抄録
孵化後20~30日の雌雛を用いて adrenalin 0.2mg及び0.5mgを皮下注射し, 注射前, 1, 2, 4, 6及び24時間後の甲状腺の組織像を光顕と電顕とを用いて観察した.
注射1-2時間後には一般に小胞腔の面積は小さくなり, 大抵は中のコロイドが azan で赤く染まる. 上皮細胞は高くなり, 自由側には舌状, 半島状の突起が数多く見られ, この突起の内部には大小の空胞が存在する. 電顕で見ると endoplasmic reticulum は嚢状に拡大し, その内部は homogeneous で, 小胞腔内のコロイドと電子的密度がほぼ等しい. その表面のRNAの顆粒は endoplasmic retieulum の拡大と共に減少し, また endoplasmic reticulum の外面に接して存在する mitochondria は卵円形化し, crista の配列は絨毛状に乱れてくる. 時々, 拡大した endoplasmic reticulum がそのまま, 或は壊れて小胞腔内へ落込んでいるのが見られる. 以上から注射1-2時間後に細胞の小胞腔内へのコロイド分泌能が高まっているものと考えられる.
注射4時間後には小胞腔は注射前よりも大きくなり, 中のコロイドは大抵 azan で淡青に染まる. 細胞は高さが低くなり, 1-2時間後に見られたような舌状乃至半島状の突起や空胞は殆んどなくなる. 電顕で見ると細胞の内部は全体的に電子的に密になり, endoplasmic reticulum は縮少し, mitochondria の crista は密な層板状を呈してくる. 以上から注射4時間後には細胞は休息期と考えられる.
6時間では再び1-2時間に似た像を呈し, 24時間で注射前に復する.
以上の変化は adrenalin 0.5mgの皮下注射の時は明瞭であるが, 0.2mgの時はそれ程著明ではない.
以上から adrenalin 一時的大量投与は一過性に甲状腺を刺激し分泌を促進させるものと考える.