抄録
個体群間の交流が可能な同所的に植栽されたキョウチクトウ,アジサイおよびヤマブキに発生するカンザワハダニ個体群が,それらが発生している寄主植物に特異的に適応しているかどうかを明らかにするため,これらの寄主植物における各個体群の成虫化率と産卵数を比較した.その結果,すべての個体群における成虫化率は,各個体群が利用していた寄主において利用していない寄主よりもはるかに高かった.また,産卵数も寄主として利用していた寄主で高い傾向がみられた.特に,毒性の高いキョウチクトウとアジサイの個体群間では寄主利用能力が著しく異なり,キョウチクトウ個体群はアジサイ上で,アジサイ個体群はキョウチクトウ上で成虫化率,産卵数ともに著しく低かった.このことから,これら2個体群間には寄主利用能力に分化がみられ,同所的にホストレースが形成される可能性が示唆された.また,それぞれの個体群が一方の寄主に特異的に適応する結果,他方に対する利用能力を喪失するというトレードオフの存在が示唆された.