2025 Volume 4 Issue 2 Pages 485-495
背景: うつ病をもつ人の職場復帰に関する課題の一つに再休職率の高さが挙げられている。日本人男性が再休職に至る行動の特徴として“反すう”が指摘されており、反すう焦点化認知行動療法が役立つ可能性があるが、その効果は報告されていない。
目的: 職場復帰したうつ病をもつ日本人男性に対して反すう焦点化認知行動療法を実施し、反すうの症状改善効果を検討する。
方法: 研究デザインは量的データによる単群比較研究の中に質的研究を埋め込む混合研究法を用いる。対象者は職場復帰したうつ病をもつ日本人男性20名。調査期間は2024年1月~2025年9月。反すう焦点化認知行動療法を、対面にて集団(4~6名)を対象に、週に1回(60分)、全6回開催する。評価指標は、反すう型反応尺度、ベックうつ病質問票、ハミルトンうつ病尺度、WHOQOL-26を用いる。加えて、半構造化インタビューにて介入による反すうへの対応の変化等を収集する。また、録音したプログラム中の発言や、複写したワークシートも分析対象とする。
Background: One of the challenges associated with people with depression returning to work is a high recurrence rate for leaves of absence. “Rumination” has been shown to be a characteristic behavior of Japanese males who take recurrent leaves of absence. Rumination-focused cognitive-behavioral therapy may help prevent recurrent leaves of absence, but there have not yet been research reports on its effectiveness.
Objective: In this study, rumination-focused cognitive-behavioral therapy will be conducted with Japanese males with depression who have returned to work. The effect of this therapy in improving rumination symptoms will be examined.
Methods: The entire study is mixed-methods research that integrates a qualitative study into a quantitative single-arm comparative study. The participants are 20 Japanese males with depression who have returned to work. The period of time over which the study will be conducted will be January 2024 to September 2025. In-person sixty-minute rumination-focused cognitive-behavioral therapy will be conducted with four-to-six-person groups once weekly for six weeks. Assessments will be made using tools including the Ruminative Responses Scale (RRS), Beck Depression Inventory, Hamilton Depression Rating Scale, and WHOQOL-26. In addition, semi-structured interviews will be conducted to collect information that includes changes in the participants’ responses to rumination after the intervention. Audio recordings of remarks made during the program and copies of worksheets will be also analyzed.
日本の労働者のメンタルヘルスの保持・増進は、うつ病患者の増加(厚生労働省, 2022)や仕事に関するストレスの高さ(厚生労働省, 2021)、精神障害に関する労災請求件数の増加(厚生労働省, 2024)などを背景として、国の重要課題の一つである。労働者のメンタルヘルスの課題の中でも、うつ病による休職に関しては、職場復帰後の再休職率が47.1%であり(労働政策研究・研修機構, 2013)、再休職率の高さが問題となっている。再休職の理由であるうつ病の再発には大きな特徴がある。うつ病は再発の度に再発率が大きく上がり、重症化し(小林・本橋, 2006)、社会的機能が低下し(Zu et al., 2021)、Quality of Life(以下, QOLとする)に大きな影響を与える。“リワーク”と呼ばれる、復職準備性と再休職予防を目的としたプログラムの利用者であっても、約1年後には20%程度は再休職あるいは失職していることが報告されており(大木・五十嵐, 2013)、現状は再休職予防に効果的なアプローチを模索している状況といえる。
