という言葉が登場した。今回の改定では、「平和や繁栄への貢献」や「新しい人間の安全保障」という言葉も盛り込まれているが、2022年12月に閣議決定した「国家安全保障戦略」に言及しながら、開発協力を「我が国の外交のもっとも戦略的なツールとして効果的、戦略的に活用する」とある。具体的にはオファー型支援が導入されたことや、ODAとは別だとされているが、政府安全保障能力強化支援(OSA)が導入されたことも無関係ではないだろう。

今回の大綱改定で国益論が強化され、ODAの外交ツール化が進んだという認識、あるいはそれが重要なポイントなのだという認識は、比較的多くの研究者とも共有していることだ。例えば国際開発学会の前会長で、立命館アジア大学の山形辰史教授は毎日新聞で、「政府が国益のために政策を立案し実行することは否定しない。安全保障のために防衛政策があり、国内産業を育成するために産業政策があるのは当然だ。しかし、それらは国際協力政策とは区別されるべきだ」と述べている。

また、「ODA大綱見直しに関する有識者懇談会」の委員だった大野泉・政策研究大学院大学教授も、同じ毎日新聞の特集記事で、「税金が投入される以上、外交や国家戦略からの視点と、相手国の開発にどう役に立つかという視点の二つの戦略性が求められる」としつつも、「ニーズに合った協力をしなければ相手国に喜ばれず、本来の目的を達成できない。(中略)最近は国益に直結したギラギラした第一の戦略性が強調されがちだが、地道な第二の戦略性こそ非常に重要と考える」と述べている。

2015年の前回改定時に有識者懇談会のメンバーだった国際協力NGOシャプラニールの元代表理事、大橋正明さんも「この10年、ODAは完全に外交に従属してしまった」と語った。「本来ODAは短期的な国益ではなく、もっと普遍的なグローバル益を実現するためのものだ」と述べている。

多くの研究者の受け止めとしては、今回、日本の利益追求がかなり前面に出てきているということが共有されている。私自身もそう考えている。

◆「開発協力が人権侵害に結びつかないようにするメカニズムが欠如」(堀江氏)

若林:市民社会の立場からはどのように見えるか、堀江由美子さんに語っていただきたい。

堀江:大綱改定のプロセスでは、上田元課長はじめ外務省の皆様に、市民社会との対話の場を確保いただき感謝している。現状、新型コロナ、紛争、気候変動など、国境を超える複合的な危機が広がっている中で最も打撃を受けるのは、脆弱な立場にあるコミュニティーや人々、そして子どもたちだ。市民社会としては、大綱改定にあたり、人権や人間の安全保障を中心に据え、貧困削減や格差の解消、パンデミックや気候変動といった地球規模の課題への取り組み、そして人権の尊重・推進といったことを強く訴えてきた。

そのうえで改定された大綱を見ると、あらゆる開発協力に通底する理念として人間の安全保障が位置づけられ、脆弱な立場に置かれた人々の参加や、公正性の確保などが基本とされている。一方で、そのあとに続く政策とか実施の部分からは、これらの基本方針をどのように実現していくのか、その道筋があまり見えてこないというのが率直な印象だ。

また、大綱の発表と同時にウェブサイトで発表された一連の付属資料では、先ほど岡島さんもおっしゃったように、国益の重視や、自由で開かれたインド太平洋の実現、経済開発などの側面が強調され、脆弱性の高い人々への支援、人への投資やインクルーシブな社会の推進とはむしろ乖離しているように見える。

日本はこれまで、グローバルヘルスの分野では、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジをはじめとする国際的な取り組みに積極的に関与して、一定のプレゼンスを発揮してきた。一方で、日本の社会開発や人道支援分野の二国間援助については、経済開発協力機構(OECD)の開発委員会(DAC)の平均を大幅に下回っていて、この分野でのより一層の取り組みの強化が求められている。つまり、ジェンダー主流化を中心に、教育、保健、栄養、水、衛生といった社会開発分野の支援や、気候変動、紛争の影響による飢餓や食料危機、難民・避難民への人道支援の強化などが不可欠だと考えている。

