2009 年 65 巻 3 号 p. 239-248
気孔を通してのO3フラックスを推定し中国東部におけるコムギの収量低下を予測することを目的として,コムギ止葉の気孔コンダクタンス(gs)モデルと光合成速度(P)モデルを開発した.従来,オープントップ・チェンバーを用いたPleijel et al. (2000)やUNECE(2004)をはじめとする多くの研究で,ヨーロッパの春コムギの減収率と止葉のO3フラックスの間に,高い相関が報告されている.
2008年に,冬コムギの出穂前から収穫直前までの間,合計6日間,O3濃度([O3])を人工的に上昇させたFACE(開放系大気濃度上昇)圃場と非制御の対照圃場において,止葉やその他の葉のgsとPを測定した.gsモデルは,測定されたgsの最大値(gsmax)に,葉面に入射する光合成有効放射(PARl),日中40 ppbを超える大気O3濃度の1時間平均値の積算値(AOT40),フェノロジー,VPD,そして時刻による制限関数を掛けることによって構築された.次に,PARl=2000 μmol m-2 s-1で測定された止葉のgs/gsmaxとP/Pmax(Pmaxは測定されたPの最大値)は,切片0.0,傾き1.0の直線で回帰された.そこで,PモデルはPmaxにPARlの関数とgsモデルに用いられた他の関数を掛けることによって構築できた.これらのモデルにより,止葉のgsとPはもちろん,他の葉のそれらも良好に再現できた.
さらにこのモデルを実用化する目的で,群落頂部の[O3]([O3]canopy)とPARlをモデル化した.群落上部における[O3]鉛直分布に対数分布則を適用し,[O3]に関する粗度長(z0O3)を風速の関数でモデル化することにより,[O3]canopyは良好に再現できた.PARlをモデル化するために,鉛直2ストリーム短波放射モデル(たとえばOue, 2003a; 2003b)を用いて,群落内部における短波放射の鉛直分布がその測定値を再現するように,葉の傾度を表現するパラメータ(Fl)を決定した.その結果,ほとんどの止葉が存在する高度0.6-0.8 mにおけるFlは,LAI=5のコムギ群落では0.4から0.6であることを明らかにした.