人的資源管理には人材の合理的活用の側面とモチベーション維持の側面がある。両者の間には葛藤が想定される。法は制度環境として人的資源管理に影響を与え、葛藤の要因となる。本稿では不正競争防止法の営業秘密に着目し、同法や運用指針および運用実態を分析し、従業員に対する影響の様相を探った。営業秘密のうち、顧客名簿が争点となった判例を分析した結果、裁判では必ずしも従業員側に不利な結果ばかりではない点が確認できた。ゆえに企業・組織側は就業規則や個別の秘密保持契約といった手法を使い、自らに有利となる運用を行う。方策の如何により、合理的活用の側面は担保されるものの、モチベーションの維持向上には寄与しないケースが考えられる。日常業務上、人的資源管理を担う担当者は法令順守による人材の合理的活用とモチベーション向上との間でジレンマに陥らざるを得ない。当該分野において人的資源管理研究の立場からの提言が必要である。