さらに私たちは、改定プロセスの中で、日本の開発協力が人権侵害に結びつかないように、人権デューディリジェンス(人権DD)を徹底して、援助対象国に対しても人権の尊重を求めることが必要である、と強く訴えてきた。しかし人権DDや人権侵害のモニタリング、人権状況や民主化が後退した場合の援助の緊急停止、そのメカニズムの導入などは、たびたびの要望にもかかわらず、大綱には含まれなかった。こうした点は今後、大綱の基本方針を具現化するといった意味でも不可欠だと考えていて、さらなる議論が必要だと思う。

上田:市民社会のみなさまとは、計11回の意見交換会やパブリックコメントを含め様々な機会を通じて、率直な対話をさせていただき、心から感謝している。

ご指摘のいわゆる民主化・人権原則については、仮に重大な人権侵害が起きた国であっても、その国の国民への人道支援のニーズに対応する必要性を含めて、様々な事情を総合的に判断する必要はあろうかと思う。従って、ODA一律停止の基準を大綱の中に示すことは困難だが、それぞれのケースについて個別具体的に判断していきたい。

また、ODAの実施にあたって人権尊重の取組をしっかり推進していきたいと考えている。ODAの対象となる途上国において、相手国やその国の企業に対して人権DDを実施させるには一定の課題もあることから、新たな大綱に記載するには至らなかったが、「ビジネスと人権に関する行動計画」に従って、例えば、JICAが定めている業者契約雛形等においては、児童労働や強制労働の禁止や相手国の労働法の遵守に関する規定を盛り込んでいるなど、人権尊重に努めてきている。

◆国益論:「国益論2.0の時代に入った」(岡島氏)

若林:国益を追求するのはある意味当然だが、開発協力大綱の中でどこまでうたう必要があるのか。世界が見た場合に、開発協力が日本の国益のためだけにあるように思われてしまうのではないか。自由で開かれたインド太平洋、普遍的な価値の追求というのは、中国を意識した発言で、それを言えば言うほど分断や対立を招きかねないのではないか。

上田:国益に関して、堀江さんも岡島さんも、国益重視の開発協力という点に懸念を示している。私からは2点申し上げたい。

1つは、大前提として、そもそも大綱の最初のセクションで示しているとおり、開発協力は、「開発途上地域の開発を主たる目的とする政府および政府関係機関による国際協力活動」と定義されている。この点について変わることはない。

2つめは、国益の概念だ。現下の厳しく複雑な国際情勢を鑑みれば、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序のもとで平和で安定した繁栄する国際社会を途上国とともに作り、その過程で、多くの国との関係で信頼関係を粘り強く築いていくことが、望ましい国際環境をつくることになり、それがまわりまわって、わが国の国益の増進につながる、ということを考えている。国益の概念は広い概念であり、現下の国際情勢において、適切な置き方をしている、と考える。

堀江:皆さんと共有したいのだが、今回の大綱改定にあたり、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでは、一般の大人や子どもが国際協力にどんな意識をもっているのかを明らかにして、大綱に反映させたいと考え、意識調査を実施した。調査対象は大人約1万1,000人、15歳以上の子ども約1,200人だった。

調査前、私たちは国内でも生活に困難を抱えている人が増えている中で、国際協力については反対意見も多いのではないかと、正直不安もあったが、結果をみると、6割近くが「国際貢献を進めるべき」と答えた。「やめるべき」「減らすべき」は、合わせて1割に満たなかった。子どもの声を取り出してみると、7割以上が「進めるべき」と答えた。つまり子どもの4人に3人が、国際協力を進めるべきだと考えていることが明らかになった。

国際協力の目的についても聞いたところ、「平和と安定のため」という答えが1位で53%。重点的に協力すべき国としては、「経済的に貧しい国」、「貧困格差が大きい国」が1位。重点的に協力すべき分野としては、「社会サービス分野の活動」が1位。「紛争地域などでの人道支援」が2位。先のみえない不安感が日本を覆う中で、こうした予想外の結果が出たのは、今の不安感の中で平和を築いていくことの重要性、今こそ国境を越えて世界が連帯していくこと、分断を超えていくということ、そこに日本が果たす役割の大きさを、子どもも大人も感じているということではないか。

