THINK Lobby Journal
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Challenges in Multilateralism and the Roles of Various Sectors
Masaaki OHASHIShigemi ANDOMaiko ICHIHARAMasaya ONIMARUKaoru NEMOTO
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2025 Volume 3 Pages 3-12

Details
大橋 正明(特定非営利活動法人国際協力NGOセンター〈JANIC〉顧問)

SDGs市民社会ネットワーク共同代表理事、アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表、アーユス仏教国協力ネットワーク理事、シャプラニール=市民による海外協力の会シニア・アドバイザー。

恵泉女学園大学名誉教授、聖心女子大学グローバル共生研究所招聘研究員、放送大学客員教授。

安藤 重実(外務省国際協力局地球規模課題総括課長)

1999年、外務省入省。外務省南部アジア部南東アジア第一課首席事務官(メコン地域担当)、在インドネシア共和国日本国大使館経済担当参事官、在アメリカ合衆国日本国大使館経済担当参事官等を経て、2021年に外務省総合外交政策局国連企画調整課長、2023年に外務省総合外交政策局国連政策課長。2024年10月から現職。

市原 麻衣子(一橋大学大学院法学研究科および国際・公共政策大学院教授)

East Asia Democracy Forum運営委員長。World Movement for Democracyおよび日本ファクトチェックセンターの運営委員も務める。専門は国際政治学、民主化支援、日本外交、影響力工作。米ジョージ・ワシントン大学大学院政治学研究科博士課程修了(Ph.D.)。最近の著作に、“How to Tackle Disinformation in Japan: Lessons from the Russia-Ukraine War,” in Jessica Brandt, et al., Impact of Disinformation on Democracy in Asia (Brookings Institution, 2022); “Japanese Democracy After Shinzo Abe,” Journal of Democracy 32-1 (2021); and Japan's International Democracy Assistance as Soft Power: Neoclassical Realist Analysis (New York and London: Routledge, 2017)などがある。

鬼丸 昌也(JANIC理事長、認定NPO法人テラ・ルネッサンス創設者・理事)

大学在学中に「全ての生命が安心して生活できる社会の実現」を目的に、「テラ・ルネッサンス」設立。同団体では、カンボジア・ラオスでの地雷や不発弾処理支援、地雷埋設地域の生活再建支援、ウガンダ・コンゴ・ブルンジでの元子ども兵や紛争被害者の自立に必要な支援を実施。また、地雷、子ども兵や平和問題を伝える講演を続け、これまでに約23万人に届けた。2022年、JANIC理事長。

根本 かおる(国連広報センター所長)

東京大学法学部卒。テレビ朝日を経て、米国コロンビア大学大学院より国際関係論修士号を取得。1996年から2011年末まで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)にて、アジア、アフリカなどで難民支援活動に従事。ジュネーブ本部では政策立案、民間部門からの活動資金調達のコーディネートを担当。WFP国連世界食糧計画広報官、国連UNHCR協会事務局長も歴任。フリー・ジャーナリストを経て2013年8月より現職。2016年より日本政府が開催する「持続可能な開発目標(SDGs)推進円卓会議」の構成員を2024年6月まで務めた。2015年以来、SDGsの重要性を訴え続けたことが評価され、2021年度日本PR大賞「パーソン・オブ・ザ・イヤー」を受賞。

2024年9月に国連本部で開かれた「未来サミット(Summit of the Future)」は、現在の国連、あるいはこの世界が直面している「国連を中心とした多国間主義」の大きな揺らぎに対して、世界各国が一致して立ち向かっていけるかどうかの試金石だった。新型コロナのパンデミックによって貧困や格差の解消に向かっていた「持続可能な開発目標(SDGs)」は後退し、続いて起きたロシアによるウクライナ軍事侵攻や、イスラム勢力ハマスの奇襲に端を発したイスラエルによるガザ地区の攻撃やその拡大などによってグローバルな安全保障体制は大きく動揺した。その中で多国間主義の揺らぎは顕在化し、ますます増幅している。途上国の多くが再び債務に苦しみ、気候危機に対応する資金を確保できないことを背景とした、国際金融アーキテクチャーに対する不満などとしても表れた。

今回の「未来サミット」では、多国間主義に基づく国際システムに対する各国の強いコミットメントを求めた「未来のための協定(Pact for the Future)」が採択された。こうしたグローバルな課題に向けた現在の動きをどう見るか。国連、日本社会、市民社会、有識者の立場から意見を聞いた。

(モデレーター:大橋正明〈JANIC政策アドバイザー、恵泉女学園大学名誉教授〉)

※2024年10月4日に行われた座談会およびその後の意見交換を再構成しました。肩書や国際情勢などはその当時のものです。発言者は敬称略。

◆「『未来のための協定』は多国間主義を救うための野心的な取り組み」(根本)

大橋:今年(2024年)9月の国連総会では、グテーレス事務総長の呼びかけで「未来サミット(Summit of the Future)」が開かれた。その背景には、国連を中心とした多国間主義の揺らぎがある。グテーレス事務総長は2021年9月、「私たちの共通の課題(Our Common Agenda)」と題したビジョンを発表し、「第二次世界大戦以来最大の共通の試練において、人類はブレークダウン(崩壊)かブレークスルー(突破)かという厳しい緊急の選択を迫られている」と述べた。その後、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻があり、パレスチナ自治区ガザで始まったイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が、現在ではまさに中東全体に拡大するのではないかという緊張した状態になっている。平和主義、そして人々の生活を良くしていく貧困削減という二つのグローバルな流れが危機に直面している。