初発と再発のうつ病では発症プロセスが異なる(Lewinshon et al., 1999)。そのため、うつ病の再休職予防のためには再休職に絞った発症プロセスを理解する必要がある。うつ病休職者の再休職の要因として、うつ病の再発率の高さや曖昧な復職判定が従前から指摘されている(大西, 2018)。また先行研究では、再休職しない復職成功群は家族との関係が良いと評価する患者が多いという結果(堀他, 2013)、未婚者および単身生活者が再休職までの期間が短いという結果(中川・井原, 2016)などが報告されている。このように、再休職に影響する個人属性等は明らかにされているが、それらは本人だけでは変えられない。一方、新田ら(2024)はうつ病による再休職を繰り返す日本人男性8名を対象に、再休職に至った認知と行動を明らかにするためインタビューを行った。認知や行動は本人の意識によって変えることができるため、本人だけで対策が取りやすい。その結果、うつ病をもつ日本人男性が再休職に至る認知と行動の特徴は「比較志向性の高さと極端な過小評価」と「過去・未来・自分自身に関する反すう」であることが明らかとなった。そして、「比較志向性の高さと極端な過小評価」に関しては職域における客観的評価を得ることが重要であり、「過去・未来・自分自身に関する反すう」に関しては、非建設的な反すうを建設的なものに置き換えることが重要であることが示唆された。“反すう”とは、症状(倦怠感や落ち込み等)や感情、問題、動揺する出来事、自分自身のネガティブな面に関する周期的かつ反復して考え続ける行動と定義され、近年、“反すう”へのアプローチである「反すう焦点化認知行動療法(Watkins, 2016)」が注目されている。
1. 2. 反すう焦点化認知行動療法について反すう焦点化認知行動療法(rumination focused cognitive behavioral therapy: 以下、RFCBTとする) は、“反すう”を負の強化を通じて学習された習慣的行動と捉え、患者の非建設的な反すうを建設的な反すうへとシフトできるように促す(Watkins, 2016)。海外ではランダム化比較試験(Watkins et al., 2011; Topper et al., 2017)が複数行われており、Watkins et al. (2011)は、薬剤抵抗性を示すうつ病の残遺症状がある対象者42名を2群(RFCBTと通常治療の群21名と、通常治療のみ群21名)に分け効果検証を行った結果、RFCBTと通常治療の群のうつ病の残遺症状が有意に減少し、寛解率が大幅に向上したことを報告した。Topper et al. (2017)は、心配・反すう傾向が高いハイリスクの青年を対象としたうつ病・不安障害の予防効果を明らかにするため、反すう傾向が高い学生251名を3群(集団療法群82名、インターネット介入群84名、待機群85名)に分けRFCBTの効果検証を行った結果、集団療法とインターネット介入群は不安と抑うつが有意に減少し、その効果は12か月後まで持続したことを報告した。このように、海外においてはRFCBTの効果が実証されている。一方、日本の先行研究の状況をみると、医中誌webにて「反すう焦点化認知行動療法」として国内の先行研究の検索を行ったところ(検索日: 2023年11月22日)、8件の文献が該当したが、RFCBTの概説や進め方に関する会議録と解説のみであり、うつ病者を対象とした介入の具体的効果は報告されていなかった。
そこで本研究では,“反すう”が日本人男性再休職者の行動の特徴であることを踏まえ、職場復帰したうつ病をもつ日本人男性に対して反すう焦点化認知行動療法を実施し効果検討を行うこととした。国内における初めのRFCBTの介入研究の一つとして、研究プロトコルを公表することにより、研究の透明性と再現性の向上に寄与できると考えられた。また、今後のRFCBT研究の重複を減らすことに貢献できると考えられた。
本研究の目的は、職場復帰したうつ病をもつ日本人男性に対して反すう焦点化認知行動療法を実施し、反すうの症状改善効果を検討することである。
研究デザインは、量的データによる単群比較研究の中に質的研究を埋め込む混合研究法を用いる(図1)。反すう症状の改善に関する量的・質的データを収集し、統合することにより、介入の影響を深く理解し、介入効果の裏付けを検証する。本研究のリサーチクエッションは、介入によるうつ病の症状、反すう、QOLの数量的変化を明らかにすること(量的研究)、介入による変化の具体的内容を明らかにすること(質的研究)、そして量的データの変化の裏付けを検証すること(混合型研究)であるため、混合研究法が最適であると考えられた。また、本研究の主目的は介入によるうつ病の症状、反すう、QOLの数量的変化を明らかにすること(量的研究)であり、その数値的変化の具体的内容の理解や裏付け・検証のために質的研究を補足的役割として用いるため、埋め込みデザインを選択した。
BDI-Ⅱ=日本語版Beck Depression Inventory - Second Edition; HAM-D=日本語版Hamilton Depression Rating Scale; RRS=日本語版Rumination Responses Scale; WHOQOL-26=日本語版WHO Quality Of Life.