国際協力の増額に国民の理解を得られないという声が国会議員の方々からも多く聞かれたが、この調査結果からみると、子どもを含む一般の人々も、国際協力は進めるべきで、要はその使い方が重要だという考え方が見えてきている。国際協力のあり方とか、お金の使い方の議論に、一般の市民の視点が置き去りになってはいけないと思って紹介した。

岡島:国益論に関して、今回ある意味変質というか、一定のギアチェンジみたいなものがあったととらえるほうがいいのではないか。国益を追求するということは、さまざまな批判を受けながらも、過去、たとえば1990年代や2000年代でもあったと思う。それが国益論の前身だとすると、2015年ぐらいからは、それが前面に少し出るようになって、国益論1.0の時代となった。

今回の改定で、国益論2.0の時代に入った。具体的には、オファー型支援の導入であるとか、ODAの外だと言っているけれども政府安全保障能力強化支援(OSA)が導入されたことなどにより、国益論が加速化した。一直線に続いているというものではなく、段階を上げたということだ。

開発協力において国益を追求するとなると、相手国の市民がそれをどう受け止めるか、を考えたい。東日本大震災の時に、日本は世界最大の援助受け入れ国になった。私が研究のフィールドとしているカンボジアでも、貧困層の住民がなけなしのお金を集めて在カンボジア日本大使館に持ってきたという話があった。それはやはり、日本が非常に息の長い援助をしっかりとしてきたということが生み出す、日本の「ブランド力」だ。だから、国益論をあまり前面に出すと、このブランド力を損なう可能性がある。

もうひとつ、国益と現地の人々の利益とを両立させる案件形成が難しいということも指摘したい。私はJICA事業の事前審査の一部に有識者として携わっている。地方の自治体から出てくる申請書ではその国際協力事業が日本の地域にどういう好影響があるかということを示す必要がある。しかし、国際協力をすることによって何が地域に還元されるかを、エビデンスをもって示せている案件はほとんどない。国益を、「日本社会の利益」と考えると、国際協力によりそれを実現することは相当に難しい。国益を追求して、とさらっと言うが、実際の案件づくりはそう簡単ではないということだ。

◆非軍事原則:「日本のブランド力の源泉。保持することが必要」(岡島氏)

若林:ODAの非軍事原則について考えたい。その前に、国際情勢について、複合危機下にある今、国際協力を通じて「普遍的な価値」の創造をすることが必要ではないか、というご指摘があったが、「普遍的な価値」の追求を前面に出すことが、かえって世界の分断を招いてしまう恐れはないか。この点をどう考えるか。

堀江:地政学的な対立構造を刺激しないほうがいい、ということには同意見だ。短期的な国益の確保、「自由で開かれたインド太平洋」ということを前面に出せば出すほど、分断を招く恐れがある。中立的な立場を維持することで、世界からの信頼を得てきた日本のNGOとしては、開発協力の本来の目的を達することができなくなることを恐れている。

上田:自由で開かれたインド太平洋というビジョンは、日本のみならず私が現在駐在しているインドネシアを含むASEAN、アフリカ、アラブ、欧米などから支持を得てきたまさに開かれたビジョン。国際社会を分断と対立ではなく協調に導くべく、自由、法の支配、多様性、包摂性、開放性といった考えを掲げて、幅広い国々と具体的な協力の取組を進めている。

堀江:非軍事原則が今回の改定大綱にも含まれたことはよかったが、これまでにも民生目的とか、災害援助という名目で、軍や治安当局への援助は実施されてきていて、実質的に軍や警察への能力強化につながったという懸念は払拭できていない。今回の新大綱にも、海上保安能力の向上などが含まれているが、そのまま軍事的な用途への転用リスクもあり、やはりモニタリングやチェック機能を担保する必要がある。改定プロセスでは繰り返し何度も市民社会から申し上げた点だが、踏み込んだ記述がないことは残念だ。

さらにOSAについては、非軍事原則があるODAでは行わないとされてきた相手国への軍事インフラの直接支援を可能にするものとして、これまでの日本の援助が根底からくつがえろうとしている。「ODAと別」とはされているが、昨年末に閣議決定された国家安全保障戦略では、逆に国際協力との関係にも言及されていて、区別することは難しいのではないか。