こうしたグローバルな危機の状況を踏まえて開かれた「未来サミット」では、一部の加盟国の反対などがあり、緊張感が高まっていたが、紆余曲折を経て「未来のための協定(Pact for the Future)」が採択された。皆さんは、それをどうとらえているか、ご感想をお聞きしたい。まずは根本さんから。

根本:厳しい国際環境と深まる分断、激しさを増す戦争の拡大という中にあって交渉は難航したが、それでも「未来のための協定」がまとまったことは、危機に陥っている多国間主義を崖っぷちから救うためにとても重要なことだった。また、広範な分野にわたる野心的な協定をまとめるということは、困難な挑戦でもあった。

私たちとしては、これで完結ではなく、実施をしていく出発点に立ったと思っている。グテーレス事務総長がこだわったのは、まず安全保障理事会の改革だ。「私たちの祖父母の世代に作られた制度で、これからの孫の世代の課題に対処することはできない」と繰り返し述べている。国連が発足した当時は加盟国は51カ国だったが、今はほぼ4倍の193カ国。アジア、アフリカ諸国の独立や、グローバルサウスといわれる新興国の発言力が強くなってきた中で、創設当時のままの制度に対して不公平感が広がっている。この新たな状況を反映した安保理にしなくてはならない。

安保理改革に加えて、国際金融アーキテクチャーの改革も事務総長が力を入れた点であり、重要だ。持続可能な開発目標(SDGs)が新型コロナウイルスの感染拡大、気候危機、ロシアによるウクライナ侵攻を引き金とした物価高というトリプルパンチで大きく後退している中で、SDGsや気候変動対策に振り分けられる資金をどのように確保するのか、途上国が代表性を持っていない、あるいは代表性が少ない国際金融アーキテクチャーを改革する必要がある。

さらに今回の未来サミットでは、暴走して社会にネガティブな影響をもたらす可能性のある、生成AIを中心とした新しい技術のグローバルなガバナンスについて、国際科学パネルの創設と人工知能(AI)に関するグローバル政策対話を含むロードマップについて合意できたのも大きな成果といえる。

大橋:日本政府はどのようにみているか、安藤さんにお聞きしたい。

安藤:最後まではらはらした局面もあり、「未来への協定」が無事採択されてほっとした。現在は、多国間主義にとって非常に難しい時代。2023年まで国連総会議長を務めたハンガリーのチャバ・クールシ氏は、「分水嶺」という言葉を使って現状を表現した。いろいろなものがどこへ向かうのかは、現在の取り組みにかかっていると感じる。

日本は一貫して多国間主義の強いサポーターとして、国連や多国間主義への信頼を取り戻すべく努力しているが、途上国、新興国の現行システムへの不信感、不満は大きい。私は「パクト=協定」の交渉において、安保理改革部分を担当したので、そこを中心に話したい。

安保理についての途上国・新興国の不満の中で大きいのは5カ国が拒否権という特権を独占していること。「いざ何かが起きると拒否権を行使して動きをつぶしてしまう」「普段は法の支配と言っているのに、二重基準、偽善ではないか」といった批判。国際システムに対する根源的な不満、問題意識でもあり、そうした不満に対応するために、安保理改革を進めることは極めて重要。今回の「パクト」の安保理改革部分は画期的な成果。2005年、2010年の国連の首脳級会議においても安保理改革が議論されたが、その成果文書はいずれも抽象的な内容だった。「パクト」の書きぶりはかなり具体的になった。

◆「自由権の重要性に言及がない協定、補完が必要だ」(市原)

大橋:市原さんはアカデミア(研究者)の立場で今回の協定をどのようにごらんになっているか。

市原:私はSDGs全体をみているのではなく、自由、人権をテーマとしている。従って、そういう方向にフォーカスして話したい。

国連という場を機能させることが難しいのは今に始まったことではない。冷戦期もそれ以降も同様だった。近年ではアメリカのトランプ政権第1期目が国連をはじめとする国際組織から撤退し、それが呼び水になって国際組織における中国の影響工作が活発になった。大国同士の地政学的な対立が国連にますます反映されるようになってしまった。そういう中で、SDGsに対するコミットメントが改めて協定に示されたことは、非常に心強いことだ。

ただ自由権に関して関心のある私からすると、国連の限界を感じた部分があった。

私自身が大切にしたいと思うものの見方の方向性は、アマルティア・センの考え方にある「経済開発のためにも人間開発のためにも、個々人が自己決定できること」である。

「未来のための協定」は、基本的な自由(fundamental freedoms) には以下のようなものが含まれると、行動7の26項(a)に記載している。“the right to development, promote the rule of law at the national and international levels and ensure equal justice for all and develop good governance at all levels and transparent, inclusive, effective and accountable institutions at all levels”である。これは二つの側面を重視していると思う。一つは社会権である。開発権、公平性を政府のような主体に、どのように保たせるかということを重視している。もう一つはグッドガバナンス。透明性や説明責任等だ。

