日本エイズ学会誌
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HIV感染症の治療の現状-治療継続のメリットとデメリット
松下 修三
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2004 年 6 巻 4 号 p. 382

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抄録

抗ウイルス薬の多剤併用療法 (HAART) によって、HIVに感染しても免疫不全の進行を阻止することが可能となりました。HAARTの継続により、CD4+細胞数も増加し、良好な経過をとる患者さんも多数存在します。しかし、その一方で、大量の抗ウイルス薬を併用しても、HIVはリザバー細胞に残存しつづけると考えられ、現在使用可能な抗ウイルス薬では、HIVを完全に排除することは困難と考えられるようになりました。さらに、抗ウイルス薬の継続により、「リポジストロフィー」と呼ばれる脂質分布異常、脂質・糖質の代謝異常や脂肪肝、さらにミトコンドリア障害による神経筋肉障害などの長期毒性があきらかとなってきました。最新の治療の目標が「長期に亘る有効なウイルスの抑制を得ること」となり、治療開始をできるだけ遅らせるようにしているのはこのためです。このような現状の中、HAART療法によって、長期間ウイルスの増殖が抑えられ、CD4+細胞数の改善が見られた症例に関しては、良好なQOLを保ちながら、社会で生活していくうえで、治療継続か中断かの選択を迫られることが多くなると考えられます。海外での取り組みとしては、CD4+細胞数を指標にした治療中断・開始の臨床試験が行われています。本セミナーでは、実際の症例の経過を提示し、治療継続または中断のメリットとデメリットをどのように患者さんに説明し、その結果どのような臨床経過をたどったかをお話ししたいと思います。これまで我々は、長期に亘りHAARTを継続することによって、残存ウイルスを長期非進行症例 (LTNP) レベルまで減少させることが可能であることを報告してきました。このような症例の中に、LTNP症例に見られるような効果的な抗ウイルス免疫応答が誘導できれば、HAART療法を中断しても、HIVの増殖を長期に亘って抑制できる可能性があります。このような研究の取り組みについてもご紹介いたします。

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