若林:ご指摘のように、援助として供与されたものが軍事に使われてきたということがあった。線引きが難しい。上田さんは政府の立場として、この懸念をどう考えるか。

上田:ODAは経済社会開発を主目的とするし、OSAは安全保障能力、あるいは抑止力強化ということを目的とするので、全く異なるものだ。ただ、結果として対象国が一致するということはありうる。ここで一歩引いて考えてみると、外交と防衛は車の両輪であり、開発協力においては非軍事原則をしっかりと維持することが重要だが、同時に、国際秩序が大きく動揺する中で、日本あるいは世界にとって望ましい国際協力をつくるためには、安全保障協力もまたより重要になっていることを認識する必要がある。

また、OSAにおいては、防衛装備品移転三原則の枠内に限定するなど、こちらにも歯止めを設けている。たとえばOSAでは具体的な支援の内容を定めている。その中には、法の支配に基づく平和、安全、安定確保のための能力向上のための活動、人道目的の活動、国際平和協力のための活動、あるいは国際紛争と直接の関連が想定しがたい分野での支援、とある。例えば関係国の領海における警戒監視能力の向上、というのは想定できるが、支援の範囲が明記してあるので、無尽蔵に広がるということではない。

ODAに関してもOSAに関しても、一定の歯止めは極めて重要だ。その一方で、ODAとOSAの両方がないと、国際社会の平和安全であるとか、日本の平和国家としての歩みが保証されないほどに厳しく複雑な国際環境に置かれているということを、我々はしっかりと認識しながら対応していくことが必要なんだろうと思っている。

岡島:日本は、非軍事的協力によって開発途上国の開発課題や人類共通の地球課題に貢献してきた。これを継続するということを基本方針に含めたことは評価したい。非軍事原則の堅持というのは、平和と繁栄を追求する、日本のブランドとか、我々のソフトパワーと呼ばれるものの源泉だと思う。それを保持していくことがやはり重要。

理論的に考えても、たとえば「人間の安全保障(human security)」というのは、主に軍事的に語られてきた「安全保障security」という概念を、より「人間的human」なものにするということが、人間の安全保障の趣旨なのだ。従来の安全保障からは一線を画すということである。

しかし、本当にこの姿勢が堅持されるのかは、疑問だ。ODA政策協議会でもNGOが指摘していたが、海上保安能力向上支援ということで、巡視船などの機材供与が今回の大綱の改定前からすでに可能になっている。NGOからの指摘以外にも、東京大学社会科学研究所の保城広至教授は、Japan’s Foreign Aid Policy: Has It Changed? Thirty Years of ODA Charters(Social Science Japan Journal, Vol.25, Issue.2, Summer 2022, pp.297-330.)において、これまでの大綱改定がODA予算にどのような影響を与えたかを実証されているが、それによれば、前回の改定によって確実に援助の現実に影響を与えてきたし、今回の改定と、そこにおける国益論の深化はこれからのODA予算の使途に影響を与えると思う。

非軍事協力に対しては、現在の大綱においても個別具体的に検討するというような、非常にあいまいな文言にしてしまっているところがあり、歯止めにはならないだろうという感じがする。また、多くの国民も殺傷能力を持つものの援助を望んでいるとは思えない。

堀江:お金がどんどんOSAについていっているという懸念がある。OSAが今後拡大することによってODA予算が減額されること、とりわけ社会開発や人道支援分野の援助の減額につながるのではないか。さらにはこれまでのODAによる開発努力や成果が損なわれるのではないかと懸念している。OSAで援助した武器が、相手国内での紛争激化や人権弾圧に利用されるのではないか。

したがって、OSAの運用にあたっては、透明性や説明責任が果たされるようなメカニズムを構築し、市民社会がともに議論することが非常に重要だと思っている。閣議決定では、まったくこういう点の対話や議論がないまま、知らない間に決定していた。防衛装備移転三原則の運用指針の見直しも、すでに与党を中心に検討が始まっているが、こうした議論にも市民が入れるようにするべきだ。さきほどの意識調査でも、国際協力における原則として、武器供与などを行わないことを求める声が36%あった。市民の声にも耳を傾けてほしい。

◆SDGs:「資金不足に取り組む工夫と努力が必要」(上田氏)

