農業気象
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研究論文(英文)
落葉広葉樹林におけるコナラのイソプレン放出特性
奥村 智憲谷 晃小南 裕志高梨 聡小杉 緑子深山 貴文東野 達
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2008 年 64 巻 2 号 p. 49-60

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抄録

ブナ科コナラ属の植物はイソプレン放出能が高いことが知られており,アジアにも広く自生し固有種も多い。本研究では,東アジアにおける森林からの揮発性炭化水素放出量の推定とその放出特性の知見を得るために,日本における二次広葉樹林の主要な構成種であるコナラ(Quercus serrata)からのイソプレン放出の野外観測を行った。イソプレン放出速度と,同時に観測した光合成速度や気孔コンダクタンス,葉温,光強度との関係を調べた。さらに,炭素収支の観点からイソプレンとして放出された炭素量と純光合成で固定された炭素量の比(carbon ratio)を計算するとともにG93モデルの妥当性についても検討した。陽葉において純光合成速度は気孔開度の影響を受け,朝方に最大となり,それ以降は低下したが,イソプレン放出はその影響を受けず,おおよそ正午を最大とする日変動を示した。そのため,carbon ratioは午後に高まる傾向にあった。陽葉において葉温とイソプレン放出との関係を調べた結果,1000 µmol m-2 s-1以上のPPFDにおけるイソプレン放出速度は葉温と高い相関を示した。一方,陰葉のイソプレン放出は陽葉と同様に正午を最大とする日変動を示したが,その値は陽葉の約1/20であった。一日のcarbon ratioを求めた結果,陽葉で0.79~1.63%,陰葉で約0.3%であり,コナラの炭素収支を見積もる際に無視できない割合であった。次に,G93モデルのコナラへの適用を検討した結果,モデルの推定値と実測値は,陽葉で4 nmol m-2 s-1以下,陰葉で0.2 nmol m-2 s-1以下のRMS誤差でよく一致し,コナラのイソプレン放出速度の推定にG93アルゴリズムを用いることが可能であると示された。観測値を用いてG93モデルにより計算したコナラの基礎放出速度の平均値(陽葉:42.9 nmol m-2 s-1,陰葉:20.5 nmol m-2 s-1)から,コナラはブナ科コナラ属の中でもイソプレン放出能が高い部類に属することが示された。

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© 2008 The Society of Agricultural Meteorology of Japan
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