この観点から抜け落ちているのは自由権である。言論、報道、集会結社、宗教などの自由。自由権は政府の力が強い途上国は裏書を躊躇しがちで、権威主義の大国にとっても容認が難しいだろう。他方で、中国やロシアを中心に、法の支配、民主主義、人権、選挙という、自由主義国において根幹となる中心概念が恣意的に利用されているという現実がある。その中において国連が自由権の重要性に言及できないことは、中露によるこれら概念理解の恣意的な歪曲に歯止めを掛けられないこととなり、限界を感じざるを得ない。ほかの形での補完が必要だと思う。

大橋:次に市民社会の重要な一画をなしているJANICとしては今回の動きをどのように理解しているか、ということを鬼丸さんにお願いしたい。

鬼丸:JANICとしてではなく、個人としての意見を中心に述べたい。まず、これだけ野心的な内容をよく合意できたな、と心から思う。「あらゆる改革は正当な危機感の共有から始まる」ということを教えてもらったことがある。まさに今回、国連事務総長が未来サミットの開会式で「多国間主義を崖っぷちから引き戻すのだ」という強烈な一言を述べられたというのは、その危機感の表明だっただろう。

考えたことは三つある。一つは、安保理改革においてアフリカのプレゼンスをどう高めていくのかということが、述べられているということ。二つ目は、若者世代に関して注視しているということ。そして、付属文書として「グローバルデジタルコンパクト」が採択されたということ。10代、20代の若者は、劇的にテクノロジーが変化する中で生きている。ということは、若者たちが主人公となる将来において、もう我々の既成概念や枠組みは役に立たないはずだ。その先の世界において主人公となる若者たちの意見や考え、不安、課題意識をちゃんと国際社会の真ん中に据えていくという視点を得たことはとても歓迎すべきことだと思う。そしてそれを担保するためのデジタルをどう取り扱っていくかについて、具体的な協定を今回採択することができたのはとても喜ばしいことだったと思う。

ただし、これに実効性をどう持たせるかということに結局かかっている。その点において、市民社会としてどうかかわることができるかをこれからも考えていきたいと思った。

◆「安保理改革、代表権のないアフリカの声を反映させることを最優先に」(鬼丸)

大橋:私は71歳になったが、自分の時代をみても、子どものころは公衆電話しかなかったのが、小学生のころ自宅に電話が入ってきて、今や携帯電話となって手元にある。だからといってそのような進歩の分だけ世界が平和になっているかというと、逆に紛争の数は増えている。根本さんがおっしゃったようにこの協定をどのように実施していくかということが、実は一番重要なことなのだろうと思う。

SDGsの実現も容易ではないが、この協定もきちんと取り組んでいくにはさまざまな努力が必要なのだろう。そしてその中心は、まさに何人かがおっしゃったように、安保理の改革なのだろうと思った。安保理では作られた当初から、「拒否権」をどう評価するかが問題だった。

拒否権は民主主義の破壊なのか、あるいは民主主義の保障なのか、いろいろな捉え方がある。安保理の常任理事の数を増やすことで、この時に拒否権は伴うのか伴わないのか、という議論があるだろうし、そもそも増やしたらうまくいくのかどうか、拒否権を弱めたりなくしたらどうなるのか、といったことも重要な問いになるだろう。

今回、どう改革するかということが具体的に決まったわけではないが、今後どうなっていくと思うか、ご意見を伺いたい。

鬼丸:安保理改革は長く、そして大きなテーマ。一つは拒否権の問題で、拒否権が安保理を時に機能不全に陥らせる、もしくは先ほど二重基準という話があったが、途上国を中心とした国際社会の、国連への不信感を増大させることにつながっていると考える。とはいえ、拒否権全廃がいいのかというと、それが拒否権を持つ大国、核保有国の国連に対する信頼や関心の低下を招くことになると、また非常に難しい問題になる。当面の改革として、今回の協定の中にもあるが、代表権が不足している地域の声を安保理に反映させるということがまず優先されるべきことだと思う。特にアフリカが歴史的に不公正な立場に置かれたとして優先的に対応するということが議論されたことはこの協定において歓迎すべきことだと思う。

安保理が改革されて、機能が強化され、あらゆる加盟国にとってそれが是とされる状態というのをどう模索していくかというのは正直、私の中にもまだ答えがない。それを市民社会の立場でさらにどう考えていくかとなるとさらに答えがないので模索をしていかなければならない。また、市民組織の中でこういったグローバルガバナンスの改革や変革に関心をもっている団体が一定数に限られていることも、私自身は大きな課題だと思う。すべての団体がグローバルガバナンスの変革に関心を持つべきだとまでは言わないが、我々が個別具体的に扱っている開発途上国と、発展途上国の課題にかかわっていく平和と安全を含めた問題なので、そこをどう喚起していくかということも考えている。

大橋:SDGsの中に平和の項目がそんなにないということがある意味で象徴的だと思う。

市原:安保理改革はすごく難しい問題だと思う。第二次世界大戦後、加盟国が水平的な関係を持つ総会と、垂直的な関係を持つ小規模の安全保障理事会という二つをもって国連が動いてきたのだが、垂直的な関係というのは、権利を大国に与えることで妥協をさせたものであった。その権利を拡大するのか、縮小するのか、変更するかについて既存の常任理事国が賛成することは難しいだろうと考える。

また、日本自身も常任理事国入りを求める方向で議論を推進してきたが、実際に常任理事国入りするのであれば、安全保障上の役割を日本自身が担えなければ意味がない。日本は本当に何らかの安全保障上の役割を担えるのか、また既存の先進民主主義国と異なる役割を担えるのかということも含めて考えなけなければならない。非常にハードルが高いと思う。