若林:それではSDGsの話に移りたい。2030年の達成期限に向けて、2023年は中間地点ということもあり、米ニューヨークの国連本部で9月18日、4年ぶりの「SDGサミット」が開催された。我々は関連イベントで状況を把握した。その中で出てきたのは、毎年5,000億ドルが足りないという発言であった。一方日本ではODA予算が削減され、OSAが増えている。国際社会に期待されていることと逆行する動きなのではないか。

上田:まず、ODAの予算と開発協力大綱の関係ということだが、開発協力大綱の中で、我が国のODAの対国民総所得(GNI)比0.7%を念頭に置く、あるいは、厳しい財政状況を踏まえつつもさまざまな形でODAを拡充するという記述がある。「ODAを拡充する」という記述があるのは、実は大綱では初めてのことだ。複雑化する国際情勢や、地球規模の課題の進行を鑑みると、ODAのニーズがますます高まっているという認識を持ち、日本が国際協力をけん引する立場であることを示した文言だ。

とはいえ、毎年の予算については、その時々のニーズでしっかりと財政当局、立法府と議論を重ねる中でしっかりとした予算を確保することが必要になってくる。昨年はウクライナ危機、それに伴う中東アフリカにおけるエネルギー食料危機など、さまざまな課題が噴き出した。当初予算に限ると微増だが、補正予算については、かつてない予算規模となった。その時々の国際社会の課題にしっかりと対応する、という視点での予算の確保の努力はこれからも重ねていきたいと思っている。

また、予算を確保することは非常に大事だが、一方で予算をどう使うかという観点からいうと、開発協力における人材育成が重要だと思う。変化する開発課題に効果的にアプローチすることが必要だからだ。グリーントランスフォーメーション(GX)、民間資金のためのファイナンス、債務のわなに陥らないための公共財務。こういった分野の人材をしっかり確保する、育成するということを、オールジャパンとして、NGOを含め取り組んでいくということが、ODAの拡充と同時に必要になってきている。

堀江:SDGサミットの関連のイベントに、10名ほどの日本の市民社会の一員として参加した。この中で報告されたのは、順調に推移しているSDGsのターゲットはわずか15%であり、48%の進捗が不十分、37%が後退または停滞しているということだった。また、サミットの政治宣言は採択されたが、開発資金をめぐる記述、経済制裁などの一方的措置などをめぐり意見が対立し、結果的に一部の加盟国のコミットメントが得られないという結果になった。非常に残念だ。世界情勢に対する焦燥感を多くの場面で感じ、また市民社会としてあまり影響力を発揮できなかったことも悔やまれる。一方、現場の声に真摯に耳を傾け、連帯しようという議論には希望を見出すこともあった。改めてセクターを超えて取り組むことの重要性を感じた。

若林:今回のサミットの成果は、市民社会としての、政治宣言を含めた評価は低いといえる。また目標の遅れを取り戻す、政治的コミットメントは感じられなかったという状況だ。2030年まであと7年しかない。日本は、SDGsの達成期限の2030年に、G7サミット議長国になる可能性がある。日本は、それまでに必要なことはやり切ったという形で、2030年を迎えなくてはならない。市民社会としてもできる限りの取り組みを行っていかなくてはならない。

岡島:2022年のサステナブル開発報告の中で、ジェフリー・サックス氏が何を言っていたかというと、やはり世界各国の政策上の優先事項が、SDGsのような長期的な視点に立ったアジェンダではなく、地政学的なリスクへの対応に強くシフトしているということだった。今回の日本の開発協力大綱の改定は、ある意味その典型を示しているように思う。

とはいえ、SDGsの位置づけが相対的に下がったとしても、書き込まれていないわけではない。そこで、あとはどのように予算上、しっかりとSDGsを位置づけていくかということだ。社会開発に関連する予算をどう伸ばしていくか、ということを私たちは考えなくてはならない。最初のステップは、社会開発関連の予算配分というのがどうなっているのかをモニターし、一人でも多くの人に知ってもらうというようなところから始めるしかないのではないか。

若林:ODA(政府開発援助)のGNI比0.7%を達成しなくてはならないという大きな目標がある。そこへ向けて声をあげていかなくてはならない。グローバルノースとグローバルサウスの溝は深い。途上国の市民の声が国連には届いていないということもある。国連のガバナンスそのものにもかかわるが、市民の声がより政策決定に反映されるように取り組んでいかなくてはならない。

