抄録
フタトゲチマダニの雄性生殖付属腺は, 単独の背中葉と中腹葉, および5種類の対をなす前腹葉, 側腹葉, 背側葉, 後側葉と後腹葉から構成される腺の複合体である. 各葉の上皮細胞は吸血の間に多様な分泌顆粒を生産し, これらの分泌物は精包形成に大きな役割を果たしている. これらは生殖細胞の輸送容器としての精包を形成するだけでなく, 精包内にパックされて雌の生殖道内に入るものもある. 本種の雄付属腺分泌物と精包との微細構造の比較によって, その行方を明らかにし, 役割を考察した. その結果, 各葉の特徴的な微細構造と形態学的に合計24種類の分泌顆粒の存在が確認され, 光顕によっても確認される外精包の中二層が前腹葉および後側葉に, 雌体内に移送される3種類の物質が後腹葉, 側腹葉, および中腹葉に由来することが形態学的に明らかになった. これは組織化学的手法による報告をほぼ裏付けるものであり, 精包形成における物質の由来に関してより正確なデータが提示された.