これに加え、議論のねじれのようなものが政治的に生じさせられているところもある。例えば中国とロシアが安保理の中で少数派として意見を述べ、反対をするという構図の中で、国連の民主化を求めるということをずっと言ってきている。中国やロシアはグローバルサウスに対して、いかに国連を一部の民主主義国による専制から引きはがすか、という訴えかけをしている。これは実は垂直的な関係の中で権力を与えられた中国とロシアが、水平的な関係性を形成するべきだという議論をしているということで、彼らは垂直的な権利を放棄しないまま、修正をしていこうとする可能性が高い。安保理改革を実際に行うのであれば、こうした試みを踏まえ、特定の国にとって有利な構造ができないようにしなければならない。

政治性についても気を付けながら安保理改革を行うというのは、ほとんど無理に近いのではないかと私は見ている。安保理改革の議論は続けるにしても、そこに高いプライオリティを置くことは現実的ではないだろう。多国間主義を重視して国連での議論を続けるとともに、ミニラテラルな多国間の枠組みも補完的に用いて国際関係を動かしていく必要があるのではないかと思う。

◆「安保理、議論の4割はアフリカ。ニュースにはならないミッションも」(安藤)

大橋:大変刺激的な論点を指摘していただいた。それでは安藤さんにお願いしたいが、日本は今の話にも出たように安保理の常任理事国入りを狙っているという風にいわれる一方で、ロシアには「日本はいらない」と言われたりしている。外務省としては、安保理改革はどのように進んでいくとみているのか。またその時の日本はどういうポジショニングだと考えているのか、ということを教えていただきたい。

安藤:日本は2023年1月から安保理の非常任理事国を務めており、その中で感じたことを踏まえながら話したい。最初の論点として、安保理が機能不全に陥っているという批判がある。一面正しく、一面間違っているというのが実感。日本でニュースを見ると、ガザとかウクライナに関する決議案について、ロシアやアメリカが拒否権を行使しているところが報道される。が、実は安保理の議論のかなりの部分がアフリカ諸国であったり、アフガニスタンであったりする。安保理で取り上げられる地域の議題の約4割がアフリカの問題。ニュースにならないが、失敗すると本当に内戦・大惨事が起きかねない状況の中で国連が役割を果たしている面もある。

その上で、何ゆえ安保理改革を進めるべきと考えるか、次にどう進めるべきか、最後に拡大した安保理は機能するのかという疑念への答えについて話したい。

国際システムをきちんと動かしていくうえで、そのシステムに対する信頼性はすごく大事。現在の途上国・新興国の強い不満・不信感の所在に鑑みると、常任理事国拡大/拒否権の問題は避けて通ることはできない。正面から取り組むことがとても大事。安保理改革を進めていく上で主な対立点である常任理事国を増やすのかどうかについては、日本は「増やす」立場。一つには途上国、特にアフリカの強い声。アフリカには自分たちが常任理事国議席を持たないのはおかしいという強い訴えがある。安保理の10の非常任理事国のうち、アフリカの議席は三つ。安保理がアフリカの議論をこれだけ一生懸命やっており、様々なミッションがアフリカで活動している。アフリカの常任議席がなく、安保理できちんと代表されていない現状は正当なのかどうか。アフリカが適切に代表されるべき。政治的な現実としても、アフリカは54カ国あり、国連加盟国の四分の一を占める。彼らが「うん」と言わない国連改革は実現不可能。もう一つは、安保理に入ると実に多様かつ複雑な議論を扱う。そうした問題に継続的に関与し、問題解決に貢献できる「外交的な体力」を持つ国を安保理で増やすことが、安保理を機能させていく上で重要。

次の論点として、ではどのように改革を実現していくのかという問題がある。安保理の常任理事国拡大に一番強い声を上げているアフリカとの連携がカギになる。しかしアフリカ諸国との議論はなかなか難しい。アフリカの連帯を大切にする彼らにとって、自分たちの中で常任理事国を選ぶのはおそらく簡単ではない話。「自国は常任理事国になれないけど別の国がなるのは嫌だ」とか、「他国の競争に巻き込まれるのが嫌だ」という意見もあるかもしれない。外部の国から「政治的に利用されるのではないか」という疑念もあるかもしれない。アフリカ諸国にどう寄り添い、安保理改革に本気で一緒に取り組んでもらえるようにするか、を考える必要がある。

三つ目の論点は、拒否権を持つ常任理事国を増やし、安保理が今よりも機能するのだろうか、という懐疑的な声を聞く。今は常任理事国だけではコンセンサスを作ることはできず、残り10カ国の非常任理事国の意見を無視できなくなっている。そうなると拒否権を持っていても、簡単には使えなくなる。拒否権を持っている国が増えたから機能しないかというと、そんな単純なことでもないだろうと思う。ロシアは拒否権を躊躇なく使っているが、イギリスやフランスは1989年から使っていない。拒否権というのは、使った分のコストもあるのでそんなに簡単には使えるものではない。

