2024 Volume 2 Pages 79-87
The paper reviews the issues and current situation related to the partnership between Northern and Southern Non-Governmental Organizations (NGOs), focusing on initiatives aimed at rebuilding these relationships and re-examining support for civil society in the South. It also examines the current position of NGOs as donors and the potential of initiatives to rebuild relationships with Southern NGOs.
NGOs started to evolve since the 1980s with an expectation of offering an alternative approach in development. However, northern NGOs have become part of the traditional aid structure to provide service providers and function as fund managers of donor countries, focusing on quantifiable project results, often perceived as inflexible donors by Southern NGOs. To truly embody an alternative development approach, NGOs need to break away from the traditional aid structure. This involves transforming the position of Northern NGOs and reconstructing their partnership with Southern NGOs.
Several attempts to rebuild this relationship have been made, but with limited success. However, recent initiatives like “Pledge for Change” and reports by Peace Direct are emerging, focusing on correcting power relations existing in partnerships between Northern and Southern NGOs.
NGO(非政府組織)1)の活動が活発化し始めた1980年代、NGOの存在は既存の開発パラダイムに代わるアプローチを提示するものと期待されていた。しかし、こうした期待は徐々に失望に変わっていった。北のNGOは、伝統的なドナー国の代理人としてプロジェクトを遂行するサービス・プロバイダーあるいはドナー国の資金をドナーに代わって管理し、南のNGOに提供する資金管理団体になっていった。さらに、ドナー国がバリュー・フォー・マネー(Value for Money)などのスローガンのもと、定量的なプロジェクトの成果を重視し始めると、NGOによる活動の成果も数値化され可視化されるべきとの方向性が強く打ち出されるようになった。
北のNGOを通してドナー国から資金を受け取る南のNGOにとって、北のNGOからの資金が増えるにつれ、北のNGOは伝統的な援助構造の中で柔軟性に欠ける支援者と見られるようになった。南のNGOへの柔軟性を欠いた支援は南の市民社会の成長を十分に促すことができず、現在多くの南の市民社会が直面する民主主義の後退や、市民社会スペースの縮小の一因になったとも考えられる。
オルタナティブな開発アプローチを提唱するNGOがその概念を実現するためには、伝統的な開発援助構造からの脱却と、ドナーとしてあるいは開発の実践者として新しい形態を模索することが不可欠である。そのためには、現在の伝統的な援助モデルに組み込まれた北のNGOの位置付けを転換し、北と南のNGOの関係を再構築する必要がある。実際に、これまで南北NGOの関係を再構築しようとする動きは何度か試みられてきた。しかし、そのほとんどは結果を残せていない。
