2025 Volume 3 Pages 45-48
2024年のG7議長国はイタリア政府が務めた。3月から11月にかけてイタリア各地で延べ23回の閣僚大臣会合が開催され、6月13日から15日には南部プーリア州で首脳会合が行われた。
これらに向けて、1月24日にはG7公式ウェブサイト1)が公開され、主要議題として、ルールに基づく国際システムの擁護、ロシアによるウクライナへの侵略戦争、中東紛争、開発途上国および新興経済国との関係、アフリカ、パターナリズム(父権主義)的・略奪的な論理ではなく互恵的なパートナーシップに基づく協力モデルの構築、インド太平洋地域、気候・エネルギーのネクサス(関連)、食料安全保障、移住、人間中心かつ人間が管理可能な人工知能(AI)などが発表された。
また、2月24日には、ロシアによるウクライナへの侵略からちょうど2年が経過したことを踏まえ、G7首脳によるテレビ会議が開催され、G7外相によるビデオメッセージが発表された。さらに、8月には中東における緊張の高まりに深い懸念を表明するG7外相声明が発表され、9月の国連総会に際してもG7外相会合にて中東情勢やウクライナ情勢が議論されるなど、国際社会へのメッセージを強く発信する姿勢が際立った。
1.C7運営体制
G7の公式エンゲージメントグループである「Civil7(C7)」は、2023年11月にイタリア・ローマで前回の開催国であった日本の市民社会からの引き継ぎ会合を行い、貧困や格差、気候変動に取り組む世界的なネットワーク組織である「GCAP Italy」を中心に、新たな運営委員の選出とワーキンググループの再構成が行われた。その結果、開催国であるイタリアの市民社会からC7議長(Chair)とシェルパ(Sherpa)、G7諸国の市民社会から選出された運営委員、アフリカ地域を代表する運営委員に加え、すべてのワーキンググループから各2名のコーディネーターも運営委員会に参加することとなり、総勢23名体制となった。ただし、前回に続き、フランスの市民社会から運営委員会への参加はなかった。日本からは2023年のC7サミット開催時にC7シェルパを務めた筆者が運営委員会に参加し、毎月開催される会合にオンラインで出席した。
ワーキンググループについては、「環境」「経済」「国際保健」「人道」の各グループは前回から継続し、「核兵器廃絶」は「平和および共通の安全保障」をスコープに加えて再編した。「しなやかで開かれた社会(Open and Resilient Societies)」はすべてのワーキンググループに共通する課題として扱うために廃止する一方、G7の主要議題を見越して「人の移動と移住」と「食料正義と食料システム変革」の二つのワーキンググループを新設した。2024年のワーキンググループ一覧は以下の通りである。
1.気候・エネルギー変革・環境正義(Climate, Energy Transformation and Environmental Justice)
2.公正な経済への移行(Economic Justice and Transformation)
3.国際保健(Global Health)
4.原則に基づく人道支援(Principled Humanitarian Assistance)
5.平和・共通の安全保障・核兵器廃絶(Peace, Common Security and Nuclear Disarmament)
6.人の移動と移住(Human Mobility and Migration)
7.食料正義と食料システム変革(Food Justice and Food System Transformation)
これらに加え、労働・雇用課題に対応するタスクフォースも設置され、「公正な経済への移行」ワーキンググループを中心に提言書作成やG7会合への出席を行った。
2.C7政策提言書
⑴ 作成プロセス
2024年1月18日にはローマでC7キックオフ会合が開催され、イタリア政府のシェルパチームから前述のサミット主要議題が発表された。後半では、新たなC7ワーキンググループの紹介と提言概要が説明された。キックオフ会合に先立ち、イタリアC7の運営を担当するGCAP Italyによる「C7政策ブリーフ:G7イタリア議長に対する準備的提言(C7 Policy Brief Preliminary recommendations to the G7 Italian Presidency)2)」が発表された。1月から4月にかけて、各ワーキンググループによる複数回のオンライン会合が開催され、政策提言書づくりが行われた。こうしたワーキングループによる活動は、2022年および2023年と同様の流れである。