根本:事務総長が「21世紀型のニーズに対応するために、祖父母の時代にできた制度を、孫の世代のニーズに対応できるように改革しなくてはならない」と指摘する、その第一の対象は安保理。私にとっては隔世の感があるのが、グテーレス事務総長の前の潘基文・前事務総長の時代まで、事務総長が安保理改革を公然と口にすることはなかった。国連事務総長は、国連加盟国主導のプロセスからは距離を取り、発言もしなかった。それが2020年代に入ってから、グテーレス事務総長は非常に強い口調で安保理改革を言うようになった。その一番の課題は、アフリカが代表されていない、アフリカにとっての不平等なこの現状を変えなくてはならないということだ。

安保理改革は、困難を伴ういばらの道ではあると思うが、今ほどモメンタムが高まっている状況はない。それ以外にもいろいろと改革をする方法はあるわけで、例えば総会の平和と安全にかかわる役割の強化。これも今回の「未来のための協定」に含まれている。ウクライナ侵攻以降、安保理のデッドロックが目立つようになったが、その過程で、ヨーロッパの小国リヒテンシュタインが主導した決議が通って、拒否権を発動した国は、国連総会で拒否権行使の理由について説明しなくてはならない、という説明責任が求められるようになった。十分な説明をしているかどうかは別として、総会の場で説明するようになった。安保理の拡大以外にも、運用面での改善に関するアクションが「未来のための協定」で言及されている。焦点は安保理の議席に関する改革だが、運用面での改善もセットで見ていく必要があると思っている。

◆「なぜ政府が国際社会にコミットするのか。ネガティブな人にこそ丁寧な説明を」(安藤)

大橋:次の論点に移りたい。今回の協定の中で、重要な論点となっていたのは、SDGsが進んでいかない、特に気候変動危機に対して「各国のODA供与の目標である「対国民総所得(GNI)比0.7%」はどこへ行ったのか。一方で途上国は、スリランカやパキスタンが代表的だが債務危機に直面している。債務危機に陥った途上国は、1990年代のようにまたIMFの言うことを聞かなくてはいけないのか、社会開発や気候変動をどう進めればいいのか、という悩みを抱えている。IMFや世界銀行といったマルチナショナルな金融機関が途上国の自分たちの思うようには資金を提供してこない、という意識が途上国側には強くあり、安保理の改革議論と同時に国際金融の在り方についての議論が俎上に乗っている。今後、国際金融機関がどういう方向で改革されていくべきなのか、どう理解をしていけばいいのか。焦点や着目点を教えてほしい。

根本:国際金融アーキテクチャーの改革は、一義的にはワシントンDCの世界銀行グループやIMFで主導的に話すべき内容だが、それがニューヨークの国連のサミットレベルでの合意文書に盛り込まれたことは、初めてのことで、非常に大きな一歩だったと思う。9月23日には、すでに国連と開発金融システムの間の会合も行われている。来年6月には、スペインで国際開発資金会議が開かれる。モメンタムをずっと持続させて、中身のある改革案を作っていくことが必要だ。

SDGsについては、最新の国連のSDGs報告書によると、全体のターゲットのうち、17%しか順調に進んでいない。2割を切っている。これだけの窮地にあるということだ。これを反転させるためには、ネックとなっている資金不足をどうにかしなくてはならない。世界の最も貧しい75カ国のうち、3分の1が5年前のコロナ禍前よりも貧しくなっている。逆に世界の最も豊かな5人は同じ期間に、資産を倍に増やしている。こういう不公平感というものが、国際システムへの信頼、信用を失墜させていることを強調したい。

大橋:根本さんが指摘した不公平感の話、私たちNGOの世界ではオックスファム・インターナショナルがよく言っている。日本政府や西側政府、いわゆる金を持っている政府にとっては、もっと金を出せという話をされている厳しい話。私は個人的には世界の軍事費を抑えてもっとどうにかしろよと、もっと大事なことはあるし、戦争やめろと言いたい。これは理想主義としては言えるが、現実的には難しい。そうはいっても、気候変動を含めて、開発課題に資金がまわってこないという事態をどのように改善するか。日本政府としてもこのへんはいろいろお考えではないか。

安藤:政府として答えるオフィシャルなラインはあるが、個人的な考えを踏まえて話したい。やはり開発の世界だと、日本は豊かな先進国なので、資金を出してくれると期待される側になる。ODAとか国際機関拠出金の予算、ここのところ非常に厳しい状況が続いているというのはご承知の通り。

私が2021年夏に日本に戻ってきて驚いたのは、MDGs、SDGsがすごい勢いで日本社会に普及していたことだった。その一方で、先進国横並びにみると、日本の社会は国連に対する支持、好感が低い。非常に矛盾している現象が起きている。なぜか。日本社会の中でも意見の分断・対立があるのではないか。「国際社会にコミットメントするべきだ」という人もいれば、「いや、もっと身の回りの課題、国内に課題がある」として国連への関与に懐疑的な人もいる。後者のネガティブな人たちにどうアプローチしていくかが大きな課題だとずっと考えてきた。

そうした人たちとの関係において、一つ大きな売りは、安保理改革だと思っている。あとは市原さんがご指摘になったことだが、国際社会で二つの正当性――我々が支持してきている民主主義とか法の支配に基づく正統性――それに対してチャレンジする側との闘いがあり、国連がその場となっている。だからそこにちゃんとテコ入れしないといけない。日本の財政が厳しい中で、何ゆえ日本としてこれだけお金を出すのかということは、ネガティブな人にこそ政府としてきちんと説明をしなくてはいけないと思う。