そのような中でも近年、北のNGOが主導するプレッジ・フォー・チェンジ(Pledge for Change)や、南側のNGOが主導するシフト・ザ・パワー(Shift the power)といった新たな取り組みが出てきている。さらに、ドナー国とNGOの関係を見直そうという動きもOECD-DAC(経済協力開発機構開発援助委員会)の中で活発化している。これらの取り組みは、伝統的な援助の構造に内在する権力関係と資源格差の是正に焦点をあてている。
本稿は、ドナーとしての北のNGOと、北のNGOから資金を受け取る南のNGOとの関係に関わる課題と現状を既存の研究や報告を通して振り返るものである。特に、南北NGO間の関係再構築を目的とする取り組みや、南の市民社会への支援を再検討しようとする取り組みに焦点をあてる。最後に、ドナーとしての北のNGOの現在地と、南北のNGOの関係を再構築しようとする取り組みの可能性を検討する。
本節では、主に2000年前後に北のNGOに向けられた批判を検討する。この時期、北のNGOは公的なドナーから多額の資金を受け取り、パートナーシップという形で南のNGOに資金を提供し始めた。同時に、このパートナーシップをめぐってさまざまな批判がNGOに向けられ始めたのもこの時期である。
パートナーシップは、南北NGOが協力する際の重要な概念として強調されてきた。開発プロジェクトを成功させるためには、様々な人や組織を巻き込む必要があり、そのためには協力関係を築く必要があるためである。北のNGOは南のNGOに単に資金を提供するだけでなく、南のNGOとパートナーシップを構築し、協力することが標準的な活動形態となっている。
パートナーシップには普遍的な定義はないが、その中心的な価値としては、目標の共有、相互の役割と責任、ガバナンスの共有、長期的な関与、コストと利益の公平な配分、結果に対する責任の共有、開かれた対話、相互の説明責任などが挙げられる。具体的なアプローチを例示すると、北のNGOから見た場合、現地パートナーの自主性を尊重し、活動の決定権を譲り、能力を育成するための柔軟な資金を提供することなどがこれにあたる(Fowler 1998, Lister 2000, Brehm 2004)。
1980年代後半、北のNGOは、人間中心の開発あるいはオルタナティブな開発という方向性を志向する中で、プロジェクトの目標を達成するための戦略として、また南のNGOとの関係を構築する方法として、パートナーシップの概念を取り入れていった(Brehm 2004, Mawdsley et al, 2002, Harrison 2007, Lewis & Kanji, 2009)。1990年代後半には、北のNGOの多くが、開発を進める上で南のNGOとのパートナーシップが不可欠であると考えていたとされる(Lewis 1998, Nyamugasira1998, Brehm 2004)。
しかし、同時に北のNGOはパートナーシップに関する原則を守っていないという批判を受けてきた(Ashman 2001, Lister 2000)。具体的には、パートナーシップの実態が北のNGOを上位に置いたトップダウンの関係であること、資金提供の際に様々な条件が付されること、信頼関係よりも管理が優先されること、つまり自律よりも依存につながるような関係性が北と南のNGOの関係性を特徴づけているとの批判である。
特に、北のNGOの活動は、資金の出処であるドナーの意向を強く反映しているとの批判が強い。北のNGOが南のNGOと協働する際、現地の状況や優先事項が取り組みに反映されることは少なく、背後にいるドナーの意向を反映した活動になることが多いとされる。援助国から受益国へ流れる援助の連鎖は、二国間および多国間ドナーから北のNGOへ、そして南のNGOへとつながっている。そしてその連鎖の中でさまざまな条件が付けられる(Bornstein 2003; 2006)。その結果、北のNGOは南の意見をほとんど取り入れないだけでなく(Lister 2001)、プロジェクトの設計に独自の方針を押し付けることがある(Fowler 1998, Lister 2000)。さらに、2000年前後から、NGOへの支援に関連する資金について、目に見える成果と高い透明性が要求されるようになった(Nelson 2006)。援助の連鎖が密になっている現状を踏まえると、北のNGOが政府資金に依存すればするほど、ドナー国政府の政策変更が南のパートナー団体に影響を与える可能性は高くなる(Biekart 1999)。
パートナーシップという言葉の曖昧さもまた、批判の対象となった。パートナーシップに内在する「平等」という概念は、南北NGO関係の現状を曖昧にし、関係性を美化するため、パートナーシップという言葉自体が問題視された。すなわち、北のNGOが南のパートナーに自分たちの方針を押し付ける手段としてパートナーシップという言葉を意図的に使っているという主張である(Crawford 2003, Abrahamsen 2004)。この観点からすると、パートナーシップは、「新しい植民地主義」(Wallace et al. 2006)の一部として、本来の動機を隠すために使われる「トロイの木馬」のようなものと見なすことができる。
