2025 Volume 3 Pages 1-2
国際平和への闘いに終わりはない。人類の歴史を振り返れば、常に戦争の惨禍を繰り返してきたが、それでも我々は平和への希求をあきらめず、様々な取り組みを経て今日に至っている。現在、国際平和に向けたメインの舞台は、勿論、2025年に設立80周年の節目を迎える国際連合である。
現在、国際社会を取り巻く環境は複合危機に直面し、歴史的な転換期にあるといえよう。気候変動とそれに伴う自然災害、感染症、生物多様性の減少、化学物質の拡散を始めとする地球規模課題は深刻化している。また、多くの開発途上国は経済成長の減速や国内外の経済格差に苦しむと同時に、気候変動等に関する先進国の対応への不満を膨らませている。この結果、グローバルサウスの存在感が高まり、G7とロシアや中国を中心とする地政学的な分断リスクは深刻化している。1989年にベルリンの壁が崩壊し冷戦が終結して以降、グローバリゼーションと相互依存が国際社会の平和と発展を支える新しい秩序となると期待されてきたが、ロシアのウクライナ侵攻は、その考えの限界をますます浮き彫りにした。
国際連合は、1945年に国連憲章を採択し、加盟国51カ国でスタートした。その精神は、各国の主権は維持しつつも、国際平和と安全、基本的人権の保障を目的とした、多国間主義に基づく国際的な協力を推進することであった。しかし、加盟国が193カ国に増えた現在、我々は国連憲章に謳われている精神と行動基準に沿った活動をしていると言えるのか。その答えはノーである。世界が混迷を深めている今、我々には未来を見据えてどう行動すべきかが問われている。国連憲章や国際法を無視した自国中心の行動を黙認し、世界戦争への道を再度歩むのか。それとも、国連のもとで再び結束し、多国間主義に立ち戻り、2015年に採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」等の国際的な合意の達成に向けて再び力強く歩むのか。我々はその深刻な選択の瀬戸際に立たされている。
こうした国際情勢の中、2024年9月に開かれた「国連未来サミット(Summit of the Future)」では、まさにこれらの問題を踏まえ、国際社会の将来と若者に焦点を当て、半年間に及ぶ政府間交渉を経て、多国間主義に基づくアクション中心の「未来のための協定(Pact for the Future)」がコンセンサスで採択された。ここでは、現在の課題として、「持続可能な開発と資金調達」、「国際の平和と安全」、「科学・技術・イノベーション(STI)、そしてデジタル協力」、「若者たち」、「グローバル・ガバナンスの変革」の5つに焦点を当てた意欲的な取り組みが示されている。しかし、どんなに素晴らしい内容でも、それが実現されるかどうかは、加盟国の政治的意思に委ねられている。約束を実行するために、多国間主義に基づく国際的な協力を強固に推進できるかどうか。加盟国と国連の真価が改めて問われる重要な年になろう。
今の混迷した世界情勢の最大の原因は、国連におけるグローバル・ガバナンスが機能していないことにある。「未来のための協定」では、第5章「グローバル・ガバナンスの変革」が改稿を経て全体的に強化され、非常に意欲的な内容になったものの、現実的にはこれまで同様の改革が進まず、またしても夢物語で終わる可能性は否定できない。
筆者も「国連未来サミット」に参加し、国連改革、とりわけ「安全保障理事会」の改革を争点と捉え、関連セッションに出席した。その中で、長年国連改革に携わってきたアフリカの、ある大使の言葉が印象的だった。それは、国連が民主的な運営を基本とするにも拘わらず、安全保障理事会常任理事国の5カ国のみが相変わらず拒否権(Veto)を持ち、それを加盟国のためではなく、自国の利益追求のために行使する現状は、国連の価値観に相反し非民主的(Undemocratic)であるという指摘であった。
「未来への協定」では、国連総会、経済社会理事会の機能強化に加え、ゼロドラフト(草案)では示されなかった安全保障理事会の改革についても、アフリカ問題を歴史的な不正義の事例として取り上げ、改革の緊急性、途上国を含む広範な代表制、透明性、説明責任、拒否権の是非等を指摘していることは評価したい。
現在の常任理事国は、第二次世界大戦における主要戦勝国5カ国で構成されている。設立当初51カ国だった国連加盟国は、今や4倍近い193カ国に増大しているにもかかわらず、その構造は80年経った今も変わっていない。日本も1990年代から常任理事国入りを目指してきたが、その努力は実っていない。現在は、特にアフリカから2カ国を常任理事国に加えるべきとの声も高まっている。
安保理改革はこれまでも議論されてきたが、今後も棚上げにされるのではないかという危惧がある。しかし、未来サミットに出席した加盟国からは、一方的にウクライナ侵攻を行ったロシアを名指しで批判するとともに、国連改革、とりわけ安保理改革をこれ以上先送りにしてはならない、それほど世界は危機的な状況にあるのだとの声が多く聞かれた。国連改革の機運はかつてないほどに高まっている。
出席したセッションの締めくくりで引用された、南アフリカの元大統領ネルソン・マンデラ氏の名言に、筆者も深く共感した。不可能と思われる安保理改革が進むことを心から願う。
「何事も成功するまでは不可能に思えるものである(It always seems impossible until it’s done!)」
(了)