5月14日・15日にはローマの国連食糧農業機関(FAO)本部でC7サミットが開催され、約400名が参加した。このサミットでC7政策提言書3)がイタリア政府のシェルパを務めるエリザベッタ・ベローニ大使に手渡され、各課題について議論が行われた。
⑵ 主張ポイント
C7政策提言書で強調されたのは、SDGsの達成期限である2030年まであと6年に迫る中、世界が依然として多くの重大な構造的・制度的課題に直面していることである。多発する危機の最も重い負担を背負うのは、女性、子ども、若者、そして社会から最も疎外された人々であるとしたうえで、G7が「最も先進的な経済圏の利益を一方的に促進するのであれば、問題の一部となりうるし、より平和で公正、持続可能で安全な未来のために人権と人類と地球の共通の利益を擁護するのであれば、解決策の一部となりうる」と指摘した。
また、G7には、新たなデジタル技術やAIの活用において利用可能なすべての政治的・法的・技術的な機会を責任ある形で活用すること、不平等の解消に取り組むこと、気候正義を提供すること、ジェンダー平等を実現すること、すべての人にディーセント・ワークを提供することを期待するとした。さらに、最も弱い立場にある人々を保護するために、地球規模での公正な移行を促進する合意形成と国連多国間スペースの強化に向けた、建設的かつ野心的な役割を果たすことを強く求めている。
ウクライナとガザについては、C7政策提言書で以下のように述べている。
「ウクライナにおけるロシアの侵略戦争は3年目を迎えたが、終結の兆しは見えず、解決に向けて前進する前向きな兆候もない。G7はウクライナの自衛とゼレンスキー大統領の10項目の和平計画への支持を強調しているが、人的・環境的被害は拡大し続けている。同時に、G7やその他の国々が行動を起こさないことは、イスラエルによるガザ住民に対する無差別で、比例性が欠如した、予防措置のない戦争による継続的な荒廃を可能にする、沈黙の共犯への道を開くものである。その結果、これまでに13,000人以上の子どもを含む約34,000人のパレスチナ人が死亡している一方、ハマスによる10月7日の残虐行為で拘束されたイスラエルの人質は返還されていない。この緊張が地域的、あるいはさらに広範な戦争へとエスカレートする懸念があるのは当然だ。」4)
3.G7首脳コミュニケと、それに対するC7による評価
6月13日から15日にかけて開催されたG7首脳会合では、セッションテーマとしてアフリカ、気候変動、開発、中東情勢、ウクライナ情勢、移住、インド太平洋、経済安全保障、AI、エネルギー、アフリカ・地中海が設定された。首脳コミュニケでは、ウクライナへの継続的な支援とロシアへの制裁、ガザにおける即時停戦、アフリカ諸国へのグローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)を通じた関与、貧困削減とSDGsの達成に向けた行動、世界的な食料安全保障と気候変動への強靱性の強化、ジェンダー平等へのコミットメントの再確認、気候変動・汚染・生物多様性の損失への具体的な対処、出身国および経由国とのパートナーシップによる移住への対処、AIの利用に関する行動計画、強固で包摂的な世界経済の成長促進、雇用の推進、デジタルおよびクリーン・エネルギーへの移行の加速、経済的強靱性の推進などに言及されている。
C7は、G7首脳コミュニケに対して「ビジョンの欠如、今日と明日の危機の根源にある構造的結節点への不十分なコミットメント」と題した声明を発表した5)。同声明では、中東に関してG7が初めて市民社会の平和構築活動への支援を成文化したことを歓迎しつつ、次の点について提言を行った。すなわち、債務救済の進展がないこと、化石燃料からの脱却に向けた具体的な行動が必要であること、食料安全保障に関する「プーリア食料システム・イニシアティブ(AFSI)」の具体案を明示すること、移住を緊急事態ではなく長期的な視点で捉える必要があること、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジに関してより野心的なコミットメントが求められていることなどである。一方で、ジェンダー平等に向けたODAの増額というコミットメントについては肯定的に評価した。