このようなパートナーシップの理想と現実の乖離の原因は、南のNGOが北のドナー団体に経済的に依存していることにある(Michael 2004, Hately 1997, Lister 2000)。パートナーシップとは、両者が目標を達成するために互いを必要とするという意味において、相互依存的な関係と考えられる。南のNGOはその使命を遂行するために資金を必要とし、北のNGOは、自らの資源を効果的に活用できる信頼のおける南のパートナーを必要としている(Ebrahim 2002, 2005)。しかし、この相互依存は、必ずしも両者の対等な関係を構築するものではない。多くの南のNGOにとって、自国内で資金を調達することは困難であるため、北の資金を失うことは組織の存続にかかわる事態である。そのため、パートナーシップは必然的に南のパートナー組織よりも北のNGOに優位性を与えることになる(Hudock 1995, Lister 2000)。
パートナーシップの原則と実践の矛盾は、最終的に北のNGOの正統性に大きな影響を与えることも指摘されてきた。本質的なパートナーシップを実現できないことによって、北のNGOは自らが提唱する価値と矛盾する行動をとることになる。この矛盾が拡大すると、北のNGOは南のNGOを支援する公的ドナーの仲介者であること以外の存在価値を失わせ、信頼性を損なうことになる(Biekart 1999, Ashman 2001, Fowler 2000)。価値主導型の組織であるNGOは、そのアイデンティティと信頼性を維持するために、自らが追求する価値と行動を一致させる必要があるといえる(Edwards & Fowler 2002, Hudson 2000)。
前節で概観したように、南北NGO間のパートナーシップは2000年前後から批判されてきた。特に、北のNGOによる南のNGOに対する資金的な支援のあり方は、NGOコミュニティの中で改善されるべき問題とされてきた。北のNGOは伝統的なドナーの援助構造の中に組み込まれ、ドナーの代理人として機能してきた。しかし、長年の批判にもかかわらず、近年そのような状況が改善されたとは言い難い。本節では、近年実施された調査や報告を通じて、南北NGO間のパートナーシップの現状を明らかにする。
3.1.Development Assistance Committee Members and Civil Society, The Development Dimension(DAC加盟国と市民社会、開発の側面)本報告書は、OECD-DACが2020年に発表したDAC加盟国と市民社会間の開発協力に関するものである。一般的に、DAC加盟国はNGOを支援するために複数のメカニズムを持っており、対象や目的、地域によって異なるメカニズムを用いてNGOを支援する。本報告書によれば、NGOに対する支援、中でも南のNGOへの支援にはさまざまな問題がみられる(OECD 2020)。
まず、DAC諸国による南のNGO支援が限定的であることが挙げられる。DAC諸国からNGOに供与される資金のうち、南のNGOに直接流れる資金はわずか7%で、残りの93%は北のNGOが受け取っている。北のNGOは、これらの資金を自らの活動に使うか、自身の管理の下、南のNGOの活動の支援に活用している。この数字から、ドナー諸国が南のNGOを直接支援することに消極的であることがうかがえる。
NGOがドナー国から受け取る資金の質も問題とされる。NGOが受け取る資金は大きく2つに分けられる。ひとつはNGOを通じた資金(support “through” NGO)であり、もうひとつはNGOへの資金(support “to” NGO)である。前者は、ドナー国が実施するプロジェクトをNGOに委託する形態であり、この場合プロジェクトのオーナーシップはNGOにはない。一方、後者はNGO自身の活動に資金を提供するものであり、この場合NGOが主体的に資金を使うことになる。DAC諸国がNGOに拠出する資金の80%から90%は前者にあたる2)。このことは、NGOを独立した開発アクターとして扱う資金が限られていることを示している。ドナー側にオーナーシップをもたせる資金提供のあり方は、DAC諸国によるNGO支援メカニズムが、支援対象国の市民社会強化という目的に適切に合致しているかどうかという疑問を残している。
報告書はまた、支援対象国の市民社会強化を適切に評価するための情報が少ないことも指摘している。加盟国の資金援助メカニズムが、NGOの優先事項や戦略にどの程度対応しているのか、あるいは支援を提供する際に加盟国がどの程度のコンディショナリティを課しているのか、などのデータを補足すべきであるとしている。