上田:SDGサミットでは、国際的な資金不足、あるいはその配分が深刻な問題になっていることや、世界が複合的危機に直面し、かつ、先進国においても経済・財政状況が厳しい中で、さまざまな努力を積み重ねていくことが必要だという認識が共有された。

日本からも資金ギャップに取り組んでいく必要性は指摘した。例えば、国際開発金融機関(MDBs)の改革の促進、民間アクターとの連携の重要性、最も大きな困難に直面する低所得国や脆弱国を国際社会が支えることの重要性も訴えた。こういった努力は大切だと考えている。日本は、先の広島サミットにおいて、グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII: Partnership for Global Infrastructure and Investment)に関するサイドイベントを開催し、G7が、多様な主体と連携しながら、パートナー国のインフラへの投資において民間資金の動員に取り組むことを表明した。日本としても真剣にこうした取組を進めていきたい。

また、「債務のわな」対策では、パリクラブ(債務返済困難に直面した債務国に対し、二国間公的債務の債務救済措置を取り決める非公式な債権国会合)のメンバーかどうかにかかわらず、主な債権国が参加する国際ルールを作り、守ってもらうことが重要だ。アフリカや太平洋島嶼国などに債務管理やマクロ経済運営といった財政分野の専門家を派遣することなども地道だが大事な活動だと思っている。

◆市民社会とのパートナーシップ:「市民社会への拠出を増やして連携の強化を」(堀江氏)

若林:改定された大綱は、NGOを戦略的なパートナーとして位置づけているが、2015年の国際協力の中期計画においても同じ言葉が使われている。8年も前に同じような文言を書いているが、いまだに戦略的パートナーになっているとは思えない。我々はどのように戦略的パートナーになっていけるのか。我々自身の力不足も含めて、考えていかなくてはならないと思うが、どのようにお考えか。

堀江:貧困、不平等、差別といった課題に対し、「だれひとり取り残さない」支援をする以上、社会開発や緊急・人道支援に対するODA拠出の割合を少なくともDAC平均レベルまでには引き上げることが必要であり、そのためにはNGOとの連携が不可欠だと考える。NGOの強みは、現地との連携、脆弱な立場に置かれた人たちのニーズの把握、現場から得られた知見をもとにした活動、国境を超えた幅広いネットワーク、社会に対しての啓発活動などだ。例えば紛争により政府の二国間援助では支援を届けられない地域も数多くあるなかで、NGOは最も支援を必要とする人々に届けることができる。

しかし日本政府の市民社会に対するODA拠出の割合を見ると、ドナー国の平均が約15%のところ、日本は約2%で最下位のレベル。市民社会に対しての拠出を増やして、連携の強化が必要だと思っている。

また、強権的な国家が増えている中で、現地の市民とつながることは、日本政府にとってもメリットがあるはずだ。効果的な開発協力につなげるための、多層的な市民社会との連携が必要。日本の援助はスキームがないと拠出されないということがあるが、国内外の市民社会に対する資金拠出のためのスキームの仕組みづくり、体制づくりが今後の課題としてある。NGO側からも提案していきたい。

岡島:堀江さんの意見に100%賛同する。付け加えるとすると、2016年の世界人道サミットで採択された、人道支援の効率化を目指す国際的コミットメントである「グランド・バーゲン」に日本も賛同している。ここでは、予算の複数年度拠出などに並んで、「支援の現地化(ローカライゼーション)」というようなことがうたわれている。外務省NGO研究会というスキームを用いて、NGOがグランド・バーゲンについての報告書を書き、そこでも提言をしていたが、現地の市民社会の能力強化支援や、現地での事業への直接支出なども議論をしていかなくてはならないと考えている。

上田:大綱では、NGOとの連携を戦略的に強化するために、NGOをはじめとする市民社会を新たに戦略的パートナーと位置付けた。そのうえで市民社会の能力向上のための支援などについても不断の改善をしていくことによって、国内外の市民社会を通じた開発協力に取り組んでいくことを記載している。

ウクライナ支援の現場において、NGOの皆さんが現場のニーズに効果的に、迅速に寄り添って協力していることや、世界各地の人道支援の現場において、存在感を増していることを感じさせていただいた。お互いの強みを生かして「共創」していくという観点での強化になっていると思う。今後も、ODA政策や、連携の在り方を議論する場があるので、具体的な改善策について議論を重ねていきたい。