1 Morse(2009)を参考に、QUAN・quanは量的方法を指し、QUAL・qualは質的方法を指す。大文字表記は優先度の高い方法、小文字は優先度の低い方法を指す。
2 qualは優先度が低い(埋め込む)質的方法を意味する。
3 ( )は埋め込まれる質的データ、質的分析を意味する。
うつ病による休職を経て職場復帰した男性20名と対象者とする。研究対象者の選択基準及び除外基準は下記の通りとする。
本研究は以下の全ての基準を満たす方を対象とする。(a)18歳以上の成人男性、(b)主診断がうつ病である方、(c)うつ病による休職を経て職場復帰した方、(d)主治医から本研究の参加の許可が得られている方、(e)主治医の判断で、疎通性、同意能力があると判断された方。
本研究は、反すう焦点化認知行動療法を受けることが困難、または希死念慮が強い方など、以下に1個以上該当する方を除外する。(a)希死念慮が強い方、(b)日本語の読み書きに困難がある方、(c)うつ病以外の疾患や障害と診断された方、(d)71歳以上の方、(e)主治医の判断で、疎通性、同意能力がないと判断された方。
3. 3. 調査期間2024年1月~2025年9月
3. 4. データ収集方法本研究で実施する介入は、反すう焦点化認知行動療法(Watkins, 2016)である。反すう焦点化認知行動療法プログラムを対面にて集団を対象として実施する。このプログラムの実施頻度は毎週1回(全6回)、1回つき60分、1つの集団は4~6名とする。
反すう焦点化認知行動療法の具体的なプログラム内容は以下の通りである(表1)。
1 自分自身の反すうエピソードの詳細と先行事象、結果のモニタリングを行うこと。対象者はセッションとセッションの間に「反すうと回避のモニタリング」と「反すうエピソード記録表」の2種類のセルフ・モニタリング記載する。
2 抽象的な思考スタイル(なぜ?)と、具体的な思考スタイル(どのようにして?)の反すうへの影響を比較する行動実験。
3 先行事象-行動-結果や、反すうが生じた文脈・生じなかった文脈などを明らかにし、反すうの機能分析を行う。
Watkins(2016)の提唱する内容を基本とし、筆者らが報告した対象者の認知・行動の特徴(新田他, 2024)に沿った教材を作成する(図2)。
効果的な教材になるように、教材作成の過程で、認知行動療法に精通した研究者2名からの助言を受ける。プログラムの実施者(筆者)は、公認心理師の資格を有し、3年以上のリワークデイケアでの勤務経験と集団認知行動療法の実施経験がある。プログラム実施の際、全てのグループにおいて認知行動療法に精通した研究者2名スーパーバイズを受け、介入の質の確保に努める。プログラム実施者は筆者であるが、対象者のうつ病の症状の評価は別の研究協力者が行う。
対象者の属性として、年齢、発症時期、治療内容、家族構成、職業、病気休業の期間と回数、産業医や産業保健師からの支援の有無をデータ収集する。また、反すう症状の改善に関する以下の量的・質的データを収集する。
量的データ: 反すう型反応尺度(日本語版Rumination Responses Scale: 以下、日本語版RRSとする)、ベックうつ病質問票(日本語版Beck Depression Inventory - Second Edition: 以下、日本語版BDI-Ⅱとする)、ハミルトンうつ病尺度(日本語版Hamilton Depression Rating Scale: 以下、日本語版HAM-Dとする)、日本語版WHO Quality Of Life(以下、WHOQOLとする)。
質的データ: 個別の半構造化インタビュー(介入による変化、介入の難しさ、集団療法のメリットやデメリット、介入後の変化、変化の定着)、介入プログラムで用いるホームワーク(図3)、介入プログラム中の発言。
出典: エドワード・R・ワトキンス(2016/2023). 大野裕(監訳), 梅垣祐介(訳), 中川敦夫(訳), うつ病の反すう焦点化認知行動療法(pp. 317-318). 岩崎学術出版社. 岩崎学術出版より許諾を得て改変し転載
混合研究法のサンプルサイズについてCreswell(2014大谷訳2021)は以下のように述べている:
混合研究法のサンプリング手続きは、特定の混合研究法デザインに従うべきであり、研究者はデザインがもつ特有の課題を認識する必要がある。(p. 92)
ナラティブ研究には1または2名、現象学的には3~10名、グラウンデッド・セオリーには20~30名程度、エスノグラフィーには文化を共有した単一の集団を、そして事例研究には4~5の事例を用いることを勧めてきた。(p. 87)
本研究では、介入による現象の本質を理解することを目的としているため、対象者数は20名が妥当であると考えられる。
3. 5. データ分析と統合量的データ(日本語版RRS、日本語版BDI-Ⅱ、日本語版HAM-D、WHOQOL-26)の収集は、介入前と介入後と介入3ヵ月後に行う。それらの分析は、まず記述統計で平均と標準偏差を求めデータ全体の概要を理解する。次に、介入前・介入後・介入3か月後の比較検討のためフリードマン検定を行う。