支援の際のコンディショナリティについては、ドナー国の支援メカニズムが過度に指示的であるため、NGOの裁量が少ないことが指摘されている。また、9割のDAC加盟国において、NGOが資金を得るためには、NGOの活動がその国の政策の優先順位に合致している必要があるとされる。その意味では、ドナー国から資金援助を受けている北のNGOは、パートナー国の市民社会を強化するというよりも、ドナー国の政策を実現するためのプロジェクトを実施しているといえる。
報告書は、パートナー国の市民社会を直接支援する国や組織が少ない理由について、南の市民社会に対する信頼が十分ではない点を指摘している。その原因として、パートナー国の法律や規則、手続きが複雑であったり、パートナー団体自身の能力が不足していることが挙げられている。例えば、調査に回答した加盟国29カ国の中で23カ国がパートナー国の団体の能力の不足(専門性の欠如や職員の高い離職率など)を指摘している。また、18カ国がそれらの団体のアカウンタビリティや透明性の問題(資金の不適切な管理や汚職)を挙げ、17カ国がそれらの団体を支援する際のパートナー国の法的、制度的制約を問題として指摘している。パートナー国の制度や組織に対する信頼が十分ではないために、リスク回避をする目的で南のパートナー団体を直接支援することを避ける傾向がみられる。
このように、DACに所属する国々は南のNGOへの支援に消極的なだけでなく、支援の際にもさまざまな制約を課している。その結果、南のNGOにとって、ドナー国あるいは北のNGOによる資金は柔軟性に欠けた硬直的な資金として映る。北のNGOは南のNGOと協力しつつも、ドナー国によるさまざまな制約の下で自身の活動を展開したり、南のNGOに資金を提供しているのが実態である。
3.2.Fostering Equitable North-South Civil Society Partnerships(公平な南北市民社会のパートナーシップの推進)この報告書は、2020年に600を超える南のNGOに対して実施された北と南のNGOのパートナーシップに関する調査の結果を示したものである。その中で、多くの南のNGOが北に拠点を置くNGOとパートナーシップを結び活動しつつも、その関係に難しさを感じていることを指摘している(Rights CoLAB, 2021)。
報告書はまず、調査に回答したほぼすべての南のNGOが複数の北のNGOとなんらかの協力関係をもって活動していることを明らかにしている。このことから、現在では、北と南のNGOが協力することは一般的となっていることがわかる。その上で、南のNGOの9割近くが、北のNGOとの協力を好意的にとらえつつも、その関係は対等ではないと考えていることを調査は明らかにしている。例えば、多くの北のNGOが現地の状況を理解していない、あるいは現地の状況が北のNGOのプログラムや計画、戦略に反映されていないという意見が南のNGOの中に根強い。さらに、プロジェクトの実施にあたって欧米のシステムやモデルが採用されているため、南のNGOの業務の進め方、予算の組み方、報告の仕方などが考慮されていないとする意見もある。そのため、南のNGOの9割近くは、北のNGOによるこのようなプロジェクトの進め方が、プロジェクトの効率性と継続性に悪影響があると考えていると報告書は指摘している。
調査結果からわかるように、南北のNGOの関係性が抱える問題の構造は20年前から変わっていない。北のNGOは伝統的な援助構造に組み込まれ、先進国ドナーの意向を反映した政策を実行する主体として捉えられている。その意味で、南のNGOからみると北のNGOは伝統的ドナーの代理人という立場から脱却できていないと映る。
3.3.Time to Decolonise Aid(援助を脱植民地化するとき)2020年、ピースダイレクト(Peace Direct)3)は市民社会関係者とのインタビューや議論を基に作成した「援助を脱植民地化するとき」と題する報告書を発表した。この報告書の中心的な議論は、パートナーシップを含む援助の構造を新植民地主義的であるとして批判し、この構造を改革するために援助の脱植民地化を求めている点にある(Peace Direct 2020)。本報告書が発表された2020年当時、援助の脱植民地化という言葉はほとんど使われていなかったが、報告書はパートナーシップの現状を新植民地主義や構造的人種主義といった枠組みで読み解くことで現在の問題に対する処方箋を提供している4)。
ここでいう脱植民地化とは、西洋の思想やアプローチの優位性に基づく植民地時代のイデオロギーの解体を指す。報告書によると、植民地化されたパートナーシップでは、関係者間に不平等な力関係が存在するとともに、グローバル・サウスのアクターの主体性と独立性が尊重されていないと指摘している。そして、その根底には構造的人種主義があるとする。開発援助の文脈における構造的人種主義とは、開発協力や人道支援に関する業務を遂行するための基本的な能力や技術を南のアクターが欠いているという前提を持つことであり、援助の実践にあたっては北のアクターが資金や活動を管理する形で進められる5)。報告書では、このような構造的人種主義の問題に取り組んでいくことが、脱植民地化されたパートナーシップを構築するための重要な行動としている。