そもそも「共創」は、明確な解決策が見つかっていない様々な開発課題を、途上国目線でさまざまな主体を巻き込んでいくことによって、新たな社会的価値を共に創りだしていくことである。NGOとは、そういった材料を持ち寄ることができる関係になることが重要だと思う。

一つ、「共創」の好例をご紹介したい。香川県のベンチャー企業が、妊婦のモバイルケア機器を国内で開発した。厚労省の製造認証がまだ下りない中で、JICAを通じて東南アジアの地域医療に役立てるということで使った。これが現地で非常に役に立った。日本の企業側としては実証実験の材料が集まりその後の認証に役に立ったし、途上国はハッピーだった。これは途上国と日本との共創でもあり、リバース・イノベーションでもある。そして、日本の関係者の中での共創でもある。こういった共創により、SDGsのように幅広い課題を国際社会の中で解決していきたいと思う。

◆国際協力の課題:「大綱の基本理念、子どもや若者を巻き込んだ議論を」(堀江氏)

若林:これからの国際協力の課題は何かということをお伺いしたい。いろいろな角度からのアプローチが可能だ。日本の国力が相対的に劣化しつつあり、ODA予算が削減傾向にある中で、これからの国際協力はどうあるべきか、ということでご意見をいただけたら、と思う。

岡島:今後のODAのあり方ということでいえば、パイロット国をいくつか選定して、現地のNGOのネットワークについて評価をする。そういったことを2~3年かけてやっていくことに乗り出せたらいいと考える。今回の大綱の中でのキーワードは共創。多様なアクターを取り込んだ形で、解決策が容易にみつからないような複雑な課題に対し、関係者を取り込んだ形で共に創っていくとういことでは、現地のNGOネットワークを取り込んでつながりを強化するコミュニティ・エンパワーメント・プログラム(CEP)が活用できるのではないか。これを通じてODAの一つの方向性を見いだせたらいいと思う。

堀江:大綱が人間の安全保障を理念としているなら、基本理念をどのように具現化していくのか、を議論していきたい。より広く、子どもや若者を含む、一般市民を巻き込んだ議論をしたい。子どもたちも意見を言えるようにして、子ども向けの説明をする。より広くよびかけて意見を集めていくことも必要なのではないか。新型コロナや物価高騰など、地球規模の課題が私たちの身近な生活にも直結している。他国、他地域の課題が、私たちの足元の課題でもあることは、だれもが共通に感じている。日本が強みを生かして国際協力していくことが、中長期的には日本の国益になる。

若林:政府と市民社会が、お互いの強みを生かし、学びながら開発協力に取り組んでいくことが重要だ。政府ともより新しい形の連携を進めていくことが大事ではないだろうか。

上田:改定された大綱は新たな羅針盤になるとおっしゃっていただいたが、まさにそのようなものになるようにしたい。アクターがより多様化する中で、その間の連携を深めることによって、途上国と対等な目線に立って、社会的価値を共に創り出していくというメッセージがこめられている大綱だ。その意味において、NGOの皆さんをはじめとして、みんなで一緒に努力をし、汗をかける大綱というものを目指している。

今日の議論の中でも、まだまだ議論を深めながら実施しなくてはいけないと感じる部分があった。ただ、大きな問題意識、大きな課題は共通認識があったと思うので、その解決に向けてともに汗をかくというオールジャパンの姿勢がもういちど確立されるという機会になれば、と願っている。私自身、今はインドネシアに駐在しており、現場でしっかり新たな大綱を実践すべく汗をかいていきたい。

堀江:SDGサミットの関連会議で、「ノームセッティング」という言葉がよく使われていた。国連は機能不全に陥ったと言われるが、ノーム、ルールをセットするというところの役割は担っている。日本としては、この部分でもっと力を発揮できるといいと感じている。新型コロナ対策、グローバルヘルスの分野で、日本は国際的な行動に積極的にかかわってきた。そういった多国間主義に基づくノームセッティングは、国際協力と平和構築という領域にもかかわってくる。日本の役割として期待したい。

