日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌
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飼育下ツキノワグマにおける樹枝設置および補助飼料給与の効果
出口 善隆高橋 志織丸山 正樹辻本 恒徳岩瀬 孝司
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2005 年 41 巻 3 号 p. 157-163

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抄録

クマ類の飼育施設における異常行動発現率の高さが、これまで報告されている。動物福祉の立場からクマ類の飼育施設への環境エンリッチメントが求められている。そこで本研究では、10月23日から11月28日まで盛岡市動物公園で飼育されているツキノワグマ(メス3頭)に、環境エンリッチメントとして樹枝設置および補助飼料給与を行い、行動を調査した。クマは9時から16時30分まで運動場に出された。運動場には岩、パーゴラやプールが配置されていた。1日1回16時30分頃、屋内で給餌された。水を抜いたプールおよびパーゴラに樹枝を設置した。またクリを運動場の岩や樹枝の間など10ヵ所に3粒ずつ隠した。隠す場所は毎日変化させた。さらに13時頃にペレットを運動場にばらまき給与した。直接観察により行動を1分毎に記録した。エンリッチメント開始前、開始後1日目、1, 2週目および1ヵ月目に行動調査を行った。探査行動は開始前(4.53回/時)に比べ、開始後1日目(18.64回/時)に有意に増加した(P<0.05)。その後、増加量は小さくなり、1ヵ月目(7.34回/時)に1日目と比べ有意に減少した(P<0.05)。社会行動は開始前には観察されなかった。1日目(1.17回/時)、2週目(1.43回/時)に有意に増加した(P<0.05)。その後1ヵ月目(0.05回/時)に、1日目と比べ有意に減少した(P<0.05)。環境エンリッチメントとしての樹枝設置および補助飼料の給与は、飼育ツキノワグマの行動を活発化させることに効果があった。しかし特定の環境エンリッチメントを継続的に行うだけでは、効果の継続に限界があることが示唆された。

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© 2005 日本家畜管理学会・応用動物行動学会
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