本報告書のひとつの焦点は、公平なパートナーシップ(Equitable Partnership)と脱植民地化されたパートナーシップ(Decolonized Partnership)を別物と捉え、その違いについて言及していることである。パートナーシップに関する論文や報告書の多くは、主として公平なパートナーシップの問題を議論しており、その際には相互の信頼と尊重や相互の利益といった価値が重視される。しかし、本報告書では、既存のパートナーシップには新植民地主義的な考え方や人種差別的な視点が内在しており、公平なパートナーシップを実現するためには、それらの視点や考え方を乗り越える必要があるものの、現在のパートナーシップに関する論文や報告書には、その試みがないことを批判する。報告書はさらに踏み込んで、北と南のアクター間の権力と資金量の格差を考慮すると、現在のアプローチでは真に公平なパートナーシップの実現性にも疑問があると指摘している。
パートナーシップに対する批判が高まるにつれ、公平なパートナーシップを実現するためのイニシアティブやコミットメントが北のNGOによって多く試みられてきた。しかし、報告書は、世界の北と南のアクター間のほとんどのパートナーシップの性質や形は変わっていないとし、その理由として4つの点を指摘する。ひとつは、パートナーシップという言葉の曖昧性である。北のアクターはこの曖昧性を利用して、自分たちに都合のよい関係を構築しているとする。2点目は、北のアクターが現場で成果を生み出すための道具として南のNGOを利用しているだけであるという指摘である。3点目は、北のアクターは人種差別主義、新植民地主義的な考えを持っているが、それを自覚しておらず、また南のNGOはその存在に気づいているが、資金を失うことを恐れて声を上げられない状況にあるという指摘である。最後に、北と南のアクターの間には不平等な権力構造があり、北のNGOはこの構造を認識しているが、あえてこの問題に触れていないという点を指摘する。
報告書は、北のアクターが権力についての議論を避ける理由についても批判的に分析している。報告書によると、北のNGOは現状を維持したいという欲求を持っているだけでなく、依然として外部からの助けが必要な存在として南の市民社会を捉えている。さらに、北のNGOは自分たちが必要とされない世界を想像することができない存在であり、同時にパートナーシップの中に構造的に内在する非対称的な権力関係について議論する能力を欠いている存在でもあると指摘している。近年発表されている報告書の中ではもっとも厳しい批判がこの報告書の中で北のNGOに対して向けられている。
上記で挙げた報告書の他にも多くの研究や調査が、パートナーシップの問題は現在も続いていることを指摘している。伝統的な援助構造に組み込まれている北のNGOは、南のNGOとの関係においてパートナーシップという言葉を使いつつ、実際には資金を背景に優位な立場で権力を行使していると言われる。
そうした状況に対して、変化を起こそうとする動きもある。NGO自身がイニシアティブをとって状況を変えようとしたこれまでの動きとして、例えば、2010年に世界中のNGOが参加して策定された「CSO(市民社会組織)開発効果のためのイスタンブール原則(Open Forum for CSO Development Effectiveness, 2010)」や、2015年に策定された「変革のための憲章(Charter for Change)6)」などがある。これらの取り組みは、NGO自身が行動を変革するための方法として行動規範や方針を作成し、NGO自身が実行しようというものである。
しかし、これまでの取り組みが成功したとは言い難い。類似の取り組みが試みられては、限られた変化を起こした後、終了してきた。そのような中、本節では南の市民社会支援の文脈で近年形成された3つのイニシアティブと報告書に焦点をあてる。
4.1.DAC Recommendation on Enabling Civil Society in Development Co-operation and Humanitarian Assistance(開発協力と人道支援におけるDAC市民社会勧告)援助国の集まりであるOECD-DACは、2021年に「開発協力と人道支援におけるDAC市民社会勧告」を発表した(OECD 2023a)。この勧告は、開発協力や人道支援の分野でDACに加盟するドナー国と市民社会との協働を支援することを目的としている。この勧告が出される以前もDACは、加盟国による市民社会との協力の状況や現状について調査を実施してきた。その中で、開発協力や人道支援の分野で市民社会との協力をさらに強化すべきとの認識が高まり、2020年のDACハイレベル会合のコミュニケの中で、市民社会との協力に関する政策文書をDACとして作成することが記載された。その結果、作成されたのがこの勧告である。