国際金融機関について国際金融機関と他の国際機関の大きな違いは、私の理解では、歳入の性格の違い。他の国際機関のように加盟国の分担金が主たる歳入になっているのではなく、IMFや世界銀行は本質的に銀行であり、貸し出しの金利収入に頼って運営されている。主に借り手側となる途上国には今のシステムへの強い不満があると理解している。銀行業と呼ぶかどうかは別として、「顧客」の声にこたえないと事業に持続可能性はないので、こたえなくてはいけない。同時に、機関の性質もあるので、途上国の声にもこたえつつ、ワシントンの本部の意思決定で、しかるべきことをしていくことが大事だろう。

国連本部のあるニューヨークからは見えにくいかもしれないが、中国は、IMFや世界銀行では特権的な地位にある。特別引出権(SDR)を構成する五つの通貨には、米ドル、ユーロ、ポンド、円に加え2015年から人民元が加わった。IMF、世銀の中では特権的な地位にいながら、国連での議論になると、G77+という途上国の枠組みの代表みたいな顔、途上国の顔をする。国連での議論をそのままワシントンに本部があるIMF・世銀に持ち込むのがいいかどうかという面もあると思うので、途上国の意見は真摯に踏まえつつ、ワシントンのしかるべきところでしっかり議論するのがいいかと思う。

◆「ポピュリズムと一国主義が国際支援拡大の妨げに」(市原)

市原:大国間対立が強まるなか、各種援助の政治化が顕著だ。中国やアメリカのみならず、いろいろな国が援助を政治的に使う。その国との関係を強化することに旨味があるのかどうか、ということを軸に資金がまわっていく。だからこそ、IMFや世銀の多国間枠組みが、途上国の財政状況をささえていく重要性はさらに高まっている。グローバルな課題を解決するためにも大切だし、中立性があるからこそ、センシティブなところにも入っていける。

障害の一つは、各国でみられるポピュリズムの流れだ。ポピュリズムがどの国でもかなり進行していて、他国への支援拡大を国民が嫌がる傾向が各国でみられ、「一国主義化」が顕著である。その背景としては、社会の中での分断とか格差というものが大きい。

フランシス・フクヤマの『IDENTITY(アイデンティティ)尊厳の欲求と憤りの政治』(2019年、朝日新聞出版)の議論を踏まえると、経済格差がポピュリズムの背景にある一方で、アイデンティティの政治も利用されてしまっている。自分と他者との差異がSNSの時代になって強調されるようになってしまったところに問題がある。大橋さんが言及された南アジアが典型例だが、マイノリティのイスラム教徒を敵視することでインド人民党にヒンズー教徒の支持を動員する、というような形でアイデンティティを利用した政治が行われている。こうした政治的なアイデンティティの分断やポピュリズムを克服していくことが大事。政治的なプロファイルやスペックで他人を見るのではなく、対面での接触を増やし、考え方の違う人たちがお互いに許容できるよう人々の信頼関係をどれだけ増やすことができるかが結果的にはODAの増額などにもつながっていくのではないかと思う。

それから、支援を政治化しないことの重要性を議論する必要がある。コロナ下にはワクチン外交が話題になった。中国、アメリカのワクチン外交など、「マッチョな外交」は目につきやすく、人々が興奮気味にみることがある。それに対して、日本がこの期間に実施したコールドチェーンの支援は、地味だが重要だったと思う。特定の、政治的に近い国に対してだけワクチンを提供するのではなく、世界的に困っているところに対して、非常に幅広くコールドチェーン支援をしていた。こういうものこそが、本来あるべき支援だ。

大橋:鬼丸さんが指摘されたように、コミュニケーションのレベルが高まっていって全体が国際化していき、グローバル化で人と人とがつながっていった。しかし逆に、市原さんがおっしゃったように、ポピュリズムとかナショナリズムとかそういうものがあり、だからこそ人と人のつながりが深まっていくというちょっと逆説的な傾向がある。一方で途上国の債務の危機、深刻化する気候変動に対する資金不足、SDGsが達成されないこの問題を市民社会としてどうとりあげていくのか、非常に深刻な問題だと思う。鬼丸さんはどう考えるか。

鬼丸:まずSDGsの達成のために資金も関心もあらゆる資源を総動員しなければならないと思っている。その時の一番大きな関心事が資金であるとするならば、今回の金融アーキテクチャー改革は非常に大きな柱になるだろうと思う。特に、従来ワシントンDCで決めるべきそのような事項を、この国連のプロセスの中で取り組むというのは、すごく大胆で野心的で面白いことだと思う。これをどう実効性を持たせるか、市民社会が注視し、声を上げ続けなければならない、と今日の議論を聞きながら思った。

同時に私が理事を務める「テラ・ルネッサンス」では、アフリカ地域で活動をしているが、こんなに援助資金が入っているのに全部溶けているような感じがしてしまう。途上国のガバナンスを含め、大量の資金の受け手がどうそれを使って活用していくのかというところで透明性を高めていくことなども市民社会としては適切なアプローチをしていかなくてはならないと思う。出し手と受け手がきちんと改善されていくことによって、この資金を、より適切に人々のために使うことができる。そこは我々現場に近い人たちが声を上げ、関心を持ち続ける必要があるだろうと思った。

