2006 年 62 巻 3 号 p. 93-102
対象地域の実蒸発散量(AET)を算定する一般的な方法として,Penman-Monteith法(PM)を用いて計算した基準蒸発散量(ET0)に作物係数(Kc)を乗ずる方法が知られている。そこで本研究では,熱帯モンスーン気候であるタイ王国の主要な植生である天水田,キャッサバ畑,チーク林において,熱収支ボーエン比法による長期連続観測データを用い,AETから求めたKcと気象要素(日射,気温,風速,飽差,土壌水分量)の相関を検討し,簡便にKcを推定できる経験式を開発した。
対象3サイトにおいて,Kcと上述した気象要素は非常に高い相関関係があったが,上述した気象要素より土壌水分量を除いた場合でもKcと同様な高い相関関係が認められた。そこで本研究ではより簡便な推定式開発のため,土壌水分量を除いた四つの気象要素よりKcの経験式を導いた。また,全3サイトの統合データにおいても,Kcと気象要素には高い相関関係が認められた。この経験式より推定した蒸発散量をAETと比較した結果,日平均での標準誤差は0.72 mm/dayで,これは19%の誤差に相当した。この時間スケールを5日,10日,15日,20日とした場合,推定蒸発散量の誤差はそれぞれ15%,12%,11%,10%となった。この結果より,本研究で開発した推定式は10日以上の時間スケールでAETを推定することが可能であることが確認された。