この勧告とそれに続いて作成されたツールキットは、南の市民社会への支援に開発援助関係者の関心が集まっていることを示している。この勧告は、1)市民社会スペースを尊重・保護・促進する、2)市民社会を支援し、関与する、3)CSOの効果・透明性・アカウンタビリティ のインセンティブを与える、の3つの柱からなり、それぞれの柱の下に合計28の項目がある。この3つの柱と28の項目の実施を支援するために、技術的な方法を示したツールキットを作成することが勧告の中で求められており、関係者が議論を重ねた結果、2023年に2つ目の柱に関するツールキットである「パートナー国の市民社会への資金供与-開発協力および人道支援におけるDAC市民社会勧告を実施するためのツールキット」が発表された(OECD 2023b)。このツールキットは、資金を提供する側が南のNGOを含む市民社会組織を支援する際の選択肢と留意点について示したものである。OECD-DAC内では、市民社会支援に関する様々な問題が議論されてきたが、南の市民社会支援に特化した議論はこれまでなかった。DAC市民社会勧告やツールキットの作成の動きは、開発援助の世界で南の市民社会への支援に焦点が当たりつつあることを示している。
このツールキットでは、これまで南の市民社会を支援する際に指摘されていた課題への対応策が、ガイダンスとして10の項目にわたり記載されている7)。例をひとつ挙げると、資金の経路(Funding Channel)の項には、もっとも効果的な支援の方法として「地元のオーナーシップとリーダーシップを強化するために、パートナー国の市民社会に直接資金を提供する」と書かれており、資金を提供する際の留意点として、「最も適切なチャンネルを決定するために、定期的に状況分析とニーズ・アセスメントを行うこと」と記されている。前述の通り、北のアクターは、南の団体を直接支援することが少ないことに加え、現地の状況を考慮せずに支援を決定することが多いという批判がある。このように、ツールキットでは、これまで指摘されてきた課題に対する対応策が対になる形で示されている。
このツールキットで注目すべき点は、南北の権力関係に触れている点である。同ツールキットは、南のアクターへの支援について、「現地化(Localizing)は、開発協力や人道支援を提供する側が力の不均衡に対処し、現地のオーナーシップを高め、現地の状況に対応するために資源や意思決定をシフトさせる、より広範なパワーシフトとパワーシェアリングの概念に含まれる」と述べ、権力構造の変化が南のアクターを支援する上で重要なポイントであることを指摘している(OECD 2023b)。
4.2.Pledge for Change(プレッジ・フォー・チェンジ)プレッジ・フォー・チェンジ8)は、南のNGOとの公平なパートナーシップを実現するために、北の大手国際NGOが2022年に制定したガイドラインである9)。このようなガイドラインは、北のNGOの間で何度か作られてきたが、十分な変化を生んだことはなかった。
プレッジ・フォー・チェンジは3つの項目からなる。1つ目は公平なパートナーシップの実現、2つ目は公平な広報の実施、3つ目は幅広いステークホルダーの参画である。1つ目の公平なパートナーシップの実現については、北のNGOがパートナー国で活動する際には、できる限り相手側の団体に業務を委ねることや、プロジェクト実施にあたっては意思決定や資源の管理に関する権限を委譲することが明記されている。公正な広報に関する2つ目の点については、ドナー国においてパートナー国の実情を伝える際、貧困や紛争に関するステレオタイプを助長するような記述やイメージの使用は控えるべきであるとされている。また、ステークホルダーの参画の項目では、市民社会以外のステークホルダーにもプレッジ・フォー・チェンジの実施について広く知らせることで、このイニシアティブへの支持を広めることが述べられている。
加えて、これまで策定されてきた類似のガイドラインの場合、参加団体に署名を求めるだけであることが多かったが、このプレッジ・フォー・チェンジでは透明性と説明責任を確保するために進捗状況の報告を義務付けている。さらに、ガイドラインの達成度の検証可能性を高めるために、今後具体的な数値目標を設定するとしている。こうした動きは、これまでの取り組みには見られなかった。