若林:ノームセッティングはこれまで日本があまり得意としてきた分野ではないが、これからはリードしてやっていければ素晴らしい。市民社会も協力したい。

岡島:2000年代から2010年代まで、援助効果の議論が高まった時期があり、その時はまさにノームを確立しようとする空気があった。ところが、その後、だんだん日本の国益論や、ほかの先進国による一国主義などが前面にでてきて、その空気が薄れ、思考がセルフィッシュ、ドメスティックになっていると感じていた。しかし、今度のSDGサミットでノームセッティングの話が出ていたということは、改めてアメリカファーストではない、多国間でのノームをつくりあげていこうという動きはまだ健在なのだと思った。ぜひそこに希望を見出したい。

若林:今回の議論を通じて、非常に多くの学びを得た。開発協力をめぐる政策は、政府だけではなく、市民社会も国際協力の現場に則した効果的な政策作り、提言力を高めていくことが必要だ。われわれ自身も、NGOの強みを生かしながら、様々なセクターと共に、お互いに共創の精神で、もっと踏み込んで取り組んでいけるようにがんばっていきたい。

〈メッセージ〉

Jyotsna Mohan

(Regional Coordinator アジア開発連盟:ADA)

日本政府への期待-市民社会スペースを守る取組の強化

昨年(2023年6月)実施された「開発協力大綱」の改訂を歓迎します。日本政府とJICAによる、ODA(政府開発援助)を通じたアジア開発への貢献は著しく、高く評価すべきであると捉えています。

日本のODAは、多くのアジア諸国において経済成長の促進、生活水準の向上、社会の安定と発展の促進の手助けになってきました。例えばインドにおいては、産業への投資や技術移転をはじめとする経済発展分野での協力、地下鉄システムの建設、高速鉄道プロジェクト、産業回廊の開発を含むインフラの改善が進められてきました。また、両国間の協力を基に、病院や学校の建設、電力供給能力の向上、ポリオ根絶などの保健分野、そしてクリーンエネルギー、再生可能エネルギーや環境保護に関するエネルギーと環境セクターでの開発が進められてきました。

一方、現在アジアを含む世界各地を見渡しますと、増加する権威主義国家による市民社会への規制が強化されています。日本のODAは通常、政府と政府の間の支援ですが、その中でも被援助国における人権保障、司法の独立、法整備支援、グッドガバナンス等、法が支配する社会を強化する支援に力を入れるべきです。透明で説明責任を果たすための法制度の促進は、市民社会スペースを守り、人権を保護する上で不可欠です。さらに、日本政府は被援助国のローカルコミュニティーやNGOへの直接支援を拡大し、彼らの公正な社会を推進する能力を強化すべきです。

2023年9月に開催されたSDGサミットにおいて、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、加盟国に向けSDGs達成への資金が不足し、特に開発途上国向けの資金は年間5,000億ドル必要であると繰り返し要請しました。我々は、日本政府が国際的な合意に従い、日本のODAをGNI比0.7%へ引き上げることを期待しています。

私が地域コーディネーターを務めるアジア開発連盟(Asia Development Alliance)は、SDG16(平和と公正をすべて人に)およびSDG16+に焦点を当てて活動しています。SDG16は、平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスの保障、あらゆるレベルで効果的かつ責任ある透明性の高い機関(含む政府)を構築することを目指しています。またこの目標は、SDGs全体の横断的な目標ともいえ、公正で持続可能な社会を作る上で極めて重要な土台となるものです。私たちはSDG16とSDGs16+の下で、平和で包摂的な持続可能な社会の達成に向け、人権擁護者をサポートし、ジェンダー平等の推進、子どもや脆弱な立場に置かれている人々の権利を擁護しながら、あらゆる形態の暴力の根絶、市民が透明な政府の下で自由に活動できるスペースの確保に向け、取り組みを強化してまいります。

※SDG16+は、SDG16を基本としつつ、平和・公正・包摂に関する他の目標を一緒に捉えて、目標16をより広い視点で達成していこう、という考え方です。日本政府を含む31の国連加盟国から構成される「平和・公正・包摂的な社会のためのパスファインダー」という多国間組織が2017年に提唱しましたが、現在、日本は加盟国には入っていません。 https://www.sdg16.plus/

 
© Japan NGO Center for International Cooperation
feedback
Top