質的データは、介入後と介入3か月後に半構造化インタビューを行う。また、プログラム中の発言やワークシートも分析対象とする。プログラム中の発言やホームワークの内容を分析する際は、どの対象者の発言・ホームワークであるかメモし、対象者ごとの質的データを内容分析する。舟島(2009)は、記述された資料やデータに何が記述されていたかをカテゴリシステムとして体系的に表す方法として内容分析を紹介している。本研究の質的データは、“反すう焦点化認知行動療法による反すう症状への効果の具体的内容は何か、裏付けは何か”を明らかにすることを目的としている。そのため、内容分析の手法を用いることが最適と考えられる。分析の信頼性を高めるため、分析の過程で精神看護学に精通する研究者にスーパーバイズを求める。
量的・質的データの統合では、量的データに質的データを埋め込むことにより、対象者の反すうへの効果の有無や程度だけではなく、効果の具体的内容、効果の裏付けの理解に役立てる(表2)。
データ統合では、Johnson et al. (2017)のピラー統合プロセス(Pillar Integration Process: PIP)を使用し視覚的表現と埋め込みを行う。ピラー統合プロセスは4つの段階(リスト化、照合、確認、柱の構築)からなるデータ統合の技術である(Johnson et al., 2017)。リスト化では量的・質的データの生データからカテゴリーやコードを生成し、照合では質的データをリスト化された量的データに照らし合わせて整列する。確認では、照合の一致やギャップを確認する。柱の構築では、リスト化、照合、確認の各段階から特定された洞察を概念化する。具体的には、どのようなパターン、洞察、テーマ、そして可能な説明は何であるかを推論する。このピラー統合プロセスは、手法が明確であるため透明性が確保される。本研究で考えられるピラー統合プロセスのデータと柱のテーマの仮説としては、“反すう症状が軽減した対象者は、セルフ・コンパッションの有用性を報告していた”、“反すう症状が軽減した対象者は集団療法にメリットを感じており、反すう症状が軽減しなかった対象者は集団療法に抵抗を感じていた”、“反すう症状が軽減しない対象者は、仕事の忙しさによる復習時間の少なさを報告していた”などが挙げられる(図4)。
本研究は「ヘルシンキ宣言」および「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守し、研究対象者の保護、安全の保持を図る。
インフォームド・コンセントを受ける手続きとして、初めに、著者が研究協力施設の責任者と医師に研究の説明を行った後に、対象候補者のデイケア担当者から研究対象候補者に著者の連絡先を渡していただく。著者に連絡あった対象候補者に研究説明を行う。同意は対象候補者の自由意思によるものであり、同意しない場合でも治療上不利益な扱いを受けないこと、いつでも同意撤回でき、治療上不利な扱いを受けないことを説明する。
同意取得時に対象者の氏名を取得すると同時に、研究対象者には研究用IDを割振り、氏名と研究用IDとの対応表を作成する。対応表にはパスワードをかけ、漏洩しないように厳重に保管する。介入やインタビューの最中に精神症状の悪化が見られた際は、デイケアスタッフと主治医に報告し適切なケアを受けられるようにする。
研究対象者への負担として、費やす手間と経済的出費が挙げられる。もしも、本研究の介入やインタビュー中に疲労感がある場合には、中断し休憩を挟む。また、介入やインタビューを再開する際は、研究対象者の疲労度を確認しながら進行する。研究対象者の経済的出費(交通費)への対策として、定額1,000円分のクオカードを渡す。
予測されるリスクとして、介入やインタビューや、その録音による心理的負担が挙げられる。介入やインタビュー中に心理的負担が見られ、介入やインタビューを中断しても改善がみられない場合はデイケアスタッフと主治医に報告し、主治医の診察を受けることを促す。
情報の保管及び破棄として、研究期間中および研究終了後、全てのデータは施錠可能な場所に電子データとしてパスワードをかけて10年間保管する。保管期間が経過した場合、紙媒体の資料は、裁断サイズの小さいクロスカット等のシュレッダーで裁断または溶解処理等を行い、再現不可能な状態にした上で廃棄物管理規定に従って破棄する。
研究対象者が同意撤回した場合、その時点で同様に紙媒体および電子媒体の資料を破棄する。
うつ病休職者の再休職予防の重要性が認識されつつも、その効果的なアプローチは模索段階である。新田ら(2024)が再休職を繰り返すうつ病休職者にインタビューした結果、“反すう”が再休職に至る一因であることが明らかとなり、Watkins et al. (2016)が提唱した反すう焦点化認知行動療法に再休職予防効果の可能性が考えられたが、その効果検証はされていない。今回、混合研究法を用いることにより、介入による効果の数値的変化だけではなく、その裏付けや理由、介入による経験をどのように評価するか等を理解することができる。今後のRFCBT研究をよりよい研究にするために欠かせない研究法といえる。また、ピラー統合プロセスを用い、統合の透明性と再現性を図ることにより、理解しやすい結果の提示につながると考える。
そして、この研究結果は、再休職予防の方法を探している復職者や、再休職予防の支援を行っているリワーク、復職継続支援を行っている産業保健師にとって重要な役割を担うと考えられる。