モニタリングや目標設定に加え、OECD-DACのツールキット同様、公平なパートナーシップを構築するためには権力関係の変化が必要であることをプレッジ・フォー・チェンジは明示している。ただし、権力関係に関する詳細な記載がないため、どのように権力関係に変化をもたらすことができると考えているのかは明らかではない。このような課題はあるものの、北の大手NGOのこうした取り組みが、他の北のNGOに影響を与えることは十分に予想される。
4.3.Transforming Partnerships in International Cooperation(国際協力におけるパートナーシップの変革)ピースダイレクトは、南北のパートナーシップの課題を批判的に指摘するだけではなく、南北のアクター間の関係の変化を促すための提案も試みている。2023年に発表されたこの報告書では、70カ国200人を超える関係者との議論を踏まえ、公平かつ脱植民地化したパートナーシップを実現するための提案を示した(Peace Direct 2023a)。報告書の中では、パートナーシップを公平かつ脱植民地化するためには4つの側面からパートナーシップを考える必要があるとする。まず第一に、西洋の優位性を前提としたマインドセットと世界観(Mindset and Worldviews)を変えること、第二に、信頼、謙虚さ、尊敬、相互性/互恵性(Trust, Humanity, Respect & Mutuality/Reciprocity)という4つの価値を尊重すること、第三に南北アクター間で使われるコミュニケーションと言葉(Communication and Language)を変えること、最後にパートナーシップ下で実施される活動に具体的な変化を起こしていくことである。これら4つの側面に関して、具体的に取るべき行動について報告書の中では詳細な記述がされている。
さらにピースダイレクトは2023年、「国際協力における中間支援団体の9つの役割(The nine roles that intermediaries in international cooperation)」という報告書を発表した(Peace Direct 2023b)。ここでの中間支援団体とは北の国際NGOを指す。報告書は、北のNGOが単に公的ドナーからの資金を管理するだけの役割ではなく、南のNGOとの関係でより積極的な役割が果たせるとする10)。例えば、北のドナーの政策や方針を南のNGOにわかりやすく伝える通訳者の役割である。北のドナーの政策や方針は各国に固有の事情を背景にしている場合があり、外部者には用語や意味が理解しにくいことがある。その場合、ドナーと接点の多い北のNGOが南のNGOの文脈に沿って説明する役割が期待される。ピースダイレクトは北のNGOに対してこれまで意識されていなかった9つの役割を提案し、北のNGOが資金管理団体という役割を超えて、南のNGOの動きを積極的に支えていく役割を発信している。
北のNGOは、自らプロジェクトを実施しつつ、同時に南のNGOへのドナーとしても機能してきた。そのような中、北のNGOが南のNGOと協働してプロジェクトを実施する際には、常にパートナーシップに関する問題がつきまとってきた。北のNGOは、このパートナーシップの問題の解決を図るために関係団体の間でイニシアティブや枠組みの形成を模索してきたが、いずれも問題の解決には至らなかった。
しかし、最近の取り組みの中で、パートナーシップという言葉の根底にある権力構造への言及が増えていることは注目に値する。第三者的な研究だけではなく、ドナー国や、南のNGOに資金を提供する北のNGOも、自らの力を認識し行動を起こし始めたことは特徴的な動きといえる。このことは、関係者がパートナーシップの構造の根本にある問題を理解し、変革しようとする姿勢を反映していると考えられる。
現在、北のNGOの多くは、依然として伝統的な援助構造の中に組み込まれ、先進国ドナーの代理人として機能する側面がある。しかし、変化を起こそうとするアクターの多様化や取り組みの多様化を踏まえると、現状を変えるための試みの厚みは増しつつある。これらの試みが現状を変える十分な力を持ちうるかは依然として不透明であるが、これまでにない動きが進んでいることは指摘できるだろう。
実際に具体的な変化が起こりつつある。イギリスのネットワークNGOであるBONDは、「反人種主義と脱植民地化-組織のための枠組み(Anit-racism and decolonising-A framework for organizations)」とする文書を2023年に発表し、BONDに参加する団体に対して人種主義の問題への対応を求めた(BOND 2023)。さらに、公平で公正な社会を目指すにあたり適切ではない表現として援助(Aid)、裨益者(Beneficiaries)、発展途上国(Developing countries)といった言葉に着目し、組織としてこれらの表現を使わないという決定を下した11)。このような具体的な動きが今後どのように積み重なっていくかがパートナーシップの構造的な問題に変化を起こせるかの鍵になる。