抄録
目的: 滞日ブラジル人のための効果的HIV予防対策開発を目的とした準実験的介入研究の一環として, べースライン調査を実施した.
対象・方法: 1996年に, 滞日ブラジル人の集住する関東・東海地区の4地点で, 面前自記式により, HIV関連知識・態度・HIV検査経験・性行動等を調べた. ブラジル人向けの店舗や銀行で連続サンプリングし, 451人 (回収率92.8%) から回答を得た. また, 比較のために, 日本人を無作為抽出し (n=1,391, 回収率66.6%), HIV関連知識を調べた.
結果: ブラジル人回答者中, 保健所の無料匿名検査を知る者は21%と日本人 (>60%) より有意に低く, 日本社会の情報やサービスから疎外されている実態が示唆された. その他, 適切な検査の時期, HIVと性感染症の相互作用, クラミジアの性感染に関する知識も低率 (<50%) であった. HIV検査については, 日本で受検した者6.8%, 非受検者中検査の必要を感じていた者が36.4%存在したが, 対象者の大半がHIV感染による解雇・国外追放の不安を感じており, 受検しにくい状況にあることが示唆された. 行動リスク関係では, その場限りの相手との性交経験者が60%以上, その場限りの相手とあまりコンドームを使用しない者が3096以上など, 性行動リスクが比較的高い状況にあることが示唆された.
結論: 滞日ブラジル人は, 情報へのアクセス, 性行動の面でHIV感染への脆弱性の高い状況にあると考えられる.