抄録
目的: 日本では外国人HIV感染者に対して医療の保障が十分なされていないのが現状である. その実態と問題点をあげ, 今後の対策について述べる.
対象および方法: 10年間に港町診療所がかかわった超過滞在外国人23症例である. 外来および入院記録をもとに調査を行い, 母国に帰国した症例も追跡を試みた.
結果: 東南アジア半島部とサハラ以南アフリカ諸国出身者が全体の87%を占め, その多くは母国語の通訳を必要とした. エイズ未発症HIV感染者では受診中断となる例が多かった. エイズ患者では病院受診の遅延がみられ, 結核やカリニ肺炎などの日和見感染症をひきおこし, 重症の状態で緊急入院している例が大半を占めていた. 全員が健康保険を持っておらず, 高額な医療費を支払わなければならなかったが, 一部の例で制度や法律を活用し, 公費負担としていた. 転帰では帰国や死亡が多かった.
結論: HIV感染者の治療とHIV感染の広がりを抑えるためには, 以下の点をすすめていくことが必要である.
1. 通訳制度を確立していく.
2. 地域・国籍別出身によって日和見感染症の内容と頻度が異なるため, それを踏まえ予防と治療を行う.
3. 母国の医療情報を得ることおよび母国の病院・政府機関・NGOと連携しながら, 治療や帰国について対応していく.
4. 国内のNGOへの支援および外国人団体へ働きかけることで, 予防と早期発見をおし進めていく.
5. 医療機関への受診を容易にするため, また治療中断や未払い医療費を防ぐためにも, 国籍を問わずすべての外国人に健康保険の資格を与える.