最後に、この改革で実はさりげないけれど重要なのが「アクション53」のような気がしている(編集部注:アクション53は、「持続可能な開発の進捗状況を測る枠組みを開発し、国内総生産(GDP)を補完し、それを超えるものとする」)。人類と地球のウェルビーイングと持続性をとらえるための新しい進歩の測定方法を検討する。GDPという概念だけではもう人類の幸福や持続性ははかれないよ、というところに関して合意に至ったわけで、さきほど大橋さんが言ったように、資金がさらに格差を生み出したり、一部の富裕層の富を増大させるようなことではなく、その不公平を是正したり、いわゆる全体の幸福のために活用されるかどうかということは非常に重要だが、そのための指標はこの世界に一つもない。それに着手しようということが、私としては個人的には大きい。

◆「多様化する市民社会、国際社会での役割や連帯のありかたに議論が必要」(鬼丸)

大橋:私たちがまだ十分に議論できていないのは、いわゆる途上国社会での市民社会の役割ということ。これを重要な視点として上げていかなくてはならないと思っている。市民社会が力を持つことによって、開発援助の不適切な量やその分配および使途の歯止めになるのではないか。ただそれは国連の議論の中ではどうしても希薄になっていく。国同士、政府同士の議論なので。そういうところを私たち市民社会組織(CSO)がやっていかなくてはならないのではと思っている。

今回の未来サミットでは、若者やCSOが重視された。それは悪いことではないけれど、若者や市民社会組織というのは理想主義であり、国連内部の声がまとまりにくい時に国連として、あるいは事務総長として、若者やCSOの助けを借りようとしたのではないかという、うがった見方もできなくもない。それが本当かどうかを尋ねているのではなく、鬼丸さんが言ったように、私はもっとCSOが大きな役割を果たしていかなくちゃいけないと思っている。このままでは、さまざまな問題が「国の問題」として処理されていく。しかし、たとえば不適切や不平等という問題。国と国との問題として処理されていくけれど、実は人と人との関係であることは明白なわけで、その人々の声を代表するCSOがもっと大きな役割を果たしていくべきじゃないかと思う。

ただ一方で、国連から見ると世界的に市民社会のスペースというのは縮まっていると言われる。ということは、市民社会は国連の抱えている危機など救えないのではないか、という問題になってくる。改革をするには、市民社会の役割が重視される必要があるのではないかと私は思っているのだが、そのあたりはどうお考えになるか、最後にお聞きしたい。

鬼丸:国連が理想主義的な若者や市民社会組織を頼ろうとしたと見えるかどうかという問いがあるとしたら、それは明確にノーと答えなくてはならないと思う。ここにいる我々が唯一闘わなくてはならないのは、現実を追認することが知的であるというニヒリズム。それと断固としてたたかなくてはならない時に危機を突破することができるのは、きれいごとかもしれないが、理想主義だと思う。人類の普遍的な価値を信頼すること、国際社会の協調や連帯の力を信頼すること、命や暮らしに根差した人々のその感性を信頼するということを世界的に担保していくことが、ますます重要だと考える。その時に、手前味噌かもしれないが、人々の暮らしと命に一番寄り添う市民社会がその責務をしっかり果たすようにしなければならないし、その可能性が大きいと思っている。

それと同時に、市民社会そのものも変わっていかなければならない。特に日本の。なぜかというと我々の市民社会は、どんどん年齢が高くなっていく。支援者も含めてどんどん高齢化していく。としたときに、10年後、20年後、どんどん内向きになっていく。それを打破するためにも私たち自身が、国際社会に関心をもって、国際社会をダイナミックに変えていく動きを日本社会にしっかり伝えていくことや、そのすばらしさや可能性を若者と連帯しながら紡いでいく運動をしなくてはならないと思っている。

市民社会の成り立ちも多様化している。例えば社会的企業を支援する「株式会社ボーダーレス・ジャパン」のように、企業セクターであっても市民社会以上に市民の側に立って新しい社会起業家を連続的に生み出しているような仕組みがある。こうした新しい動きと、我々がどう連帯していくかというのも問われているのではないか、ということを自分自身への戒めも含めて反省をした。

市原:若者やCSOへの言及があったということを単純に歓迎していいのかというと、気をつけなければならないことはあると私も思っている。ポーズの可能性ということもあるが、加えて、若者とそうでない人たちの対立構図がそれによって構築されてはいけない。また、若者ではない人間が本来持つべき主体性を、若者に押し付けてはいけないということも同様だ。CSOとの連携は非常に重要だと思う。特に私のように自由や人権に関心がある人間にとっては、圧倒的な重要性がある。地政学的な対立が高まった現在においてますます重要だ。

最近、民主主義と言う言葉がやたらと持ち出されるようになって、それによって民主主義という用語がイデオロギー的にみられる側面が強くなった。他方で、安保協力をする国に対しては国内の人権や自由の侵害のような問題に関してもなかなか批判的なコメントがしにくいという状況が増えている。例えばインドを含む日米豪との協力枠組み「QUAD(クアッド)」に関して、その連携が強まれば強まるほど、日本のみならずアメリカとかオーストラリアもインドにおける人権侵害に関して口を閉ざしていっている。もちろんインドだけではないが、インド国内ではNGOが弾圧され、ジャーナリストが抑圧されて、インドの新聞で政府批判をきちんとできているものは、ほぼない状態になっている。民主主義観連携という言葉と、その実態としての民主主義や人権、自由の弱体化の間の齟齬があまりにも明白だ。