1.広島からの活動経緯
日本の市民社会組織(CSO)は、2023年5月に広島でG7サミットが開催されるのをきっかけに、その一年前の2022年5月に「G7市民社会コアリション2023(以下、コアリション2023)」を設立し、G7の公式エンゲージメントグループである「Civil7(C7)」の一員として、社会の多様な主体の声を届ける活動を展開してきた。広島サミットに向けて国内外の幅広いCSOと協力し、主な活動として、政策提言書の作成、日本政府をはじめとするG7諸国との対話、C7サミットおよび「みんなの市民サミット2023」の開催、国際メディアセンターでの情報発信などに取り組んだ6)。
2024年1月30日、全国のNPO支援センターのCEO(常勤理事や事務局などの最高責任者)が参加する「民間NPO支援センター・将来を展望する会(CEO会議)」(第42回)が東京都内で開催され、「市民セクターの政策提言~G7広島サミットに係る市民社会の活動の成果と課題~」と題するセッションが行われた。そこで、コアリション2023のメンバーとして活動した松原裕樹(ひろしまNPOセンター)、新田英理子(SDGs市民社会ネットワーク)、筆者の3名が登壇し、全国から集まったNPO支援センターの事務局長や代表とともに、G7広島サミットでの成果、今後の市民社会のあるべき姿、6年後の次期G7議長国期間に向けたコアリション2023の後継組織で取り組みたいことについて、グループディスカッションを行った7)。参加者からは「環境や人権など、多様な分野で活動する団体が集まる場となり、海外のNGOとのつながりもできた。C7が『対話の場』であることを実感できた」「ローカルとグローバルをどうつなげるか、意識する場をつくっていく必要がある。身近な話題にどうつなげるかが課題」などの発言があった。
CEO会議終了後、登壇した3名で打ち合わせを行い、コアリション2023の後継組織について、次の2点を同時並行的に進めることを確認した。(1)すでに動き出しているC7イタリアへの対応、(2)地域・分野・年代・ジェンダーのバランスを考慮して後継組織で共に取り組む人を探すこと、である。(1)については、2024年3月と4月にC7イタリア情報交換会をオンラインで開催し、C7運営委員会で議論されているスケジュールや政策提言書、C7サミットの概要について報告した。また、C7ワーキンググループに関わる遠藤理紗(JACSES)、内田聖子(PARC)、稲場雅紀(アフリカ日本協議会)、平賀緑(AMネット)、岩附由香・森瑞貴(ACE)、高橋悠太(カクワカ広島)、檜山怜美(なんみんフォーラム)から、それぞれのワーキンググループにおける議論内容が紹介された。
2.C7サミット参加に向けた日本の市民社会の動き
コアリション2023元会員の有志と相談した結果、次の4名がC7サミットに参加することになった。国際保健ワーキンググループに参加している稲場雅紀、気候・エネルギー変革・環境正義ワーキンググループに参加している有坂美紀(G7/アースデイ オープンフォーラム北海道、RCE北海道道央圏協議会、北海道NGOネットワーク協議会)、平和・共通の安全保障・核兵器廃絶ワーキンググループに参加している高橋悠太、そしてC7運営委員の筆者である。渡航費用の捻出にあたり、稲場と筆者は自己財源およびC7イタリアからの渡航補助を活用した。有坂と高橋については、「G7サミットに日本の市民社会の声を届けるプロジェクト8)」としてクラウドファンディングを実施し、延べ91名から810,000円の支援を受け、渡航費に充てることができた。日本から参加した4名は、C7サミットでの議論を速報的に伝えるべく、C7サミット前日、初日、二日目にオンラインイベントを開催した9)。
3.C7サミットの様子
C7サミットには、世界中の市民社会組織から400人以上が参加した10)。オープニングセッションでは、C7シェルパを務めるヴァレリア・エンミ氏が、700人以上の市民社会関係者による作業を経て作成されたC7政策提言書(コミュニケ)を発表した。同氏は、「G7には人権を守る責任があり、市民社会は連帯してそれを求めていく。持続可能な開発を実現するにはパラダイム転換が必要であり、複合的な危機に直面している現在、普段通りの仕事をしている猶予はない」と述べた。これに対し、C7政策提言書を受け取ったG7シェルパのエリザベッタ・ベローニ大使は、「G7議長国として、グローバルサウス、特にアフリカ諸国と緊密に連携していく。この議長国期間をパートナーと対話する良い機会と捉えている。世界中からの要請や期待に対してG7は開かれている」と応答した。分科会は、中東和平、人の移動と気候のネクサス、食料正義、身体の自律性をテーマに開催され、多様な声を互いに聞き、それらをG7諸国に届けるための方策が話し合われた。
C7サミット二日目は、債務、開発資金、国際課税などの経済課題に関する全体会が開催された。イタリア政府の財務トラック担当者は「G7財務トラックはG20と連携している。課税は気候変動対策として効果的であり、また、国際課税によって不平等を克服することも優先的に行う」と述べた。登壇者の一人は「税金を植民地主義から解放するには、G20議長を務めるブラジル政府が提案している通り、超富裕層への課税を強化したり、実体経済にトリクルダウンすることのない資本市場での取引にも課税したりするべきだ」と指摘した。これらを踏まえ、G7だけでなく、より広範な国々が参加するG20に対する政策提言の継続が重要であると議論された。この日の分科会は、気候正義、核兵器廃絶、人道支援、国際保健をテーマに開催され、核兵器廃絶の分科会では高橋が登壇した。
その後の全体会では平和に焦点が当てられ、イタリア司教協議会会長のマッテオ・ズッピ枢機卿から「決して他者と対立するのではなく、また、他者を排除するのでもなく、我々全員が平和の構築者とならなければならない」とのメッセージが寄せられた。閉会挨拶として、2025年の議長国を務めるカナダのネットワークNGO「Cooperation Canada11)」のダロン・セラー=ペリッツ氏は、イタリアC7での議論を引き継ぎ、カナダ開催時に向けて精力的に活動していくことを表明した。
コアリション2023は2023年12月末をもって一旦活動を終了したが、それ以降も、JANICをはじめ、元会員の有志、特に2023年のG7サミット開催都市であった広島の市民社会関係者がメーリングリスト上で情報交換を行ったり、フォローアップイベント12)を開催したりするなど、積極的に活動を担ってきた。次回、日本政府がG7サミットの議長国を務めるのは2030年の予定である。その際、再度コアリション2023のような組織を新たに設置して活動への参加を呼びかけるのではなく、G7サミットをはじめとする国際会議への働きかけを継続的に行う枠組みを作り上げることで、経験の蓄積と担い手の育成を行い、国際的な連携強化に繋げたいと考えている。具体的には、JANICを事務局として、独自の意思決定機構を備えたネットワークを設置し、これまでコアリション2023やC7の活動を通じて培ってきた国際的な連携を活用する。このネットワークを通じてG7各国の市民社会とも連携しつつ、G20や国連サミットなどの関連する国際会議への働きかけを行う市民社会組織同士の情報交換の場として機能させたいと考えている。
2024年11月27日には、イタリアからカナダへのC7引き継ぎ会合がオンラインで開催された。「Cooperation Canada」は、カナダの政治状況を睨みつつ、例年よりも早い段階でのC7政策提言書の完成とC7サミットの開催および首脳会合への働きかけを企図している。一方、南アフリカ共和国の市民社会は、2024年10月に広範な団体に呼びかけて準備ワークショップを開催したほか、11月にブラジル・リオデジャネイロで開催されたC20サミットに複数の団体が参加するなど、G20サミット議長国の市民社会として、着実に準備を重ねている。JANICとしては、こうしたC7/C20を含む世界の市民社会の動きと呼応する枠組み作りに取り組んでいく。
C7配信「C7イタリア2024 1日目が始まりました」、https://www.youtube.com/watch?v=sXgHxOEs2DE
C7中継Day2 分科会が開催されました/「核兵器廃絶」分科会に登壇したゲストと考えます、https://www.youtube.com/watch?v=W2-1fyLOGIY