地政学的な対立がこのまま高まっているということを予見してとらえた時に、我々にとって必要なものは、政府と民間の分業だと思っている。他国の人権状況に関して、実態を暴く点では民間のアクターが力を発揮する。そして民間のアクターが国境を越えて相互扶助するようなことも必要であり、それに対して資金面やビザの発給などの面で政府が支えていくというような分業がいいのではないかと思う。私自身、命を狙われた民主活動家を救うためのアジアの研究者のネットワークを立ち上げた。こういうものが必要だと思っている。

最後に国連主導で市民社会や若者とつながるということは非常に重要だと思う。国家・政府が若者や市民社会とつながるということも一つの重要な側面だが、実はそれだけでは不足がある。例えば、偽情報対策を民間のアクターが政府と一緒になってやった時に、民間のアクターは政府のプロパガンダ要員とみられてしまう危険性がある。そのため、例えばアメリカ政府とアメリカの市民社会の連携というのはあまり進んでいないが、それに対して欧州連合(EU)は超国家的な組織なので、市民社会とつながりやすい。従って欧州では、偽情報対策とか影響力工作の対策というものが、アメリカにくらべてだいぶ進んでいる。そういうことを考えると、国連のような多国間組織が、積極的に市民社会とつながることができることは望ましい。

◆「世代間の分断を埋めるインタージェネレーションの対話が重要」(根本)

大橋:情報やお金は自由に行き来することができるようになっているが、人間は相変わらず自由には行き来できない。そういう中で、政府がビザと言う形で人間の行き来を制御しているし、NGO間の資金の動きも規制されているという中で、大きな問題を抱えているという視点は非常に重要だと思った。

日本政府も市民社会に対する認識を変えてきていると思うが、どんな考え方をしているのかを教えていただければと思う。

安藤:日本政府としてではなく、個人として話をしたい。鬼丸さんがブルンジの援助資金が溶けてしまったというような話をされた時に、昔先輩から聞いた話を思い出した。貧しい国に資金を入れた時には、そのお金を政府が独占し、どんどん政府が強くなってしまわないように気を付けないといけない、ということだった。一つの国の中で政府だけが強くなるのは良いことではない。ビジネス・セクターであったり、NGOの方々であったり、いろいろなアクターが活発に活動することが、その国の民主化やバランスのとれた発展を支えるのではないか。

国連におけるNGOの役割については、我々の立場からいうと、「べき論」の世界ではなく、ファクトとしても市民社会の影響力がとても強くなっている。タチアナ・カラヤンニスという人が、第三の国連“Third United Nations”という本で、市民社会の影響力は、加盟国や事務局と並ぶぐらい、国連の中ですでに確立していると述べている。それをそのまま是とするかどうかは別として、すでに国連の中でNGOは確固たる地位を築いている。その一方、国家主権にものすごくこだわる国が結構あって、「決めるのは加盟国、主権国家なのだから部外者がどうこう言うな」という声がある。途上国といってもさまざまな国があるので、個別のアプローチをしていかないといけない。

大橋:最後に根本さん。市民社会が国際社会の中でどのような立場になっていくか、日本に限らず世界全体に視座を置いて教えていただきたい。

根本:この議論をうかがっていて、国連憲章の前文の書き出し“WE THE PEOPLES”(われら人民は)を思い浮かべた。国連は政府間機関であって主役は加盟国政府だが、その根源に一人ひとりの人民がいる。その人民によりそっている市民社会は、切っても切れない私たちのパートナーだと思っている。国連広報センターが所属するグローバルコミュニケーション局は今年5月、ナイロビで「国連市民社会会議」を開いた。「未来のための協定」をまとめるプロセスにおいて、市民社会の声をもっと強く押し出したい、という要望があり、この会議を未来サミットをサポートするための会議と位置付けてナイロビで開いたという経緯がある。これは同会議としては初めてのアフリカ開催だった。若者の意味ある参加が、未来サミットのプロセス全体を通じて大きなテーマだった。リップサービスを超えて、質をともなった若者の意味ある参加というものを、国連のグローバルなレベルでも、国のレベルでも、お題目だけではなく実施していかなければならない。

市原さんが指摘された、若者ではない層との分断を埋めるためのインタージェネレーショナル・ダイアログがとても重要になってくるという点について。年を重ねた人からは知見やアドバイスの提供があるだろう。日本の核兵器廃絶の運動は世代間対話のいい例だ。被爆者は今や平均年齢が86歳近くだが、被爆者と若者とが一緒になって核兵器のない世界へどのようにステップを踏んでいったらいいかと考え、実践するこの運動は、インタージェネレーショナル・ダイアログの好事例だと思う。今回、国連本部でのイベントでは、被爆者たちからのバトンを受け継いで日本の核廃絶のために運動している若者と国連ユース・オフィスのトップである事務次長補との対話の場をもうけ、世界に発信する機会を持つことができた。

日本においては若者世代が将来に関して非常に悲観している。自分に世の中を変える力がないと思っている。様々な国際比較調査を見ると、他国とくらべて段差ができるほど低い自己肯定感しか持っていない。これは、私たち現役世代が、いろいろな機会を活用して、日本の若者の自分を信じる力を作っていく活動をしなくてはならないと思っている。

大橋:力強いメッセージをいただいた。「未来のための協定」を実施にうつしていくことが非常に重要だが、未来サミットも含めて、日本社会の中ではまだ十分に理解されていない。みなさんの力で伝えていただき、危機を良い方向へと変えていくことが大事だろうと思う。

 
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